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共生微生物の研究、用語
●用語 ・以前、全生物をまとめた概念である生物相は、動物相と植物相に二分されると考えられていた。 細菌は植物相に含まれるという概念に基づき、細菌には"叢=flora"が用いられてきた。 ・現在では、細菌を含む微生物集団は微生物相(マイクロバイオータ)として分類されており、細菌に"叢=flora"が用いられることはなくなった。 ・フローラは、ヒトの中で生きる無数の細菌に対する古い呼称。 ・マイクロバイオータとその宿主との関係を含めたものは、"マイクロバイオーム"と呼ばれる。 ●ヒト・マイクロバイオーム計画 ・健康な若い成人から採取した細菌叢の遺伝子配列を明らかにすることが目標の一つ。 →それによって、どのような微生物がそこにいるかといった情報だけではなく、どのような遺伝子があり、その機能は何かという情報が得られる。 ・ヒト・ゲノムは2万3千個の遺伝子を持つのに対し、ヒトの体内細菌は200万個もの遺伝子を持つと推定されている。 ※参考資料『マーティン・J.ブレイザー(2015)失われてゆく、我々の内なる細菌 みすず書房』
・共生微生物の研究は進んでいなかった。 →人体内に棲む微生物のほとんどは腸内の無酸素環境に適応しているので、人体外で育てる(ペトリ皿で培養する)のが困難で、実験するのが困難だった。 ・ヒトの遺伝子をすべて解読するというヒトゲノム・プロジェクトのおかげで、DNA解析(配列決定)が格段に速く安くできるようになった。 →糞便にまじって体外に出てきた"死んだ"微生物を特定することが可能になった。(微生物は死んでいてもDNAは無傷に残っているため) ○ヒトマイクロバイオーム・プロジェクト ・人体に棲む微生物のゲノムの総体(マイクロバイオーム)を調べて、どんな微生物種が存在しているかを見つけ出そうという計画。 ○塩基配列の解析 ・塩基配列の解析をすると、微生物種の特定と、それが系統樹のどこに位置するかの特定が可能となる。 ・この作業において、16SリボソームRNAと呼ばれる塩基配列の領域はたいへん有用で、バーコードのような役割を果たす。 →ある細菌の全ゲノム配列を決定しなくても、この領域を調べるだけですばやくID確認ができる。二つの微生物種間で16SリボソームRNAの塩基配列が似ていればこの二つの種は近縁に属していることになる。 ○微生物の働きを調べるには ・無菌マウスと共生微生物を抱える通常マウスとを比較実験する。(ノトバイオート・マウス研究) ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
ヒトと共生微生物
※共生微生物とヒトの免疫との関連については以下の記事参照。
腸内細菌とアレルギー、免疫、抗生物質との関係の”旧友仮説、制御性T細胞との関わり”
腸内細菌とアレルギー、免疫、抗生物質との関係の”旧友仮説、制御性T細胞との関わり”
・ヒトの体は30兆個の細胞よりなる。一方、ヒトは、ヒトとともに進化してきた100兆個もの細菌や真菌の住処でもある。 ・微生物は、皮膚、口腔、鼻腔、耳腔、食道、胃、腸管、膣などに棲んでいる。 ・微生物は、時間とともにヒトの身体に常在し、そこで繁栄するための特性を獲得していった。 ・ヒトに棲む微生物は、住まいと食の提供を受ける代わりに、宿主にサービスを提供する。相利共生。 ○サツマイモからタンパク質? ・ニューギニア高地人と共生することで知られるある細菌は、9割がたサツマイモしか食べなくても生きていける体質を宿主にもたらしている。この腸内細菌は、サツマイモからタンパク質を作ることができる。 さらにニューギニア高地人の腸内細菌は、腸内で大気中の窒素を固定して、アミノ酸を作る事さえできる。 ※参考資料『マーティン・J.ブレイザー(2015)失われてゆく、我々の内なる細菌 みすず書房』
●共生微生物と宿主との相互作用 ○皮膚だけでなく、消化管の内壁もヒトの表面、外界と接する境界 ・人体は、一本のチューブのようなもので、食べ物はチューブの一方の端から入ってもう一方の端から出ていく。消化管の内壁もヒトの表面で、外部からの有害物質、微生物などからヒトを守っている。 微生物がつくる"第二の皮膚"は、本来の皮膚細胞による防御を強化して人体内部を二重に守る。 ・ヒトの表面は、チューブの外側である皮膚も内側である消化管の内壁も、すべて微生物の居住地になりうる。 ・人体の表面の各場所によって微生物にとっての棲息環境が異なり(胃は強酸性、前腕は乾燥している、股の下や脇の下は湿っている、顔や背中は皮脂が多い、など)、異なる微生物種が棲息している。 ○微生物が腸壁の細胞に命令を発する ・ジェフリー・ゴードンによる研究 ・通常マウスと無菌マウスの腸内を比べ、細菌のいるマウスの腸壁の細胞が、微生物の発する命令に従って微生物の餌となる分子を放出し、微生物が群落をつくるのを手伝っているのを見出した。 ・マイクロバイオータの存在は、腸の形態まで変える。 →微生物がいる腸壁では指状突起が長く伸び、食物からエネルギーを得るのに必要な表面積を増やしている。 微生物がいない腸壁の表面積は小さいため、無菌マウスは同じエネルギーを得るのに食物を30%多く摂取しなければならない。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
胃腸と共生微生物
●胃 ・強い酸性下にもかかわらず、ピロリ菌をはじめとする細菌が常在している。 ・ピロリ菌がいる場合は、たいてい他の細菌を数で圧倒するが、その他の細菌も少ないながら存在する。 ・ピロリ菌は酸やホルモンの産生、免疫維持に対し重要な役割を演じる。 ●小腸 ・相対的に数は少ないものの、ここにも微生物は存在している。 数の少なさは、微生物が高い活動レベルを有すると、栄養の消化と吸収を阻害するからだと思われる。 ●大腸 ・細菌の密度は体内で最も高い。 ・大腸の細菌叢は非常に有用な一方で、必ずしも生存に必須というわけではない。 ・大腸の細菌は繊維を分解し、デンプンを消化する。小腸を通過したものは、ヒト自身では消化できないものだが、大腸の細菌はそうした通過物をさらに代謝する。 基本的には細菌自身のためだが、そのうちのいくぶんか、特に短鎖脂肪酸はヒトの栄養となる。 ・ヒトが摂取する食物に含まれるカロリーの15%が、大腸の細菌によって抽出され、ヒトの栄養のために使われる。 ・大腸は、暖かく、湿潤な、じくじくとした環境で、特定の性格を持つ細菌群が隣り合って競合しながら暮らしている。 ※参考資料『マーティン・J.ブレイザー(2015)失われてゆく、我々の内なる細菌 みすず書房』