・大腸がんは、大腸粘膜の細胞から発生し、腺腫という良性腫瘍の一部ががん化して発生したものと正常粘膜から直接発生するものがある。
その進行はゆっくりで、粘膜の表面から発生した後、大腸の壁に次第に深く侵入していき、進行するにつれてリンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移する。
・大腸がんの発見に関しては、便に血液が混じっているかどうかを検査する便潜血検査が有効であることが明らかになっていて、検診などでの早期発見が可能。
・多い症状としては、血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、原因不明の体重減少などがある。
中でも血便の頻度が高いが、痔などの良性疾患でも同じような症状があるので、早めに受診することが早期発見につながる。
特に、家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸がんの家系は、確立した大腸がんのリスク要因とされている。
・生活習慣では、肥満、高身長などの体格で結腸がんのリスクが高くなることが確実とされている。
※肥満、糖尿病との関連については以下の記事参照。
・食後高血糖、血糖値スパイクによる悪影響の”糖尿病の悪影響、合併症”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・インスリンの作用の”インスリンの作用、インスリンの悪影響”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・食生活では、飲酒(男性)や赤肉(牛・豚・羊の肉)、加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)が確実な大腸がんリスクとされている。女性の飲酒はおそらく確実なリスク要因。
※多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス参照。
・その他、ヘテロサイクリックアミン(肉や魚を強火で調理した時に焦げた部分にできる発がん物質)やニトロサミン(食べ合わせにより体内で生成される発がん物質)などが大腸がんのリスク要因といわれているが、ヒトにおける根拠は限定的または不十分とされている。
・喫煙については、大腸がんの確実なリスク要因とされている。
・大腸がんにかかる割合は、50歳代から増加し始め、高齢になるほど高くなる。
・大腸がんの罹患率、死亡率はともに男性では女性の約2倍と高く、結腸がんより直腸がんにおいて男女差が大きい傾向がある。
・大腸がんの罹患率をみると、1990年代前半までは増加し、その後は横ばい傾向にある。
大腸がんで亡くなる患者の割合(死亡率)に関しては、1990年代半ばまで増加し、その後は少しずつ減る傾向にある。
男女とも罹患数は死亡数の約2倍であり、これは大腸がんの生存率が比較的高いことと関連している。
※以下の記事参照。
運動の健康効果の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・食物繊維を含む食品の評価は変動があったが、近年確実な予防要因と位置づけられた。
※以下の記事参照。
食物繊維の摂取と健康への影響の”食物繊維とがん”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・にんにく、牛乳、カルシウムはおそらく確実な予防要因。
・その他、可能性あり、またはエビデンス不十分な予防要因として、葉酸、ビタミンD、野菜(でんぷん質を含まない)、果物、セレン、魚などが挙げられているが、確実との判定には至っていない。
※野菜・果物と大腸がんとの関連については以下の記事参照。
野菜、果物全般の健康効果の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
※葉酸、ビタミンB6と大腸がんとの関連については以下の記事参照。
・葉酸の概要、効果、病気予防効果の”葉酸とがんとの関連”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・ビタミンB6の概要、効果、病気予防効果の”ビタミンB6とがんとの関連”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
※ビタミンDと大腸がんとの関連については以下の記事参照。
ビタミンDの概要、効果、病気予防効果の”ビタミンDとがんとの関連”、”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs、アスピリンを含む)と、閉経期の更年期症状によく用いられるホルモン補充療法が、リスクを減少させる要因として挙げられている。ただし、薬剤をがんの予防に用いる場合には、リスクとベネフィットのバランスを考える必要がある。
※女性ホルモン、ホルモン療法との関連については以下の記事参照。
月経前症候群(PMS)、更年期障害、ホルモン補充療法の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
・大腸がんは早期発見による治癒率が高く、便潜血検査を中心とした大腸がん検診を受けることで死亡率が低下することが示されている。40歳を過ぎたら大腸がん検診を年1回受けることが推奨。
●カルシウムと大腸がん ・大腸がんの予防におけるカルシウムの役割の可能性に関する観察的および実験的研究から得られたデータは、やや一貫性に欠けるが、予防効果があることを強く示唆していると考えられる。 ・複数の研究では、食品(低脂肪乳製品による栄養源)および/またはサプリメントから大量のカルシウムを摂取すると大腸がんのリスクが低下することが判明している。 しかし、他の観察的研究ではこのような関連性が決定的なものではないことが判明している。 ・コクラン・システマティックレビューの著者らは、カルシウムサプリメントの摂取は大腸がんの予防に多少効果があるかもしれないが、予防を目的としてカルシウムのサプリメントの常用を推奨するためのエビデンスは十分ではないという結論に達した。 大腸がんの発現までに長い潜伏期間があることを考慮すると、カルシウム摂取が大腸がんリスクに影響するか否かを十分に理解するためには、長期にわたる研究が必要である。 ※参考情報 カルシウム | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業 ※日本の前向きコホート研究については以下を参照。 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
●お酒・たばこと大腸がんの関連について ・お酒・たばこと大腸がんの発生との関係について調べた。 ○お酒に対する結果 ・男性では、アルコール摂取量が日本酒にして1日平均1合以上2合未満の人は、飲酒しない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍、1日平均2合以上の人は、2.1倍だった。 ・女性では、週1日以上飲酒する人でも、飲酒しない人に比べて、発生率は上昇しなかった。これは、1日平均1合以上飲酒する人がほとんどいないためで、大量飲酒すれば男性の結果と同様であると考えられる。 ○たばこに対する結果 ・男性でも女性でも、たばこを吸う人は、吸わない人に比べて、大腸がんの発生率が1.4倍だった。たばこをやめた人も、1.3倍だった。 ○お酒とたばこが悪いわけ ・アセトアルデヒドががんの発生に関わると考えられる。 さらに、アセトアルデヒドが分解される際に出る活性酸素によって、細胞の中の核酸(DNA)を作るのに必要な葉酸という物質が壊されてしまう。 これによってDNAの合成や傷ついたDNAの修復がうまく行かず、がんになるとも考えられている。 ・たばこの煙には、多くの発がん性物質が多く含まれている。 たばこを吸っていると、たばこの煙が触れる"のど"や気管、肺以外に、直接触れない大腸の粘膜からも発がん性物質が検出される。これによってがんが発生しやすくなると考えられている。
●カルシウム、ビタミンD摂取と大腸がん罹患との関連について ・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、カルシウムおよびビタミンDの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べた。 ○カルシウムの摂取量との関連の結果 ・男性において、カルシウムの摂取量が最も少ないグループに比べ、摂取量が最も多いグループでリスクが低くなった。 カルシウムの摂取量が最低(300mg未満)のグループと比べると、最高(700mg以上)のグループでリスクが40%近く低いことがわかった。 ・女性では関連がみられなかった。 ○ビタミンDの摂取量との関連の結果 ・ビタミンD摂取量と大腸がんの間には、男女とも統計学的有意な関連は見られなかった。 しかし、男性においては、カルシウムとビタミンDの摂取量をそれぞれ低・中・高の3群にわけて組み合わせた場合、両栄養素が高いグループでリスクが低いということが明らかになった。 ○カルシウムとビタミンDが大腸がんを予防する機序 ・カルシウムは、腸管内腔の上皮細胞を刺激し、がんの発生を促進する二次胆汁酸を吸着することと、細胞増殖や分化に直接作用することなどが考えられている。 ・ビタミンDは、カルシウムの吸収に関与することから2つの栄養素の摂取量が高い群で大腸がんのリスクが低い結果であったことの説明がつく。 ○推察 ・本研究の結果では、男性のみにおいて、カルシウムと大腸がんの関連が見られた。 その理由の1つとして、女性ではカルシウム摂取量が全体的に高かったのに対し、男性では、極端に低い人が多かったことが考えられる。 一方のビタミンDは、紫外線にあたることにより皮膚でつくられることから、食事からの摂取量による影響が小さかったと考えられる。
●マグネシウム摂取と大腸がんとの関連について ・アンケートから計算されたマグネシウム摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。 ○全体の結果 ・女性では関連はみられなかったが、男性ではマグネシウム摂取量が高いほど大腸がんリスクは低くなる傾向が見られた。この傾向は結腸のがんでよりはっきりしていた。 ○飲酒の影響 ・飲酒習慣のある人、また、BMIが25未満の比較的やせ気味の人の方が、マグネシウムによる予防的効果がはっきりしている傾向が見られた。 ○女性で関連がみられなかった理由 ・大腸がんに関連する要因の男女差、性ホルモンの影響、飲酒習慣の差が挙げられる。 ・マグネシウムはインスリン抵抗性を改善することにより大腸がんの予防に寄与している可能性があるが、女性においてはそもそもインスリン抵抗性が大腸がんの発生機序に深くかかわっていないことが示唆され、その結果として、マグネシウムの摂取量が増えても大腸がんのリスクが低下しなかったのではないかとも考えられる。
●赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて ・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)・加工肉(ハム・ソーセージ等)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた結腸・直腸がんの発生率を比べた。 ○肉類摂取との関連の結果 ・肉類全体の摂取量が多いグループ(約100g/日以上の群)で男性の結腸がんリスクが高くなり、赤肉の摂取量が多いグループ(約80g/日以上)で女性の結腸がんのリスクが高くなった。男性において赤肉摂取量によるはっきりした結腸がんリスク上昇は見られなかった。 ○加工肉摂取との関連の結果 ・男女ともにおいて加工肉摂取による結腸・直腸がんの統計的に有意な結腸・直腸がんのリスク上昇は見られなかった。 ただし、加工肉摂取量をもう少し細かく10グループに分けたところ、男性において最も摂取量の多い群で、結腸がんリスクの上昇が見られた(摂取量の少ない下位10%の群と比べ、上位10%の群では発生率が1.37倍)。 つまり、日本人が一般的に食べるレベルでは、はっきりとしたリスクにはならないけれども、通常よりもはるかに多量に摂取する一部の男性では、結腸がん発生リスクを上げる可能性は否定できない。 ○赤肉摂取と大腸がんについて ・赤肉による大腸がんリスク上昇のメカニズムは、動物性脂肪の消化における二次胆汁酸、ヘム鉄による酸化作用、内因性ニトロソ化合物の腸内における生成、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれるヘテロサイクリックアミン(発がん物質)等の作用が指摘されてきた。 これらの作用は、牛・豚肉といった赤肉に限らず、肉類全体の摂取を通してももたらされる共通のものとして捉えることができる。 今回の結果では、赤肉摂取による直接的な大腸がん発生リスク上昇は男性において観察されなかったが、牛肉・豚肉は肉摂取量全体の85%程度を占めることから、男性でも赤肉摂取による結腸がんリスク上昇の可能性は否定できない。 つまり、肉類全体の摂取量と結腸がんリスク上昇の関連が見られる以上は、牛肉や豚肉も含めて食べ過ぎないようにする必要があると考えられる。
●n-3およびn-6不飽和脂肪酸摂取と大腸がんとの関連について ・アンケートから計算されたn-3、n-6、およびそれぞれ個別の不飽和脂肪酸摂取量によって、5つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。 ○n-3系脂肪酸 ・魚由来のn-3不飽和脂肪酸およびトータルのn-3不飽和脂肪酸を多くとっているグループほど、結腸(特に近位部)のがんの発生リスクが低いことが分かった。 ・直腸のがんに対しては、n-3不飽和脂肪酸は特に有意な関連を示さなかった。 ○n-6系脂肪酸 ・男性の近位結腸でリスクの低下が見られたものの、全体としては大腸がんのリスクとは特に関連はみられなかった。 ・n-3/n-6比についても同様に特に関連は見出されなかった。
●1日2-3杯のコーヒーで大腸がんの再発リスク低下? ・1日4杯以上のレギュラーコーヒーの摂取(カフェイン約460mg)によって、コーヒーを飲まない患者に比べて、がんの再発率が42%低く、がんもしくは別の原因で死亡するリスクが33%低かった。1日2~3杯のコーヒーにも中程度以上の利益があった。 ・このコーヒーの効果が完全にカフェインによるものであることを発見した。 ・カフェイン摂取が身体のインスリン感受性を高め、それによって炎症反応が低下するからかもしれない、と研究チームは語っている。
●遺伝子変異とアスピリンの大腸がん予防との関連 ・アスピリンもしくは非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDS)の使用は大腸がんの罹患リスクを各々28%と38%低下させるという結果が得られた。 ・遺伝子変異との関係を解析した結果、大部分の人がアスピリンおよびNSAIDSによって大腸がんリスクを低下させることが確認されたが、同時に一部の異なる遺伝子配列を持つ人には効果が見られないことがわかった。効果が見られないのは25人に1人の割合で、アスピリンによってわずかにリスクが高まっていた。
●アスピリンの常用で消化器系腫瘍のリスク低下 ・常用量もしくは低用量アスピリンを週2回以上定期的に服用していた人は、アスピリンを服用していない人に比べて、すべての種類のがんの絶対リスクが3%低かった。 ・アスピリンの常用者はまた、大腸がんのリスクが19%低く、全消化器系がんのリスクは15%低かった。乳がん、前立腺がん、肺がんに対する効果はみられなかった。 ・アスピリンの効果は、常用錠を週0.5から1.5錠もしくは低用量錠を週1錠、5年以上連続的に服用することで現れるという。
●アスピリン服用と大腸がんとの関係 ・大腸がん形成の初期に、上皮成長因子受容体(EGFR)の過剰発現が起こることを発見した。 ・アスピリンの常用でEGFRの発現を正常化し、かなりの程度抑えられることがわかった。
●1日1~2杯のコーヒーでも大腸がんのリスク低下? ・ほどほどのコーヒー摂取(1日1-2杯)であっても、種々の因子を調整後、大腸がんの発症リスクが26%低下することが明らかになった。 ・1日2.5杯以上のコーヒーを摂取する者では発症リスクは50%低下した。 ・カフェインとポリフェノールは抗酸化物質として作用し、大腸がん細胞の成長を制限、焙煎中に発生するメラノイジンは結腸の運動性を促進、ジテルペンは身体の酸化的損傷に対する防御反応を促進する、などの効果が考えられる。
●ビタミンDは免疫能を高めて結腸直腸がんから身を守る ・ビタミンDから肝臓で産生される物質である25-ヒドロキシビタミンDの量が多い患者は、がん組織内に免疫細胞が豊富に存在する大腸がんを発症するリスクは平均よりも低いことが明らかになった。 ・実験室による研究で、ビタミンDはがん細胞を認識・攻撃するT細胞を活性化して免疫系の機能を増強できることが示唆されているが、実際の患者を対象に対しても確認できた。
●結腸がん患者の生存率とアスピリン、HLAクラスI抗原との関連 ・結腸がん診断後のアスピリンの服用によって全体的な生存率は改善された。特にアスピリンのメリットが強かったのは、HLAクラスI抗原を発現していた患者であった。
●魚由来のオメガ3脂肪酸の摂取で大腸がん患者の死亡リスクが低下? ・魚由来のオメガ3が多めの食事を摂っていた大腸がん患者は、大腸がんによる死亡リスクが低下していた。リスク低下の程度は、摂取量が増えるとリスクが下がるといった関連がみられ、摂取量に関連しているようであった。