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- 認知症のタイプ
- アルツハイマー病の概要
- アルツハイマー病の病変、原因
- アルツハイマー病のステージ
- アルツハイマー病のリスク因子
- 家族性アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症の概要
- 前頭側頭葉変性症(ピック病)の概要
- 脳血管性認知症の概要
- 認知症と遺伝
- MCI(軽度認知障害)
- 認知症の診断、検査
- 認知症の薬
認知症のタイプ
○アルツハイマー型 ・最も多く、全体の約半数を占める。 ・脳に特殊なタンパク質が蓄積し、記憶を司る海馬を中心に、広範囲に萎縮する。 ○レビー小体型 ・レビー小体という異常構造物が、脳幹や大脳皮質全体に出現。 ・認知機能の低下とともに、幻視や運動障害が現れる。 ・パーキンソン病との関連が深い。 ○前頭側頭葉変性症 ・前頭葉と側頭葉前部の神経細胞が変性。 ・人格変化や反社会的行動が現れる前頭側頭型認知症が特に多い。 ○脳血管性認知症 ・生活習慣病対策の結果、減少傾向にある。 ・脳の血管障害がもとで起こる認知症の総称。 ・脳梗塞が原因となることが多く、梗塞ができてから半年以内に発症することが多い。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
●認知症のタイプ ・アルツハイマー型 ・脳卒中が関連するタイプ 脳の辞書である側頭葉への血液の流れが遮断されると、話せても言葉が理解できなくなる。前頭葉で起こると話せなくなるが、人の話は理解できる。 ・パーキンソン病と関連するタイプ ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
アルツハイマー病の概要
○概要 ・病理変化は、脳の萎縮、老人斑、神経原繊維 ・海馬を中心に、側頭葉、頭頂葉が萎縮。 海馬の萎縮→記憶障害 側頭葉、頭頂葉の萎縮→時間や場所、人物が認識できなくなる見当識障害 ○遺伝の影響 ・ほとんどは、家族的な遺伝ではない、孤発性。 ・ApoEというリスク遺伝子のε4型を持つ人は、発症が10年早まると言われている。 ○病理の進行 ・海馬やそれを取り囲む海馬傍回などの大脳辺縁系が高度に萎縮する。 ・側頭葉内側全体、さらに前頭葉へと広がることが多い。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
アルツハイマー病の病変、原因
●神経伝達物質 ・アセチルコリンは認知機能を保つ働きをもっていて、この神経伝達物質が関与している。 ・アセチルコリンを伝達物質とするニューロンを、コリン作動性ニューロンといい、コリン作動性ニューロンは、海馬周辺から大脳皮質にかけて広く分布している。 ・アルツハイマー型では、脳内のアセチルコリン濃度が低下するとともに、コリン作動性ニューロンが強く障害される。 ●老人斑 ・アミロイド線維が神経細胞外に蓄積したものを老人斑と呼ぶ。 ①神経細胞同士の接合部(シナプス)の隙間(シナプス間隙)にアミロイドβが存在 アミロイドβはシナプス機能を調節する働きを持ち、通常は一定濃度に保たれている。 ②老化などでアミロイドβの産生と除去のバランスが崩れる ③アミロイドβが過剰になる ④アミロイドβの分子が結合して、アミロイドβオリゴマーを形成。 アミロイドβオリゴマーは神経細胞に対して強い毒性を持つ。 ⑤細胞はアミロイドβオリゴマーの毒性を緩和するために、大量のアミロイドβ分子を結合し、線維状のアミロイド線維を形成。 ⑥このアミロイド線維が神経細胞外に蓄積したものが老人斑。 ⑦老人斑が大量にできると、周囲の神経細胞が脱落する。 ⑧神経細胞の減少により大脳皮質が萎縮。 ●神経原線維変化 ・神経細胞内にタウタンパクが蓄積。 タウタンパクは、細胞の形の保持や運動に関与する微小管の構成要素で、微小管を安定化させる役割を持つ。 ①タウタンパクが過剰にリン酸化。 ②微小管が不安定になって壊れてしまう。 ③リン酸化したタウタンパクは、神経細胞内で線維状に凝集して蓄積する。→神経原線維変化 ④神経細胞は機能障害を起こし、やがて死に至る ●アミロイドカスケード仮説 ・アミロイドβの蓄積 →老人斑が形成 →そこにリン酸化されたタウタンパクが加わる →神経原線維変化 →神経細胞がさらに傷害され、神経細胞死を引き起こす。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
●アルツハイマー病の脳の病変 ・脳の萎縮、老人斑、神経原線維変化 ●老人斑 ・老人斑の中心にある物質はアミロイドというタンパク質。 ・アミロイドとは体内の様々なところに沈着するタンパク質の呼び名。 ・老人斑のアミロイドは、アミロイドβペプチド。 ・ダウン症患者の様々な年代の死後脳が調べると大脳皮質では老人斑は30歳代から見られたのに対して、神経原線維変化は40歳以降で起きていた。老人斑の方が先に生じる病変。 ・アミロイドβが蓄積するか否かは産生と分解のバランスで決まる。 →アルツハイマー病の患者の脳ではアミロイドβの産生速度は変わることはなく、加齢によって少しずつ分解の働きが低下し、分解が遅くなっている。 ●神経原線維変化 ・直径約10nmの2本のフィラメントがらせん状により合わせっている線維(PHF:paired helical filament)の集合体。 ・この神経原線維変化の構成成分は"タウ"というタンパク質で、このタウが異常蓄積したもの。 ・タウは、神経細胞の中の物質輸送に欠かせないタンパク質で、微小管(細胞骨格に一つでタンパク質の輸送におけるレールの役割)に結合したり、離れたりして微小管の安定性を調整する。 ・神経原線維変化の状態では、タウがリン酸化し、微小管から離れ、固まって、さらに"ユビチキン化"という異常が起きて分解しにくいPHF構造になり、細胞の中に蓄積している。 ※参考資料『西道隆臣(2016)アルツハイマー病は治せる、予防できる 集英社』
●「大脳皮質の特異な疾病について」 ・脳の広い範囲に萎縮。損傷を受けて細胞が死に、組織が縮んでしまった状態。 ・神経細胞が"繊維がからみあった"状態に変質。神経原繊維変化。タウというたんぱく質。アルツハイマー病になると異常な形のタウがたくさん出来て、神経細胞の連絡経路が破壊され、栄養がもらえなくなり死んでしまう。 ・神経細胞の周囲に出来る、病理学的な代謝生成物。プラーク。 ・プラークのもとは、βアミロイドというたんぱく質で、アルツハイマー病になると固まって沈着してしまう。 ・アテローム動脈硬化。脳の動脈が硬くこわばっている状態。 ●アミロイド・カスケード仮説 ・βアミロイド前駆体たんぱく質(APP)の切り分けを間違う →生成されたβアミロイドがくっついてプラークを作る。 →このプラークが神経細胞に悪さする。 →このとき起こる化学反応が神経原繊維変化を招く ※参考資料『デヴィッド・スノウドン(2004)100歳の美しい脳 DHC』
●アセチルコリンが低下、コリン仮説 ・記憶に関わる神経伝達物質と言われるアセチルコリンの量が異常に低下していた。 ・"コリン仮説"は、アセチルコリンの減少がアルツハイマー病発症の原因で、それを防ぐために脳のシナプス間隙にあったアセチルコリンを分解する酵素、アセチルコリンエステラーゼを阻害する物質を見つけ出せばアセチルコリンは分解されず、その減少を抑えられる、という仮説。 ・アリセプト(ドネペジル塩酸塩)は、アルツハイマー病の進行を遅らせる。副作用も少ない。 ●βアミロイドというタンパク質が沈着 ・βアミロイドは若い頃から誰にでも生成されるが、インスリン分解酵素によって体外に排出されている。 本来はインスリンを分解する酵素だが、いろいろな物質を分解しており、インスリンが少ないときには、βアミロイドなど他の物質も分解している。 →高血糖、インスリン抵抗性で高インスリン状態になるとインスリン分解酵素はインスリンを分解するのに追われて、脳にたまったβアミロイドの分解が少なくなり、次第に沈着する量が増えてしまう。 ・βアミロイドの蓄積が増えて凝集すると神経細胞に絡みついて死滅させる毒性を持つ。老人斑(βアミロイド凝集塊)というシミ。 ・認知症が発症する10~20年前に、脳の表面に老人斑が現れ、MCIへと移行。 ●タウ仮説 ・MCIを発症する3~5年前に、脳の連合野に"リン酸化タウ"と呼ばれる物質が蓄積し、脳神経の原線維変化と呼ばれる繊維状の塊ができ、これが蓄積されると毒性を発し、凝集することによってやがて神経線維が死滅していく。 ・βアミロイドの凝集による毒性とリン酸化タウ蓄積の両方が合わさってアルツハイマー病が発症すると考えられている。 ・βアミロイドの蓄積から、5~10年後にタウの蓄積が始まる。 ●脳の老化 ・老化には個体差があり、運動、栄養、ストレスの解消などで食い止め、βアミロイドの蓄積を防いでくれる貪食細胞の機能を維持するのが重要。 ※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』
・アルツハイマー病の患者では、貫通線維路(神経突起を経由しながらリレー式に伝わっていく経路)が海馬を貫通する領域に大量の神経毒βアミロイドが含まれ、感覚情報の伝達を妨げる。 その領域では、神経末端の萎縮と脱落が始まっており、貫通線維路は事実上、断たれている。 神経末端が脱落すると、その根元にあたる嗅内皮質の神経細胞も間もなく死滅する。なぜなら、頼みの綱となる増殖因子(細胞の生存を支えるタンパク質)は、新たに伸びていく神経末端には集まるが、毒素により脱落した神経末端には寄り付かないから。 こうなると短期記憶を獲得することも学習することもできず、認知症が始まる。 ・神経細胞の大量破壊がみられる領域でも生存する近隣の神経細胞が新たな突起を発芽し、失われた神経細胞の埋め合わせを開始することもできる。 ※参考資料『ディーパック・チョプラ(2014)スーパーブレイン 保育社』
アルツハイマー病のステージ
●ドイツ ブラーク夫妻 ・神経原繊維変化が脳のどこで起こっているかでステージ1から6に分ける。 ・アルツハイマー病は思春期からすでにはじまっていて、50年以上かけてステージ1から進行していく。 ・ステージ1,2 神経原繊維変化が嗅内皮質。22%が認知症。 ステージ3,4 海馬に広がる。43%が認知症。 ステージ5,6 新皮質に到達。70%が認知症。 ・神経病理学的な変化が言語能力を損ねるのか?それとも言語能力の低さが人生後半になってプラークや神経原繊維変化を加速させてしまうのか? ※参考資料『デヴィッド・スノウドン(2004)100歳の美しい脳 DHC』
●認知症を進行させる要因 ・構造上はアミロイドβというタンパク質が沈着するとされているが、高齢者の認知症を進行させる大きな要因は"骨折"と"脳卒中"。骨折や脳卒中などで長い間、寝たきりになって体を動かさなくなると、明らかに認知症の発症が加速される。 ※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』
●アルツハイマー病の症状の進行 ○記憶と嗅内野 ・記憶情報の信号は、海馬への入出力時に嗅内野を通る。 ・嗅内野は記憶や学習に必須の場所。 ○アルツハイマー病と嗅内野 ・アルツハイマー病で最初に神経細胞死が起きるのは、嗅内野のあたり。 ・嗅内野で神経細胞死が起きると信号の受け取り、送り出しがうまくいかなくなる。 →続いて神経細胞死は海馬に及び、近時記憶は作られにくくなり、遠隔記憶の送り出しにも支障が起きる。 →見たこと、聞いたことが覚えられない、新しいことを覚えられないといった記憶や学習の障害が起きる。 ○初期症状 ・嗅内野-海馬が損傷されると、新たな記憶が作られにくくなる。 →さっきのこと、少し前の出来事は覚えていない。 ・一方、即時記憶は使うことが出来、大脳皮質に保管されている遠隔記憶の想起はできる。 →その場で見聞きした状況は言葉に出来て会話は成立するし、昔のことを思い出すこともできる。 ○症状の進行 ・アルツハイマー病変と神経細胞死は海馬のあたりからその周辺へと広がり、さらに大脳外側の領域へと広がっていく。 ・側頭葉の遠隔記憶の保管場所が冒されると、近い記憶から順に記憶が失われる。 言葉の障害(失語)、時間や場所の混乱(見当識障害)も側頭葉のそれぞれの機能を担う部位の神経細胞死から起きる。 ・神経細胞死が頭頂葉に及ぶと、空間認識の障害、まとまった動作や作為ができない(失行)といったことが起こる。 ・後頭葉で神経細胞死が広がると、物や人を見ても、何か分からない、誰か分からない(失認)という症状も出る。 ・知的な活動を生む前頭葉に神経細胞死が及ぶと、さらに症状が悪化する。 →目的に向けて段取りをし、手順を踏んでやり遂げることができないという実行機能障害が生じ、仕事や家事が、複雑なことから出来なくなる。 →さらに失行などほかの認知症状とあいまって、入浴や着替え、食事等、ごくあたりまえの動作もできなくなっていく。 ○症状が冒されにくい部位 ・大脳以外の間脳、脳幹、小脳などは、かなり重度になるまで冒されることはなく、それらの脳の各部位が担う機能は保たれている。 →そのため消化器、呼吸器、循環器などの生命維持に必要な働きや運動器の働きは損なわれずにいる。 ・記憶に関しても、楽器を弾く、自転車に乗る、慣れ親しんだ道具を使うといった"体が覚えている記憶"、"手続き記憶"は障害されない。こうした"意識されない記憶"には、海馬-大脳皮質ではなく、小脳が大きく関わっているため。 ※参考資料『西道隆臣(2016)アルツハイマー病は治せる、予防できる 集英社』
●症状の進行 ①発症前期(MCI) ・物忘れ ・周辺症状:不安、抑うつなど。 ②1期(初期) ・記憶障害(近時記憶障害) ・実行機能障害(日常行為の手順が分からなくなる) ・時間の見当識障害(日時などが分からなくなる) ・判断力障害 ・周辺症状:アパシー(やるき、自発性の低下)、取り繕い反応、物盗られ妄想など ③2期(中期) ・記憶障害(遠隔記憶障害) ・場所、人物の見当識障害(今いる場所や相手が誰なのかが分からなくなる) ・失認・失行・失語(対象の認識、簡単な行為、言語使用に関する障害) ・周辺症状:鏡徴候(鏡に映った自分が分からない)、徘徊・迷子、興奮・多動想など ③3期(末期) ・記憶障害(記憶全般の障害) ・人格の変化 ・失外套症候群(寝たきりで行動・発話がない) ・周辺症状:不潔行為など ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
家族性アルツハイマー型認知症
●家族性アルツハイマー型認知症 ・遺伝性の家族性アルツハイマー型認知症は約1%。 ・発症年齢が若いのが特徴。 ・原因遺伝子としては、APP、PSEN1(プレセニリン1)、PSEN2(プレセニリン2)の3つが同定されている。これらの遺伝子の変異は、アミロイドβの凝集性を高めたり、産生量を増やしたりする。 ダウン症候群の発症原因にも、APP遺伝子が関与している。そのためダウン症候群では、若年性のアルツハイマー型認知症を発症することが知られている。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
●若年性アルツハイマー病 ・全体の5~10%。 ・ダウン症患者のほぼ全員が50歳までにプラークや神経原繊維変化が広範囲に見られるようになる。 ・βアミロイド前駆体たんぱく質を作る遺伝子は、第21染色体上にある。 ※参考資料『デヴィッド・スノウドン(2004)100歳の美しい脳 DHC』
レビー小体型認知症の概要
○概要 ・脳幹、大脳皮質にレビー小体が蓄積する。 レビー小体は、嗅覚を司る嗅球や、脳深部の脳幹から出現し、大脳皮質へと広がる。 一次視覚野の皮質でもレビー小体が増加→幻視、視覚性記憶の障害 ・レビー小体は、パーキンソン病では脳幹だけに出現する。 ・レビー小体だけが現れる症例はまれで、ほとんどは老人斑や神経原線維変化などのアルツハイマー型の病変をともなう。 ・脳の萎縮は軽く、記憶障害以外の症状が目立つ。初期には幻視が多く、進行するとパーキンソニズム(四肢の動きがこわばり、転びやすくなる)が悪化。 ○神経伝達物質 ・パーキンソン病ではドーパミン、アルツハイマー型ではアセチルコリンが減少するが、レビー小体型では、その両方が減少する。 ○レビー小体 ・レビー小体の主成分は、αシヌクレインというタンパク質で、神経伝達物質の放出に関与すると言われている。 ・αシヌクレインは、神経細胞内だけでなく、神経細胞の突起やシナプスにも大量に蓄積する。 神経細胞に対する毒性をもっているため、神経細胞を死滅させてしまう。その結果、神経ネットワークの損傷を引き起こし、認知機能の低下をきたす。 ・老人斑が広い範囲で合併する。 このことから、αシヌクレインとアミロイドβは、相互に関連していると考えられる。動物実験では、アミロイドβがαシヌクレインの蓄積を促すことが確認されている。 レビー小体は、先に現れた老人斑を封じ込めるためにできたものだという仮説もある。 ○パーキンソン病との関連 ・どちらもαシヌクレインの蓄積を原因とし、脳幹から病変が現れればパーキンソン病となり、大脳皮質に病変が広がると、認知症を合併する。 一方、大脳皮質の病変が先に出現した場合は、レビー小体型認知症として発病する。数年のうちに、脳幹にも病変が広がり、パーキンソン症状を伴う。 ○発症リスク ・70代、80代に多い。 ○遺伝 ・ほとんどが遺伝とは関係なく発症する孤発性。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
前頭側頭葉変性症(ピック病)の概要
○概要 ・前頭葉と側頭葉前部が変性する認知症の総称。 ・臨床的な疾患名であり、統計上、アルツハイマー型と重なっていることもある。 ○ピック病 ・前頭葉や側頭葉の萎縮を示す、進行性の認知症。 ・アルツハイマー型とは異なり、老人斑や神経原線維変化は少ない。 ・変性した神経細胞内には、リン酸化したタウタンパクを主成分とする異常構造物が出現する。これをピック球(またはピック小体)と呼んでいる。 ピック病の約半数にみられる。 ・前頭葉によるコントロールがきかなくなり、人格の変化や反社会的な行動が強く現れる。 ・アルツハイマー型とは異なり、海馬は比較的保たれ、記憶障害は軽度のことが多い。 ○発症リスク ・40~50歳代と若い年代で発症することが多い。 ○遺伝 ・ほとんどが遺伝とは関係なく発症する孤発性。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
脳血管性認知症の概要
○概要 ・生活習慣病が原因で脳血管が閉塞したり、破れたりするのが脳血管障害で、それにより生じる認知症を脳血管性認知症という。 ・脳梗塞によるものが多く、ラクナ梗塞が一番多い。 ・症状は、障害された部位によって異なるが、アルツハイマー型と異なり、新しいことを覚える記銘力は保たれていることが多い。 ・脳血管障害の再発のたびに悪化し、症状が階段状に進行。 ○発症リスク ・60歳以上の男性に多い。 ・脳血管障害は動脈硬化が基礎にあって起こる。 ・最大の危険因子は加齢で、それ以外に動脈硬化の進行を加速させるものとして、高血圧、糖尿病、脂質異常性などの生活習慣病がある。なかでも高血圧が重要な危険因子と考えられている。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
認知症と遺伝
・アポEとは脂質の運搬に関わる特殊なタンパク質の一つ。 ・アポEが老人斑や神経原線維変化にも含まれている。 ・特定のタイプの遺伝子のアポEは、アルツハイマー病の最も重要な危険因子だと分かった。 ・アポEには、アポE2、E3、E4の3つの型があり、アルツハイマー病患者の多くはこの型だった。アポE4を持つ人でもアルツハイマー病患者もたくさんいる。逆にアポE4を持たないアルツハイマー病患者もたくさんいる。 ・アポE4の遺伝子はアルツハイマー病のリスク遺伝子ではあるが、原因遺伝子ではない。 ・アポE4はアルツハイマー病の上流に関わってアミロイドβの蓄積や凝集を促進させていると考えられている。 ※参考資料『西道隆臣(2016)アルツハイマー病は治せる、予防できる 集英社』
・特定のアポリポタンパクE(ApoE)を持っている人は高確率で発病。 ・ApoE4という遺伝子型を両親のどちらかから受け継ぐとリスクが3倍。両方から受け継ぐと8倍。 ・プラーク形成には3つの遺伝子が関与(APP、第14染色体のプレセニリン、第1染色体のプレセニリン2) ※参考資料『デヴィッド・スノウドン(2004)100歳の美しい脳 DHC』
・認知症にかかりやすいかどうか、特に発症年齢は、遺伝的要員にかなり影響される。 ・"危険因子"や"防御因子"として十数の遺伝子が特定されていて、そのひとつがApoE遺伝子。 ・ApoEの"危険型"のコピーを二つ持っている人は、"防御型"を持っている人に比べ、平均発症年齢が15年ほど早い。 ※参考資料『サンドラ・アーモット,サム・ワン(2009)最新脳科学で読み解く脳のしくみ 東洋経済新報社』
・アポリポタンパク質E4変異体を始め、アルツハイマー病の発病に関係している遺伝子は多い。 ・アポE4変異体は、アルツハイマー病患者のおよそ40%がその保有者だが、全人口の30%もそれを保有している。 ※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』
MCI(軽度認知障害)
・正常なもの忘れと認知症の中間に位置し、放置すれば5年間で約半数、1年間でも10~15%が認知症に移行するといわれている。 ※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』
・軽度の記憶障害はあるが、一般的な認知機能は問題がなく、日常生活にも支障のない状態。 ・高い確率で認知症に進行することが明らかになっている。 ・MCIと診断されても、認知機能が元に戻り、のちの検査で正常と判定される人もいる。 ・脳は可塑性があり、神経細胞のネットワークのある部分が使えなくなっても、他のネットワークにつなぎかえることが出来るので、認知機能が元に戻ることも可能。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
認知症の診断、検査
●PETと呼ばれる脳の画像診断装置を用いたブドウ糖代謝診断 ・脳の神経細胞の活性が低下し、大脳辺縁系から側頭頂皮質において、ブドウ糖の代謝障害が起きているなどの兆候を発見する。 ●脳脊髄液を調べる ※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』
○改訂 長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) ・高齢者の認知機能障害の発見を目的とする。 ・口頭の質問に対し、口頭で答える形式で行う。 ・国際的に広く用いられているMMSEと比べても相関性が高く、被験者のプライドを傷つけにくいとされている。 ○時計描画検査(CDT) ・前頭葉機能を反映し、特にアルツハイマー型認知症の発見に有用。 ・難聴等で、HDS-Rが困難なときにも役立つ。 ○CT検査(コンピュータ断層撮影法) ・検査時間は30秒~5分程度と短く、被験者の身体的負担が少なくてすむ。 ・画像検査の中ではコストが低い。 ・脳の形状、萎縮度を調べる。 ○MRI検査(磁気共鳴画像診断法) ・CTよりも形態学的変化が鮮明に写り、様々な角度の断面が得られる。 ・検査時間は30分~1時間ほどと長く、被験者の負担は少なくない。 ○SPECT検査(単一光子放射断層撮影) ・特殊な放射性医薬品を用いて、脳の血流状態を画像化する。 ・CTやMRIが脳の形態学的変化をとらえるのに対して、脳の機能的変化を調べる。 ・PET検査よりも実施施設が多く、健康保険も適用されている。 ・アルツハイマー型では、MCIの段階から、特定部位の血流低下が見られ、早期診断に役立つ。 その他のタイプの認知症でも、脳が萎縮する前に特徴的な血流低下が現れることが多く、鑑別に有効だと考えられる。 ○PET検査(陽電子放射断層法) ・脳の糖代謝を調べることで、活動性が低下している部位が分かり、認知症の早期診断やタイプ判定に役立つ。 ・日本では健康保険適用外で実施施設が限られている。 ・アミロイドイメージング(アミロイドPET)もその一つで、従来、死後剖検でした分からなかったアミロイドβの沈着状態を画像化する。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
認知症の薬
●アルツハイマー病の進行を抑える薬 ○コリンエステラーゼ阻害薬 ・ドネペジル(商品名:アリセプト) ・アルツハイマー病の進行を1年程度遅らせることができると言われていて、その後も進行を緩やかにすると言われている。 ・ガランタミン(商品名:レミニール) ・コリンエステラーゼ阻害作用のほかに、アセチルコリンの放出を増やすカルシウムイオンなどに作用するニコチン受容体を刺激する作用も持つ。 ・ドネペジルよりもアルツハイマー病の進行を抑制する期間が長いという報告がある。 ・リバスチグミン(商品名:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ) ・アルツハイマー病の脳では、脳の深部、大脳基底核のアセチルコリンを産生する神経細胞が減少していることが分かった。これがアルツハイマー病の原因だという説がある。(アセチルコリン仮説) ・アセチルコリンは、脳内では記憶や思考、学習に関わる神経伝達物質。 ・アセチルコリンが減少しているアルツハイマー病の脳では、分解酵素コリンエステラーゼが正常に働くと、次の神経細胞に到達して受容体に結合するアセチルコリンが少なくなり、情報伝達に支障が生じる。 →分解酵素の働きを止めることができれば、受容体に結合するアセチルコリンが増え、結果としてアセチルコリンを補充するのと同様の効果を期待する薬。 ○NMDA受容体拮抗薬 ・メマンチン(商品名:メマリー) ・グルタミン仮説に基づく薬。アルツハイマー病の脳では常にグルタミン酸が過剰に放出されていて、そこで記憶の生成に異常が生じ、同時にグルタミン酸を放出する神経細胞を破壊する。 さらに、グルタミン酸の受容体の一つであるNMDA受容体が常に刺激され続けることで、情報の受け手側の神経細胞も傷害を受けて脱落する、これによってアルツハイマー病が起きるというのがグルタミン酸仮説。 ・メマンチンは、NMDA受容体に結合し、受容体がグルタミン酸に持続的に刺激され続けることを防ぎ、神経細胞の脱落を防ごうとする。 ○下流の病理に対応する薬 ・下流では神経伝達物質の分泌異常のほかにも特徴的な病理が現れる。 →アルツハイマー病の脳では炎症が起きていて、組織障害の原因となる過酸化脂質を生み出したり、タンパク質を変性させたり、DNAの損傷等を引き起こすフリーラジカルが増えて酸化ストレスが高くなっている。 ・神経細胞の発生や成長、維持、修復などに働き、神経細胞を保護するBDNFなどが減少することもある。 ・上記に対して、炎症を抑える薬や酸化ストレスを軽減する薬、神経細胞の成長因子の働きを強める薬など、進行を抑える薬が出来る可能性がある。 ●アルツハイマー病を治す薬 ○タウをターゲットとした薬 ・アミロイドβの蓄積が主要なストレスとなってある種の神経炎症が発生し、タウの異常凝集が引き起こされると考えられている。 ・神経原線維変化が現れている部位では、その部位が担う認知機能の低下が見られる。老人斑と認知症にそうしたはっきりした相関は見られない。タウは異常凝集の過程で毒性を持ち、神経細胞を死滅させていくと考えられている。 ○ネプリライシン活性化 ・正常な脳では、アミロイドβは常に産生されているが、ネプリライシンによって速やかに分解され、蓄積することはない。 ・加齢とともにネプリライシンの活性は低下する。 ・アミロイドβが蓄積する原因は、分解システムの機能低下、加齢に伴うネプリライシンの活性低下であると考えられる。 ・ネプリライシンはアミロイドβを分解するだけではなく、毒性を発揮してアルツハイマー病を進行させるアミロイドβオリゴマーをも分解することができる。 ・ソマトスタチンという神経ペプチドがネプリライシンの活性を増加させることが見出された。 ・ソマトスタチンが加齢とともに減少 →ネプリライシンの活性低下 →アミロイドβやアミロイドβオリゴマーの分解の低下 →アミロイドβの蓄積やアミロイドβオリゴマーの形成 →アルツハイマー病 ・アルツハイマー病の患者ではソマトスタチンが顕著に低下しているという報告もなされている。 ※参考資料『西道隆臣(2016)アルツハイマー病は治せる、予防できる 集英社』
●アリセプト ・アセチルコリンは、ある種の神経細胞が情報伝達するのに使用されるが、アルツハイマー病になると急激に減少してしまう。アリセプトはアセチルコリンの分解を遅らせる。 ・アリセプトを投与しても認知機能の衰えが多少先延ばしになる程度で、プラークや神経原繊維変化、脳の萎縮を招く組織破壊を防げるわけではない。 ※参考資料『デヴィッド・スノウドン(2004)100歳の美しい脳 DHC』
●コリンエステラーゼ阻害薬 ・アセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)の働きを阻害し、記憶・学習に関わるアセチルコリンの濃度を保つ。 ○ガランタミン(レミニール) ・アセチルコリンエステラーゼ阻害+ニコチン性アセチルコリン受容体への作用 ・陽イオンの流入量を増やし、アセチルコリンの放出量を増大させる。 ○リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロン) ・アセチルコリンエステラーゼ阻害+ブチルコリンエステラーゼ阻害 ・アセチルコリンを分解するブチルコリンエステラーゼをブロック。 ●NMDA受容体拮抗薬 ○メマンチン(メマリー) ・アルツハイマー型認知症では、記憶・学習に関わるグルタミン酸神経系が過剰に活性化し、神経細胞を傷つけている。 メマンチンは、通常時はNMDA受容体に結合してグルタミン酸の過活動を抑え、神経細胞を保護。一方、記憶や学習に関わる情報が届いたときは、受容体から解離するため、適切に情報を取り込める。 ※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』
●認知症に関する薬 ・認知症の薬に関する論文の大半は調査期間が半年間。 ・半年以上を継続したデータについてはほとんどない。"ドネペジル"という世界で最も使われている薬については3年間追跡したデータがあるが、3年目にはプラセボと比べて違いがなくなっていた。ドネペジルはアルツハイマー病を治すわけではなく、一定の期間、進行を遅らせているだけと思われる。 ・ドリルをする、運動をしながら計算する、ココナッツオイルの摂取など、いろいろ効果があったと言われている療法があるが、長期に渡って追跡したものではない。ある一定期間、進行を遅らせただけかもしれない。 ※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』