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便と腸内細菌
・便の重量の75%は細菌で、食物繊維のカスは17%。 ・便中に圧倒的に多い細菌のグループはバクテロイデス属。 ・腸内細菌はその人が食べるものの影響を受けるので、腸内細菌の組成比は人それぞれで異なる。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
便移植の概要
・健康な人の便(腸内細菌)を移植して腸内フローラを一気に変化させる治療法。 ・アメリカではすでに臨床でも用いられており、"クロストリジウム・ディフィシル感染症"という難病の治療に有効であることがわかっている。 ※参考資料『光岡知足(2015)腸を鍛える 祥伝社』
●糞便移植の方法 ①健康なドナーの糞便と生理食塩水を料理用ミキサーなどで混ぜ合わせる。 ②カメラのついた長いプラスチック製のチューブ(内視鏡検査のときの大腸ファイバースコープ)を患者のお尻の穴から挿し込んで大腸内に注入する。 ※注入液を上から入れる方法もある。鼻腔チューブで鼻から喉、胃に流し込む。 ●クロストリジウム・ディフィシル患者への糞便移植 ・再発性のクロストリジウム・ディフィシルに抗生物質を投与しても、治癒率は30%にどとまる。 ・一度の糞便移植による治癒率は80%。最初の移植後に再発した場合、二度目の移植をすると治癒率は95%まで上がる。 ○クロストリジウム・ディフィシル以外の病態への糞便移植 ・オーストラリアのトム・ボロディ教授の実績では、下痢型の過敏性腸症候群に対しては効果的で80%の治癒率となった。 便秘型の過敏性腸症候群では難しく、治癒率は30%にとどまり、また移植を数日間繰り返さなければならなかった。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
・糞便移植を受けることで、実際に改善や治癒できた病気は、便秘、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、糖尿病、多発性硬化症、パーキンソン病などがある。 ※参考資料『杉山政則(2015)現代乳酸菌科学 共立出版』
●理想の腸内フローラをもつ人の便を移植すると? ・便移植を行っても、腸内フローラがそっくり入れ替わるわけではない。 便移植を健康な人に行った場合、元々いる自分の腸内細菌が勝ってしまって、移植の効果は非常に小さくなる。 ただし、病気の人の場合は、腸内フローラの多様性が低下しているため、より多様性の高い腸内フローラを入れてやれば、多様性を高めることはできる。 ・理想の腸内フローラに近づいたとしても、維持できるか分からない。腸内フローラは、食生活などによって少しずつ変化していく。 移植で一時的に理想に近づいたとしても、元の生活を続けていれば、維持できない可能性が高い。 ・理想の腸内フローラは、人によって違うかもしれない。お腹の中にいる腸内細菌の種類は人によって異なり、それらの菌を"学習"して、IgA抗体を作り、これまで共に生きてきている。ある人にとって"理想"であっても、別の人にとってそうであるとは限らない。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
便移植と肥満、インスリン感受性
●糞便移植による代謝異常(インスリン感受性など)への効果 ○アムステルダムにあるアカデミック・メディカルセンターのアンネ・フリーゼとマックス・ニュードープの研究 ・9名の肥満男性に痩せたドナーから採取した糞便の液を入れ、別の9名の肥満男性に自身の糞便の液を入れた。 ・6週間後、痩せ型腸内細菌を受け取った男性達はインスリンへの感受性が上がっていた。そして細胞は以前より2倍近い速さでグルコースを貯蔵していた。 ・新たにインスリン感受性を獲得した男性達の細菌の菌種は、178~234種類も増えていて、多様性が増していた。 ・増えた菌種の中には、短鎖脂肪酸の酪酸をつくる細菌グループがいた。酪酸は肥満予防に重要な役割を果たすと考えられている。(腸の透過性) ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
・痩せた人と太った人の便を無菌マウスに移植した実験では、太った人の便では脂肪量が増加し太ってしまい、痩せた人の便では脂肪量や体重の変化は見られなかった。 ※参考資料『光岡知足(2015)腸を鍛える 祥伝社』
○ワシントン大学、ジェフリー・ゴードン ・"肥満の人"と"痩せている人"の腸内細菌をそれぞれ無菌マウスに移植。 →2グループのマウスを約一ヶ月間、同じ餌と運動量で育てた。 →痩せた人から移植されたマウスは特に変化なかったが、肥満の人から移植されたマウスは、脂肪がどんどん増え、太ってしまった。 ・肥満の人の腸内細菌は、主にバクテロイデスというグループに属する数種類の菌の数が極端に少ないことが分かった。 この菌はもともとヒトを肥満から守る働きをしていて、その菌が少なくなると肥満体質になってしまう。 ○オランダの研究チーム、メタボ患者への便移植 ・メタボ患者18人に対して行われ、9人には"痩せた人の便"を、残りの9人は"メタボ患者自身の便"を使って便移植が行われた。 ・6週間後にインスリン感受性を測定すると、自分の便を移植された人には変化がなかったのに対し、痩せた人の便を移植された人はインスリン感受性が回復していた。 ※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』
糞便バンク
●オープンバイオーム ・マーク・スミスとジェイムズ・バージェスが立ち上げた非営利の糞便バンク ・ドナーの募集、注入液の調合、サンプルの出荷までをする。 ・患者がしなければならないのは、ファイバースコープを使ってくれる医者を見つけ、糞便サンプルの費用250ドルを支払うだけ。 ・アメリカでは33の州にまたがる180の病院がオープンバイオームのサービスを利用している。 ○ドナーの適性検査 ・しばらく抗生物質を飲んでいない。 ・しばらく海外旅行に行っていない。 ・アレルギーや自己免疫疾患など腸内細菌がらみの病気になっていない。 ・代謝異常症候群や大うつ病障害になっていない。 ・HIVや大腸菌O157のような微生物に感染していない。 ・上記条件をすべて満たせる人は意外と少なく、オープンバイオームでは、50人の応募者に質問と検査をして1人の適格者を得られるのがやっと。 ※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』
ネットニュースによる関連情報
●健康な人の便移植が潰瘍性大腸炎の治療に有効? ・潰瘍性大腸炎の治療に、健康人の便に含まれる細菌を移植したところ、潰瘍性大腸炎の寛解(全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること)がみられた。