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アダプティブサイトプロテクション
●アダプティブサイトプロテクション(適応的細胞保護) ・あらかじめ弱いストレスを与えておくと、ストレスに強くなる。 ・いきなり強いストレスを与えた場合でも、細胞はある程度のストレス応答を行うが、その応答の速さや強さが不十分で細胞は死んでしまう。 ・アダプティブサイトプロテクションは、細胞だけでなく、器官・組織(胃や心臓など)でも見られる。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
熱ショックタンパク質(HSP)、ストレスタンパク質
●熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein:HSP) ・熱ショックを与えるとその生産が増えるタンパク質。人間では42~50℃ ・熱ショック以外にも重金属、活性酸素、医薬品、アルコールなど、生物にとって危険な様々なストレスによって、HSPが増える。 精神的なストレスの場合は、全身でHSPが増える。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
●熱ショックタンパク質(HSP)、ストレスタンパク質 ・熱ショックタンパク質を誘導するのは、必ずしも熱だけでなく、水銀、カドミウムやヒ素などの重金属を含む有毒物質、低酸素や活性酸素などの酸化ストレス、グルコース飢餓や虚血などでも熱ショックタンパク質が誘導されることが分かってきた。 細胞が異常なタンパク質を作り出すような病的な状態においては一般的に見られる現象であることから、ストレスタンパク質と呼ばれるようになってきた。 ・細胞には常に様々なストレスがかかっていて、変性してしまう危険性にさらされている。 例えば熱ストレスがかかると、アミノ酸を構成する原子の動きが活発になり、疎水性のアミノ酸を内側に折りたたんだ安定した構造が壊れ、疎水性のアミノ酸クラスターが分子表面に露出して不安定になり、凝集してしまう。 これを防ぐため、ストレスタンパク質が誘導されて、大量に新しく合成される。 →これがまず、変性したタンパク質の、外部に露出してしまった疎水性アミノ酸クラスターにくっついてそれらをマスクし、凝集を阻止するために働く。 →そしてATPエネルギーを使って、変性したタンパク質をもとに戻し、再生する。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
HSPの種類
・HSPは分子量により分けられる。HSP90の場合は分子量が9万。 ・HSPは他のタンパク質のお世話をしたり細胞を保護したりするという共通の働きを持つ一方、存在する場所やお世話をするタンパク質の種類などが異なっている。 ○HSP104 細胞質に存在 ・非常に大きな分子で、形がおかしくなったタンパク質を元の形に戻す働きが最も強い。(異常タンパク質の再生) ○HSP90 細胞質 ・人間の細胞では最も量が多い。 ・他のタンパク質のお世話をする(他のタンパク質の活性調節) ○HSP70 細胞質、核 ・細胞を保護する作用が最も強く、HSPの代表のようなタンパク質。 ・強力な細胞死保護作用 ○HSP60 ミトコンドリア ・ミトコンドリアへのタンパク質の輸送などを行っている。 ・タンパク質のフォールディング維持、膜透過 ○HSP47 小胞体 ・コラーゲンが正しい形になれるように助けている。コラーゲン産生に関与 ○HSP32 細胞質 ・ヘムという赤血球の中にある分子を分解することによって、ビリベルジン、鉄、一酸化炭素という3種類の分子を作り、これらによって細胞を保護している。 ・活性酸素を減らす作用が強い。 ・ヘム分解酵素、抗酸化作用、HO-1とも呼ばれる。 ○small HSP ・HSP25、HSP27、aクリスタリンなどは分子量が小さいのでsmall HSPとも呼ばれている。 ・細胞内でどのような働きをしているのかよく分かっていない。 ○aクリスタリン 細胞質、核 ・目の水晶体に存在するタンパク質で、タンパク質が凝集して水晶体が濁ってしまうのを防いでいる。 ・水晶体の高タンパク濃度の維持 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
HSPと分子シャペロン
●HSP(ストレスタンパク質)と分子シャペロン ・分子シャペロンとストレスタンパク質は働きとしてはほとんど同じもので、平常時に作られて機能しているものを分子シャペロンと呼び、ストレス下に速やかに誘導されてくるものをストレスタンパク質と呼んでいる。多くの分子シャペロンはストレスによって誘導されるストレスタンパク質でもある。 ・ストレスタンパク質は必ずしもストレスがかかった状態でだけ発現しているのではなく、通常の細胞の中でもある程度発現していたり、場合によってはかなりの量作られていたりすることが分かってきた。 生成途中の未熟なタンパク質はミスフォールドしたり凝集したりしやすいが、これら生成途上のポリペプチドに作用して、その成熟を助けている。 ・疎水性のアミノ酸クラスターに選択的に結合して、マスクしてしまう働きがある。 ・HSP分子にはβシートからなる溝があり、この溝が疎水的であるので、ここに疎水性のアミノ酸からなるポリペプチドがはまり込む。するとポリペプチドの疎水性の部分は分子シャペロンの溝によってマスクされ、細胞内でも安定に存在できるようになる。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
●タンパク質と分子シャペロン ・長い紐の状態で生まれたばかりのタンパク質(ポリペプチド)は、自分自身の力だけではきちんと折りたたまれて正しい立体構造になることができない。 ・タンパク質は、それが働く場所(ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官)に移動しない限り、きちんと働くことができないが、この移動もタンパク質自身の力ではできない。 ・多くのタンパク質は他のタンパク質と結合し一緒になって働くが、この結合もタンパク質自身の力ではできない場合が多い。 ・ストレスなどによって立体構造がおかしくなる事が多いが、自分で元の正しい形に戻る事ができない。 ・リボソームでタンパク質が作られる際、分子シャペロンが合成されたばかりの疎水的なアミノ酸と結合し、それが凝集するのを防ぐとともに、タンパク質が完全に合成された後には、そこからうまく外れて、タンパク質が正しい形になるように積極的に助けている。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
ストレス応答の仕組み
●ストレス応答の仕組み ①通常はHSFが不活性 ・遺伝子が発現するためには、遺伝子のプロモーター(転写調節領域)と呼ばれる領域にあるDNAの一部に、転写を活性化するタンパク質が結合することが必要。 ストレスタンパク質のプロモーターには共通の配列があり、HSF(Heat Shock Factor)と呼ばれる共通の転写活性化因子が結合する事によって多くのストレスタンパク質がいっせいに転写・翻訳される。 通常、HSFにはある種の分子シャペロンが結合し、HSFを不活性の状態に保っている。 ②ストレスでタンパク質変性 ・細胞に熱などのストレスがかかってタンパク質の変性が起こると、HSFに結合していた分子シャペロンがHSFから解離し、解離した分子シャペロンはタンパク質変性に対して対処する。 ③ストレスタンパク質発現 ・分子シャペロンがHSFから解離するとHSFが活性化され、ストレスタンパク質がいっせいに発現される。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
●転写因子 HSF1 ・転写因子とは遺伝子の転写(DNAからmRNAを作る反応)を促進するために、その遺伝子の前にある"プロモーター"と呼ばれる場所に結合するタンパク質。 ・HSF1(heat shock factor 1)はHSP遺伝子の転写因子。 ・転写因子がプロモーターに結合すると、プロモーターの後ろにある遺伝子の転写が盛んになる。 ・HSPには多くの種類があって、ストレスはそれらすべての遺伝子の転写を増やす。 ・いろいろなストレスがHSF1を活性化し、HSF1がさまざまなHSP遺伝子のプロモーターに存在するHSE(Heat Shock Element)に結合する。その結果、様々なHSP遺伝子の転写が増え、HSPも増える。 ●HSF1の活性化 ・HSF1は普段はHSP70やHSP90と結合し、不活性化されている。 様々なストレスによってタンパク質が変性すると、変性したタンパク質を修理・再生するために、それまでHSF1と結合しHSF1を不活性化していたHSP70やHSP90がHSF1から離れ、変性したタンパク質と結合する。 結合していたHSPが離れる事によってHSF1が活性化されHSPの生産が増える。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』