血圧値を基に対策

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 高い血圧値の診断基準
  2. 加齢と血圧値の関係
  3. 高血圧と循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)のリスク
  4. 高血圧症の原因
  5. 食塩感受性と食塩抵抗性
  6. ナトリウム(食塩)との関連
  7. DASH食、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの関連
  8. 脂質、n-3系脂肪酸との関連
  9. 炭水化物、食物繊維との関連
  10. たんぱく質、DASH食、減量との関連
  11. エネルギー摂取量、肥満との関連
  12. 高血圧とアルコールとの関連
  13. 高血圧と喫煙との関連
  14. レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

高い血圧値の診断基準

○高血圧症の診断基準
・収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断。
 
○メタボリックシンドロームの診断基準による血圧の判定基準
・収縮期血圧が130mmHg以上拡張期血圧が85mmHg以上。
・メタボリックシンドロームは複数のリスクファクターが重なって動脈硬化を進行させるため、高血圧診断基準で正常高値の数値であっても注意が必要。

加齢と血圧値の関係

血圧値は加齢と共に高くなる傾向にあります。
どの程度なのか、厚生労働省の資料を基にまとめてみました。
 
○男性の年齢別血圧平均値(血圧を下げる薬の使用者除外)

年齢 最高血圧 最低血圧 140mmHg以上の人の割合
20~29 120.4 74.3 7.8
30~39 121.1 78.4 4.6
40~49 125.8 81.9 16.0
50~59 133.4 85.2 32.0
60~69 136.9 83.0 40.8
70~ 137.5 79.8 39.5

○女性の年齢別血圧平均値(血圧を下げる薬の使用者除外)

年齢 最高血圧 最低血圧 140mmHg以上の人の割合
20~29 109.3 68.0 0.4
30~39 109.9 70.3 1.5
40~49 116.1 73.4 5.9
50~59 124.6 77.6 17.1
60~69 130.8 78.7 28.7
70~ 133.6 76.8 36.5

※「国民健康・栄養調査(平成28年)」第21表の3,4

高血圧と循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)のリスク

●高血圧と循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)発症リスク
 
高血圧だと虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)や脳卒中(脳梗塞、脳出血)の発症リスクが高くなります。
 
独立行政法人国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC Study)の研究結果を見ると、以下のように血圧高値の人は、そうでない人と比べて、循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)発症の相対危険度(ハザード比)が2倍以上となっています。

○調査方法
・40~69歳の男女約2万3000人を1993年から2005年まで追跡調査。
・研究開始時の健診データを用いて、高血圧を含むメタボリックシンドロームの有無を調べ、その後の脳卒中発症および虚血性心疾患発症のハザード比を計算した。
 
○高血圧と循環器疾患(脳卒中または虚血性心疾患)の相対危険度(ハザード比)
メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と循環器疾患発症との関連の図1の血圧高値の部分参照。
 
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

 
●高血圧→冠動脈の動脈硬化→狭心症、心筋梗塞
 
・高血圧は動脈硬化の危険因子。
・冠動脈(心臓の上に冠のように乗っている動脈で、心臓を取り囲むようにして走行し、心筋にエネルギーを供給する動脈)が動脈硬化を起こすと、狭心症や心筋梗塞となるリスクが高まる。
 
※狭心症
動脈硬化によって内腔が狭くなり血流量が減ると心臓が酸素不足に陥り、胸の痛みや息苦しさを伴う発作を起こす。
※心筋梗塞
冠動脈の動脈硬化の部分が血栓で完全に詰まった状態になり、激しい胸痛や呼吸困難、脈の乱れを起こす。
 
●高血圧と心肥大
 
高血圧の状態では、全身に血液を送りだす心臓の左室は血液を押し出す際に抵抗があるため、心臓の筋肉に負担がかかる。
  ↓
左室の壁が厚くなるという左室肥大が起こってくる。
 
これは、心臓の筋肉をつくっている心筋細胞は数を増やすことができないため、それぞれの細胞が大きくなることで力を出そうとし、それに伴い細胞と細胞の間にある線維組織が増加して壁を厚くするため。
 
※参考情報
高血圧と心臓病 | 公益財団法人 日本心臓財団

高血圧症の原因

●原因ははっきりしない?
 
・高血圧には、他の疾患や薬剤の副作用が原因で起こる”二次性高血圧”と、原因のはっきりしない”本態性高血圧”がある。
 
・日本人の高血圧の85~90%は、原因のはっきりしない本態性高血圧と言われている。
 
・遺伝など高血圧になりやすい体質、塩分の過剰摂取、肥満、過度の飲酒、運動不足・ストレス喫煙などの生活習慣要因などが複合的に重なって発症すると考えられている。

食塩感受性と食塩抵抗性

●食塩感受性と食塩抵抗性(非感受性)
 
・食塩摂取量によって血圧が変化するタイプ(食塩感受性)の人と食塩摂取量によって血圧が変化しないタイプの人(食塩抵抗性、食塩非感受性)の人がいる。
・食塩感受性の人は、食べた塩分を体内に溜めておこう(腎臓によってナトリウムが体外に排出されづらい)とする傾向にある。
・高血圧患者の治療の観点からは、食塩感受性の人は食塩摂取量を減らすと血圧が改善され易いのに対し、食塩抵抗性の人は改善されにくい、と言える。
 

・食塩摂取量を増加させると血圧が上がる人は"食塩感受性"で、30~50%いると考えられている。
・食塩摂取量を増加させても血圧が上昇しない人は"食塩抵抗性"で、20~30%いると考えられている。
・"食塩感受性"では食塩を体に貯めやすいため、体液量が増加して血圧が上昇することになる。
・"食塩感受性"での高血圧は、臓器障害を合併しやすいという特徴がある。
・欧米人は"食塩抵抗性"が多く、このような人種では交感神経系が高血圧に関係している。
・"食塩感受性"と"食塩抵抗性"の違いは、腎臓でのナトリウムの排泄具合の違いにある。
 
※参考資料『上原誉志夫(2015)高血圧ならみそ汁を飲みなさい! 実業之日本社』

 
●高血圧の予防としての減塩
 
塩分過多=血圧上昇と思っていましたが、食塩摂取量が増加しても血圧が上昇しにくい人もいるようですね。
 
高血圧の予防として減塩を心掛けている人もいるかと思いますが、現状血圧が正常の範囲内にあるのであれば、高血圧の予防として食塩5~6g/日未満といったレベルまでの減塩を試みる必要はないかもしれないですね。
 
自分がどちらのタイプかは分からないと思いますが、食塩抵抗性であれば食塩摂取量が目標値より高くても血圧は上がりづらいはずで、一方、食塩感受性であれば今後血圧が上がるかもしれませんが、上がり出してから減塩を試みれば血圧は改善する、ということだと思います。

ナトリウム(食塩)との関連

●減塩目標
 
・日本高血圧学会による"高血圧治療ガイドライン"では、減塩目標は食塩6g/日未満。
・2013年の世界保健機関(WHO)の一般成人向けのガイドラインでは、食塩5g/日未満の目標値が強く推奨されている。
 
●厳しすぎる減塩の懸念
 
・慢性腎臓病(CKD)患者は腎ナトリウム保持能が低下しており、過度の減塩は健康障害を生じる可能性が懸念される。
 このような立場から、日本腎臓学会の"エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013"では食塩摂取量目標値を上限の6g/日未満だけでなく、下限の3g/日以上も設けている(下限値のエビデンスは乏しい)。
 加齢と共に腎機能は低下するので、高齢者でも同様の注意が必要と考えられる。
 
・減塩は、心血管病リスクである
  • レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
  • を亢進することはよく知られているが、最近のメタ・アナリシスでは交感神経系やメタボリック危険因子に関しても心血管病リスクを減じる方向に作用しない可能性が指摘されている。   ・血圧上昇の影響がその発症・進展に大きいと考えられる脳卒中では厳しい減塩がリスクを上げるという報告はないものの、血圧以外のリスク因子の影響も大きい冠動脈疾患で厳しい減塩による増悪が示されている報告も散見される。   ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

     
    ●食塩摂取量と循環器疾患(脳卒中・心筋梗塞)の発症との関係
     
    食塩摂取量が多いと高血圧になりやすく、循環器疾患(脳卒中・心筋梗塞)のリスクが高くなる、ということはよく知られています。
     
    実際にどれくらいリスクが高くなるのでしょうか?
     
    独立行政法人国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC Study)に以下のような研究結果がありました。
     
    1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、循環器疾患の発症率を比較したところ、最大グループ(グループ内の食塩摂取量の中央値:17.8g)は最小グループ(中央値:7.5g)に対し、相対危険度(ハザード比)が1.19となっています。

    ○調査方法
    ・45~74歳の男女約8万人を1995年から2004年まで追跡調査。
    ・研究開始時に行った食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を利用し、食塩の1日当りの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた循環器疾患の発生率を比較。
    ・分析の際、性別、年齢、喫煙、肥満など循環器疾患のリスクを高めることがわかっている別の要因の影響は取り除いている。
     
    ※参考資料
    ・塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
    

     
    ○循環器疾患と他のリスク要因との関連
     
    上記食塩摂取量との関連では、ハザード比1.19となっていましたが、他のリスク要因と循環器疾患との関連も参考のため確認してみました。
     
    ・HDLコレステロールと虚血性心疾患の発症リスク
    血中HDLコレステロール濃度が一番低い男性の群は、高い群と比べて1.85倍増加。
    ※参考資料
    ・HDLコレステロールと循環器疾患発症との関連について
     
    ・飽和脂肪酸と心筋梗塞の発症との関連
    飽和脂肪酸摂取量が一番高い群は、低い群と比べて1.39倍増加。
    ※参考資料
    ・飽和脂肪酸摂取と循環器疾患発症の関連について
     

    ●ナトリウム摂取による血圧への影響は言われているより少ない?
     
    ・ナトリウム摂取、BMI、身体活動、アルコール消費、ナトリウム以外の食物因子が、8,670名のフランス人の成人の血圧に与える影響を横断的に検討した結果、BMI、年齢、アルコール摂取は、すべて血圧の上昇に強い関連があると結論付けた。
    ・一方、ナトリウム摂取が血圧に対する影響は、統計的に有意ではないことが明らかとなった。
    ・果物や野菜の消費が高いほど血圧が有意に低く、身体活動の増加は目立った影響を示さなかった。
    

    レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系

    ●レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系による血圧調節
     
    ・恒常性を保つ内分泌機構の一つで、血圧や体液量の調節に関わるホルモン系の総称。
    腎臓は血液を濾過し、体内の水分とNaのバランスが一定になるように調節している。
    ・血圧低下や腎臓の循環血液量の低下に伴って、活性化される。
    ・血圧上昇、Na再吸収の増加、水分再吸収の増加などの作用がある。
     
    簡略化したイメージとしては以下のようになるようです。
     
    ○血圧低下(血液量が低下)
    →腎臓に流れ込む血液量が低下
    →腎臓にある傍糸球体装置が検知し、レニンというタンパク質分解酵素を放出
    →レニンの作用で、アンジオテンシンI生成
    →アンジオテンシンIは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIに変換
    →アンジオテンシンIIの作用で血圧増加
     ①アンジオテンシンIIは、副腎のアルドステロンの分泌促進
     →アルデステロンは腎臓に作用し、Naと水分を血液中に再吸収させる方向に働く
     →血液量増加
     ②血管収縮作用があり、血圧増加
     
    ・逆に体内にNaが多いと、レニンの分泌を抑制し、汗や尿としてNaを体外に排出させようとする。
     
    ●RAA系と高血圧
     
    ・食塩感受性のある人では、必要以上に塩分を摂り過ぎているとRAA系の抑制不全が見られ、高血圧となってしまう。
     
    ●レニン・アンジオテンシン系と動脈硬化
     
    ・アンジオテンシンIIは、心血管系では動脈硬化に促進的に作用するようです。
     
    ※参考資料
    動脈硬化病態生理におけるレニン・アンジオテンシン系の役割
     
    ●RAA系と内臓脂肪、アンジオテンシノーゲン
     

    ・アンジオテンシノーゲンは、主に肝臓でつくられるが、脂肪細胞でもつくられており、内臓脂肪の増加に伴ってその産生・分泌が高まり、血中濃度が増加する。
    ・アンジオテンシノーゲンは、レニンの作用でアンジオテンシンⅠにつくり替えられ、その後RAA系の作用で血圧を上昇させる。
     
    ※参考資料
    アンジオテンシノーゲン | e-ヘルスネット
    

    DASH食、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの関連

    ●DASH食とは?
     
    ・DASH食とは、米国国立衛生研究所が主導し、高血圧患者のために考え出された食事療法。
    ・"Dietari Approach to Stop Hypertension"の略語で、血圧の上昇を食い止めるための食事の仕方を指導している。
     
    ●高血圧とカリウムの関連
     
    ・カリウムは、野菜・果物、低脂肪乳製品が豊富な降圧効果を有する食事パターンであるDASH食の主要な栄養素の一つとして知られている。
     
    ・カリウムの降圧効果に関する介入試験のメタ・アナリシスは、正の関連も負の関連もあるが、最近報告されたメタ・アナリシスでは小児では降圧を認めなかったが、成人においては有意の降圧を認めた。
     このメタ・アナリシスでは、幅広いカリウム摂取量の試験を扱っている。カリウム摂取量と降圧度には有意の関係は認められなかったが、ナトリウム摂取量の多いものほど、カリウムの降圧効果は顕著であった。
     
    ・Fujitaらの中年の高血圧患者を対象にした報告でも、ループ利尿薬(フロセミド40mg)を投与し3日間減塩1.5g/日を行った後、14.7g/日6日間の食塩負荷時の血圧上昇を、96mmol(3,500mg)/日のカリウム補充はほぼ完全に抑制した。
     
    ・コホート研究のメタ・アナリシスではカリウム摂取量の増加は脳卒中のリスクを減らしたが、心血管病や冠動脈疾患のリスクには有意の影響はなかった。
     
    ・一般集団を対象とした疫学研究でナトリウム/カリウム摂取比が心血管病リスク増加や全死亡に重要であるという報告もある。
     
    ・上記のように、カリウムは食塩過剰摂取の血圧上昇などの作用に拮抗している可能性がある。
     食品加工の際にナトリウムが添加されカリウムが失われていくことから、加工食品が汎用されている先進国では食塩の摂取が増え、カリウムの摂取が減る傾向にあり、カリウムの積極的摂取を推奨すべきである。
     
    ・最近発表されたWHOのガイドラインでは、カリウム摂取量90mmol(3,510mg)/日以上を推奨しており、WHOが行ったメタ・アナリシスにおいて90~120mmol/日のカリウム摂取量で有意の低下を来したことを根拠としている。
     
    ・なお、腎障害を伴う人は軽症であっても高カリウム血症を来し得るので注意が必要であり、特に腎障害を有する人ではカリウムの積極的摂取は避けるべきである。
     
    ●高血圧とカルシウムの関連
     
    ・カルシウムもDASH食の主要な栄養素。
     
    ・18~74歳の高血圧の既往のない人を対象にしたアメリカの古典的な疫学研究によると、収縮期血圧平均値はカルシウム摂取量の増加に伴い低下することが示されている。
     その後発表された幾つかの疫学研究でも同様のことが証明されている(45歳以上の心血管疾患やがんの既往のない女性の医療従事者、45~64歳男性一般住民)。
     
    ・van Mierloらの介入試験のメタ・アナリシスでは、カルシウム摂取量の平均値は1.200mg/日で、収縮期/拡張期血圧が1.86/0.99mmHgの有意の低下を示した。
     
    ・しかし、Dickinsonらのメタ・アナリシスでは収縮期血圧は2.5mmHgの有意の低下を認めたものの、カルシウム補給による介入試験は質のよくないものもあり、科学的根拠は十分とは言えないとの見解が述べられている。
     
    ●高血圧とマグネシウムとの関連
     
    ・マグネシウムもDASH食の主要な栄養素の一つ。
     
    ○55歳以上の高齢者を対象としたRotterdam研究
    ・100mg/日のマグネシウム摂取量増加は収縮期/拡張期血圧の1.2/1.1mmHgの有意の降圧を伴うことが示されている。
     
    ○Kassらの介入試験のメタ・アナリシス
    ・平均410mg/日のマグネシウム補充で収縮期/拡張期血圧が-0.32/-0.36mmHgと、僅かだが有意に低下したと報告されている。
     
    ○一致しない研究結果
    ・降圧効果を証明できなかったメタ・アナリシスもある。
    ・多くの試験を用いているDickinsonらの報告(平均8週間の105の研究を扱い、対象者の人数は6,805人)には、マグネシウムの介入試験には質に問題のあるものが少なくないとの指摘もある。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

     

    ・欧米型の食事をする人と野菜を主体とする食事の人を比べて血圧を調べた結果、野菜類をメインに食事をする人のほうが、同じ食塩量を摂取していても血圧が低かった。
     
    ・上記の結果を基に作られたのがDASH食。コレステロールや脂肪が少なく、カリウムや食物繊維、カルシウムがとても豊富。
     
    ・DASH食の場合、食塩量を4gから8gに増加させても血圧の上がり具合が欧米食よりも緩やか。
    →DASH食は食塩抵抗性。
     
    ※参考資料『上原誉志夫(2015)高血圧ならみそ汁を飲みなさい! 実業之日本社』
    

     

    ●ナトリウムとカリウム
     
    ・塩分により血圧が上昇する仕組みには、食塩に含まれるナトリウムに原因がある。
    ・腎臓にはカリウムが増えるとナトリウムの排泄を促す作用がある。
    ・カリウムは心臓の不整脈の発生を抑える。
    ・カリウムの多い食べ物は、野菜と果物。
     
    ※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』
    

    脂質、n-3系脂肪酸との関連

    ●飽和脂肪酸とコレステロール
     
    ・降圧効果を有する食事パターンとして知られているDASH食は、飽和脂肪酸とコレステロールが少ない。
     単独での影響力は大きくないかもしれないが、飽和脂肪酸とコレステロールは血圧を上げる方向に作用する可能性がある。
     
    ●不飽和脂肪酸
     
    ・30歳以上の120~159/80~99mmHgの患者を対象にしたOmniHeart研究では、食事の炭水化物の一部を不飽和脂肪酸で置き換えた場合の影響も見ているが、炭水化物が豊富な食事に比べて不飽和脂肪酸が豊富な食事の方が軽度の血圧低下を認めている(
    1日の摂取エネルギーが2,100kcalの場合、
     炭水化物が豊富な食事は炭水化物58%、脂肪酸27%(飽和脂肪酸6%、一価不飽和脂肪酸13%、多価不飽和脂肪酸8%)、たんぱく質15%、
     不飽和脂肪酸が豊富な食事は炭水化物48%、脂肪酸37%(飽和脂肪酸6%、一価不飽和脂肪酸21%、多価不飽和脂肪酸10%)、たんぱく質15%)
    ので、不飽和脂肪酸も降圧作用を有する可能性がある。
     
    ●n-3系脂肪酸
     
    ○降圧作用
     
    ・魚油由来のn-3系脂肪酸(エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)など)は軽度の降圧作用の報告があり、高血圧患者では積極的摂取が推奨される。
     
    ・INTERMAPに基づく報告などの多くの観察研究でn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多い人は血圧が低いことが示されている。
     
    ・EPA、DHA、DPAの総和の血中レベルが高い人は血圧が低いという報告もある。
     
    ・介入研究でも魚油の降圧効果が報告されている。例えば、平均年齢60歳の正常高値血圧の高中性脂肪血症患者に85%以上のEPAとDHA(比率は0.9:1.5)を含む多価不飽和脂肪酸2g/日を12か月投与すると、収縮期/拡張期血圧が-2.7/-1.3mmHg低下するという報告がある。
     
    ・介入試験のメタ・アナリシスでは中央値3.7g/日の魚油の投与で有意の降圧を認めた。特に、45歳以上、収縮期/拡張期血圧が140/90mmHg以上の人で、その効果は顕著であった。
     
    ○降圧効果に必要な魚油摂取量
     
    ・有意の降圧効果を発揮するには3g/日以上の大量の魚油の摂取が必要であり、魚油のみでの降圧は困難と考えられ、他の食事性因子との組合せも留意する必要がある。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

    炭水化物、食物繊維との関連

    ●炭水化物との関連

    ・食事の炭水化物の一部をたんぱく質や不飽和脂肪酸で置き換えると血圧が下がるというOmni-Heart研究の結果は、見方を変えると炭水化物が血圧を上げる傾向にあるということになり得る。
     
    ・観察研究では、思春期女子においてグリセミック・インデックス、グリセミック負荷、炭水化物摂取量、糖類摂取量、果糖の摂取量は血圧上昇と正の相関を示したという報告があるので、炭水化物(特にグリセミック・インデックスの高い糖質)の摂取は血圧を上げる可能性がある。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

     
    ●食物繊維との関連

    ・食物繊維摂取量を増加させた介入試験のメタ・アナリシスによると、血圧との間でも負の関連が示唆されている。
     
    ・食物繊維は軽度の降圧効果を示すという報告がある。
     
    ・観察研究では若年女性において、食物繊維摂取量の増加は1 SD(7.10g/日)ごとに僅かであるが有意の血圧低下を認めた。
     
    ・介入試験のメタ・アナリシスでも平均10.7g/日の摂取量の増大で収縮期血圧は低下傾向、拡張期血圧は有意に低下した。ただ、このメタ・アナリシスに用いた研究は小規模のものも多く、今後の更なる検討が必要である。
     
    ・心血管病を有さない1型糖尿病患者を対象とした観察研究であるEURODIAB研究において、食物繊維摂取量は血圧に対する影響は認めないものの、その摂取量増加に伴い、心血管病の有意の抑制を認めた。
     特に、水溶性食物繊維でその効果が大きかった。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

    たんぱく質、DASH食、減量との関連

    ●たんぱく質
     
    ・たんぱく質は、軽度の降圧効果を有する。
     
    ・OmniHeart研究では、食事の炭水化物の一部をたんぱく質で置き換えると、軽度であるが有意の降圧を認めた(
    1日の摂取エネルギーが2,100kcalの場合、
     炭水化物が豊富な食事は炭水化物58%、脂肪酸27%、たんぱく質15%(肉5.5%、乳製品4%、植物性5.5%)、
     たんぱく質が豊富な食事は炭水化物48%、脂肪酸27%、たんぱく質25%(肉9%、乳製品4%、植物性12%))。
     この研究では特に植物性たんぱく質の増加の程度が大きかった。
     
    ・未治療で120~159/80~99 mmHgの患者を対象にしたPREMIER研究のサブ解析でも、植物性たんぱく質の摂取量増加が18か月後の高血圧リスクを減らした。
     
    ○大豆タンパク
     
    ・同様の血圧レベルの患者で、40g/日の大豆たんぱく又は40g/日の乳たんぱくの負荷は40g/日の炭水化物負荷(コントロール)に比べて、収縮期血圧の軽度の減少を来したという報告もある。
     
    ・大豆たんぱくの降圧効果についてはメタ・アナリシスもあり、大豆たんぱくの中央値30g/日で有意の血圧低下を来したことが示されている。
     
    ○乳製品
     
    ・乳製品や低脂肪乳製品は、疫学研究のメタ・アナリシスで高血圧リスクを抑えることが示されており、発酵乳製品の介入試験のメタ・アナリシスでも有意の降圧効果を認めた(ただし、介入試験の質に難ありという)。
     
     いずれにせよ、その作用は軽微である。したがって、たんぱく質は、他の食事性因子との組合せも考えて、バランスよく摂取すべきである。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

     

    ●たんぱく質の摂取量が多いと高血圧のリスクが低下
     
    ・たんぱく質の摂取量が高まるほど、それが動物性か植物性かに関わりなく、統計的に有意に4年後の最高血圧も最低血圧も低下させることを発見した。
    ・1日平均100gのたんぱく質を摂取する者は、最も摂取量の低い者に比べて、高血圧の発症リスクが40%低かった。
    

    エネルギー摂取量、肥満との関連

    ●エネルギー摂取、肥満との関連
     
    ・エネルギー過剰摂取は、肥満を生じる。肥満が高血圧の発症・維持・重症化に関連していることを示唆する多くの研究がある。
     
    ・丹野・壮瞥における10年間の縦断研究では、肥満者は非肥満者に比べて高血圧に進展するリスクが約2倍であった。
     エネルギー制限によって減量すれば降圧を生じるが、エネルギー制限をしても体重が減らなければ降圧を来さない。
     
    ・中年の高度肥満高血圧患者(BMIが平均47kg/m2)においては、胃バイパス手術で減量しても血圧の低下を認め、減量成功者では有意の血圧低下を認めたが、非成功者では血圧変化は有意ではなかった。
     
    以上より、肥満自体が高血圧の重要な発症要因と考えられる。
     
    ●推奨の減量方法
     
    日本高血圧学会の"高血圧治療ガイドライン"によると、高血圧患者の生活習慣修正として、肥満者はBMIで25kg/m2未満を目指して減量し、非肥満者はこのBMIのレベルを維持すべきであるが、急激な減量は有害事象を伴うことがあり得るので、まずは4kg前後の減量を行い、BMI 25kg/m2未満を目指して徐々に減量すべきであるとされている。
     
    ●腹部肥満、内臓脂肪の影響
     
    同じ体重でも腹部肥満がある場合の方が高血圧を生じやすく、内臓脂肪増加は脂質異常症や高血糖も合併しやすいので、ウエスト周囲長(男性85cm未満,女性90cm未満)も考慮して減量を行うべきであると考えられる。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

    高血圧とアルコールとの関連

    ●多量飲酒の影響
     
    ・多量飲酒は長期的には血圧を上昇させる。
     
    ・"NIPPON DATA"を始めとする多くの疫学研究では、アルコール摂取量が多くなればなるほど、血圧の平均値が上昇し、高血圧の頻度が増加することが示されている。
     
    ・飲酒習慣のある男性高血圧患者において飲酒量を約80%減じると1~2週間のうちに降圧を認めた。
     
    ・Ueshimaらの介入試験では、飲酒習慣のある軽症高血圧患者の飲酒量をエタノール換算で平均56.1mL/日から26.1mL/日に減じると、収縮期血圧の有意の低下を認めた。
     
    ・メタ・アナリシスでもアルコール制限の降圧効果が示されている。Xinらの成績では、29~100%のアルコール制限で有意の降圧を認め、アルコール制限の程度と降圧には量・反応関係を認めた。
     
    ●適正な飲酒量
     
    飲酒はエタノールで20g/日以下にすべきであるとされている。
     
    ●少量の飲酒
     
    ・高血圧患者では少量の飲酒はむしろ心血管病のリスクを改善し、飲酒量と心血管リスクはU型の関係を示すという疫学研究(心血管病のない成人男性が対象)が報告されており、多くの同様の報告がある。
     しかし、少量の飲酒の心血管保護効果の有無については、今後の検討が必要で、これらの疫学研究の成績をもとに飲酒をしない人に少量の飲酒を勧めるべきではない。
     
    ※参考資料
    「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
    

    高血圧と喫煙との関連

    ・ニコチンが交感神経系を刺激
      ↓
    アドレナリンとノルアドレナリンを分泌。両者はカテコールアミンの一種で、強い強心作用と昇圧作用がある
      ↓
    血圧が上昇し、脈拍が増える。
     
    ※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』
    

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください