健康情報のメモ

大腸がんの概要、リスク要因、予防

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
  1. 大腸がんの概要
  2. 症状
  3. 疫学・統計
  4. 喫煙、飲酒
  5. 肥満
  6. 赤肉、加工肉
  7. 家族歴、遺伝
  8. 運動
  9. 食物繊維
  10. 野菜、果物
  11. 葉酸、ビタミンB6
  12. ビタミンD、カルシウム
  13. 魚、n-3不飽和脂肪酸
  14. コーヒー
  15. 非ステロイド系消炎鎮痛剤(アスピリンなど)

大腸がんの概要

●大腸がんの概要
 
・大腸がんは、長さ約2mの大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんで、日本人ではS状結腸と直腸にがんができやすいといわれている。
・大腸がんは、大腸粘膜の細胞から発生し、腺腫という良性腫瘍の一部ががん化して発生したものと正常粘膜から直接発生するものがある。
 その進行はゆっくりで、粘膜の表面から発生した後、大腸の壁に次第に深く侵入していき、進行するにつれてリンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移する。
・大腸がんの発見に関しては、便に血液が混じっているかどうかを検査する便潜血検査が有効であることが明らかになっていて、検診などでの早期発見が可能。

症状

・一般的には早期の段階では自覚症状はない。
・多い症状としては、血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、原因不明の体重減少などがある。
 中でも血便の頻度が高いが、痔などの良性疾患でも同じような症状があるので、早めに受診することが早期発見につながる。

疫学・統計

・予測がん罹患数(2014年)では、がん全体に占める割合が、男性は15%、女性が15%となっている。
・大腸がんにかかる割合は、50歳代から増加し始め、高齢になるほど高くなる。
・大腸がんの罹患率、死亡率はともに男性では女性の約2倍と高く、結腸がんより直腸がんにおいて男女差が大きい傾向がある。
・大腸がんの罹患率をみると、1990年代前半までは増加し、その後は横ばい傾向にある。
 大腸がんで亡くなる患者の割合(死亡率)に関しては、1990年代半ばまで増加し、その後は少しずつ減る傾向にある。
 男女とも罹患数は死亡数の約2倍であり、これは大腸がんの生存率が比較的高いことと関連している。

喫煙、飲酒

・喫煙については、大腸がんの確実なリスク要因とされている。
・男性の飲酒は確実な大腸がんリスクとされている。女性の飲酒はおそらく確実なリスク要因。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
お酒・たばこと大腸がんの関連について
 
・お酒・たばこと大腸がんの発生との関係について調べた。
 
○お酒に対する結果
・男性では、アルコール摂取量が日本酒にして1日平均1合以上2合未満の人は、飲酒しない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍、1日平均2合以上の人は、2.1倍だった。
・女性では、週1日以上飲酒する人でも、飲酒しない人に比べて、発生率は上昇しなかった。これは、1日平均1合以上飲酒する人がほとんどいないためで、大量飲酒すれば男性の結果と同様であると考えられる。
 
○たばこに対する結果
・男性でも女性でも、たばこを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍だった。たばこをやめた人も、1.3倍だった。
 
○お酒とたばこが悪いわけ
・アセトアルデヒドががんの発生に関わると考えられる。
 さらに、アセトアルデヒドが分解される際に出る活性酸素によって、細胞の中の核酸(DNA)を作るのに必要な葉酸という物質が壊されてしまう。
 これによってDNAの合成や傷ついたDNAの修復がうまく行かず、がんになるとも考えられている。
・たばこの煙には、多くの発がん性物質が多く含まれている。
 たばこを吸っていると、たばこの煙が触れる"のど"や気管、肺以外に、直接触れない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出される。これによってがんが発生しやすくなると考えられている。

肥満

・生活習慣では、肥満、高身長などの体格で結腸がんのリスクが高くなることが確実とされている。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
インスリン関連マーカーと大腸がん罹患との関係について
 
・運動不足や肥満で大腸がんリスクが高くなるメカニズムの1つに、高インスリン血症の影響が挙げられる。
 IGF-Iには細胞増殖を促す働きがあり、IGFBP-1はIGF-Iに結合してその働きを抑える。運動不足や肥満によって血中のインスリン濃度が下がらなくなると、IGFBP-1の産生が抑制され、IGF-Iの働きが活発になる。血中のIGF-Iの活性が高い状態が続くと、その細胞増殖作用などを通じて、大腸がんの発生リスクが高くなると考えられる。
 インスリン分泌を反映するC-ペプタイドなどの血液検査の値と大腸がん発生率との関連を調べた。
※C-ペプタイド
体内でインスリンを生成する過程で生じる副産物で、血中や尿中のC-ペプタイド測定は、インスリン測定の代用となる。
※IGF-1
成長ホルモンの働きにより産生される物質で、成長促進、細胞増殖やインスリンに似た作用など、さまざまな働きをする。
※IGFBP-3、IGFBP-1
IGF-1と結合する蛋白
 
○結果
・男性では、C-ペプタイドの値の最も高いグループの大腸がんリスクは、最も低いグループの3.2倍で、値の高いグループほどリスクがだんだん高くなる関連がみられた。女性では、関連がみられなかった。
・IGF-I、IGFBP-3、IGFBP-1については、男女とも大腸がんリスクとの関連はみられなかった。
 
○推察
・女性で関連が見られなかったのは、日本人女性は欧米の研究対象集団と比べると肥満の割合が低く、C-ペプタイドの値が高い人が少なかったからかもしれない。
 また、閉経後女性では脂肪がエストロゲンの主な供給源となるなど、ホルモンを介した肥満の大腸がんへの影響が、女性と男性で違うのかもしれない。
・IGF-1については、これまでに欧米の研究で繰り返し大腸がんリスクとの関連が示されているが、中国での研究では関連が示されなかった。
 今回の研究で、IGF-1の値が大腸がんリスクと関連がなかったのは、ひとつには、対象者がアジア人であったためかもしれない。IGF-1と大腸がんリスクの関係は、遺伝子タイプや生活習慣の影響を受けるのかもしれない。

赤肉、加工肉

・赤肉(牛・豚・羊の肉)、加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)は確実な大腸がんリスクとされている。
・ヘテロサイクリックアミン(肉や魚を強火で調理した時に焦げた部分にできる発がん物質)やニトロサミン(食べ合わせにより体内で生成される発がん物質)などが大腸がんのリスク要因といわれているが、ヒトにおける根拠は限定的または不十分とされている。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)・加工肉(ハム・ソーセージ等)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた結腸・直腸がんの発生率を比べた。
 
○肉類摂取との関連の結果
・肉類全体の摂取量が多いグループ(約100g/日以上の群)で男性の結腸がんリスクが高くなり、赤肉の摂取量が多いグループ(約80g/日以上)で女性の結腸がんのリスクが高くなった。男性において赤肉摂取量によるはっきりした結腸がんリスク上昇は見られなかった。
 
○加工肉摂取との関連の結果
・男女ともにおいて加工肉摂取による結腸・直腸がんの統計的に有意な結腸・直腸がんのリスク上昇は見られなかった。
 ただし、加工肉摂取量をもう少し細かく10グループに分けたところ、男性において最も摂取量の多い群で、結腸がんリスクの上昇が見られた(摂取量の少ない下位10%の群と比べ、上位10%の群では発生率が1.37倍)。
 つまり、日本人が一般的に食べるレベルでは、はっきりとしたリスクにはならないけれども、通常よりもはるかに多量に摂取する一部の男性では、結腸がん発生リスクを上げる可能性は否定できない。
 
○赤肉摂取と大腸がんについて
・赤肉による大腸がんリスク上昇のメカニズムは、動物性脂肪の消化における二次胆汁酸、ヘム鉄による酸化作用、内因性ニトロソ化合物の腸内における生成、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれるヘテロサイクリックアミン(発がん物質)等の作用が指摘されてきた。
 これらの作用は、牛・豚肉といった赤肉に限らず、肉類全体の摂取を通してももたらされる共通のものとして捉えることができる。
 今回の結果では、赤肉摂取による直接的な大腸がん発生リスク上昇は男性において観察されなかったが、牛肉・豚肉は肉摂取量全体の85%程度を占めることから、男性でも赤肉摂取による結腸がんリスク上昇の可能性は否定できない。
 つまり、肉類全体の摂取量と結腸がんリスク上昇の関連が見られる以上は、牛肉や豚肉も含めて食べ過ぎないようにする必要があると考えられる。

家族歴、遺伝

・大腸がんでは、別の部位のがんにあまり見られない特徴として、家族歴がリスク要因になる。
 特に、家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸がんの家系は、確立した大腸がんのリスク要因とされている。

運動

・大腸がんのリスクを下げる要因としては、運動による予防効果が確実とされている。
 
●日本人を対象とした研究
 
・日本人を対象とした8研究に基づいて、身体活動は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは”ほぼ確実”と評価している。
 
●運動による予防効果
 
・大腸がんのうち、結腸がんの予防効果は確実とされている。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
身体活動量と大腸がん罹患との関連について
 
・身体活動量と大腸がん発生率との関連を調べた。
 身体活動量は、仕事を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査した。
 これらの各身体活動を運動強度指数MET値に活動時間をかけた"METs・時間"スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の身体活動量を求め、4群にグループ分けした。
 
○全体の結果
・男性では、身体活動量(仕事を含めた1日の平均的身体活動時間)の最大群で、大腸がんリスクが30%低下し(0.69倍)、特に結腸がんリスクの低下が顕著だった(0.58倍)。
 一方、直腸がんリスクの低下は見られなかった。
・女性では、男性のような傾向はみられず、身体活動量と大腸がんリスクとの関連はなかった。
 
○身体活動の効果のメカニズム
・身体活動量を増加させることによって、高インスリン血症や肥満の予防、胆汁酸分泌の抑制、免疫力の増強の他、腸管蠕動の促進による便中発がん物質の腸内曝露時間短縮、腸管粘膜中プロスタグランジンE2(がんの増殖や転移に関連)の低下、プロスタグランジンF2α(腸管の運動に関連)の増加などの効果が推察されている。
 
○女性で関連が見られなかった理由
・女性で大腸がんリスクとの関連がなかったのは、調査票の中で家事に関する質問が不十分で、女性の身体活動量がうまく評価できていなかったためかもしれない。

食物繊維

・食物繊維を含む食品の評価は変動があったが、近年確実な予防要因と位置づけられた。
 
・大腸(結腸並びに直腸)がんとの関連についての研究結果は必ずしも一致していない。食物繊維摂取量と大腸がんの発症の関連を単純に検討すると有意な負の関連が認められたが、葉酸・赤身肉・牛乳・アルコールの摂取量の影響を考慮すると、この関連は有意ではなくなったとする報告があり、結果が一致しない理由の一つであろうと考えられる。
 
・大腸がんにおいて、野菜・果物はリスク低下と関連していなかったが、食物繊維の最も摂取量の少ないグループは、最も摂取量の多いグループに比べて2.3倍に上昇。
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
食物繊維摂取と大腸がん罹患との関連について
 
・食事調査の結果から、食事に含まれる食物繊維など栄養素の量を算出し、食物繊維の摂取量によって、5つにグループ分けをして、大腸がんリスクを比べた。
 
○結果
・食物繊維を多く取ったとしてもそれだけ予防効果が期待できるわけではなさそうだが、極端に少ない人では大腸がんリスクが高くなる可能性がある。
 
○欧米の研究結果
・欧米の最近の疫学研究でも、食物繊維に大腸がん予防効果は認められなかったという結果が大半を占めている。
・しかし、ヨーロッパ8か国52万人のコホート研究では、食物繊維の摂取量が多いほど大腸がんリスクが低くなったと報告された。その食物繊維摂取量は、他の研究に比べ、幅広い範囲にわたっていた。
・欧米の13のコホート研究を統合した73万人の解析結果では、1日10g未満しか摂取していない約1割の人たちでリスクが高くなったと報告された。

野菜、果物

・可能性あり、またはエビデンス不十分な予防要因として挙げられているが、確実との判定には至っていない。
 
・食道、胃、大腸など消化管のがんのリスクが低くなることは、”おそらく関連が確実”とされている。
 しかし、たくさん食べれば食べるほどがんの予防効果があるというデータはない。
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
野菜・果物摂取と大腸がんとの関係について
 
・研究参加者を野菜・果物の摂取量によって4つのグループに分けて、摂取量がもっとも少ないグループに比べその他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○結果
・大腸がんのリスクは高くも低くもならなかった。
 
○推察
・世界保健機構(WHO)と食糧農業機関(FAO)合同での2003年の報告では、野菜果物は予防効果があるとすればそれはわずかなものであるとしながらも、おそらく予防的と述べている。
 また、国際がん研究所(IARC)の同じ2003年の報告では、これまでの疫学研究・動物実験などをまとめ、野菜・果物の大腸がんの予防効果を示す証拠は限定的ながら、野菜摂取はおそらく予防的だろうと述べられている。
 また、果物摂取も予防の可能性はあると評価されている。

葉酸、ビタミンB6

・可能性あり、またはエビデンス不十分な予防要因として挙げられているが、確実との判定には至っていない。
 
●葉酸
・いくつかの疫学研究により、葉酸塩摂取状況と大腸がんや肺がん、膵がん、食道がん、胃がん、子宮がん、卵巣がん、乳がん、他のがんのリスクは逆相関することが示唆されている。
・葉酸塩は、葉酸塩-メチオニン代謝系やそれに続くDNA複製および細胞分裂における役割を介して、がんの発症に影響する可能性がある。
 しかし、発がんに対する葉酸塩の効果に関する詳細は、研究によって立証されていない。
 
・複数の疫学研究によって、食物由来の葉酸塩摂取量と大腸腺腫や大腸がんのリスクとの間に逆相関があることが確認された。
 
○コホート研究NIH-AARP Diet and Health Study(食事・健康調査)
・50歳~71歳の米国人525,000人以上を対象。
・総葉酸塩摂取量が900μg/日以上の人は、総摂取量が200μg/日未満の人と比較して大腸がんのリスクが30%低いことが明らかになった。
 
○Women's Antioxidant and Folic Acid Cardiovascular Study
・心血管疾患リスクの高い1,470人の高齢女性が対象。
・1日あたり葉酸2500μg、ビタミンB6 50mg、ビタミンB12 1,000μgを7.3年間摂取した結果、摂取期間およびその後の約2年間の追跡期間を通して、大腸腺腫の発生率に対する影響はみられなかった。
 
●これまでの研究の傾向、注意点
 
・葉酸塩は、大腸がんのリスク、場合によってはその他のがんのリスクに対して、曝露の量やタイミングによって異なる2つの役割を有する可能性があることが示唆される。
 前がん病変が形成される前に中用量の葉酸を摂取した場合は正常組織におけるがんの発生を抑制する可能性があるが、一方で、前がん病変を確認した後に高用量の葉酸を摂取した場合は、がんの発生や進行を促進する可能性がある。
 この仮説を支持する知見が2011年の前向き研究でも得られており、前がん病変の初期段階においてのみ葉酸塩摂取と大腸がんのリスクとの間に逆相関があることが示唆されている。
 
・大腸がん、前立腺がんおよびその他のがんにおける食物由来の葉酸塩やサプリメントに含有される葉酸の役割を十分に解明するためには、さらに研究が必要である。
 今までのところ、適正量の葉酸塩を摂取することで、ある種のがんのリスクを軽減できる可能性が示されている。
 一方で、高用量の葉酸補充は、特に大腸腺腫の既往歴のある人の場合は注意が必要である。
 
※参考情報
葉酸塩 | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業

 

・テリーらの研究で、高用量の葉酸を摂取している女性は、結腸・直腸がんにかかる割合が40%と低かったことを見出した。
 
※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』

 
●ビタミンB6

・1997年に初めて、ビタミンB6が大腸がんの予防因子であることが報告された。
 
・日本においては、ビタミンB6摂取量と大腸がんとの関係の調査から、男性においてビタミンB6摂取量が最も少ないグループ(平均摂取量は1.02mg/日)に比べ、それよりも多いグループ(~1.80mg/日)で30~40%リスクが低かったと報告している。ビタミンB6が大腸がんの予防因子となり得ると考えられる。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

・いくつかの研究で、血漿ビタミンB6濃度の低値と、ある種のがんのリスク上昇が関連付けられている。
 たとえば、複数の前向き研究のメタアナリシスで、ビタミンB6摂取量が最高の五分位にある人は、最低の五分位にある人と比べて大腸がんのリスクが20%低いことが示された。
 
・しかし、現在までに完了した数少ない臨床試験で、ビタミンB6の補充ががんの予防に役立つ、あるいはがんによる死亡率を低下させることは示されていない。
 たとえば、ノルウェイの2つの大規模ランダム化二重盲検プラセボ対照試験のデータを解析した結果、ビタミンB6補充とがんの発生率、死亡率、または全死因死亡との間に関連性は認められなかった。
 
※参考情報
ビタミン6 | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取と大腸がん罹患との関連について
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べた。
 
○全体の結果
・男性において、ビタミンB6の摂取量が最も少ないグループに比べ、それよりも多いグループで30~40%リスクが低くなった。
 葉酸やメチオニンでは関連が見られず、ビタミンB12ではリスクがやや上がる傾向が見られた。
・女性では、どの栄養素でも関連が見られなかった。
 
○アルコールとの関連
・飲酒習慣について、週にエタノール換算で150g(日本酒にして約7合)以上と150g未満に分けて調べると、飲酒量の多い人で上記ビタミンB6との関連がはっきりと見られた。
 このことから特に飲酒量の多い人にとって、ビタミンB6を多くとることが大腸がんに予防的に働く可能性が示された。
 
○ビタミンB6の関連が強かった理由
・葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンは、生体内でのメチル代謝において、それぞれ異なる役割を担っている。
 アルコールやアセトアルデヒドはそれらの代謝経路を阻害したり、栄養素を破壊したりすることによって、大腸がん発がんの初期段階である遺伝子の低メチル化を引き起こすと考えられる。
・今回、特にビタミンB6と大腸がんの関連が強かった理由として、日本人の一般的な食事からは葉酸やビタミンB12は十分取れるのに対し、ビタミンB6摂取量は不足していることが挙げられる。
・ビタミンB12摂取量の多い男性でリスクがややあがる傾向が見られたのは、喫煙と飲酒の影響が残ったためかもしれない。
 また、女性は男性に比べ飲酒習慣のある人が少なかったために、ビタミンB群と大腸がんリスクとの関連がみられなかったと考えられる。

ビタミンD、カルシウム

・可能性あり、またはエビデンス不十分な予防要因として挙げられているが、確実との判定には至っていない。
●ビタミンDと発がんリスク
 
○大腸がん、前立腺がん、乳がんで予防の可能性
・臨床検査値、動物モデルによるエビデンス、また疫学データが示唆するところでは、体内のビタミンDステータスは発がんリスクに影響を与える。
・生物学的および機構論的根拠が強く示唆するところでは、ビタミンDは大腸がん、前立腺がんおよび乳がんの予防に関与している。
 最新の疫学データは、ビタミンDに大腸がんに対する防御効果があるかもしれないことを示唆しているが、前立腺がんや乳がんに対する防御効果についての説得力はさほど強くなく、また、その他の部位におけるがんの防御効果についても一貫していない。
 
○さらなる研究が必要
・総合的に判断すると、これまでに実施された試験からは、カルシウム併用の有無にかかわらず、ビタミンDのがんリスク軽減への関与を裏づける結果は得られていない。
 
●大腸がんに対する効果
 
○前向き・横断的研究
・大腸内視鏡検査を受けた3,132人の50歳以上の成人(96%が男性)を対象。
・被験者の10%に1カ所以上の進行性がん病変が認められたが、ビタミンD摂取量が最も多い被験者群(最低645 IU/日)ではこうした病変を生じるリスクが顕著に低いという結果が出た。
 
○"女性の健康イニシアチブ(Women’s Health Initiative)"試験
・さまざまな人種や民族の閉経後女性36,282人を対象。
・被験者をビタミンD 400 IU/日+カルシウム100mg/日の投与群とプラセボ群に無作為に割り付けたが、7年に及ぶ期間中、結腸直腸がんの発生率について両群間に顕著な差異は認められなかった。
 
○ネブラスカ州の地方部の住人に対する臨床試験
・閉経後女性1,179人の骨健康に焦点を当てた臨床試験。
・4年間にわたり毎日カルシウム(1,400~1,500mg)とビタミンD3(1,100 IU)の補充を受けた被験者群のがんの発生率がプラセボ群の女性に比べて顕著に低値を示した。
 ただし、がんの発生数が50例と少ないため、この研究結果をもとに、カルシウムもしくはビタミンD3、あるいは、カルシウムおよびビタミンD3による防御効果や他部位におけるがんへの防御効果について一般論を述べることはできない。
 
○NHANES III(1988~1994年)試験
・16,618人を対象。
・この試験では、がんによる総死亡数と、ベースライン時の体内ビタミンD状態には関連性がない、という結果が出ている。
 ただし、結腸直腸がんの死亡数については、血清25(OH)D濃度に逆相関していた。
 
○西ヨーロッパ10カ国からの参加者を対象に実施された大規模観察研究
・診断前の25(OH)D濃度と結腸直腸癌リスクの間に強い逆相関があるという結果が出ている。
 
※参考情報
ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業

 

●カルシウムと大腸がん
 
・大腸がんの予防におけるカルシウムの役割の可能性に関する観察的および実験的研究から得られたデータは、やや一貫性に欠けるが、予防効果があることを強く示唆していると考えられる。
・複数の研究では、食品(低脂肪乳製品による栄養源)および/またはサプリメントから大量のカルシウムを摂取すると大腸がんのリスクが低下することが判明している。
 しかし、他の観察的研究ではこのような関連性が決定的なものではないことが判明している。
・コクラン・システマティックレビューの著者らは、カルシウムサプリメントの摂取は大腸がんの予防に多少効果があるかもしれないが、予防を目的としてカルシウムのサプリメントの常用を推奨するためのエビデンスは十分ではないという結論に達した。
 大腸がんの発現までに長い潜伏期間があることを考慮すると、カルシウム摂取が大腸がんリスクに影響するか否かを十分に理解するためには、長期にわたる研究が必要である。
 
※参考情報
カルシウム | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

ビタミンDと大腸がん罹患との関係について
 
・米国(2004年)と日本(2005年)から、日光を浴びる機会と大腸がんリスクという新しいテーマの疫学研究結果が報告されている。
 紫外線B波を浴びた皮膚反応によって体内のビタミンDが合成され、大腸がん予防につながるのではないかと考えられている。
 実際に、保存血液を用いたいくつかの前向き研究でも、ビタミンDによって大腸がん、特に直腸がんや遠位結腸がんのリスクが下がる可能性を示す結果が報告されている。
・保存血液を用いて、血漿中のビタミンD代謝物(25-水酸化ビタミンD)の濃度を測定し、値によって4つのグループに分け、大腸がんリスクを比較した。
 
○全体の結果
・男女とも、ビタミンD濃度が高くなっても、大腸がんリスクが下がるという関連はみられなかった。
 
○大腸の部位別
・男女とも、最も低いグループに比べそれよりも高い3グループで、直腸がんリスクが低いことがわかった。
・結腸がんリスクには影響がみられなかった。
 
○血液のビタミンD濃度が最も低い人は直腸がんに関連する理由
・この結果を裏付けるデータとして、ビタミンD受容体の遺伝子タイプの違いから、日本人は白人に比べて、ビタミンD不足で直腸がんリスクが上がりやすい体質である可能性を示す研究がある。

 

カルシウム、ビタミンD摂取と大腸がん罹患との関連について
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、カルシウムおよびビタミンDの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べた。
 
○カルシウムの摂取量との関連の結果
・男性において、カルシウムの摂取量が最も少ないグループに比べ、摂取量が最も多いグループでリスクが低くなった。
 カルシウムの摂取量が最低(300mg未満)のグループと比べると、最高(700mg以上)のグループでリスクが40%近く低いことがわかった。
・女性では関連がみられなかった。
 
○ビタミンDの摂取量との関連の結果
・ビタミンD摂取量と大腸がんの間には、男女とも統計学的有意な関連は見られなかった。
 しかし、男性においては、カルシウムとビタミンDの摂取量をそれぞれ低・中・高の3群にわけて組み合わせた場合、両栄養素が高いグループでリスクが低いということが明らかになった。
 
○カルシウムとビタミンDが大腸がんを予防する機序
・カルシウムは、腸管内腔の上皮細胞を刺激し、がんの発生を促進する二次胆汁酸を吸着することと、細胞増殖や分化に直接作用することなどが考えられている。
・ビタミンDは、カルシウムの吸収に関与することから2つの栄養素の摂取量が高い群で大腸がんのリスクが低い結果であったことの説明がつく。
 
○推察
・本研究の結果では、男性のみにおいて、カルシウムと大腸がんの関連が見られた。
 その理由の1つとして、女性ではカルシウム摂取量が全体的に高かったのに対し、男性では、極端に低い人が多かったことが考えられる。
 一方のビタミンDは、紫外線にあたることにより皮膚でつくられることから、食事からの摂取量による影響が小さかったと考えられる。

 

ビタミンD受容体の遺伝子多型と大腸がんの罹患リスクとの関連:コホート内症例対照研究
 
・近年、ビタミンDによる抗腫瘍効果が実験研究により報告されているが、その抗腫瘍効果は、ビタミンDがビタミンD受容体に結合することで作用すると考えられている。
 ビタミンD受容体は大腸の細胞にも存在するため、ビタミンDの抗腫瘍効果により、大腸がんを予防する可能性がある。
 本研究では、ビタミンD受容体の遺伝子多型と大腸がん罹患リスクとの関連を検討した。
※遺伝子多型とは、遺伝子に見られる比較的頻度の多い変化の事。ビタミンD受容体の遺伝子多型により、ビタミンD受容体の質や量が変化し、抗腫瘍効果に影響を与えることが考えられる。
 
○結果
・本研究で検討した29の遺伝子多型のうち、8つの遺伝子多型(rs2254210,rs1540339, rs2107301, rs11168267, rs11574113, rs731236, rs3847987, rs11574143)で大腸がん罹患リスクが変化する傾向が見られた。ただし、統計学的に確からしいとまでは結論付けられなていない。

 
 
●他の研究事例
 

○米国がん学会、ハーバード大学他多数の研究機関による国際共同研究
 
・17件のコホート研究から、5,706名の大腸がん患者と7,107名の対照者のデータをプールして解析した。全体の3割に当たる参加者の血中25(OH) ビタミンD濃度は新たに測定した。
 
・骨健康に充分と思われる最低ライン(50-62.5nmol/L)の者に比べて、30nmol/L未満の欠乏者は、大腸がんの発症リスクが31%高かった。
・逆に血中25(OH)ビタミンD濃度が高い者(75-87.5nmol/Lおよび87.7-100nmol/L)では、大腸がんの発症リスクが各々19%と27%低かった。
・上記結果より、大腸がん予防に最適な血中ビタミンD濃度は、骨健康のために設定された国立医学アカデミーの現行の推奨値よりも高いと思われる。
 
※参考文献
Circulating Vitamin D and Colorectal Cancer Risk: An International Pooling Project of 17 Cohorts

 

○ビタミンDと大腸がんの他の研究の知見
 
①ビタミンDが、がんの予防に重要な役割を果たしていることを示す研究が相次いでいる。
②実験室による研究で、ビタミンDは、がん細胞を認識・攻撃するT細胞を活性化して免疫系の機能を増強できることが示唆された。
 
○米国のデイナ・ファーバーがん研究所による研究
 
・上記①②をふまえ、免疫系におけるビタミンDの役割が、ビタミンの循環レベルが高い人の大腸がん率の低さの原因なのかを明らかにすることを目的とした研究。
・看護師健康調査と健康のプロフェッショナル追跡調査に参加した、17万人のデータを利用。この中から、318名の結腸直腸がん患者と、がんの無い624名を慎重に選択し比較した。
・参加者ががんを発症する前に、この942名の血液サンプルを1990年代に採取した。その後、ビタミンDから肝臓で産生される物質である25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)をテストした。
 
・その結果、25(OH)Dの量が多い患者は、がん組織内に免疫細胞が豊富に存在する大腸癌を発症するリスクは平均よりも低いことが明らかになった。
・ビタミンDはがんに対する体の防御を高めるために免疫システムと相互作用することができるという基礎実験室での発見を実際の患者を対象に対しても確認できた。
 
※参考文献
Plasma 25-hydroxyvitamin D and colorectal cancer risk according to tumour immunity status.

魚、n-3不飽和脂肪酸

・結腸直腸がんコホート研究のメタ・アナリシスでは男性において、n-3系脂肪酸(α-リノレン酸を含む)摂取量が多い群で平均13%のリスク減少が認められている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連について
 
・アンケートから計算されたn-3、n-6、およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○n-3系脂肪酸
・魚由来のn-3不飽和脂肪酸およびトータルのn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、結腸(特に近位部)のがんの発生リスクが低いことが分かった。
・直腸のがんに対しては、n-3不飽和脂肪酸は特に有意な関連を示さなかった。
 
○n-6系脂肪酸
・男性の近位結腸でリスクの低下が見られたものの、全体としては大腸がんのリスクとは特に関連はみられなかった。
・n-3/n-6比についても同様に特に関連は見出されなかった。

 
 
●他の研究事例
 

○以前の研究
 
・オメガ3脂肪酸は、腫瘍増殖を抑制し、悪性細胞への血液供給を抑制できることが示されている。
 
○米国ハーバード・メディカル・スクールなどからの研究報告
 
・2つの大規模長期試験に基づくもので、参加者は、調査に参加した時点での病歴や生活様式の因子について、詳細な質問票に回答し、その後、隔年でこれを繰り返した。
・質問票には、大腸がんの診断結果や他の潜在的影響因子として、身長、体重、喫煙状態、アスピリンや非ステロイド性炎症薬の常用、運動に関する情報が含まれていた。
 
・その結果、魚由来のオメガ3が多めの食事を摂っていた人は、大腸がんによる死亡リスクが低下していた。リスク低下の程度は、摂取量が増えるとリスクが下がるといった関連がみられ、摂取量に関連しているようであった。
 
※参考文献
Marine ω-3 polyunsaturated fatty acid intake and survival after colorectal cancer diagnosis.

コーヒー

・コーヒーが大腸がんのリスク低下と関連することについて、”可能性あり”と判定されている。
・現段階では、飲む習慣のない人が無理して飲むことはすすめられていない。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
コーヒー摂取と大腸がんとの関連について
 
・生活習慣についてのアンケート調査の結果を用いて、コーヒーの飲酒頻度によるグループ分けを行い、その後に発生した大腸がんとの関連を調べた。
 
○結果
・男性では、どの大腸がんについても、コーヒー摂取と大腸がんの関連はみられなかった。
・女性では、ほとんど飲まないグループに比べ、1日に3杯以上飲むグループで、大腸がん全体のリスクが約3割、浸潤がんでは約4割低くなっていたが、統計学的に有意な差ではなかった。
 浸潤がんをさらに部位別に分けたところ、1日に3杯以上飲むグループで結腸がんリスクが56%低くなり、コーヒーを飲む量が多いほどリスクが低くなるという傾向が見られた。
 直腸がんでは、同様の傾向は見られなかった。
 
○推察
・コーヒー飲用による結腸がん予防のメカニズムとして、腸内の胆汁酸や中性ステロールの濃度が抑えられること、腸の運動を活発にしたり、高血糖を防ぎ糖尿病を予防したりする作用が考えられる。
・コーヒーの成分には、抗酸化作用を持つカフェインやクロロゲン酸の他にも、ヘテロサイクリックアミンなどの発がん物質に対抗する作用を持つ成分も知られている。
・男性で予防効果が見られなかった理由として、男性では特に喫煙と飲酒の大腸がんへの影響が強いことが考えられる。
 喫煙も飲酒もしない男性は全体の7.3%と少なく、はっきりとした関係は見られなかった。

 
 
●他の研究事例
 

○米国ダナファーバーがん研究所の研究報告
 
・外科手術および化学療法の治療を受けているステージIIIの結腸がん患者を対象。
 
・1日4杯以上のレギュラーコーヒーの摂取(カフェイン約460mg)によって、コーヒーを飲まない患者に比べて、がんの再発率が42%低く、がんもしくは別の原因で死亡するリスクが33%低かった。
・1日2-3杯のコーヒーにも中程度以上の利益があった。
・このコーヒーの効果が完全にカフェインによるものであることを発見した。
・効果の理由は不明であり、更なる研究が必要。一つの仮説としては、カフェイン摂取が身体のインスリン感受性を高め、それによって炎症反応が低下するからかもしれない、と研究チームは語っている。
 
※参考文献
Coffee Intake, Recurrence, and Mortality in Stage III Colon Cancer: Results From CALGB 89803 (Alliance).

 

○米国南カリフォルニア大学からの研究報告
 
・過去6か月以内の大腸がんと診断された5,100名以上の男女を、大腸がんと診断されたことのない4,000名の男女と比較する症例対照試験を実施。
・対象者は摂取したコーヒーの種類が、煮出し(エスプレッソ)、インスタント、デカフェ(脱カフェイン)、フィルターかどうかとその量、それ以外の飲料について回答した。また、がんの家族歴、食生活、身体活動、喫煙などについても調べられた。
 
・データ解析の結果、ほどほどのコーヒー摂取(1日1-2杯)であっても、種々の因子を調整後、大腸がんの発症リスクが26%低下することが明らかになった。
・1日2.5杯以上のコーヒーを摂取する者では発症リスクは50%低下した。
・リスクの低下は全てのタイプのコーヒーで見られた。
・デカフェにも効果があった。
・コーヒーには、大腸の健康維持に役立つ多くの成分が含まれており、それらが複合されて保護効果が表れると研究者は考えている。
・カフェインとポリフェノールは抗酸化物質として作用し、大腸がん細胞の成長を制限、焙煎中に発生するメラノイジンは結腸の運動性を促進、ジテルペンは身体の酸化的損傷に対する防御反応を促進する、などの効果が考えられる。
 
※参考文献
Coffee Consumption and the Risk of Colorectal Cancer.

非ステロイド系消炎鎮痛剤(アスピリンなど)

※以下の記事も参照。
自然炎症、慢性炎症の”免疫、炎症とがん、アスピリン”
 
・非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs、アスピリンを含む)がリスクを減少させる要因として挙げられている。ただし、薬剤をがんの予防に用いる場合には、リスクとベネフィットのバランスを考える必要がある。
 
 
●他の研究事例
 
○豪州、米国、カナダ、ドイツの4か国からなる国際共同研究
 
・8,624名の大腸がん患者と8,553名の健康な人を比較した症例対象研究。
 
・アスピリンもしくは非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDS)の使用は大腸がんの罹患リスクを各々28%と38%低下させるという結果が得られた。
・遺伝子変異との関係を解析した結果、大部分の人がアスピリンおよびNSAIDSによって大腸がんリスクを低下させることが確認されたが、同時に一部の異なる遺伝子配列を持つ人には効果が見られないことがわかった。
 効果が見られないのは25人に1人の割合で、アスピリンによってわずかにリスクが高まっていた。
 
※参考文献
Association of aspirin and NSAID use with risk of colorectal cancer according to genetic variants.

 

○先行の研究
・極めて多数の研究がアスピリンの常用に大腸がん予防効果のあることを支持しているが、がん全体のリスクに対する効果ははっきりしなかった。
 
○米国マサチューセッツ総合病院からの研究報告
 
・二つの大規模長期疫学研究のデータを解析。32年にも及ぶ136,000近い対象者のデータを看護師健康研究(女性)と医療専門職追跡研究(男性)から集めて解析した。
 
・常用量もしくは低用量アスピリンを週2回以上定期的に服用していた人は、アスピリンを服用していない人に比べて、すべての種類のがんの絶対リスクが3%低かった。
・アスピリンの常用者はまた、大腸がんのリスクが19%低く、全消化器系がんのリスクは15%低かった。乳がん、前立腺がん、肺がんに対する効果はみられなかった。
・アスピリンの常用者はがんの全体的なリスクが有意に低く、これは主として大腸がんその他の消化器系腫瘍のリスク低下によるものであることが明らかになった。
・アスピリンの効果は、常用錠を週0.5から1.5錠もしくは低用量錠を週1錠、5年以上連続的に服用することで現れるという。
・内視鏡検査やその他のがん検診の代わりにはならないものの、それを補う効果はあるかもしれないという。
 
※参考文献
Population-wide Impact of Long-term Use of Aspirin and the Risk for Cancer

 

○米国ミネソタ大学からの研究報告
 
・アスピリンを常用している家族性腺腫様ポリープ(FAP)患者と常用していない患者の各々の組織片を採取して検討を行った。
 
・大腸がん形成の初期に、上皮成長因子受容体(EGFR)の過剰発現が起こることを発見した。EGFRは、大腸がんの約80%の症例において過剰発現していることが知られている。
・アスピリンの常用でEGFRの発現を正常化し、かなりの程度抑えられることがわかった。
・臨床試験のデータは一貫してアスピリンその他の非ステロイド性消炎鎮痛薬の使用が大腸がんを生涯リスクを低下させることを示唆している。
 
※参考文献
Aspirin Prevents Colorectal Cancer by Normalizing EGFR Expression.

 

○先行研究の報告
・アスピリンの服用が結腸がんと診断された患者の生存率を高めることが報告されていたが、そのメカニズムは明らかではなかった。
 
●HLAクラスI抗原
 
○HLAとは?
・ヒト白血球型抗原(HLA)とはヒトの主要組織適合遺伝子複合体のこと。
・HLA型は白血球の型を示している。ただし、白血球以外にもHLAは存在するため、現在ではヒト白血球型抗原の名称で呼ばれることはほとんどなく、HLAと略して呼ばれる。
 
○HLAと免疫
・HLAの主な働きは、自然免疫の制御、獲得免疫におけるT細胞への抗原提示。
・免疫系は様々な非自己を排除できるように複雑に構成されており、非自己の情報を得るための自己として、HLAが関与している。
 
○HLAクラスI抗原
・クラスⅠ抗原は、ほとんどの有核細胞や血小板、血漿中にある。
・ウイルス感染細胞やがん細胞は免疫応答から逃れるために、自身のクラスⅠ抗原を消失させる。
 
●蘭ライデン大学からの研究報告
 
・2002-2008年に結腸がんと診断されて手術を受けた999名の患者の腫瘍組織を対象に、HLAクラスI抗原と酵素のプロスタグランジン・エンドペルオキシド・シンターゼ2(PTGS2)を測定した。
 
・999名中182名がアスピリンを使っており、うち69名(37.9%)が死亡した。非アスピリン使用者は817名であり、うち396名(48.5%)が死亡した。がん診断後のアスピリンの服用によって全体的な生存率は改善された。
・特にアスピリンのメリットが強かったのは、HLAクラスI抗原を発現していた患者であった。
・今回の結果から、研究チームは、アスピリンが循環する腫瘍細胞に働いて遠隔転移を抑えるためではないかと考察している。
 
※参考文献
Low-dose aspirin use linked to improved colon cancer survival

 

○米国の全国調査
 
・2,500人を超える45~75歳の成人に対し調査を行った。
・うち、51%が日常的にアスピリンを摂取していると回答しており、21%が過去のある時期に摂取していたことを回答している。回答者の平均年齢は60歳であった。
・アスピリンを常用する高齢成人の81%が心臓発作や脳卒中の既往歴が無いのに、予防の為にアスピリンを常用している。
・一次予防手段として、冠動脈疾患やがんなどの予防を期待しながらアスピリンを摂取する習慣を持っている。
 
○アスピリン使用の効果、懸念
・アスピリンの使用は心臓発作や脳卒中を予防する。
・いくつかの研究ではアスピリンががん予防、とりわけ直腸結腸がんの予防に効果があることを示唆する研究もある。
・米国予防医学タスクフォースではアスピリンが高血圧や高コレステロール、喫煙や糖尿病など心血管疾患の高リスク者に対して予防措置として摂取することの有益性を認めている。
 
・これら高リスク患者のアスピリン使用に関する客観基準は患者の持つリスク因子の数、年齢や性別に基づく。
 
・アスピリンが最初の心臓発作を経た人や狭心症、脳卒中などの既往がある人には有益であるということに疑いはないが、予防としてのアスピリン使用については寄せ集めの知見に過ぎない。
 
・アスピリンは出血傾向を増大させるので、出血性疾患のイベント、例えば消化器性出血などのリスクが増大する。
 
※参考文献
Aspirin use among adults in the U.S.: results of a national survey.

 

○英国のクイーン・メアリー大学(QMUL)による研究
 
・アスピリンの予防的使用による効果と有害性を評価した研究や臨床試験から得られたエビデンスのレビューを行った。
 
・その結果アスピリンを10年間服用することで、腸がんの症例数を約35%、死亡数を40%削減できることを発見した。
・食道・胃がん発生率は、30%の削減、これらのがんによる死亡は35-50%低減できるという。
 
・アスピリンの利点を享受するためには最低でも始めの5年間、50-65才であれば10年間は1日に75-100mgのアスピリンを服用し始める必要がある。始めの3年間はアスピリン摂取の効果は見られず、死亡率は5年後にやっと減少した。
 
・アスピリンの長期服用は胃出血など、消化管などからの出血のリスクを増大させる危険性もあるので注意が必要。
・70才未満では重篤・致命的な消化管出血の発生率は非常に低いが、それ以降となると急激に増加する。
・アスピリン使用による副作用は他にも消化性潰瘍があるが、リスクは30-60%増加する。
 
・研究者は、明確にアスピリン服用による利益が大きい人と副作用による出血のリスクが大きい人を明確に定義するためには、更なる研究が必要と述べている。
 
※参考文献
Aspirin a day could dramatically cut cancer risk, says biggest study yet

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