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メタボリックシンドロームの診断基準
●メタボリックシンドロームの診断基準 ○必須項目 ・ウエスト周囲径(内臓脂肪蓄積):男性:85cm以上、女性:90cm以上 ○選択項目(3項目のうち2項目以上) ・中性脂肪値:150mg/dL、HDLコレステロール値:40mg/dL未満 ・最大血圧:130mmHg以上、最小血圧:85mmHg以上 ・空腹時血糖値:110mg/dL ●ウエスト周囲径 男性 85cm以上、女性 90cm以上の根拠 ○内臓脂肪面積が100cm2を超えると、高血糖・脂質異常・高血圧の合併率が高くなる ・日本肥満学会では1200人のCT検査を行って内臓脂肪を測定し、その人たちが高血糖・脂質異常症(高脂血症)・高血圧をどれだけ合併しているかを調べた。 その結果内臓脂肪が100cm2を超えると、100cm2未満の場合と比較して、合併する疾患数が50%以上高くなることから、これを内臓脂肪蓄積の基準とした。 ○内臓脂肪面積の値を知るには? ・内臓脂肪を正確に調べるには、CTスキャンによる検査が必要だが、費用や放射線などの課題からCT検査を一般健診に使用することは困難。 →BMI、ウエスト周囲径、ウエスト/ヒップ比、ウエスト/身長比などについて検討した結果、男女ともにウエスト周囲径がCTで調べた内臓脂肪面積とよく相関していることがわかり、内臓脂肪の測定にウエスト周囲径を用いることになった。 ・そしてCTによる内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲径は男性84.4cm/女性92.5cmという結果が出たことから、男性85cm/女性90cmを診断基準とした。 ○男女の違い ・女性は男性に比べて皮下脂肪がたまりやすく、同じ量の内臓脂肪がたまっていても皮下脂肪の分だけウエスト周囲径が大きくなるため。 ・WHOの基準では、男性84cm/女性80cmとしていて、諸外国の基準でも男性が大きくなっているが、その理由は日本のみがCTによる内臓脂肪面積からウエスト周囲径を決めたのに対し、アメリカではBMI30に相当するウエスト周囲径、ヨーロッパではウェスト/ヒップ比を用い、これらは内臓脂肪と無関係なため。 ※参考サイト メタボリックシンドローム | e-ヘルスネット 情報提供
●ウエスト、ウエスト/身長比、ウエスト/ヒップ比、BMIのうち、どれが指標として適切か?
●身体指標とメタボリックシンドロームとの関連について ・各種身体指標(ウエスト、ウエスト/身長比、ウエスト/ヒップ比、BMI)とメタボリックシンドロームとの関連を調べた。 ・メタボリックシンドロームの診断基準のうちウエスト以外のもの(血糖値、血圧、中性脂肪値or HDL)のうち2つ以上を満たす場合を"リスク重積"と定義し、各種身体指標との関連を調べた。 ○結果 ・ウエストを5cm刻みにして、各ウエストの範囲で"リスク重積"の人の割合を調べると、ウエストが65cmをこえたところからほぼ直線的に増加する、という結果が得られた。また、この値を超えると特に増加する、という値(閾値)はなかった。 ・各種身体指標(ウエスト、ウエスト/ヒップ比、ウエスト/身長比、BMI)と"リスク重積"との関連を調べると、この4つの身体指標のなかではウエストが最もよく関連することがわかった。しかしこの4つの身体指標間の違いは統計的に意味のある差ではなかった。 ・現在の日本のメタボリックシンドロームの基準値(男性85cm以上、女性90cm以上)を用いた場合には、男性では"リスク重積"でない人のうち約40%を"リスク重積"としてしまうこと("空振り")、女性では"リスク重積"の人のうち約65%を"リスク重積"でないとしてしまうこと("見逃し")、がわかった。
メタボリックシンドロームとは?
・内臓脂肪蓄積があれば、糖尿病や高脂血症・高血圧などがおこりやすくなり、しかもこれらが重複すると、その数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まるという考え方。 ・高血圧、血糖値、脂質異常の危険因子はそれぞれ単独でも動脈硬化を促進すると考えられているが、それぞれの程度が低くても、これらの危険因子が重なれば、動脈硬化によって起こる心臓病や脳卒中の危険が高まることがわかっている。 ↓ 内臓脂肪蓄積に加えて、空腹時血糖や血清脂質(HDLコレステロールと中性脂肪)・血圧が一定以上の値を示している場合を"メタボリックシンドローム"として、取り上げるようになった。 ・メタボリックシンドロームは、血圧・血糖・脂質の値が治療を要するほど高値でなくても動脈硬化が進行しやすい状態。 →動脈硬化が進行していても、手遅れなるまで自覚症状はほとんどない。 →これらの値が異常になる前から生活改善を心がけて、動脈硬化の進行にブレーキをかけ、生活習慣病を未然に防ごうというのが基本的な考え方。 ※参考サイト メタボリックシンドローム | e-ヘルスネット 情報提供
メタボリックシンドロームのメカニズム
1)内臓脂肪の蓄積→遊離脂肪酸増加→脂質異常→動脈硬化 ●内臓脂肪の蓄積 ・食べすぎや運動不足でエネルギー余剰 →余ったエネルギーが脂肪に作り替えられる。 →脂肪はまず肝臓や腸管膜(小腸や大腸を支えている膜。ここにたまる脂肪が内臓脂肪)に蓄えられ、次に皮下脂肪に蓄えられる。 ●内臓脂肪の合成と分解 ・内臓脂肪は皮下脂肪にくらべ合成と分解がさかんで、栄養の余分があれば脂肪を合成してここに蓄え、不足すると分解して取り出して使用する。 ●内臓脂肪と脂質異常 ・内臓脂肪が分解して遊離脂肪酸が生じる →遊離脂肪酸が肝臓に取り込まれ、VLDLがたくさん作られる。 →VLDLには中性脂肪が積み込まれているので、血液中の中性脂肪が高い状態になる。 →VLDLは全身に中性脂肪を運んでいて、渡し終えるとLDLに変わる。たくさんあったVLDLがLDLに変わるので、LDLも多くなる。 →LDLは全身にコレステロールを運んでいて、渡し終えるとHDLに変わって、今度は余分になったコレステロールを回収する役目を果たす。 LDLが多すぎると全身のコレステロールが余ってしまうので、LDLがコレステロールを渡せずHDLに変われなくなる。HDLが減少。 →古くなったLDLは酸化されて動脈硬化を進める。 VLDLが配った中性脂肪が燃焼して生じたレムナントも、血管内皮に入り込んで動脈硬化を進める一因になる。 ※レムナント ・脂肪が不完全燃焼したときにできる燃えかすのようなもの。 ・内臓脂肪の蓄積に伴って血液中に増え、血管壁や赤血球に入りこみ、動脈硬化や血栓症のリスクを高める。 2)内臓脂肪の蓄積→アディポサイトカインの分泌異常→高血糖、高血圧→動脈硬化 ●内臓脂肪とアディポサイトカイン ○アディポサイトカイン ・脂肪細胞から産生・分泌されるさまざまな生理活性物質の総称。 ・脂肪細胞は、体の機能調節に重要な生理活性物質を活発に産生・分泌している人体最大の内分泌臓器でもある。 ・アディポサイトカインは脂肪細胞から分泌され、脂質代謝や糖代謝を円滑にする働きの生理活性物質をいう。 ・アディポサイトカインには、レプチン・アディポネクチン・TNFα・PAI-1・アンジオテンシノーゲンなどがある。 ○レプチン ・食欲を抑える働きをしていて、たくわえている脂肪が増加すると分泌が高まって食欲を低下させ、肥満を防いでいる。 ・脂肪がたまりすぎると、レプチンの分泌が過剰になっても満腹中枢が適切に反応しない状態となる(レプチン抵抗性)。 ※レプチンの詳細については以下の記事参照。 レプチン、アディポネクチン、グレリンの"内臓脂肪とレプチン、アディポネクチン"、"レプチンの作用"、"レプチン抵抗性" ○アディポネクチン ・傷ついた血管壁を修復する働きをしていて動脈硬化を予防するほか、インスリンの働きを高める作用、血圧を低下させる作用などがある。 ・内臓脂肪が増えると、アディポネクチンの分泌が減少し、動脈硬化を防ぐ働きが低下、インスリン抵抗性の状態を引きおこし、血糖を上昇させる。 ※アディポネクチンの詳細については以下の記事参照。 レプチン、アディポネクチン、グレリンの"内臓脂肪とレプチン、アディポネクチン"、"アディポネクチン" ○TNFα ・インスリンの働きを妨げる作用がある。 ・内臓脂肪が増えると分泌が高まり、インスリン抵抗性をもたらし、糖尿病を引き起こしたり悪化させる一因になる。 ○PAI-1(パイワン) ・内臓脂肪の増加とともに分泌が高まり、血栓ができるとそれを融解させるプラスミンの働きを妨げ、血栓を大きくし、血流をさえぎる状態をつくる。 ○アンジオテンシノーゲン ・血圧を上昇させる作用のアンジオテンシンの分泌を高める。 ・内臓脂肪がたまると分泌が増加して、血圧を上昇させ、高血圧を招く一因となる。 ●内臓脂肪の蓄積→アディポサイトカインの分泌異常→高血糖、脂質異常、高血圧 ①高血糖 内臓脂肪蓄積 →TNFα増加、アディポネクチン減少 →インスリン抵抗性 →高血糖 ②高血圧 内臓脂肪蓄積 →アンジオテンシノーゲン →高血圧 ③血栓 内臓脂肪蓄積 →アディポネクチン減少、PAI-1増加 →血栓ができやすくなる。 3)夜遅い食事→レプチンの作用が低下 ・夜遅い食事が習慣化するとレプチンの作用が低下し、メタボリックシンドロームをまねく原因となる。夜食症候群 ※参考サイト メタボリックシンドローム | e-ヘルスネット 情報提供
メタボに関連する生活習慣病
●糖尿病 ○高血糖の状態が続くと・・・ ・高血糖の状態はインスリンの正常な分泌に影響し、高血圧症や脂質異常症を引き起こす。 ・膵臓はよりたくさんのインスリンを分泌 →臓器によってはインスリン過剰の状態となる →さまざまなトラブルの原因となる ・腎臓で排泄されるはずの塩分がうまく排泄されずに高血圧の原因となる ・肝臓では中性脂肪がつくられ、脂肪肝のもとになる。 ・血管では血栓の分解が妨げられて、動脈硬化が促進されてしまう。 ○肥満でない人も注意 ・肥満も糖尿病のリスクを高めるが、日本人ではやせていても糖尿病になりやすい人がいるので、肥満や過体重のない人でも注意が必要。 ●高血圧 ○原因 ・95%は原因を特定できない本態性高血圧。 ・遺伝的体質に塩分の過剰摂取・肥満・飲酒・その他の生活習慣要因などが複合的に重なっていると考えられ、メタボリックシンドロームとも関係が深い。 ○高血圧と動脈硬化 ・進行すると血管壁の弾力性やしなやかさが失われ、また血管壁に傷が生じて、その傷にLDLなどが沈着すると動脈硬化が促進される。 ○肥満ではない人も注意 ・日本人では、肥満を伴わない高血圧が半数以上を占める。 ○内臓脂肪と高血圧 ・若年~中年の男性を中心に肥満、特に内臓脂肪蓄積を伴う高血圧が増えている。 このような高血圧では、まず最小血圧が高くなりやすく、次第に最大血圧も高くなってくる。 ●高尿酸血症 ○高尿酸血症の概要 ・痛風の原因となる。 ・内臓脂肪の蓄積によってもたらされる病気。 ・高尿酸血症の患者数は、現代では500万人以上と言われており、その7割にメタボリックシンドロームの可能性があると言われている。 ○内臓脂肪蓄積と高尿酸血症 ・内臓脂肪が蓄積 →脂肪細胞からたくさんの遊離脂肪酸が分泌 →たくさんの遊離脂肪酸が血流によって肝臓に運ばれる →プリン体の代謝が過剰になり、老廃物である尿酸がたくさんつくられるようになる ○尿酸値と内臓脂肪の蓄積 ・尿酸値は、メタボリックシンドロームの検査項目には含まれていないが、内臓脂肪の蓄積状況を知るための目安とされている。 ・検査で尿酸値が高いことが分かった場合、血圧や脂質・血糖の値なども調べて、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクがないか調べることが肝心。 ※参考サイト メタボリックシンドローム | e-ヘルスネット 情報提供
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と死亡との関連について ・循環器病にもがんにもなっていなかった40~69歳の男女約3万4000人を約13年追跡し、総死亡、がん・循環器疾患死亡率との関連を調べた。 ・ウエスト周囲径の測定は行っていなかったので、ウエスト周囲径の代わりにBMI25以上を指標として使用している。 ○結果 ・虚血性心疾患死亡のハザード比が男性で1.9、女性で2.6と関連が認められた。 ・脳卒中死亡については、統計学的に有意な関連は認められなかった。 ・がん死亡との関連は認められなかった。