ナッツ類摂取と慢性疾患との関連

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  1. ナッツ類の健康効果の概要
  2. コレステロール値との関連
  3. 循環器疾患との関連
  4. 血糖値との関連
  5. がんとの関連
  6. 認知症との関連

ナッツ類の健康効果の概要

●アーモンド

・100gあたりのエネルギーが約600キロカロリーあり、約55%が脂質と脂質含有量が高いのが特徴。
・アーモンドに含まれる脂質の7割はオレイン酸。
・ビタミンEも多く含まれ、アーモンド約20粒ほどで一日の摂取目安量を満たすことができる。
・亜鉛やマグネシウムなどのミネラルも多い。
・薄皮に含まれるポリフェノールも摂取することができる。
・体重減作用、コレステロール低下作用などが報告されている。
 
※参考資料『近藤和雄,佐竹元吉(2014)サプリメント・機能性食品の科学 日刊工業新聞社』

 

・一価不飽和脂肪酸を多く含み、ほとんどのナッツ類よりたんぱく質と食物繊維が豊富。
・ビタミンEの一種であるα-トコフェノールを他のどのナッツより多く含む。
・茶色い皮をむいたアーモンドもあるが、フラボノイドも取り除かれてしまう。
 
※参考資料『ナショナルジオグラフィック別冊 2(2017)食材の科学 日経ナショナルジオグラフィック社』

 
●ピーナッツ

・たんぱく質や脂質、ビタミンB群、ビタミンEなどが豊富に含まれる。
・脂質にはオレイン酸やリノール酸が多いため、コレステロール値や中性脂肪を下げる効果が期待できる。
・脂質の一種であるレシチンにも、肝臓の働きを助けてコレステロールを減らしたり、血管にたまったコレステロールの排泄を促したりする作用がある。
 
※参考資料『名取貴光(2016)新・野菜の便利帳 健康編 高橋書店』

 

・食物繊維とビタミンEがほどよく含まれる。
・ビーナッツの油は主に不飽和脂肪酸で健康によい油。
一握りのピーナッツに含まれる約14gの脂質のうち、飽和脂肪酸は約2gで、約7gはLDLを低減する一価不飽和脂肪酸。
 
※参考資料『ナショナルジオグラフィック別冊 2(2017)食材の科学 日経ナショナルジオグラフィック社』

 

●カシューナッツ
 
・食物繊維、ミネラル、オレイン酸を豊富に含有。
・継続的にカシューナッツを食べると心血管疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドロームのリスクを低減することが明らかになっている。
 
●ゴマ
 
・カルシウム、リンなど強い骨を作るのに重要なミネラルの宝庫。
・免疫力強化に欠かせない亜鉛、鉄分の吸収を助ける抗酸化物質であるセレンと銅、健康的な血圧を保つための鍵であるカリウムとマグネシウムを含む。
・コレステロールと似た構造を持つ植物コレステロールが豊富で、これがコレステロールの吸収を防いでくれる。植物コレステロールはいくつかのがんの発生を予防する可能性がある。
 
●クルミ
 
・2007年の研究によれば、調査したナッツ類の中でクルミは、ポリフェノールの含有量が最も多く、2番目に高い抗酸化力があった。
・別の小規模研究ではクルミを食べると炎症がおさまり、血圧を下げ、LDLが低下、血管機能が改善したという報告がある。
・13万5000人の女性を10年間追跡した2013年発表の調査では、クルミを最も多く食べた女性は2型糖尿病になるリスクが低下したという結果が報告されている。
 
※参考資料『ナショナルジオグラフィック別冊 2(2017)食材の科学 日経ナショナルジオグラフィック社』

コレステロール値との関連

○ナッツ類の栄養
 
・不飽和脂肪酸、良質のたんぱく質、ビタミン、ミネラルとフィトケミカルなど心臓保護効果の知られている多くの重要な栄養素が含まれる。
・米国FDAは、2003年に、「科学的なエビデンスが示唆することとして、ただし完全に証明はされていないが、飽和脂肪酸とコレステロールの少ない食事の一部としての、1日1.5オンス(43g)の堅果の摂取は、心疾患のリスクを下げるだろう」という強調表示を承認している。
 
○米国スタンフォード大学の研究
 
・堅果と心血管疾患の関係を検討した臨床試験の系統的レビューとメタ分析。
・堅果摂取量は1日平均56g(5-100g)。
 
・堅果(アーモンド、ブラジルナッツ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、ペカン、パインナッツ、ピスタチオ、クルミ)の摂取は、血液中の総コレステロール値、トリグリセリド値、LDL-コレステロール値とその主要アポリポたんぱく質ApoBを低下させる効果がみられた。
・ナッツの摂取は糖尿病やインスリン抵抗性のある患者において心血管疾患のリスクを低下させるために特に重要。
 
※参考文献
Effects of tree nuts on blood lipids, apolipoproteins, and blood pressure: systematic review, meta-analysis, and dose-response of 61 controlled intervention trials.

循環器疾患との関連

○米国ルイジアナ州立大学からの報告
 
・2005‐2010年の米国全国健康栄養調査(NHANES)の対象者、男子と女性14,386名(19際以上)のデータを解析。
・ナッツ類の摂取は、1日当たり約7g以上を摂取した者として定義した。
・対象者のおよそ6.8%は、ナッツ類を摂取した。
・ナッツ摂取者は1日あたりおよそ44.3gのナッツを食べており、これはナッツ類と心臓病に関する健康機能表示に適切とされたFDAに推奨された量と同等。
 
・ナッツ類(アーモンド、ブラジルナッツ、カシュー、ヘイゼルナッツ、マカダミア、ペカン、松の実、ピスタチオ、くるみ)の摂取は、より低いBMI、収縮期血圧、インスリン抵抗性、そして、より高いHDL-コレステロールレベルと関連した。加えて、ナッツ類を摂取した者は、ナッツ類を消費しなかった者より、肥満が25%少なく、ウエスト周囲の高値が21%少ない傾向があった。
・ナッツ類は脂質とカロリーを含むが、多くの研究は、ナッツに富んだ食事は、体重を増やさないということを示している。
・植物たんぱく質、食物繊維、健康的な一価、多価不飽和脂肪酸を多く含むナッツ類は、実際に食欲を抑制するのを助ける可能性がある満足感の得られる食物である。
 
※参考文献
Tree Nut consumption is associated with better adiposity measures and cardiovascular and metabolic syndrome health risk factors in U.S. Adults: NHANES 2005-2010.

 

○ヴァンダービルト医科大学からの研究報告
 
・アメリカ南部に暮らす貧困層の黒人および白人の男女71,764人と中国上海在住の中国人男女134,265人を含む3つの大規模研究について、ナッツ類やピーナッツの摂取と死亡率の関係を検討。
 
・3つのグループいずれにおいても、ナッツ類の摂取は総死亡率と心血管疾患関連死亡率の低下と関連していた。
・アメリカの研究では最も多くピーナッツを食べる人では総死亡率のリスクが21%も低く、また中国の研究ではナッツ類を多く食べる人は死亡率が17%も低くなっていた。
・上記効果は、男女問わず、あらゆる人種・民族に当てはまり、代謝状態や喫煙、飲酒、BMIとは独立して見られるもの。
 
※参考文献
Prospective evaluation of the association of nut/peanut consumption with total and cause-specific mortality.

 

○《米》ロマ・リンダ大学アドベンティストヘルスサイエンスセンターからの研究報告
 
・81,000人以上の参加者のデータを使って調査。
 
・その結果、大量の肉類のたんぱく質を摂取している人々は心血管疾患が60%増加し、一方、ナッツ類・種子類の場合は40%減少していた。
 
※参考文献
Patterns of plant and animal protein intake are strongly associated with cardiovascular mortality: the Adventist Health Study-2 cohort.

血糖値との関連

○オランダ・マーストリヒト大学からの研究報告
 
・1986年に開始されたオランダコホート研究の55-69歳の12万人以上の男女のデータを解析した。
・ナッツ類の摂取量は、ポーションサイズ(1回ごとの料理の目安量)と摂取頻度をピーナッツ、ツリーナッツ(アーモンドのように木の実になるナッツ類)、ピーナッツバターに分けて調査した。
・1986年以降の全死因による死亡リスク、各種疾患による死亡リスクが解析された。
 
・1日少なくとも10グラムのナッツを食べる男女はいくつかの主要な死因による死亡リスクが、ナッツを全く食べない男女に比べて有意に低かった。ピーナッツバターにはそのような効果は見られなかった。
・特に大きい死亡リスクの低下が見られたのは呼吸器疾患、神経変性疾患と糖尿病による死亡リスクであり、次いでがんと心血管系疾患によるリスクだった。
・実質的に死亡リスクが低下するのは、1日平均15gのナッツを食べた場合、ということが重要。それ以上摂取してもさらに死亡リスクが低下するわけではない。
 
※参考文献
Relationship of tree nut, peanut and peanut butter intake with total and cause-specific mortality: a cohort study and meta-analysis.

がんとの関連

○従来の研究
・心臓病におけるナッツの有益な効果が知られている。
 
○米国メイヨクリニックとミネソタ大学からの報告
 
・包括的な分析をするために、ナッツ摂取の予防効果と疾患についての36本の観察研究の系統的レビューとメタアナリシスを行った。
 
・ナッツの摂取は、直腸がん、子宮体がん、すい臓がんのリスクを低下させた。
・他のタイプのがんや2型糖尿病とは関連を示さなかった。
・全体として、ナッツ摂取は、がんのリスクを低下させるようだ、と結論付けた。
・これまでの多くの研究は疾患におけるナッツの予防効果を評価しているが、個々のがんのタイプとナッツ摂取の関連における利用可能なデータはまだ不足している。これらの関連をより正確に検証するためには、さらなる研究が必要。
 
※参考文献
Nut consumption and risk of cancer and type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis.

 

○マイクロRNA(miRNA)とは?
・ゲノム上にコードされ、多段階的な生成過程を経て最終的に20から25塩基長の微小RNAとなる機能性核酸である。
・機能性のncRNA(non-coding RNA: タンパク質へ翻訳されないRNAの総称)に分類されており、ほかの遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っている。
 
○miRNAとがん
・miRNAは、がん、心血管疾患、神経変性疾患、精神疾患、慢性炎症性疾患などの発症と進行に関わっている。特に、がんの原因因子についてはさまざまな議論がなされているが、その中でもmiRNAは、細胞のがん化に深く関与していることが多くの研究者らによって指摘されている。
・がんに関わるmiRNAに、正の制御をする(がん化を促進する)ものと負の制御をする (がん化を抑制する)ものの2種類のタイプが存在することがわかっている。
 
○米国ハーバード大学からの研究報告
 
・研究チームはマウスをランダムに2群に分けて実験を行った。1群にはヒトの2サービング相当のクルミを含む食事を、別の1群にはクルミなしの対照食を25日間与えた。
 
・その結果、クルミを食べたマウスでは、がん細胞の炎症、血管増殖、増殖に鍵となるmiRNAががんを抑制する方向の変化を示した。
・クルミを食べたマウスの腫瘍細胞には、対照群の細胞に比べてオメガ-3系脂肪酸(α-リノレン酸など)が10倍以上多く含まれていた。
・腫瘍のサイズはより小さくなっており、オメガ-3系脂肪酸の効果が示唆されたという。また細胞増殖も低下した。
・α-リノレン酸は必須脂肪酸であり、ナッツの中ではクルミだけが顕著な量のα-リノレン酸を含んでいるという。
・クルミの成分は、大腸がん細胞中の保護的な脂肪酸と直接あるいは複数の因子と共に相互作用を起こしてこの効果を発揮する、とこの研究者は考えている。
 
※参考文献
Dietary walnut suppression of colorectal cancer in mice: Mediation by miRNA patterns and fatty acid incorporation.

 

○独・イェーナ大学からの研究報告
 
・5種類のナッツ(マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、クルミ、アーモンド、ピスタチオ)の効果を調べた。
 試験管の中でこれらのナッツを人工的に"消化"し、得られた消化産物が細胞系に与える影響を分析した。
 
・その結果、保護酵素のカタラーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼの活性が、処理する細胞において増加することを実証した。さらに、消化産物は、このような処理をしたがん細胞において、いわゆるプログラム細胞死を誘導することも判明したという。
 
※参考文献
Chemopreventive potential of in vitro fermented nuts in LT97 colon adenoma and primary epithelial colon cells

 

●米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)農学・消費者・環境学部(ACES)からの研究報告
 
○クルミ
・食物繊維を豊富に含み、腸内細菌や健康に良い影響を与えると考えられている。
 
○試験方法
・18人の成人男女を被験者としたcontrolled-feeding study。
2~3週間、0gまたは42gのクルミを摂取。調査期間前後に糞便と血液サンプルを採取。
 
○試験結果
・クルミの摂取によって、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ロゼブリア(Roseburia)、クロストリジウム(Clostridium)の3つ腸内細菌の相対割合が高いという結果になった。
 上記3つの腸内細菌は、クロストリジウムクラスターに属し、酪酸を産生する。酪酸は、大腸の健康に良い作用があると考えられている。
 さらにフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)は抗炎症作用があることが知られている。
・クルミの摂取によって、対照群と比べて二次胆汁酸が減少していた。
 研究者によると、二次胆汁酸は胃腸管内の細胞にダメージを与え、大腸がんを促進させる作用があるという。
・LDLコレステロールのレベルが低下した。
 
※参考文献
Walnut Consumption Alters the Gastrointestinal Microbiota, Microbially Derived Secondary Bile Acids, and Health Markers in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial.

 

○米国カリフォルニア大学デイビス校からの研究報告
 
・マウスの一方の群に丸のままのクルミあるいはクルミ抽出油の食事を与え、対照群にはクルミの脂肪組成と同じ脂質を加えた食事を与え、18週間にわたって比較した。
 
・その結果、丸のままのクルミあるいはクルミ油ではコレステロールの低下と前立腺がんの増殖抑制効果が見られたのに対し、クルミを模した脂質構成ではそのような効果は見られなかった。
 これはオメガ-3系脂肪酸の効果ではなく、クルミの脂肪以外の因子が効果には必要であるということを示唆している。
・加えてクルミにはコレステロールを低下させインスリン感受性を高める効果もあった。
 またIGF-1の濃度を下げた。この物質は前立腺がんと乳がんに関連することが先行研究で指摘されている。
・加えて、アディポネクチンと腫瘍抑制物質PSP94が上昇し、COX-2レベルが低下することを発見した。どれも前立腺がんリスクの低下のマーカーである。
・今回マウスに用いたクルミは、人間の体重に治すと2.6オンス、482kcalにもなるので、毎日食べるのは現実的とはいえない。
 
※参考文献
TRAMP prostate tumor growth is slowed by walnut diets through altered IGF-1 levels, energy pathways, and cholesterol metabolism.

認知症との関連

○カリフォルニア大学による研究
 
・数年分の国民健康栄養調査(NHANES)で得られた認知データを用い、クルミの摂取と認知機能を分析。NHANES調査は、1-90才の米国の人口の大サンプリングである。本研究の参加者は20-60才以上の成人。
 
・クルミの消費量の多い参加者は6種類の認知テストの結果が有意に良いことを発見した。
・1日一握りのクルミ(13g)で効果があった。
 
※参考文献
A cross sectional study of the association between walnut consumption and cognitive function among adult US populations represented in NHANES.

 

○クルミの栄養成分
・クルミには非常に多くのビタミンやミネラルが含まれており、心臓と脳の健康に有益なオメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)の重要な供給源(1オンス当たり2.5g)が含まれている。
※1オンス:約28g
 
○ニューヨーク州発達障害基礎研究所(IBR)による研究
 
・ヒトにおいては1日28-42g分のクルミに相当する6-9%のクルミをマウスに与え、その栄養補給効果を検討した。
 
・その結果、クルミを含んだ食事を与えられたマウスの学習能力・記憶力・不安感の減少・運動発達に有意な改善が見られた。
・研究チームは、クルミに含まれる抗酸化含有量(3.7mmol/1ounce)の高さは、アルツハイマー病に通常見られる変性からマウスの脳を保護する要因であるとしている。
・本研究は、アミロイドベータタンパク質によって引き起こされる酸化的損傷に対するクルミ抽出物の保護効果を明らかにするものである。
 
※参考文献
Dietary Supplementation of Walnuts Improves Memory Deficits and Learning Skills in Transgenic Mouse Model of Alzheimer’s Disease

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