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注意に関する錯覚
●非注意による見落とし ・少なくするには、予想外の物や出来事を、できるだけ予想のつくものにする。 ○車が直進するバイクの前を横切って右折することによる事故 ・ドライバーにバイクの姿見落とすのは、バイクを予期していないため。 →道路で右折する最中に、ドライバーの行く手をふさぐ乗り物はたいてい車であり、バイクではない。ドライバーは予想外のものを見落としがち。 ・自動車のドライバーがオートバイに気づきにくいのは、オートバイが小さいからではなく、オートバイが自動車と違う形をしているから。ライダーがどんなに派手なウェアを着ていても期待するほどの効果はないらしい。 ○自動車と歩行者・自転車の事故 ・カリフォルニアの各都市とヨーロッパ数ヶ国について調べた調査で、歩行者と自転車が事故に遭う件数は、歩行者・自転車の通行量が多い都市部で少なく、歩行者・自転車が少ない地域で多かった。 →歩行者・自転車の通行量が多い都市では、ドライバーが彼らを見慣れているため。 ●ハンズフリーの携帯電話 ・問題は車の操作能力への影響ではなく、注意力や意識に対する影響。 →注意力への影響という点では、ハンズフリーにしてもほとんど差がない。 運転中の携帯電話は、限りある認知能力を電話による会話に奪われてしまい、予期せぬものに気づく可能性が減ってしまう。 ・たいていの人は自分の注意力の限界に全く気づいていない。 ・様々な実験結果を見ても、ハンズフリーの携帯が勝っているという結果は出ていない。 ・携帯電話で話していても基本的な運転動作は相変わらず出来ているため、運転に支障はないと思い込んでしまうが、ドライバーが想定外の危険をはらんだ出来事は見落としやすくなってしまう。そういった事態はめったに起きないため、日常体験からは学びにくい。 ・助手席の人と話すことは携帯電話で話すよりも問題が少ない。 ①隣にいる相手と話すほうが、話が聞きやすく分かりやすい。そのため、携帯の場合ほど会話に注意を奪われずにすむ。 ②隣にいる相手の目も、ドライバーの助けになる。不意に何かが道路に飛び出してきたときに、気づいて知らせてくれるかもしれない。 ③車の中にいる相手と話す場合、相手にはドライバーの状況が分かっている。そのため、運転の難しい場所にさしかかったドライバーが急に口をつくんでも、相手はすぐにその理由を理解する。一方、携帯で話している場合、たとえ運転の難しい場所にさしかかってもドライバーは会話を続けるようにという強い社会的要求を感じる。 ※参考資料『クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(2011)錯覚の科学 文藝春秋』
自信に関する錯覚
●能力不足と自信過剰 ○能力のない者の二つの問題点 ①自分の能力が平均以下だということ。 ②自分が平均以下であるという自覚が無いため、能力を向上させる努力をしないこと。 能力不足の人はそうでない人よりも自信過剰になりがち。能力のある人は、ほどほど又は分相応の自信を持っている。 ○能力不足と自信過剰 ・ある実験では、論理的な推理力が低かった人を指導して、その能力をかなり向上させると、自信過剰の傾向が減った。 →能力を向上させることが、自分の実力をより正しく判断するための少なくとも一つの方法と言える。 ・能力不足は自信過剰につながる。逆に、学習や練習を続けることによって能力が高まると、同時に自分の実力評価も的確になるということ。 ・あるスキルを習得したての頃は、まだ能力不足なので自信過剰になりがち。 ●自信と信頼 ・支配的な人は、自信ある態度をとりがちである。そして自信の錯覚によって、他の人たちは自信をもって話す人を信頼し、従おうとする。 たとえその人の実力が仲間と同程度であっても、その人が人より先に何度も発言すれば、人はその人の自信を能力の現れと受けとる。 ※参考資料『クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(2011)錯覚の科学 文藝春秋』
●過信 ・鏡を見ているのでなければ、自分の外見に対する認識はある種の記憶。それは最後に鏡で見たときだけでなく、これまで鏡を見たとき、自分の写真を見たとき、すべてを合わせた記憶。 →自分でイメージしている自分の外見は上記の寄せ集めの記憶で、現実には存在しない。 ○2008年、ニコラス・エプリーとリン・ホイットチャーチの研究 ・被験者の写真を撮り、それを一般的に見て非常に魅力的な顔と、その逆の顔になるようにデジタル修正することで、オリジナルに対して魅力度を連続的に上下させたいくつかの写真をつくった。 ・2~4週間後、作成した写真を被験者に見せ、その中から自分の未修正の写真を選ばせた。ほとんどの被験者が選んだのは、オリジナルより10~40%魅力度を上げた修正写真だった。オリジナルを選んだのは25%以下だった。 ・被験者に友人の顔の写真を同様な方法で見せると、自分の顔と同じようなバイアスを示した。 ・面識のない人の顔の場合は、よりオリジナルに近い写真を選んだ。 ○上記バイアスの理由 ・人は一般的に自分は平均以上と思っている。 ・自分と友人のことをよく知っているため、内面の美しさに外から気づくからかもしれない。 ・自分や親しい人達の写真を人に見せるとき、いつもよりずっときれいな顔の、最高の写真を選ぶので、日常の自分を見分ける際に影響が出るのかもしれない。 ※参考資料『ジュリア・ショウ(2016)脳はなぜ都合よく記憶するのか 講談社』
言葉の影響による錯覚
●言語隠蔽効果 ・人物の特徴を言葉に置き換えると、後でその人物を認識する能力が損なわれることがある。 ・2グループの被験者が、犯人の顔が映っている銀行強盗のビデオを30秒見た。 一つのグループは、見た後5分間で犯人の特徴を"できるだけ詳しく"書き出した。 対照グループは見た後5分間、無関係のことをした。 それが終わったところで、被験者は外見の似通った8人の写真の中から容疑者を選び、自分の選択に対する自信の度合いを採点した。 →結果、無関係なことをした被験者は64%、特徴をメモした被験者は38%の正解率だった。このような状況では分析より直感の方が成果が高かった。 ※参考資料『クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(2011)錯覚の科学 文藝春秋』
●選択と言葉による理由付け ・好みの理由を挙げるように言われると、必死に言葉を探しはじめる。 そして全体の印象を決める上で、さほど重要でない要因がかえって言葉にしやすいことがある。 →そこで思いついた言葉をとらえて、それが自分の好みの理由だと考える。 →そして言葉というものは、一度語られると語った本人にとって大きな意味を持ち始める。 →いざ選ぶ段になると、言葉としてはっきり語られた理由が、決断を大きく左右する。 →しかし、時間が経つうちに言葉にした理由は後退していって、後には説明し難い好悪の感情が残る。 ※参考資料『バリー・シュワルツ(2004)なぜ選ぶたびに後悔するのか ランダムハウス講談社』
●説明できない出来事の感情への影響 ・説明できない出来事には、感情への影響を増幅し、引き伸ばすような二つの性質がある。 ①一つ目の性質は、まれで珍しい出来事に感じること。 ・説明がつかない出来事は珍しく思え、珍しい出来事はよくある出来事より感情に大きな影響を及ぼす ②二つ目の性質は、その出来事について考え続ける可能性が大いに高まること。 ・人は無意識に出来事を説明しようとするし、研究によると完成させるつもりのことが終わらないとそれについて考え続けたり、未完成の仕事を思い出したりする可能性が極めて高い。 いったん説明がついてしまえば、その経験は記憶の引き出しに片付け、次の経験に移ることができる。 ・一方、"説明"は経験から感情の衝撃を奪ってしまう。経験をさもありがちなことに見せ、それ以上考えるのをやめさせるから。 ・不確実さは幸せを保存して長引かせることができるが、上記のように人は逆の行動をする。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』
●言語隠蔽効果 ○ジョナサン・スクーラーらの研究 ・何かを言葉にするのが難しい場合、それを言語化するとたいてい成績が下がるようだ。 色、味、音楽、地図、決断、情緒的判断などの状況、感覚を描写すると、その時の細かい部分を思い出すのが難しくなる。 ・人から何かを説明される場合も同じことが言える。 人の顔、色、地図に関する誰かの説明を聞くと、自分の説明も損なわれる。 ・スクーラーによれば、微細な部分が損なわれるだけでなく、非言語的なことを言語化することで、競合する記憶を作り出す。この言語化の記憶は、元の記憶の断片に勝るものであるようで、その後思い出す際に言語化した記憶以上のものが思い浮かばなくなるようだ。 ※参考資料『ジュリア・ショウ(2016)脳はなぜ都合よく記憶するのか 講談社』
原因に関する錯覚
●天候変化と関節炎の痛み ・実際にデータを調べると痛みと天候は無関係であったが、多くの患者は関連性を訴える。 ・自分がすでに持っている思い込みに合わせて解釈している? 患者は、たまたま疼痛が起きた寒い雨の日を記憶して、痛みのなかった雨の日は忘れ、痛みのあった暖かな晴れの日は忘れて痛みのなかった晴れの日は覚えていた? ※参考資料『クリストファー・チャブリス,ダニエル・シモンズ(2011)錯覚の科学 文藝春秋』
比較する際の心理的なくせ
●絶対量と相対量 ・重さを感じる場合、脳はグラムを感知するのではなく、その変化や違いを感知する。 ・絶対量より相対量に敏感に反応する傾向は、重さ、明るさ、音量等の物理的な特性だけにとどまらず、有用さや良さや価値といった、主観的な特性にも言える。 例) 1,000円の5割引の500円には大きく反応するが、10万円の1%引きで99,000円の場合はあまり反応しない。 ●知らない要素、欠如している要素、○○でないものは無視する傾向 ・二つの物が類似しているかどうかを判断するように求められると、人は類似点を探そうとし、類似点でないものは無視する。二つが違っているかどうかを判断するように求められると相違点を探そうとし、相違点でないものは無視する。 例)アメリカ人に、セイロンとネパール、西ドイツと東ドイツという二つの組合せのうち、互いの国がより似ているのはどちらかを尋ねた場合と似ていない国の組合せを尋ねた場合、どちらの答えも東西ドイツの組合せを選んだ。 例) ①"平凡島(気候、砂浜、ホテル、娯楽などが平凡)"と"極端島(気候はよく、砂浜も素晴らしいが、ホテルはみすぼらしく、娯楽がない)"の二つの島のどちらかで休暇をすごす準備をしている。 ②予約をする段階では、"極楽島"を選ぶ人が多い。 ③二つとも仮予約されていて、クレジットカードから解約料の引き落とし期限が来る段階で再度選択すると、"極端島"をキャンセルする人が多い。 ・選ぶときは選択肢の長所を考え、却下するときは短所を考えるため。極端島には最大の長所と短所があるため、選ぶべきよい点を探しているときも、却下すべき悪い点を探しているときも、極端島が目に付く。 ●比較の対象の違いと感じ方 ・どんな比較をするかが感情に多大な影響を与える。そして、今している比較が後でするだろう比較と違うことに気づかないと、未来にどれだけ違った感情を抱くか過小に見積もってしまう。 例) ・サングラスを店で購入する場合、新しいサングラスと今自分が使っている古いサングラスを比較するが、新しいサングラスを購入して数日使用した後だと、古いサングラスと比べるのを止めてしまい、比べることで感じていた喜びが減少してしまう。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』
利益と損失
●利益より損失のほうが影響が大きい ・人は1万円手に入れるより1万円失くすほうが衝撃が大きいと思いがち。 ・これまでに貯めたお金が倍になる確率が85%、すべてを失う確率が15%の賭けには乗らない。見込みの高い大きな利益は、見込みの低い大きな損失の埋め合わせにならない。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』
過去の事象の評価時のくせ
●後知恵バイアス ・災害発生前には誰も予想していなかったことが、災害発生後、誰もが知っている事実になる。そうすると、自分も予想できていなかったのに、予想できていたような気がする。 →それぐらい予想できて当然だろ、という批判が生まれる。 ・クイズ等でいったん答えが分かると問題が簡単に思えてしまう。 ・いったん経験してしまうと、それを脇において、未経験だったときのまっさらな気持ちで世界を眺められなくなる。 ●過去での現在主義 ・昨日や明日を概念化するときの穴埋めに、"今日"の概念を使う。 ・今の考えや行動や発言を、かつての行動や発言として思い返す。 例) ・付き合っているカップルは、二ヶ月前にお互いのことをどう思っていたかを聞かれると、今とまったく同じように感じていたと答える。 ・学生は試験の成績を返されると、試験を受ける前にどれくらい不安だったかという記憶が結果の良し悪しに影響される。 ・患者は頭痛の症状を説明するとき、その瞬間の痛みの強さによって前日の痛みの記憶が左右される。 ・中年の人は、かつて政治問題をどう捉えていたか、学生時代にアルコールをどれだけ飲んだか質問されると、今どう思い、どう捉え、どのくらい飲んでいるかで答えが変わる。 ・夫や妻と死別した人は、5年前に連れ合いを亡くしたときどれぐらい悲しかったか思い出すとき、現在感じている悲しみの度合いに記憶が左右される。 ●これからの可能性より過去の状況を重視してしまう ・過去を思い出すほうが、これからの可能性を考え出すよりはるかに容易なので、冷静に考えると定量的に損な決断をしてしまうことがある。 例) ・パック旅行を選ぶ場合、今は4万円だけど前日は特別価格で3万円だったコースより、同等の内容で6万円から5万円に値引きされたコースを選びたくなってしまう。 →今の価格を過去の価格と比べるほうが、他に選択できそうなコースの価格と比べるより簡単なので、いい買い物だけれどかつてはもっといい買い物だったコースではなく、損な買い物だったものがまずまずの買い物になったコースを選んでしまう。 ・財布に千円札と1000円のチケットが入っていたはずが、コンサート会場に着いて1000円のチケットを失くしたことに気づいた。 このときほとんどの人は新しいチケットは購入しない。 一方、財布に千円札2枚入っている場合にコンサート会場で一枚の千円札を失くしたことに気づいた場合は、ほとんどの人はチケットを購入すると答える。 →どちらのケースも千円の価値のある紙切れ(札orチケット)を失くし、財布に残っているお金をコンサートのために使うかどうかの判断をしているにもかかわらず、チケットを失くした場合は現在を過去と比較することに頑固にこだわってしまい、異なる考え方をしてしまう。千円札を失くした場合は、コンサートのチケットを購入した過去がないため、コンサートの代価を他の可能性と正しく比較できる。チケットを失くして、代わりを買うかどうか考えるときは、コンサートに過去があるため、コンサートの現在の代価(失くした分も合わせて2000円)を以前の代価(1000円)と比較して、価格が2倍になったような気がしてしまう。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』
未来の予測に関わる心理的なくせ
●未来の出来事に対する自分の反応の予測 ・研究によると、人は未来の出来事に対する自分の反応を予測するとき、想像に付き物の穴埋めトリックを脳がやっていることを忘れがち。 ●未来について想像する際にも"欠如"が生じる ・"欠如"を軽視する傾向は、未来についての考えにも影響を及ぼす。 ・自分が想像した未来の出来事の細部を、実際に起きるものとして扱う傾向があるのと同様に、自分が想像しなかった未来の出来事を実際には起こらないものとして扱う、という問題がある。 →想像がどのくらい穴埋めするかを気にしないし、どのくらい穴埋めせずに放っておくかも気にしない。 例) ・最初の子どもが突然死んだとしたら二年後にどんな気持ちでいると思うかを質問。 →質問された人は、死んだ時の状況については詳細に想像するが、子どもの死から二年の間に起こるだろう出来事を合わせて想像することはほとんどない。このことを考慮に入れないと質問に正確に答えることは出来ないが、それを想像しない人が大半。 ・ヴァージニア大学の学生に、大学のフットボールチームの次の試合に勝ったら(負けたら)、数日後はどんな気持ちでいると思うか尋ねた。 ①予測を立てる前に、一部の学生には普段の一日に起こる出来事を描写させ(描写群)、一部の学生にはさせなかった(非描写群)。 ②数日後、学生に実際はどのくらい幸せか尋ねたところ、非描写群だけが勝敗の影響を大幅に大きく見積もっていたことが分かった。 →非描写群は、未来を想像した時、試合後に起こるだろう出来事の細部まで想像しなかったため。例えば、自分達のチームが負けた(悲しいこと)直後に友達と飲みに行ったり(うれしいこと)、チームが勝った(うれしいこと)直後に図書館へ行って期末試験の勉強をはじめたり(悲しいこと)することを考えに入れていなかった。 描写群は、非描写群が気にしなかった細部まで考慮に入れざるを得なかったため、より正確な予測をした。 ●未来での現在主義 ・たいていの人は、今日と大きく違う明日をなかなか想像できず、特に自分が今とは違う考え、望み、感情を抱くとは予想できない。 例) ・食べたばかりで買い物に行って翌週分の食料を選ぶとき、未来の食欲をかなりの確率で過小に見積もることが分かっている。 →満腹だと空腹のときの自分をうまく想像できず、いずれ必ずやって来る空腹に備えることができない。 ・ある研究で、被験者に地理の問題を5問出し、答えを提出する報酬として次の二つを選ばせた。 ①問題の正解②問題の正解は聞かず、お菓子を受け取る。 一部の被験者には問題を出す前に報酬を選ばせ、他の被験者は問題を解いて答えを提出した後に報酬を選ばせた。 その結果、クイズの前に報酬を選んだ人はお菓子を、クイズの後は正解を好む傾向があった。 →クイズの問題を知ることで好奇心がわき、お菓子より正解のほうが重要になった。クイズによって生じる強い好奇心を経験していない被験者は、お菓子より正解を選ぶ自分が想像できない。 ●予感応の限界 ○予感応と感情 ・外界からの情報の流れによっておきる感情経験は"感情"と呼ばれ、記憶からの情報の流れによって起きる感情経験を"予感応"と呼ばれる。 ○感情と予感応の混同 例) ・電話で現在の生活にどれだけ満足しているか尋ねた研究で、その日たまたま天気が良かった地域の住民は、自分の生活を思い浮かべて幸せだと報告する人が多かったが、その日たまたま天気が悪かった地域の住民は不幸せだと報告する人が多かった。 →回答者は質問に答えるために、自分の生活を記憶をたどって思い浮かべ、どんな気持ちがするか想像したと思われるが、想像上の生活からくる感情(予感応)ではなく、現実の感情(天気のよしあし)を取り違えて反応してしまったようだ。 ・その日にトラブルがあって不機嫌な気持ちでいるときに、未来の出来事を想像すると、想像した未来を楽しいと感じられなくなる場合がある。 →未来の出来事を思い浮かべたときに感じる不幸せの感情が、脳の現実を重視する性質によるものだと気づかず、その未来の出来事自体のせいで不幸せに感じると思い込んでしまう。 未来を想像している瞬間の感情が、未来にたどり着いたとき抱く感情だと思い込むが、その感情は、現在起こっていることへの感情反応である場合が少なくない。 ●"時間"を考慮して未来の出来事を想像する ・"時間"を想像するのは非常に難しい。未来の出来事を想像するとき、心のイメージには、関連のある人物、場所、ことば、行動がたいてい含まれているが、"時間"をはっきり示すものは含まれていないことが多い。 ・未来に起こる出来事について自分がどう感じるかを判断したい場合は、それが今起こったらどう感じるかを想像し、"今"と"未来"が完全に同じではないことを考慮して割り引く、と良い。 ●未来にどう感じるかを正確に予測するには? ・人は尋ねられたその瞬間にどう感じているかなら正確に答えられると信じるなら、自分自身の未来の感情を予測する一つの方法は、自分が予測している出来事を今まさに経験している人を探して、どんな気持ちかを尋ねることだ。 自分の過去の経験を思い出して未来の経験をシミュレーションする代わりに、他の人に心の状態を中から眺めてもらう。思い出したり想像するのを完全にあきらめて、他の人を未来の自分の代理人にする。 ○想像の欠点 ・無意識のうちに穴埋めや放置をしがち。 ・現在を未来に投影しがち。 ・物事がいったん起こると、思っていたのと違って見えるようになるのに、前もってそれに気づかない。特に、それが悪いことだと、はるかに良いことに思えてくる。 ○なぜ代理人を使って予測しないのか? ・人は、自分がほとんどの人と同じだということに気づかない。 ・平均的な人は自分自身が平均的だと思っていない。 ・自分は独特だと思っている。 ○なぜ自分が独特だと思うのか? ・われわれ自身が特別でないとしても、われわれが自分を知っている方法が特別。われわれは自分の思考や感情を経験するが、他人については、思考や感情を経験しているだろうと推論するしかない。 ・自分を特別だと考えると楽しい。 研究によると、人は自分が他人に似すぎていると感じるとたちまち不機嫌になり、様々な方法で距離を置いたり自分を目立たせたりしようとする。 ・われわれがはあらゆる人の独自性を過大に見積もる傾向を持っている。 すべての人は似ている部分も違っている部分もあるが、人が他人について感心があるのは、すべての人に共通するものではなく、ある人を別の人と区別するものである。 →人はこうした違いを探し、関心を向け、じっくり考え、記憶することに多くの時間を費やしているため、違いの大きさや頻度を過大に見積もりがちで、そのために、実際よりも人間ひとりひとりが違っていると考えてしまう。 ・個人の多様性と独自性についての根拠のない信念こそ、われわれが他人を代理人にするのを拒む最大の理由。 ・代理体験が有効なのは、代理人がだいたい自分と同じように出来事に反応すると思えるときだけで、人の感情反応が実際より変化に富んでいると信じるなら、代理体験は実際より有効でないように見えてしまう。 ・代理体験が未来の感情を予測する手軽で効果的な方法であるにも関わらず、われわれは、いかに自分たちがみんな似ているか気づかないため、この頼りになる方法を却下してしまう。 ※参考資料『ダニエル・ギルバート(2007)幸せはいつもちょっと先にある 早川書房』