女性ホルモンの分泌量変化による影響、月経前症候群(PMS)、妊娠時の影響、ホルモン補充療法などの情報をメモ書きしています。
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※エストロゲンについては以下の記事参照。
エストロゲン
※がんとの関連については以下の記事参照。
がんと生殖要因、ホルモン、環境の関連
生理
・生理では、子宮内膜が増殖して剥がれ落ちる、ということが起きている。排卵では、多数の卵子の競争が起こり、その中から卵巣の壁を破って出てくる卵子が生まれる、ということが起きている。 →生理や排卵のたびに、子宮と卵巣は傷ついては修復を繰り返している、と言える。 →体の組織が破れたり、剥がれ落ちたりで、修復と増殖を繰り返せば、ガン化のリスクが増える。 昔の女性は一般的に多産だったため、生理や排卵が起こらない時期がかなり長期間あり、その間、子宮と卵巣は平穏だった、と言える。 →初産年齢が上がり、出産回数が少ないと、その分子宮と卵巣はフル稼働で、子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が増えていく。 ※参考資料『宋美玄(2014)女のカラダ、悩みの9割は眉唾 講談社』
ピル
・ピルはエストロゲンとプロゲステロンの2種類のホルモンの合剤。 ・脳の下垂体に作用し、ホルモンの変動を一定かつ低めに抑える。 →その結果、"排卵が起こらない、子宮内膜が厚くならない"ことで、様々なトラブルを防いでくれる。 ・ピルは排卵を抑制する。子宮内膜が厚くならないので、受精卵も着床しにくくなる。さらには、子宮頸管粘液を変化させて、精子の侵入を防ぐ作用もある。 ・生理通の源は"プロスタグランジン"という痛みの物質で、剥がれる際に子宮内膜から分泌される。ピルで子宮内膜が発育しなければ、プロスタグランジンの分泌量も少なくなり、生理痛も軽くなる。 ・毎月の排卵と生理でフル稼働している子宮と卵巣を休ませることができる。 ※参考資料『宋美玄(2014)女のカラダ、悩みの9割は眉唾 講談社』
月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)
●ホルモンと神経伝達物質 ・ホルモンは脳機能全般を整えるだけでなく、神経伝達物質を調整する上でも重要な役割を果たしている。 ・エストロゲンもプロゲステロンも、大脳辺縁系におけるセロトニンやドーパミンの受容体の発現を促し、結果的にそれらの神経伝達物質の効果を強めている。 ・エストロゲンはBDNFの生産を促していることも確認されている。 ●PMS、PMDDの原因 ・PMSの原因について正確なところはまだ解明されていないが、ホルモンレベルの変動が鍵を握っていると考えられている。 ・PMSや産後のうつ、重い更年期障害になる人とならない人の違いは、ホルモン量の多寡によるものではなく、むしろ、ホルモンの変化が招く神経化学的な変化に対する感受性に起因するようだ。 ・2004年に、PMDDの症状がある人とない人の神経伝達物質の活動をPETを用いて比較する研究が行われた。PMDDの人の脳では、トリプトファン(セロトニンの前駆物質)を前頭前野にうまく取り込む事ができず、そのせいでセロトニンの生産が抑えられていることが分かった。 ●PMSに対する運動の効果 ・1800人以上の女性を対象にしたある調査では、少なくとも半数の女性が運動によってPMSの症状を和らげていることが分かった。 その女性達は、運動をすれば体の症状が軽くなるだけではなく、集中力の低下や気分の落ち込み、衝動的な行動といった精神面の症状も軽くなると報告している。 ・精神面の症状を軽減する一つの理由として、運動をすると血液中のトリプトファンのレベルが上がり、それにともなって脳内のセロトニン濃度が上がることが挙げられる。 ○GABA ・ホルモン変化が起きる月経前の一時期、相互に関連しあうグルタミン酸とGABAの量が乱れ、情動をつかさどる回路のニューロンに過剰な興奮をもたらす事がある。 →気分の変化や不安、攻撃性を招き、激しい動揺さえ引き起こしかねない。 ・ある調査によると、PMSの女性はそうでない人と比べて、GABAレベルが異なっていることが明らかになった。 ・GABAはニューロンの過度な活動を抑えているが、運動によってGABAが関わるシステムに幅広い影響を及ぼす。 ・運動は、女性を悩ます体の変調期に、脳内で拮抗する二つのシステム(興奮性のグルタミン酸と抑制性のGABA)のバランスを回復させる。 ・運動は、HPA軸の機能も調整する。HPA軸はストレスに対処する力を高める。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
妊娠、産後、授乳時の不調
●産後うつ ・産後のうつを引き起こしているのは、ホルモンの増加ではなく、むしろ産後のホルモンの急激な減少にあるようだ。 産後、妊娠中に増加していたエストロゲンとプロゲステロンのホルモンが急激に減少し、脳がこの変化についていけなかったり、脳内の信号が気分を混乱させる方向に増幅されるのかもしれない。 →運動は神経伝達物質のレベルを正常化するので、一般の人よりも、産後うつになっている母親に対して効果が高いと言える。 ・統計的に見て、運動をしている母親はうつになる確率が低い。 ●妊娠中の運動 ・妊娠中の運動は、ストレスや不安を緩和し、気分と精神状態全般を向上させる。 ・妊娠性糖尿病になるリスクを下げる。 ・妊娠中に運動していた場合の方が、乳児は神経学的に発達している。 運動は子宮内の胎児をゆさぶり、赤ん坊が撫でられたり抱かれたりするのと同様の刺激を胎児に与え、明らかに脳の発達を促す。 5歳の段階でIQと言語能力に差が出ていた。 ・運動する母ラットから生まれた子ラットは、BDNFのレベルが高く、学習能力が高かった。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
●授乳 ・授乳には精神的な集中力の鈍化というマイナスが伴う。出産直後に頭がぼんやりとすることはごく普通だが、授乳によってこのとろりとして穏やかな焦点の定まらない状態がひどくなり、長期化することがある。 ・多くの母親は物理的に我が子と引き離されると"離脱"症状が現れて、恐怖や不安を感じ、それどころかパニックを起こしたりする。これは心理学的状態である以上に神経化学的状態であることが分かってきた。 ・母乳育児の母親は、断乳のときにも離脱症状を経験する。たいていは断乳とストレスの多い職場への復帰が重なるので、母親は不安で落ち着かない状態になるのかもしれない。 ※参考資料『ローアン・ブリゼンディーン(2008)女は人生で三度、生まれ変わる 草思社』
閉経、更年期障害
※骨粗しょう症との関連は以下の記事参照。
骨粗しょう症の”骨粗鬆症発症の要因”
骨粗しょう症の”骨粗鬆症発症の要因”
●閉経後の変化 ・エストロゲンもオキシトシンも低下する。 →もう感情の細かなニュアンスも気にならない。 ・子ども達の世話をして得られていたオキシトシンという鎮静効果のある報酬もなくなるから、人の面倒を見ることにもそれほど関心が向かなくなる。 ・エストロゲンレベルが急低下するとテストステロンも下がり、性的衝動も急激に変化する。セックスへの関心、あるいは関心の欠如も問題になり得る。 ・エストロゲンは脳のセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン、アセチルコリンにも影響するので、脳の様々な機能に影響を与える可能性がある。 調査によれば、閉経期の女性はすでに閉経した女性よりも多くの気分の落ち込み、睡眠障害、記憶力の低下、苛立ち、などの症状を医師に訴えるという。 ○閉経期の問題 ・脳のエストロゲン感度低下は、ほてりから関節痛、不安、うつ、性欲の変化など、月によって年によって変わる様々な症状を引き起こすことがある。 ・アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の研究者たちは、閉経期の女性達はうつのリスクが通常の14倍に上ることを明らかにした。 ←エストロゲンの変化が最大になると、エストロゲンに支えられていた神経伝達物質と脳細胞(たとえばセロトニン細胞)が阻害される。 閉経期は脳のエストロゲンおよびストレス感度が変化するので、気分の不安定や苛立ちに対してもろくなる。 ・苛立ち、集中力低下、疲労感などはエストロゲン減少によって引き起こされ、不眠によって悪化する。 ※参考資料『ローアン・ブリゼンディーン(2008)女は人生で三度、生まれ変わる 草思社』
●閉経の影響 ・エストロゲン、プロゲステロンの産生が減ると、女性生殖器の組織が萎縮し菲薄化する原因となる。 ○心疾患 ・エストロゲンが欠乏する直接的結果として、閉経後の女性はLDLが増加し、HDLは減少するようだ。 ○認知障害 ・閉経の際によく聞かれる訴えとして、気分の動揺、物忘れ、集中力低下などの精神症状がある。 ○ほてり(ホットフラッシュ) ・ほてりの生理機構はまだ解明されていないが、"体温自動調節器"である視床下部がエストロゲンの低下に反応して始まる現象と考えられる。 ・15~30単位の少量のビタミンEを毎日摂取すると、ほてりや膣の乾燥を軽減したり、子宮切除を予防したり、ある場合には、エストロゲン補充が不要となったりすることが、いくつかの研究で分かってきた。 ・治療の有無に関わらず、身体が閉経後のエストロゲン濃度に順応した時点でほてりは止まる。 ○性的活動 ・エストロゲンは、子宮、膣、膀胱基部を湿潤・柔軟に保つ。 エストロゲン濃度が低下し始めると、これらの器官は縮み始め、膣壁は薄くなる。 性行為の間や後に、膣のかゆみ、乾燥、時に痛みなどに悩まされる。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
ホルモン補充療法
●エストロゲン減少の影響とエストロゲン補充療法 ・エストロゲンが欠乏すると、女性の肌はコラーゲンを失って薄く、もろく、乾燥して、簡単に傷つくようになる。 ・更年期直後の5年間で、コラーゲンは最大幅の減少を記録する。 ・エストロゲン補充療法は更年期後の女性のコラーゲンの減少を防ぐ。 ●エストロゲン補充療法の副作用 ・吐き気、不定愁訴、乳房痛、特定の味覚を嫌悪する、更年期前のPMSなどがある。 ・エストロゲンはトリプトファンの代謝を妨害してビタミンB6不足を招き、抑うつ、疲労感、いらいらを起こす。 ※参考資料『テレサ・クレンショー(1998)愛は脳内物質が決める 講談社』
●ホルモンの影響 ・閉経後に代用ホルモン療法を受けている女性に対する調査で、エストロゲンはうつ状態を改善できるが、逆に悪化させてしまうこともある。 エストロゲンとうつに相関関係があるからといって因果関係があるかどうかは分からない。 ※参考資料『カトリーヌ・ヴィダル(2007)脳と性と能力 集英社』
●ホルモン補充療法(HRT) ・2002年、米国国立衛生研究所(NIH)が実施した"ウィメンズ・ヘルス・イニシアティブ"調査で、HRT療法を受けている女性の方が、そうでない人に比べて乳がんの発症率が26%、脳卒中は41%、心臓発作は29%高かった。 ・イギリスの調査で、HRTを受けている女性は、認知症になるリスクが2倍になると報告された。 ・ただし、短期間であれば閉経期にHRTを受けることを支持する調査結果もある。 ・げっ歯類を用いた研究によって、HRTを長期間受け続けると、免疫反応の指令を出す視床下部においてエストロゲン受容体が壊れ始めることが分かっている。 そして視床下部が正常に働いていないと、女性はがんなどの病気に罹りやすくなる。 ・げっ歯類にエストロゲン療法を長期間実施すると、細胞の炎症が引き起こされる。細胞の炎症はアルツハイマー病のリスク因子であり、記憶障害とも関連が深い。 ●HRT+運動 ○イリノイ大学アーバナシャペーン校、アーサー・クレイマーの研究 ・54人の閉経後の女性を被験者とし、MRI画像と遂行機能に関わる心理テストを行った。 ・その結果、HRTを短期間受けた女性は、まったく受けたことのない人や、10年以上受けている人よりも心理テストの成績が良く、前頭前野の皮質体積も大きかった。 さらに、有酸素運動をすると、遂行機能と脳の体積には著しい効果が見られた。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
●ホルモン療法 ○カナダのバーバラ・シャーウィンの研究 ・卵巣摘出直後にエストロゲン補充療法を受けた女性は以前の記憶力を保持していたが、そうでなかった女性はすぐにエストロゲンを与えられない限り、言語記憶が低下したと報告している。 ・ホルモン補充療法によって閉経前に近いレベルの記憶力が維持されるが、しかしそれも摘出手術直後あるいはまもなく行わなければならない。 ・エストロゲンが閉経後および子宮摘出後の女性の脳に及ぼす影響を25年以上調査。 子宮摘出後からエストロゲン補充療法を受けた健康な45歳の女性達の場合、言語記憶が守られる効果があることが分かった。しかし手術による閉経が起こってから何年も経った年配の女性には効果が見られなかった。 ○カリフォルニア大学アーヴィン校の研究 ・エストロゲン療法によってミトコンドリアの効率が上昇することを発見し、閉経前の女性が同年齢の男性に比べて脳の発作を起こす確率が低いのはたぶんこのためだろうと述べている。 ○エール大学の研究 ・閉経後の女性達に21日間エストロゲンと偽薬を与え、その後に記憶力を要する作業中の脳を調査。 ・エストロゲンを投与された女性達の脳はもっと若い女性達と同じパターンを示したが、投与されなかった女性達のほうはずっと年老いた女性たちのパターンと同じだった。 ・閉経後の脳の容量を調べた別の研究によると、エストロゲンは特定部位を保護するらしいという。エストロゲンを摂取していた女性では、意思決定、判断、集中、言語処理、聴覚能力、感情処理を司る領域の萎縮が少なかったという。 ○2002年、ウィメンズ・ヘルス・イニシアチブ(WHI)とウィメンズ・ヘルス・イニシアチブ・メモリー・スタディズ(WHIMS)の大規模臨床試験 ・64歳以上から始めて6年間ある種のホルモン療法を受けた女性達で、乳がん、脳卒中、認知症のリスクがわずかに上昇したという。 ・閉経後13年経ってからエストロゲンを摂取した女性達には脳の保護効果が現れなかった。 ・研究者達は現在、閉経後エストロゲンが投与されなかった期間が5,6年以上あると、心臓や脳、血管でエストロゲンの予防効果が発揮される機会が失われることを明らかにしている。 ○エストロゲンの脳への影響、動物実験 ・げっ歯類および霊長類のメスによる実験では、エストロゲンが脳細胞の生存、成長、再生を促進することが明らかだった。 ○加齢による脳の萎縮を回避 ・ある研究では、加齢の途上でエストロゲンが神経細胞の成長と脳の機能維持に多くの好影響を及ぼすらしいと主張している。 ・閉経後、ホルモン療法を受けた女性と受けなかった女性を、脳の画像を撮影して調べているが、ホルモン療法を受けている女性では、前頭前皮質(意思決定と判断の場)、頭頂葉皮質(言語処理と聴覚機能の場)、側頭葉(ある種の感情処理の場)の領域で、通常の加齢に伴う萎縮が回避されているという。 ○1958年にアメリカではじまった老化に関する長期調査、BLSA ・ホルモン療法を受けた女性は視床下部やその他の言語記憶に関わる脳の領域の血流が大きく増加した。 ・言語記憶や視覚記憶を調べるテストでも、ホルモン療法を受けたことがない女性たちより高得点を取った。 ・ホルモン療法は、プロゲステロンを含むものも含まないものも、脳組織の構造を保護し、加齢に伴う通常の萎縮を防ぐ効果があった。 ○UCLAの研究 ・エストロゲン療法を受けている閉経後の女性はうつや怒りが少なく、言語能力や聴覚機能、作業記憶等を検査すると、エストロゲンを摂取していない閉経後の女性よりも優れていること、また男性よりも優れていることが分かった。 ○イリノイ大学の研究 ・ホルモン療法を受けたことがない女性達は受けた女性達に比べて脳全体の萎縮が進んでいることを明らかにしている。 ・ホルモン療法の期間が長いほど、灰白質あるいは脳細胞の容量が大きいことが分かった。 ○スウェーデン、双子を対象とした研究 ・65歳から84歳までの閉経後の双子の女性を対象に長年にわたりホルモン療法を受けた場合と受けなかった場合を調べた。 ・ホルモン療法を受けた女性は言語能力、作業記憶のテストで、受けなかった双子姉妹よりも好成績だった。 ・ホルモン療法を受けた女性は、ホルモン療法のタイプや時期に関わらず、認知障害が40%少なかった。 ○副作用 ・経血や生理通、乳房の圧痛、体重増加などの不愉快な副作用のために療法を中止する人達もいる。 ○ホルモン療法と体重増加 ・ノルウェーの研究者は45歳~65歳までの一万人の女性を対象に、ホルモン療法を受けている場合と受けていない場合を比較。 ・その結果、体重増加はホルモン療法と関連していないことが分かった。体重増加の原因は、女性の食事や運動量の変化だった。 ○プロゲステロンの使用 ・エストロゲンだけでプロゲステロンを使わないホルモン補充療法が適切なのは、子宮摘出を受けた女性だけ。 ・プロゲステロンを使うホルモン療法は、がん細胞化する可能性がある子宮内膜をエストロゲンが肥厚させるのを防ぐ。 ・しかし、プロゲステロンは女性の脳ではエストロゲンのプラスの効果を一部相殺する働きがあるらしい。 ※参考資料『ローアン・ブリゼンディーン(2008)女は人生で三度、生まれ変わる 草思社』
●ホルモン補充療法(HRT) ○1999年、HRTに関する国際臨床総会 閉経後の女性に対するHRTの有効性を肯定する記事を発表した。 ・閉経にともなう症状に対して、HRTは"治療選択肢"であり、それにまさる効果的な治療法は他にない。 ・骨粗鬆症に対し、効果が"きわめてよくみられる"。 ・心血管疾患において"圧倒的な観察データ"が心保護を示唆している。 ・認知症では"長期にわたって有益な効果がある"という可能性がある。 ・直腸・結腸がんには、ほぼ50%の保護作用がある。 ○肌 ・コラーゲンは皮膚を構成する主要なタンパク質であり、エストロゲンによって刺激される。エストロゲンで治療することは、コラーゲンの喪失を防ぐだけでなく、コラーゲンの合成を増す。 ・エストロゲンはムコ多糖類とヒアルロン酸を増やすことで、皮膚の潤いを保ち、角質層の完全性と機能を補修しうる。 ○膣 ・エストロゲンは膣粘膜を潤し、滑らかさを増し、そればかりか結合組織の柔軟性保持を助ける。 ○骨粗鬆症 ・エストロゲンは骨の再吸収を抑制し、プロゲステロンは骨形成を刺激する。 ○心血管 ・閉経前期の高いエストロゲン濃度は、HDLを増やし、LDLを減らすことが一因となって、心疾患から守っている傾向がある。 ・エストロゲンを補充することで、血管はわずかに拡張し、コレステロールの均衡は保全され、心疾患のリスクは大幅に減少する。 ・トルコのバスケント大学で行われた2002年の研究によると、エストロゲン・プロゲステロン併用療法を6ヶ月間行った閉経後女性46人の血漿ホモシステイン値が有意に低下したことが分かった。 ホモシステインは血中のアミノ酸が正常の代謝過程で分解されたもので、その上昇は心疾患の大きな危険因子と考えられる。 ○脳卒中 ・スウェーデンのウプサラで行われたコホート研究で、エストロゲンを使用した閉経後女性で脳卒中の頻度が30%減少したことが分かった。 ○大腸がん ・エストロゲンの使用者は、非使用者に比べ、大腸がんによる死亡の危険性が29%低いことが分かった。10年以上使用している場合は、55%も低下した。 ○物忘れ ・卵巣を切除した後、エストロゲンサプリメントを飲んだ女性は、対照群と比べ、対になった言葉をより早く覚え、思い出すことが出来るとした研究がある。 ・エストロゲン補充療法(ERT)により、固有名詞を含んだ様々なテストにおいて、思い出す力が高齢女性で改善した。 ○アルツハイマー病 ・ERTは、アセチルコリン産生に関連した病気の症状をいくつか軽減あるいは駆逐することが認められている。 ・エストロゲンはアセチルコリンを産生する神経細胞を保護していると考えられる。 ・南カリフォルニア大学の大規模研究によると、老人ホームに入所している2418人の女性の薬物暦を11年間調べたところ、エストロゲン補充暦のある女性は、ない女性に比べてアルツハイマー病へ発展する確率が統計的に40%近く低かった。そして、エストロゲン服用期間が長いほど、そのリスクは低くなった。 ・南カリフォルニアの退職者コミュニティに住む女性9000人を対象に行われ、ERTを受けたグループでは、そうでないグループと比べアルツハイマー病になるリスクが30~40%低いという結果になった。 ●HRTの長期的効果 ・ERTの恩恵を得るために、少なくとも7年間の服用が必要だと医師は確信しているが、女性の95%は3年以下の期間しかHRTを受けていない。 内分泌学者のジョン・ギャラガー博士によると、3年では"骨に十分な効果を与えるには不十分な期間"としている。 ●HRTのリスク ・高血圧に苦しんでいる人は、エストロゲンを摂取しないように助言される。 ・一部の研究者は、エストロゲン補充を受けた女性の子宮内膜がん発生率が4倍になると見積もっている。 ・米国がん協会が行った24万人の女性を対象とした研究では、6年以上エストロゲンを摂取したことのある女性では卵巣がん発生の危険性が40%上昇した。 ・プロゲステロン摂取時に月経出血が再来する可能性がある。多くの女性はまた、異常な血液凝固、体重増加、胆石、片頭痛などの危険性も増す。 ○エストロゲン・プロゲステロンの併用を避けた方がよい状況 ・乳がんあるいはその疑い。 ・エストロゲン依存性腫瘍あるいはその疑い ・診断未確定の異常性器出血 ・血栓性静脈炎、血栓症、梗塞の現症あるいは既往症 ・肝機能障害 ○乳がん ・乳がんのハイリスク女性には勧められない。 ・早い初経と遅い閉経、すなわちエストロゲンさらされる期間が長いと乳がんの危険性が増すようだ。 ・ある研究では、エストロゲンを投与したところ(プロゲステロンの有無は問わない)、乳がんのリスクが30~40%上昇した事を示した。 ・正常~高濃度のエストロゲンで低プロゲステロン濃度にある閉経後女性に、乳がんは発生しやすい。また、プロゲステロンなしでERTを受けている閉経後女性も同様の状況。(厳密にプロゲスチン同時投与の要素を取り除いた結果) ●新世代のエストロゲン製品 ○SERM(選択的エストロゲン受容体調整薬) ・心臓と骨には作用するが、子宮と乳房には働かない。 ●プロゲステロンの使用 ・エストロゲン補充療法にプロゲステロンを組み合わせるほうが効果的で、しばしば安全であることが分かった。 ・人工的に作られたプロゲステロン、すなわちプロゲスチンは、多くの副作用の原因になると一部の医師は考えている。 ・デービッド・G・ウィリアムス博士によると、プロゲスチンは月経不順や停止、液体貯留、嘔気、不眠、黄疸、抑うつ、発熱、体重変動、アレルギー反応、男性化などを引き起こすことがあるという。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
ネットニュースによる関連情報
●更年期のホルモン補充療法の効果とリスク ・2003年に行われた女性の健康イニシアチブ研究では、健康な閉経後女性に対するHRTの効果を検討し、乳がん・脳卒中・静脈血栓塞栓症の増加が報告された。それを受けてHRTの使用が80%減少した。 ・2007年の再分析によって、閉経から10年以内の女性にHRTを与えたところ、心血管障害のリスクと問題が減少したことが明らかとなった。 ・バーミンガム市立病院のシャガフ・バコール名誉上級講師は"乳がん増加のリスクは、肥満・アルコール摂取のような他の要因よりもはるかに低い。HRTは更年期症状に最も効果的な治療法であり、個別に調整されたHRTならば、効果は最も最大限に、リスクは最小限となる。"と述べている。