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- 孤独と孤独感
- 人付き合いが面倒と感じている人
- 孤独の害
- 社会的孤立が健康に与える影響
- 孤独と健康に関する因果の経路
- 孤独感と幸福感、収入
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
- ネットニュースによる関連情報
孤独と孤独感
・"孤独感"というのは、あくまで主観的なもの。 ・独りでいても孤独感を感じない人もいれば、大勢に囲まれていても孤独に感じる人もいる。 ・初期の人類は、集団でいたほうが安全だったので、図らずも独りになってしまうと不安に感じ、集団に戻ることを促す遺伝子が選ばれた。同時に、密接な絆を好む性質が強まり、社会と結びついているときに心地よさだけでなく安心感も得るようになった。 ・孤独感は一種の警告であり、それに耳を傾けて善処すれば、良い結果がもたらされる。 ○孤独感がなぜ問題を引き起こすか? ・現代人が孤独感のせいでさらされるストレス要因と、昔ながらの生理機能のミスマッチがある。 ・人間の体は、生活の低次元の慢性的なストレス要因に対して、依然としてまるで命がけで戦っているかのような生理的反応を示してしまう。そして、興奮性化学物質がひっきりなしに分泌され老化を促進する有害な力として作用する。 ※参考資料『ジョン・T.カシオポ(2010)孤独の科学 河出書房新社』
孤独の害
●孤独の害 ・社会とのつながりが乏しいと、集中力や判断力が損なわれ、睡眠の質が落ちて疲労感が増すばかりか、老いが早まり、心臓病、脳血管や循環器の疾患、癌、さらには呼吸器や胃腸の疾患などで死ぬリスクが高まり、その危険度は高血圧や肥満、運動不足、喫煙に匹敵する。 ●孤独感の悪循環 ・人は、社会的に満足しているときよりも、孤独を感じているときのほうが、新たに親しくなる可能性のある人を受け入れようとする度合いがはるかに低い。 ●痛みと孤独感 ・fMRIを使って確認すると、ヒトが拒絶を経験したときに活性化する脳の情動領域(背側前帯状皮質)は、身体的な痛みに対する情動反応を受け取っている。 →社会的に拒絶されたとき(孤立)の感情と身体的な痛みへの反応は脳の同じ場所を共有している。 ※参考資料『ジョン・T.カシオポ(2010)孤独の科学 河出書房新社』
●社会的苦痛と肉体的苦痛 ・社会的苦痛は、肉体的苦痛の感情的要素に関わっているのと同じ、前帯状皮質と呼ばれる脳の構造体と関連している。 →肉体的苦痛と社会的苦痛は、脳の中で同じ場所を共有している。 ○鎮痛剤で社会的な痛みも軽減できる? ・25人の健常者を集め、半数には鎮痛剤を残りの半数には偽薬を3週間に渡って服用させた。 ・3週間の最終日に、社会的な苦痛を与えるゲームを実施してもらったところ、鎮痛剤を服用した人は、偽薬を服用した人に比べて、傷ついた感情のレベルが低かった。 ※参考資料『レナード・ムロディナウ(2013)しらずしらず ダイヤモンド社』
社会的孤立が健康に与える影響
○疫学者のリサ・バークマンの研究 ・他者とのつながりがほとんどない人は多くの触れ合いがある人よりも、9年間の追跡調査の間に死ぬ確率が2倍から3倍高かった。 ・社会とのつながりがほとんどない人は、虚血性心臓病、脳血管や循環器の疾患、癌、呼吸器や胃腸の疾患など、死に至るあらゆる疾患を含む、より広範な原因で死ぬリスクが高かった。 ○1988年、"サイエンス"誌に掲載された論文 ・疾病や若年死の危険因子として、社会的孤立は高血圧や肥満、運動不足、喫煙に匹敵することを、メタ分析の結果から示した。 ○社会的制御仮説 ・物質的援助よりポジティブな影響を与えるだろう配偶者や親しい友人がいないと、人は体重が増えたり、アルコールを飲みすぎたり、運動不足になったりする傾向が強まるのかもしれない。 ○心理学者のダン・ラッセルらの研究 ・アイオワ州の田舎にある2つの郡に住む65歳以上の3097人の病歴を調べ、社会的制御仮説には限界があることを立証した。 ・孤独感の指標値がとても高い人は、4年の調査期間中、施設に収容される率も非常に高かった。さらに、立ち寄って手助けしてくれる姪や、クリニックまで車で送ってくれる隣人がいるかどうかといった、客観的な社会的支援の程度は、孤独かどうかを考慮してみると、介護の強化の必要性を予測する上で確実な指標とならなかった。 ○社会的つながりの頻度、量ではなく、質(主観的満足)が重要? ・重要なのは、社会との関わりの数でも他者が実際に手助けをしてくれる度合いでもなく、社会的なやり取りが社会的なつながりに対する各人特有の主観的な欲求を満足させる度合いではないか? ・毎日決められた時刻に日誌に記入してもらう、という実験では、孤独感との関係がとりわけ強かったのは、他者との交わりにどれだけ意義があるかという、本人が下す評価だった。 ○宗教と健康 ・信仰心の深さと健康の間には何の関連性も発見できなかった。 ・実際に宗教儀式に出席している人たちは死亡率が減少していた。 規則正しく教会やシナゴーグに行く人たちは、同じような境遇にあって行かない人たちより長生きする。 一週間に2回以上教会に行く人は、週に一回だけ行く人より健康状態が良いという"量の効果"さえあった。 ・宗教的な集会に行けば、家族の絆の強化や友人との信頼できる交遊といった効果が得られるのかもしれない。 ※参考資料『ジョン・T.カシオポ(2010)孤独の科学 河出書房新社』
●社会的拒絶と健康 ・社会的拒絶は、感情的苦痛を引き起こすだけでなく、身体の状態にも影響を与える。 ・人間にとって社会的関係はきわめて重要であり、社会的結びつきを欠いていることは、健康にとって、喫煙、高血圧、肥満、運動不足にも匹敵する大きな危険要因となる。 ○社会的結びつきと健康状態 ・サンフランシスコ近郊の4775人の成人を調査。社会的結びつきと健康状態を9年間追跡。 ・被験者には、婚姻関係、親戚や友人との交流、集団への所属の有無など、社会的結びつきに関する質問に答えてもらった。 ・被験者の環境は様々だったため、数学的手法を使って、喫煙などのリスク要因、社会経済的地位や本人が言う生活の満足度などの要因から、社会的結びつきの影響を抜き出した。 ・その結果、9年間にわたり社会的結びつきが低かった人たちの死亡率は、他の要因に関しては同様だが社会的結びつきは高かった人たちの2倍にもなった。 ※参考資料『レナード・ムロディナウ(2013)しらずしらず ダイヤモンド社』
●孤独、社会的つながりとストレス ・ラットに生理的ストレス反応を引き起こすために良く用いられる方法として、グループから引き離す、というものがある。 →ただ隔離するだけでストレスホルモンは活性化する。 ・孤独は生存を脅かすので、孤独になるとストレスが溜まる。 ・日々の生活に運動を加えると、人は社交的になるという研究結果がある。自信がつくとともに、運動は人と会うきっかけにもなる。 運動によってやる気が出てくると、社会的なつながりを作り、維持できるようになる。 ●孤独感とアルツハイマー病 ・ラッシュ・アルツハイマー病センターの研究によると、"そばにいてくれる人がいなくて寂しい"とか"なんだか虚しい気分だ"といって孤独を感じていた人は、アルツハイマー病になる確率がそうでない人の2倍近く高かった。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
孤独と健康に関する因果の経路
●健康に関連する経路 ・"社会的制御仮説"は、人が自分をないがしろにしたり甘やかしたりして健康を害するまでになるのは、気遣ってくれる家族や友人がいないため、という考え方。 ・筆者の調査では、孤独を感じている若者が、健康に関連する行動の面で、社会的なつながりを持って生きている若者に劣ることは全くなかった。 調査した高齢者では、鬱の症状や慢性病や血圧上昇をはっきりと予測する手がかりとなったのは、客観的な社会的支援がないことではなく、主観的な孤独感だった。 しかし、中高年の孤独な人の健康関連の習慣は、社会的なつながりを持って生きている同じくらいの年齢と境遇の人の習慣よりも、実際に悪くなっていることが分かった。 運動習慣についても、社会的に満足している中高年の人はそうでない人よりも、過去二週間に何らかの活発な運動をしている割合が37%大きかった。また、一日の運動時間が平均して10分以上多かった。 食習慣については、中高年では、孤独は一日のカロリーのうち脂肪から摂取する割合の高さと相関していた。 →孤独な人が健康に良い行動をしなくなるのは、実効制御機能の、ひいては自己調節能力の低下が一因になっているのかもしれない。 孤独感には自己評価を低下させる傾向もあり、他者に無価値だと思われていると感じると、自己破壊的行動をしがちで、自分の体をあまり大事にしなくなる。そのうえ、孤独な中高年の人は、孤独感についての苦悩と実行機能の衰えが相まって、気持ちを紛らわそうとして喫煙や飲酒や過食、性的行動に走ることがあるようだ。 気分を高揚させるには運動のほうがはるかに良いだろうが、規律正しい運動にも実効制御が必要。 ●ストレス要因や人生の様々な出来事に直面する経路 ・中高年の人を対象とした調査では、孤独感の強い人の方が生活の中で"現在抱えている"客観的ストレス要因の報告数が多いことが分かった。 時が経つにつれて、孤独感につきものの"自己防衛的"行動によって、夫婦喧嘩や隣人とのもめごとや、社会生活に伴う問題全般が多くなるようだ。 ・孤独な人の生活に見られるストレスの大きさは、欲求不満のたまる仕事から抜けなせない傾向によって、さらに悪化しうる。 ●ストレスの認識と対処法に関わる経路 ・孤独な人のほうが強い無力感や脅威の感覚を訴える。 ・孤独な人は孤独でない人に比べて、直面する客観的なストレス要因が基本的に同じだとしても、毎日の生活の厄介ごとやストレスがより厳しいと感じていた。 そのうえ、孤独な人は日常生活の人付き合いで多少良い事があっても、あまり実感がなく、ありがたくも思わなかった。 ・孤独な人は、現実的な楽観主義をもって積極的に取り組まずに、悲観主義を抱いて回避する傾向がある。状況を変えようとせずに耐えるように対処する。 ・孤独な中高年は、消極的に対処し、感情的支援を求めるのを拒否する傾向が一般的であることが分かった。 ●ストレスに対する生理的反応に関わる経路 ・孤独感によってDNA転写に変化が起きるようで、それが、循環するコルチゾールに対する細胞の感受性を変化させ、炎症反応を停止する能力を弱めるようだ。 ・孤立感を感じたときの消極的な対処は、主に全末梢抵抗を増やし(細い動脈を収縮させる)、血圧を上昇させる。(困難に立ち向かうといった積極的対処の場合は主に心拍出量を上げることによって血圧を上昇させる) →全末梢抵抗が増えると、同じ量の血液を血管に行き渡らせるためには心臓の筋肉により負担がかかる。一方、血管の直径が小さくなって圧力が増すため、血管は磨耗しやすくなる。 →中高年になると回復力がなくなってくるので、孤独であり続けると末梢抵抗が大きい状態が続き、高血圧になる。 ●休息と回復に関わる経路 ・中高年を対象とした研究で、孤独な人は孤独でない人と同じ量の睡眠をとっていたが、睡眠の質が非常に低かった。 ・睡眠不足は代謝と神経系とホルモンの調節に影響を与える。 ※参考資料『ジョン・T.カシオポ(2010)孤独の科学 河出書房新社』
人付き合いが面倒と感じている人
・"人付き合いが面倒くさい"と思っている人の多くは、"人間関係を深めた場合の面白さ"を知らない。内にこもってできる"従来から知っていて、計算も出来る満足感"に固執している。 ・人間関係を広げることは、"傷つくかもしれない"というリスクを抱えることにもなり、面倒くさいと感じている。 ○本当に1人でもさびしくないのか? ・マズローの5段階欲求では、三番目の段階に"親和要求"があり、生理的欲求、安全欲求が満たされると、所属・愛といった"親和要求"が必要になる。 ・"人付き合いが面倒くさい"という人は"親和要求"がなくても生きていけると主張している人もいるが、実際は代替のもので満たされている場合が多い。 ・"人付き合いを避けている人"は、データを見ればその多くが親と同居している場合が多い。 ・親と同居していない人は、潜在的には他の人間関係に拠り所を求めている。(オタク同士のネットワーク、ネット内のコミュニケーションなど) ※参考資料『齊藤勇(2009)「あまり人とかかわりたくない」人のための心理学 PHP研究所』
ネットニュースによる関連情報
●社会的孤独が健康に与える影響 ・研究チームは、モントリオールに留学して大きな社会変化を経験した留学生グループを追跡した。5ヶ月間、参加者はどのくらい孤独だったかということを含めた社会的統合の度合いを測定するアンケートに回答した。また、高周波心拍変動(HF-HRV)の変化を検出するため、参加者の心拍数を観察した。 ・その結果、カナダに来て5ヶ月間で友人関係を作り、新たな社会ネットワークに関与することができた学生は心拍変動が増加したが、ずっと社会的に孤立した学生は、心拍変動が減少したことを示した。
●既婚者のコルチゾール値は未婚者より低い ○ストレスとコルチゾール ・長期的なストレスは、コルチゾール値を増加させる。 ・コルチゾール値の増加は、炎症の調節機能を妨害し、多くの疾患の発症や悪化に影響する。 ○研究結果 ・コルチゾール値は起床時に最も値が高く日中に減少するが、既婚者でより速く減少したことが分かった。このことが心疾患の発症予防となり、がん患者の生存期間に影響するという。 ・婚姻という親密な社会関係が、ホルモンを通して健康に影響する可能性を示したと、研究者は述べている。
孤独感と幸福感、収入
○孤独感、幸福感と収入 ・イリノイ州クック郡に住む中高年に対する調査 ・孤独感の低さと収入の増加はどちらも幸福感の増大と関連あるものの、収入の増加は幸福感の増大には貢献せず、孤独感を減らすこともない。 →幸福感の増大は、社会的なつながりに対するポジティブな効果を通して、収入の増加に貢献する。幸せな人は孤独感が減り、孤独感が低い人はより多くのお金を稼ぐ傾向にある。 幸せで孤独感の低い人のほうが、職場でのものも含めて良好な人間関係を築いていて、この良い関係が業績を伸ばしているのかもしれない。 ○幸福度と社会的結びつき ・イリノイ州クック郡に住む中高年に対する調査 ・孤独感が弱いと幸せである可能性が高く、幸せであれば長い間には孤独感をそれほど感じなくなる。 ※参考資料『ジョン・T.カシオポ(2010)孤独の科学 河出書房新社』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●社会的な支えと循環器疾患の発症・死亡リスクとの関連 ・研究開始時に行ったアンケートで、 ①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点) ②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1-3人:1点、4人以上:2点)、 ③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、 ④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点) を尋ねた。 社会的な支えの指標として、各回答の点数の合計が5点の場合に社会的な支えが"とても多い"グループ、4点を"多い"グループ、2-3点を"ふつう"のグループ、1-0点を"少ない"グループとし、グループ間で脳卒中・心筋梗塞の発症・死亡を比較し、関連を分析し、約10年間追跡した。 ○脳卒中の死亡リスク ・社会的な支えの"とても多い"グループに比べると、"少ない"グループで男女計では1.5倍、男性では1.6倍、女性では1.3倍、高いという結果だった。 ○脳卒中の発症リスク、心筋梗塞の発症または死亡リスク ・社会的な支えとの関連は見られなかった。 ○社会的な支えは脳卒中発症後の回復の過程で重要 ・今回の結果では、社会的な支えの低さと脳卒中の発症リスクとの間には関連がなかったことから、社会的な支えは脳卒中の疾病予防よりも、脳卒中になったあとの回復にとって重要であると考えられる。 ○欧米の研究報告 ・欧米の研究では、社会的な支え(心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)の少ない人では、多い人に比べて、心筋梗塞の発症や死亡のリスク、あるいは脳卒中後の身体機能回復が低下するリスクが高いことが報告されている。 人同士のつながりの少ない人は話し相手がいないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが健康行動やストレス等を介して虚血性心疾患などの疾病に影響すると考えられている。
●社会的な支えとメタボリック症候群との関係:宴会効果? ・追跡開始時にアンケートで、 ①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)、 ②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1-3人:1点、4人以上:2点)、 ③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、 ④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点) を社会的な支えの指標として用いた。 回答の点数を足した合計点数が5点である者を社会的な支えが"最も多い"、4点を"多い""、2-3点を"ふつう"、1点未満を"少ない"とした。 ○全体の結果 ・社会的な支えの少ない男性では、社会的な支えの多い男性に比べて、メタボリックシンドロームの有病率が、0.75(95%信頼区間:0.58-0.97)倍と低いことがわかった。 ・女性ではその差は認められなかった。 ○社会的な支えと飲酒、肥満。宴会効果 ・社会的な支えの少ない男性では肥満者の割合が低く、多量飲酒や付き合いで多く飲酒する割合や脂肪摂取量が少ない結果となった。 ・社会的な支えが多い日本人男性では、宴会・飲み会などの影響で飲酒や脂肪摂取の機会が多くなり、その結果、肥満やメタボリックシンドロームの割合が高くなるという、日本文化特有の現象、すなわち、宴会効果の存在を示唆している。 ○欧米の研究報告 ・近年の欧米における研究では、社会的な支えが少ない人は話し相手が少ないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが健康行動やストレス等を介して循環器疾患、メタボリックシンドロームなどの上昇と関連しているという報告がある。
●家族構成と自殺との関連について ・夫婦ふたりで暮らしている場合を基準として、その他の7つの同居家族の組み合わせについて相対的なリスクを計算した。 ○男性の場合の妻同居の影響 ・男性では、独り暮らしの他、同居者が親のみ、子どものみ、親と子という妻と同居していない家族構成の人では、妻とふたりで暮らしている人に比べて自殺リスクが2倍前後、上昇していた。 ・妻と同居している男性では、さらに親や子どもと同居していても自殺リスクは上昇も低下もしていなかった。 ・男性においては、妻との同居が自殺に対し予防的に働いていることが伺える。 生活上あるいは精神面において男性は女性に比べパートナーに依存する度合いが強いといわれており、妻と同居の有無は男性の心の健康を左右するものと思われる。 ○女性の場合の夫同居の影響 ・女性においては、独り暮らしは自殺リスクと関連しておらず、またその他の家族構成についてみても、夫との同居の有無によって自殺リスクに大きな差はなかった。 ・独り暮らしが男性においては自殺リスクの上昇と関連したのに対し、女性では関連がみられなかったことは、海外の研究結果とも一致している。 ○親との同居の影響 ・女性では、同居者が親のみの場合、夫婦世帯に比べて自殺リスクが3.8倍に上昇していた。 ・男性でも同様に同居者が親のみの人では自殺リスクの上昇がみられるが、その上昇の度合いは妻と同居していない他の家族構成でみられるリスク上昇と同程度だった。 ・高齢あるいは介護状態の親と暮らしている場合には身の回りの世話や精神的な面での負担が高まることは考えられる。 ○子どもの影響 ・女性においては、統計学的に有意ではないが、子どもと同居している人で自殺リスクが低下しており、その傾向は特に同居者に夫がいる場合にはっきりしていた。
●社会的な支えと自殺 ・アンケート調査で、対象者の受ける社会的な支えを"尊重"、"親密"、"社会的連帯"の3つの観点から評価。 "尊重"は、"あなたの行動や考えに賛成して支持してくれる人がいますか?(いる/いない)"という質問で、 "親密"は、"個人的な気持ちや秘密を打ち明けることの出来る人がいますか?(いる/いない)"、"あなたは会うと心が落ち着き安心できる人がいますか?(いる/いない)"の2つの質問によって評価。 "社会的連帯"は"週1回以上話し会う友人が何人いますか?(いない/1~3人/4人以上)」という質問によって評価。 これらの質問の回答に基づいて社会的な支えのスコア(0~5点)が計算された。 ○社会的支えのスコアが低いグループの特徴 ・男性では年齢、BMI、飲酒率、運動習慣が低く、ストレス、慢性疾患病歴率、失業率が高い傾向が見られた。 ・女性では年齢、BMI、運動習慣が低く、ストレスが高い傾向が見られた。 ○社会的な支えと自殺 ・男女ともに、社会的な支えの高いグループでは自殺のリスクの有意な低下が見られる。 ○"尊重"が自殺リスクに及ぼす影響 ・女性では、"尊重"の有無を問う質問にそのような人が"いる"と回答したグループでは、"いない"と回答したグループよりも自殺リスクが68%低下していた。 ・男性では、自殺リスクの低下は見られたものの統計的に有意ではなかった。 ○"社会的連帯"が自殺リスクに及ぼす影響 ・4人以上の友人を持つグループで、友人の少ないグループに比べて、男性で44%、女性で35%の低下が見られたが、このリスク低下は男性でのみ有意だった。 ○注意点 ・今回の研究により、社会的な支えは、自殺のリスクを下げるという結果が得られた。特に、社会的な孤立を避けることが、男女ともに自殺の予防に重要な役割を果たし、さらに女性では、自分の行動や考えに賛成して支持してくれる人の存在が大切であるという可能性が示された。 ただし、対象者の"社会的な支え"の度合いに対する評価は研究開始時の調査だけで、その後の追跡期間中の変化は考慮されていない、といった点などの研究における限界もある。
●社会的な支えとがん発生・死亡リスクとの関連について ・研究開始時に行ったアンケートで、 ①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)、 ②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1~3人:1点、4人以上:2点)、 ③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、 ④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点) をたずねた。 社会的な支えの指標として、各回答の点数(0点から2点)の合計が5点以上の場合に社会的な支えが"とても多い"グループ(全体の29%)、4点を"多い"グループ(42%)、2~3点を"ふつう"のグループ(19%)、1点未満を"少ない"グループ(10%)とし、グループ間で臓器別にがんの発生や死亡を比較分析した。 ○がん全体 ・解析の結果、男女とも、がん全体の発生または死亡のリスクに社会的な支えによる差はみられなかった。 ○臓器別 ・男性において、社会的な支えの"とても多い"グループに比べると、"少ない"グループの大腸がん発生は1.5倍、大腸がん死亡は3.1倍、高いという結果が見られた。年齢層別に見ると、この傾向は59歳より若い男性でより強い関連が見られた。 ・他の臓器のがん発生または死亡については、社会的な支えとの関連は見られなかった。 ・社会的な支えは、日頃の検診受診や適切な治療を受ける努力やより健康なライフスタイルを選ぶことなどの健康行動などを介して、大腸がん発病および予後に影響すると考えられる。 また、社会的な支えが多い人では、周囲の人に相談をすることでストレスを緩和することができることが関係しているのかもしれない。
●婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連 ・既婚から非婚への婚姻状況の変化が、その後の脳卒中発症のリスクにどのような影響を与えているかを脳卒中タイプ別に分析し、その関連が居住形態や仕事の有無によって変化するかどうかを検討した。 研究開始5年前に配偶者と同居していた方のみを対象とし、研究開始時の婚姻状況から婚姻状況変化(既婚(配偶者と同居)→非婚(配偶者と同居していない))の有無を特定し、その後の脳卒中発症のリスクを算定した。 ○全体の結果 ・調査開始時期に婚姻状況変化がある人ほど、脳卒中を発症するリスクが高い傾向が確認され、特に、脳出血のリスクで強い関連がみられた。 ○就労の有無の影響 ・無職の女性の脳卒中発症リスクは高く、特に婚姻変化があった無職の女性のリスクは婚姻変化のない有職の女性の約3倍だった。男性では無職者が少なく、統計学的に意味のある結果を導くことができなかった。 ○婚姻状況の変化が脳卒中発症リスクに影響を与える理由 ・配偶者を失うことによる生活習慣や精神状態の変化が考えられる。 ・これまでの先行研究により、配偶者を失うと飲酒量が増えたり、野菜や果物の摂取が減ったりするような変化があることが報告されている。 また、心理的ストレスレベルが上昇し、生活を楽しめなくなる傾向にあることも示されている。