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- インスリンの作用、インスリンの悪影響
- インスリン抵抗性、インスリンパラドックス
- インスリンと炎症との関連
- 日本人のインスリンの分泌の特徴
- インスリンによる治療の弊害
- 加齢による影響
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
インスリンの作用、インスリンの悪影響
・血液中から筋肉や脂肪、肝臓組織の細胞へとグルコースを送りこみ、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄積させる。 ・高濃度のインスリンにさらされると、細胞は細胞膜表面のインスリンに反応する受容体の数を減らして順応する。 ・インスリンは、タンパク同化ホルモンでもある。成長を促し、脂肪の形成と維持を促進し、炎症を助長する。 インスリン値が高いときには、ほかのホルモンはインスリンのせいで増加するか減少する。 ※Opinionator » Is Alzheimer’s Type 3 Diabetes? Comments Feed ・インスリン抵抗性は、脳の変性や認知低下のリスク要因? 血糖値が正常でもインスリン抵抗性がないとは限らない。空腹時インスリン値を確認する必要がある。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す 三笠書房』
●インスリンの弊害 ・インスリンは強力な発がん物質でもある。 ・肥満等がありインスリン抵抗性が生じると基礎分泌インスリンも高値となり、高血圧や肥満のリスクとなる。 ・2007年、厚生労働省研究班は、インスリン値の高い男性は最大で3倍程度大腸がんになりやすいという研究を発表。 ○ロッテルダム研究 ・60~90歳までの約7000人を対象とした疫学研究。 ・糖尿病治療でインスリン注射をしている人は、インスリン注射をしていない糖尿病の人の約2倍、糖尿病でない人と比べて約4倍もアルツハイマー病になりやすい。 ・インスリン注射をしている人の発ガンリスクは1.9倍にもまる。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
●過剰のインスリンの悪影響 ・線虫やショウジョウバエなどの研究で、インスリンが効きすぎると寿命が短くなることが確かめられている。 ・ヒトの調査でも90歳を超えた人たちの血中インスリン濃度はとても低い。 →年をとるとインスリンの分泌が低下するのではなく、あまりインスリンをたくさん分泌しなくても血糖を低く抑えられる人(インスリン感受性が高い)が長生きする。 ・インスリン濃度を高くすると、骨格筋のミトコンドリアからの活性酸素の産生量が増えてしまう。 ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
インスリン抵抗性、インスリンパラドックス
●糖尿病でインスリンが利かなくなる原因 ・インスリンが分泌されているにもかかわらず骨格筋細胞がグルコースを受け付けず、ずっと血中グルコースが高いままになってしまう。 内臓脂肪細胞に脂肪が満ち溢れていて血液中にいつでも遊離脂肪酸があると骨格筋細胞はその脂肪酸を燃焼してエネルギーをつくり続ける。 →インスリンが分泌されても血液中のグルコースをわざわざ取り込むことはせず、血糖値は高いままになってしまう。 ・遊離脂肪酸が常にミトコンドリア内に入り込み、エネルギーを作り続けると、活性酸素が発生しやすくなる。 糖尿病の初期段階で血糖値が高い状態が続くと、骨格筋細胞はグルコースを余分に取り込んでしまいエネルギー代謝が過剰になる。この状態も活性酸素を発生しやすい。 活性酸素はインスリンの命令を邪魔して、いくらグルコースがあっても骨格筋にグルコースが取り込めなくしてしまう。 一度インスリンの命令が遮断されると、インスリンがあってもインスリンの命令はその後伝わらなくなってしまう。 ※参考資料『瀬名秀明,太田成男(2007)ミトコンドリアのちから 新潮社』
●インスリン抵抗性、インスリンパラドックス ①血糖上昇→膵臓からインスリン分泌 →インスリンは脂肪分解を抑えて脂肪を溜め込む方向に働く。 →脂肪細胞はどんどん大きくなり、どんどん脂肪を溜め込む。 ②脂肪細胞の脂肪蓄積能力を超える →インスリンが利かないようにする(インスリン抵抗性) →インスリンを利かなくして脂肪の分解を起こし、血液の中に脂肪酸を出そうとする。 ③血中に流れ出た大量の脂肪酸が体のいろいろな臓器に作用して炎症を起こし、臓器を障害 ④膵臓で炎症が起こるとインスリンを分泌するランゲルハンス島の細胞が障害され、インスリンが出にくくなる ⑤少なくなったインスリン分泌とインスリン抵抗性によってさらに血糖上昇 →糖尿病 ⑥脂肪細胞に溜め込まれることを拒否された過剰なエネルギーは、本来脂肪を溜め込む臓器ではない肝臓や骨格筋にまで無理やり溜め込まれる。(肝臓や骨格筋はインスリン抵抗性を示さず、溜め込んでしまう。インスリンパラドックス) ※参考資料『伊藤裕(2010)臓器は若返る 朝日新聞出版』
●インスリン抵抗性 ・筋肉、脂肪や肝臓等に慢性炎症が起こり、インスリン受容体とシグナル伝達系の機能を低下させている。 ●インスリン分泌障害 ・膵β細胞は酸化ストレスなどが生じやすい。 ・高脂肪食、高血糖 →自然免疫系が活性化され、炎症性サイトカインが増し、膵島でマクロファージが活性化され慢性炎症が起こる →アミロイドが増え、アポトーシスによりβ細胞が減少 →インスリン分泌が減少 ・高血糖自体が膵島β細胞を障害することを糖毒性と呼んでいる。糖毒性は、糖尿病の初期であればインスリン注射で血糖値を下げることによって解消され、β細胞は増殖し、膵島は元の状態に戻る。 ※参考資料『金子義保(2012)炎症は万病の元 中央公論新社』
●インスリン抵抗性 ・細胞はインスリンの助けがなければグルコースを取り入れることができない。 ・細胞が正常で健康であれば、インスリンの受容体が豊富にあるため、インスリンは問題なく受け入れられる。 ・グルコースが過剰に存在してインスリンのレベルが高くなりすぎると、インスリンに反応する細胞の表面の受容体の数を減少させる。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』
インスリンによる治療の弊害
●インスリン治療と低血糖 ・インスリン治療で血糖を下げようとしてインスリンを多く投与すると、一日のどこかで低血糖を起こす患者が多いことが分かってきた。 ・血糖が極端に下がりすぎると昏睡状態になり、血糖を元に戻してもときには意識が戻らなくなる事もある。 ・低血糖が起こると血糖を上げようとして、全身の交感神経が過剰に興奮。 →心筋梗塞や心房細動など他の臓器の不具合が起こる。 ・厳格に血糖をコントロールした方が血管の合併症が少なくなるかどうか証明しようとして行われた臨床試験で、厳格にコントロールした方が死亡率が高いという結果になった。 →厳しい血糖のコントロールを目指すあまり、低血糖が多く引き起こされたため? ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
・糖質60%のカロリー制限を実施すると食後高血糖になる。薬剤を使って対応しようとすると、効果が足りないと食後高血糖、効果がありすぎると低血糖を招いてしまう。 ・血糖変動も増加する可能性が高くなってしまう。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
加齢による影響
※加齢によるインスリン低下と運動の効果は以下の記事参照。
運動と老化、長寿の関わり ”加齢によるインスリン低下と運動の効果”
運動と老化、長寿の関わり ”加齢によるインスリン低下と運動の効果”
●加齢によるインスリン分泌の低下 ・加齢で膵臓からのインスリン分泌能力が低下する。 ・常々、多くの糖質を食べていてインスリン分泌の頻度が多いほど、膵臓に負担がかかって早く傷みやすいと考えられている。 ・普段から筋肉を使っているほど、インスリンに対する反応性が良いということが分かっている。トレーニングで筋肉量を保つと有効。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●インスリン関連マーカーと大腸がん罹患との関係について ・運動不足や肥満で大腸がんリスクが高くなるメカニズムの1つに、高インスリン血症の影響が挙げられる。 IGF-Iには細胞増殖を促す働きがあり、IGFBP-1はIGF-Iに結合してその働きを抑える。運動不足や肥満によって血中のインスリン濃度が下がらなくなると、IGFBP-1の産生が抑制され、IGF-Iの働きが活発になる。血中のIGF-Iの活性が高い状態が続くと、その細胞増殖作用などを通じて、大腸がんの発生リスクが高くなると考えられる。 インスリン分泌を反映するC-ペプタイドなどの血液検査の値と大腸がん発生率との関連を調べた。 ※C-ペプタイド 体内でインスリンを生成する過程で生じる副産物で、血中や尿中のC-ペプタイド測定は、インスリン測定の代用となる。 ※IGF-1 成長ホルモンの働きにより産生される物質で、成長促進、細胞増殖やインスリンに似た作用など、さまざまな働きをする。 ※IGFBP-3、IGFBP-1 IGF-1と結合する蛋白 ○結果 ・男性では、C-ペプタイドの値の最も高いグループの大腸がんリスクは、最も低いグループの3.2倍で、値の高いグループほどリスクがだんだん高くなる関連がみられた。女性では、関連がみられなかった。 ・IGF-I、IGFBP-3、IGFBP-1については、男女とも大腸がんリスクとの関連はみられなかった。 ○推察 ・女性で関連が見られなかったのは、日本人女性は欧米の研究対象集団と比べると肥満の割合が低く、C-ペプタイドの値が高い人が少なかったからかもしれない。 また、閉経後女性では脂肪がエストロゲンの主な供給源となるなど、ホルモンを介した肥満の大腸がんへの影響が、女性と男性で違うのかもしれない。 ・IGF-1については、これまでに欧米の研究で繰り返し大腸がんリスクとの関連が示されているが、中国での研究では関連が示されなかった。 今回の研究で、IGF-1の値が大腸がんリスクと関連がなかったのは、ひとつには、対象者がアジア人であったためかもしれない。IGF-1と大腸がんリスクの関係は、遺伝子タイプや生活習慣の影響を受けるのかもしれない。
●血中インスリン、C-ペプチド、血糖値と胃がん罹患との関連について ・血漿インスリン、C-ペプチド、血糖値と胃がん発生率との関連を調べた。 ○結果 ・全体として、血中インスリンが高かったグループとHOMA-IR(インスリン抵抗性の指標)が高かったグループで胃がんリスクが高いことが分かった。 ・男性では血中C-ペプチドが高かったグループでもリスクが高いことが分かった。しかし血糖値と胃がんとの関連はみられなかった。 ・女性においては血中インスリン、C-ペプチドにおいても関連は認められなかった。 ○推察 ・今回の研究の結果、インスリン抵抗性に由来する高インスリン血症のある対象者において胃がんリスク上昇が認められた。 また、男性で高インスリン・C-ペプチド血症における胃がんリスク上昇がはっきりと見られたが、女性では見られなかった。 その理由として、女性ホルモン(エストロゲン)の作用により胃がん発生が抑えられた可能性が考えられる。 ・今回の研究で示された関連のメカニズムについて、これまでの研究から、インスリンがインスリン様増殖因子(IGF-1)の活性化、細胞増殖の誘導、アポトーシスの抑制など、がんの発生・進行につながる変化を誘導する重要な役割を果たすことが推察される。 また、HOMA-β(膵β細胞機能の指標)高値のグループでも胃がんリスクが高くなる傾向がみられたことで、インスリン抵抗性の代償作用として膵β細胞機能が亢進している可能性が示唆された。
日本人のインスリンの分泌の特徴
・欧米人はインスリン分泌能力が高く、太らない限り、最終的に糖尿病にはならない。太っていなければ、食べても十分な量のインスリンが分泌されるため、血糖は上がりにくい。 ・日本人は、インスリンを分泌する力が弱く、肥満になる前に血糖が上がってしまう人が多くいる。日本人の場合、2型糖尿病を発症する人の半分以上が肥満ではない。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
○インスリンの分泌、働き方 ・インスリンの働き方には人種差がある。 2013年、欧米と日本の国際研究チームが、それまでに世界各地で行われた180の研究結果を総合的に分析したところ、同じ量のブドウ糖を注射した時に分泌されるインスリンの量が人種によって違うこと、そして血糖値の下がり方も異なることが明らかになった。 ・日本人を含む東アジア人は、もともとインスリンの分泌量が欧米白人の半分から4分の1しかない。 ・日本人はインスリンの分泌が少なくても、効き方はよくきれいに下がっていたが、最近は効き片が悪くなっている人が増えていて、糖尿病の発症率が上がっている。 →脂質の摂取の増加と運動不足によって内臓脂肪が増加したことが要因? ○内臓脂肪とインスリン ・内臓脂肪が増えると腫瘍壊死因子(TNF-α)の分泌が増加する。 →細胞へのブドウ糖の取り込みを妨げる。 →インスリンの効き目が低下する。 ○内臓脂肪のつき方 ・欧米白人は肥満になっても皮下脂肪はつくが内臓脂肪はあまりつかない。 一方、日本人の男性は内臓脂肪がつきやすい。 日本人女性はつきにくい。エストロゲンに内臓脂肪の分解を促して皮下脂肪に変える作用があるため。 日本人女性の糖尿病の発症率は男性1に対して0.55と少ない。 ※参考資料『奥田昌子(2016)欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」 講談社』