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飽和脂肪酸の目標量
・飽和脂肪酸摂取量と血清総コレステロール濃度、LDL濃度は正の関連を有する。 飽和脂肪酸の過剰摂取は動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞のリスクであると想像される。 動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞罹患に対しては、その発症予防、重症化予防共に、飽和脂肪酸の摂取量を制限するだけでなく、多価不飽和脂肪酸の摂取量を同時に増加させることが重要であると考えられる。 ・これらの報告、さらにはそれぞれの国民の摂取量や摂取改善の実現可能性を考慮し、各国において、成人における望ましい摂取量を10%E未満としている。 ※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合 ・多くの国では、それぞれの国民の摂取量や摂取改善の実現可能性を考慮し、成人における望ましい摂取量を10%E未満としていて、アメリカ心臓協会とアメリカ糖尿病学会が7%E未満としている。 日本人の飽和脂肪酸摂取量は欧米諸国に比べれば比較的に少なく、20歳以上に限ると6.9%Eである。この値よりも飽和脂肪酸を多く摂取することによる健康利益は、脳卒中のリスク低減の可能性を除けば考えにくい。 なお、飽和脂肪酸は脂質の一種であり、飽和脂肪酸摂取量を制限すれば、総脂質の制限につながり、それが必須脂肪酸の摂取不足につながる恐れがあることに留意する必要がある。 以上を考慮し、飽和脂肪酸の目標量を7%E以下としている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
コレステロール値との関連
・飽和脂肪酸の摂取量が多いと血液中のコレステロールが高くなる関係がある。 ○なぜ、飽和脂肪酸を多く摂取すると血液中のコレステロールが増えるのか? ・飽和脂肪酸は主に動物性食品に含まれているが、動物性食品はコレステロールも含んでいるので、飽和脂肪酸の摂取が多い人はコレステロールの摂取も多くなっている。 それ以外に、飽和脂肪酸は肝臓でのコレステロール合成を活発にする作用があり、食事から飽和脂肪酸を摂取すると肝臓で合成されるコレステロールが増え、たくさんのVLDLを作って血液の中に出て行く。結果としてLDLも増えてしまう。 食事の中のコレステロール含量が多くなくても飽和脂肪酸の摂取量が多いと、食べた後に肝臓でのコレステロール合成が増えてしまってLDLが増えてしまう。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
・高脂肪食は飽和脂肪酸量を増加させ、飽和脂肪酸は血漿LDL濃度を上昇させる。 ※農林水産省/脂質による健康影響
●飽和脂肪酸摂取量と総コレステロール濃度 ・飽和脂肪酸摂取量と血清(又は血漿)総コレステロール濃度が正の関連を有する。 Keysの式 ⊿血清総コレステロール(mg/dL)=2.7×⊿S-1.35×⊿P+1.5×⊿ √C Hegstedの式 ⊿血清総コレステロール(mg/dL)=2.16×⊿S-1.65×⊿P+0.068×⊿C ⊿S:飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー) ⊿P:多価不飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー) ⊿ √C:コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量 ⊿C:コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量 ・Keysの式は、日本人成人でもほぼ成立することが報告されている。 ・国民栄養調査のデータを用いた横断的解析でも、飽和脂肪酸摂取量と血清総コレステロール濃度との間には正の相関が観察されている。 ・27の介入試験(詳細は報告されていないが全て欧米諸国で行われた研究と思われる。総対象者数は682人、介入期間は14~91日間)をまとめたメタ・アナリシスによれば、総エネルギー摂取量の5%を炭水化物から飽和脂肪酸に変えると平均して6.4mg/dLの血清LDL濃度の上昇が観察されている。 研究数を増やした別のメタ・アナリシスでもほぼ同様の結果が得られている。 ・血清総コレステロール並びにLDL濃度への影響を飽和脂肪酸の炭素数別に検討したメタ・アナリシスによると、ラウリン酸(炭素数が12)、ミリスチン酸(同じく14)並びにパルミチン酸(同じく16)では有意な上昇が観察されたが、ステアリン酸(同じく18)では有意な変化は観察されなかった。 このように、飽和脂肪酸の中でも炭素数の違いによって血清コレステロール濃度への影響が異なることが指摘されている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
循環器疾患との関連
・欧米での多くの介入研究では、飽和脂肪酸摂取量を減少させると、冠動脈疾患罹患率、動脈硬化度、LDL値が減少することが示されている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
・高脂肪食は飽和脂肪酸量を増加させ、飽和脂肪酸は血漿LDL濃度を上昇させ、冠動脈疾患のリスクを高くする。 ・取りすぎると血液中のLDLが増加し、動脈硬化が促進されることが予想されている。 ・飽和脂肪酸の摂取量が少ない場合には、脳出血、生活習慣病のリスクを増加させる可能性がある。 ※農林水産省/脂質による健康影響
●心疾患との関連 ・飽和脂肪酸摂取量と心筋梗塞罹患との間に強い関連が認められない理由として、飽和脂肪酸の種類により効果が異なる可能性や飽和脂肪酸を含む食品により冠動脈疾患罹患リスクが異なることが指摘されている。 ・乳製品由来の飽和脂肪酸摂取は心血管疾患を予防するが、肉由来の飽和脂肪酸摂取は心血管疾患のリスクとなっている。 ・日本人45~74歳を対象としたコホート研究、JPHC研究では、飽和脂肪酸摂取量と心筋梗塞罹患に正の関連が認められた。 最小五分位群(飽和脂肪酸摂取量9.6g/日、4.4%E)に比べ、中間五分位群(飽和脂肪酸摂取量16.3g/日、7.2%E)で心筋梗塞罹患ハザード比が1.24に、最大五分位群(飽和脂肪酸摂取量24.9g/日、10.9%E)は1.39に増加した。 ・欧米での多くの介入研究では、飽和脂肪酸摂取量を減少させると、冠動脈疾患罹患率、動脈硬化度、LDL値の減少することが示されている。 ●脳卒中との関連 ・日本人を対象にした多くのコホート研究で、飽和脂肪酸摂取量が少ない人では脳卒中、特に脳出血死亡又は罹患の増加が認められている。 ・最近発表されたJPHC研究では、飽和脂肪酸摂取量と脳出血やラクナ梗塞罹患との間には直線的な負の関連が認められ、飽和脂肪酸摂取量が多いほど脳出血やラクナ梗塞罹患は減少した。 コホート研究では、動物性たんぱく質摂取量の調整は十分されておらず、脳出血等の罹患増加の原因は飽和脂肪酸摂取量の減少に伴う動物性たんぱく質摂取量減少による可能性もある。実際、乳製品摂取量と脳卒中との関連を調べたメタ・アナリシスでは、乳製品最大摂取群は最小摂取群に比較し、脳出血の相対危険は0.75に減少していた。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
飽和脂肪酸摂取と循環器疾患発症の関連について ・飽和脂肪酸摂取量と脳卒中、虚血性心疾患発症との関連を調べた。 ○結果 ・1日に食べる飽和脂肪酸が多いほど、脳出血や脳梗塞による発症リスクは低い結果となった。 ・飽和脂肪酸の摂取量が多くなるにつれ、心筋梗塞の発症率は高い結果となった。 ○飽和脂肪酸摂取は、多すぎても、少なすぎても良くない ・従来、飽和脂肪酸は血清のコレステロール値を高くし、将来的に粥状動脈硬化になりやすくなることから、摂取を控えるような指導がなされることがあったが、最近の結果から、飽和脂肪酸は無害であり、制限する必要はないという説もある。 ・本研究と過去の日本や欧米で実施されたいくつかの研究を総合的にみると、脳卒中並びに心筋梗塞の発症リスクが低いのは、飽和脂肪酸の摂取量が1日に20g前後の集団と考えられる。(牛乳を毎日コップ1杯(200g)、肉を2日に1回(2回につき150g程度)の摂取)
●他の研究事例
○オーストラリアのモナッシュ大学とモナッシュアジア研究所による研究 ・約4,000名の台湾の参加者を対象に、乳製品消費の増加が台湾の健康と長寿に及ぼした影響を検討した。 ・乳製品の消費の増加が心血管疾患、特に脳卒中による死亡リスクを低くすることが観察されたが、がんのリスクとの有意な関連は認められなかった。 ・乳製品を全く食べない人は、そうでない人よりも一般的に血圧やBMIが高く、 体脂肪も多かった。また週に3-7回乳製品を取り入れている台湾人は、何も食べていない人より生き残る可能性が高かった。 ・乳製品の1日の消費量は、週に5サービング程度が最適だと言う。1サービングはコップ1杯の牛乳・チーズ45g・タンパク質8gに相当する。 このくらいの量だと乳糖不耐症の人でも問題が起こることはめったにないとのことである。 ※参考文献 Optimal dairy intake is predicated on total, cardiovascular, and stroke mortalities in a Taiwanese cohort.
○ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院などからの報告 ・米国の2つの大規模な縦断コホート研究のデータを分析した。1984年から2012年看護師健康研究の73,147人の女性、1986年から2010年の医療従事者追跡調査の42,635人の男性のデータを含んでいる。 ・その結果、最も一般的に摂取された主な飽和脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、対象者の総エネルギーのおよそ9から10%を占めた。これらの飽和脂肪酸それぞれは、冠動脈性心疾患のリスク増加と関係していた。 ・飽和脂肪酸の複合群(毎日のエネルギー摂取の1パーセント分)を、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、全粒炭水化物、植物性たんぱく質(同等のエネルギー量)で置き換えることは、冠動脈性心疾患リスクを6から8パーセント低下させると推定された。 ※参考文献 Intake of individual saturated fatty acids and risk of coronary heart disease in US men and women: two prospective longitudinal cohort studies
血糖値との関連
・飽和脂肪酸摂取量の増加により、肥満又はインスリン抵抗性(肥満とは独立して)を生じ、糖尿病罹患が増加する可能性を示唆している。 ・多くの研究で飽和脂肪酸の摂取が糖尿病の発症リスクになり、多価不飽和脂肪酸がこれを低減するとしており、動物性脂質の相対的な増加が、糖尿病発症リスクになるものと考えられる。 ・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版では、糖尿病があるとLDLの管理目標値は120mg/dL未満になっていて、120mg/dL以上の場合、飽和脂肪酸やコレステロール摂取量の減量が望まれる。 しかし、飽和脂肪酸やコレステロールを含む食品を制限すると、特に高齢者において低栄養になる可能性があり、他の栄養素の不足の可能性に注意を払う必要がある。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
●他の研究事例
○ハーバード公衆衛生大学院栄養学部のフランク フー教授らによる報告 ・米国で行われた大規模調査である「医療従事者追跡研究」(1986~2010年)、「看護師ヘルス研究」(1980~2010年)、「看護師ヘルス研究II」(1991~2009年)に参加した男女を対象に調査。 ・参加者らはベースラインの健康状態を検討する為のアンケート調査に回答し、2年おきに追跡。 ・総乳製品摂取量が2型糖尿病雄罹患リスク増大には関連していないことが明らかになった。 ・それぞれの乳製品による効果を検討するため、スキムミルク、チーズ、全乳、ヨーグルトなどの摂取状態によってさらに分析を行った。慢性疾患に関連するリスク因子であるBMIやその他の食事習慣因子を調整すると、ヨーグルトの摂取が2型糖尿病の発症リスク低減に有意に関連していることが分かった。 ・その後、本研究の成果とその他の2013年3月までに発表されている2型糖尿病と乳製品摂取の関連性について検討した研究をまとめて、メタアナリシスを行った。ここから、一日あたり28gのヨーグルト摂取が2型糖尿病リスクを18%低下させることが明らかになった。 ・ヨーグルトに含有されるプロバイオティック乳酸菌が脂質プロファイルと抗酸化性を2型糖尿病患者において改善することが示唆されており、この事が2型糖尿病の発症リスクそのものを低下することに繋がったのではないか、と研究者は推論している。ただし、この推論を実証するには、ランダム化された比較対照試験が必要である、とも指摘している。 ※参考文献 Dairy consumption and risk of type 2 diabetes: 3 cohorts of US adults and an updated meta-analysis
○スウェーデン・ウプサラ大学の研究 ・正常体重の男女39人を対象に、7週間に渡り毎日750kcal分を余分に摂ってもらい、体重をスタート時より3%増やすことを目標とした。 ・余分のカロリーの補給源として2種類のマフィンを用意、一方は材料に飽和脂肪(パーム油)を使用、もう一方は多価不飽和脂肪(ひまわり油)を使用し、対象者を2群に分けていずれかを食べてもらった。両群の違いはマフィンに含まれる脂肪の種類の違いのみであり、その他の食事に含まれる炭水化物・脂肪・たんぱく質量はそろえた。 ・結果、両群の体重増加量は同程度だったにもかかわらず、飽和脂肪群は多価不飽和脂肪群に比べ、肝脂肪と腹部内臓脂肪が大幅に増加していた。また、体脂肪自体も飽和脂肪群の方が増えていた。一方で、筋肉の増加量は飽和脂肪群は多価不飽和脂肪群の1/3以下にとどまっていた。 ・また、飽和脂肪の過剰摂取によって、内臓脂肪の蓄積をもたらし、同時にインスリン制御を妨げる遺伝子のスイッチを"オン"にすることを発見した。 反対に、多価不飽和脂肪酸は脂肪の蓄積を減らし、糖分の代謝を改善するスイッチを"オン"にすることも明らかになった。 ※参考文献 Overfeeding polyunsaturated and saturated fat causes distinct effects on liver and visceral fat accumulation in humans.
がんとの関連
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について ・乳製品、牛乳、チーズ、ヨーグルトの摂取量によって4つのグループに分けて、最も少ないグループに比べその他のグループで前立腺がんのリスクが何倍になるかを調べた。 ○結果 ・乳製品、牛乳、ヨーグルトの摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループのそれぞれ約1.6倍、1.5倍、1.5倍で、摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクが高くなるという結果だった。 ・日本人男性にとって、乳製品はカルシウムだけでなく、飽和脂肪酸の主要な摂取源なので、カルシウム、飽和脂肪酸についても調べると、カルシウムも飽和脂肪酸も同様に、前立腺がんリスクをやや上げる傾向にあった。 ・飽和脂肪酸は炭素数の違いによりさらに細かく分かれるので、成分別にみてみると、ミリスチン酸、パルミチン酸の摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループの、それぞれ約1.6倍、1.5倍であり、摂取量が増えるほどリスクがあがるという結果だった。 ○乳製品と前立腺がんとの関係 ・欧米では多くの研究で乳製品が前立腺がんのリスクであることが報告されている。 カルシウム摂取により、前立腺がんのリスクと関係のある、血中のビタミンD濃度を下げたり、IGF-1濃度を上げたりすることで前立腺がんのリスクとなる可能性が考えられ、2007年の世界がん研究基金と米国がん研究協会(WCRF/AICR)による、主に欧米の疫学研究の結果をまとめた報告によると、カルシウムは前立腺がんのリスクを上げる可能性があることが指摘されている。 しかし、今回の研究では、カルシウム摂取と前立腺がんとの関連は強くなかった。この理由として、日本人は欧米人と比較してカルシウム摂取量が少ないことが考えられる。 ・一方、乳製品に含まれる飽和脂肪酸の摂取により、テストステロン濃度を上げることで前立腺がんのリスクとなる可能性も推測されている。今回の研究では、飽和脂肪酸の中でも、ミリスチン酸やパルミチン酸と前立腺がんとの関連が見られ、日本人男性の前立腺がんでは、カルシウムよりも飽和脂肪酸の関連がより強いように見る。 しかし、今回の研究では、カルシウムを多くとる人は飽和脂肪酸も多くとっている傾向があったために、カルシウムと飽和脂肪酸の影響が完全に分けられていない可能性があるので、どちらが影響しているのかは結論づけられなかった。 ○乳製品の摂取は控えた方がよいのか? ・今回の研究では、乳製品をたくさん摂取すると前立腺がんのリスクが高くなったが、一方、乳製品の摂取が、骨粗鬆症、高血圧、大腸がんといった疾患に予防的であるという報告も多くある。