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タンパク質の変性、凝集
・タンパク質がストレスを受けると、タンパク質の立体構造を作っているアミノ酸を結び付けているいろいろな結合が切れてしまい、そのため、うまく内部に隠れていた疎水的なアミノ酸が外側に出てきてしまい、正しい立体構造を取ることができなくなる。 ・タンパク質が変性するとタンパク質として働けなくなる(活性を失う)だけでなく、外に出てきた疎水的なアミノ酸が別の変性したタンパク質の疎水的なアミノ酸と次々に結合し水に溶けられなくなる。(タンパク質の凝集) こうなるとなかなか元の形に戻りにくくなる。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
HSPとタンパク質の変性
・HSPは、タンパク質の変性によって表面に出てきた疎水的なアミノ酸を目印にして、変性したタンパク質を見分けている。 ・HSP自体は水によく溶けるタンパク質なので、HSPが結合する事により変性したタンパク質が別の変性したタンパク質と結合し凝集するのを防ぐ事ができる。 タンパク質が変性したとき、それが他の変性したタンパク質と結合し凝集する前にHSPがそれを見つけて結合する必要があるので、時間との勝負になる。 ・ストレスがかかった後に生産されたHSPはその後のタンパク質の変性・凝集を防ぐ効果はあるが、ストレスがかかった直後のタンパク質の変性は防げない。 HSPはストレスがないときでもある程度生産されており、いつストレスが発生してもいいように準備していると考える事ができる。 アダプティブサイトプロテクションという現象は、あらかじめ弱いストレスを受けた時にHSPを増やしておき、次に強いストレスによってタンパク質が凝集しないようにHSPが結合し守っている。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
分子シャペロンによるフォールディング、変性の修正
●分子シャペロンによるフォールディングの方法 ①隔離型 ・GroEL/GroESのように変性あるいはミスフォールドしたタンパク質同士が凝集しないよう、一分子ずつかごの中に隔離してフォールディングさせる。 ②結合解離型 ・HSP70などの場合のように、変性タンパク質と直接結合する事によってとりあえず疎水性の部分を塞いでしまう。 →そして変性タンパク質との間に"結合解離"を繰り返し、自発的なフォールディングを待つ。 ③糸通し型 ・HSP104のように、リング型をした分子シャペロンの孔に、変性あるいは凝集したポリペプチドを通す事によって、複雑に絡まりあったポリペプチドの糸をいったん解きほぐし、改めてフォールディングさせなおす。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
●分子シャペロンによる変性したタンパク質の修正方法 ①閉じ込めて直す、変性しないように閉じ込めるタイプ ②変性している場所にくっついて直す、変性しやすい場所にくっついて変性を防ぐタイプ。HSP70 ・変性したタンパク質に付いたり離れたりするのを繰り返してタンパク質を再生。 ・くっつく場所は表面に出ている疎水的なアミノ酸であり、それから離れる時にその場所を少々引っ張ってから離し、少しずつ変性したタンパク質を解いて正しい形にしていく。 ③変性したタンパク質を穴に通して一度元の紐の状態に戻してから正しい形にするタイプ。HSP104 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
タンパク質の分解
●タンパク質の分解 ①ユビキチン・プロテアソーム系分解 ・"選択的"分解 ・分解すべき標的タンパク質にポリユビキチン鎖(ユビキチンというタンパク質が複数つながっている)を目印としてつける。ポリユビキチン鎖を目印としてプロテアソームで選択的にタンパク質が分解される。 ・細胞周期に働くサイクリン、体内時計のタンパク質の分解 ②オートファジーによる分解 ・"バルク"の分解 ・栄養飢餓の際にアミノ酸プールを確保するための分解。 ・サイトゾルの中にある様々なタンパク質やミトコンドリア、小胞体のようなオルガネラも含めていっぺんに膜で包み込みそのまま分解。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
●変性したタンパク質の分解 ・変性したタンパク質は細胞や生物にとって大変危険なものとなる。(アルツハイマー病では、変性したタンパク質が凝集して神経細胞の中に溜まることによって神経細胞が弱ったり死んでしまったりする) ○ユビキチン・プロテアソーム系 ・オートファジーと並んでこのタンパク質の分解を行っているのが、ユビキチン・プロテアソーム系と呼ばれるシステム。 ・分解すべきタンパク質にまずユビキチンという目印となるペプチドをくっつけ、次にプロテアソーム(タンパク質を分解する大きな分子)がユビキチンのついているタンパク質を次から次へと分解する。 このユビキチンもHSPの一種。 ユビキチンが一つくっついただけではプロテアソームに認識されず、数個(4個以上)くっついて初めて分解される。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』
タンパク質の品質管理
●アミノ酸のリサイクル ・体重70kgの人が一日に作るタンパク質の量:180~200g ・食事から摂取するタンパク質量:60~80g ・体内のタンパク質の分解(アミノ酸のリサイクル) ・アミノ酸の排泄:70g ・尿中窒素:60g ・便:10g ●タンパク質の品質管理 ・タンパク質は、合成段階ですでにミスフォールディングされたり、合成後にストレスなどの影響でタンパク質が変性してしまうこと頻繁に起きている。このような異常なタンパク質の検知、修正、廃棄の品質管理を行う仕組みがある。 ①異常タンパク質の合成の停止 ・遺伝暗号をポリペプチドへと翻訳していく過程を止める。 ・分子シャペロンが異常タンパク質を検知し、対処を始めると、それがトリガーとなってタンパク質翻訳を開始する因子が不活性化し、翻訳が停止。 ②異常タンパク質の修理、再生 ・分子シャペロンによって変性したタンパク質を作り直し、再生。 ③異常タンパク質の分解 ・小胞体で行われる分解を"小胞体関連分解"と呼ぶ。小胞体から異常タンパク質をサイトゾルに逆輸送し、ユビキチン・プロテアソーム系の分解機構に送り込む。 ④細胞を殺す、アポトーシス ・異常なタンパク質を作り続ける細胞を細胞ごと殺してしまう。 ※参考資料『永田和宏(2008)タンパク質の一生 岩波書店』
●変性したタンパク質の分解と再生の仕分け ・HSPは再生すべきタンパク質と分解すべきタンパク質を見分けていない。 細胞内で変性したタンパク質が、もし最初に分解系のHSPに出会ったら分解され、再生系のHSPに出会ってうまく再生された場合は、そのまま正常なタンパク質として残る。 ・変性したタンパク質が再生されるか分解されるかは確率の問題。 ストレスがない時には再生系のHSPがメインに働いていて、再生可能なタンパク質のかなりの部分が再生されていると思われる。 ※参考資料『水島徹(2012)HSPと分子シャペロン 講談社』