※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
- 腸内細菌の働き
- 腸内細菌と脳内化学物質
- 腸内細菌の種類と特徴
- 腸内フローラの移り変わりと安定性
- 悪玉菌の概要と作用
- 便秘と悪玉菌
- おならのにおい、原因
- ウエルシュ菌と下痢
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
腸内細菌の働き
・栄養分の消化と吸収を助ける。 ・悪性の細菌(有害菌)、有害ウィルスや有害寄生虫などの侵入に対して、自然のバリアを構築する。 ・"解毒器"として機能する。感染症の防止と、腸内に侵入する多くの毒素に対する防衛線の役割を担う。 ・免疫系の反応に良い影響を与える。腸は体内で最大の免疫系器官。 さらに特定の免疫細胞をコントロールして、体が自分の組織を攻撃する自己免疫疾患を防ぐことで、免疫機能を助ける。 ・体内で働く重要な酵素や物質、ビタミンや神経伝達物質を含む"脳に必要な物質"を生成して放出する。 ・内分泌腺(ホルモン)のシステムへ働きかけ、ストレスを取り除く力をつける。 ・良質の眠りをうながす。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』
腸内細菌と脳内化学物質
○ルイジアナ州立大学のジェームズ・M・ヒル博士の報告書 ・BDNF、GABA、グルタミン酸などの脳内化学物質のレベルは、腸内細菌の状態を反映している。 →マウスの実験で、この腸内細菌を死滅させると、マウスの行動が変化するだけでなく、脳内化学物質の量も変化してしまう。 ○BDNF ・脳の成長に重要なタンパク質であり、新しい神経細胞がつくられる過程に関わる。また既存の神経細胞を守り、生存を支え、神経同士の結合(シナプス)を促す。 ・BDNFの減少は、アルツハイマー病、癲癇、神経性食欲不振、うつ病、統合失調症と強迫性障害など一連の神経性の症状に見られる。 ・BDNFは有酸素運動を行ったり、オメガ3脂肪酸のDHAを摂取したりして増やすことができるが、腸内に棲む細菌のバランスに完全に依存していることがわかってきた。 ○GABA ・腸内細菌が生成する重要な化学物質。 ・脳内の化学信号を伝達する物質で、伝達を制して脳波を正常化させることで神経活動を鎮める。 →神経系を安定させ、人がうまくストレスを切り抜けられるようにする。 ・GABAは神経活動を弱めるため、不安感を抑制し、炎症が原因である胃腸障害の発症を防ぐ。 ・2012年にベイラー医科大学およびテキサス小児病院の研究者達は、大量のGABAを分泌するビフィドバクテリウム属の種の存在を確認した。 そしてこれが脳障害だけでなく、クローン病のような炎症性腸疾患を予防したり治したりする役割を担っている可能性がある。 ○グルタミン酸塩 ・腸内細菌が生成する重要な神経伝達物質。 ・認識、学習、記憶を含む脳機能の大半に関係している。 ・不安感や行動障害から、うつ病やアルツハイマー病まで、多くの神経性の問題はGABAとグルタミン酸塩の欠乏が原因とされてきた。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』
腸内細菌の種類と特徴
・結腸で細菌総数の90%を占めるのがフィルミクテス門とバクテロイデス門。 ・フィルミクテス門とバクテロイデス門の比率(F/B)が健康や病気のリスクに関わっている。 ・健康づくりに理想的な働きをする細菌がどの種でどの程度が必要かはまだ分かっていないが、一般的にはその多様性や割合がカギだと考えられている。 ・比率によって健康に良かったり悪かったりする。例えば、大腸菌はビタミンKを生成するという良い面もあるが、重病の原因にもなる。 ・クロストリジウム・ディフィシル菌は、乳幼児がこの菌を体内に持っていても通常は問題にならないが、抗生物質の乱用などで腸内環境の変化が起こると、この細菌が増えすぎて命にかかわる疾患につながる。 ・糖尿病や肥満の人は細菌の種類自体が少ないという研究結果もある。 ○フィリミクテス門 ・脂肪を好む細菌。 ・複合糖質を消化するための酵素を多く蓄えていて、消化した食べ物からのエネルギーの抽出に大きな威力を発揮する。 ・最近では脂肪吸収率の増加を助けていることも判明した。 ・肥満の人は痩せている人より腸内フローラ中のフィルミクテス門の割合が高い。 ・ヒトの代謝遺伝子をコントロールしていて、高いと肥満、糖尿病、心血管疾患のリスクを増やす遺伝子のスイッチがオンになることが分かった。(2015年、"アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュトリション"に掲載された研究) ○バクテロイデス門 ・扱いにくい植物のデンプンと繊維を、より小さな脂肪酸分子に分解し、体がエネルギーとして使えるようにする。 ・痩せている人はバクテロイデス門の方が優勢。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』
●乳酸菌、ビフィズス菌の主な働き ・ビフィズス菌は乳酸菌の一種。 ・乳酸菌は糖を分解して乳酸を生成する菌の仲間。増殖することで、腸内を酸性の環境に変えていく。酸性に傾くと悪玉菌の増殖が抑えられる。 ・ビフィズス菌は乳酸のほかに酢酸も生成する。 酢酸には殺菌力があるため、悪玉菌の増殖を抑制する作用もあると思われる。 ※食物酢に含まれる酢酸は大腸に届く前に吸収されてしまうので、腸内環境を整えるためには役立たない。 ・腸の蠕動運動が促され、便通がよくなる。 ・ビタミンB群、K、葉酸など様々な種類のビタミンを合成する働きがある。 ・母乳の中にビフィズス菌の増殖を促す物質(ビフィズス因子)が含まれていて、母乳で育った乳児のほうがビフィズス菌の数がはるかに多く、悪玉菌の増殖を抑えやすいことが知られている。 ※参考資料『光岡知足(2015)腸を鍛える 祥伝社』
●善玉菌の働き ・乳酸菌(ビフィズス菌、乳酸かん菌(ラクトバチルス)など)は、糖質を分解、発酵させて、大量に乳酸を作り出す。ビフィズス菌は、乳酸のほかに酢酸も作り出す。 乳酸や酢酸は大腸の粘膜を刺激して、小腸で消化・吸収されなかった残りの栄養素の吸収や、便を肛門へと運ぶ大腸の蠕動運動を促進させる。 乳酸や酢酸は大腸内を弱酸性にする働きがある。悪玉菌はアルカリ性の環境を好み、弱酸性の環境を嫌うため、悪玉菌の数や力が低下する。 ・悪玉菌が作り出す有害物質や発がん性物質を分解して無毒にしてくれる作用も期待できる。 ・ビフィズス菌をはじめとするいくつかの善玉菌は、有毒物質を吸着し、そのまま便として体外に排出する作用を持っている。 ※参考資料『澤田幸男,神矢丈児(2015)腸が寿命を決める 集英社』
悪玉菌の概要と作用
・大腸菌やウェルシュ菌など。 大腸菌は、ビタミンB群、Kを合成したり、感染症を防御したりするプラスの働きもあるが、一定数を超えると腸内腐敗を引き起こす元凶になる。 ・タンパク質が分解されることで、アミン、インドール、スカトール、フェノールなどの有害物質が発生する。 これらの有害物質によって食べかすは腐敗し、それが腸内環境を悪化させる要因となる。 便秘や下痢、有害物質が血液を通じて体中に運ばれ、肌荒れなどが起こりやすくなる。 ・悪玉菌の増殖が始まると無害だった日和見菌も悪玉化し、腸内フローラがどんどん腐敗に傾いてしまう。 ・加齢とともに、悪玉菌の割合が増加していく。 ※参考資料『光岡知足(2015)腸を鍛える 祥伝社』
・ウェルシュ菌、ブドウ球菌、大腸菌など。 ・悪臭のもとになる腐敗物質を作り出す。 ・牛肉や豚肉に多く含まれる動物性たんぱく質を腐敗させて、アンモニア、アミン、インドール、スカトールと呼ばれる、悪臭を放つ有毒な化学物質を作り出す。 ・上記有毒化学物質が、少しずつ直接大腸の粘膜細胞を傷つけ、長い年月をかけて大腸がんを引き起こすリスクを高める。 ・悪玉菌が作り出すアミンは、発ガン性物質であるニトロソアミンを作る原因になる。 ・有毒化学物質の量がそれほど多くなければ、通常、大腸で吸収された後、肝臓に送られ、そこで解毒されて尿と一緒に体外に排出される。 しかし、大量かつ慢性的に発生し続けると肝臓に強い負担がかかり、機能が徐々に弱まっていく。 そうなると解毒が間に合わなくなり、からだじゅうにこれらの有毒物質が循環してしまうため、老化を促進したり、ガン細胞の発生を誘発する恐れがある。 ・からだ全体の免疫力が低下すると悪玉菌が増える、という逆方向の相関関係もある。 免疫力の低下は、ストレス、運動不足や寝不足、抗生物質の乱用や便秘によっても引き起こされ、その結果、悪玉菌は増加していく。 ※参考資料『澤田幸男,神矢丈児(2015)腸が寿命を決める 集英社』
便秘と悪玉菌
・便が腸の中に長くたまってしまうと悪玉菌が増えてしまう。 ・悪玉菌が食物を分解して作り出す産物は吸収されていろいろな病気を引き起こすことがわかってきた。 →肥満、糖尿病などの生活習慣病や動脈硬化、がん、アレルギー疾患 ・食物繊維は便の量を増やして便通をよくしてくれる。 ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
おならのにおい、原因
・おならは腸内で発生し、肛門から排出されるガス。一日平均で100~300mlに及ぶ。 ・ガスは腸内細菌によって食べ物のかすが分解される過程で発生し、その多くは血液中に吸収される。 腸内のガスが多いと血液中に吸収しきれなくなり、そのまま肛門からおならとして放出される。 ・くさいおならが出るのは、腸内フローラが悪玉菌優勢になっている場合。 悪臭と関わっているのは、悪玉菌が作り出すアンモニア、アミン、硫化水素、インドール、スカトールなどの微量成分。 サツマイモのように食物繊維の多い食べ物を摂取すると多量のおならが出るが、それは水素やメタンの働きによるもので、臭いとは関係ない。 ・ビフィズス菌などの善玉菌は、糖を分解した際にガスは発生せず、悪臭にもならない。 ※参考資料『光岡知足(2015)腸を鍛える 祥伝社』
ウエルシュ菌と下痢
・ウエルシュ菌はガスを発生させる"通気性嫌気性"細菌で"芽胞"を形成するという特徴を持っている。その中でも毒素産生株は食中毒の原因菌として知られている。 ・食品の保存温度がウエルシュ菌の増殖の適正温度になると、芽胞が発芽し、植物とともに腸管まで運ばれて"栄養細胞"になる。その細胞が芽胞細胞へと移行するときに産生される毒素が下痢症状を引き起こす原因となっている。 ※参考資料『杉山政則(2015)現代乳酸菌科学 共立出版』
腸内フローラの移り変わりと安定性
●腸内フローラの移り変わり ・乳児は、菌の種類が少なく、腸内フローラが未発達の状態。 ・最初の数ヶ月は様々な菌が増えたり減ったりするが、生後6ヶ月ほど経つとビフィズス菌が90%以上を占めるようになる。 ・その後、次第に他の種類の菌が増え、ビフィズス菌の割合は減っていく。 ・どんな菌が、どのくらいの割合で住み着くのかは、人それぞれ全く違う。 多くの人で、だいたい5歳ぐらいまでに腸内フローラの構成が決まってしまい、その後は大人になってもほとんど変わることはない。 ただし、食生活などで小さな変化は絶えず起きていて、この小さな変化が健康を大きく左右する。 ・老化が始まると、腸内細菌の種類が少しずつ減り、多様性が失われていくことが分かっている。 ●腸内フローラの安定性 ・腸内フローラはかなり安定していて、一生の間で大きく変わることはない。 ・下痢をしたあとも、腸内フローラは復活する。 ・腸内細菌は、腸の表面にある"粘液層"の中に入り込んでいて、食べ物と一緒に流れていくことはなく、住み着いている。 粘液層は、腸の内側を覆っているムチンというネバネバした物質の層で、厚さは約0.1mm。粘液層は本来、外敵が侵入しないよう、腸の壁を守る働きをしている。 →その粘液層の中に特定の細菌だけを導くために、IgA抗体を使って選び出している。 ○IgA抗体が腸内細菌を粘液層に導く仕組み ・腸の中には常に大量のIgA抗体が白血球によって放出されている。 →IgA抗体は、特定の細菌に限ってくっつくように、狙いを定めて作られていて、該当する腸内細菌にくっつく。 →適度な量のIgA抗体がくっついた細菌だけ、腸の粘液層の中に入ることができる。 ・IgA抗体がどんな細菌を選ぶのかは、ヒトの遺伝子の中に書き込まれていると考えられている。 ○IgA抗体と虫垂 ・虫垂の中には白血球が集まる特別な場所、虫垂リンパ組織がある。この場所で、白血球は腸内にどんな細菌がいるかを"学習"し、その細菌をターゲットにしたIgA抗体を作れるように成長している。 ・大枠は遺伝子によって決められていて、さらに細かくどんな菌を選ぶのかは、虫垂リンパ組織のなかで行われる学習によって決められていく。 ・虫垂を切ってしまった人もいるが、発達段階では重要かもしれないが、ある程度成長してからではほとんど影響ないのではないかと考えられている。たとえ子どもの頃に切ってしまったとしても、リンパ組織は小腸にも存在するので、IgA抗体が全く作れない、というわけではないようだ。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
・晩年には、腸内細菌叢のバランスが崩れてビフィズス菌が著しく減少、それに代わってウエルシュ菌が増加するとともに、乳酸桿菌や大腸菌の数も増えてくる。 ※参考資料『杉山政則(2015)現代乳酸菌科学 共立出版』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●便通、便の状態と大腸がん罹患との関連について ・40~69才の男女約8万人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、便通の頻度または便の状態と大腸がん発生率との関連を調べた。 ○結果 ・便通が週2-3回しかなくても、毎日ある人と比べて大腸、結腸、あるいは直腸がんのリスクが高くなることはなかった。