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フレイル、サルコペニア
●フレイル(虚弱、脆弱) ・多くの人々は健康な状態から、フレイルの状態になり、そして"要介護状態"になる。 ●簡易フレイルスコア 以下の設問で3点以上でフレイル、1~2点でプレフレイル ・6ヶ月間で2~3キロの体重減少があったか?(はい:1) ・以前に比べて歩く速度が遅くなってきたか?(はい:1) ・ウォーキングなどの運動を週に1回以上しているか?(いいえ:1) ・5分前のことが思い出せるか?(いいえ:1) ・(ここ2週間)わけもなく疲れた感じがするか?(はい:1) ●サルコペニア ・加齢に伴い、筋肉が減少する状態。 ・筋肉量は20歳代後半30歳代頃がピークだが、80歳になると5~7割程度まで低下してしまう。 ・フレイルは、サルコペニアによる身体的要因に加え、認知機能・うつ状態などの精神的要因、社会的要因などが絡んで要介護状態に向かっていく段階。 ●サルコペニアとフレイルの対策 ・有酸素運動や軽い筋トレ。 ・高たんぱく、ビタミンDを多く含む食事。ビタミンDはカルシウムの骨への吸収を良くしたり、筋肉を作ったり、動脈硬化を予防したりする働きがある。 ※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』
●サルコペニアと歯の関係 ・よく噛めなくなってくるとたんぱく質の摂取が減ってきて、糖質が増えてくることがわかっている。ご飯や糖類は多少噛めなくても食べることができる。 ※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』
高齢者の消化、吸収、エネルギー代謝
●消化・吸収
○胃酸(病原菌の殺菌やペプシノーゲンの活性化)
・加齢による変化を受けやすく、高齢者では低酸症を来しやすい。
これは加齢自体によるものよりは高齢者で高率に感染しているヘリコバクター・ピロリ菌の影響を受けることによる場合が多い。
○ペプシン(タンパク質を分解する作用)
・健康な高齢者では大きな減少がないとされるが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染により産生が低下することが知られる。
○膵臓の外分泌ホルモン
・加齢と共に減少することが言われているが、大きく健康障害に関連するほどの低下ではない。
○小腸の栄養吸収能
・加齢による変化がほとんどないことが知られる。
○大腸
・高齢者、特に80歳以上では便の排出速度が遅くなることが報告されている。
そのために水分の吸収が過度に起こり、便秘のリスクになる可能性がある。
●エネルギー代謝
○基礎代謝
・加齢と共に減少し、縦断調査の結果よりおおよそ10年の経過により1~3%程度減少し、特に男性での減少率が大きいことが報告されている。
この現象は加齢に伴う除脂肪組織の減少によることが想定されている。しかし、除脂肪組織量で調整しても高齢者では成人に比較し5%程度基礎代謝量が低いことが報告され、またその原因は十分解明はされていない。
・加齢に付随する基礎代謝量の減少は必ずしも直線的に変化するわけではなく、男性では40歳代、女性では50歳代に著しく減少することが報告されている。
女性の場合は、閉経後の除脂肪組織が減少するためと考えられる。
●たんぱく質代謝と筋肉
・食事摂取により骨格筋のたんぱく質合成が増加し、一方でたんぱく質異化(タンパク質を生体が分解して代謝すること)は減少する。
これは食事摂取により増加する栄養素並びにホルモンによるものであるが、特に血中のアミノ酸やインスリンは食後の骨格筋たんぱく質同化作用に主要な要因として理解されている。
・アミノ酸の全てに骨格筋たんぱく質同化作用があるわけではなく、必須アミノ酸、特にロイシンに強い筋肉たんぱく質同化作用が存在することが知られる。
・高齢者では、食後(たんぱく質摂取後)に誘導される骨格筋におけるたんぱく質合成が成人に比較し反応性が低下しており、anabolic resistance(同化抵抗性)が存在すると報告されている。
・運動、特にレジスタンス運動によっても筋肉でたんぱく合成が誘導されることが知られる。
一方、アミノ酸が十分に供給されない空腹時に運動を実施すると、筋肉においてたんぱく合成よりも異化反応が亢進し、正味たんぱく質量が減少する。
したがって、筋たんぱく合成に最も有効なのは運動(特にレジスタンス運動)とアミノ酸の供給を同時期(運動後1時間程度後)に実施することである。
○胃酸(病原菌の殺菌やペプシノーゲンの活性化)
・加齢による変化を受けやすく、高齢者では低酸症を来しやすい。
これは加齢自体によるものよりは高齢者で高率に感染しているヘリコバクター・ピロリ菌の影響を受けることによる場合が多い。
○ペプシン(タンパク質を分解する作用)
・健康な高齢者では大きな減少がないとされるが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染により産生が低下することが知られる。
○膵臓の外分泌ホルモン
・加齢と共に減少することが言われているが、大きく健康障害に関連するほどの低下ではない。
○小腸の栄養吸収能
・加齢による変化がほとんどないことが知られる。
○大腸
・高齢者、特に80歳以上では便の排出速度が遅くなることが報告されている。
そのために水分の吸収が過度に起こり、便秘のリスクになる可能性がある。
●エネルギー代謝
○基礎代謝
・加齢と共に減少し、縦断調査の結果よりおおよそ10年の経過により1~3%程度減少し、特に男性での減少率が大きいことが報告されている。
この現象は加齢に伴う除脂肪組織の減少によることが想定されている。しかし、除脂肪組織量で調整しても高齢者では成人に比較し5%程度基礎代謝量が低いことが報告され、またその原因は十分解明はされていない。
・加齢に付随する基礎代謝量の減少は必ずしも直線的に変化するわけではなく、男性では40歳代、女性では50歳代に著しく減少することが報告されている。
女性の場合は、閉経後の除脂肪組織が減少するためと考えられる。
●たんぱく質代謝と筋肉
・食事摂取により骨格筋のたんぱく質合成が増加し、一方でたんぱく質異化(タンパク質を生体が分解して代謝すること)は減少する。
これは食事摂取により増加する栄養素並びにホルモンによるものであるが、特に血中のアミノ酸やインスリンは食後の骨格筋たんぱく質同化作用に主要な要因として理解されている。
・アミノ酸の全てに骨格筋たんぱく質同化作用があるわけではなく、必須アミノ酸、特にロイシンに強い筋肉たんぱく質同化作用が存在することが知られる。
・高齢者では、食後(たんぱく質摂取後)に誘導される骨格筋におけるたんぱく質合成が成人に比較し反応性が低下しており、anabolic resistance(同化抵抗性)が存在すると報告されている。
・運動、特にレジスタンス運動によっても筋肉でたんぱく合成が誘導されることが知られる。
一方、アミノ酸が十分に供給されない空腹時に運動を実施すると、筋肉においてたんぱく合成よりも異化反応が亢進し、正味たんぱく質量が減少する。
したがって、筋たんぱく合成に最も有効なのは運動(特にレジスタンス運動)とアミノ酸の供給を同時期(運動後1時間程度後)に実施することである。
高齢者のたんぱく質摂取の重要性
●たんぱく質摂取と高齢者の健康維持 ・フレイル(高齢による衰弱)とサルコペニア(老化に伴う筋肉量の減少)の予防のターゲット臓器とゴールは骨格筋とその機能維持であり、骨格筋量、筋力、身体機能は栄養素としてはたんぱく質摂取量に強い関連がある。 ・高齢者では健康維持のために必要な十分なたんぱく質摂取ができていないとの事実も報告されている。 ●たんぱく質摂取と骨格筋 ○たんぱく質摂取と体重の減少 ・地域在住の70歳代の高齢者を3年間観察。 ・3年間の除脂肪体重の減少が、登録時の総エネルギー摂取量当たりのたんぱく質摂取量に依存し、五分位で最もエネルギー摂取量当たりのたんぱく質摂取量が多い群(平均91.0g/日、1.2g/kg体重/日)では、最も低い群(平均56.0g/日、0.8g/kg 体重/日)に比較し、交絡因子で調整後においても除脂肪体重の減少が40%抑制されていた。 ○最近のコホート調査 ・たんぱく質摂取量が少ないことは3年後の筋力の低下と関連。 ・高齢女性の3年間の観察で、たんぱく質摂取量が少ないとフレイルの出現のリスクが増加することが確認されている。 ○同化抵抗性(anabolic resistance)とたんぱく質摂取量 ・高齢者では同化抵抗性(anabolic resistance)が存在しており、アミノ酸が筋肉に供給されたとしても筋肉たんぱく質同化作用が成人に比較し弱い可能性がある。 しかし、高齢者の筋肉細胞もアミノ酸供給を増やすことにより、たんぱく同化作用は十分惹起される。 →骨格筋でたんぱく質合成を誘導するには高齢者では成人以上にアミノ酸の血中濃度を上げる必要があり、そのためには十分なたんぱく質の摂取が必要となることを示唆する。 ・筋肉たんぱくの合成を促すために必要なロイシンを始めとする不可欠アミノ酸の濃度(閾値)が存在しており、高齢者では成人よりもその閾値が高いと想定されている。 ・7.5g/食未満の不可欠アミノ酸摂取では高齢者では筋肉の同化は誘導されないが、10~15g/食の不可欠アミノ酸の摂取では成人と同様に筋肉でたんぱく合成が誘導される。 →少なくとも毎食良質なたんぱく質を25~30g程度摂取しなければ骨格筋で有効なたんぱく合成が1日を通して維持できないない可能性がある。 ●たんぱく質並びにアミノ酸の介入研究 ・サルコペニア予防及び改善の観点から、栄養補給、レジスタンス運動、又は両方を組み合わせた介入研究は、国内外で多く報告されている。 ○通常の食品からたんぱく質を補給 ・60歳以上のサルコペニアと診断された高齢者40人を対象とした3か月間のランダム化比較試験(RCT)。 ・高たんぱく質食品(リコッタチーズ210g/日:70g×3食 エネルギー:267kcal/日、たんぱく質:15.7g/日)を補給したが、男女共に骨格筋量、筋力共に有意な増加を示さず、食事中に高たんぱく質の食品を増量することが難しい上に、筋肉量や筋力の改善の可能性が低いことが示された。 ○サプリメントとしてたんぱく質を補給 ・虚弱高齢者65人を対象としたRCTでは、たんぱく質15g含有のミルクプロテインリキッド250mLを1日に2回補給したところ、身体機能は有意に改善したものの、骨格筋量の増加は認められなかった。 ・身体機能の低下した高齢男女95人を対象に、11種のアミノ酸を混合したサプリメント12gを3か月間補給し、歩行能力や筋力を比較した研究において、アミノ酸補給群では歩行能力が改善し、筋力の増強を認め、高齢者へのアミノ酸の経口投与は、歩行能力、筋力向上に効果がある可能性が示された。 ○HMBを補給 ・β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(beta-hydroxy-beta-methylbutyrate:HMB)はロイシンの体内における代謝産物であり、筋肉におけるたんぱく質合成を誘導する重要な働きをすると想定されている。ロイシンの約5%がHMBに変換されると報告されている。 ・台湾の施設入所高齢者を対象に行われたRCTでは、HMB2g/日を4週間補給し、BMIなどの身体計測指標、血中尿素窒素及び尿中窒素排泄量などの指標の変化を観察したところ、コントロール群では身体計測指標が低下したのに対し、HMB補給群で2週間後の血中尿素窒素及び尿中窒素排泄量がベースライン値に比べ有意に減少し、また体重、上腕筋囲、下腿周囲長などの指標も有意に改善していた。 ・アメリカの施設入所中の高齢女性を対象としたRCTでは、HMBにアルギニン、リシンを混合したサプリメント(HMB 2g、ARG 5g、LYS 1.5g)を12週間補給した結果、補給群では筋力が有意に増加し、身体機能も有意に向上した。 ・HMB/ARG/LYSを1年間補給したRCTにおいてもたんぱく質の代謝率を増加させたとの報告がある。 ○同化抵抗性を考慮、ロイシン ・近年、高齢者のanabolic resistance(同化抵抗性)が報告され、筋肉たんぱく質合成により効率的なアミノ酸の組成を考慮することが、サルコペニアを改善させる可能性があることが指摘されている。 ・ロイシン含量を高めた不可欠アミノ酸とアルギニンの化合物(ロイシンは全体の35.88%)11gを、1日2回食間に付加する4か月間の介入試験の結果、介入前に比べ、除肪体重と筋力の増加、歩行機能の改善が認められ、ロイシン補給の有用性が示された。 ・2011年に報告されたNicastroらのロイシンとサルコペニア予防に関するレビューでは、五つのサルコペニアとロイシンに関する研究を考察し、ロイシンの補給は高齢者の筋肉の萎縮を改善すると結論づけている。 ・同年に報告されたLeendersらのロイシンとサルコペニア、2型糖尿病の予防と治療に関するレビューにおいても、高齢者へのロイシンの補充が食後の筋肉たんぱく質合成の割合を増加させることを示唆している。 しかしながら、この二つのレビュー共、今後、長期的な介入研究の実施とロイシンの効果に関する基礎的なメカニズムを解明することが必要であるとも述べている。 ○レジスタンス運動と栄養の組み合わせ ・アメリカの100人の施設入所している虚弱高齢者を対象に、レジスタンス運動(週3回)とサプリメントの補給(240mL、エネルギー360kcal、糖質60%、脂質23%、たんぱく質17%)を組み合わせた10週間のRCTの結果、栄養介入単独では筋力の増加効果はなかったが、レジスタンス運動と栄養補給を組み合わせることにより有意に下肢筋力が向上することを報告した。 ・筋力トレーニングをしている閉経後の女性29人を対象としたデンマークにおけるRCTでは、高たんぱく質サプリメント(たんぱく質10g、ビタミンD 5μg、カルシウム250mgを配合)を24週間補給した結果、補給群では筋肉量及び筋力の増加が認められ、さらに大腿部の骨塩量に有意な改善が認められた。 ・アメリカの70歳の地域在住高齢者を対象としたRCTにおいても、レジスタンス運動中にHMBを毎日3g補給することにより、筋肉量の増加が期待できることが示された。 ・しかしながら、一方では、レジスタンス運動とミルクプロテインなどのサプリメント補給を組み合わせた介入試験において、たんぱく質の補給は筋肉量の増加や筋力の増強には関連がなかったとの相反する報告もある。 ・最近、日本人を対象とした、ロイシン高配合(42%)のサプリメントとレジスタンス運動を組み合わせた介入試験の結果が報告された。地域在住のサルコペニアが顕在化している75歳以上の155人の高齢女性を対象としたRCT研究で、レジスタンス運動(週2回のトレーニング)のみ、レジスタンス運動とサプリメント補給(ロイシン高配合アミノ酸のサプリメント3gを1日2回)、サプリメント補給のみ、コントロールの4群で3か月間の介入後、レジスタンス運動とロイシン高配合アミノ酸サプリメントを組み合わせた群において、高齢女性の筋量、歩行速度、筋力が有意に改善することを明らかにした。 ・このように運動療法と栄養補給療法の併用による筋肉量や筋力への効果について、様々な成果が報告されているが、2012年に発表されたメタ・アナリシスの結果では、若年者、高齢者共に運動中にたんぱく質を補給することは筋肉量と筋力の増大を促進すると結論づけ、さらに2013年に発表されたレビューにおいても、サルコペニアの高齢者に対する運動療法と栄養療法の併用が有用であると述べている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
高齢者の健康とビタミンDとの関係
●ビタミンDの効果 ・ビタミンDはカルシウム代謝、骨代謝に密接に関わっており、高齢者においては骨粗鬆症との関連が以前より注目され、腸管でのカルシウム吸収を促すため、カルシウム摂取量が相対的に少ない日本人にとって重要な栄養素である。 ・近年、ビタミンDは骨以外の骨格筋などの組織にも何らかの本質的な役割を果たしている可能性が示唆されている。 ●ビタミンD欠乏の影響、欠乏を回避するのに必要な量 ・高齢者を対象とした三つの横断研究及び一つの縦断研究(合計3,000人程度)より、血中25-ヒドロキシビタミンD(体内のビタミンD量の指標となるビタミンDの代謝物)濃度が50nmol/L未満であると身体機能の低下、筋力の減少、血中パラトルモン(副甲状腺ホルモン)濃度の増加、転倒及び骨折のリスクが高いことが報告されている。 ・ビタミンD欠乏は転倒や骨折などから身体活動が低下し、筋肉量を減少させサルコペニア及びフレイルのリスクを高める恐れがある。 ・アメリカの高齢女性約6,000人を対象とした調査において、血中25-ヒドロキシビタミンD濃度が50~75nmol/Lの範囲において、フレイルのリスクが低いことが報告されている。 ・血中25-ヒドロキシビタミンD濃度を75nmol/L以上に維持するためには、経口で25μg/日以上のビタミンD摂取が必要である。 ・平成22、23年国民健康・栄養調査によると、日本人70歳以上のビタミンD摂取量は、平均値で9μg/日程度である。 ●ビタミンDが効果を発揮する閾値 ・幾つかの介入試験の結果、ビタミンD欠乏に対する10~20μg/日のビタミンDのサプリメントは身体機能や筋力を向上させ、転倒や骨折のリスクを下げるが、ビタミンDが不足していない(血中25-ヒドロキシビタミンDが50nmol/L以上)対象者や筋力が低下していない対象者に対して、ビタミンDのサプリメントの効果はあまり期待できない。 ・アメリカの地域高齢者約2,500人を対象とした調査において血中25-ヒドロキシビタミンD濃度と身体能力向上との関係は70~80nmol/L、筋力向上との関係は55~70nmol/Lで閾値となる報告がある。 ・ビタミンDサプリメント量を20μg/日以上に増やしても、それ以上の効果が期待できないとする報告もある。 ●日光浴によるビタミンDの産生 ・ビタミンDは、紫外線を浴びることにより皮膚でも産生される。 ・食事のみからサルコペニア・フレイルの予防を期待する量のビタミンDを摂取することは困難であるため、適度な日光浴は有効な手段である。 具体的には、晴れた日なら10~15分、曇りならば30分程度屋外で過ごすことが勧められる。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
高齢者の健康とビタミン、脂肪酸との関係
●抗酸化作用に関連のある栄養素 ・高齢者では、加齢に伴いフリーラジカル産生が増加し、種々の臓器障害に関連していることが知られる。ある種の栄養素(ビタミンC、ビタミンE、カロテン類、ポリフェノール類(フラボノイド類)、またスーパーオキシドジスムターゼやグルタチオンペルオキシダーゼの補助因子(亜鉛、セレン、マンガン)など)は、活性酸素種の産生や脂質過酸化反応、アポトーシス、たんぱく質の酸化、細胞膜の損傷、またDNA及びベータアミロイドの毒性や蓄積を阻害することで、酸化反応による神経細胞の損傷や細胞死を抑制すると思われる。 これら抗酸化作用に関連する栄養素の摂取量が少ないと、運動機能が低下し、フレイル状態に陥る可能性があると報告されている。 ●ビタミンC、ビタミンE ・ビタミンC及びビタミンEを含むサプリメントの摂取とレジスタンス運動を組み合わせたカナダでの二重盲検ランダム化比較試験では、6か月間のビタミンC:1,000mg/日及びビタミンE:600mg/日摂取と運動の併用で、除脂肪量と筋肉量指標が増加した報告がある。 ・アメリカの地域高齢者を対象とした観察研究では、血清α-トコフェロール濃度15.87μmol/Lをカットオフとして、ビタミンEの血中濃度が低値であるとフレイルへ陥るリスクが上昇した。 ・イタリアでの3年間の縦断研究では、登録時の血中ビタミンB6、B12、葉酸、鉄濃度と身体機能低下との関連性は見いだされなかったが、血中ビタミンE濃度が四分位の最低レベル〔カットオフ1.1μg/mL(24.9μmol/L)〕では、3年後の身体機能低下との関連を認めている。 ・イギリスでの横断研究(ビタミンE摂取量中央値:男性10.2mg/日、女性10.0mg/日;ビタミンC摂取量中央値:男性132mg/日、女性150mg/日の集団)ではビタミンE摂取量と身体機能との関連は認められていないが、ビタミンCの摂取量は女性のみで身体機能との関連を認めている。 ・このように、抗酸化に関連するビタミンであるビタミンE並びにビタミンCとサルコペニア並びに身体機能との関連については、いまだ十分な科学的根拠の蓄積があるとは言えない。 ●ビタミンA ・ビタミンAについては、血清カロテノイド並びにレチノールとフレイルの出現との関連を検討した3年間のアメリカの前向き縦断研究では、血清カロテノイドの低値(対象者の下位1/4、血清カロテノイド濃度1.038μmol/L 未満)とフレイル出現との関連を認めるが、血清レチノール濃度の低値(レチノール濃度1.97μmol/L未満)との関連性は認めていない。 同じコホートで、ADL(activities of daily living:通常の日常生活に必要な基本的な活動)障害の出現と関連性を検討すると、同濃度のカットオフで、血清カロテノイド、レチノール共に新たなADL障害の出現と有意な関連はなかった。 ・イギリスでの横断研究では、β-カロテン摂取量の中央値が、男性3,115μg/日、女性3,471μg/日の集団では、女性のみ身体機能低下と関連がみられた。 ・このように、ビタミンAとフレイル並びに新たなADL障害の出現との関連についても、一定の結果が得られていない。 ●セレン ・アメリカの研究では、血清セレン濃度105.7μg/L(1.3μmol/L)をカットオフとして、3年間の追跡で、血清セレン濃度の低値と新たなADL障害との関連を認めた。 ・イギリスの横断研究で、セレン摂取量の中央値が、男性52.5μg/日、女性52.1μg/日の集団では、女性のみ身体機能低下との関連を認めている。 ・このように血清セレンはフレイルティとの関連がある可能性があるが、今後更なる科学的根拠の蓄積が望まれる。 ●ホモシステインとホモシステインに関連するビタミン ・加齢に伴い、血漿ホモシステイン濃度は上昇し、この血中濃度の上昇は多様な疾患発症との関連が報告されている。 ・ビタミンB6、B12、葉酸はいずれが欠乏してもホモシステインが上昇する。 ・アメリカの研究では、血中ビタミンB6濃度4.4ng/mL(17.8nmol/L)、ビタミンB12濃度313.0pg/mL(230.9pmol/L)をカットオフとして、3年間の追跡で、これらのビタミンの低下とADL障害との関連を認めている。 ・オランダの横断研究では血漿ホモシステインと身体機能との関連はあるものの、高齢女性では、血中ビタミンB12濃度と身体能力の関連は明らかではなかった。 ・ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸欠乏がフレイル、ADL障害の独立した要因か否かはいまだ十分な科学的根拠が得られておらず、今後の研究が待たれる。 ●ビタミンB12 ・50歳以上の多くの中高齢者は、萎縮性胃炎などで胃酸分泌量が低下し、食品中に含まれるたんぱく質と結合したビタミンB12の吸収率が減少する。 特に高齢者では、加齢による体内ビタミンB12貯蔵量の減少に加え、食品たんぱく質に結合したビタミンB12の吸収不良によるビタミンB12の栄養状態の低下と神経障害の関連が報告されている。 このような中高齢者の多くは、胃酸分泌量は低下していても内因子は十分量分泌されており、遊離型のビタミンB12の吸収率は減少しない。 ビタミンB12欠乏状態の高齢者に遊離型ビタミンB12強化食品やビタミンB12を含むサプリメントを数か月間摂取させるとビタミンB12の栄養状態が改善されることが報告されている。 ・最近、ビタミンB12の栄養状態を示す各種バイオマーカーが適正となり、血清ビタミンB12濃度が飽和するには6~10μg/日のビタミンB12の摂取が必要であることが報告された。 加齢に伴う体内ビタミンB12貯蔵量の減少に備えるためには、若年成人からビタミンB12を6~10μg/日程度摂取することで体内ビタミンB12貯蔵量を増大させ、高濃度に維持させておくことが必要。 ●脂肪酸 ・イタリアの前向き研究では、n-6/n-3比の高値と、身体機能低下と関連するという報告がある。 ・アメリカのRCTでは、8週間サプリメント(EPA:1.86g、DHA:1.50g 含有/日)を補給した結果、n-3系脂肪酸は高齢者において筋肉たんぱく合成を促進し、サルコペニアの予防と治療の可能性を報告している。 ・アメリカでのRCTの先進研究では、6か月間魚油(EPA:360mg/日、DHA:240mg/日)を補給した結果、身体能力が上昇したという報告がある。 ・しかし、なお十分な科学的根拠は得られておらず、フレイル予防のための摂取量については言及できない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
ネットニュースによる関連情報
●低重量の高反復回数の運動で骨密度アップ ・週当たり2~3回のボディパンププログラム(低重量高反復回数のレジスタンストレーニング)を27週間実行した被験群は、脚部において8%の骨密度増加が見られ、腰椎で7%、脊椎で4%の骨密度増加が見られた。
●加齢にともなう筋力低下にAMPKが関係? ・AMP活性化たんぱくキナーゼ(AMPK)を欠損したマウスでは、通常の中年マウスに比べて、予想以上に筋力低下が著しく進行することがわかった。 ・このAMPKの代謝的スイッチが、運動を行う事やメトフォルミンやサリチル酸など一般的に利用されている薬を利用することによってオンになるという研究報告もある。
●>ビタミンEの細胞膜再生に対する効果 ・ビタミンEと健康な筋群に関連性が見られることはこれまで確立した根拠として知られてきた。 ・ビタミンEは強力な抗酸化性が知られており、これがないと細胞膜の機能が適切に働かず、細胞の再生が進まないことが知られている。 ・ビタミンEが欠乏状態にあるラットは対照群に比べて一般的に走行能力で劣っていた。 ・ビタミンE欠乏ラットでは細胞膜の再生が不完全であったのに対し、通常食ラットもしくはビタミンE給餌ラットでは健康的な細胞のように再生が起こっていた。 ・ビタミンE欠乏給餌のラットでは大腿筋の筋線維がより小さく、炎症性傾向が高いことも確認された。