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- ビタミンDの概要
- ビタミンDの吸収
- ビタミンDを多く含む食品
- ビタミンDの効果
- ビタミンD不足の問題
- ビタミンD過剰摂取のリスク
- ビタミンDとフレイル、骨粗鬆症との関連
- ビタミンDとがんとの関連
- ビタミンDとその他の疾患との関連
- ビタミンDの研究結果と注意点
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
- ネットニュースによる関連情報
ビタミンDの概要
・天然にビタミンD活性を有する化合物として、キノコ類に含まれるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と魚肉及び魚類肝臓に含まれるビタミンD3(コレカルシフェロール)に分類される。
・ビタミンDは、カルシウムやリンなどのミネラルの代謝や恒常性の維持、骨の代謝に関係しており、不足すると子供ではくる病、成人では骨軟化症などが起こることが知られている。
・ビタミンDは、カルシウムやリンなどのミネラルの代謝や恒常性の維持、骨の代謝に関係しており、不足すると子供ではくる病、成人では骨軟化症などが起こることが知られている。
ビタミンDの吸収
・ビタミンDは、食品からの摂取と生体内での合成の2つの方法で供給されている。
○皮膚と紫外線によって産生
・動物に存在する7-デヒドロコレステロール(7-DHC)は、皮膚において紫外線によってビタミンDへ転換された後、肝臓や腎臓で処理されて代謝され、体内で利用される。
○食品から摂取
・摂取したビタミンDは、肝臓と腎臓の酵素によって活性型ビタミンDに変換される。
○皮膚と紫外線によって産生
・動物に存在する7-デヒドロコレステロール(7-DHC)は、皮膚において紫外線によってビタミンDへ転換された後、肝臓や腎臓で処理されて代謝され、体内で利用される。
○食品から摂取
・摂取したビタミンDは、肝臓と腎臓の酵素によって活性型ビタミンDに変換される。
●サプリメントによる摂取 ・日光を浴びる事によって生産されたビタミンDは、食べ物から摂取したビタミンDより、2倍以上長持ちする。 太陽に当たると、ビタミンDだけでなく、食事やサプリメントでは摂取できない5~10種類の光反応生成物も作られる。 ・大半の人(中には必要な人もいる)は、食事や日光など天然源から必要十分なビタミンDを摂取しており、カルシウムやビタミンDのサプリメントを飲んでも、効果はないと思われる。 日光をできるだけ避け、冬でも日焼け止めを塗る人や、魚などビタミンDが豊富な食物を摂らない人は、補給を考えたほうがよい。 ・サプリメントで過剰にビタミンDを摂取すると、過剰なビタミンDが受容体と恒常性を保とうとする体のフィードバック機構をどのように影響を与えるか分かっていない。 ●必要なビタミンDの量 ・ビタミンD受容体は、誰のものでも同じように働くわけではない。全員に共通する適正値はない。 ・ビタミンDの適正値を決める遺伝子が3~4個ある。 ※受容体 ・受容体とはタンパク質の分子で、細胞膜上か細胞質、あるいは核の中にある。 ・受容体によって、ほかのタンパク質や分子は細胞に付着し、その効果を発揮する。 ・付着する分子(シグナル分子)には、神経伝達物質やホルモンはもとより、薬や毒素も含まれる。 細胞の種類によって受容体の種類も異なるが、ビタミンDの受容体は、ほぼすべての細胞が持っている。 ・細胞は、特定の分子の受容体の数を増やしたり減らしたりして、その分子への感受性を変えることができる。体のホメオスタシスを維持するために、細胞は常にこれを行っている。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
・日光(皮膚で産生される)、魚肝油、卵黄に由来する。 ・食物からだけでは十分なビタミンDの供給はされないので、毎日5~15分間、日光に当たるようにした方がよい。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
●日光曝露による吸収 ・波長290~320nmの紫外線(UV)B波が皮膚に直接当たると、ビタミンD3が産生される。 ○紫外線B波の特徴 ・完全な曇り空の場合、紫外線エネルギーは50%低下する。 ・日陰(深刻な大気汚染によるものも含む)の場合は60%低下する。 ・紫外線B波はガラスを貫通しないため、屋内で窓越しに日光に当たってもビタミンDは生成されない。 ○適正なビタミンDレベルを維持するために必要な日光曝露量 ・一般的なガイドラインを作成するのは難しい。 ビタミンDの研究者数名による助言の一部を挙げると、少なくとも1週間に2回、午前10時から午後3時の間に5~30分程度、顔、腕、脚、あるいは背中に日焼け止めを塗付せず日光に当たることで十分なビタミンD合成が行われ、また、2~6%の紫外線B波を放射する市販の日焼け用マシーンを適度に使用するのも効果的である。 日光曝露が限られている人は、食生活にビタミンDの供給源として優れた食品を取り入れたり、サプリメントを使用したりすることで、推奨値を達成する必要がある。 ・ビタミンD合成の上で日光は重要であるが、皮膚の日光曝露や日焼けマシーンによる紫外線曝露は制限する方がよい。 紫外線は皮膚がんと転移性メラノーマの主因となる発がん性物質である。 また、生涯を通じて蓄積される紫外線による皮膚への損傷は加齢に伴う乾燥やその他外見上の変化にも大きく関わっている。 米国皮膚病学会は、日光暴露を受ける時には必ず日焼け止め剤の使用など光防御手段を採るよう勧告している。 ・皮膚がんに関する公衆衛生上の懸念や、皮膚がんリスクを増大させることなく紫外線B波誘導によるビタミンD合成が可能か否かを判断する研究が行われていないことから、ビタミンD所要量の観点において日光曝露量を設定することは不可能である。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンDを多く含む食品
・自然界にはビタミンDを含有する食品は極めて少ない。 ・脂肪性の魚(サケ、マグロ、サバなど)の身や魚肝油は最良の供給源である。牛レバー、チーズ、卵黄にも少量のビタミンDが含まれている。 こうした食品に含まれるビタミンDは主にビタミンD3。 ・一部のキノコ類はビタミンD2を含んでいる(含有量にはばらつきがある)。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンDの効果
○カルシウムとリンの吸収を助ける
・活性型ビタミンDは、小腸でカルシウムとリンの吸収を促すため、血液中のカルシウム濃度が高まり、骨の形成が促進される。
○血液中のカルシウムやリン酸の恒常性を維持
・骨組織においてビタミンDは、甲状腺から分泌されるペプチドホルモンのカルシトニンや副甲状腺ホルモン(PTH)と協力しあって、血液中のカルシウムやリン酸の恒常性を維持する。
・ビタミンDが欠乏すると、血中のカルシウムイオン濃度が低下し、その結果として、血中副甲状腺ホルモン濃度が上昇する。
・活性型ビタミンDは、小腸でカルシウムとリンの吸収を促すため、血液中のカルシウム濃度が高まり、骨の形成が促進される。
○血液中のカルシウムやリン酸の恒常性を維持
・骨組織においてビタミンDは、甲状腺から分泌されるペプチドホルモンのカルシトニンや副甲状腺ホルモン(PTH)と協力しあって、血液中のカルシウムやリン酸の恒常性を維持する。
・ビタミンDが欠乏すると、血中のカルシウムイオン濃度が低下し、その結果として、血中副甲状腺ホルモン濃度が上昇する。
・皮膚が日光の紫外線B波を吸収すると、一連の連鎖反応が起きて、ビタミンDが腎臓で活性化され、体内器官や組織で利用できるようになる。 ・ビタミンDは、体内のカルシウム量を維持して骨の健康を守っているほか、約2,000個の遺伝子をそれぞれ違う方法でコントロールしているらしい。 ・ビタミンDは細胞の成長と死にも関わっているため、がんともつながりがある。 ・血管にも影響し、血圧と心臓の健康にも関係がある。 ・炎症や免疫システムにも関与しており、ゆえにアレルギー、喘息、インフルエンザや結核などの感染症、多発性硬化症や1型糖尿病などの自己免疫疾患と関係がある。 ●肌の色とビタミンD ・緯度が高く、日照時間が短い地域の人々は、肌の色が薄くなり、少ない日光でも十分なビタミンDを作れるようになった。 一方、赤道に近い地域では、日光はふんだんに降り注ぐため、人間の肌は光を通しにくい濃い色になった。 →アフリカ系米国人など、肌が黒い人は肌が白い人と比べて、ビタミンD欠乏症になるリスクが高いといわれている。 ・日光をいくら浴びてもビタミンDは過剰にはならない。 ○肌の色と葉酸塩 ・中緯度地方に住む人々は、年間を通して肌が黒いと冬に必要なビタミンDを作れなくなる。 反対に、年間を通して肌が白いと、細胞の分裂と修復に欠かせないビタミンである葉酸塩が日光で破壊される。(妊娠前と妊娠中の女性は、異常出産になる恐れがあるので、葉酸塩の摂取を勧められる) ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
・腸からのカルシウム吸収、生体でのカルシウム・リンの利用を増大させ、骨吸収と骨形成を支えるのに十分なカルシウム・リン濃度を確保する働きがある。 ・骨を強くするばかりでなく、筋力にもよい影響を与える。 ・甲状腺と脳下垂体の正常な機能に必要とされる。 ・免疫系の調節作用がある。 研究では、ビタミンD受容体がT細胞、免疫応答細胞、例えば樹状細胞、マクロファージのような免疫応答細胞を含む免疫系の多くの細胞に存在することが示されてきた。 ・免疫系の機能に様々な影響を及ぼし、生まれた時からの免疫を増強し、自己免疫疾患への進展を阻止する一助となるエビデンスがある。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
ビタミンD不足の問題
・食事から充分な量を摂取できなかった時、消化管からの吸収が不十分な時、腎臓でビタミンD活性型に変換されない時、日光に当たる時間が不十分な時などにビタミンDが不足することがある。
・ビタミンDが欠乏すると、小腸や腎臓でのカルシウム吸収量が減少し、体内でのカルシウム利用能が低下する。その結果、小児ではくる病、成人では骨軟化症の発症リスクが高まる。
高齢者では、ビタミンD不足状態が長期間続いた場合、骨密度が低下し、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まると言われている。
・ビタミンDが欠乏すると、小腸や腎臓でのカルシウム吸収量が減少し、体内でのカルシウム利用能が低下する。その結果、小児ではくる病、成人では骨軟化症の発症リスクが高まる。
高齢者では、ビタミンD不足状態が長期間続いた場合、骨密度が低下し、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まると言われている。
●高齢者とビタミンD不足 ・高齢者はビタミンD不足になるリスクが高い。 その理由として、加齢とともに、皮膚がビタミンDをかつてほど効率的に合成できなくなること、屋内で過ごす時間が長くなること、また、ビタミンD摂取量が不適切になる可能性があることが挙げられる。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
・体は太陽からの紫外線にさらされることで、肌の中のコレステロールをもとにビタミンDを生成する。 →LDL値を人為的に低く抑えてしまうと、体はコレステロールが枯渇したとき、適量を補給して肌の中の蓄積分を補うことができなくなると思われる。 →ビタミンD不足 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す 三笠書房』
ビタミンD過剰摂取のリスク
・紫外線による皮膚での産生は調節されており、必要以上のビタミンDは産生されない。したがって、日照によるビタミンD過剰症は起こらない。
・ビタミンDは、肝臓及び腎臓において活性化(水酸化)を受けるが、腎臓における水酸化は厳密に調節されており、高カルシウム血症が起こると、それ以上の活性化が抑制される。
・多量のビタミンD摂取を続けると、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などが起こることが知られている。
・ビタミンDは、肝臓及び腎臓において活性化(水酸化)を受けるが、腎臓における水酸化は厳密に調節されており、高カルシウム血症が起こると、それ以上の活性化が抑制される。
・多量のビタミンD摂取を続けると、高カルシウム血症、腎障害、軟組織の石灰化障害などが起こることが知られている。
・ビタミンDの強化食品およびサプリメントからの1日摂取量が1000IUを越えることは勧められない。1日量1000IUを越えるビタミンD摂取は血圧の上昇、動脈硬化の若年化、骨の劣化、筋肉や軟部組織でのカルシウム沈着、腎障害を引き起こす。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
ビタミンDとフレイル、骨粗鬆症との関連
※フレイルとの関連については以下の記事参照。
フレイル、サルコペニア、高齢者の栄養の”高齢者の健康とビタミンDとの関係”
※カルシウムとビタミンDと骨量、骨粗鬆症との関連については以下の記事参照。
ミネラル カルシウムの概要の”カルシウムと骨との関連”、”サプリメントによるカルシウム摂取”
フレイル、サルコペニア、高齢者の栄養の”高齢者の健康とビタミンDとの関係”
※カルシウムとビタミンDと骨量、骨粗鬆症との関連については以下の記事参照。
ミネラル カルシウムの概要の”カルシウムと骨との関連”、”サプリメントによるカルシウム摂取”
●骨粗鬆症とカルシウム、ビタミンD ・骨粗鬆症は、カルシウム摂取不足と関連付けられることが極めて多いが、ビタミンD不足によりカルシウム吸収量が低下することによっても、骨粗鬆症を発症する。 ・適切な量のビタミンDを体内に貯蔵することによって、丈夫な骨を維持することができる。 ●ビタミンDサプリメントと骨折リスク ・ビタミンD補給による骨健康への効果についての試験はほとんどの場合、カルシウムも対象に含めているため、それぞれの効果を個別抽出するのは難しい。 ・閉経後女性と男性高齢者にビタミンDとカルシウムのサプリメントを投与すると、骨格中の骨ミネラル密度に若干の上昇がみられる。 また、ビタミンDとカルシウムのサプリメント投与は施設入居高齢者の骨折率の低下に寄与するが、非施設入居者においては一貫性のある効果は確認されていない。 ・ビタミンDの補充のみでは高齢者の骨折リスクの軽減や転倒の減少に効果がないと考えられ、実際、転倒に対するビタミンD補充の予防効果を示唆するメタ解析は広く引用されていたが、先ごろ酷評を受けた。 ・69歳以上の女性を平均4.5年間にわたり追跡調査した大規模試験では、ベースライン時の25(OH)D値が低め(50nmol/L[20ng/mL]未満)でも高め(75nmol/L[30ng/mL]以上)でも脆弱化のリスクが増加することが観察されている。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンDとがんとの関連
・乳がん、大腸がん、前立腺がんを予防する可能性があるとしている。 ジョンらは、大量の日光を浴びた男性では少量の日光を浴びた男性に比べて前立腺がんの危険性が半減したことを見出した。 他の研究ではビタミンDが肺がん患者に有用であったという。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
●がんとビタミンDとの関連 米国予防医学作業部会は、がん予防のためのビタミンD摂取については、現時点では利点もリスクも証明されていないと述べている。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
●ビタミンDと発がんリスク ○大腸がん、前立腺がん、乳がんで予防の可能性 ・臨床検査値、動物モデルによるエビデンス、また疫学データが示唆するところでは、体内のビタミンDステータスは発がんリスクに影響を与える。 ・生物学的および機構論的根拠が強く示唆するところでは、ビタミンDは大腸がん、前立腺がんおよび乳がんの予防に関与している。 最新の疫学データは、ビタミンDに大腸がんに対する防御効果があるかもしれないことを示唆しているが、前立腺がんや乳がんに対する防御効果についての説得力はさほど強くなく、また、その他の部位におけるがんの防御効果についても一貫していない。 ○膵臓がん、肝臓がんはリスク増大の可能性 ・フィンランド人喫煙者を対象に実施された試験では、ベースライン時における体内ビタミンD状態が第1五分位であった被験者の膵臓がん発症リスクは3倍高い、という結果が得られた。 ・最近実施されたレビューでは、血清25(OH)D濃度が高い(100nmol/L以上[40ng/mL以上])と膵臓がんのリスクが高くなることが確認された。 ○さらなる研究が必要 ・総合的に判断すると、これまでに実施された試験からは、カルシウム併用の有無にかかわらず、ビタミンDのがんリスク軽減への関与を裏づける結果は得られていない。 ●大腸がんに対する効果 ○前向き・横断的研究 ・大腸内視鏡検査を受けた3,132人の50歳以上の成人(96%が男性)を対象。 ・被験者の10%に1カ所以上の進行性がん病変が認められたが、ビタミンD摂取量が最も多い被験者群(最低645 IU/日)ではこうした病変を生じるリスクが顕著に低いという結果が出た。 ○"女性の健康イニシアチブ(Women’s Health Initiative)"試験 ・さまざまな人種や民族の閉経後女性36,282人を対象。 ・被験者をビタミンD 400 IU/日+カルシウム100mg/日の投与群とプラセボ群に無作為に割り付けたが、7年に及ぶ期間中、結腸直腸がんの発生率について両群間に顕著な差異は認められなかった。 ○ネブラスカ州の地方部の住人に対する臨床試験 ・閉経後女性1,179人の骨健康に焦点を当てた臨床試験。 ・4年間にわたり毎日カルシウム(1,400~1,500mg)とビタミンD3(1,100 IU)の補充を受けた被験者群のがんの発生率がプラセボ群の女性に比べて顕著に低値を示した。 ただし、がんの発生数が50例と少ないため、この研究結果をもとに、カルシウムもしくはビタミンD3、あるいは、カルシウムおよびビタミンD3による防御効果や他部位におけるがんへの防御効果について一般論を述べることはできない。 ○NHANES III(1988~1994年)試験 ・16,618人を対象。 ・この試験では、がんによる総死亡数と、ベースライン時の体内ビタミンD状態には関連性がない、という結果が出ている。 ただし、結腸直腸がんの死亡数については、血清25(OH)D濃度に逆相関していた。 ○西ヨーロッパ10カ国からの参加者を対象に実施された大規模観察研究 ・診断前の25(OH)D濃度と結腸直腸癌リスクの間に強い逆相関があるという結果が出ている。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンDとその他の疾患との関連
※認知症との関連については以下の記事参照。
アルツハイマー病に効果のある食事の”ビタミンDと認知症との関連”
アルツハイマー病に効果のある食事の”ビタミンDと認知症との関連”
・心血管疾患の予防の一助になる可能性もある。 ビタミンDが高血圧患者の血圧を下げることがいくつかの介入試験で示され、2002年に公表されたカリフォルニア大学の研究によれば、ビタミンDを常に摂取していた65歳以上の女性では、摂取していなかった女性に比べて、心疾患死の割合がほぼ3分の1少なくなることが分かった。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
・ビタミンDが糖尿病、高血圧、耐糖能異常、多発性硬化症などの予防と治療に何らかの役割を果たす可能性のあることを示唆する研究結果が相次いで報告されている。 ただし、こうした役割についてのエビデンスのほとんどがin vitro試験や動物モデル、疫病学的試験から得られたもので、より確実と考えられている無作為化臨床試験から得たものではない。 ※参考情報 ビタミンD | 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
ビタミンDの研究結果と注意点
●ビタミンDの病気予防効果に対する一致しない研究結果 ・ビタミンDががん、脳卒中、心疾患のリスクを下げる、死亡リスクを下げるといった様々な研究結果が報告されることがあるが、効果がなかったり、逆にリスクが増加するといった一致しない研究結果もある。 ・ビタミンDの研究は、介入研究ではなく観察研究であることが多い。 観察研究の場合、ビタミンDを大量摂取している人が健康である傾向が見られたとしてもビタミンDを摂取したことによって健康になったのではなく、健康な人はもともとビタミンDの値が高かったのかもしれない。 ビタミンD値が高い人は、戸外でよく運動をして、日光をよく浴びているのかもしれないし、健康を意識してサプリメントを摂っているのかもしれない。健康の意識が高い人達であれば、健康な食生活を送り、喫煙をせず、他の健康的な活動を行っている可能性も高い。 ・ビタミンDは日光浴をしたり、鮭やビタミン強化の乳製品やシリアルを食べる事によって摂取できるので、対照実験による病気に対する効果を示すのが難しい。 ・血中のビタミンDのレベルが少ないと心臓疾患や脳卒中になる確率が高いという調査結果もあったが、ビタミンDが少ないということが原因なのか、それとも結果なのかが分からない。 心臓に問題がある人は室内に過ごしがちで日光に当たらずビタミンDの値が低くなっているかもしれないし、肥満だと余分な脂肪がビタミンDを吸収してしまい、ビタミンDが体内で正しく使われていないので、ビタミンDのレベルが低いというのは肥満による影響を多く含んでいるかもしれない。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●ビタミンDと大腸がん罹患との関係について ・米国(2004年)と日本(2005年)から、日光を浴びる機会と大腸がんリスクという新しいテーマの疫学研究結果が報告されている。 紫外線B波を浴びた皮膚反応によって体内のビタミンDが合成され、大腸がん予防につながるのではないかと考えられている。 実際に、保存血液を用いたいくつかの前向き研究でも、ビタミンDによって大腸がん、特に直腸がんや遠位結腸がんのリスクが下がる可能性を示す結果が報告されている。 ・保存血液を用いて、血漿中のビタミンD代謝物(25-水酸化ビタミンD)の濃度を測定し、値によって4つのグループに分け、大腸がんリスクを比較した。 ○全体の結果 ・男女とも、ビタミンD濃度が高くなっても、大腸がんリスクが下がるという関連はみられなかった。 ○大腸の部位別 ・男女とも、最も低いグループに比べそれよりも高い3グループで、直腸がんリスクが低いことがわかった。 ・結腸がんリスクには影響がみられなかった。 ○血液のビタミンD濃度が最も低い人は直腸がんに関連する理由 ・この結果を裏付けるデータとして、ビタミンD受容体の遺伝子タイプの違いから、日本人は白人に比べて、ビタミンD不足で直腸がんリスクが上がりやすい体質である可能性を示す研究がある。
●カルシウム、ビタミンD摂取と大腸がん罹患との関連について ・研究開始から5年後(45~74才のとき)に行った、食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、カルシウムおよびビタミンDの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べた。 ○ビタミンD摂取量との関連 ・ビタミンD摂取量と大腸がんの間には、男女とも統計学的有意な関連は見られなかった。 しかし、男性においては、カルシウムとビタミンDの摂取量をそれぞれ低・中・高の3群にわけて組み合わせた場合、両栄養素が高いグループでリスクが低いということが明らかになった。 ○ビタミンDが大腸がんを予防する機序 ・カルシウムが大腸がんを予防する機序としては、腸管内腔の上皮細胞を刺激し、がんの発生を促進する二次胆汁酸を吸着することと、細胞増殖や分化に直接作用することなどが考えられている。 ビタミンDはカルシウムの吸収に関与することから2つの栄養素の摂取量が高い群で大腸がんのリスクが低い結果であったことの説明がつく。 ・本研究の結果では、男性のみにおいて、カルシウムと大腸がんの関連が見られた。その理由の1つとして、女性ではカルシウム摂取量が全体的に高かったのに対し、男性では、極端に低い人が多かったことが考えられる。 一方のビタミンDは、紫外線にあたることにより皮膚でつくられることから、食事からの摂取量による影響が小さかったと考えられる。
●ビタミンD受容体の遺伝子多型と大腸がんの罹患リスクとの関連:コホート内症例対照研究 ・近年、ビタミンDによる抗腫瘍効果が実験研究により報告されているが、その抗腫瘍効果は、ビタミンDがビタミンD受容体に結合することで作用すると考えられている。 ビタミンD受容体は大腸の細胞にも存在するため、ビタミンDの抗腫瘍効果により、大腸がんを予防する可能性がある。 本研究では、ビタミンD受容体の遺伝子多型と大腸がん罹患リスクとの関連を検討した。 ※遺伝子多型とは、遺伝子に見られる比較的頻度の多い変化の事。ビタミンD受容体の遺伝子多型により、ビタミンD受容体の質や量が変化し、抗腫瘍効果に影響を与えることが考えられる。 ○結果 ・本研究で検討した29の遺伝子多型のうち、8つの遺伝子多型(rs2254210,rs1540339, rs2107301, rs11168267, rs11574113, rs731236, rs3847987, rs11574143)で大腸がん罹患リスクが変化する傾向が見られた。ただし、統計学的に確からしいとまでは結論付けられなていない。
ネットニュースによる関連情報
●ビタミンDと骨関節炎、肥満との関係 ・人種バラエティに富んだ256人の中~高齢成人を対象に血液サンプルを採取、ビタミンDレベルを測定したところ、126人の肥満患者中、68人はビタミンD欠乏状態にあった。一方で肥満ではなかった参加者130人のうちビタミンD欠乏が見られたのはたった29人であった。これは、ビタミンD欠乏状態が臨床的に肥満に関連していることを示唆している。
●血中ビタミンDレベルと糖尿病リスクの関係 ・グルコース代謝障害のない肥満者は、糖尿病患者よりも平均してビタミンDレベルが高かった。同様に、糖尿病か耐糖能異常のあるやせの患者は、ビタミンDレベルが低い傾向がみられた。
●ビタミンDは免疫能を高めて結腸直腸がんから身を守る ・ビタミンDから肝臓で産生される物質である25-ヒドロキシビタミンDの量が多い患者は、がん組織内に免疫細胞が豊富に存在する大腸がんを発症するリスクは平均よりも低いことが明らかになった。 ・実験室による研究で、ビタミンDはがん細胞を認識・攻撃するT細胞を活性化して免疫系の機能を増強できることが示唆されているが、実際の患者を対象に対しても確認できた。
●ビタミンDが欠乏している高齢者と免疫機能との関連 ・60才以上の957名のアイルランドの成人を対象に、ビタミンDレベルと炎症のバイオマーカーを検討した。 ・その結果、ビタミンDが欠乏した参加者は心臓血管疾患及び、多発性硬化症や関節リウマチなどの炎症状態に関連しているバイオマーカーのレベルが高い傾向にあった。