ストレスで慢性疾患のリスク増大?

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  1. ストレスと循環器疾患(心臓病、脳血管疾患)との関連
  2. ストレスと糖尿病、アルツハイマー病との関連
  3. ストレスとがんとの関連
  4. ストレスとうつ病との関連
  5. ストレス対策

ストレスと循環器疾患(心臓病、脳血管疾患)との関連

○英国のホワイトホール研究(マイケル・マーモット教授)
 
・イギリスの公務員1万人に対する調査。
・組織の最下層の人は、組織のトップの人と比べて心臓病になるリスクが3倍高かった。
→ストレスが影響?
 自分には状況をコントロールする力が無い、という認識を持つ事によって生じるストレスで、お金のあるなしには影響されない?
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

 

●精神的重圧と心臓への影響
 
・精神的重圧によって、末端の血管の太さなどをコントロールしている自律神経が、興奮状態に陥ってしまう。
→本来ならば血液をたくさん流さなければいけない心臓の血管を、逆に締め上げてしまう、"微小血管機能障害"と呼ばれる現象が起こる。
 
●コルチゾールと心臓病
 
・継続的にストレスを浴びるとコルチゾールがとめどなく分泌され、減少しにくくなる。
・血液中のコルチゾールの値が一日を通して横ばいの人は、値が徐々に減っていく人と比較すると、心筋梗塞などの病で死亡するリスクが二倍に上昇していた。
・就寝時も変わらず値が高い人は、低い人と比べると、心血管病の死亡リスクが二倍も高かった。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』

 

○ミネソタ大学・ノースウェスト大学・ワシントン大学・マイアミ大学・ミシガン大学による共同研究
 
・6,700名以上の成人(45-84才、53%が女性)参加者を対象に、2年間の慢性ストレス・抑うつ症状・怒り・敵意を評価するアンケートを行い、8.5~11年間追跡調査を行った。参加者は38.5%が白人・27.8%がアフリカ系アメリカ人・11.8%が中国人・21.9%がヒスパニックだった。
 
・その結果、以下のような特徴が見られた。
 抑うつ症状が高い人は脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)となる確率が86%高かった。
 慢性ストレスが高い人は、脳卒中またはTIAとなる確率が59%高かった。
 敵意スコアが高い人は、脳卒中またはTIAとなる確率が倍以上であった。
 怒りには疾病リスクの増加と有意な関係は見られなかった。
 
※参考文献
Chronic stress, depressive symptoms, anger, hostility, and risk of stroke and transient ischemic attack in the multi-ethnic study of atherosclerosis.

ストレスと糖尿病、アルツハイマー病との関連

・慢性ストレスで脳にコレチゾールが分泌され続けると脳細胞が破壊され、新生細胞の生成が妨げられて脳が萎縮する。
 
・脳はショッキングな出来事に見舞われると大きな心理的ストレスを受け、そこから記憶障害を起こして認知症へと進行することもある。
 
・強いストレスを受けるとグルココルチコイドと呼ばれる副腎皮質ホルモンが分泌し、免疫系の機能を低下させる。
 そして、脳にたまったゴミを処理してくれる貪食細胞の働きが落ち、βアミロイドの蓄積が増加する。
 
・笑うだけでナチュラルキラー細胞などの免疫系が活性化され、貪食細胞も活性化されてβアミロイドの除去作用も高まる。
 
※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』

 

●慢性的なストレスは糖尿病の発症リスクを高める要素
 
・コルチゾールというホルモンの分泌を刺激し、腰周りの肥満や血糖値の上昇、高血圧、免疫システムの混乱を引き起こしやすい。
・健全なレベルのコルチゾールを維持することは健康にとって必要だが、過不足すると有害になる。
・コルチゾールのバランスを取るには、十分な睡眠、適度な運動、リラックスする時間を持つことなどが重要。
 
※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』

 

●精神的要因、コーヒーと糖尿病との関連について
 
・精神的要因(ストレスとタイプA行動パターン)やコーヒー摂取と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○日常的なストレスとの関連
・日常のストレスが"少ない"グループと比べて、"普通"あるいは"多い"グループでは糖尿病発症のリスクが高くなる傾向があった。
・男性ではストレスが"多い"グループでは"少ない"グループと比べて統計学的に有意に高くなっていた。
・女性でもストレスが多いほどリスクが高くなっていたが統計学的に有意ではなかった。
 女性では、日常ストレスの多い生活をする傾向を表すとされているタイプA行動パターン(せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、積極的などの行動パターン)のグループで、対極的なタイプB行動パターンのグループと比べて糖尿病発症のリスクが統計学的に有意に高くなっていた。男性ではこのような傾向は見られなかった。
 
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

ストレスとがんとの関連

○オハイオ州立大学のソンフィン・ハイ教授の研究
 
・ストレスホルモンによって働き始めるATF3遺伝子は、ガン細胞を攻撃し、増殖をくい止める働きを持つ免疫細胞の中に存在し、普段はその中でスイッチが切れた状態で眠っている。
・ストレスホルモンが増え、免疫細胞を刺激すると、30分以内にATF3遺伝子のスイッチが入る。すると、免疫細胞はガン細胞を攻撃することを止めてしまう。ストレスホルモンが減れば、遺伝子のスイッチは切れて、免疫細胞は再びガン細胞を攻撃するようになる。
・ATF3遺伝子のスイッチがオンの状態にあるときの免疫細胞は、ガン細胞を攻撃しないばかりでなく、転移を促すことがネズミの実験で確認された。免疫細胞が細胞と細胞の間に隙間をつくり、ガン細胞が転移するスペースを確保して移動が容易になるように助けている。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』

 

●自覚的ストレスとがん罹患との関連について
 
・調査開始時のアンケートの回答から、日常的に自覚するストレスの程度について3つのグループ(低、中、高)に分けて、その後の全がん罹患を比較した。
 
○結果
・自覚的ストレスレベルが「低」のグループを基準とし、それ以外のグループのがんリスクを比較したところ、調査開始時の自覚的ストレスレベルと全がん罹患との間に統計学的有意な関連は見られなかった。
・しかし、調査開始時と5年後調査時のアンケートにおける、自覚的ストレスに関する回答の組み合わせから、その変化を6つのグループ(常に低、常に低・中、常に中、高が低・中に変化、低・中が高に変化、常に高)に分け、がん罹患リスクとの関連を検討した結果、常に自覚的ストレスレベルが高いグループは、常に自覚的ストレスレベルが低いグループに比べ、全がん罹患リスクが11%上昇していた。
 臓器別でみると、特に、肝がん・前立腺がんで自覚的ストレスが高いとリスクの上昇がみられた。
 
○推察
・本研究では、男性でこの関連が強くみられ、全体の結果に影響を与えたと考えられる。
 この理由として、本研究の対象者のうち、常に高いストレスを受けていたのは主に男性であったこと、また、女性よりも男性の方がストレスに対する生理的影響が大きい可能性が考えられる。 また、ストレスレベルが高い男性は、喫煙や飲酒など、がんのリスク要因となる生活習慣をもつ傾向が強く、統計学的にこれらの影響は考慮したものの、完全に取り除くことはできなかった可能性がある。
 
※・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

ストレス対策

●アメリカ心理学会が推奨するストレス対策
 
①ストレスの原因を避ける
②笑い
③友人や家族のサポートを得る
④運動
⑤瞑想
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』

 

●ストレスに対する運動の効果
 
○気持ちの切り替え
・運動はドーパミンも放出。気持ちを前向きにし、幸福感を高め、注意システムを活性化させる。
・運動は自発的にすることなので、そのストレスは予測できるし、コントロールできる。
自分を支配しているという感覚と自信も得られる。
 アルコールなどの副作用のある対処法に頼らなくても、ストレスをコントロールできると分かっていれば、気持ちの切り替えがうまくなる。
 
○筋肉を介してストレス抑制
・運動は、筋紡錘(筋肉の中にある張力センサー)の静止張力を緩めることで脳にフィードバックされるストレスを撃退する。体が緊張していなければ、脳は自分もリラックスしてもいいだろうと判断する。
・心臓の筋肉で生成される心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンが、HPA軸にブレーキをかけ、脳の騒音を鎮めて体のストレス反応を直接抑える。
 
○ストレスに反応する閾値が上がる
・定期的に有酸素運動をすると体のコンディションが安定するので、ストレスを受けても、急激に心拍数が上がったり、ストレスホルモンが過剰に出たりしなくなる。少々のストレスには反応しなくなる。
 
※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

・運動は自律神経が興奮するのを阻止する。
ストレス反応の暴走を抑え、心臓、脳、肝臓等の臓器を守ることにつながる。
 
○ウェイン州立大学のパトリック・ミュラー教授の研究
・ネズミを運動するグループと運動しないグループに分けて、11週間後、脳の変化を詳しく調べた。
 
・運動したネズミの延髄の神経細胞の画像を見ると、運動していないネズミと比べて神経細胞の突起がほぼ半減していた。
 突起が多いと、延髄の神経細胞が扁桃体から受け取る情報が増え、その過剰な情報が自律神経に伝わり、興奮させてしまう。
 運動することにより神経細胞の突起が減ると、受け取る情報が減り、延髄から適正な量の情報が伝達されるようになり、自律神経が興奮することもなくなる。
※延髄は恐怖や不安を感じる扁桃体から脊髄へとつながる経路の、いちばん脊髄に近い位置にある。扁桃体の情報を自律神経に伝える重要な役割を担うとともに、自律神経自体の制御にも関わっている。
 
・延髄には血圧を制御する中枢があると考えられており、突起の数が減ることによって、血圧を正常にコントロールできるようになると推測している。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2016)キラーストレス NHK出版』

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