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ADHDの特徴、原因
●ADHDの特徴、原因 ・態度の問題ではないことがはっきりしている。 ○遺伝 ・2000組近いオーストラリアの一卵性双生児を調べたところ、片方がADHDだと91%の確率でもう一方もADHDだった。 →遺伝が原因の一つ。 ○生物学的要因 ・アメリカ国立精神衛生研究所のアラン・ザメトキンらの研究で、PETで成人の脳の活動を測定し、注意テストを受けているとき、ADHDの人の脳はそうでない人の脳と働きが違うことを示した。 ADHDグループは対照グループと比べて脳の働きが10%低く、最も著しい違いは前頭前野に認められた。そこは行動を調整していて、運動によるプラス効果が現れやすい部位でもある。 ・ADHDの子どもの約40%は成長して治り、大人になっても治らない場合でも、他動性の症状は緩和されることが多いとしている。 衝動を抑える役割を果たす前頭前野が完全に発達するのが20歳代前半であることは偶然ではない。 ●ADHDの薬 ・薬理学的な研究により、ADHDの薬は小脳と大脳基底核の線条体の活動を正常化することが分かっていて、この二つの部位が運動だけでなく注意力にとっても大切であることが推測される。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
●DSM-Ⅳ(精神障害の診断と統計マニュアル第4版)とADHD ・DSM-Ⅳで、ADHDの定義の語句を少し変えて、定義が女子に当てはまりやすいものになるようにした。 女児は注意散漫な"ぼんやり頭"になりやすく、男児に比べて多動になりにくいという点を考慮したため。 ・DSM-Ⅳ作成者は、有病率の上昇は15%にとどまると予測していたが、製薬会社のマーケティングのせいか、有病率は3倍になった。 ・ADHDの有病率が上昇したのは、診断などされないほうがいい子どもが"偽陽性"を示して誤診されていることが大きな理由。 ・不必要な薬物療法は、不眠、食欲減退、短気、心拍の異常、様々な精神科の症状などの有害な副作用を引き起こしかねない。 ※参考資料『アレン・フランセス(2013)を救え 講談社』
●ADHDの原因 ・ADHDの原因は、ドーパミンを筆頭にセロトニンやエンドルフィンなど、報酬系の快楽に関与する神経伝達物質の不足であると考えられている。 ・注意障害は特定の部位に障害があるからではなく、系全体の調和が狂うことによって生じる。 多岐にわたる部位が一丸となって機能する注意系では、一箇所に問題が起きると、その影響はすみずみにまでおよび、系全体に支障を来たす。 ※参考資料『ジョン・J.レイティ(2002)脳のはたらきのすべてがわかる本 角川書店』
脳の注意システムとADHD
○脳の注意システムと関係する部位 ・注意システムは、脳幹にある覚醒中枢の青斑核を起点として四方に広がる双方向のネットワークで、脳全体に信号を送って目覚めさせ、注意を喚起している。 このネットワークには報酬中枢、辺縁系、大脳皮質、小脳などが関わっている。 ・注意システムの回路を調節しているのは、ノルアドレナリンとドーパミン。ADHDの薬はこの二つの化学物質をターゲットにしている。 ・ADHDの人は、上記神経伝達物質のどちらかか、注意システムに関わる部位のどこかがうまく機能していないからで、症状が千差万別なのは、そのように原因がいくつもあるため。 ○青斑核 ・青斑核は、睡眠のオンオフを切り替える役割を担っていて、概日リズムと密接に結びついている。 →ADHDの人に共通する症状の一つに睡眠パターンの異常があるのはこの影響かもしれない。 ○扁桃体 ・青斑核から延びているノルアドレナリンを運ぶ軸索は、腹側被蓋領域(VTA)から延びているドーパミンを運ぶ軸索とともに、扁桃体のニューロンに結合している。 ・ADHDに関して言えば、扁桃体はものごのと"注目度"を決めている。 ・ADHD患者がかんしゃくを起こしたり、やみくもに攻撃的になったりするのは、扁桃体による調整がうまくいないため。 ○側坐核 ・ドーパミンも側坐核、いわゆる報酬中枢に信号を運んでいる。 ・ここが十分に活性化されないと、何に注目すべきか、どれを優先すべきかを前頭前野に伝える事ができない。優先順位がはっきりしていればこそ、やる気は出てくる。 →ADHDの人は、長い目で見て価値がある地味な作業よりも、すぐに満足得られる作業を好む。 ○前頭前野 ・一般に注意不足とは、重要でない刺激への関心を抑制できないことだと考えてよい。 ・前頭前野は、作動記憶の拠点でもあり、報酬が得られるまでの間、注意力を持続させ、同時に複数の問題をまとめて保持できる。 作動記憶が損なわれると長期的な目標に向けての作業ができなくなる。それは、作業、熟考、加工、順序付け、計画、練習、結果の予測ができるほど長く考えを心にとどめておけないから。 →ADHDの人が時間の管理が苦手で遅れがちなのも作動記憶の欠損のせい。 ○小脳 ・小脳は、動きのコントロール、精錬などに関わっている。小脳がリズムを調整しているのは、動きだけではなく、脳のシステムのいくつかも調整し、そこが新しい情報をスムーズに流し、管理できるようにしている。 ・ADHDの人は、小脳の一部が小さく、正しく機能していない。 →注意力が途切れがちなのはこの影響かもしれない。 ○大脳基底核 ・小脳は前頭前野と運動皮質に情報を送っているが、その途中で大脳基底核を通る。 ・大脳基底核は、一種の自動変速機で、大脳皮質の要求に応じて、注意力に向ける資源を配分している。 ドーパミンは、自動変速機のオイルのようなもので、足りないと注意を簡単にシフトできなかったり、つねに高速ギアに入ったままになったりする。 ・ADHDに使われる薬のリタリンは、この部位に結合する。 ・ADHDの子どもの脳をスキャンしてみると、この部位が普通とは違っている。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
運動の効果
・運動と注意力は、脳内で同じ回路を共有していて、それゆえに、武術のような活動はADHDの子供に効果があるのだろう。 ←新しい動きを覚えるために、彼らは集中しなければならず、その際、運動システムと注意システムの両方が動員され、鍛えられる。 ○ドーパミン、ノルアドレナリン ・ドーパミンとノルアドレナリンが注意システムの調整において主導的な役割を果たしていることを考えると、運動によってADHDの症状が緩和されるのは、この二つの神経伝達物質が増えるためだと言える。 さらに、定期的に運動すると、脳の特定の部位に新しい受容体が生まれ、ドーパミンとノルアドレナリンのベースラインを上げることができる。 ○青斑核 ・運動は、脳幹の覚醒中枢においてノルアドレナリンのバランスを整える。 ・習慣的に運動をすると、青斑核の調子がよくなるらしい。 ○大脳基底核 ・ラットに運動をさせると、大脳基底核に相当する部位のドーパミンの値が上昇する。 ○小脳 ・ある研究で、ドーパミンとノルアドレナリンを増やすADHDの薬を服用すると、小脳が落ち着きを取り戻すことが分かった。 ・運動もノルアドレナリンの値を上昇させる。それも動きが複雑であればあるほどよい。 ○前頭前野 ・イェール大学のエイミー・アーンステンによると、ドーパミンとノルアドレナリンは、前頭前野の"信号雑音比"を向上させているという。 ノルアドレナリンがシナプスを通る信号の質を高め、一方ドーパミンは、細胞が不要な信号を受け取らないようにしている。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
ネットニュースによる関連情報
●ピレスロイド系殺虫剤がADHDのリスクを高める? ・ピレスロイド(除虫菊に含まれる有効成分の総称)に曝露したことを意味する尿中指標である3-PBAが検出された男子は、検出されなかった男子に比べて、ADHDを発症するリスクが3倍高かった。
●運動によってADHDの症状が緩和? ・ADHD症状が重い32人の若年成人男性を対象とし、ある1日に運動(20分間、中程度の強度でエアロバイクをこぐ)を、また比較のため別の日には休息(20分間、座位で休息した状態)をしてもらった。その結果、対象者が"課題をしたい"と感じたのは、運動後のみであった。対象者らは、運動後に、混乱する気持ちと疲労感が少なく、やる気を感じたという。
●ピレスロイド殺虫剤によってADHDのリスク増加? ・尿中のピレスロイド殺虫剤の代謝産物レベルが高い子どもは、ADHDと診断される可能性が倍以上高かった。