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- 不安、恐怖、悲観の概要
- 扁桃体、不安の二つの経路、無意識の反応
- 不安・恐怖と視覚
- 不安、悲観と健康
- 前頭葉と不安、計画
- 不安障害
- 不安・恐怖・悲観の軽減
- 運動による不安解消の効果
- ネットニュースによる関連情報
不安、恐怖、悲観の概要
●脅威の処理 ・脳は同時にたくさんの感情を処理できるが、進化の結果、脅威を最優先で処理するようにし、しかもほかの感情を犠牲にしてでも処理するようにプログラムされている。 ●恐怖や不安の条件付け ・条件付けは脳の神経細胞が常習的な方法で電気信号を伝えるときに起こる。脳はいちばん抵抗の少ない経路を選ぶ。 ・生物学的には条件付けのおかげで新しい状況により迅速に対応できるのだが、その対応が本当に有用なのは、新しい状況が過去の状況とそっくり同じである場合だけ。 ・脳は、新しい体験を妨げる危険を冒しても、身を守ろうとするようにできている。だからある種の危険からは身を守れても、学習や新しい結果を遠ざけてしまう場合がある。 ・最初の人間関係が失敗だからといって、どんな人間関係も失敗するわけではないが、条件付けはそんなものはないと想定する。 ・育ってくるなかで恐怖や不安が条件反応になったら、生涯恐怖や不安を感じ続けやすくなる。 ※参考資料『スリニバサン・S.ピレイ(2011)不安を希望に変える 早川書房』
●恐怖と悲観、不安 ・恐怖の中枢はすべての情報を平等には扱わず、危険に関わる情報を優先的に処理する。 自動的に危機に対処し、あらゆる局面で生き延びる可能性を最大化する。 ・この恐怖の回路が頻繁に活性化されていると、この回路が過敏になったりバランスを崩したりする。 →警報の役割が必要以上に強くなり、抑制の中枢の働きが弱まると、人は総じて悲観的な思考形式になり、ものごとを悪いほうへ悪いほうへと考えるようになる。 →こうしてネガティブな思考が徐々に出現し、良い面よりも悪い面に目がいくようなバイアスが確立されていく。 →結果的に、暗く憂うつな思考につながり、悪ければ慢性的な不安障害に発展してしまう。 ・不安症の人は、恐怖中枢(扁桃体)がふつうの人より鋭敏かつ強烈に作動し、そうした反応を抑える抑制中枢(前頭前野)のはたらきが鈍い。 ※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』
●不安と恐怖 ・恐怖が外からの刺激(蛇を見る等)によって引き起こされるのに対し、不安は内部の認知プロセス(蛇のことを考える等)によって引き起こされる。 ・肉体的には不安も恐怖も同じ反応を引き起こす。 ・不安は将来起こるかもしれないこと、恐怖は今起こっていること。 ●逃走と闘争 ・ある理論では、ストレスホルモンのアドレナリンとノルアドレナリンの組合せによって逃走の状態になるか闘争の状態になるか決まる、とされている。 逃走とそれに関連する不安とパニックの情動はアドレナリンの分泌が多いことに関係があるらしい。一方、闘争と怒りはノルアドレナリンの分泌に関係しているらしい。 ●子どもの恐怖体験 ・乳幼児の前頭葉は非常に未熟なので、幼い頃に体験した恐怖等の情動が意識による作用を受けないまま潜在意識に刻まれ、それが恐怖症や好き嫌いの形で現れるようだ。 ※参考資料『ラッシュ・ドージア Jr.(1999)恐怖 角川春樹事務所』
扁桃体、不安の二つの経路、無意識の反応
●不安の検知、無意識に検知 ○不安を検知し、処理される時間 ・少なくとも10msは不安にさらされないと脳は不安を感じない。 ・"無意識"の脳が恐怖や不安を受け止めて処理するには10ms~30msくらいの時間が必要で、その後に"意識的"な不安処理のプロセスが始まる。 ○脳はどの部分で不安を感じるか? ・脳梗塞で一次視覚野(網膜から送られる神経信号を処理する部分)損なわれた人(目には異常なくても脳が視覚情報を処理できないので視覚的に"見る"事ができない)に不安そうな人の写真を見せると不安を感じ取った。 →網膜から視覚野以外にも情報が送られていて、脳の別の部位で不安を感じている ・被験者をMRI装置にかけて、不安な表情の写真を一瞬(10ms~30ms、脳は不安を感じることはできるが意識的な脳は働かないはずの時間)見せ、その後に中立的な表情の写真を見せる。 →被験者は一瞬なので"不安そうな"表情の写真を見たことは意識しておらず、見たという認識はない。 →MRIの結果で、"不安そうな"表情の写真を見たときには扁桃体の血流が増加していた。 ・日常生活において、意識していなくても扁桃体は周囲の恐怖や不安に非常に敏感に感知し、処理している。 ●不安に関する二つの経路 ①網膜→視床→扁桃体→感情的な反応 ・反応は迅速だが、正確さは劣る。 ・暗い場所にロープがあった場合、蛇と誤認識してとっさに飛びのく場合など。 ②網膜→視床→皮質→扁桃体→感情的な反応 ・時間はかかるが正確に認識する。 ・皮質がロープではなく蛇だと認識すると、扁桃体を沈め、緊急反応をオフにする。 ●"無意識の"脳と扁桃体 ・ヒトの進化の過程において脳の表層に皮質と呼ばれる進んだ脳細胞を発達させてきたが、原始的な部分も残している。無意識のうちに不安を検知して迅速に行動する部分もその一つ。 ・祖先は、処理が迅速な"無意識(潜在意識)"の脳によって環境の危険をすばやく見極め、身を守っていた。 ・"無意識"の脳が日常生活のストレスや不安をすべて吸収していることが分かっている。ストレスを吸収するにはエネルギーが必要なので、"無意識の不安"によって意識以上に疲れている場合もある。 ○扁桃体 ・10ms以内にまわりの危険を検知して警告してくれる。 ・危険が生じそうだというときは、当人がその危険に気づいていなくても、必ず扁桃体の電気活動が起こる。 ・情動反応は、何が怖いのか分からなくても起こる。無意識の脳に到達しさえすればいい。 ・扁桃体は脳のほかの部分と広くつながっているので、自分では気づかないうちに扁桃体が感情や行動に甚大な影響を及ぼしている可能性がある。 ※参考資料『スリニバサン・S.ピレイ(2011)不安を希望に変える 早川書房』
●扁桃体 ・扁桃体は無意識の脅威(人が認識していない危険の兆候)にも反応する。 ・蛇や蜘蛛などの写真を1000分の数秒、画面上に映し出し、すぐ後に意味のないマスク画像を表示させた場合、人は何の写真だったかを視覚で見分けることは不可能だが、扁桃体はこの情報を処理し、脅威が感知される。 ●恐怖の回路、扁桃体の二つの経路 ・五感から扁桃体に至るには速い経路と遅い経路の二つがある。 ○低位の経路、速い経路 ・危険がすぐ目の前にあるときは一刻の遅れも許されないため、視床からの情報は"低位の経路"を通じて扁桃体に送られる。 →人が何かを考える間もなく扁桃体に即座にスイッチが入り行動に移る。 ○高位の経路、遅い経路 ・五感から視床に集まった情報は扁桃体に向かう前に、詳細な分析のためにいったん大脳皮質に送られる。 →情報を高次で理性的に綿密に調べる。 ※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』
不安・恐怖と視覚
●ビジュアリゼーション ・最近の調査では、言葉よりもビジュアルなイメージの方が恐怖や不安の軽減に効果的だという。 →穏やかな場面をイメージすると、心の状態をうまく変えることができるかもしれない。 ・脳卒中の患者に自分が手足を動かしている場面を鮮明にイメージしてもらうと、損傷によってうまく血が流れなくなっている脳の患部のまわりの組織が助かったという事例もある。 ※参考資料『スリニバサン・S.ピレイ(2011)不安を希望に変える 早川書房』
●恐怖と視覚 ・恐怖の表情を見ると被験者の扁桃体が活性化され、それがさらに視覚野を活性化させ、視覚が向上するという実験結果がある。 →恐怖は、人間に行動を起こす準備をさせるだけではなく、視覚を高めることによって、周囲に鋭敏かつ警戒的になるように仕向けている。 ※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』
不安、悲観と健康
●プラシーボ効果とノーシーボ効果 ○プラシーボ効果 ・強いプラシーボ効果によって"痛みが減少した"と答えた被験者の脳内には、"ハッピーケミカル"と呼ばれるドーパミンやオピオイドが急増しているのが確認された。 ○ノーシーボ効果 ・人間は自分の具合が悪くなると信じれば、ほんとうに具合が悪くなる。 ・"何かが害をもたらす"という暗示や思い込みが原因で起きる、たいていはごく軽い症状。 ・強いノーシーボ効果で被験者が"痛みが増した"と答えた事例では、ドーパミンとオピオイドの減少が確認された。 ○フラミンガム心臓研究の結果 ・1948年に開始された大規模調査。 ・2873人の女性と2336人の男性を長年にわたって追跡調査。 ・肥満や高いコレステロール値や高血圧など、心臓病の危険因子として知られるあらゆる要素を考慮したうえで、"自分は心臓病にかかりやすい"と信じている女性の死亡率は、そう信じていない女性の4倍に上った。 ※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』
●トラウマ ・子ども時代にトラウマを体験した人たちは、成人後に慢性疲労症候群を発症する確率が6倍も高くなる。 ・トラウマによって脳に起こる基本的な変化の一つは、眼窩前頭皮質が縮小すること。この部分の機能が低下すると、柔軟な思考や行動が不可能だと感じる。 ※参考資料『スリニバサン・S.ピレイ(2011)不安を希望に変える 早川書房』
・悲観主義等のネガティブな特性は、長い目で見れば、楽観主義や幸福感よりも健康的であるという研究結果もある。 ・2002年の研究で、軽いうつ状態の女性は、うつ状態でない女性、重いうつ状態の女性に比べて長生きする傾向にある。 ・カリフォルニア州の児童1000人以上を対象にした長期に渡る研究で、楽観主義は、中年、あるいは老年の早いうちに死亡する傾向をもたらすと結論された。楽観的な人のほうがリスクを冒す機会が多いからだと思われる。 ・2001年の高齢者を対象にした調査で、家族の死などのネガティブな出来事の後では、悲観主義者のほうがうつになりにくい、という結果だった。 ※参考資料『バーバラ・エーレンライク(2010)ポジティブ病の国、アメリカ 河出書房新社』
前頭葉と不安、計画
・前頭葉の特定の場所に損傷を受けると、不安が消えて心が平静になる場合もあるが、計画を立てられなくなる場合もある。 ・"不安"も"計画"も未来について考えることと密接に関係している。われわれは、何か悪いことが起こりそうだと予期して不安になり、自分の行動をこれからどう展開するか想像して計画を立てる。計画するには未来を読まなければならず、不安感はそれに対応する反応の一つ。 ・前頭葉は、未来に自分を投影するのに不可欠な脳の装置だと考えられる。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』
不安・恐怖・悲観の軽減
●感謝の気持ちを持つ
親切、信頼、感謝、愛着、親密の”感謝の効果”参照。
●恐怖の記憶の消去
記憶の”恐怖の記憶の消去”参照。
親切、信頼、感謝、愛着、親密の”感謝の効果”参照。
●恐怖の記憶の消去
記憶の”恐怖の記憶の消去”参照。
●ネガティブな思い込みを検証、軽減する方法 1)自分が信じているネガティブな考えについて、次の4つの簡単な問いかけをする。 ①それは真実ですか? ②それが真実だと言い切れますか? ③それを信じているとき自分はどんな人間になれますか? ④それを信じなければ自分はどんな人間になれますか? 2)次に、信じていることを反転させる。つまり信じていることとは逆の考えを口に出して言ってみる。 ※参考資料『マーシー・シャイモフ(2008)「脳にいいこと」だけをやりなさい! 三笠書房』
●関心と感情 ・最新の研究で、関心には強力なパワーがあり、感情の状態に大きな影響を与えることが分かっている。脳の関心の回路が感情を生み出す領域と直接つながているため。 ・関心は感情に、感情は関心に影響する。 ●関心の方向転換 ○予期不安 ・いつも不安や恐れを予想して心配している状態。 ・最近の研究で、恐ろしい結果を心配している人は、その結果を先に延ばすよりもさっさとすませてしまいたいと思っていることが明らかになった。 ・最悪の結果を予想していつも心配しているせいで、コントロールできないほど不安が激しくなる。それで前向きの結果を実現しようという方へ関心を向ける代わりに、怖れているネガティブな結果を引き寄せることで不安に終止符を打つ。 ・心配しないでいるとふいに嫌なことが起こって驚きショックを受けるかもしれない、と思っている。不意打ちでショックを受けることのほうが怖れている結果よりももっと嫌らしい。 ○関心を前向きなことへ向ける ・無意識の恐怖や不安にまつわる大きな問題の一つに、脳がつねにネガティブなことを予想し続けることにある。 予想通りのものを探すことに関心が向きっぱなしになる。これは進化の過程で身に付いた自衛手段だが、無意識の恐怖や不安が脳を占領すると、この働きが過剰になる。 ・深刻な恐怖や不安になると前帯状回皮質の活動がその不安に乗っ取られてしまうという事実がある。 ・多くの研究で、扁桃体と前帯状回皮質が不安に占拠されるのは、不安が強力な感情だからにすぎないことが明らかになった。 →前向きの感情の方がネガティブの感情より強力なら、前向きの感情が扁桃体の活動を乗っ取ることができる。 →関心を前向きなことに向けると良い。 ※参考資料『スリニバサン・S.ピレイ(2011)不安を希望に変える 早川書房』
●認知バイアスの修正 ・患者はコンピューターの前に座り、15分~20分のプログラムを一日一回、週に数度行う。 ①コンピュータの画面に二つの写真または二つの言葉を映し出す。二つの写真の片方はネガティブなもので、もう片方は穏やかなもの。 ②穏やかなイメージの写真が浮かんで消えると、その場所には必ず小さなプローブがあらわれる。 ③被験者はこのプローブを常に追いかける。 ④これを何百回と繰り返すうち、ネガティブな画像に強く引き寄せられていた被験者の関心が、穏やかな写真に自然に向かうように再教育されていく。 ※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』
ネットニュースによる関連情報
●性格と免疫系との関係 ・UCLAと共同で、免疫系の活性を調節することで健康に影響を与える遺伝子発現と性格の関係を検討した。 平均年齢24歳(18-59歳)で女性86名、男性35名の計121名の複数の人種を含む健康な成人を対象に調査が実施された。参加者は性格テストを受け、外向性、神経質、開放性、感じのよさ、誠実さの5つの次元について評価された。 ・その結果、ネガティブな抑うつや不安といった感情が貧しい健康状態を導くという一般に言われているようなことはなさそうであり、免疫系の発現に影響するのは、外交性と誠実さであることを発見した。 外向性が炎症誘発性遺伝子の発現を有意に高め、逆に誠実さは低下させる。別の言葉で言うと、外向的な人物はより多くの人間に接触するために感染のリスクが高まるため、免疫系の活性が高い必要があるが、誠実であることは控えめであるために感染のリスクが低く免疫も低くてよいということである。 開放性もまた炎症誘発性遺伝子の発現を抑える傾向にあったが、神経質と感じのよさと遺伝子発現には関連がみられなかった。
●恋人が出来るとネガティブさが軽減? ・18-30才の245組のカップルを9ヶ月間追跡調査し、3ヶ月毎に個別にインタビューした。アンケートにより参加者の神経症の程度と恋人関係の満足度を分析した。 ・神経症の人は、ネガティブな出来事に強く反応したり、あいまいな事をポジティブまたは中立的に受け取る事が出来ず、ネガティブに解釈する傾向がある。恋人ができると、こうした傾向は時間とともに徐々に減少することが明らかとなった。 ・恋人が出来た事によるポジティブな経験や感情が、悲観的に物事を見る代わりに、自信を持って人生に取り組む助けとなる、と研究者は述べている。
不安傷害
●不安障害の概要 ・不安は脅威に対する自然な反応であり、ストレス反応において、交感神経系とHPA軸の活動が高レベルに達した時点で発生する。 ・実際に脅威となるものがないのに不安になり、普通の行動がとれなくなるのであれば、それは不安障害。 ・脳は不安に圧倒され、現状を大局的に把握することも、冷静に考えることもできなくなる。 ・アメリカでは18%の人が病気と言えるほどの不安を感じていて、その症状は、全般性不安障害、パニック障害、特定恐怖症、社会不安障害など、多岐にわたる。 ・深刻なストレス反応がもたらす身体的症状が認められ、脳は機能不全に陥り、状況を誤って解釈しがちになる。 ・こうした不安は、別の形の不安が入り込んだり、あるいは取り込んだりして、うつなどの精神障害を招くことも少なくない。 ●恐れと不安傷害 ・神経学的には、恐れとは危険の記憶。 ・不安障害になると、脳は常に恐ろしかったときの記憶を再生しようとする。 ・不安障害の場合、扁桃体が警報をONした後、解除が適切に作動しない。 →何も問題がないとか、問題が片付いたからリラックスしてもよい、などといった判断をしなくなり、指示ができなくなる。 →体と精神の緊張がもたらす感覚入力によって心があまりにもざわついているため、状況を正しく把握できなくなる。 ・こうした認識のズレが起きるのは、一つには前頭前野が扁桃体をしっかりコントロールしていないため。 全般性不安障害の患者の脳をスキャンしたところ、前頭前野のなかで扁桃体に停止信号を送る部分が小さすぎることが分かった。 歯止めがかからず、過度に興奮した扁桃体は、なんでもない状況をことごとく生命を脅かす危機とみなし、記憶に焼き付ける。 ・不安障害を持つ人と持たない人の脳の活動をMRI画像で比較すると、実際に恐ろしい刺激に対する扁桃体の反応には差が認められなかったが、恐ろしくない刺激に対する反応で差がでた。不安障害患者の扁桃体は、恐ろしい刺激のときと変わらない反応を示した。危険と安全の区別がつかなくなっている。 ・不安障害の患者は学習障害も患っているかもしれない。 プラスの記憶回路を成長させて、恐怖を迂回するルートを作ることができなくなっている。 →BDNFが不安を駆逐するのに重要かもしれない。 →この点からも運動が有効かもしれない。 ●慢性ストレス→不安障害 ・過剰なストレスによって増えた扁桃体内部のニューロンの結合は、ひっきりなしに発火してコルチゾールを欲しがる。 →扁桃体は、内部のニューロンの発火が活発になればなるほど強くなり、ついには海馬との協力体制において支配権を握るようになり、記憶の内容、そして現実とのつながりを抑え込み、見境なしに恐怖という烙印を押し始める。 →ストレスが当たり前となり、その感覚が漠然とした恐れとなり、やがて不安へと変化する。 →そうなると見るもの聞くものすべてがストレスに感じられ、さらなる不安へとつながる。 →慢性的なストレスに苦しめられていると、置かれている状況を記憶と比べられなくなり、運動等のストレス解消法や話を聞いてくれる友達がいることも思い出せなくなる。 →前向きで現実的な考え方を受け入れにくくなり、ついには不安障害やうつ病へと向かい始める。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
運動による不安解消の効果
①不安から気をそらす ②筋肉の緊張をほぐす ・運動をすると体の筋肉の緊張が緩むので、脳に不安をフィードバックする流れが断ち切られる。体の方が落ち着いていれば、脳は心配しにくくなる。 ・1982年に、ハーバート・デ・ヴリーズという研究者が、不安障害の人は筋紡錘の電気パターンが過度に活発だが、運動によってその緊張を(ベータ遮断薬のように)緩和できることを明かした。 ③脳の資源を作る ・運動によってセロトニンとノルアドレナリンを瞬時にも長期的にも増加させられる。 ○セロトニン ・筋肉が働き始めると脂肪を分解して脂肪酸をつくり、血液中に放出 →この遊離脂肪酸は、血液中を移動する際の乗り物にするためにトリプトファン(必須アミノ酸)と結合していた輸送たんぱく質(アルブミン)を奪い取る。 →身軽になったトリプトファンは、浸透圧差に導かれて血液・脳関門を通り抜け、脳に入っていく。 →セロトニンの構成材料になる。 ・運動によって増えた脳由来神経栄養因子(BDNF)もセロトニンを増やし、落ち着かせ、安心感を高める。 ○ノルアドレナリン ・興奮性神経伝達物質なので、不安のサイクルを断つにはその調整が鍵になる。 ○GABA ・運動は、GABAの分泌も引き起こす。 GABAは、脳の主要な抑制性神経伝達物質で、ほとんどの抗不安剤はこれに照準を合わせている。GABAは脳で起きる強迫観念に駆られたフィードバックの連鎖を断ち切ることができる。 ○BDNF ・恐怖に代わる記憶を補強する上で大切な働きをする。 ④別の結果があることを教える ・不安は交感神経系を活発にさせるので、心拍数が上がり、呼吸が速くなる。その変化に気づくことで不安やパニックの発作が引き起こされることもある。 ・有酸素運動をするとそれと同じ症状が出るが、運動は自分でコントロールできるので、不安が引き起こす体の症状を、自分でコントロールできる望ましいものだと思えるようになると、恐怖の記憶は薄れ、代わりに新しい記憶が形成される。 ⑤回路を作り変える ・運動によって交感神経系が活性化すると、受身でただ待って心配するという罠から解放される。 ・不安を感じても、あえて行動するようになれば、情報は扁桃体の別の回路で伝達されるようになり、安全で好ましい迂回路が築かれ、強化されていく。 ⑥立ち直りが早くなる ・不安はコントロールでき、パニックは防げるということを運動を通じで学べる。 ○心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の効果 ・運動で心臓の鼓動が速くなると、心筋細胞が心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンを生成し、過度の興奮にブレーキをかける。 ・運動でANP分泌 →血流に乗って脳まで送られ、血液脳関門を通り抜ける。 →脳に入ったANPは海馬の受容体にくっついて、HPA軸の活動を調整する。(ANPは脳内でも青斑核や扁桃体のニューロンで生成・分泌される) ・ヒトの実験によってANPには鎮静効果があることが分かっていて、研究者は、運動が不安に作用するのは主にANPの働きによるものだと考えている。 ・パニック発作の間、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が急増する。CRFは自ら不安を誘発するとともに、神経系をコルチゾールであふれさせる。ANPはこのCRFの作用を防いでいるらしい。 ・パニック障害の発作が頻繁な人は、血液中のANPが不足気味だと分かっている。 ・妊娠中はANPのレベルが3倍になることが分かっている。妊娠中の胎児の脳を、ストレスと不安の有害な影響から守っていると思われる。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』