コレステロールの概要

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  1. コレステロールの概要
  2. コレステロールと細胞膜
  3. ホルモンとコレステロール
  4. コレステロールの合成
  5. コレステロールの運搬の概要
  6. リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(1)リポタンパク質とアポリポタンパク質
  7. リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(2)肝臓から血液中へのリポタンパク質の運搬サイクル
  8. リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(3)食事から摂取したコレステロールの処理
  9. VLDL(超低比重リポタンパク)とカイロミクロン
  10. HDL、LDL、中性脂肪の検査値と病気発症リスク
  11. 更年期以降の女性のコレステロール値


コレステロールの概要

・コレステロールという物質は、炭素原子27個、水素原子46個、酸素原子1個からなる、分子量約387の物質。ステロイド核と呼ばれる複雑な構造を基本骨格として持ち、水酸基を1つ持つ、一種のアルコール。
 
・コレステロールは、脳神経や筋肉の働き、細胞膜やホルモンの生成に不可欠な物質。
 
・コレステロールは体内(肝臓)で合成されるが、一部は食事からも取り入れられている。
 卵には、1個にコレステロールが約250mg含まれているが、食事から摂取するコレステロールは体内で作られるコレステロールの1/7~1/3とわずかしかないことが知られている。
 食事から摂取するコレステロールが少ないと、体内で作られるコレステロールが増加し、逆に多く摂取すると体内で作られるコレステロールは減るため、食事からのコレステロールがそのまま血液中のコレステロール値に反映されるわけではない。
 
・体内で合成された(又は食事から吸収された)コレステロールは、LDL(低比重リポタンパク)によって必要としている細胞組織に運ばれる。
 そこで利用されなかったコレステロールは、HDL(高比重リポタンパク)によって肝臓に戻る。
 食事からコレステロールを多くとると、血液中のLDLの量が特に増えて、HDLとのバランスが崩れ、細胞組織に運ばれるコレステロールが過剰となり、それらが血管の壁にたまることで動脈硬化を引き起こす要因となると考えられている。
 
※農林水産省/脂質による健康影響

 

・脳や神経組織、肝臓等に広く存在している。
・細胞膜の構成成分、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、胆汁酸、ビタミンD前躯体の原料。
・体に必要なコレステロールの約8割は体内で合成されている。
・食事からの摂取量が多いと、体内での合成量が減るように調節されている。
 
※参考資料『中村丁(2015)次栄養の基本がわかる図解事典 [2015] 成美堂出版』

コレステロールと細胞膜

・細胞膜や細胞内にある核、リボゾーム、ミトコンドリア、ゴルジ体などは、すべて油の膜で囲まれていて、その内部に存在する水にいろいろなタンパク質や酵素が含まれている。膜を作る脂質は中性脂肪ではなく、リン脂質と呼ばれる脂質。
 
・膜はリン脂質二重層と呼ばれる構造となっていて、隙間なく並んだリン脂質が疎水性部分を内側に、親水性部分を外側に向けて二重の層となっている。膜の表面は親水性をもち、内部は脂肪酸に満ちて細胞の内外を遮断する障壁の役目をもっている。
 リン脂質と共に、この脂質二重層を構成している物質がコレステロール。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

ホルモンとコレステロール

・コレステロールは性ホルモンの原料となっている。原料のコレステロールが、精巣では男性ホルモンに、卵巣では女性ホルモンに加工されている。
 
・副腎皮質は、コレステロールを原料として副腎皮質ホルモンを生成し、血液の中に分泌する。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

コレステロールの合成

・酢酸を出発点として、体の中で合成される。酢酸は、体内でブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸を原料にして供給される。
 コレステロールは、実際には酢酸が加工されやすい状態にあるアセチルCoA(活性酢酸とも呼ばれる)という物質を出発点として、20以上の工程を経て合成される。
 このコレステロールの合成系をすべての細胞が持っているが、通常コレステロールを作っているのは肝臓の細胞で、全身の細胞は肝臓が合成して血液が運んできたコレステロールを取り込んで利用している。
 
・細胞はコレステロールを分解する酵素を持っていないので、余ったコレステロールは細胞外に放出して、血液に戻されて肝臓に運ばれる。
 
●肝臓での処理
 
・肝臓は、血液中のコレステロールを肝臓の細胞内に取り込み、コレステロールを原料として、胆汁酸を作る。
 胆汁酸と加工されずに残ったコレステロールは、肝臓から胆汁の一部として胆管の中に分泌され、その後、胆汁は小腸へ送られる。
 その後、一部は大腸に向かって送られ、残りは再び小腸の先のほうから吸収されて肝臓に戻る(腸肝循環)。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(1)リポタンパク質とアポリポタンパク質

●コレステロールとコレステロールエステル
 
・コレステロールは水酸基を持っていて、アルコールの一種。
 コレステロールは、リン脂質と一緒になって膜の中に存在することはできるが、血液中を運ばれる際は、表面に水酸基があると不安定なので、脂肪酸と結合してコレステロールエステルとしてリポタンパク質によって血液中を運ばれる。
 
・細胞がコレステロールを利用する際には、水分子がエステル結合に入り込んで、脂肪酸とコレステロールを分離する。
 
●リポタンパク質
 
・リポタンパク質は、脂質とアポリポタンパク質が結合したもので、血液中において水に不溶な脂質を運搬する。
 脂質を血漿中に安定に存在させるには、タンパク質(アポタンパクと呼ぶ)と結合させる必要がある。
 
・リポタンパクは、トリグリセリド(中性脂肪)および、細胞の生命維持に不可欠なコレステロールを多く含む球状粒子。
 この球状粒子の表面にはリン脂質が覆っている。細胞膜の場合は、細胞の内側に水があるため、脂質二重層の構造となっているが、リポタンパクの粒子の内側にはコレステロールエステルや中性脂肪といった油なので二重にする必要が無い。
 
・リポタンパク質の種類には、カイロミクロン(キロミクロン)、超低比重リポタンパク(VLDL)、中間比重リポタンパク(IDL)、低比重リポタンパク(LDL)、高比重リポタンパク(HDL)、超高比重リポタンパク(VHDL)がある。
 
●アポリポタンパク質
 
・リポタンパク質の認識や脂質代謝に関与する酵素群の活性化あるいは補酵素として働く一群のタンパク質。
 
・アポリポタンパク質は、構造やはたらきによりアポリポタンパク質AからEまでの5種に大別される。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(2)肝臓から血液中へのリポタンパク質の運搬サイクル

①肝臓は、リポタンパクの外側部分、脂質を運ぶ籠にあたる部分を作る。この籠は、リン脂質、アポリポタンパクB(略してアポB)、コレステロールからなる。
 
②この外側の籠の中にコレステロールエステルや中性脂肪が詰め込まれて血液中を運ばれる。
 リポタンパクは、密度によってVLDL、LDL、HDLなどに分けられる。たくさんの脂質を運ぶと粒子の大きさが大きくなるが、油は水より軽いので密度は小さくなる。
 肝臓で作られたばかりのリポタンパクは、大量の中性脂肪を含むため、大型で密度は軽い、VLDLとなる。
 
③毛細血管でVLDLから中性脂肪が取り込み
 血液中のVLDLは、毛細血管の管壁に存在するリポタンパクリパーゼ(LPL)と呼ばれる酵素によって、VLDLの内側に含まれている中性脂肪が加水分解(脂肪酸とグリセリンに分離)され、毛細血管の壁の中に取り込まれる。
 LPLは主に脂肪組織の毛細血管の中にあり、脂肪細胞はこのようにして血液中のVLDLから脂肪酸を手に入れる。
 加水分解されたグリセリンも脂肪細胞の中に入り込み、脂肪細胞の中で再びグリセリンと脂肪酸が結合して中性脂肪に変わって貯蔵される。
 
④中性脂肪が取り出されてしまったVLDLの事をVLDLレムナントと言う。
 中性脂肪をほとんど失ってしまったVLDLレムナントは、コレステロールエステルしか残っておらず、大きさは小さく、密度は大きくなり、LDLとなる。
 
⑤細胞でのLDL受容体によるコレステロールの取り込み
 コレステロールを必要としている細胞は、細胞表面にLDL受容体(リポタンパクのアポBと結合できる受容体)を出し、LDLごと細胞内に取り込む。
 細胞がコレステロールを必要としていない場合は、細胞表面にLDL受容体を出さず、血液中のLDLは素通りし、肝臓に戻る。
 
⑥肝臓でのLDLの処理
 肝臓には体中のLDL受容体の約7割があると言われていて、戻ってきたLDLは肝臓で取り込まれ、再利用される。
 肝臓で再利用できないほどのLDLが戻ってきた場合は、LDL受容体を表面に出さず、肝臓も素通りして、血液中のLDLの値が増加してしまう。
 細胞内のコレステロール量はLDL受容体によって調節されるが、細胞外のコレステロール量は調節する仕組みが無い。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

リポタンパク質による血液中の脂質の運搬(3)食事から摂取したコレステロールの処理

①小腸でリポタンパクが生成
 
食事で摂取した動物性食品のコレステロールは小腸で吸収された後、小腸粘膜の細胞の中で、リポタンパクに取り込まれる。
 小腸細胞が作るリポタンパクは、食品中の大量の中性脂肪を含むため、肝臓が作るVLDLよりもさらに大型で軽く、カイロミクロンとなる。
 
②リンパ管で輸送
 
小腸細胞から先は、ブドウ糖やアミノ酸がすぐに小腸の静脈(門脈)に入って肝臓に運ばれるのに対し、カイロミクロンはリンパ管から吸収されリンパの流れにのり、腹部、胸部、さらに左頸部下から鎖骨下静脈、心臓を巡って動脈に移り全身へ運ばれる。
 
③血管でLPLによって中性脂肪取り込み
 
血管のリポタンパクリパーゼ(LPL)によって中性脂肪が取り込まれ、脂肪細胞に貯蔵される。
 
④カイロミクロンレムナントが肝臓で処理
 
中性脂肪を失ったカイロミクロンはカイロミクロンレムナントとなって、肝臓に戻る。
 肝臓にはカイロミクロンレムナントに対する受容体が存在し、残りの運搬物であるコレステロールを取り込む。
 
⑤コレステロールを多く含む食品を多く食べた場合
 
コレステロールを多く含む食品をたくさん食べていると、そのコレステロールは肝臓に集まる。
 LDL受容体の約7割は肝臓にあるので、血液中のコレステロールの大半は肝臓によって処理される。
 肝臓はLDL受容体を作ってコレステロールを取り込むが、コレステロールが増えすぎると、それ以上はLDL受容体を作らず、血液中のLDLが増えてしまう。(高コレステロール血症)
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

 

●HDLとLDL
 
・VLDL中の中性脂肪がリポタンパクリパーゼによって分解される過程で原始HDLが作られ、分解後小さくなってVLDLがLDLになる。
 
・LDLは各細胞にコレステロールを提供した後、最終的に肝細胞膜上のLDL受容体に取り込まれて肝細胞内に入り、再びコレステロールに合成される。
 LDLの値が高いとLDL受容体の作用が悪くLDLをしっかり回収できない。
 
※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』

VLDL(超低比重リポタンパク)とカイロミクロン

・血液中の中性脂肪は、おもにVLDL(超低比重リポタンパク)かカイロミクロンの中に存在する。
 両者ともリポタンパクという、脂質とタンパク質が結合したもので、血管壁のリポタンパクリパーゼによって脂肪酸に分解されて、体細胞のエネルギー源になる。
 エネルギーとして使われなかった脂肪酸は、脂肪や肝臓や筋細胞に取り込まれ、再び中性脂肪に合成されて、それぞれの細胞内に貯蔵される。
 
・VLDLは肝臓で作られる。
 
※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』

 

・運動不足の人は、エネルギーが消費されず、皮下脂肪や内臓脂肪として貯蔵される。その際に肝臓から脂肪細胞へ向けて中性脂肪を運ぶ役割をしているのがVLDLで、VLDLが増えるとそれに伴ってコレステロールも運ぶのでコレステロールの値も増えてしまう。
 したがって、無駄な中性脂肪が肝臓から出ないようにすれば、VLDLも作られず、その分血液のコレステロールも減る事になる。
 ただし、中性脂肪を減らす事によるコレステロールの減少はそれほど大きくはない。
 
・VLDLが減ると、別の作用での効果もある。
 VLDL、LDL、HDLは、それぞれが運搬している脂質を交換する作用がある。HDLが運んでいるコレステロールをVLDL、LDLに渡したり、逆にVLDL、LDLが運んでいる中性脂肪をHDLに渡したりしている。
 VLDLが多いと、よりたくさんのコレステロールがHDLからVLDLに引き渡されてしまう。
 中性脂肪が多い人は、一般にHDLが低下しているが、それは上記作用が関係していると言われている。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

HDL、LDL、中性脂肪の検査値と病気発症リスク

●HDL
 
・高ければ高いほど長生きできることが分かっている。
・HDLが高い人の中には、極めて特殊な体質で動脈硬化が起き易いケースもあるが、それを区別する方法はまだない。
 
●LDL
 
・LDLが高いだけでは、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクはそれほど高くならない。
LDLとともに中性脂肪が高いと動脈硬化が見られ、心筋梗塞や脳卒中を起こしやすいことが分かっている。
 
●中性脂肪
 
・乳製品には動物性脂肪が多く含まれているので、過剰に取ると中性脂肪を上げる要因となる。
・中性脂肪の検査値が高くても、ほかに異常がなければ、将来病気を発症するリスクが高くないことが分かっている。
 
※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』

 

●低HDLと病気発症リスク
 
・日本人を対象としたコホート研究で、HDL値が低いほど冠動脈疾患罹患が増加するが、40mg/dL未満からリスクが急上昇することが示され、40mg/dL未満が低HDL血症のスクリーニング基準になっている。
 
・正常な機能を持つHDLは血管壁からコレステロールを引き抜いているので、HDL値の低下は動脈硬化症の原因になる。
 
●中性脂肪値と病気発症リスク
 
・日本人を対象とした幾つかのコホート研究で、空腹時中性脂肪値150mg/dL以上で冠動脈疾患罹患が増加することが示されている。しかし、空腹時の中性脂肪(主にVLDL)が直接、動脈硬化を促進するかどうかは明らかでない。
 高トリグリセライド血症患者では、その原因が多岐にわたるために、脂質だけでなく炭水化物(アルコールも含めて)の摂取過剰、遺伝的疾患(LPL、ApoC-Ⅱの欠損症やApoE2/E2 型など)、代謝疾患(肥満、未治療の糖尿病、甲状腺機能低下症、アルコール中毒症)の存在も考慮する必要がある。
 
・肥満(内臓肥満を含む)がない場合、炭水化物の過剰摂取かアルコール多飲の有無を確認し、該当項目を是正する。
 
・アメリカ心臓協会(AHA)は血中中性脂肪値を低下させるために、2~4g/日のEPA及びDHAのカプセルでの投与を推薦している。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

更年期以降の女性のコレステロール値

・女性の場合、20~40歳半ばまではほぼ変わらず、45歳頃から急上昇を始める。男性の場合は、20歳を超えてからほぼ直線的に増加していく。
 
・女性ホルモンは、コレステロールを処理する能力を高める作用があるので、更年期に女性ホルモンの分泌が低下するとコレステロールが血液中で処理されづらくなり、結果としてコレステロールが高くなる。
 
・年齢ごとの心筋梗塞の発症率をグラフにすると、男性は30歳以降直線的に増加してゆくのに対し、女性では40歳代半ばでそれまでの平らな推移から急に上がり出す。
 
※参考情報『林 洋(2010)嘘をつくコレステロール  日本経済新聞出版社』

コレステロールの運搬の概要

●コレステロールの運搬
 
・LDLやHDLは、リポ蛋白の中にコレステロールや中性脂肪を含んだ構造になっている。
・脂でできたコレステロールは血液となじまないため、水溶性のリポ蛋白と結びつくことで血液中を運搬されていく。
 
●リポ蛋白
 
・タンパク質(アポ蛋白)に脂質が結合したものがリポ蛋白。
・結合する脂質の割合によって、カイロミクロン、VLDL、LDL、HDLに分けられる。
 
○カイロミクロン
・食事に含まれる中性脂肪を全身の細胞、肝臓に運ぶ。
 
○VLDL
・主に肝臓で作られた中性脂肪を細胞に運ぶ
 
○LDL
・肝臓から細胞にコレステロールを運ぶ
 
○HDL
・余ったコレステロールを肝臓に戻す
 
※参考資料『近藤和雄(2015)人のアブラはなぜ嫌われるのか 技術評論社』

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