アクリルアミドの概要と健康への影響

炭水化物を多く含む原材料を高温(120℃以上)で加熱調理した食品に含まれる可能性があるというアクリルアミドという物質の概要と健康への影響についてメモ書きしています。

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  1. アクリルアミドとは?
  2. アクリルアミドの健康影響
  3. アクリルアミドが含まれている食品
  4. 食品中のアクリルアミドを低減

アクリルアミドとは?

・工業用途において紙力増強剤や水処理剤、土壌凝固剤、漏水防止剤、化粧品(シェービングジェルや整髪剤)などに用いられるポリアクリルアミドの原料として1950年代から製造されている化学物質。
 
・1分子(”モノマー”と言う)のアクリルアミドが2つ以上つながると、ポリアクリルアミドという大きな化合物ができる。
 モノマーの状態のアクリルアミドは、水にとても溶けやすく、ポリアクリルアミドは水に溶けにくい性質を持っている。
 健康への影響が問題となるのはアクリルアミドのモノマーであり、単にアクリルアミドという場合には、モノマーを指す。
 
・ヒトがアクリルアミドを大量に食べたり、吸ったり、触れたりした場合に、神経障害を起こすことがこれまで確認されているほか、国際機関は、動物実験の結果から、”ヒトにおそらく発がん性がある物質”と分類している。
 
・スウェーデン食品庁とストックホルム大学が、揚げたり、焼いたりした馬鈴薯加工品や穀類加工品に、おそらく発がん性があるアクリルアミドが高濃度に含まれる可能性があることを、2002年に世界で初めて発表した。

アクリルアミドの健康影響

●概要
 
・アクリルアミドを取り扱う工場や工事現場などで、事故により労働者が大量にアクリルアミドを吸入したり、接触したりしてしまった場合に、手足が震える、感覚が麻痺するなどの神経障害あったことが報告。
 
・各個人が食品から摂取するアクリルアミドの量を推定することはとても難しく、食品にはアクリルアミド以外にも多くの化学物質が含まれているため、食品からのアクリルアミド摂取量と発がんの因果関係を明らかにするのは簡単ではない。なお、職業上の理由からアクリルアミドを体内に取り込んでしまった場合についても、発がん性については確認されていない。
 
・動物試験では、アクリルアミドを長期間にわたって与えたときに、アクリルアミドの摂取量が多いほど発がん率が増えることが報告。
 ヒトがアクリルアミドを摂取した場合も同じように遺伝子を傷付ける可能性があるため、アクリルアミドはヒトに対しておそらく発がん性がある物質と考えられている。
 
・ヒトを対象とした調査研究においては、食品などからのアクリルアミドの摂取量と発がんとの因果関係は、これまで行われてきた多くの調査研究では確認されていない。
 しかし、食品から摂取するアクリルアミドが多い人では、ある特定の発がんリスクが高くなることを報告した論文も一部発表されている。
 
●発ガンリスク
 
・これまでの多くの疫学調査では、食品からのアクリルアミドの摂取量と発がん(結腸直腸がん、腎がん、乳がん、肺がん、脳腫瘍など)との関連性は認められていない。Mucciら(2009)は、2002年以降の6年間に行われたこれらの疫学調査を要約している。
 
・2007年にHogervorstらが報告したオランダの疫学調査結果では、アクリルアミドの摂取量が多いと発がんリスクが増加することが初めて示された。
 特に非喫煙者の場合には、アクリルアミドの摂取量が最も多い集団(全体の上位25%)では、最も少ない集団(全体の下位25%)に比べて、子宮内膜がんと卵巣がんの発症例が約2倍となっており、それらのリスクが有意に高いことがわかった。
 
●遺伝毒性
 
アクリルアミドとその代謝物のグリシドアミドは、染色体異常、遺伝子突然変異試験、DNA損傷試験などラット、マウスを用いた多くの遺伝毒性を調べる試験で陽性の結果を示しており、アクリルアミド及びその代謝物であるグリシドアミドには遺伝毒性があるとされている。
 

・ポテトチップスの長期摂取により、白血球の活性酸素が増し、炎症の指標であるC反応性タンパクが増加するとという報告もある。慢性炎症を引き起こし、動脈硬化を促進するのではないかと危惧されている。
・WHOも"人に対しておそらく発がん性がある物質"と認識している。
・2010年には、国連食糧農業機関(FAO)とWHOの食品添加物専門家会議は、アクリルアミドの摂取量を低減するよう勧告している。
 
※参考資料『金子義保(2012)炎症は万病の元 中央公論新社』

アクリルアミドが含まれている食品

●どのように食品内に生成されるのか?
 
原材料に含まれているある特定のアミノ酸と糖類が、揚げる、焼く、焙るなどの高温での加熱(120℃以上)により化学反応を起こすためと考えられている。
 水分含有量の少ない場合には、特にアクリルアミドができやすくなるとされている。
 
●どのような食品に含まれているか?
 
・炭水化物を多く含む原材料を高温(120℃以上)で加熱調理した食品に含まれる可能性がある。
 ポテトチップス、フライドポテトなど、じゃがいもを揚げたスナックや料理、ビスケット、クッキーのように穀類を原材料とする焼き菓子などに、高濃度に含まれていることが報告されている。
 
・コーヒー豆、ほうじ茶葉、煎り麦のように、高温で焙煎した食品にもアクリルアミドが高濃度に含まれていることが報告されてる。
 アクリルアミドはとても水に溶けやすいため、これらから抽出したコーヒー、ほうじ茶、麦茶などの飲料にもアクリルアミドが含まれていることが確認されている。
 
・市販の加工食品だけではなく、家庭で食品を調理する場合にもアクリルアミドが生成する条件がそろえば、アクリルアミドができてしまう可能性がある。
 例えば、野菜の素揚げや炒めもの、手作りの焼き菓子、トーストしたパンなどにもアクリルアミドが含まれていることが確認されている。
 
・加熱調理した食品でも茹でたり、蒸したりした食品にはアクリルアミドが含まれていないか、含まれていても極微量であることが報告されている。
 
・食品以外では、タバコの煙にもアクリルアミドが含まれている。
 
●食品にどのくらい含まれているのか?
 
・幅広い食品を対象に調査されている。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_syosai/nousui/ganyu.html
 
しかし、食品中のアクリルアミド濃度は、食品の製造方法や原材料の成分によって影響を受けるので、同じ種類の食品でもアクリルアミド濃度は異なる事に注意。
 農林水産省は、”食品中のアクリルアミドを低減するための指針”を作成し、食品関連事業者のアクリルアミド低減に向けた取組を支援してる。食品の種類によっては、この取組の結果、示されている値よりもアクリルアミド濃度が低くなっている可能性がある。
 
・日本では、食品に含まれているアクリルアミドについて、基準値等は設けられておらず、海外でも規制を行っている国、地域はごく限られている。

食品中のアクリルアミドを低減

●低減の必要性
 
・農林水産省などの調査結果から、日本で食べられている食品にも、諸外国の食品と同じぐらいの量のアクリルアミドが含まれていることが明らかになった。
 米菓、インスタント麺、ほうじ茶、麦茶など日本特有のものも数多くある。
 
・アクリルアミドは、食品にアミノ酸、糖類が多く含まれていると、高温での加熱によって意図せずして生成してしまう。
 また、遺伝子を傷付ける作用を持っていることから、例えごく微量であったとしても健康に影響を及ぼす可能性を否定できないため、許容量を決めることができない。
 摂取許容量を決める事が出来ないため、食品に含まれているアクリルアミド濃度をできる限り低くする必要がある。
 
●食品事業者による低減
 
1)生産段階
 
・アクリルアミドの主要な生成経路には、アスパラギンと還元糖が関係している。
 農産物中に含まれるそれらの量を少なくすることで、加熱した時にできるアクリルアミドの量を少なくできる可能性がある。
 
・じゃがいもは品種によって還元糖の量が異なるので、還元糖ができにくい難糖化性の品種の育成は、低減対策の一つ。
 加工用じゃがいもとして民間で育種された”キタヒメ”、”ノースチップ”、”スノーデン”などの難糖化性の品種が一部地域で導入されている。
 
・農産物中の還元糖やアスパラギン含有量は、品種だけではなく土壌の種類、肥培管理条件や環境、気象条件によって変化するとの報告がある。
 小麦は、硫黄が欠乏している土壌は避ける事、又は十分に施肥する。ただし過剰な窒素施肥は避ける。
 
2)流通・貯蔵段階
 
・農産物に含まれている還元糖の量は、貯蔵や流通の過程で変化することがあるので、還元糖が増えないように適切に貯蔵する。
 
・じゃがいもは低温で長期貯蔵すると、デンプンが還元糖に変化して、還元糖の量が増える。6℃未満で貯蔵された馬鈴薯の使用は避ける。
 高温で調理するじゃがいもを長期貯蔵する場合には6~8℃以上での保存が適している。
 低温貯蔵により還元糖が増えたじゃがいもは、約15~20℃で3週間程度処理することで再び還元糖を減らすことができる。
 
3)製造・加工段階
 
・可能な範囲で受け入れ原材料の品種や生産・流通履歴、還元糖やアスパラギンの含有量を把握して、その原材料が調理条件に適したものか確認する。
 
・食品の栄養価や風味・品質を維持しつつ、アクリルアミドの生成が最小限になるよう加工食品の原材料の配合比を見直したり、還元糖やアスパラギンを減らすための処理を行うこともアクリルアミドの低減に有効。
 
・一般に加熱の時間が長ければ長いほど、温度が高ければ高いほど、アクリルアミドの生成量が増える。
 また、加熱に必要な時間や温度は、食品の大きさや形状、一回に調理する分量なども関係する。例えば、食品の表面積が体積に対して大きくなると、加熱したときに食品の温度が上がりやすく、アクリルアミドができやすくなる。
 一度に大量の食品を調理すると、加熱に必要な時間が長くなりアクリルアミドができやすくなる。そのため、調理の温度や時間だけでなく、食品の大きさ、形状なども考慮する必要がある。
 
○ばれいしょ加工品
・還元糖の添加を避けること。(例えば焼き色付け、香辛料の保持又はコーティングを目的として)。
・加工前におけるフライドポテトのピロリン酸ナトリウムによる処理及び馬鈴薯製品のカルシウム塩のような2価又は3価の陽イオンによる処理は、アクリルアミド低減に寄与しうる。
 
○穀類加工品全般
・精製度が高い小麦粉は、全粒粉よりもアスパラギンの含有量が有意に少ない。しかしながら、全粒粉の含有量を少なくすれば、最終製品の栄養価は低下する。
 
○ビスケット類、焼き菓子
・アンモニウムを含む膨張剤を使用している場合は、例えばカリウム、ナトリウムを含有する膨張剤など他の膨張剤に替えることを検討すること。
・ジンジャーブレッド製造においては、果糖をブドウ糖に替えること。
 
○パン
・レシピに還元糖の使用を避けること。
・炭酸カルシウムなどカルシウム塩の添加は、アクリルアミド生成を低減しうる。
 
○朝食用シリアル
・加熱加工段階における還元糖を最小限にすること。例えばローストナッツ、ドライフルーツなど他の材料のアクリルアミド含有濃度への寄与を検討し、それらがアクリルアミド量を大きく増やす可能性がある場合には、その原材料が必要かどうかを検討すること。
 
●家庭における低減
 
・アクリルアミドは加熱された多くの食品に含まれており、まったく食べないことは不可能。しかし、意識することで減らすことはできる。
 
・食パンなどをトーストする場合は、軽く色が付く程度にして焦がさないように気をつける。トーストしていない食パンの耳の部分と中心の白い部分では、ともにアクリルアミドは検出されなかった。
 
・家庭で揚げ物を作る場合は、油の温度(高温ほど増える)、揚げ時間(長くなるほど増える)、一回に調理する分量(多すぎると時間がかかり、増える)、そして焦げないように揚げ色(色が濃くなるほど増えている)に注意する。
 
・低温で長期保存して糖分が増えたじゃがいもは、アクリルアミドができやすくなるので、揚げ物や炒め物にはあまり適していない。
 低温保存したじゃがいもは、甘さが増しているので、煮たり、蒸したりする料理に適している。
 
・野菜炒め、焼肉、バーベキューなどの場合も、じゃがいもや野菜を必要以上に焦がさないように注意する。
 野菜の中でも、もやし、アスパラガス、かぼちゃ、なすなどは、アクリルアミドに変化すると考えられているアミノ酸を比較的多く含んでおり、加熱によってアクリルアミドができる。
 
・ほうじ茶やコーヒーのような嗜好飲料にもアクリルアミドが含まれている。
 家庭でいれる場合は、茶葉や豆の量を適量とすることを心がける。お茶やコーヒーを濃くするほどアクリルアミドが溶け出す量も多くなる。
 
・一般に、焦げた食品には、アクリルアミドの他にも有害な化学物質が極微量に含まれていることが知られている。黒く焦げた部分を取り除いて食べる。
 
・加熱調理の中でも煮る、茹でる等の調理法や電子レンジでの加熱は、揚げる、焼くといった調理法よりアクリルアミドが生成しにくいと考えられている。

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