オレキシン、レプチン、グレリンなどのホルモン、神経伝達物質と睡眠との関係についての情報をメモ書きしています。
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オレキシンの概要
○分泌するニューロン ・視床下部外側野に存在するニューロンによって産生。 ・オレキシンの受容体は、ノルアドレナリンを作る脳幹の青班核、セロトニンを作る縫線核、ヒスタミンを作る結節乳頭体という神経核の部分で強く発現していて、これらの神経核はモノアミン作動系ニューロンである。 →オレキシンはモノアミン性ニューロンに作用している。 ○機能 ・もっとも中心的な機能は覚醒を促し維持すること。 ・交感神経を活性化して、ストレスホルモンの分泌を促す。 ・モチベーションを高めて、全身の機能を向上させる。 ・意識を清明にし、注意力を引き出す。 ←前脳基底核のコリン作動性ニューロンと相互作用 ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
オレキシン作動性ニューロンと睡眠の制御
・オレキシンが働きすぎると不眠症になり、あまり働かないと過眠症になる。 ・オレキシンの働きを遮断して自然な眠りを誘う薬物が開発され、現在は睡眠導入薬として市販されている。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
・覚醒系・睡眠促進系のバランスを安定させる役割を持つ。 ・覚醒系を刺激することによって目を覚まさせる。 ・オレキシンがなくなるか異常をきたすと、覚醒系・睡眠促進系のバランスの安定性が失われ、ナルコレプシー患者のように突然睡眠に切り替わったりするようになる。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
●オレキシン作動性ニューロン ・オレキシン作動性ニューロンは、覚醒時に活動し、睡眠時は停止。 ・オレキシン作動性ニューロンは、覚醒をつかさどる脳幹のモノアミン作動系ニューロン群を活性化する。 ・オレキシンは、睡眠と覚醒の切り替えを安定的に行うことに関係していて、覚醒状態から睡眠状態に不安定に切り替わらないように制御していて、覚醒状態を安定化する役割を果たしている。 覚醒と睡眠の切り替えのシーソーにおいて、オレキシンが働かない場合は睡眠側に傾く状態になっていて、必要に応じてオレキシンが働き出すと安定的に覚醒状態となる。。 ・オレキシンは、覚醒と睡眠のスイッチが不適切なタイミングで切り替わらないように、覚醒状態を安定化する働きを持っていると考えられる。 ●情動とオレキシン作動性ニューロンへの入力 ・情動を司る大脳辺縁系から多くの入力を受けている。 ・情動には喜怒哀楽があるが、このように感じるときは生命にとって重大な状況であり、覚醒レベルを上げる必要がある。。 ・情動が発動するとオレキシン作動性ニューロン、視床下部を介して交感神経系を活性化。 ・漠然として意識していない不安でも情動反応は起こっていて、大脳辺縁系によるオレキシン作動性ニューロンの活性化が慢性化し、不眠症に陥ることがある。 →生命にとって重要でない状況なのに情動、オレキシンの作用で覚醒状態が続いててしまう。 ・視床下部の睡眠(GABA作動性)ニューロンからの抑制性の入力がある。 ○睡眠(GABA作動性)ニューロン、モノアミン作動性ニューロン、オレキシン作動性ニューロンの関係とネガティブフィードバック ・オレキシン作動性ニューロンは、モノアミン作動性ニューロンを活性化する。 ・モノアミン作動性ニューロンは逆にオレキシン作動性ニューロンを抑制する。 ・睡眠(GABA作動性)ニューロンは、モノアミン、コリン、オレキシン作動性ニューロンを抑制する。 例) モノアミン作動性ニューロンの活動低下 →モノアミン作動性ニューロンによるオレキシン作動性ニューロン抑制力も低下 →オレキシン作動性ニューロンが活性化 →モノアミン作動性ニューロンも活性化し、元に戻って安定化する。 ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
オレキシン作動性ニューロンと摂食行動
●摂食行動を制御 ・オレキシン作動性ニューロンは、全身の栄養状態をモニターする事ができ、さらに栄養状態によってその活性を変化させる。 ・空腹で血液中のグルコース濃度(血糖値)が低下すると脳脊髄液中のグルコース濃度も低下し、オレキシン作動性ニューロンの発火頻度が増える。 →空腹になると餌を探す必要があるので、覚醒レベルを上げて意識をクリアにし、交感神経を興奮させて身体機能を上げ、行動をサポートしなくてはならない。 ○食欲の制御システムとの関連 ・オレキシン作動性ニューロンは、レプチン(食欲を抑制する役割を持つ)により抑制され、グレリン(食欲を亢進する役割を持つ)によって活性化される。 ●昼食後の食事で眠くなるのはなぜ? ・"消化のために胃腸に血が集まり、脳に血が行かなくなって眠くなる"と言われているが、脳への血流は重要で最優先される。 ①概日リズムを司る視交叉上核からの出力の日内変動。昼過ぎには覚醒させる方向への出力が一時的に低下すると考えられる。 ②満腹になって血糖値上昇 →オレキシン作動性ニューロンの活動は低下 →眠くなる? ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
オレキシンとナルコレプシー
・"強い眠気"を主な症状とする病気で、気絶するように眠ってしまうことを特徴とする。覚醒を維持できないという特異な病気。 ・思春期前後に発症する症例が多い。 ・眠っても通常は短時間で目が覚める。 ・"情動脱力発作(カタプレキシー)"と呼ばれる特徴的な症状を伴う場合が多い。この症状では、感情が高ぶったときに、突然全身の筋肉の力が抜けてしまう。 ・"入眠時幻覚"と呼ばれる、寝入りばなに鮮明な幻覚を見るといった症状もある。 ・90%以上のナルコレプシー患者で、オレキシンをつくる神経細胞が変性・脱落していることが分かっている。 ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
・ナルコレプシー患者は、覚醒から突然(ノンレム睡眠を経ずに)レム睡眠に入ってしまう。 レム睡眠は体の筋肉がすっかり緩む特徴があるので、意識を失うだけでなく体の力も抜けて倒れこんでしまう。 ・オレキシンは目を覚まさせるだけでなく、レム睡眠を促す細胞のグループ(REM-on細胞)を抑制する働きもしている。そのため、オレキシンがなくなるとREM-on細胞が過度に活動し、レム睡眠に入ってしまう。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』