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- 酸化LDL、低HDLと動脈硬化
- 粥状(アテローム)動脈硬化によって心筋梗塞
- コレステロールによってプラーク形成
- HDLはマクロファージからコレステロールを回収
- 糖尿病、LDLと動脈硬化
- 高血圧、LDLと動脈硬化
- コレステロールの酸化、劣化
- コレステロール、飽和脂肪酸は心疾患のリスク因子ではない?
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
- ネットニュースによる関連情報
酸化LDL、低HDLと動脈硬化
活性酸素がLDLを酸化LDLへと変性。 →酸化LDLが免疫システムからゴミや毒として認識される。 →マクロファージが酸化LDLを貪食。 →マクロファージが消化中に、炎症を引き起こすタンパク質を大量に周囲に撒き散らす、脂肪を溜め込んで変性した泡沫細胞に変化して、血管壁に付着。 →この泡沫細胞に対して、さらにマクロファージが集まってくる。 →脂肪細胞の塊ができる。 →その部分に血小板を呼び寄せるタンパク質が生産され、血小板が引き寄せられる。 →血栓となって動脈を狭くする。 ※参考資料『後藤 眞(2013)老化は治せる 集英社新書』
●酸化LDLと動脈硬化 ①LDLが血管の内膜に入って酸化 血液中では抗酸化作用によって保たれているが、血管壁に入ると酸化され易くなる ②マクロファージが酸化LDLを貪食 酸化LDLは異物であるため、マクロファージに食べられてしまう。 ③酸化LDLの貪食が追いつかず泡沫細胞と化す ④プラーク形成、血管が破れる 泡沫細胞が増えて、プラークが形成され、内皮細胞を下から圧迫、内皮を傷つけ血管が破れる。 ⑤血小板が集まって血栓形成。 ※参考資料『近藤和雄(2015)人のアブラはなぜ嫌われるのか 技術評論社』
・LDLはタバコなどの酸化ストレスや高血糖に曝されると変性LDLとなり、血管の内皮細胞の隙間から壁の中に入り込んで動脈硬化を引き起こす。 ↓ 喫煙者でLDLと血糖値が高い人は動脈硬化がおきやすい。 ※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる 講談社』
●低HDLと動脈硬化 ・正常な機能を持つHDLは血管壁からコレステロールを引き抜いているので、HDL値の低下は動脈硬化症の原因になる。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
粥状(アテローム)動脈硬化によって心筋梗塞
①血管の内膜にプラーク形成 血管の内膜にお粥状のプラークが沈着して粥腫(プラーク)が形成。プラーク内にはコレステロールエステルが溜まっている。 このプラークは血管の内側に向かって盛り上がっていて、溜まっているコレステロールが多くなるほど大きくなり、血管の内側が狭くなり、血流の流れを妨げるようになる。 ただし、通常はプラークが大きくなっても血管を塞いでしまうほどではなく、それで心筋梗塞が起こるわけではない。 ②血管内膜のプラークが破裂 血管内膜にあるプラークの表面は血管の表皮細胞に覆われている。 内膜にあるプラークが大きくなったり不安定になったりして破裂すると血管表面の内皮細胞も一緒に裂けてしまい、血液がプラークの成分と直接接触するようになる。 ③血栓が生成 血小板によって血栓が作られる。血栓が血管を塞ぐほど大きくなると心筋梗塞となる。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
コレステロールによってプラーク形成
・プラークはコレステロールエステルが溜め込まれて形成されているが、コレステロールエステルは、どのように供給され、どのようにしてプラークが形成されるか? ・コレステロールエステルは血液中のLDL内に保持されていて、LDLである限りは問題は発生しない。 ①血液中のLDLは、LDL受容体によって必要に応じて細胞内に取り込まれ、必要がない場合はLDL受容体を表面に出さず、LDLは素通りして問題を起こさない。 ②一部のLDLは、LDL受容体とは関係なく、血管の内皮細胞と内皮細胞の隙間を通って内皮細胞の裏側の内膜の中を行き来している。 ③血液の中にたくさんのLDLがある高コレステロール血症のような場合、内膜下で留まる時間が長くなり、そこで活性酸素などの働きによって酸化されて酸化LDLとなる確率が高くなる。 ④白血球の一部である単球も内皮細胞の間から内膜内に入り込み、毒物やゴミなどの異物がないかチェックしていて、何も無ければ血液に戻って流れていく。 内膜に酸化LDLがあると、単球は酸化LDLを不要な物質として認識し、マクロファージに変身して酸化LDLを自分の中に取り込んでいく。 ⑤大量の酸化LDLを取り込んだマクロファージが取り込み過ぎたりして死んでしまうと、溜め込まれたコレステロールエステルがマクロファージの細胞内から放出され、内膜にプラークが形成される。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
HDLはマクロファージからコレステロールを回収
①HDLは肝臓と小腸で作られ、この時点では脂質を含まない状態で出て行く。 ・VLDLの場合は、リポタンパクの外側部分、脂質を運ぶ籠にあたる部分は、リン脂質、アポB、コレステロールからなるが、HDLの場合はアポBではなく、アポA-Iと呼ばれるアポタンパクで、アポBと比べると非常に小さいタンパク。 ②HDLが血液の中で流れている間に、末梢の細胞で不要となったコレステロールを集めて回る作用をしている。その際、細胞からはコレステロールがエステル化されてない状態で出てくるが、HDL内に詰め込まれているLCATと呼ばれる酵素によってそのコレステロールを無害化してHDLに取り込む。 血管内膜に酸化LDLを取り込んだマクロファージがいる場合、マクロファージからHDLにコレステロールエステルが引き渡される。これによってプラークの形成が抑制される。 ③コレステロールを取り込んだHDLは肝臓に行き、肝臓にあるHDLを認識する受容体を介して肝臓にコレステロールエステルを引き渡す。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
・VLDL中の中性脂肪がリポタンパクリパーゼによって分解される過程で原始HDLが作られる。 ・HDLは、血管の壁に溜まったコレステロールを集めて肝臓に戻す。溜まったコレステロールの回収。 ※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる 講談社』
高血圧、LDLと動脈硬化
高血圧が続くと、その圧力を受ける血管の内皮細胞が変調をきたし、周りのものに酸素がくっつきやすくなる。(酸化ストレス) このとき、LDLが内皮細胞のすぐ裏にあると、すぐに酸化して酸化LDLになってしまう。高コレステロールの状態でなくてもプラークが形成されてしまう。 ※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール 日本経済新聞出版社』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●HDLコレステロールと循環器疾患発症との関連について ・血中HDL濃度を男女別にそれぞれ五分位に分け、血中HDL濃度が一番高い群(Q5)を基準とした場合の、他の群の虚血性心疾患および脳卒中の発症リスクを比較した。 ○全体の結果 ・虚血性心疾患の発症について、Q5(基準)と比較して、血中HDL濃度が一番低い群(Q1)のリスクは男性で1.85倍増加した。 女性も男性と同程度のリスクの大きさを認めたが、他の要因を統計学的に調整した場合に関連は弱くなった。 ・脳卒中の発症については、男性では統計学的有意に血中HDL濃度が低いと脳卒中発症のリスクが上昇する傾向が認められたが、女性では関連が認められなかった。 ○脳卒中のタイプ別の結果 ・CT等の画像診断に基づき、脳卒中をくも膜下出血、脳出血、ラクナ脳梗塞(脳の奥深くにある細い血管がつまる脳梗塞)、および皮質枝系脳梗塞(脳の太い血管の粥状動脈硬化が原因でつまる脳梗塞)、脳塞栓(主に心臓でできた血栓が脳に飛んでつまる脳梗塞)に分けて、HDLとの関連を検討した。 ・その結果、男女ともラクナ脳梗塞について、Q5(基準)と比較して一番低い群Q1で、発症のリスクが統計学的有意に上昇した。 しかしながら、女性の脳出血発症については、Q5と比較してQ1で、発症のリスクが統計学的有意に低下していた。 ○推察 ・ラクナ脳梗塞は、脳の奥深くにある小さな動脈に血栓がつまって起こる、日本人に比較的多いタイプの脳梗塞。 本研究において、HDLの低値が、ラクナ脳梗塞の発症リスクを高めた結果から考えると、HDLには比較的太い動脈の動脈硬化を予防する作用に加えて、小さな動脈での血栓形成を予防する作用もあり、HDL値が低下することにより小さな血管で血栓がつまりやすくなった可能性が示唆された。 ・一般的にHDLは、喫煙、肥満、運動不足で低下すると言われている。
コレステロール、飽和脂肪酸は心疾患とは無関係?
・"コレステロール値と心臓疾患の相関は見出せなかった"、という研究報告もある。 The World's Biggest Fad Diet ・"飽和脂肪酸を摂取することは冠状動脈性心疾患、脳卒中、心血管疾患のリスク増大と関係ない。"という研究報告もある。 Meta-analysis of Prospective Cohort Studies Evaluating the Association of Saturated Fat with Cardiovascular Disease ※参考情報『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す 三笠書房』
ネットニュースによる関連情報
〇米国デューク大学からの研究報告 ・大規模コホート研究であるフラミンガム心臓研究の参加者中、55歳で心臓疾患のない1,478名を対象に検討を行った。それまでのコレステロール値が記録から抽出され、それ以後20年にわたって、心臓病の発症が追跡調査された。 ・コレステロール値高値は、本研究では非HDL-コレステロールが160 mg/dL以上と定義された。 ※非HDL-コレステロール ・総コレステロール(VLDL・LDL・HDLを総合したコレステロール数値)からHDLコレステロールを引いた値。 ・55歳の時点で、約40%が過去10年にわたってコレステロール高値であったが、15年の追跡期間中、これらの人々の心臓病リスクは16.5%であり、高値ではない者が4.4%だったことから、約4倍の上昇と考えられた。 ・コレステロール高値は10年でリスクを39%高め、わずかな高値であっても長期の影響によって有意にリスクを高めることがわかった。 ・この傾向はコレステロール以外のリスクのない人々で特に強い傾向がみられたと。タバコを吸わず、血圧も血糖値も正常範囲にあり、体重も普通範囲だが、コレステロールが高いことで問題が起こるリスクが高まるようだ。 ※参考文献 Hyperlipidemia in early adulthood increases long-term risk of coronary heart disease.