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共感覚の概要
●共感覚とは?
・一部の人にみられる特殊な知覚現象で、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる。
例えば、文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする。
・一部の人にみられる特殊な知覚現象で、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる。
例えば、文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする。
・共感覚は遺伝的に受け継がれるものであり、したがって先天的なものであるが、生育環境との相互作用も必要で、幼少期に文字、数字、食べ物のカテゴリーといった文化的に学習される事物に触れる必要がある。 ・多種多様な共感覚において、様々な感覚と概念とのあいだに永続的な結びつきができるのは、基本的には遺伝子の影響で、様々な脳領域どうしのクロストーク(混信)が多くなっているためである。 ※参考資料『リチャード・E.サイトウィック,デイヴィッド・M.イーグルマン(2010)脳のなかの万華鏡 河出書房新社』
・共感覚は、実際は人が誰でも持っている正常な脳機能なのだが、その働きが意識にのぼる人が一握りしかいない、と考えている。 脳のプロセスの大部分が意識より下のレベルで働いていて、共感覚もその一つなのでは? ・脳の多重コミュニケーションと分散システムを考慮すると、共感覚は辺縁系の海馬が大きく関わっていると考えている。 解剖学上、機能的にも場所的にも隔たった、様々な脳部位で処理された情報をまとめるのが可能な場所である。 ○海馬 ・海馬は主観的体験の知覚に関与している。 ・海馬は、体内環境を支配している自律神経系の組織も含めて、情報を送り込んでくるあらゆる領域に反応を返すことができる。 →共感覚者が多感覚体験のさなかに感じる快感が、自律神経系の反応によって付け加えることもできる。 ○辺縁系の発達 ・サルは皮質がかなり発達しているが、辺縁系の拡大は少ない。ウサギはこれと反対の傾向。 ・辺縁系と皮質が両方とも大きくなっているのは人類だけ。 ・辺縁系は、私たちが人間性そのものとみなす、情動的、主観的な特性と最も密接に関係している。 ・辺縁系は価値や目的や欲求の評価が行われる場所、すなわちプラスマイナスの"行動価"が割り振られる場所でもある。 ・皮質がしているのは、何が重要で何が重要でないかを辺縁系が判断できるように、外界の出来事についての細かな分析を提供すること。 ・理性(皮質)と情動(辺縁系)のバランスが重要。 ※参考資料『リチャード・E.シトーウィック(2002)共感覚者の驚くべき日常 草思社』
共感覚の特徴
●共通する診断的特徴 ○自動的かつ不随意的 ・自分の意思でする想像とは違って、共感覚は勝手に生じる。 ○空間的な広がり ・不随意の共感覚体験は、"見ること"とも"想像すること"とも違う。 ・共感覚体験が身体の外に投射されると言う人もいれば、共感覚の知覚は"心の目"に所在すると言う人もいるが、空間的な位置の感覚はあるようだ。 ○一貫性があり、単独で、具体的 ・共感覚体験は、時が経過してもおおむね一定していて変わらない。 ・共感覚体験が持つ特性は、温かい・冷たい、ギザギザ・なめらか、明るい・暗い、きらきら輝く・動きがない、といったもので絵画的なものや高度に複雑なものではない。 ○記憶力 ・共感覚の利点は何かとたずねると、"記憶の助けになる"という答えがよく返ってくる。 共感覚の知覚は、意味論的な意味が欠如しているので、引き金となる刺激よりも容易に、また鮮明に記憶される事が多いのかもしれない。 ・共感覚者の一部に直感像すなわち"写真記憶"と呼ばれているものを持っている。 直感像では、以前に見たことのある事物が、見た直後でもかなり長い時間経過した後でも、細部まで明確に再現される。 ○感情をともなう ※参考資料『リチャード・E.サイトウィック,デイヴィッド・M.イーグルマン(2010)脳のなかの万華鏡 河出書房新社』
共感覚とクロストーク
●正常な脳におけるクロストーク ・別々の感覚のチャンネルが相互に結合していて、クロス感覚の錯覚が生じる。 ・腹話術の錯覚では、耳はある方向からくる音を聞き、目は別の位置で動いている口を見る。そして脳は、その音が口の位置から発せられているという間違った結論を出す。 →脳の視覚野と聴覚野とのあいだに自然な相互結合があり、それが協調して統一された知覚を生み出している。 ・未成熟の脳には、脳領域どうしの結合や領域内の結合が、成人の脳よりかなり多く存在する。一部は"刈り込み"によって取り除かれ、それ以外のものが残される。 ・正常な脳にもクロストークはあり、共感覚者と非共感覚者との違いは、クロストークがあるかどうかではなく、どれくらいあるかという程度の違いである。 ●共感覚者の脳のクロストーク ・共感覚にクロストークが多いことが、脳機能画像研究で示されている。 ・クロストークがなぜ生じるかについて以下の説がある。 ○結合が多い(余剰配線説) ・新生児の時期の脳領域どうしの過剰な結合が、その後の過剰結合の刈り込み不足によって、過剰な結合が大人になっても存続していると共感覚になるという考え。 ・この考えの変形の一つに、共感覚者の脳にはニューロンの過成長があるという説もある。 ○抑制が少ない ・脳領域間の抑制がうまくいっていないことが共感覚の原因であるという考え。 正常な脳では抑制と興奮のバランスがとれているが、共感覚者の脳では抑制が小さくなっているという考え。 ・クロス感覚の配線はだれでも同じだけ存在するが、通常の場合は抑制を受けるため、強い効力を働かせることができない。 ・非共感覚者でも、瞑想中や深い没頭状態など一定の条件下で共感覚体験が起きるという事実もうまく説明できる。 ○可塑性が少ない ・"可塑性"とは、一度できた結合を変更する能力を指すが、可塑性が少ないと、最初にできた文字と色のペアリングが固定してしまう。 この説に基づくと、特定の文字と色のペアリングに過剰に接したら、どんな子どもの脳でも共感覚が引き起こされることになる。 ※参考資料『リチャード・E.サイトウィック,デイヴィッド・M.イーグルマン(2010)脳のなかの万華鏡 河出書房新社』
共感覚に似ているもの
○LSD ・ときどき、もともと共感覚の無い人に共感覚を生じさせる。 ・LSDで一度共感覚が生じても、その後毎回そうなるとは限らない。 ・LSDは、感覚器官からきて視床と呼ばれる中継所に至る下位レベルのシナプスを促進し、それと同時に、その中継所から先の高次の脳領域とを結ぶシナプスを抑制する。 また同時に、LSDは全体的な変化と辺縁系につながる回路のシナプスの特異的促進を引き起こす。 →辺縁系が刺激される一方、分析と細かい区別を担当する皮質が抑制されていることを示す。 ○写真記憶 ・直感像記憶は、一般には記憶が細部まで正確で消えないところから"写真記憶"として知られている。 ・共感覚者は細部にわたるすばらしい記憶に加えて、ずっと消えない共感覚そのものの記憶も持っている。 ・直感像保持者の皮質は、脳波形で見ると細部を回想している間抑制されている。 ○解放性幻覚 ・神経インパルスの流れが、初期段階の一次皮質で遮断されると、単純な盲目、ろうなどが起こるが、もっと下流のどこかで遮断されると、あるマップは処理されて、あるマップは処理されない、ということが起こる。解放性幻覚のときはこれが起こっている。 ・どの感覚においても一次皮質が損傷すると、下流の皮質領域がその影響から"解放"されて、外界からの情報をまったく受け取らないまま独自のシグナルを発生する。そして見えない部位や聞こえない部位、あるいは麻痺した部位に知覚を生じさせる。 ○感覚遮断 ・脳は絶えず感覚入力にさらされているが、意味のあるものはそのうちの一部だけで、ほとんどは除外されてしまう。 ・脳は原則として、外界からの入力を奪われると、独自の外的現実を投射しはじめ、"本当はそこにない"ものを進んで知覚する。 ・正常な人が感覚を遮断されると、中程度から重度の幻覚を生じるようになる。 はじめは定形に良く似たもの(幾何学計、モザイク、直線、列をつくった点など)が見え、遮断が長くなるにつれて、もっと発展した夢のような知覚の配置ができていく。 ○側頭葉てんかん ・側頭葉内側の辺縁系領域は、てんかんに対する閾値がたまたま非常に低いので、発作が辺縁系の中にとどまって、ほかの脳領域に広がることなく、精神性や運動性の症状を生じさせる。 ・側頭葉てんかんの感覚性および精神性の現象には、嗅覚と味覚を中心とする幻覚、体外離脱や逆転視などの感覚のゆがみ、既視感や未視感などの主観的体験、極度の宗教的至福感、確信感などがある。 ・てんかん性の共感覚は側頭葉てんかんの4%に起こる。 ○上記項目で共通してみられる点 ・大脳皮質の処理過程が混乱あるいは抑制状態にあって、同時に感覚入力が遮断されていること。 ・側頭葉と側頭葉内側の辺縁系が、意識の変性状態の発生に密接に関係している。 ※参考資料『リチャード・E.シトーウィック(2002)共感覚者の驚くべき日常 草思社』