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- 大豆の概要
- イソフラボンの概要、健康効果
- サポニン、レシチンの健康効果
- エクオールの健康効果
- 豆腐の健康効果
- 納豆の健康効果
- 味噌、味噌汁の健康効果
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
- ネットニュースによる関連情報
大豆の概要
●大豆の成分 ・大豆には、主要な成分としてたんぱく質、炭水化物、脂質のほか、ミネラル、ビタミン、カルシウムなどが含まれている。 また、機能性があると言われている微量成分として、サポニン、レシチン、大豆イソフラボンなどが含まれている。
●大豆と糖代謝 ・大豆には糖代謝を改善して、糖尿病リスクを低下させることも期待できる。 ※参考資料『上原誉志夫(2015)高血圧ならみそ汁を飲みなさい! 実業之日本社』
イソフラボンの概要、健康効果
●大豆イソフラボンとは? ・大豆イソフラボンとは、大豆、特に大豆胚芽に多く含まれる複数の化学物質の総称。 ・大豆イソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)と化学構造が似ていることから、植物性エストロゲンとも呼ばれる。 エストロゲン受容体(エストロゲンレセプター)に結合することから、促進的あるいは競合的に種々の生体作用を発揮することが、試験管内の試験や動物実験で示されている。 ●大豆イソフラボンが含まれる量(大豆イソフラボンアグリコンとしてmg/100g) ・豆腐 20.3 ・納豆 73.5 ●日本人の大豆イソフラボン摂取量 ・平均的な日本人(15歳以上)の大豆イソフラボン摂取量は一日当たり18mg(大豆イソフラボンアグリコン換算値) ●大豆イソフラボンの健康影響 ・骨粗しょう症、乳がんや前立腺がん等の予防効果が期待される ・乳がん発症や再発のリスクを高める可能性も考えられる。 ・妊婦、胎児、乳幼児、小児については、大豆イソフラボンを日常の食生活に上乗せして摂取することは、推奨できない ●大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限値 ・70~75mg/日とされるが、この量を毎日欠かさず長期間摂取する場合の平均値としての上限値であること、また、大豆食品からの摂取量がこの上限値を超えることにより、直ちに、健康被害に結びつくというものではない。 ・日常の食生活に加えて、特定保健用食品としての、大豆イソフラボンの安全な一日上乗せ摂取量の上限値を30mg(大豆イソフラボンアグリコン換算)としている。 ※農林水産省/大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A
・大豆のポリフェノールの主成分はイソフラボン。 ・強い抗酸化作用を持っていてLDLの酸化を抑制するなど、活性酸素を捕捉し、過酸化脂質の発生を抑え、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化を予防する可能性がある。 ・女性ホルモンの受容体のエストロゲン受容体に結合して効果を示すことが知られていて、エストロゲンが過剰に分泌されている時は、イソフラボンがエストロゲン受容体に結合して抑制的に働くのに対し、エストロゲンが低下している更年期障害の閉経後の骨粗しょう症などでは、エストロゲン受容体に結合して弱いエストロゲン作用を示して効果を発揮する。 ・疫学研究で、更年期障害のほてりを軽減することが報告されている。 ・女性ホルモンに関連深いがんである乳がんや前立腺がんのリスクを低下させることが報告されている。特に、厚生労働省研究班による多目的コホート研究でイソフラボン摂取量の増加に伴い閉経後の乳がんリスクが減少したと報告されている。 ・イタリアで行われた疫学研究において、閉経後の女性に1日にイソフラボン錠剤を150mg摂取させたところ、5年間で子宮内膜増殖症が摂取強で有意に高かったという報告があった。 このため内閣府食品安全委員会では2006年、1日摂取目安量の上限値として150g/日の半分量に当たる75g/日を設定している。日常の食事から摂取する量では問題にならないが、サプリメントなどからの過剰摂取は乳がんのリスクが高まる可能性がある。 ※参考資料『近藤和雄,佐竹元吉(2014)サプリメント・機能性食品の科学 日刊工業新聞社』
●大豆、イソフラボンと乳がんの関連 ・乳がんと大豆食品の摂取量との疫学的な調査として中国で行われた3000人調査では、思春期から大豆摂取量が多い女性は、乳がんの発症リスクが低減したとされ、中国では若い頃から長期にわたって大豆を食べ続けることが推奨されている。 ・日本で1990~1999年に40~59歳の女性約2万人に食生活について追跡調査したところ、イソフラボンの摂取量が多いほど、乳がんの発症率が低く、特に閉経後でエストロゲンが不足する女性の場合に顕著であるという結果になった。 ※参考資料『阿部尚樹,上原万里子,中沢彰吾(2015)食をめぐるほんとうの話 講談社』
●大豆製品 ・豆腐、味噌、豆乳などの大豆製品を摂取すると、エストロゲンとプロゲステロンの源となる。これらの食品は、異なるエストロゲン活性を持つ植物エストロゲンを含んでいる。 ・大豆の消費量が多い日本人女性は、更年期症状を経験する確率がとても低い。 ●大豆 ○乳がん ・大豆は2つの方法で乳がんに対抗する。 細胞内で直接の抗がん作用をもつことと、エストロゲンが乳房組織内で悪性化を引き起こすのを防ぐこと。この現象は閉経前後の女性でみられる。 ○前立腺がん ・フィンランドのハーマン・アドラークロイツによれば、大豆や大豆製品を食べると、実験動物の前立腺がんを減らすことが示されている。 ●大豆イソフラボン ・研究によると、大豆中の二つのイソフラボン類、ゲニステインとダイゼインは、乳がん、前立腺がん、子宮内膜症などのホルモン関連疾患の発症リスクを低下させるという。 ・研究者らは、血管新生の阻害を示してきたゲニステインが、チロシンキナーゼという酵素の作用も阻害し、それが腫瘍細胞の成長・増殖を抑制するのではないかと考えている。 ・1999年に米国FDAは、大豆食品はLDL値を低下させることによって、心臓病リスクを低減させる食品として販売できる、と決定した。 ・LDL値の低下に加え、大豆はHDL値を上昇させることが示されている。 ・大豆イソフラボンはまた、骨粗鬆症の予防効果を有している可能性がある。 ・大豆イソフラボンは月経前症候群や更年期の症状を軽減する一助となるために推奨される。 ・ゲニステインのような化学物質は、体内に最大でも24~36時間しか保持されない。このため、大豆の力を細胞内に完全に蓄えるためには、毎日の摂取が必要となる。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
サポニン、レシチンの健康効果
●レシチン ・リン脂質の一種で、生体膜の重要な成分。 ・その強い乳化作用によって血管に付着したコレステロールを溶かし、血液の流れを良くする。そのため動脈硬化を防ぎ脳出血などを予防する効果がある。また、その脂肪代謝機能により、肝臓中の脂肪分を減らす働きもする。 ・脳の情報伝達に関わる神経細胞の重要な材料となる。 ・脳の神経伝達物質の合成にも欠かせないため、認知症やアルツハイマー病の予防や改善効果も期待されている。 ●サポニン ・油脂を溶かす性質から脂肪やコレステロールを取り除く働きがあり、抗酸化作用が認められている。 ・脂肪の蓄積を防ぐ、血管に付着した脂肪を洗い流す、老化の元となる脂肪酸の酸化を防ぐ、活性酸素の働きを抑制する、腸を刺激し便通を良くする、あるいは血栓を予防すると報告されている。 ※参考資料『近藤和雄,佐竹元吉(2014)サプリメント・機能性食品の科学 日刊工業新聞社』
●サポニン類 ・大豆、ひよこ豆、アスパラガス、トマト、ジャガイモ、オーツ麦に存在する植物性化学物質の一種。 ・自然界でサポニン類は、植物を微生物から守る抗菌薬として働くようだ。 ・ヒトでは、がんや感染症に抵抗性を示すと考えられる。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
豆腐の健康効果
・豆腐に含まれるたんぱく質は、血液中のコレステロールを低下させ、さらにその成分の一つが血圧上昇を抑制すると言われている。 ・トリプシンインヒビタ(トリプシン阻害因子)は、インスリンの分泌を盛んにし治療や予防に役立つのではないかといわれている。 ・吸収に難点のあるカルシウムが豆腐の良質なたんぱく質によって吸収が格段と促進されるといわれている。 ※参考資料『近藤和雄,佐竹元吉(2014)サプリメント・機能性食品の科学 日刊工業新聞社』
納豆の健康効果
・ネバネバ物質のムチンは、糖質にからみついて糖質の吸収を遅らせる働きをしてくれる。 ・ナットウキナーゼという成分には、血栓を溶かして血液をサラサラにする働きがある。 ・スペルミジンを多く含む ※スペルミジン 細胞内にたまった余分なものをお掃除してくれるオートファジーという機能を促進する働きを持っていて、細胞の若さが保たれる? ※参考資料『坪田一男(2011)人は誰でも「元気な100歳」になれる 小学館』
味噌、味噌汁の健康効果
●味噌と活性酸素 ・味噌摂取時には心筋での活性酸素産生能は抑制され、心臓の保護と関係があることが分かっている。 ・酸化ストレスを抑制する成分がある。発酵食としての味噌の効用と思われる。 ・味噌は強い活性酸素を消去する効果がある。分子量が3000Da(ダルトン)以下のところに非常に強いSODを高める作用を持つ物質が存在することが判明しているが、味噌にはこのSODを維持する作用がある。 ●味噌とガン抑制 ・インビトロ(試験管内)では、味噌はガン抑制が非常に強いという事が明確に分かっている。 ・疫学調査で、味噌汁摂取が多い人ほど乳がん(国立循環器病研究センターのデータ)や胃がんの罹患患者が少ないことが判明している。臨床の研究でも確認されている。 ・詳しくは分かっていないが細胞増殖を抑える作用がある。 ●味噌の変色 ・味噌は置いておくと熟成が進み、色が変わって黒くなっていく。 ・この黒い色は、アミノ酸と糖が結合しておきるメイラード反応によるもの。メイラード反応によってできたメラノイジンという物質の色。 ○メラノイジン ・抗酸化作用、血圧、血糖を下げる、整腸作用がある。 ・酸化ストレスを取り除くことによって還元作用が働いて褐変していくことは悪いことではないと分かってきた。 ●味噌汁の減塩効果 ・味噌汁を飲んでいると、食塩をたくさん摂取しても腎臓から食塩が排泄されやすくなり、血圧があまり上がらないということが分かった。 ・動物実験で味噌の中に腎臓から食塩を排泄しやすくなるような成分があることが分かってきた。 ・食塩感受性ラットを使った実験で、味噌汁には約30%の減塩効果があった。 ・味噌汁の成分の中に血圧を下げる成分と、腎臓から尿に食塩を出しやすくする成分があることが判明してきた。 ○ニコチアナミン ・味噌の中の血圧を下げる成分。 ・ラットに飲ませると血圧が下がる。 ○ドーパミン ・味噌には食塩摂取で交感神経が高まるのを抑える成分が含まれている。 一方、交感神経のうちのドーパミン(腎臓でのナトリウム排泄を促進する物質)がたくさん作られるようになる。このドーパミンの作用で食塩感受性が弱まっているということも考えられる。 ●味噌汁1~3杯は血圧に影響しない ・平成27年発表、人間ドックに来る人を対象に5年間追跡調査。 ・高血圧や糖尿病の治療をしていない人達を対象に味噌汁を飲んでもらったところ、1杯でも3杯でもまったく血圧には影響を与えなかった。 →食塩抵抗性があると思われる。 ・味噌汁には1杯1.5g程度の食塩が含まれているが、味噌の中には大豆や麹から来る成分があり、それが血圧を下げる効果がある。食塩が1.5g含まれているからといってそのまま血圧増加につながるわけではない。 ・5年間に味噌汁摂取量は平均1日0.8杯から1.2杯へと増加しているが血圧は変化しなかった。食塩摂取量は9.1gから10.0gへと増加していたが血圧は変化なし。 ※食塩感受性と食塩抵抗性については以下の記事参照。 高血圧と食塩、食事、肥満との関連の"食塩感受性と食塩抵抗性" ●味噌汁と整腸作用、腸内細菌 ○大妻女子大学の川口美喜子氏の研究 ・消化機能の問題がある入院患者(経管経腸栄養法を行っている)に対する調査 ・味噌汁を飲んでいる群では、栄養状態が良くなり入院日数を少なくするのに有効であったという報告がある。 ・腸内細菌を整えて、消化吸収を良くする効果があるものと考えられる。 ●味噌汁と骨粗しょう症 ・味噌汁を飲んでいると骨密度が増加するという研究報告がある。 イソフラボンの作用で骨のタンパク質が増えて骨密度が増加? 活性酸素によって骨が破壊されるので、味噌の抗酸化作用の作用の影響かもしれない。 ●味噌汁とコレステロール、LDL低下 ・大豆タンパクはイソフラボンと共同し、腸管からのコレステロールの吸収を抑える。また、血液中のLDLを低下させる。 ・味噌汁にはレシチンが含まれていて、コレステロール値を下げてくれる効果がある。 ●味噌汁の具の作用 ・海藻には食塩による血圧上昇を抑制する食物繊維が豊富に含まれ、食塩を腎臓から出しやすくするカリウムもたくさんある。 ・緑黄色野菜や淡色野菜、ジャガイモなどは血圧降下作用があることが分かっている。 ・味噌汁に具材を入れて煮詰めると、重要な成分が味噌汁に移るので、汁を捨てるのはよくない。 ※参考資料『上原誉志夫(2015)高血圧ならみそ汁を飲みなさい! 実業之日本社』
エクオールの健康効果
・イソフラボン代謝産物の一種エクオール。 ・イソフラボンの多様な機能の多くは、イソフラボン本体ではなく、その代謝によって生じる物質が担っている。 ・エクオールを体内で産生する体質の人は疾病にかかりにくく、エクオールは疾病にかかりやすいかどうかのバイオマーカー(生体指標)になるとされている。 ・エクオール産生は、腸内細菌によって決まる。日本人では半数、欧米人の場合は20~30%しか持っていない。 ・エクオールを産生可能な人に限ると、乳がん、前立腺がんの罹患率低減、更年期障害の軽減、骨量減少の抑制作用が強いことが統計的にも確認されている。 ・エクオール産生に関わる腸内細菌の改善には、フラクトオリゴ糖が役立つとされている。 イソフラボンとともにラットに投与したところ、24時間後のエクオール濃度がフラクトオリゴ糖を投与しなかったラットに比べ倍になった。 他にも食物繊維の一種であるレジスタントスターチは、小腸まで消化されず大腸まで届き、腸内細菌に良い影響を与える。 トウモロコシから人工的に作られた食物繊維ポリデキストロースや、主にビートから抽出して生成されキャベツやブロッコリーにも含まれるオリゴ糖の一種ラフィノースなども、大腸まで届いてマウスのエクオール産生を促進する腸内環境を作り出す。 ※参考資料『阿部尚樹,上原万里子,中沢彰吾(2015)食をめぐるほんとうの話 講談社』
○エクオールの効果 ・更年期障害の症状である顔のほてり(ホットフラッシュ)や、骨密度の低下などを防ぐ。 ・肌の若返り ・エクオールは女性ホルモンと似た構造を持っている。女性ホルモンは、女性の体を若々しく健康に保つ働きをしている。エクオールは、更年期になって分泌量が急激に減少してしまう女性ホルモンの代わりとして働き、それを補ってくれる。 ・エクオールは大豆イソフラボンの仲間だが、大豆そのものには含まれていない。大豆の中に含まれるイソフラボンを、腸内細菌が変化させることで生まれる。 ・エクオールは、大豆の中に含まれているイソフラボンよりも、高い効果を持っていることが分かってきた。 ○藤田保健衛生大学、松永佳世子の研究 ・腸内細菌が作ったエクオールが女性の肌にどのような影響を与えるかを無作為化二重盲検で調べた。 ・50~60代の90人の女性(エクオールを作る腸内細菌を持っていない人)にエクオールが入った錠剤を飲む人と偽薬を与えた人に分け、3ヶ月間、目尻のシワを追跡した。 ・その結果、偽薬を飲んだ人はだんだんシワが深くなっていったのに対し、エクオールを飲んだ人は、シワが浅くなっていった。 ・もともとエクオールを作る腸内細菌を持っている人は、すでに肌に効果が出ているはずなので、飲む必要はない。ただ、エクオールを作ってくれる腸内細菌を持っていても、その細菌が好物のエサをあげなければ元気がなくなってしまう。 ○エクオールを作る腸内細菌 ・誰もが持っているわけではなく、調査によると日本人のおよそ2人に1人が持っている。 ・エクオールを作れるかどうかは、尿検査をすると分かる。 ・日本国内でも若い世代ではエクオールを作る腸内細菌を持つ人の割合が減っている。 ○前立腺がん ・アメリカの前立腺がん発症率は日本の10倍、ヨーロッパ各国も日本の数倍もある。原因の一つとして、大豆の摂取量の違いだと考えられている。 大豆イソフラボンは前立腺がんを引き起こす男性ホルモンの作用を疎外する等して、がんを予防する効果が報告されている。 ある研究では、大豆の摂取によって前立腺がんのリスクが26%減少すると報告されている。 ・日本と韓国で行われた疫学調査によると、前立腺がん患者では、エクオールを作る腸内細菌を持つ人の割合が有意に低いことが示されている。 →エクオールを作れない人は前立腺がんになりやすい傾向にある。 ○乳がん ・大豆イソフラボンが、"乳がんを予防する"という研究と"効果がない"という研究、逆に"乳がんを増やすのではないか"という矛盾した研究もあった。 ・最近の研究では少なくともアジア人の女性では、大豆イソフラボンは乳がんを予防する側に働いていることが分かってきた。 ・結果に違いが出る理由として、エクオールを作る菌がいるかどうかが関係していると考えられている。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●イソフラボンと脳梗塞・心筋梗塞発症との関連について ・アンケート調査から、大豆、豆類(大豆以外)、イソフラボン摂取量のデータを得て、その後約11年の追跡期間中に発症した脳梗塞・心筋梗塞との関連を調べた。 ○大豆の摂取頻度との関連 ・女性では、大豆を週に5日以上摂取するグループで、週に0-2日摂取するグループに比べて、脳梗塞のリスクが0.64倍、心筋梗塞のリスクが0.55倍、循環器疾患による死亡リスクが0.31倍と低いことがわかった。 同様の弱い傾向が、味噌汁、インゲンなどその他の豆類の摂取量と、循環器疾患による死亡リスクとの間に見られた。 ○イソフラボン摂取量との関連 ・女性で摂取量が最も多いグループの脳梗塞のリスクは、最も少ないグループの0.35倍、心筋梗塞のリスクが0.37倍、両方をあわせると0.39倍だった。 また、循環器疾患による死亡のリスクも、摂取量のもっとも多いグループと次に多いグループの合計で、最も少ないグループの0.17倍と低くなっていた。 ・調査開始時に閉経前か閉経後かで女性を分けて調べると、特に閉経後の女性で、イソフラボン摂取量が多いほど脳梗塞、心筋梗塞リスクが低いという関連が見られた。 ○推察 ・食事からのイソフラボンの摂取が、日本人女性、特に閉経後の女性で、脳梗塞と心筋梗塞の発症および循環器疾患による死亡リスクを低減させることが示された。 一方、男性では同様の効果は見られなかった。 ・イソフラボンには血中コレステロールや血圧、血糖耐性などを改善する効果がこれまでの研究から認められている。 また、イソフラボンだけでなく、大豆に含まれるビタミンEやn-3脂肪酸にも、心筋梗塞や脳梗塞に対する予防効果が知られている。 ・イソフラボンの構造は心筋梗塞に予防的である女性ホルモン(エストロゲン)と類似しているため、特に閉経のために血中エストロゲン濃度が低下した女性で、食事からのイソフラボン摂取の予防効果がはっきり示されたものと考えられる。
●発酵性大豆製品の摂取量と高値血圧の発症との関連について ・4,165人を対象に、大豆製品の摂取量と5年後の高値血圧発症との関連を調べた。 ○結果 ・発酵性大豆製品の摂取量が多いグループで高値血圧発症のリスクの低下がみられた。 また、発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量についても発酵性大豆製品と同様の関連がみられた。 ・大豆製品及び大豆製品からのイソフラボンの摂取量と高値血圧の発症との間には関連がみられなかった。 ○推察 ・これまでの研究において、大豆に含まれるイソフラボンには平滑筋の増殖を抑える作用があり、血管壁の肥厚を抑制することが報告されている。 ・発酵性大豆製品には、イソフラボンアグリコンが多く含まれており、さらに、細胞の増殖や分化に関係するポリアミンが多く含まれることが報告されている。 これらのことが、発酵性大豆製品及び発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量が高値血圧の発症リスクの低下と関連がある可能性が考えられる。
●大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病との関連について ・イソフラボンは、動物実験で耐糖能を改善することや、それにより抗糖尿病作用をもつことが示唆されている。 ヒトを対象とした研究では、大豆を含む豆類の摂取が耐糖能や糖尿病のリスクの低下と関連していること、イソフラボン摂取の多い人は低い人に比べ、空腹時および食後のインスリン濃度が低いことが報告されている。 この研究では、大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病発症との関連について検討した。 ○全体の結果 ・男女ともに大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病発症との有意な関連はみられなかったが、女性においてこれらの摂取が最も低い群に比べ多い群で糖尿病発症のリスクが若干低くなった。 ○肥満、閉経との関連 ・女性をBMIが25kg/m2未満(非肥満)と25kg/m2以上(肥満)、閉経前と閉経後の群に分け調べたところ、肥満女性と閉経後女性においてのみ、大豆製品・イソフラボン摂取が最も低い群に比べ多い群で、糖尿病発症のリスクが低くなった。 一方、非肥満女性、閉経前女性ではこのような関連はみられなかった。 ・男性では、喫煙習慣や肥満の有無で分けても関連はみられなかった。 ○推察 ・肥満や閉経後女性で糖尿病のリスクが低下したことについて、はっきりとした理由はわかっていない。 実験研究で、大豆製品やイソフラボンがインスリン感受性(インスリンの効きやすさ)を改善することがわかっているので、インスリン感受性が低下している肥満者に予防的に働きやすいのかもしれない。 ・女性ホルモン(エストロゲン)には糖の代謝や脂肪細胞の調節、脂質生成の阻害などの役割があるが、それと構造が似ているイソフラボンにも弱いながら同様の作用があると考えられている。閉経後女性でのリスク低下にはそのようなメカニズムが関与している可能性がある。
●大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について ・大豆製品の摂取量、それから計算されるイソフラボンの摂取量と女性乳がん発生率との関係を調べた。 ○結果 ・1日3杯以上みそ汁を飲む人達で乳がんの発生率が0.6倍となった。 "大豆、豆腐、油揚、納豆"では、はっきりとした関連が見られなかったが、"みそ汁"ではたくさん飲めば飲むほど乳がんになりにくい傾向が見られた。 ・アンケートの"みそ汁"、"大豆、豆腐、油揚、納豆"の項目から大豆イソフラボンの摂取量を計算し、乳がんとの関連を調べると、イソフラボンをあまり食べない人に比べ、たくさん食べる人のほうが乳がんになりにくいことがわかった。 ・アンケート回答時に閉経していたか否かで分けてイソフラボンとの関連を調べると、閉経後の人達に限ると、イソフラボンをたくさん食べれば食べるほど、乳がんなりにくい傾向がより顕著に見られた。 ○推察 ・今回の調査では、"みそ汁"と"イソフラボン"は、食べれば食べるほど乳がんになりにくいという関連が見られたが、"大豆、豆腐、油揚、納豆"との間では関連がはっきり見られなかった。 しかし、これからみそ汁だけが乳がん発生率と関連があると考えるのは早急。 ・女性ホルモンは乳がんの発生を促進することが知られているが、女性ホルモンと化学構造が似ているイソフラボンは女性ホルモンを邪魔することによって乳がんを予防する効果があるのではないかと考えられている。実際、動物実験などではその予防効果が示されていた。 従って、乳がん予防効果がイソフラボンを介したものだとすると、みそ汁だけでなく、イソフラボンを含む大豆製品一般に、その予防効果があると考えるのが自然。
血中イソフラボン濃度と乳がん罹患との関係について ・保存血液を用いて血漿中イソフラボン(ゲニステインとダイゼイン)濃度を測定し、それぞれ値によって最も低いから最も高いまでの4つのグループに分け、乳がんリスクを比較した。 ○全体の結果 ・ゲニステイン濃度の最も高いグループの乳がんリスクは、最も低いグループの約1/3(0.34倍)だった。食事からの摂取量と血清濃度を比較したデータを用いて1日あたりの摂取量に換算すると、353.9ng/mLはゲニステインで28.5mg、イソフラボンでは46.5mgに相当する。 ・ダイゼインでは同様の関連は見られなかった。 ○閉経の影響 ・閉経前の女性では、ゲニステイン濃度の最も高いグループの乳がんリスクは最も低いグループの0.14倍だった。 ・閉経後の女性では0.36倍と低いものの、統計的に有意というわけではなかった。 ○ゲニステインで効果が見られ、ダイゼインでは見られなかった理由は? ・ゲニステインはダイゼインよりもエストロゲン受容体への結合力が強く、血中濃度が高く、半減期が長いことから、効果がよりはっきり現れたと考えられる。 ・ダイゼインは腸内細菌によって作用のより強いイコールに代謝されるが、その代謝は人によって異なり、実際に代謝できる人は30から50%程度とされている。 したがってダイゼイン濃度との関連では、イコールの影響で関連が見えにくくなっていたと考えられる。
●大豆製品・イソフラボン摂取量と前立腺がんとの関連について ・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、大豆製品・イソフラボン摂取量によるグループ分けを行い、その後に発生した前立腺がんリスクとの関連を調べた。 ○前立腺がん全体の結果 ・いずれについても、前立腺がんリスクとの関連がみられなかった。 ○前立腺内にとどまる限局がんの結果 ・大豆製品、ゲニステイン、ダイゼインの摂取量が多ければ多いほどが低下するという結果がみられた。 ○前立腺を超えて広がる進行がんの結果 ・ゲニステイン、ダイゼイン、大豆製品とは関連なかったが、みそ汁でリスクの上昇がみられた。 ○イソフラボンと前立腺がんとの関係 ・イソフラボンには、エストロゲン活性があり、血中テストステロンレベルを下げたり、発がんに関わるチロシンキナーゼの作用や血管新生を阻害したりすることなどにより、前立腺がんを予防するということが、多くの実験研究で報告されている。 ○限局性前立腺がん イソフラボンの摂取量が多いグループで限局性前立腺がんのリスクだけが低くなった。イソフラボンは"ラテントがん"から"臨床がん"に至るまでの期間を遅らせる作用があると考えられる。 ※"ラテントがん"、"臨床がん" 前立腺がんには、臨床的に前立腺がんと診断された"臨床がん"と、死亡後、剖検によって見つかった"ラテントがん"があり、"ラテントがん"から"臨床がん"に進行すると考えられている。 ○進行がん ・進行がんとの関連は、ゲニステイン、ダイゼイン、大豆製品ではみられなかった。 このことから、限局がんと進行がんでは前立腺がんの性質が異なる可能性が考えられる。 また、イソフラボンの予防効果のメカニズムの一つとして、腫瘍組織のエストロゲン受容体β(ER-β)を介した作用が考えられている。 進行がんではER-βが少なくなると報告されているので、イソフラボンによる予防効果が作用しなくなることが考えられる。 ○みそ汁 ・進行性前立腺がんのリスクは、みそ汁の摂取量が多いグループで高くなった。今回の研究では進行がんの人数が少ないので、この結果は偶然という可能性が考えられる。
●イソフラボン摂取と肝がんとの関連について ・アンケートから計算されたイソフラボン・大豆製品摂取量によって、3つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで肝がんのリスクが何倍になるかを調べた。 ○結果 ・男性では、イソフラボン・大豆摂取量と肝がんの発生リスクに関連はみられなかったが、女性では、イソフラボン摂取量の最も多いグループの肝がんリスクは、ゲニステインで約3倍、ダイゼインで約4倍だった。統計学的有意ではなかったが、大豆製品も約2倍にリスクがあがった。 ○推察 ・肝がんの発生率は女性の方が男性より少ないことから、女性ホルモン(エストロゲン)が肝がんに予防的に作用する可能性が考えられている。動物実験や疫学研究でも、その仮説が支持されている。 ・イソフラボンはその構造がエストロゲンに似ているが、その働きはもともと体内に存在するエストロゲンの量によって異なり、臓器によってもさまざま。 肝がんの場合には、もともとエストロゲンレベルが低い男性ではエストロゲン作用を、逆にエストロゲンレベルが高い女性ではエストロゲンを妨げる作用(抗エストロゲン作用)をするのではないかと推測される。 したがって、イソフラボンを多く摂取すると、女性では肝がんに予防的なエストロゲン作用が妨げられることで、リスクが高くなる可能性が考えられる。 ○男性には影響が出なかった理由 ・男性ホルモン(テストステロン)の影響が考えられる。血中テストステロンが高いと肝がんリスクが高くなるという報告があるので、男性ではイソフラボンのエストロゲン作用がテストステロンの作用には及ばなかったのかもしれない。
●イソフラボン摂取と肺がんとの関連について ・肺がんの最大の原因は喫煙だが、女性では生殖関連要因やホルモン剤使用との関連が報告されている。イソフラボンは化学構造が女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、肺がんの発生についても影響を与えるかもしれない。 イソフラボン摂取と肺がんとの関連についての検討を行った。 ○結果 ・イソフラボンの摂取量が多い非喫煙男性で、肺がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示された。 また、女性でも、統計学的に有意な結果ではなかったものの、同様の可能性が示された。 ○推察 ・肺がん細胞を用いた実験や動物実験などでイソフラボンが予防的に働くことが報告されているものの、そのメカニズムについては今のところよく分かっていない。 イソフラボンが女性ホルモンの働きに影響を与えている可能性もあるし、女性ホルモンとは関係のない別のメカニズムで作用している可能性も考えられる。 ・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。 EGFR遺伝子変異のみられる肺がん細胞で、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。
血中イソフラボン濃度と肺がん罹患との関連について ・喫煙経験者が少ない女性で血漿中イソフラボン濃度と肺がんとの関連についての検討をおこなった。 保存血液を用いて血漿中イソフラボン類(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、イコール)濃度を測定し、それぞれの濃度とイソフラボン類濃度を足し合わせた総イソフラボン濃度について最も低いグループ(Q1)から最も高いグループ(Q5)までの5つのグループに分け、肺がんリスクを比較した。 ○結果 ・総イソフラボン濃度が最も低いグループに比べて、よりゲニステイン濃度が高い他の4グループで肺がんリスクが低下していた。 ・ダイゼイン、イコールなどその他のイソフラボンとのはっきりとした関連はみられなかった。総イソフラボンについては、ゲニステインと同じような関連性だった。 ○イソフラボンが肺がんに与える影響 ・ゲニステインはダイゼインよりもエストロゲン受容体への結合力が強いことが報告されており、イソフラボンがエストロゲンの働きに影響を与えている可能性と矛盾がない様にも考えられる。 しかし、ダイゼインよりエストロゲン作用が強いといわれているイコールに関しては関連性が見られなかった。 ・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。 EGFR遺伝子変異のみられる肺がんで、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。今後、イソフラボンと肺がんとの関わりを、EGFR遺伝子変異の状況も含めて探求することが、メカニズムの解明にも貢献することになると思われる。
●イソフラボン摂取と胃がんとの関連について ・胃がんの罹患率は女性の方が男性の1/2-1/3程度と低いことから、エストロゲンの胃がんへの関与が推測されている。 一方、イソフラボンは化学構造がエストロゲンと類似していることから、エストロゲン様に作用し胃がんの発生に影響を与える可能性が考えられている。 これまでに大豆製品と胃がんとの関連が検討されてきたが、それらの結果は一致しておらず、予防的に働くという報告もあれば、関連がないというものや、リスクをあげるという報告もある。これは、大豆製品の発酵状態でリスクが異なっている可能性や、加工で用いる食塩や、一緒に摂ることが多い野菜などの影響を除外しきれていないことによる可能性が考えられる。 この研究では、大豆製品ではなく、イソフラボンそのものに着目し、イソフラボン摂取と胃がんとの関連について検討している。 ○結果 ・全般的には、男女ともにイソフラボン摂取と胃がんとの関連はみられなかった。 但し、女性において、外因性ホルモン剤使用歴で層別したところ、外因性ホルモン剤使用歴なしの女性では、女性全体と同様に関連は認められなかったが、使用歴ありの女性(女性全体の14%)では、イソフラボン摂取量が多くなるほど、胃がんリスクは高くなった。
ネットニュースによる関連情報
●大豆、イソフラボンサプリメントと乳がんへの影響 ・大豆粉食を食べたマウスでは、腫瘍抑制遺伝子が高度に発現しており、がん遺伝子の発現レベルは低かった。一方、精製された大豆イソフラボンは、がん細胞の増殖を促進するがん遺伝子を刺激した。
●豆類は低GI、悪玉コレステロールを減らす? ・豆類は低GIであり、ゆっくりと消化される。 ・豆類を取り入れた食事は、通常食よりも3割ほど満腹感を感じやすく、悪玉コレステロールを有意に減らすというメリットがある。 ・系統的レビューとメタアナリシスでは、1日平均130gの豆類を摂っていると、悪玉コレステロールを5%減らし心血管疾患のリスクを低下させることができる、としている。
●納豆をよく食べると脳卒中のリスクが低下? ・納豆を最も多く食べていたグループ(1日あたり約7g)の脳卒中による死亡リスクは、納豆をほとんど食べないグループより32%低かった。心筋梗塞などで亡くなるリスクも下がる傾向が見られた。 ・納豆に含まれる"ナットウキナーゼ"という酵素には血栓を防ぐ作用があることで知られ、この酵素が関わっている可能性がある。