※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
記憶と睡眠の関係
※以下の記事も参照。
神経可塑性、脳回路の再配線、神経発生の”臨界期、睡眠との関連”
神経可塑性、脳回路の再配線、神経発生の”臨界期、睡眠との関連”
●記憶の分類 ・宣言的記憶(言葉で説明可):海馬、大脳皮質 エピソード記憶(場所、時間、個人的) 意味記憶(一般的な事項) ・非宣言的記憶 手続き記憶(技巧、運動):大脳皮質、大脳基底核、小脳 情動記憶:扁桃体、海馬 ●睡眠と記憶の関係 ・睡眠によって、知能テストの成績が高くなる。知的能力、認知力も向上。 ・睡眠を取った方が記憶がより保持される。 ・睡眠で技能レベルが向上。 ・睡眠は、手続き記憶の強化に非常に重要。 ・睡眠によって、古い記憶が向上することはなく、新たに覚えた比較的最近のものを向上させる。 ○レム睡眠 ・記憶と学習に重要な役割。 ○ノンレム睡眠 ・深いノンレム睡眠が記憶の強化に重要な働き。 →ニューロン自体の維持や細胞間のつながりの再構築を行うには脳は眠っていたほうが都合が良い? ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
●睡眠と記憶の関係 ・運動を基本とした技能は一晩眠ると向上する。 ・単語の記憶のようなものでも記憶を保護する力を持っているようだ。 ・単に睡眠が記憶を崩壊や干渉から消極的に守る(記憶が消えないよう、書き換えられないよう、または新しく入ってくる別の情報と混同しないようにする)だけではない。 ●記憶固定 ・記憶固定の標準的な理論では、新しく学習した効果はまず海馬でコード化されるが、固定の過程を通して貴重な知識が大脳新皮質に移されていくにつれ、少しずつ海馬から独立するとみなされている。 海馬から新皮質への情報伝達はアセチルコリンによって抑制される。そのため、海馬から新皮質へと知識が移動するためには、徐波睡眠中にアセチルコリンが大幅に減少することが不可欠とされてきた。 ●シナプス恒常性モデル ・ヒトは常に大量の情報に接するが、そのほとんどは不要で記憶する必要がない。 しかし、脳はこのような情報をいつも能率的に選別できるわけではないので、シナプスは過剰に増強され、飽和状態になることもある。 こうなると新しい情報を取り込めない状態なので、不要な情報を除去して整理する必要が出てくる。 ・シナプス恒常性モデルは、徐波睡眠が全般的にシナプスをダウンスケーリング(シナプスをだんだんに弱めるまたは脱増強する)する事によって、システム全体をリセットするとみなしている。 このダウンスケーリングは新しい学習のスペースを生み出すだけでなく、雑音を排除する働きもある。 ●徐波睡眠中の記憶の再生と強化 ・徐波睡眠中にはシナプスのダウンスケーリングが起きているが、記憶の再生の結果として、シナプスの強化、記憶の固定も同時に起こっている。 ●眠りが情報を統合し、要約している ・複数の情報源からの情報を結びつけるためには睡眠が重要。 ・睡眠は、統計的規則性や全般的な原則を導き出したり、新しく得た記憶をもっと古い知識構造に組み込んだり、一連の関連した断片をつなぎ合わせてもっと大きな全貌を明らかにしたりするのに役立っている。 ・情報のオーバーラップモデル(iOtA) 複数の記憶が同時に再生されると、共通した再生領域に関連するニューロン、つまり"オーバーラップ"したニューロンがほかのニューロンより強く活性化する。 その後、シナプスのダウンスケーリングが発生した時、その後まで残るのはオーバーラップしている部分だけになると考えられる。 ●睡眠不足と学習 ・海馬の活動が著しく低調になる。海馬を十分に動員できないと学ぼうとしている情報が神経回路に正しく刻み込まれず、後で記憶が薄れてしまう。 ・不快・否定的な情報には影響を与えない。 否定的な情報は進化の面からは重要な意味を持つことが多いため? ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
●レム睡眠と記憶 ○アビ・カルニとドブ・サギの研究 ・夜間に6回、レム睡眠を妨害すると学習が完全に損なわれるのに対し、ノンレム睡眠ではめったに損なわれないことを発見した。 →記憶の断片を一つにまとめ、それを連携して記憶を長期に保つのに、レム睡眠が重要? 大脳皮質がはじめての体験で得た感覚情報を処理し、それを送った先の海馬で睡眠中にその経験が反復され、長期記憶として脳裏に深く刻み込まれていく。 ○PETの観察 ・レム睡眠の間、扁桃体、前帯状回、後頭葉が互いに連絡を取り合っている様子が、PET の画像を見ればはっきり分かる。 ※参考資料『ジョン・J.レイティ(2002)脳のはたらきのすべてがわかる本 角川書店』
●レム睡眠は記憶と関係しない? ・抗うつ剤によってレム睡眠を抑制しても何ら記憶障害が見られない。 ・覚醒時に使われた記憶がレム睡眠時にも同じようによみがえっただけ?夢の作成には寄与していたとしても記憶の固定化とは関係ない? ・新しい技能や習慣(自転車に乗る、楽器の演奏など)を学ぶ事に関連した手続き記憶は、意識的に覚えるのではなく練習でうまくなるもので、これにはレム睡眠がいくらか役に立っているかもしれない。動きを含む技能は、レム睡眠中の麻痺した動きが一役買っている? ※参考資料『ジム・ホーン(2011)眠りの科学への旅 化学同人』
オーバーナイト・セラビーとレム睡眠
・恐怖に対する無意識の体の反応と考えられるものすべては大部分がノルエピネフリンと呼ばれる神経伝達物質によってコントロールされている。 ノルエピネフリンがなければ、ほんとうに恐ろしい状況に陥っても、体に恐怖心を引き起こす反応は起きない。 ・脳内のノルエピネフリンの濃度はレム睡眠中に最も低くなる。そのため、レム睡眠中に記憶が再生されるとき、それがどんなに恐ろしいものでも通常の体の反応(脈拍数の増加や瞳孔の拡張など)を呼び起こさない。 レム睡眠中に恐ろしい出来事の夢を見ても、感情システムはいつものように反応できない。 ・オーバーナイト・セラピー仮説は、この種の感情システムを伴わない記憶の再生によって、記憶の内容は強化されるかもしれないが、感情的な面はすっかり失われるはずだ、とする。 睡眠によって感情的な記憶の記憶自体は強化される可能性があるが、レム睡眠での再生の結果、記憶から感情的な内容は切り離されるという考え方。 ・睡眠中にレム睡眠を経験できない人達がいて、このようなレム睡眠欠乏が起きると、PTSDのリスクが高まることがわかっている。 ・レム睡眠中にノルエピネフリンの濃度が通常より高いと、PTSDのリスクが高まることが明らかになっている。 ●ストレスによる影響 ・オランダ、ドンデルス脳認知行動研究所ハイン・ヴァン・マルレの研究 睡眠によって感情的反応が弱まる程度は、睡眠中のストレスレベルに直接関係している。 コルチゾールの濃度が正常だった被験者では、睡眠後に不快な画像を認識すると扁桃体の反応は高まったが、人工的にコルチゾールの濃度を高めた被験者では、そのような反応の変化はなかった。 ・コルチゾール濃度が異常に低い人はPTSDを発症する割合がはるかに高い。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』