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内臓脂肪とサイトカイン
○サイトカインとは
・免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするものをいう。
・免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞は特定されない情報伝達をするものをいう。
○内臓脂肪とサイトカイン ・内臓脂肪は腸を支える膜(腸間膜)に溜まった脂肪。腸間膜は、腸から吸収した栄養を運ぶ血管が豊富にあるのが特徴で、皮下脂肪とは違った環境にある。 ・脂肪細胞はレプチンやアディポネクチンといったサイトカインを分泌している。 内臓脂肪が大型化すると、善玉サイトカインの分泌が減って、悪玉サイトカインが分泌される。 悪玉サイトカインは、TNF-α、レジスチン、インターロイキン6、PAI-1、MCP-1、アンジオテンシノーゲンで、高血糖や高血圧や脂質異常といったメタボの主要な症状を引き起こす原因物質。 ※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる 講談社』
○善玉サイトカイン ・アディポネクチン、レプチン ○悪玉サイトカイン ・レジスチン、TNF-α:インスリン抵抗性 ・遊離脂肪酸:インスリン抵抗性、脂質異常(中性脂肪が増加→HDLが低下→脂質異常) ・アンジオテンシンノーゲン:高血圧 ・PAI-1:血栓の形成 ※参考資料『近藤和雄(2015)人のアブラはなぜ嫌われるのか 技術評論社』
肥満と炎症、酸化ストレス
肥満では脂肪組織において酸化ストレスが亢進していて、これが悪玉サイトカインの増加、インスリン抵抗性に関係しているようです。
肥満・糖尿病モデルマウスを用いた検討から以下のような事が分かってきた。 ①肥満の脂肪組織で酸化ストレス亢進 活性酸素の産生酵素であるNADPHオキシダーゼの発現が上昇する一方、抗酸化酵素のSODなどの発現低下により、活性酸素産生が促進し、酸化ストレスが亢進している。 ②脂肪組織から悪玉の炎症性サイトカインが分泌 酸化ストレスが亢進した脂肪細胞ではMAK、NF-κBなどのストレス応答シグナルが活性化され、TNF-α、MCP-1、アディポネクチンなどさまざまなアディポサイトカインの分泌異常が生じる ③インスリン抵抗性 脂肪組織から過剰分泌された炎症性サイトカインや遊離脂肪酸は肝臓や骨格筋の炎症シグナルを活性化してインスリン抵抗性をもたらす。 ※MAK(分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ) ・酸化ストレス、サイトカインなどを受けて活性化される。 ・全身の細胞に広く発現しており、様々な細胞の機能発現において重要な働きをしている。 ※NF-κB ・免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。 ・ストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される。 ※TNF-α(腫瘍壊死因子-α) ・細胞接着分子の発現やアポトーシスの誘導、炎症メディエーターや形質細胞による抗体産生の亢進を行うことにより感染防御や抗腫瘍作用に関与するが、過剰な発現は関節リウマチ、乾癬などの疾患の発症を招く。 ※参考資料 酸化ストレスとメタボリックシンドローム(PDF)
●脂肪細胞と炎症 ①[脂肪酸]→脂肪細胞 ・脂肪酸が脂肪細胞のトル様受容体(TLR4)に結合 →活性化されたTLR4は転写因子NF-κBを活性化させ、サイトカインの産生と分泌を促進。 ②脂肪細胞→[MCP-1]→単球→M1マクロファージ ・脂肪細胞から分泌された単球走化活性因子(MCP-1)は、白血球の一種である単球を脂肪組織に誘導し、炎症の担い手である"M1マクロファージ"に変える。 ③M1マクロファージ→[TNF-α]→脂肪細胞 →M1マクロファージは炎症性サイトカインTNF-αを分泌し、脂肪細胞を刺激 ④脂肪細胞→[飽和脂肪酸]→M1マクロファージ ・TNF-αによって刺激された脂肪細胞はサイトカインや飽和脂肪酸の産生と分泌を促進させる。 →飽和脂肪酸はM1マクロファージのトル様受容体に結合し、サイトカイン分泌を促進する。 上記サイクルが脂肪組織に炎症を持続させ、形態変化(リモデリング)を引き起こしていると考えられている。 ・脂肪組織から血中に放出された脂肪酸は肝臓や筋肉等に蓄積し、肥満が進行する。 ・脂肪組織から分泌された炎症性サイトカインは、肝臓や筋肉に作用して慢性炎症を引き起こし、それらのインスリン感受性を低下させる。 ○肥満は慢性炎症の結果? ・肥満に先立って慢性炎症が起こっている、という考え方もある。 ・脂肪酸などにより脂肪細胞が刺激され、慢性炎症が起こる →慢性炎症により産生されたサイトカインは"インドールアミン酸素添加酵素(IDO)"を誘導 →IDOはトリプトファンを分解して血中レベルを下げ、その結果としてトリプトファンから作られるセロトニンを減らす →セロトニンが減少すると気分障害が起こり、それを補うために過食が誘発される。 ※参考資料『金子義保(2012)炎症は万病の元 中央公論新社』
●脂肪細胞と炎症 ・肥満は炎症誘発性化学物質サイトカインを多くつくる。 →これらの分子の多くは脂肪細胞からつくられ、ホルモンや炎症性物質を放出する器官のように作用する。 ・脂肪が特に肝臓、心臓、腎臓、膵臓、腸など内臓のまわりに過剰にあると、代謝機能がダメージを受ける。 ・内臓脂肪は、体内の炎症経路を刺激し、体の正常なホルモン活動を阻害する分子に信号を出す、という特異な働きをする。 ・内臓脂肪は一連の機能を通じて炎症を誘発するだけではなく、内臓脂肪自体が炎症を起こす。 ・内臓脂肪は炎症性の白血球の貯蔵場所になる。 ・内臓脂肪がホルモン分子や炎症性分子をつくると、それらは肝臓に捨てられ、それがまた別の攻撃反応を起こす(すなわち、炎症反応を起こし、ホルモンを妨害する物質になる)。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2016)「腸の力」であなたは変わる 三笠書房』
※腸の透過性、炎症、腸内細菌と肥満については以下の記事参照。
腸内細菌と生活習慣病(肥満、がん、動脈硬化、糖尿病など)の”腸の透過性、炎症、腸内細菌と肥満”
ネットニュースによる関連情報
●肥満の人は体内でビタミンEが利用されにくい? ○肥満でメタボの人のビタミンEの必要性 ・脂肪は、代謝性ストレスを増加させる酸化剤を生成する。一方で、ビタミンEやCなどの抗酸化剤はこれに対抗する。 ・余分な体重などによって、身体は多くの酸化ストレスにさらされているため、抗酸化剤となるビタミンEも通常よりたくさん必要になる。 ○肥満でメタボの人はビタミンEが体内で利用されにくい? ・ビタミンEは脂溶性のビタミンであるため、過体重で高脂肪の食品を大量に食べるような人たちは、理論的にはビタミンEレベルは高くなるはずだが、こういった人たちは血中のビタミンEレベルが高かったとしても、最も必要な組織でビタミンEが働けない状態にあることがわかった。 ○ダイエット時の注意点 ・脂肪の摂取を制限しすぎるとエネルギー制限の効果はあるが、ビタミンEが不足する可能性も生じる。
●肥満、小胞体(ER)機能不全、2型糖尿病の関連 ・肥満に関連する炎症 →一酸化窒素(NO)の生産を高める。 →NOは、IRE1と呼ばれる小胞体ストレス応答に関係する酵素を変化させる。 →小胞体ストレス応答が障害され、小胞体機能が低下。 →インスリン抵抗性と2型糖尿病につながる
●肥満と低酸素誘導因子(HIF)、糖尿病、がんとの関連 ・HIF-1αを脂肪細胞中に持たない体質のマウスを作製し、このHIF-1α欠損マウスと普通のマウスに高脂肪食を与えたところ両群とも肥満になったが、HIF-1α欠損マウスの方だけはインスリン抵抗性や2型糖尿病を発症しなかった。 ・HIF-1αと呼ばれるたんぱく質が、肥満マウスのインスリン抵抗性と2型糖尿病発症の上で重要な役割をもつことがわかった。 ・肥満の人は脂肪細胞に大規模な炎症が発生しており、慢性的な低酸素状態にあるため、HIF-1αが活性化する。それが、結果的にがん細胞にとっても快適な環境を作り出してしまうのでは、と研究者は考えている。