野菜・果物摂取と慢性疾患との関連

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  1. 野菜・果物の効能の概要
  2. 野菜・果物摂取の目標量
  3. コレステロール値との関連
  4. 高血圧との関連
  5. 循環器疾患との関連
  6. 血糖値との関連
  7. がんとの関連
  8. 認知症との関連
  9. 骨粗鬆症との関連
  10. 鮮度、保存方法による栄養成分への影響
  11. 加工品、ジュースの場合の栄養成分

野菜・果物の効能の概要

●野菜の主な効能
 
・多くの研究で野菜を多く食べることは脳卒中や心臓病、ある種のがんにかかる確率を低下させるという結果が出ている。
・ビタミンやミネラル、食物繊維を多く含む。
・野菜に含まれるビタミンは、ごはんなどに含まれる炭水化物が体内でエネルギーに変わる手助けをしてくれる。
・野菜に多く含まれるカリウムは、余分なナトリウム(食塩)を体外に排泄するのを手助けしてくれ、高血圧の予防にもなる。
・野菜、特に色の濃い野菜(カボチャ・水菜など)にはカルシウムも多く含まれている。
 
※参考資料
野菜、食べてますか? | e-ヘルスネット 情報提供

 

●果物に含まれる栄養成分の効用
 
・ビタミンC、ビタミンA
・カリウム
主に高血圧予防(ナトリウムの排泄作用)
・食物繊維
・タンパク質分解酵素
果物にはタンパク質分解酵素が含まれているものが多く、肉・魚料理と組み合わせることで、消化を助けるとともに、体内の脂質の酸化を防いだり、余分な脂質の排泄を促す成分も多く含まれている。
 
※参考資料
果実の1日の摂取目標「200g」 - 農林水産省(PDF)

野菜・果物摂取の目標量

●野菜摂取の目標量
 
・厚生労働省が策定した"21世紀における国民健康づくり運動:健康日本21"では、一日に350g以上の野菜を摂取することを目標としている。
 しかし、平成21年国民健康・栄養調査の結果では、国民1人1日の平均的な野菜摂取量は295gほどしかない。
 
・食事は野菜だけでなく、ごはんや肉・魚など様々な食品を組み合わせて食べることにより、必要な栄養素をまんべんなく摂ることが必要。
 そのため"野菜を350g食べれば良い"という目標ではなく、野菜と一緒に食べる食品からの栄養素摂取のバランスも加味されているもので、野菜を食べるということは、食生活全般を見直すことにつながる。
 
※参考資料
野菜、食べてますか? | e-ヘルスネット 情報提供

 

●果実の摂取目標
 
厚生労働省、農林水産省は、健康の観点から毎日果物を200g摂取することを推奨。
 
○果物200gを摂取するには?
例)
・うんしゅうみかん:2個分
・なし:1個分
・ぶどう:1房分
・もも:2個分
・りんご:1個分
・バナナ:2本分
・キウイフルーツ:2個分
 
○果実摂取量
※厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成16年)
 
・15~19歳:108g/日
・20~29歳:77g/日
・30~39歳:63g/日
・40~49歳:92g/日
・50~59歳:130g/日
・60~69歳:166g/日
・70歳~:158g/日
 
※参考資料
果実の1日の摂取目標「200g」 - 農林水産省(PDF)

コレステロール値との関連

・果物には、血液中のLDLの上昇を抑える働きがあるペクチン等の水溶性食物繊維やセルロース等の不溶性食物繊維が多く含まれている。
・干し柿等のドライフルーツには単位重量当たり食物繊維の量が多く含まれている。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 

●果糖と中性脂肪との関連
 
・果糖は中性脂肪に変わりやすいという特徴を持っている。
・果糖は、血糖にはほとんど変わらず肝臓へと運ばれ、ブドウ糖代謝に入る。
・果糖は、肝臓で脂肪合成に関わる酵素を活性化させて、とても中性脂肪に変わりやすくなっている。
・インスリンに依存せずに中性脂肪に変えられる。
 
※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』

高血圧との関連

●カリウムの摂取
 
○アメリカの研究
・859人(50~79才)の男女を対象にした12年間の追跡調査では、カリウム摂取量と脳卒中の発症との間には負の相関があり、食事のナトリウム/カリウム比が低いと血圧が低いことが分かった。
・584人の男性と718人の女性を調べた疫学調査では、カリウムの摂取量が少ない人は、多い人に比べて高血圧のリスクが男性では2.6倍、女性では4.8倍高かった。
・上記から、カリウムの摂取量が380mg(10mmol)上昇するごとに、脳卒中の死亡率は40%低下すると推定されている。
 果物200gは、ちょうどこの量(380mg)を満たしている。
 
○ナトリウム/カリウム比と果物摂取
・ナトリウムを増やさずカリウムを多く摂取するにはナトリウム/カリウム比の低い果物の摂取が有効である。
・果物には、ナトリウムがほとんど含まれておらず、カリウムの多い食品として位置づけられている。
 200gの果物には平均すると380mgのカリウムが含まれているが、ナトリウムはほとんど含まれていないため果物を食べても増えない。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

循環器疾患との関連

●心臓病との関連
 
○米国Liuらの研究
・米国の女性看護職者を対象。
・果物・野菜の摂取と冠動脈性心疾患の関係を解析し、果物・野菜の摂取量の最低(中央値2.6サービング)と最高(中央値10.2サービング)に対する相対危険度は、1.0と0.68となり、強い予防効果があることが示された。
 
○米国Bazzanoらの研究
・米国の第1次国民栄養調査の集団を対象。
・果物・野菜摂取と冠動脈性心疾患との関係を解析。
・果物・野菜の摂取が1回/日と3回/日以上とを比較したところ、虚血性心疾患は24%、冠動脈性心疾患による死亡率は27%減少していた。
 
○米国Joshipuraらの研究
・米国の2つのコホート研究(女性看護職者と医療専門職者の集団)について解析。
・果物・野菜の摂取量が高いグループ(10サービング)は低いグループ(3サービング)との比較で相対危険度は0.8となり、果物・野菜の摂取と冠状動脈性心疾患との間には負の相関が認められたことを記している。
 また、摂取量が1サービング増加すると相対危険度は4%ずつ減少しており、緑黄色野菜、ビタミンCを豊富に含む果物・野菜の摂取が予防効果に大きく寄与しているとしている。
 
○Dauchetらによるフランスと北アイルランドの研究
・フランスと北アイルランドの異なる集団での解析を行い、果物・野菜、果物、野菜、かんきつ、その他の果物に分けて、それらの摂取頻度と急性冠状動脈疾患の相対危険度を示している。
・北アイルランドでは、かんきつでもその他の果物でもリスクを下げるが、フランスではかんきつのみリスクを下げた。
 なぜ、地域により異なる結果が出たのかは明らかにはなっていない。なお、野菜の摂取は、どちらの集団においても、冠状動脈疾患のリスクを下げる確証は得られなかった。
 
○Dauchetらのメタアナリシス
・9つのコホート研究についてメタアナリシスを行っている。
・合計で男性91,379名、女性129,701名からなる集団で、5,007名の冠動脈性心疾患の事例があった。
・冠動脈性心疾患のリスクは、1日の摂取が1皿分(106g)増加すると、果物・野菜を合わせた場合、相対危険度は4%ずつ減少し、果物だけの場合をみると7%ずつ減少することを示している。
 
○Shimazuらによる宮城県での研究
 
・宮城県大崎保健所管内に居住する国民健康保険加入者約5万人を対象に、食事の摂取パターンと心血管疾患の関係に関するコホート研究を行っている。
・日本食型(大豆食品、魚、海藻、野菜、果物、緑茶の摂取を特徴とするパターン)は、冠状動脈疾患や脳卒中を含む心血管疾患の死亡リスクが低く、肉食型(肉や乳製品等の動物性食品、コーヒー、アルコール摂取を特徴とするパターン)は高いという結果が得られた。
 
○Takechiらによる日本のコホート研究
・厚生労働省研究班の多目的コホート研究において、全国9ヶ所の保健所の管轄の約8万人を対象とし、1995年から追跡研究をした。
・食物摂取頻度調査をもとに、食品と心血管疾患のリスクとの関係を調べた結果、果物摂取量が多いほど心血管疾患のリスクが低いことが分かった。果物摂取量が最も多いグループ(平均280g)は、最も低いグループ(平均35g)に較べリスクは19%低くなっていた。
しかし、野菜にはこのような関係が認められなかった。
・喫煙者と非喫煙者に分けて比較すると、喫煙者ではリスク低減の傾向はあるものの統計的には有意ではなくなり、喫煙習慣が、果物・野菜の効果を減弱させる可能性を示している。
 
○Nakamuraらによる岐阜県でのコホート研究
・岐阜県高山市でのコホート研究を行い、約3万人を対象とした追跡調査を行った結果を報告。
・女性では野菜による心血管疾患の死亡リスクの低減作用が認められたが、果物については明確ではないとしている。
・男性では、果物あるいは野菜の摂取と心血管疾患の死亡リスクとの間に関連はみられないとしている。
・男女の違いは、男性の喫煙率が女性に較べ高いことや女性ホルモンとの関係が原因であろうとしている。
 
○Hozawaらによる研究
・約4,500人の18~30歳の男女について、血中カロテノイド濃度及び喫煙習慣と糖尿病の発生の関係を検討。
・非喫煙者のカロテノイド濃度は78μg/dlであるのに対して、喫煙者の血中濃度は68.3μg/dlと低く、喫煙習慣は血中の抗酸化成分であるカロテノイドを消耗することが推測される。
 
●脳卒中との関連
 
○Dauchetらによるメタアナリシス
・脳卒中と果物・野菜の摂取に関する7つのコホート研究(米国、5研究;ヨーロッパ、1研究;日本、1研究)についてのメタアナリシス。
・解析は、男性90,513人、女性141,536人について行われ、2,955人の脳卒中の事例がみられた。
・脳卒中のリスクは、1日の摂取が1皿(106g)増加すると、果物のみの場合、相対危険度は11%減少し、果物と野菜については5%減少した。果物又は果物・野菜の摂取は、脳卒中の相対危険度が線形の用量反応関係を示し、多く食べるほど脳卒中のリスクが下がることが示された。
・野菜については、相対危険度が3%減少したが統計的には意味のある差ではなかった。
 
○Heらによるメタアナリシス
・8つのコホート研究(Dauchetらの解析した研究に加え、フィンランド、1研究;オランダ、1研究を追加)のメタアナリシス。
・解析は257,551名について行われ、そのうち4,917名が脳卒中を発症した。果物と野菜は区別せずに、合わせた摂取量(1サービング:果物80g、野菜77g)での検討を行っている。
・3サービング未満/日のグループと比較した場合、脳卒中の相対危険度は、3~5サービング/日のグループでは0.89、5サービング以上/日のグループでは0.74であった。
 脳卒中には虚血性と出血性があるが、そのどちらのリスクも下げるとしている。
 
○Sauvagetらの広島と長崎の研究
・広島と長崎の39,337名を対象。
・緑黄色野菜と果物の摂取は、脳卒中、脳内出血、脳梗塞による死亡のリスク低下と相関があり、予防効果を示唆している。
 
○デンマークの研究
・デンマークの男女について、果物と野菜の摂取量と虚血性脳卒中のリスクの関係を調べたコホート研究。
・野菜や果物の種類を9つのグループ(このうち果物に関してはかんきつとその他の果物の2グループ)に分けて検討した結果では、かんきつは統計的に意味のある差であったが、他のグループは予防的な傾向を示すものの、統計的に意味のある差ではなかった。
 
●野菜・果物摂取による効果の理由
 
・なぜ予防的に作用するかは明確になっていない。
たとえば、果物に普遍的に含まれる抗酸化ビタミンが予防要因として期待されるが、抗酸化ビタミンを投与した無作為臨床試験では、有意な脳卒中の予防効果を示さない。
 
・果物を食べる人は、たとえば肉を控える、運動をする等、リスクを下げる習慣を持つことも考えられる。
 
・動脈硬化の発症や進行には酸化ストレスが関与している。
 果物や野菜には、カロテノイドやポリフェノール等の抗酸化成分が含まれている。
 カロテノイドの摂取と予防効果に関しては必ずしも肯定的な結果だけではなく、β-カロテンの投与による介入試験では冠動脈疾患の予防効果を示す結果は得られず、逆に喫煙者ではリスクを上げたとする報告もある。
 β-カロテンとβ-クリプトキサンチンには予防的な結果を見いだせたが、それら以外のカロテノイドでは認められなかったという結果があり、カロテノイドの種類により、また対象とする疾病や症状により異なる結論が出るのかもしれない。
 ポリフェノールの場合も、予防効果に関して相反する結果が得られている。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

野菜・果物と全がん・循環器疾患罹患との関連について
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査(野菜果物;46食品)の結果を用いて、野菜・果物の1日当たりの摂取量を算出し、少ない順に並べて4グループに分け、その後に生じた何らかのがん・循環器疾患の発生率を比べた。
 
○循環器疾患の結果
・果物の摂取量が多いグループほど、循環器疾患のリスクが低いという関連が見られた。
 果物の摂取量が最も多いグループでは、最も少ないグループより循環器疾患リスクが19%低減していた。
・野菜と循環器疾患については、関連が見られなかった。
・果物と野菜の種類別に(かんきつ類、アブラナ科野菜、緑葉野菜、黄色野菜)検討したところ、かんきつ類摂取量が多いグループほど、循環器疾患のリスクが低いことがわかった。
・喫煙習慣の有無によって、別々に、果物の摂取量と循環器疾患の発症率の関連を調べたところ、たばこを吸わない人では、果物の予防効果がはっきりとみられた。つまり、喫煙習慣のある人は、果物をたくさん食べても、喫煙習慣のない人ほど効果は期待できない可能性が示された。
・同様に調べた他の研究では、これまでに欧米から6件報告されているが、そのうち5件は循環器疾患に予防的な結果だった。

 

アブラナ科野菜と全死亡および疾患別死亡との関連について
 
・日本人88,184人(男性40,622人・女性47,562人)におけるアブラナ科野菜(キャベツ、だいこん、こまつな、ブロッコリー、はくさい、チンゲンサイ、からしな、ふだんそう)とと全死亡および疾患別死亡との関連を調べた。
 
○アブラナ科野菜と慢性疾患との関連
・アブラナ科野菜は、抗がん、抗炎症および抗酸化活性が動物実験などで示されているイソチオシアネートを多く含むことから、慢性疾患を予防する働きを持つことが期待されている。
 
○全死亡リスク
・アブラナ科野菜摂取が一番少ないグループと比較して、一番多いグループで、男性では14%、女性では11%低くなっていた。
 
○心疾患、脳血管疾患による死亡リスク
・女性では、アブラナ科野菜摂取量が一番多いグループで心疾患による死亡リスクが統計学的有意に低くなっており、脳血管疾患による死亡リスクも統計学的有意ではないが、同様の関連がみられた。
 
○外因による死亡リスク
・女性では、アブラナ科野菜摂取量が一番多いグループで外因による死亡リスクが統計学的有意に低くなっていた。
 
○推察
・アブラナ科野菜にはイソチオシアネートや抗酸化性ビタミンなどが多く含まれることが知られており、それらの抗炎症および抗酸化作用が死亡リスクの低下に寄与しているのかもしれない。
・女性においては、アブラナ科野菜摂取量と心疾患および脳血管疾患死亡リスクとの間に負の関連が認められ、この傾向は先行研究とも一致しており、イソチオシアネートの抗炎症作用によるものである可能性が考えられる。
・女性において、アブラナ科野菜摂取量と外因死のリスクに負の関連が見られた。これまでの疫学研究において、アブラナ科野菜を摂取することによる認知機能改善効果、抑うつ予防効果の報告があり、そのことが、事故死および自殺予防につながっている可能性が考えられる。

血糖値との関連

●糖類の摂取と生活習慣病との関連
 
・アメリカ食品医薬品局は、糖類(ショ糖、果糖、ブドウ糖等)に関する1,000以上の文献を精査し、糖類の健康面における評価を行った結果、肥満、糖尿病、循環器系疾患等の生活習慣病の発症に糖が直接的な原因であるという明確な証拠はないと結論づけた。
 
・国連食糧農業機関と世界保健機関の両機関も同様に再検討し、"糖類の摂取は肥満を促進する"という考えは誤りであり、果糖やショ糖等の糖類が生活習慣病に直接結びつくことはないとした。
 
●果物摂取による糖尿病予防効果
 
○フィンランドの研究
・40から69才の男女4,304名を23年間追跡。
・食事調査から摂取量を5分割したところ、最も果物をよく食べるグループでの2型糖尿病発症リスクは0.69まで下がり、緑色野菜の高摂取群での0.69とほぼ同じレベルまで2型糖尿病の発症率が低かったと報告している。
 
○上海の大規模コホート研究
・調査開始時の栄養調査の結果について主成分分析を行い、それぞれの食事パターンと死亡リスクとの関連を平均5.7年間にわたり追跡して解析を行っている。
・その結果、果物の摂取量が豊富な食事パターンでは、総死亡リスク、循環器系疾患による死亡リスク、脳卒中による死亡リスクのいずれも有意に低下していたが、糖尿病が原因による死亡リスクが0.51で最もリスクを下げていたと報告している。
 
○HamerとChibaによる研究
・5つのコホート研究の結果について総合的に解析(メタアナリシス)したところ、果物の摂取量は糖尿病の発症リスクと関連がなかったと報告している。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 

●果糖と血糖値、インスリン
 
・肝臓で10~20%だけブドウ糖に変換されるが、残りは果糖のままで血中を回る。他の糖質を同量摂取したときと比べて、血糖値の上昇は多くても20%ほどしか見られない。
血糖値とは、血中のブドウ糖の量を測定したものであるため。
 
・GI値としては果糖は低い。
 
・果糖ばかりを摂取するように指導したグループと、同様にブドウ糖を摂取したグループの、3ヵ月後の体の状態を比較すると、果糖摂取グループの方が、より血糖値の上昇が起こりやすくなるという結果が出ている。
 
・果糖は体内で中性脂肪に変化して内臓にくっつき、脂肪肝などを引き起こしやすくなる。その結果、血糖値を下げるインスリンの働きが弱くなってしまう。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

野菜・果物摂取と糖尿病との関連について
 
・野菜や果物に豊富に含まれるビタミンCやカロテノイドなどの抗酸化物質やマグネシウムの摂取により糖尿病のリスクが低くなることが欧米の研究で報告されている。
 野菜と果物の摂取と糖尿病発症との関連について検討した。
 
○結果
・男女ともに野菜・果物の摂取と糖尿病リスクには明確な関連はみられなかった。
 男性では野菜摂取が最も多いグループで糖尿病リスクが20%ほど低くなっているようだが、統計学的に有意ではなかった。
・野菜の種類(緑黄色野菜、緑の葉野菜、アブラナ科野菜)により分けて分析したところ、いずれにおいても糖尿病発症との統計学的に意味のある関連はみられなかった。
 緑の葉野菜(男女)およびアブラナ科の野菜(男性)の摂取が多いグループで糖尿病発症のリスクが低くなっているようであったが、統計学的に有意ではなかった。
 
○推察
・今回の研究では、全体としては野菜・果物の摂取と糖尿病発症との関連はみられず、最近報告されたメタ解析(多くの研究を統合した解析)の結果とも一致しており、野菜・果物全体としては糖尿病リスクとの関連はないことが示唆される。
 しかしながら、本研究では、野菜(男性)、特に緑の葉野菜(男女)およびアブラナ科野菜(男性)の高摂取グループでは糖尿病リスクが若干、低下していた。
 ほうれん草や小松菜などの緑の葉野菜にはインスリン感受性を高めるビタミンCやカロテノイドなどの抗酸化ビタミンが多く含まれており、疫学研究でもこれらの抗酸化ビタミンを多く摂取する人の糖尿病リスクは低いとの報告もある。
 また、キャベツや大根などのアブラナ科の野菜に豊富なイソチオシアネートには抗酸化作用があることが確認されている。
・なお、男性の過体重(BMI 25kg/m2以上)もしくは喫煙習慣のある人では、野菜、特にアブラナ科の野菜を多く摂取しているグループで糖尿病リスクの若干の低下が示唆された。

 
 
●他の研究事例
 

○米調査会社エクスポーネントの研究
 
・リンゴ、ベリー、柑橘類、ブドウ、ザクロなど果物の100%ジュースの血糖コントロールの関連性への影響を検討するため、18の無作為化試験を含むシステマティックレビューとメタアナリシスにおける空腹時の血糖値と血中インスリン濃度を糖尿病リスクのバイオマーカーとして用いた。
 試験期間は1か月程度のものが8件、2か月程度が1件、3か月程度が7件、4か月程度が1件、6か月程度が1件だった。
 
・その結果、空腹時の血糖値や血中インスリン値あるいはインスリン抵抗性に対し、短期的には有意な影響を及ぼさないようであった。
 
※参考文献
100 % Fruit juice and measures of glucose control and insulin sensitivity: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials

がんとの関連

・野菜と果物については、カロテン、葉酸、ビタミン、イソチオシアネート等さまざまな成分が、体内で発がん物質を解毒する酵素の活性を高める、あるいは生体内で発生した活性酸素などを消去するなどのメカニズムが考えられる。
・食道、胃、大腸など消化管のがんのリスクが低くなることは、”おそらく関連が確実”とされている。
しかし、たくさん食べれば食べるほどがんの予防効果があるというデータはない。
 
・食道がんのリスクが低くなるのは”ほぼ確実”、胃および肺がん(果物のみ)のリスクが低くなる”可能性がある”。
 
・野菜・果物と脳血管疾患およびがん全体との関連を見た研究では、果物と脳血管疾患との間に負の関連が見られたのに対し、がん全体との間には特に関連は見出されなかった。
 
・週1回未満に比べて週1-2回、3-4回、ほぼ毎日摂取するグループのリスクは黄色野菜では摂取頻度に応じて段階的に低下。しかし、緑色野菜、他の野菜、果物においては週1-2回摂取すれば、それ以上頻度を増やしてもリスク低下は週1-2回の場合と同等。
 
・大腸がんにおいて、野菜・果物はリスク低下と関連していなかったが、食物繊維の最も摂取量の少ないグループは、最も摂取量の多いグループに比べて2.3倍に上昇。
 
・食道・胃・肺がんは、いずれも喫煙との関連が強く、食道がんは飲酒との関連が強いので、まずは禁煙と節酒が優先されるが、脳卒中や心筋梗塞等をはじめとする生活習慣病全体にも目を向けると、野菜・果物を毎日とることがすすめられる。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

野菜・果物と全がん・循環器疾患罹患との関連について
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査(野菜果物;46食品)の結果を用いて、野菜・果物の1日当たりの摂取量を算出し、少ない順に並べて4グループに分け、その後に生じた何らかのがん・循環器疾患の発生率を比べた。
 
○がん
・野菜・果物とがんについては、関連が見られなかった。
・果物と野菜の種類別に(かんきつ類、アブラナ科野菜、緑葉野菜、黄色野菜)検討したところ、がんについては、どの果物・野菜のグループにおいても、関連はみられなかった。
・同様に調べた他の研究では、これまでに欧米から6件報告されているが、がんにも予防的である結果を示した研究は、比較的規模の小さい2件にとどまった。
・野菜や果物と部位別のがんとの関連を調べた研究でも、近年、関連が見られなかったという報告が多くなっている。多目的コホート研究でも、大腸がんや肺がんについては関連なしと報告している。野菜や果物の摂取量によって、がん全体のリスクにはっきりとした差はないのかもしれない。

 

野菜・果物摂取と胃がん発生率との関係について
 
・ほうれん草のような緑色の野菜,にんじん,かぼちゃのような黄色の野菜,白菜,キャベツ,トマトのような緑黄色以外の野菜,果物について"ほとんど食べない人","週に1日から2日食べる人","週に3日から4日食べる人","ほとんど毎日食べる人"の胃がんの発生率を比べてみた。
 
○結果
・野菜・果物は"ほとんど食べない人"を基準にすると,"週1日以上食べる人"では発生率は低いという結果だった。
 しかし、週あたりの野菜・果物を食べる頻度がそれ以上多くなっても胃がんの発生率がさらに低くなる傾向は見られなかった。
・胃がんは年齢とともに発生率が高くなる分化型のがんと、若年層にも多い未分化型のがんに分類される。
 今までの報告では,胃がんの中でも分化型のがんは未分化型のがんよりも食事等の環境要因の影響を受けやすいと言われている。
 今回の調査結果においても野菜の摂取量が増えるにつれて,胃がん全体と比べて分化型の胃がんでより発生率は減少した。
・今回の調査では,漬物をたくさん食べる人の発生率は,高くも低くもならなかったが、これまでに行われてきた研究では,漬物は塩分を多く含むため胃がんの危険因子だといわれている。

 

野菜・果物摂取と大腸がんとの関係について
 
・研究参加者を野菜・果物の摂取量によって4つのグループに分けて、摂取量がもっとも少ないグループに比べその他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○結果
・大腸がんのリスクは高くも低くもならなかった。
 
○推察
・世界保健機構(WHO)と食糧農業機関(FAO)合同での2003年の報告では、野菜果物は予防効果があるとすればそれはわずかなものであるとしながらも、おそらく予防的と述べている。
 また、国際がん研究所(IARC)の同じ2003年の報告では、これまでの疫学研究・動物実験などをまとめ、野菜・果物の大腸がんの予防効果を示す証拠は限定的ながら、野菜摂取はおそらく予防的だろうと述べられている。
 また、果物摂取も予防の可能性はあると評価されている。

 

野菜・果物摂取と扁平上皮細胞由来食道がんとの関連について
 
・食事に関するアンケート調査の結果から野菜・果物の1日当たりの摂取量を推定し、高・中・低摂取の3グループに分け、食道がんの危険度(リスク)を比較した。
 
○野菜・果物の摂取量
・野菜や果物の摂取量が増えると、食道がんのリスクが低下する傾向にあった。ただし、統計学的に有意差が見られたのは、野菜・果物の合計摂取量だけだった。
・野菜・果物の高摂取グループでは、低摂取グループに比べ食道がんのリスクがほぼ半減していた。野菜・果物の合計摂取量が1日当たり100グラム増加すると、食道がんのリスクが約10%低下していた。
 
○野菜・果物の種類別
・野菜・果物の種類別には、キャベツ・大根・小松菜などが含まれる十字花科の野菜でのみ統計学的に有意な関連がみられた。
 十字花科の野菜は、実験研究などで発がんを抑制するとされるイソチオシアネートを多く含んでいるという特徴がある。
 
○喫煙・飲酒習慣の影響
・喫煙・飲酒習慣別に検討した結果、野菜・果物摂取による食道がんのリスク減少効果は喫煙と大量飲酒のハイリスク・グループで最も大きく、危険度は7.67倍から2.86倍へと大幅に低下していた。
 喫煙と大量飲酒のハイリスク・グループでは、野菜・果物の合計摂取量が1日当たり100グラム増加すると、食道がんのリスクが約20%低下していた。

 

野菜・果物および抗酸化物質摂取と肝がんとの関連について
 
・野菜・果物および抗酸化物質(レチノール・α-カロテン・β-カロテン・ビタミンC)摂取量と肝がんとの関連を調べた。
 
○野菜と果物の合計摂取量
・野菜と果物の合計摂取量と肝がんの発生リスクに関連はみられなかった。
 
○野菜の種類別
・種類別にみると、野菜、緑黄色野菜、緑の葉野菜では、摂取量が最も多いグループの肝がんリスクは最も少ないグループに比べ約40%減少した。
 
○果物
・果物では、摂取量が増えると肝がんリスクが高いという傾向が見られた。
 
○レチノール(ビタミンA)
・レチノール(ビタミンA)摂取量と肝がんの発生リスクには関連はみられなかった。
 
○α-カロテン・β-カロテン
・α-カロテン・β-カロテンでは摂取量の最も多いグループの肝がんリスクが減少する傾向にあった。
 
○ビタミンC
・ビタミンCでは、高摂取グループで肝がんリスクが高い傾向にあった。
 
○推察
・抗酸化物質のなかでもカロテノイドには、動物実験により、肝発がん抑制作用が示されている。
 肝炎ウイルス陽性の肝硬変患者にカロテノイドを投与した介入研究では、投与グループで肝がんの発生が50%減少したことが報告されている。
・今回の研究では、α-カロテン、β-カロテンを多く含む野菜の高摂取グループで肝がんのリスクが低下することが示された。
 また、肝炎ウイルス陽性者に限ると、α-カロテン、β-カロテンの予防効果が強まった。
・肝炎ウイルス陽性者では、炎症により発がんに関わるフリーラジカルが産生されるので、そのフリーラジカルを抗酸化物質が除去するというメカニズムが考えられる。
・ビタミンCは、肝がんのリスク要因の一つと考えられている鉄の吸収を高めてしまうことが知られている。
・本研究の結果では、肝炎ウイルスに感染している人は、α-カロテン・β-カロテンを含む野菜を多く取り、ビタミンC摂取を控えた方がよい可能性が示された。ただし、今回の研究では症例数が少なかったために、結果が偶然である可能性もあるので、今後の研究での確認が必要。

 

野菜・果物摂取と乳がん罹患との関連について
 
・アンケート調査の結果にもとづいた野菜と果物の摂取量を四つのグループに分け、そのグループ間で、乳がん発生のリスクを比較した。
 
○全体の結果
・野菜と果物をあわせた総摂取量と乳がんリスクとの間に関連は観察されなかった。
・総野菜、総果物、アブラナ科の野菜、緑葉野菜、黄色野菜、トマト類、柑橘系果物別でみても、統計学的な有意差はみとめられず、関連は観察されなかった。
 
○閉経の影響
・閉経前女性において、アブラナ科野菜の摂取量が最も低いグループと比べると、最も高いグループにおいて乳がんのリスクが低く、統計学的に有意な差があり予防的な関連が観察された。
・閉経後女性ではそのような関連はみとめられなかった。
 
○ホルモン受容体陽性がん
・アブラナ科野菜の摂取量が増えるほど、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんのリスクが低いという結果だった。
 
○注意点
・欧米の疫学研究を中心とする統合解析では、野菜の摂取量はホルモン受容体陰性の乳がんのリスク低下に関連するという結果が報告されており、今回の研究結果とは必ずしも一致してはいない。
 日本と欧米では、摂取頻度の高い野菜の種類が異なるため、関連がみえにくくなっている可能性もある。
 また、閉経前後やホルモン受容体別の検討では、解析対象者数が少なくなり、さらに解析を繰り返すことに伴う偶然性の可能性も否定できず、結果は慎重に判断する必要がある。
 したがって、特に"アブラナ科野菜"の摂取量と閉経前女性の乳がん発生の関連については、更なる研究結果の蓄積が必要といえる。

 

野菜・果物摂取と胆管がん
 
・研究開始時の質問票をもとに、摂取量によって4つのグループに分け、最も少ないグループと比較して、その他のグループで胆嚢がん・肝内胆管がん・肝外胆管がんの罹患リスクが何倍になるかを調べた。
 
○全体
・野菜と果物の合計および野菜の摂取量が多いグループで、肝外胆管がんに罹患するリスクが低下していた。
 
○種類別
・野菜・果物の種類別に解析を行ったところ、緑の葉物野菜について、摂取量が多いグループで、肝外胆管がんに罹患するリスクが低下していた。
 胆嚢がん、肝内胆管がんに関しては、野菜・果物の摂取に関連したリスクの低下は見られなかった。
 
○栄養素別
・野菜・果物に多く含まれる栄養素の解析では、葉酸および不溶性食物繊維の摂取量が多いグループで、肝外胆管がんに罹患するリスクが低下していた。
・ビタミンCの摂取量が増えると、肝外胆管がんのリスクが低下する傾向が見られた。
・葉酸はDNAのメチル化やDNA合成・修復に関与し、不溶性食物繊維はインスリン感受性の改善や抗炎症効果など様々な機能、ビタミンCは抗酸化作用を有する。それらの作用が肝外胆管がんの罹患に対し、予防的に機能したのかもしれない。

 

アブラナ科野菜と肺がんとの関連について
 
・日本人82,330人(男性38,663人・女性43,667人)におけるアブラナ科野菜(キャベツ、だいこん、こまつな、ブロッコリー、はくさい、チンゲンサイ、からしな、ふだんそう)と肺がん罹患リスクの関連を喫煙状況別に調べた。
 
○イソチオシアネートと発がんとの関連
・アブラナ科野菜は、イソチオシアネートという、DNA損傷の原因となる発がん物質の排出を高める作用が報告されている物質を多く含むことが知られている。
・アブラナ科野菜は肺がんリスクを低下させる可能性があることが近年注目されているが、これまでの研究の大半はアブラナ科野菜の摂取量が少ない欧米で行われたものだった。
 
○全体
・アブラナ科野菜の摂取量が多い非喫煙者で、肺がんリスクが51%低くなっていた。
 一方、女性では全体でも喫煙状況別にみても、アブラナ科野菜摂取と肺がん罹患リスクとの間に関連はみられなかった。
 
○個別のアブラナ科野菜と肺がんリスクの関連
・キャベツの摂取量が多い男性の非喫煙者で、43%肺がんリスクが低くなっていた。
・その他のアブラナ科野菜では男女ともに関連はみられなかった。
 
○推察
・今回の研究の結果は、アブラナ科野菜には抗がん作用のあるイソチオシアネートの他、葉酸、ビタミンC、ビタミンE、カロテンなどの生理活性物質が多く含まれることにより、リスクの低下がみられたと考えられる。
・女性の非喫煙者に関しては、受動喫煙の影響を排除できなかったことなどにより、関連がみられなかった可能性がある。

認知症との関連

○オランダの疫学調査
・55歳以上の5395人を対象。
・ビタミンEやビタミンCが豊富な果物などの食品を多く摂取すると、アルツハイマー病の発症が少ないことが分かった。
 
○米国の疫学調査
・65歳以上の815人を対象。
・果物等の食品からのビタミンEの摂取は、アルツハイマー病の発症を抑えることが明らかになった。
 
○米国マサチューセッツ大学の動物実験
・脳にある神経伝達物質で、減少するとアルツハイマー病の原因とされているアセチルコリンが、濃縮リンゴジュースを与えたマウスで増加していた。
 
○米国の大学による疫学調査
・ワシントン州に住む65歳以上の1836人を対象に、7~9年間にわたり疫学調査。
・コップ1杯(約240ml)の果物や野菜の生ジュースを週に最低3回飲む人は、週1回未満の人に比べて、アルツハイマー病の発症率が73%低いことが分かった。週1~2回でも、発症率が32%低くなった。
 
○米国ユタ州立大学の研究
・3632人の高齢者を対象に、認識力と果物や野菜の摂取との関係を調査。
・その結果、果物と野菜の摂取量の最も多いグループは、認識力の高いことが分かった。
果物だけで比較した場合も、果物の摂取量が多い人は、少ない人より高い認識力を示した。
 
・果物や野菜の生ジュースを飲むと、アルツハイマー病の発症リスクが大きく減少するという結果は、他の大学の研究でも認められている。
・果実からの葉酸の摂取量が少ないと、血液中のホモシステイン濃度が高まり、アルツハイマー病になるリスクが上昇するという研究報告もある。
 この理由として、血液中のホモシステイン濃度が高まると、脳の微小血管障害、脳血管の内皮機能障害、酸化ストレスの増大など、全般的な"脳の老化"が促進されるためと考えられている。
・果物が認知症の予防に有効に働く理由は、果物には水溶性のビタミンCから脂溶性のビタミンEまで、多種多様な成分や抗炎症作用などが豊富にバランスよく含まれているためと考えられている。
 
※参考資料『田中敬一,原田都夫,間苧谷徹(2016)科学的データでわかる果物の新常識 誠文堂新光社』

骨粗鬆症との関連

●野菜・果物摂取の重要性
 
・十分な量のカルシウムの摂取が重要であることはいうまでもないが、WHOとFAOが2003年に発表した報告書では、動物性たんぱくの過剰摂取による含硫アミノ酸が代謝性アシドーシスを誘発し、その結果、骨吸収(骨が破壊され、血中にカルシウムイオンが放出されること)が盛んになり骨に悪影響を及ぼすとしている。
 これを防ぐためには、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のカチオンの摂取が重要と考えられている。
→果物・野菜にはカリウム等のミネラル類が豊富に含まれており、代謝性アシドーシスを平衡化すると考えられている。
 また果物・野菜は、骨基質の重要な成分であるコラーゲンを生合成する上で必須な栄養素となるビタミンCの重要な供給源でもある。
・上記のWHO/FAOの報告書では、骨粗鬆症に関連した骨折の予防には、果物・野菜の摂取量を増やすことも重要であろうとしている。
 
●疫学研究
 
○イギリスでの研究
・閉経前の健康な女性994名を調査した結果では、牛乳と果物の摂取が少ない女性では、摂取量の多い人に比べ、骨密度が低いと報告している。
・閉経前と閉経後における骨密度の減少を891名の女性について追跡調査研究では、果物・野菜に豊富に含まれているビタミンC・マグネシウム・カリウムの摂取量が多いと骨密度の低下を抑制できたとしている。
 
○日本の農業に従事する閉経前の女性を対象とした研究
・日本国内5地域における農業に従事する閉経前の女性291名について、食事パターンと骨密度との関連を解析。
・この研究では栄養調査した結果から、4つの食事パターンに分類し、それぞれの食事パターンの摂取量が最も少ないグループから最も多いグループまで5分割して骨密度を比較している。
・その結果、脂肪や肉、食用油の摂取量が多い西欧型食事パターンが多いほど骨密度が低い傾向にあった。
 これに対し、果物や緑黄色野菜・キノコ・魚介類の摂取量が多い健康的な食事パターンが多いほど有意に骨密度が高かったと報告している。
 
○日本のみかん主要産地の地域住民を対象にした横断解析
・みかんに特徴的に多く含まれているカロテノイドであるβ-クリプトキサンチンの血清レベルが高いほど閉経女性における骨密度は高かったと報告している。
・このような関連は閉経前の女性や男性では認められず、またβ-クリプトキサンチン以外のカロテノイドにはみられなかったことから、β-クリプトキサンチンの豊富なみかんの摂取が閉経に伴う骨密度の低下に対して予防的に働いている可能性が考えられる。
 
○アメリカの男性も調査対象に含めた研究
・69才以上の老年期の男女907名を対象に骨密度と食生活習慣との関連を解析。
・男性において果物・野菜の摂取量と骨密度が有意に相関していたと報告している。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 

・最近の研究から、骨を丈夫にするには牛乳の摂取だけでは不十分で、果物や野菜も一緒に摂取する必要があるということが分かった。
・最近の研究で、腎臓におけるカルシウム代謝に、カリウムが重要な働きをしていることが分かり、それが上記の理由と考えられる。
 
○腎臓におけるカルシウム代謝
・腎臓は、血液中の水分や塩分、カルシウム等のバランスを一定に保ち、血液の酸とアルカリの調節、またビタミンDを活性化し、骨を丈夫にする働きもある。
・オーストラリアの研究チームの結果では、果物や野菜等カリウムの多い食品を摂取している人は、少ない人に比べて尿中へのカリウム排泄量が多く、その代わり腎臓から尿中へのカルシウムの排泄が抑制される。
 その結果、骨中のカルシウム蓄積量が増加して、骨密度が高いことが分かった。
 一方、腎臓から尿中へのカルシウム排泄は、ナトリウムの摂取量とも関係する。ナトリウムの摂取量が多くなると、腎臓から尿中へのカルシウム排泄を促進する。
 したがって、骨密度を高めるにはナトリウムの摂取量を減らし、カリウムの摂取量を増やす必要がある。
 
※参考資料『田中敬一,原田都夫,間苧谷徹(2016)科学的データでわかる果物の新常識 誠文堂新光社』

 
 
●他の研究事例
 

○英国サリー大学によるメタ分析の結果報告
 
・系統的検索によって見つけたアルカリ性カリウム塩のカルシウム代謝と骨健康への影響をみた14件の先行研究をコクランコラボレーションのレビューマネージャー(メタアナリシスができるソフトウエア)によってランダム効果モデルを用いて解析。
 
※コクランコラボレーション(コクラン共同計画)
・治療と予防に関する医療情報を定期的に吟味し人々に伝えるために、世界展開している計画。
・ランダム化比較試験(RCT)を中心として、臨床試験をくまなく収集し、評価し、分析するシステマティック・レビューを行い、その結果を、医療関係者などに届け、合理的な意思決定に供することを目的としている。
 
・その結果、重炭酸カリウムとクエン酸カリウムの摂取によって、尿中カルシウム排泄が有意に低下し、同様に酸の排泄も有意に低下した。
 骨吸収マーカーのNTXを有意に低下させたが、骨形成マーカーあるいはBMDには効果がみられなかった。
※骨吸収(こつきゅうしゅう)
破骨細胞により古くなった骨が分解され破壊されていく現象。
 
・これらの塩のカルシウム排泄の低下度は、塩化カリウムよりも大きかった。
 
・研究者は以下のように解説している。
過剰な酸が中和され骨ミネラルが保持される。動物・穀物タンパク質が多い典型的な西洋食の結果、体内で過剰となった酸が原因で骨は弱くなり骨折しやすくなる。本研究結果で骨吸収の減少が示されたため、こうした塩で骨粗しょう症を予防できることを示している。
 
※参考文献
The effect of supplementation with alkaline potassium salts on bone metabolism: a meta-analysis.

鮮度、保存方法による栄養成分への影響

・野菜や果物は収穫されるとすぐ自己劣化の遺伝子をオンにし、栄養分が大幅に変化する。
・熟す前に収穫された場合は、外見は熟成が進むように見えるが、畑で完熟させたものと同じ栄養があるわけではない。
・生の野菜や果物は、畑から食卓に届くまでの間にさらされる熱や光のせいで、ビタミンCやビタミンB1などの壊れやすいビタミンが劣化する。
・収穫後すぐ冷凍すれば、劣化に関与する酵素の働きを止める事ができる。冷凍の野菜や果物のほうがむしろ安全。
・水溶性のビタミンの損失を最小限にするには、蒸すか電子レンジで調理したほうがよい。
 
※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』

 

●冷凍野菜、缶詰、鮮度
 
・冷凍野菜は、調理された新鮮な野菜に比べて、一般的なビタミン類が25%減少している。
・缶詰の野菜ではビタミン類は冷凍野菜の2分の1から3分の1しか含まれていない。
・トラックや食料品店の棚に何日間か置かれた新鮮農産物は、冷凍食品よりも少ない栄養素しか含んでいないかもしれない。
 
※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』

 

●野菜の保存方法
 
・野菜は収穫された後も呼吸を続けている。呼吸によって細胞に酸素を取り入れ、糖などを分解して、生きるのに必要なエネルギーに変えている。そのため、エネルギー源となる糖やアミノ酸のほか、ビタミンなども保存している間に減っていく。
・保存中の温度を低くしておくと、野菜の吸収が抑えられるため、使われるエネルギーも少なくなる。
・湿度が高いほどビタミンCの損失が少ないことも分かっているので、野菜をラップや湿らせたキッチンペーパーなどで包んで保存すると良い。
・なすやきゅうりといった夏野菜やさつまいも、暖かい環境で育つ果物類などは、見た目や食感等の変化に加え、ビタミンCなどの減少も進むので注意。
・野菜類は、"育つときと同じ姿勢で保存すると良い"と言われている。これが当てはまるのは、そのまま室温で保存する場合。不自然な姿勢がストレスになり、成長ホルモンが多く発生して傷みやすくなる。しかし、低温で保存する場合は成長が抑制されるのでそれほど姿勢にこだわらなくても大丈夫。
 
※参考資料『名取貴光(2016)新・野菜の便利帳 健康編 高橋書店』

加工品、ジュースの場合の栄養成分

●野菜ジュース
 
・原材料となる濃縮還元ジュースの製造工程段階で加熱処理をされていたり、口当たりをよくするために食物繊維を取り除かれていたりするため、熱に弱い栄養分や食物繊維の摂取は期待できない。
・加工されることで吸収が良くなる栄養分もある。
 
※参考資料『石川みゆき,南清貴(2011)ママのための食品添加物事典 主婦の友社』

 

●果汁100%ジュースと栄養成分
 
・生の果物と比べると食物繊維等の含有量が少ないので、完全に代替することはできない。
・食物繊維以外の栄養成分はほとんど変わらない。
・濃縮還元ジュースは、果汁の濃縮に際して若干の成分変化が起こるが、ストレートジュースはそれと比べると果実を絞ったままのものであり、香り、味、色に優れる。
・市販のジュースには濃縮還元製品が多くあり、加工・保存によって栄養価が減少しているものもあるため、"食事バランスガイド"では果汁100%ジュースは飲んだ量の半分量を、"果物"として取り扱っている。
 ただし、果汁100%ジュースを倍量飲めばよいというわけではなく、あくまでも補完的なものとしている。
 
●ジャム、ドライフルーツ、缶詰
 
・濃縮または乾燥されていたり、糖分が添加されたりして、単位重量当たりのエネルギー量やその他の栄養成分が加工前の果物より増加しているものが多いので注意する。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 
 
●他の研究事例
 

○ドイツのホーヘンハイム大学による研究
 
・低温殺菌オレンジジュースの生産過程で、僅かにカロテノイド及びビタミンCレベルが低下することを発見した。
 しかし、その行程によりカロテノイド及びビタミンCの生体利用効率が改善されることが発見された。
 
※参考文献
In vitro bioaccessibility of carotenoids, flavonoids, and vitamin C from differently processed oranges and orange juices [Citrus sinensis (L.) Osbeck].

 

○米国ミシガン州立大学の研究報告
 
・40件以上の先行論文を再解析したもので、栄養価と費用についてフルーツと野菜の缶詰製品を生鮮品と比較。
 
・その結果、缶詰フルーツと野菜の栄養価は生鮮品および凍結品と同等であり、場合によっては優れている場合もあった。
 事実、缶詰トマトは、新鮮なトマトに比べて、よりリコペン含量が高く、ビタミンB類も高めだった。
・豆類などある種の野菜の繊維含量もより可溶性の高い形態になっていてヒトの体に有用である利点も見られた。
・貧困層にとって缶詰製品は価格の点でもリーズナブルであり、缶詰野菜は凍結品の半額、生鮮品の8割の価格で購入できて、栄養学的にも遜色がないという。
・味の点でも缶詰製品は悪くなく、安全性も高い。というのは加熱処理されているので微生物の繁殖などはまず起こらないため。
 
※参考情報
A new study reveals the nutrition, cost and safety benefits of canned foods

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