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ストレスとは?
●ストレス学説 ・生体が外部から熱・圧力などの強い刺激や傷害を受けたり、体の中になんらかの有害物質や異物が入り込んだときに、生体が一定の変調をきたす。 ・変調をきたした生体では、副腎皮質の肥大、脾臓や胸腺の萎縮、胃・十二指腸の出血や潰瘍といった一定の状態が引き起こされる。(汎適応症候群) ・"体の外から加えられた種々の刺激に対して、体に生じたひずみとその結果生じる防衛反応の全体像"をストレス状態。 ・ストレスによって視床下部-脳下垂体-副腎系および自律神経系の機能亢進が起こる。 ※参考資料『室伏きみ子(2005)ストレスの生物学 オーム社』
●ストレスの役割 ・人間にもともと備わっているストレス反応は、危険に集中する、反応を起こす、将来のためにその経験を記憶する、という3つに絞られる。 ・ストレスの役割は、上記の"記憶を形成し、呼び起こす"ということ。 ・ストレスを強く感じた状況を記憶しておくのは、適応行動のひとつで、進化上明らかに有用だった。 ・人間がほかの動物と違うのは、目の前に危険が迫っていなくてもストレス反応が起きること。 →恐ろしい状況に陥っていると想像するだけでもストレス反応が起きる。 ・人間は危険を予測し、記憶し、概念化する。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
ストレスの状態
●ストレスの状態 ①警告期 ストレッサーによって交感神経が興奮 ②抵抗期 ストレス状態から回復しようとして、種々の防衛反応が引き起こされる。 ③疲労期 ストレスからの回復がうまくいかず、ストレス状態が長引く ●軽度のストレス、良いストレス ・軽度のストレス状態は、生体にストレス耐性を獲得させ、その後のストレスに対して強く立ち向かうことを可能にする。 ●悪いストレス ・きわめて強いストレッサーにさらされたり、ストレス状態が長く続いた場合、疲労期に移行。 ・生体がストレス耐性を獲得することを妨げ、ストレスに対してますます過敏になる。PTSD ※参考資料『室伏きみ子(2005)ストレスの生物学 オーム社』
闘争・迷走反応、緊急反応、HPA軸
●緊急反応 ・生体が外部からの強い刺激にさらされると、その恒常性(ホメオスタシス)を維持するために、交感神経系とアドレナリン分泌による全身反応が誘起される。 ※参考資料『室伏きみ子(2005)ストレスの生物学 オーム社』
●闘争/逃走反応 ・扁桃核は副腎を刺激して覚醒を促す。 ・上記は、視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を介して行われる。 ①扁桃核が視床下部に副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)というホルモンを分泌し始めるよう指示。 ②CRHが血液中に放出され、脳下垂体前葉によって感知される。 ③脳下垂体前葉は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を血液中に放出し始める。 ④副腎でアドレナリン、コルチゾール、テストステロンなどを血液中に放出し、覚醒状態を高め、消化器系と免疫系をコントロールし、戦いに備える。 ※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』
●緊急反応、ストレスとアドレナリン ・視床下部→副腎体→アドレナリン ○アドレナリンの作用 ・心拍数上昇、筋肉や諸器官に余分に血液を送る。 気管支が拡張し、酸素が大量に吸入され、通常より多くの酸素が脳に送られ、注意力が高まる。 ・出血を抑えるため、皮膚の血管が縮む。凝血を速めるフィブリノゲンが分泌。 ・グリコーゲンとして貯蔵されたブドウ糖を放出させ、蓄積された脂肪を脂肪酸に分解してエネルギーを確保。 ・その間、エンドルフィンという鎮痛作用のある物質を出す。 エンドルフィンが出されるのはよほどの緊急事態。痛みの感覚をなくすのは危険。 ランナーズハイでもエンドルフィンが出る。長時間走り続けると体は危険な状態と判断されるから? ●HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎) ・緊急反応に続く第二陣 ・視床下部が副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)を放出 →CRFが専用の血管を通って下垂体へ →下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌 →ACTHが血管と通って副腎を刺激 →副腎からコルチゾールが血液に放出され、体内を循環。 ※参考資料『ブルース・マキューアン(2004)ストレスに負けない脳 早川書房』
●闘争・迷走反応 ・食べたり生殖したりといった生物として必須の行為も後回しにされる。消化系も遮断される。 ・危険を察知 →扁桃体がメッセージ発信 →副腎からノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌 →交感神経を伝わって副腎を刺激し、アドレナリンを血液に送り込む →心拍数、血圧、呼吸増加 ・扁桃体から視床下部まで、ノルアドレナリンと副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)によって運ばれた信号は、視床下部でメッセンジャー(神経伝達物質)に渡され、メッセンジャーは血液中をゆっくり流れる →下垂体を刺激して副腎の別の部分を活性化 →コルチゾールが分泌。 ○HPA軸(視床下部-下垂体-副腎) ・視床下部→下垂体→副腎。 ・一連のストレス反応で重要な働き。 ・ストレスを察知するとアドレナリンが大量に放出され、筋肉と脳の活動にエネルギーを供給するためにグリコーゲンと脂肪酸をグルコースに変換し始める。 ・アドレナリンは筋紡錘に結合するので、筋肉の静止張力が上昇し、瞬時に動ける状態になる。 ・皮膚の血管は収縮し、傷つけられても出血しにくくなる。エンドルフィンが分泌され、痛みを感じにくくなる。 ・膀胱を収縮する筋肉は、グルコースを無駄遣いしないように弛緩する。 ・唾液も止まる。 ・二種類の神経伝達物質が脳を警戒状態にする。ノルアドレナリンが注意力を呼び覚まし、ドーパミンがそれを研ぎ澄まして鋭くする。 ・血液中を運ばれるコルチゾールは、アドレナリンより作用が遅いが、その効果は広範囲におよび、ストレス反応の過程で様々な役割を果たす。 コルチゾールは、アドレナリンに続いて肝臓に信号を送り、さらに多くのグルコースを血液中に送り出させる。同時に、ストレスに対処するうえでそれほど重要でない組織や器官のインスリン受容体を遮断し、特定の経路を閉鎖して、闘争・迷走反応にとって大切な部位だけに燃料が流れるようにする。つまり、体のインスリン抵抗性(インスリンに反応しにくい状態)を高めて、脳に十分なグルコースを送る。 さらにコルチゾールは、アドレナリンの活動によって少なくなったエネルギーを補給するために、タンパク質をグリコーゲンに変換し、脂肪を蓄えはじめる。 ○慢性ストレス ・上記がハイペースで続くと慢性ストレスの状態になる。 コルチゾールの活動によって余分な燃料が脂肪の形でおなかの周りに蓄えられる。 ・コルチゾールは、IGF-1の分泌を促し、脳にグルコースを供給しようとするが、ストレス反応のHPA軸が燃料を独占するので、思考する部位のエネルギーが奪われてしまう。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
遺伝、性格、環境とストレス耐性
●環境、性格とストレス耐性 ・妊娠中に繰り返しストレスにさらされた母親から生まれたラットは、成長後も、そうでないラットと比べてストレス耐性の閾値が低い。 ・自尊心が低い人はストレス耐性の閾値が低い。自尊心が低いからストレスに弱いのか、ストレスに弱いから自尊心が低いのかははっきりしない。 ・フラストレーションのはけ口がない、自分の人生をコントロールできない、社会のサポートがないといった状況に置かれると、慢性ストレスの影響が現れる。 ・希望がなければ、脳はストレス反応を抑制できない。 ・ストレス耐性の閾値は人によって異なり、また、環境要因、遺伝的要因、行動的要因、もしくはそれらを含む複合的要因によって変わってくる。 ・老化によって自然にストレス耐性の閾値が下がってくる。 ●遺伝とストレス ・無作為に選んだ集団を、人前で話すというストレスの多い状況に置くと、親が緊張症である人はスピーチを終えて24時間経ってもまだコルチゾールの値が上昇したままだった。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
●ストレスと遺伝 ・NPYのようなストレスに関わる物質、それを生み出す遺伝子が、10種類以上確認されている。 ・遺伝的な要因のほかに生育環境も重要な要因であると指摘されている。 ○ユタ大学のブライアン・ミッキーの研究、NPY ・58人の被験者に"殺人者"、"怒り"など否定的な言葉をモニター上で見せることによりストレスを与え、そのときの脳の反応を測定。 ・その結果、NPY(神経ペプチドY)が少ない体質の人は、脳が過敏に反応し、逆にNPYが多い体質の人は、ほとんど反応しなかった。 →NPYが少ない人がストレスに弱く、多い人はストレスに強い。 ・NPYの生成に関わる遺伝子の働きがストレスに対する強さ・弱さを決定付ける要因の一つと考えている。 ・ミッキー氏の研究から、生まれつきNPYが多い体質の人と、少ない体質の人がいることが分かっている。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』
●妊娠時のストレスの仔へ与える影響 ・妊娠したネズミは、ストレスによってグルココルチコイドというホルモンの放出が増える。 →このホルモンにさらされると、その仔に後で様々な問題が生じる。 たいていは通常より小さく生まれ、成長してから高血圧や高血糖になりやすい。 出生前にこうしたストレスを受けてた動物は、成長すると不安行動が多かったり、実験室試験での学習能力が低かったりする。 ●生まれた直後の母親からのケアの影響 ・生後1週間の間に母親からたくさんケアを受けたラットは、成長してからストレスに対して強くなる。 例えば、母親による毛づくろいは、海馬にあるストレスホルモンの受容体を符号化する遺伝子の発現を永久的に増やす。 →こうしたストレスホルモンの受容体が活性化されると、ストレスホルモンの放出は減るため、仔はストレスホルモン系の感度が低下し、成長してから不安をあまり感じなくなる。 母親の最初のケアが悪いと反対の結果になる。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』