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※衰えと運動の効果については以下の記事参照。
運動と老化、長寿の関わり
ストレス、免疫
●胸腺の萎縮、免疫系の機能低下 ・胸腺はTリンパ球を産生し、感染症に対する抵抗や、アレルギーや関節リウマチを含む自己免疫疾患やがんの進展に対する防御に不可欠。 ・胸腺はホルモン(サイモシン、サイモポエチン、血清胸腺因子)を放出し、量が少ない場合、免疫力低下や易感染性(感染症に対する抵抗力の低下)につながる。 ・10代を過ぎると、胸腺は萎縮し始め、40歳で抜け殻、60歳までにはその姿さえ確認することは難しい。 ・免疫機能は思春期頃にピークに達し、その後は加齢とともに徐々に低下する。 この免疫系の機能低下は主にT細胞依存性の免疫系で起こり、一般には感染症にかかりやすくなるばかりか、自己免疫疾患の頻度も高くなる。 ・1992年廣川勝昱博士は、老化に関連する免疫機能の低下は、まずT細胞依存性免疫系で起こり、一般に、高齢者における自己免疫疾患の発症のみならず、感染症に対する抵抗力の低下に結びつくことを発見した。そして、胸腺機能の低下が、T細胞依存性機能における老化に関連する変化の原因であると特定した。 ・内分泌を操作することで胸腺萎縮を食い止め、結果的にある程度、免疫機能が若返ることもある。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
●体中の細胞がストレスへの適応力を失っていく ・細胞は古くなるほど、フリーラジカルによる酸化ストレス、過度のエネルギーの要求、過度の興奮などに立ち向かう力が弱くなる。 ・有害なごみを掃除するたんぱく質を生成するはずの遺伝子がその仕事をやめてしまうと、細胞の死(アポトーシス)のスパイラルが始まる。 ・細胞のダメージが重なると免疫系が活性化し、死んだ細胞を掃除するために白血球やその他の因子を送り込み、それらが炎症を生じさせる。 →炎症が慢性化すれば、さらに多くの有害のタンパク質が生じる。それらはアルツハイマー病に直接関係している。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
シナプス、ニューロン
・海馬は年をとるにつれて小さくなるが、その大きさの減少は物忘れと関連がある。 ・作業記憶と実行機能に重要な前頭前野も、年とともに小さくなっていく。 ・年をとると、ニューロンの数が減るのではなく、一つ一つが小さくなる。特に海馬と前頭前野では、樹状突起が縮んだり、ニューロン間のシナプス結合の数が減ってくる。 ・年をとった動物は、脳のある種の部分で、学習を促すプロセスである"シナプス可塑性"も特異的に低下する。 ・一方、言葉についての知識、理解力、語彙や専門的スキルは加齢による影響をあまり受けない。身体的スキルも定期的に使っているほうが維持されやすい。 ○訓練による改善 ・高齢者の認知機能を訓練によって改善しようとする試みについては、ほとんどの訓練は一定の効果があるが、それは訓練した作業に限られがちで、すべての作業に関わる脳機能が高まることはほとんどない。明るい面を挙げるなら、こうした進歩が何年も持続するケースもある。様々なスキルを使い続けることによって"限定される"という問題を避けることができるかもしれない。 ※参考資料『サンドラ・アーモット,サム・ワン(2009)最新脳科学で読み解く脳のしくみ 東洋経済新報社』
認知力の衰え
●老齢期の記憶の衰え ○基底核 ・アセチルコリンを分泌することで働く。 ・アセチルコリンは、脳を"スイッチオン"の状態にして、明瞭な記憶を形成する手助けをする。軽い認知障害がある場合、基底核で作られるアセチルコリンは非常に少ない。 ○臨界期の習得 ・臨界期は、常に基底核のスイッチが入っているので、苦もなくものごとを習得できる。 ○老齢期に言葉が出てこなくなる原因は? ・可塑的変化に不可欠な脳の注意システムと基底核がだんだんと使われなくなり、萎縮していることにある。萎縮すると、発話が"あいまいな記憶痕跡"になる。あいまいな記憶痕跡を符号化するニューロンは、互いに調和しながらすばやく発火しないので、力強く鋭い信号を送ることができない。 ・子ども時代は、毎日が新しいことの連続で、集中して学習しているが、年をとってくるとすでにマスターした技能や能力を使うことが中心になっていく。 ・"萎縮"を防ぐには高い集中力を必要とする活動をすると良い。 ※参考資料『ノーマン・ドイジ(2008)脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル』
聴力
・加齢とともに低下。耳の蝸牛の中にある有毛細胞が次第に衰えるため。 ・聴力の低下は高音域から始まる。女性や子供の声が聞こえづらくなる。 ※参考資料『A.J.ジェイコブズ(2013)健康男 日経BP社』
味覚
・60歳くらいから味覚の感受性が低下するという報告がある。 ・感覚器を通じて刺激を中枢に送る能力は加齢によって低下していないようで、味蕾の変化が関係していると考えられている。 味蕾の数が顕著に減少するのは75歳以上からとされているが、動物実験ではあまり変わらないという報告もある。 味蕾を形成している味細胞の"ターンオーバー"の問題と考えられている。 味細胞の寿命は通常10日程度で、新しい細胞が生まれターンオーバーしているが、高齢になると、味蕾の数があまり変わらなくてもターンオーバーの速度が遅くなり、その結果、味覚が低下しなくなるのではないかと考えられている。 ※参考資料『石川伸一(2014)料理と科学のおいしい出会い 化学同人』
ネットニュースによる関連情報
●加齢とともに精子の質が低下 ・世界30か国から集められた90件の先行研究の約94,000人のデータを基に系統的レビューとメタ分析を行ったところ、精液の量と精子のパフォーマンスに一貫して年齢による低下や、奇形およびDNA損傷を受けた精子の増加があることを発見した。
老齢期の病気
●老齢期に直面する病気の特徴 ・心血管系と代謝系を通じて結びついている。 →肥満の人が普通の人の2倍、認知症になりやすいのも、心臓病の人がアルツハイマー病になる確率が非常に高いのも、そのような頭と体のつながりが壊れた結果といえる。 ・統計によると、認知症になる確率は、糖尿病の人は65%アップし、コレステロール値が高いだけで43%も高くなる。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』