がんと生殖要因、ホルモン、環境の関連

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  1. 体内の性ホルモン
  2. 経口避妊薬、ホルモン療法
  3. リグナン、イソフラボンなど
  4. インスリン
  5. 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス


※関連情報
月経前症候群(PMS)、更年期障害、ホルモン補充療法

体内の性ホルモン

○性ホルモンの影響
・エストロゲン、プロゲストーゲン、アンドロゲンなどの性ステロイドホルモンは、乳房、子宮体部、卵巣、あるいは前立腺のがんの発生に重要な役割を果たしていると考えられている。
・子宮体がんは、生殖要因との関係ははっきりしない面がある。
ただ、肥満は体内のホルモンレベルを上げることが知られていて、子宮体がんと肥満との関連が確実とされている。
 
○初経年齢、閉経年齢、出産歴、初産年齢
・乳がんは、閉経までは年齢が高くなればなるほど増えるが、日本では、閉経とともにいったん減少傾向に転じる。
 また、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅いこと等によって、乳がんのリスクが高くなる。
・卵巣がんも、出産歴がないことがリスク要因。
 

●乳がん
 
○初潮、最初の妊娠、更年期の時期
・早い初潮、最初の妊娠の高齢化、遅い更年期などのホルモンに関するものが危険因子に含まれる。上記の因子はすべて、一人の女性が生涯に経験する排卵の回数(生理)を増やす。
 
○脂肪、肥満
・脂肪組織はエストロゲンを蓄えるので、肥満女性はリスクが30%高い。
・出生時の体重が平均よりずっと重かった女性はリスクが高い。
←母親の血中のエストロゲン濃度が高かったため。
 
○母親が高血圧
・母親が妊娠中に高血圧だった場合、エストロゲン濃度は下がり、娘が乳がんになるリスクは減る。
 
○乳がんの増加の原因
・出産の高齢化、出生時体重の増加、母乳育児の減少、肥満の増加は、若い頃のエストロゲンの血中濃度を高くし、近年の乳がん増加の原因の一因となっている。
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

経口避妊薬、ホルモン療法

・医療に用いられるホルモン剤や抗ホルモン剤は、一部のホルモン関連がんのリスクをあげる一方、別の部位のがんのリスクを下げることが知られている。
 国際がん研究機構(IARC)の2005年の評価では、ピルを飲んでいたグループで乳がん、子宮頸がん、肝臓がんのリスクがやや高くなっていた。
 ただし、ピルの使用を中止してから約10年で、使用しなかったグループと同程度のリスクに戻ることが示された。
 一方、子宮体がんと卵巣がんのリスクは、ピルの使用期間が長くなればなるほど低くなっていた。
 
・閉経期の更年期障害などに用いられるホルモン補充療法については、期間が長ければ長いほど乳がんと子宮体がんのリスクが高くなっていた。
 ただし子宮体がんについては、エストロゲンにプロゲストーゲンを併用する日数が増えるほどリスクが低くなり、毎日併用すればリスクは高くならないと評価されている。
 また、抗エストロゲン剤として乳がんの治療に用いられるタモキシフェンについては、乳がんのハイリスクグループに対する大規模な無作為化比較試験の結果、投与グループで乳がんリスクが低くなったものの、子宮体がんのリスクは高くなったという結果が報告されている。
 

●乳がん
 
○ピル
・避妊用のピルは、プラスマイナスの効果がある。
 プラスの効果は、女性が生涯に経験する生理の回数を減らし、その体を妊娠している状態に似せる。
 一方、ピルの主成分であるエストロゲンとプロゲステロン、乳房組織の過剰な成長を促すため、マイナスの効果となる。
 ピルの二つの効果は相殺しあい、トータルで少しリスクが増すが、ピルの服用をやめればすぐにゼロになる。
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

 

●エストロゲン減少の影響とエストロゲン補充療法
 
・エストロゲンが欠乏すると、女性の肌はコラーゲンを失って薄く、もろく、乾燥して、簡単に傷つくようになる。
・更年期直後の5年間で、コラーゲンは最大幅の減少を記録する。
・エストロゲン補充療法は更年期後の女性のコラーゲンの減少を防ぐ。
 
●エストロゲン補充療法の副作用
 
・吐き気、不定愁訴、乳房痛、特定の味覚を嫌悪する、更年期前のPMSなどがある。
・エストロゲンはトリプトファンの代謝を妨害してビタミンB6不足を招き、抑うつ、疲労感、いらいらを起こす。
 
※参考資料『テレサ・クレンショー(1998)愛は脳内物質が決める 講談社』

 

●ホルモンの影響
 
・閉経後に代用ホルモン療法を受けている女性に対する調査で、エストロゲンはうつ状態を改善できるが、逆に悪化させてしまうこともある。
エストロゲンとうつに相関関係があるからといって因果関係があるかどうかは分からない。
 
※参考資料『カトリーヌ・ヴィダル(2007)脳と性と能力 集英社』

 

●ホルモン補充療法(HRT)
 
・2002年、米国国立衛生研究所(NIH)が実施した"ウィメンズ・ヘルス・イニシアティブ"調査で、HRT療法を受けている女性の方が、そうでない人に比べて乳がんの発症率が26%、脳卒中は41%、心臓発作は29%高かった。
・イギリスの調査で、HRTを受けている女性は、認知症になるリスクが2倍になると報告された。
・ただし、短期間であれば閉経期にHRTを受けることを指示する調査結果もある。
・げっ歯類を用いた研究によって、HRTを長期間受け続けると、免疫反応の指令を出す視床下部においてエストロゲン受容体が壊れ始めることが分かっている。そして視床下部が正常に働いていないと、女性はがんなどの病気に罹りやすくなる。
・げっ歯類にエストロゲン療法を長期間実施すると、細胞の炎症が引き起こされる。細胞の炎症はアルツハイマー病のリスク因子であり、記憶障害とも関連が深い。

●HRT+運動
 
○イリノイ大学アーバナシャペーン校、アーサー・クレイマーの研究
・54人の閉経後の女性を被験者とし、MRI画像と遂行機能に関わる心理テストを行った。
・その結果、HRTを短期間受けた女性は、まったく受けたことのない人や、10年以上受けている人よりも心理テストの成績が良く、前頭前野の皮質体積も大きかった。
 さらに、有酸素運動をすると、遂行機能と脳の体積には著しい効果が見られた。
 
※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

●ホルモン補充療法(HRT)のリスク
 
・高血圧に苦しんでいる人は、エストロゲンを摂取しないように助言される。
・一部の研究者は、エストロゲン補充を受けた女性の子宮内膜がん発生率が4倍になると見積もっている。
・米国がん協会が行った24万人の女性を対象とした研究では、6年以上エストロゲンを摂取したことのある女性では卵巣がん発生の危険性が40%上昇した。
 
○乳がん
・乳がんのハイリスク女性には勧められない。
・早い初経と遅い閉経、すなわちエストロゲンにさらされる期間が長いと乳がんの危険性が増すようだ。
・ある研究では、エストロゲンを投与したところ(プロゲステロンの有無は問わない)、乳がんのリスクが30~40%上昇した事を示した。
・正常~高濃度のエストロゲンで低プロゲステロン濃度にある閉経後女性に、乳がんは発生しやすい。また、プロゲステロンなしでERTを受けている閉経後女性も同様の状況。(厳密にプロゲスチン同時投与の要素を取り除いた結果)
 
※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』

リグナン、イソフラボンなど

・胡麻や大豆など植物に含まれるリグナンやイソフラボン等は、化学構造がエストロゲンに似ている。そのため、これらを含む食品を摂取する習慣によって、体内のエストロゲンの作用が強められたり弱められたりすることで、発がんを予防したり促進したりする可能性が指摘されている。
 イソフラボンの多い大豆製品を習慣的に食べる日本人は、その作用で乳がんが少ないのではないかという仮説もある。
 
※リグナン、イソフラボンの詳細については以下の記事参照。
大豆製品、イソフラボンの健康影響
機能性食品、健康食品の健康効果の”リグナン類”

インスリン

・肥満、食べすぎや運動不足等から生じるエネルギーバランスの不均衡(摂取が消費を上回る状態)が続くと、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが弱まり(インスリン抵抗性)、それを補うためにインスリンが大量に放出される高インスリン血症という状態になる。
 そうすると、インスリンやインスリン様成長因子1(IGF1)の血中濃度が高くなる。これらの物質には、細胞増殖やアポトーシス(細胞死)の抑制という発がんにつながる作用があるので、大腸がんや前立腺がん等のリスク要因になるのではないかと考えられている。

多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス

※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●生殖関連要因やホルモン剤使用が、肺がんの発生と関係
 
・喫煙していない女性のみを対象として、女性の生殖関連要因やホルモン剤使用と肺がんの発生率との関係を調べた。
 
○初経から閉経までの期間
・既に閉経した女性について検討したところ、初経が16歳以上で閉経が50歳以下の初経から閉経までの期間が短い人と比較して、初経が15歳以下だったり、閉経が51歳以上だったりと、初経から閉経までの期間が長くなると、肺がんの発生率が2倍以上高くなった。
 
○人工的に閉経しホルモン剤を使用した場合
・自然閉経でホルモン剤を使用したことのない人と比較して、人工的に閉経しホルモン剤を使用したことのある人では肺がんの発生率が2倍以上高くなっていた。
・肺がんのうち、女性に多く喫煙と関連の弱い"腺がん"という種類のがんに限ってみても、同じような結果だった。
 
○女性ホルモンが肺がんの発生にかかわるメカニズム
・女性ホルモンがどうして肺がんに関係するのかについてはまだよく分かっていないが、エストロゲンは、肺のがん細胞の増殖を直接促進したり、肺がん細胞中にあるエストロゲン受容体に、エストロゲンがつくことによってがん化を促進したりすることにより、肺がんの発生にかかわると考えられている。
・エストロゲン受容体は男性より女性で、また男性の喫煙者に多い扁平上皮がんより女性に多い腺がんで発現が大きいといわれている。メカニズムについては、今後のさらなる解明が必要。

 

●生理・生殖要因と乳がん罹患の関連について
 
・アンケート調査(初回調査)の結果を用いて、初潮年齢や出産回数などの生殖に関連する要因によるグループ分けを行った。そして、その後約10年の追跡期間に発生した乳がんのリスクを、グループ間で比較した。
 
○初潮、閉経年齢
・閉経前女性で、初潮年齢が遅くなるほど乳がんのリスクが低くなった。
 初潮を迎えた年齢が14歳より前のグループに比べ、16歳以上のグループの乳がんリスクは約四分の1に抑えられていた。
・閉経後女性では関連がみられなかった。
・自然に閉経を迎えた女性の閉経年齢については、48歳未満のグループに比べ、54歳以上のグループでは2.0倍高くなった。
・なお、上記項目については、プロゲステロン受容体陰性乳がんでは関連がみられたが、陽性乳がんでは関連がみられなかった。また、エストロゲン受容体による違いはみられなかった。
 
○出産回数
・出産したことがないグループの乳がんリスクは、出産したことがあるグループに比べ、閉経前女性で1.7倍、閉経後女性で2.2倍、全体では1.9倍高くなった。
・出産回数については、5回以上出産したグループの乳がんリスクは、1回出産したループに比べ、閉経前・後とも約60%低く抑えられていた。
・なお、上記項目については、ホルモン受容体による違いは見られなかった。
 
○初産年齢
・閉経後女性で、初産年齢が高くなるほど乳がんリスクが高くなった。
 初産の年齢が22歳より低いグループに比べ、30歳以上のグループの乳がんリスクは2.1倍高くなった。
・閉経前女性では、関連がみられなかった。
・なお、初産年齢については、ホルモン受容体による違いは見られなかった。
 
○女性ホルモン剤の使用、母乳
・女性ホルモン剤を避妊や月経困難、閉経期などに服用したことがあるグループとないグループで乳がんリスクを比べたが、差はみられなかった。 
・出産した人が母乳を与えたかどうかでも乳がんリスクを比べたが、差はみられなかった。

 

●女性関連要因と胃がんとの関連について
 
・胃がんの罹患率は女性が男性の1/2-1/3程度と低いことから、生理や生殖など女性に特有の何らかの要因(女性関連要因)が胃がんと関連しているのではないかと推測されている。
 初潮年齢や出産回数などの生殖に関連する要因によるグループ分けを行い、胃がんにかかる危険性(リスク)との関連を調べた。
 
○全体の結果
・今回の研究では、全般的には、生理・生殖関連要因の大部分で、胃がんとの関連がみられなかった。
 
○初経
・初経年齢の遅い人(15歳以上)と比較して、初経年齢早い人(12歳以下)で、胃がんにかかるリスクが0.65倍と低下していた。
 
○閉経年齢、初経から閉経までの期間、妊娠出産回数や年齢、授乳歴
・関連はみられなかった。
 
○女性ホルモン剤
・何らかの女性ホルモン剤を使用したことがあると答えたグループでは、分化型胃がんにかかるリスクが1.7倍増加していた。
 
○肥満傾向、高身長
・BMI25以上の比較的太っている群や身長が156センチ以上の比較的背の高い群で胃がんにかかるリスクが0.6倍に低下していた。
 
○女性ホルモン、子どもの頃の栄養状況や体脂肪の影響
・今回の結果から、早い初経など一部の要因で、女性ホルモンの影響を早期に受けることが胃がんに予防的に関連する可能性が示唆されたものの、全般的には、女性関連要因は胃がんの発生に大きな影響を与えない、すなわち、胃がんの男女差は、女性ホルモンの影響によるものとは考えにくいことが示された。
・女性関連要因と胃がんが関連するとすれば、女性ホルモンによる直接の影響により予防的に作用する可能性もあるが、まず子どもの頃の栄養状況や体脂肪の量が胃がんと関連し、その結果としてそれらを反映する身長や初潮年齢との関連が表れたという可能性もある。

 

●女性関連要因と大腸がんとの関連について
 
・研究開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、生殖や女性ホルモン関連要因によるグループ分けを行い、大腸がんにかかる危険性(リスク)との関連を調べた。
 
○全体の結果
・今回の研究では、全般的には、生殖・女性ホルモン関連要因の大部分で、大腸がんとの関連がみられなかった。
 
○初産年齢
・初産年齢の低い人(22歳以下)と比較して、初産年齢の高い人(30歳以上)で、結腸がんにかかるリスクが低下する傾向がみられた。
 また直腸がんでは、特に関連はみられなかった。
 
○女性ホルモンと大腸がんとの関連
・今回の研究から、遅い初産などで結腸がんの罹患リスクが低下する可能性が示唆されたものの、全般的には、生殖・女性ホルモン関連要因は大腸がんの発生に大きな影響を与えているとはいえない結果となった。
・ホルモン剤など体外由来の女性ホルモンはインスリン様成長因子を抑制することにより、あるいは、循環する胆汁酸量を低下させることにより、がん化を抑制し、あるいは、がんと診断された後の生存率を改善する可能性が示唆されている。
・体内エストロゲンは胆汁酸の産生を増加させるが、プロゲステロンはその産生を低下させるという説もある。
・上記のように、危険因子、予防因子の両説があり、結果的に、生殖・女性ホルモン関連要因と大腸がんとどのように関連するのかについては、過去の疫学研究結果も一致してない。

 

●女性関連要因と甲状腺がん罹患との関連について
 
・甲状腺がんは女性に多く、また、若い年代での罹患が比較的多いことから、生理や出産歴など女性特有の何らかの因子が関連している可能性が考えられている。
 動物実験では、エストロゲンが甲状腺がんの増殖を促がすことが報告されているが、ヒトを対象とした疫学研究からは一致した報告が得られていない。
・この研究では、研究開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、初経年齢や出産回数などの女性関連要因によるグループ分けを行い、甲状腺がんに罹患するリスクとの関連を評価した。
 
○全体の結果
・女性全体で解析した時には、女性関連要因と甲状腺がんとの関連は明らかではなかった。
 
○閉経と初経の影響
・閉経の有無で2つのグループに分けて解析。
・閉経前女性では、初経年齢が13歳以下と比べて、16歳以上と高いと、甲状腺がんのリスクが0.58倍と低くなり、1歳増加するごとのリスクは0.83倍、と統計学的に有意に低くなった。
・閉経後女性では、閉経年齢が47歳以下と比べて、54歳以上と高いと、統計学的有意ではないが、2.26倍リスクが高くなった。
・初経から閉経までの期間は、短い(30年以下)女性と比べて、長い(36年以上)女性でリスクが高い傾向があった。
・閉経年齢が高いこと、初経年齢が早いことは、ともにエストロゲンにさらされる期間が長いことを間接的に示しており、エストロゲンが甲状腺がんと関連があるという動物実験の結果も支持している。

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