健康情報のメモ

トランス脂肪酸摂取と慢性疾患との関連

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
  1. トランス脂肪酸の概要
  2. トランス脂肪酸の摂取状況
  3. コレステロール値との関連
  4. 循環器疾患との関連
  5. 血糖値との関連

トランス脂肪酸の概要

●トランス脂肪酸とは?
 
・不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があり、天然の不飽和脂肪酸のほとんどは、炭素の二重結合がすべてシス(cis)型。
 これに対して、トランス(trans)型の二重結合が一つ以上ある不飽和脂肪酸をまとめて”トランス脂肪酸”と呼ぶ。
 
●トランス脂肪酸の生成
 
・常温で液体の植物油や魚油から半固体又は固体の油脂を製造する加工技術の一つである”水素添加”によってトランス脂肪酸が生成する場合がある。
 
・水素添加によって製造されるマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれている。
 
・工業由来のトランス脂肪酸を含む油脂を摂取すると、冠動脈疾患のリスクになることが幾つかの大規模コホート研究で示されている。
 
・自然界に存在するトランス脂肪酸(大部分はバクセン酸)は、反芻動物の胃で微生物により生成され、乳製品、肉の中に含まれているが、冠動脈疾患のリスクにはならないことが多くの研究で示されている。
 
・個々の食品で工業由来のトランス脂肪酸含有量は大きく異なり、ショートニングでは1~31%の幅がある。

トランス脂肪酸の摂取状況

・平成15年~平成19年の国民健康・栄養調査の結果を用いて算出すると、工業由来のトランス脂肪酸摂取量の中央値は、男性で0.292g/日(0.13%E)、女性で0.299g/日(0.16%E)、年齢別では若年層に多く、男性15~19歳で0.439g/日(0.17%E)、女性7~14歳で0.409g/日(0.20%E)であった。
 アメリカのNHANES Ⅲ 1988~1994年の調査では、20~59歳のトランス脂肪酸摂取量の平均値は5.6g/日(2.2%E)で、日本人のトランス脂肪酸摂取量はアメリカ人に比べかなり少ない。

コレステロール値との関連

・トランス脂肪酸は血清LDL濃度を上昇させると同時にHDL濃度を低下させるために、その比を上昇させ、この作用は同量の飽和脂肪酸よりも強いことが知られている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

循環器疾患との関連

・日常的にトランス脂肪酸を多くとりすぎている場合には、少ない場合と比較して心臓病のリスクを高めることが示されている。
※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合
 
○冠動脈疾患との関連
 
・2011年のコホート研究のメタ・アナリシスで、工業由来のトランス脂肪酸の最大摂取群は最小摂取群に比較し冠動脈疾患罹患の相対危険が1.30倍増加することが示されている。
 しかし、喫煙、糖尿病、高血圧症など他の主要な冠動脈疾患危険因子のオッズ比が日本人で3~8倍程度であることに比べると、トランス脂肪酸の冠動脈疾患リスクはかなり小さい。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

・脂肪酸は人の細胞膜を構成する成分で、健全な細胞膜はシス型の脂肪酸を持っている。トランス脂肪酸を摂取するとトランス型の脂肪酸が細胞膜に取り込まれ、動脈硬化を促進。
 
※参考資料『小薮浩二郎(2010)悲しき国産食品 三五館』

 

●トランス脂肪酸と炎症
 
・炎症性サイトカインIL-1β(インターロイキン1β)やTNF-αを増加させ、慢性炎症を引き起こし、動脈硬化、肥満、糖尿病を増加させる。
 
※参考資料『金子義保(2012)炎症は万病の元 中央公論新社』

 
 
●他の研究事例
 

○米国ハーバード大学からの研究報告
 
・看護師健康研究と医療従事者追跡研究という米国の二大長期大規模疫学研究から126,233名のデータを解析。
・調査では食事、生活習慣、健康状態について32年にわたって2-4年おきに調べられていた。
 
・その結果、トランス脂肪酸の健康に対する影響が最も大きく、摂取量が2%高まるごとに早死のリスクは16%ずつ高まった。
・飽和脂肪酸の健康影響も同様に高く、死亡リスクに影響を与えた。同じカロリーの炭水化物を摂取した場合に比べて、飽和脂肪酸の摂取量が5%高まるごとに総死亡リスクは8%高まった。
・不飽和脂肪酸の場合は、多価不飽和脂肪酸も一価不飽和脂肪酸も、同じ量の炭水化物と比較して、総死亡リスクを11%から19%低下させた。多価不飽和脂肪酸の中では、植物に多いオメガ-6系脂肪酸も魚油や大豆、キャノーラ油などに多いオメガ-3系脂肪酸も早死リスクの低下と関連していた。
・飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸に置き換えると、有意に総死亡リスクが低下した。また心血管疾患、がん、神経変性性疾患、呼吸器疾患による死亡リスクも低下した。
・飽和脂肪酸を炭水化物に置き換えた人々では、死亡リスクの低下はわずかであった。総脂肪を炭水化物に置き換えると死亡リスクはわずかに上昇した。
 
※参考文献
Association of Specific Dietary Fats With Total and Cause-Specific Mortality

血糖値との関連

※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合
 
・四つの大規模観察研究の中でNurses’Health研究のみが糖尿病罹患のリスクになることを示していて、他の三つの研究では関連は見いだされていない。
 
・2012年に発表された介入研究のメタ・アナリシスでは、トランス脂肪酸摂取量を2.6~9.0%E増加させても、インスリンや血糖値の増加は認められていない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

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