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腸の透過性、炎症、腸内細菌と肥満
※腸の透過性については以下の記事参照。
腸内細菌とアレルギー、免疫、抗生物質との関係の”LPS(リポ多糖類)と腸の透過性、炎症”
腸内細菌とアレルギー、免疫、抗生物質との関係の”LPS(リポ多糖類)と腸の透過性、炎症”
●肥満、LPS(リポ多糖)、炎症 ・痩せた人がエネルギーを貯蔵するときは、新しい脂肪細胞を数多くつくり(活発に細胞分裂して細胞数を増やし)、それぞれに少量の脂肪を入れる。 ・太った人は、数少ない肥大化した脂肪細胞に多量の脂肪を入れる。 ・パトリス・カニ(ベルギーの研究者)によると過体重の人の脂肪細胞は炎症を起こしていて新しい脂肪細胞がつくられていない。 →腸内細菌の中には、その表面にリポ多糖(LPS)という分子をつけているものがあるが、LPSは血液中に入ると毒素のようにふるまう。太った人は血液中のLPS濃度が高いことをカニは突き止めた。 →脂肪細胞に炎症を生じさせているのはLPS。 →さらにLPSは新しい脂肪細胞の形成を妨げ、その結果、既存の脂肪細胞に過剰な脂肪が詰め込まれているのをカニは発見した。 ・腸の透過性が上がる →LPSが血液中に入る →境界の突破を監視する役目の受容体が刺激され、免疫系に警告。 →サイトカインを送り、攻撃態勢に入る。 →この過程で全身が炎症を起こしうる →食細胞が、脂肪を蓄積している脂肪細胞のまわりに集積し、脂肪細胞を肥大化させる。 肥満患者では、こうした細胞の容量の最大50%を脂肪ではなく食細胞が占める。 過体重および肥満になっている人の体は、低レベルの慢性的な炎症状態に陥っている。 →血液中のLPSがインスリンに干渉し、2型糖尿病や心臓病を誘発する。 ●アッカーマンシア・ムシニフィラとLPS ・アッカーマンシア・ムシニフィラは腸壁を覆う厚い粘液層の表面に棲んでいる。腸壁の粘液層は、腸内微生物が血液中に入り込んで悪さをするのを防ぐ障壁となっている。 ・アッカーマンシア・ムシニフィラが少ないと粘液層が薄くなり、LPSが血液中に入りやすくなる。 ←この細菌は腸壁細胞に働きかけて、より多くの粘液を分泌させている。 アッカーマンシア・ムシニフィラはヒトの遺伝子に化学信号を送って、粘液の分泌を促し、それによって自分達の棲み処を得て、結果的にLPSが血液中に入り込むのを阻止している。 ・太ったマウスの一群にアッカーマンシアを加えた食事を与えると、マウスの体内ではLPSの濃度が下がり、新しく健全な脂肪細胞がつくられるようになった。そして、レプチンへの感受性が高くなり、食欲が減少し、体重が減った。(パトリス・カニの研究) ・太った人ではなぜアッカーマンシアが減ってしまうのか? マウスに高脂肪な餌を与えて太らせるとアッカーマンシアは減るが、餌に食物繊維を加えると、アッカーマンシアはまた増えて健全に戻る。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
●肥満とアッカーマンシア・ムシニフィラ ・2013年に研究者たちは、バクテロイデス門とフィルミクテス門の細菌の比が変わると、腸壁の粘液層に棲むA・ムシニフィラの数も変わることを明らかにした。 →マウスでもヒトでも、肥満した個体の腸内ではA・ムシニフィラの数が減る。高脂肪食を与えられたマウスではA・ムシニフィラが少なく、リポ多糖の濃度が高い。 ・高脂肪食で育てたマウスに生きたA・ムシニフィラを4週間与え、また同じ条件のマウスに高温で殺したA・ムシニフィラを4週間与えた。その結果、生きたA・ムシニフィラを与えられたマウスでは、リポ多糖の濃度が下がって脂肪が減り、血漿グルコース(ブドウ糖)濃度も低くなった。 生きたA・ムシニフィラを与えられたマウスをさらによく調べてみると、脂質の分解と増えた脂肪組織の代謝に関わる遺伝子が、対照群のマウスより高い割合で発現していることも分かった。 ・高脂肪食は腸の粘膜を荒らすことで悪名高い。事実、腸の粘膜とその下にある腸自体の組織まで部分的に破壊する。A・ムシニフィラは、高脂肪食によってひどいダメージを受けた粘膜の修復を行っているようだ。 →A・ムシニフィラを与えられたマウスの腸壁を調べた研究者たちは、この微生物が実際の腸の粘液層を修復し、腸を通る消化物と腸の組織自体とのあいだのバリアを強化することで、肥満や糖尿病によってもたらされる病変を治す事を突き止めた。 ・フラクトオリゴ糖を混ぜた高脂肪食をマウスに与えると、高脂肪食を与えられたマウスでも、A・ムシニフィラが大幅に増えた。(ヒトに同じ効果が現れるかどうかはまだ分かっていない) ※参考資料『ロブ・デサール,スーザン・L.パーキンズ(2016)マイクロバイオームの世界 紀伊國屋書店』
腸内細菌の組成比と肥満
●フレドリク・バークヘッド、ジェフリー・ゴードン、ピーター・ターンバウの研究 ・無菌マウスに遺伝性肥満マウスの腸内細菌を移し、別の無菌マウスには通常マウスの腸内細菌を移して、どちらのマウスにも同量の餌を与えた。 →14日後、肥満マウスの腸内細菌を移されたマウスは太り、通常マウスの腸内細菌を移されたマウスは太らなかった。 ・肥満マウスの微生物を移して太らせたマウスは、フィルミクテス門の細菌が多く、バクテロイデーテス門の細菌が少ない腸内細菌を有していた。 ・肥満型の腸内細菌を移されたマウスは餌から2%多くカロリーを吸収していると算出した。 →食品そのものカロリー量は、腸内細菌の状態によって、実際に吸収されるカロリー量が異なるかもしれない。 ●微生物種と肥満 ・太った人にはフィルミクテス門の細菌が、痩せた人にはバクテロイデーテス門の細菌が多かった。 ・痩せた人に高カロリー食を与えると、バクテロイデーテス門の細菌よりフィルミクテス門の細菌が増えてくる。 ・細菌の比率が変わると、同じ食事をしていてもエネルギーの吸収量が変わる。 ・痩せた人には、アッカーマンシア・ムシニフィラという細菌が多く、この細菌が少ない人ほどBMI値が高い。この細菌は痩せた人では腸内微生物全体の4%を占めているのに対し、太った人ではほとんどゼロ。 ●脂肪を増やして炭水化物を減らす ・脂肪を増やして炭水化物を減らした餌をマウスに与えると、微生物集団の組成比が変わり体重が増えた。 ・体重の変化と並行して、腸壁の透過性が高まり、血液中にLPSが増え、各種の炎症マーカーが上昇した。こうした変化は肥満だけでなく2型糖尿病や自己免疫疾患、心の病気にも見られる。 ・果糖のような単糖の多い食生活も同様の変化をもたらす。 ●過体重の人が減量すると痩せた人と同じ細菌の組成比に戻るか? ・参加者は低炭水化物ダイエット群と低脂肪ダイエット群に分かれ、その食生活を6ヶ月続けた。 ・両群とも体重減と並行してバクテロイデーテスの存在量に対するフィルミクテスの存在量の比率も下がった。 ・微生物の存在量の変化は、試験の参加者が体重をある一定割合まで落とさないと現れなかった。低脂肪ダイエット群では6%の減量、低炭水化物ダイエットでは2%の減量。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
●ヨーロッパのメタヒット・コンソーシアムの研究 ・300人のヨーロッパ人に対する調査によって、腸内細菌の遺伝指数が個人によって大幅に異なっている事が示された。またその数が正規分布していないことも分かった。 →その分布には二つの主要な集団があり、77%の人が平均で約80万の固有な腸内細菌特異的遺伝子を持ち、残りの23%の人のそれは約40万個だった。そして遺伝子数の少ない集団は、より肥満傾向にあった。 ※参考資料『マーティン・J.ブレイザー(2015)失われてゆく、我々の内なる細菌 みすず書房』
・腸内細菌が人間の遺伝子を識別し、遺伝子によって人間をえり好みしている可能性がある。若い宿主を好む細菌もいれば、年老いた宿主を好む細菌もいて、若者と老人では腸内細菌叢(腸内フローラ)が大きく異なる。 ある種の細菌は、老化のプロセスに深く関わっていたり、体脂肪の生産量によって宿主をえり好みするものもある。 ・腸内フローラは"エンテロタイプ"と呼ばれる3つのタイプに分けられ、そのタイプによって、人間と環境との関係や食生活、加齢への影響の仕方が異なる。 ・遺伝的に太ったマウスと遺伝的にやせているマウスの便を比較すると、含まれる細菌の種が異なっていた。人間でも同じ結果。 さらに、太ったマウスの細菌を移植されたマウスは、やせたマウスの細菌を移植されたマウスより、体脂肪が増えやすいという結果になった。 ↓ 生涯の大半を通じて、脂肪の摂取を促進する細菌を腸に棲まわせている人がいる事を意味し、そういう人は必然的により多くの脂肪を蓄え、体重が増えていくことになる。 ・肥満は、既知の人間の遺伝子によって説明できるのはわずか1~2%だが、胃腸にいる細菌の遺伝子によって50%まで説明がつく。 ※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』
肥満が伝染?
●対人関係と肥満 ・12,000人の体重と対人関係を32年に渡って分析。 ・ある人が肥満になるかどうかは、その人の家族や親友の体重増加と強い相関関係がある。 ・親友が肥満になるとその人も肥満になるリスクは171%に跳ね上がる。逆に、友人とは呼べないただの隣人が肥満だというだけでは高まらない。(地域内のスポーツジム、ファストフードなどの影響ではない) ●ウィルスの感染と肥満、ドゥランダハルとアトキンソンの研究 ・AD36というウィルスに感染したニワトリが太った。マーモットという小型のサルでも同様の結果。 ・数百人の人の血液を分析したところ、肥満者の30%が過去にこのウィルスに感染していたことが分かった。太っていない人では11%だった。 ・AD36に感染したニワトリの脂肪組織は、エネルギーが余っていなくても脂肪の貯蔵に励む。こうなるように仕向けているのがAD36。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
腸内細菌と動脈硬化
・肉などに大量に含まれるフォスファチジルコリンという脂質を摂取。 →腸内細菌によりトリメチルアミンに変換 →トリメチルアミンが体の中に多くなると、余ったコレステロールを処理する食細胞(スカベンジャー細胞)が活性化し、この細胞がコレステロールをどんどん食べてしまい、動脈にコレステロールが沈着しやすくなる。 ・動脈硬化を起こしやすい腸内細菌がいる人は、脂肪の摂取は要注意。 ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
・コレステロールや中性脂肪が高くないのに動脈硬化が進んでしまう患者がいる。 →腸内細菌が関係しているのでは? ○アメリカ・クリーブランド病院の研究 ・血液中にTMAOという物質が多い人は、心臓病になりやすいということが分かった。 ・TMAOの出所は? 腸内細菌が、食べ物に含まれるレシチンを分解してTMAが発生。 →TMAは腸から吸収され、肝臓でTMAOに変化。 ・マウスにレシチンを与えると、普通の食事をさせたマウスより、明らかに動脈硬化が悪化した。このとき、マウスのコレステロールや中性脂肪には異常は見られなかった。 ・レシチンは、体を作るのに欠かせない重要な栄養素で、卵、牛乳、レバー、肉、大豆など、様々な食品に含まれている。 →レシチンを摂っても、なるべくTMAが出ない腸内フローラにすることが大切。現段階ではどんな菌が増えるとTMAが多く出てしまうのか、詳しく分かっていない。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
腸内細菌と糖尿病
※腸のバリア、透過性については以下の記事参照。 腸内細菌とアレルギー、免疫、抗生物質との関係の"LPS(リポ多糖類)と腸の透過性、炎症" ●腸内フローラのバランスの崩れと糖尿病 ・2014年6月、順天堂大学とヤクルトとの共同研究 日本人の2型糖尿病の発症には、腸内フローラのバランスの崩れが大きく関係していることが明らかになった。 ・動物性たんぱく質を慢性的に多く摂取 →特定の悪玉菌が増殖し、腸内フローラのバランスが崩れる。 →増殖した悪玉菌が有毒腐敗物質を大量に作り出す。 →異物の侵入に対する大腸の粘膜のバリア機能も低下 →大腸の粘膜細胞のすきまから血管内に侵入する生きた悪玉菌と特定の有毒腐敗物質が増加 →血管内に侵入した上記異物を免疫細胞が攻撃し、からだのあちこちで小さな炎症発生。 →インスリンの作用によって細胞はブドウ糖を取り込むが、炎症によってこのインスリンによる細胞のブドウ糖取り込みが阻害され(インスリン抵抗性)、高血糖になる。 ※参考資料『澤田幸男,神矢丈児(2015)腸が寿命を決める 集英社』
●糖尿病と炎症、腸内細菌 ・インスリンの働きが悪くなる原因として、"全身の炎症"が関わっていると考えられるようになってきた。 ・糖尿病の患者は、全身の血管が弱い炎症状態になっていることが分かってきた。 ・炎症を起こしている周囲の細胞では、インスリンがうまく働かない状態になる。 ・脂肪細胞が肥大化すると様々な有害物質を出すが、この有害物質は炎症を助長する。 ・全身の炎症状態を招くのは、肥大化した脂肪細胞だけではない。 →外敵である細菌も炎症を引き起こす。 ・糖尿病患者は、血液中のLPSという物質の濃度が高いことが報告されている。 LPSは腸内細菌が出す毒素の一種。腸のバリア機能が衰えると、こうした毒素が血液中に"漏れ出して"くる。 →この毒素が全身の血管を弱い炎症状態に導く。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
腸内細菌とがん
○がん研究会がん研究所の原英二の研究 ・肥満したマウスの腸内フローラを調べたところ、肥満する前にはほとんどいなかったある細菌が、全体の10%以上を占めるまでに増加していることを発見した。この菌は新種で"アリアケ菌"と名づけられた。このアリアケ菌ががんを誘発する。 ・アリアケ菌は、腸に分泌される消化液のひとつである胆汁を分解して、DCAという物質を作る。 →DCAは、腸から吸収されて全身を巡り、体の細胞に作用して、"細胞老化"を引き起こす。 →"細胞老化"は、古くなった細胞の増殖が止まる現象で、健康な人でも起きているが、DCAの作用で老化した細胞が増えすぎると、周囲にがんを誘発する物質を撒き散らし、がんを発生させてしまうことがわかった。 ・人間でも高脂肪食を食べている人では腸内で生産されるDCAが増えること、そして、DCAは人間の細胞にも細胞老化を引き起こすことが分かっている。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
・大腸がんは、その原因に遺伝要因が占める割合は15%に過ぎない。 大腸がんのリスクが高い集団の腸内細菌を調べたところ、ビフィズス菌が非常に多く、乳酸菌が少ないことが分かった。 こうした菌やその遺伝子が、人の遺伝子やタンパク質と密接に相互作用していて、胃壁に穴をあけたり、免疫システムの働きを変えたり、DNAを傷つけたりしている。 ※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』
●肥満と腸内細菌とがん ・肥満マウスの腸の腸内細菌には、クロストリジウム属の種が多く棲みつき易い。 この属の細菌は、食物の消化のために肝臓で大量に作られる胆汁酸を好む。 一方でこの細菌は、ゲノムにコードされた一連の化学反応を用いて胆汁をデオキシコール酸(DCA)に変える。このDCAは発がん物質。 ※参考資料『ロブ・デサール,スーザン・L.パーキンズ(2016)マイクロバイオームの世界 紀伊國屋書店』
・中国と米国における、一部のがんの罹患率の違いは、マイクロバイオーム(腸内フローラ)の違いによって説明できる。 マイクロバイオームは食物の代謝の仕方、栄養を吸収する速さや量、血液に入るものを制御し、そうすることによってホルモン値に影響を及ぼす。 これがひいては前立腺がんや乳がんなどになるリスクに影響する。 ・腸内細菌は食物の消化を助け、ヒトが作ることのできない酵素を使ってビタミン類を合成している。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
ネットニュースによる関連情報
●ヨーグルト、低脂肪チーズの摂取で糖尿病リスクが低下? ・ヨーグルトの消費量が多い人は、ほとんど食べない人と比較して、2型糖尿病発症リスクが28%低かった。このリスク低下は、標準的なサイズである125gのヨーグルトを週に平均4.5個消費する人で観察された。 ・更にヨーグルト・低脂肪チーズなどの低脂肪発酵乳製品の消費量が高いと、糖尿病の相対リスクが全体で24%低下した。
●腸内細菌の変化と肥満、インスリンとの関連 ・肥満のげっ歯類モデルにおいて一連の実験を行った。 ・高脂肪食を摂取した動物において、酢酸が他の短鎖脂肪酸と比較して高めであることを発見した。また、酢酸を注入すると、膵臓β細胞によるインスリン分泌が促進される様子がみられた。 ・脳に酢酸を直接注射すると副交感神経系が活性化され、インスリンの増加を引き起こすことを発見した。研究者は、"酢酸はまた、食物摂取量を増やすホルモンのガストリンやグレリンの分泌も刺激する。"と述べている。 ・上記実験結果から、食事の変化に応じた腸内細菌叢の変化が酢酸の産生を促し、酢酸の増加は食物摂取の増加を導き、肥満とインスリン抵抗性を高めるループが始まる、と考えることができる。