大豆製品摂取と慢性疾患との関連

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 大豆、イソフラボンの概要
  2. イソフラボン摂取の目安量
  3. コレステロール値との関連
  4. 高血圧との関連
  5. 循環器疾患との関連
  6. 血糖値との関連
  7. がんとの関連
  8. 骨粗鬆症との関連

大豆、イソフラボンの概要

●大豆の成分
 
・大豆には、主要な成分としてたんぱく質、炭水化物、脂質のほか、ミネラル、ビタミン、カルシウムなどが含まれている。
 また、機能性があると言われている微量成分として、サポニン、レシチン、大豆イソフラボンなどが含まれている。
 
●大豆イソフラボンとは?
 
・大豆イソフラボンとは、大豆、特に大豆胚芽に多く含まれる複数の化学物質の総称。
・大豆イソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)と化学構造が似ていることから、植物性エストロゲンとも呼ばれる。
 エストロゲン受容体(エストロゲンレセプター)に結合することから、促進的あるいは競合的に種々の生体作用を発揮することが、試験管内の試験や動物実験で示されている。
 
●大豆イソフラボンが含まれる量(大豆イソフラボンアグリコンとしてmg/100g)
 
・豆腐 20.3
・納豆 73.5
 
●大豆イソフラボンの健康影響
 
・骨粗しょう症、乳がんや前立腺がん等の予防効果が期待される
・乳がん発症や再発のリスクを高める可能性も考えられる。
・妊婦、胎児、乳幼児、小児については、大豆イソフラボンを日常の食生活に上乗せして摂取することは、推奨できない
 
※農林水産省/大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A

 

・ゲニステインのような化学物質は、体内に最大でも24~36時間しか保持されない。このため、大豆の力を細胞内に完全に蓄えるためには、毎日の摂取が必要となる。
 
※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』

 
●エクオール

・イソフラボン代謝産物の一種。
・エクオール産生は、腸内細菌によって決まる。日本人では半数、欧米人の場合は20~30%しか持っていない。
・エクオールを産生可能な人に限ると、乳がん、前立腺がんの罹患率低減、更年期障害の軽減、骨量減少の抑制作用が強いことが統計的にも確認されている。
 
※参考資料『阿部尚樹,上原万里子,中沢彰吾(2015)食をめぐるほんとうの話 講談社』

 

・エクオールは大豆イソフラボンの仲間だが、大豆そのものには含まれていない。大豆の中に含まれるイソフラボンを、腸内細菌が変化させることで生まれる。
・エクオールは、大豆の中に含まれているイソフラボンよりも、高い効果を持っていることが分かってきた。
 
○エクオールを作る腸内細菌
・誰もが持っているわけではなく、調査によると日本人のおよそ2人に1人が持っている。
・エクオールを作れるかどうかは、尿検査をすると分かる。
・日本国内でも若い世代ではエクオールを作る腸内細菌を持つ人の割合が減っている。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』

イソフラボン摂取の目安量

●日本人の大豆イソフラボン摂取量
 
・平均的な日本人(15歳以上)の大豆イソフラボン摂取量は一日当たり18mg(大豆イソフラボンアグリコン換算値)
 
●大豆イソフラボンの安全な一日摂取目安量の上限値
 
・70~75mg/日とされるが、この量を毎日欠かさず長期間摂取する場合の平均値としての上限値であること、また、大豆食品からの摂取量がこの上限値を超えることにより、直ちに、健康被害に結びつくというものではない。
 
・日常の食生活に加えて、特定保健用食品としての、大豆イソフラボンの安全な一日上乗せ摂取量の上限値を30mg(大豆イソフラボンアグリコン換算)としている。
 
※農林水産省/大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A

コレステロール値との関連

・大豆たんぱくには胆汁酸と結合し便として排出させる効果があるので、胆汁酸の再吸収を抑える効果があるといわれている。
 胆汁酸はコレステロールから作られるので、胆汁酸の肝臓での再吸収を抑えれば、血液中のコレステロールが原料となって胆汁酸が合成されるので、その分、コレステロールを下げることができる。
 
※参考資料『近藤和雄(2015)人のアブラはなぜ嫌われるのか 技術評論社』

 

・1999年に米国FDAは、大豆食品はLDL値を低下させることによって、心臓病リスクを低減させる食品として販売できる、と決定した。
・LDL値の低下に加え、大豆はHDL値を上昇させることが示されている。
 
※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』

 
 
●他の研究事例
 

○先行または別の研究
 
・豆類は低GIであり、ゆっくりと消化される。また、動物性たんぱく質の摂取を減らしたり、完全に置き換えたりするために用いることもでき、トランス脂肪酸などの"悪い"脂肪も減らせる。
・豆類を取り入れた食事は、通常食よりも3割ほど満腹感を感じやすく、悪玉コレステロールを有意に減らすというメリットがある。
・別の系統的レビューとメタアナリシスでは、1日平均130gの豆類を摂っていると、悪玉コレステロールを5%減らし心血管疾患のリスクを低下させることができる、としている。
 
○カナダ・聖マイケル病院研究所の研究
 
・豆類を食べることの効果について調べた全て(21件)の研究に関する系統的レビューとメタアナリシスを行った。
・大豆やエンドウ豆、ヒヨコ豆、レンズ豆などの豆類を1日あたり130g食べていると、0.34kgの減量につながる。
 
※参考文献
Effects of dietary pulse consumption on body weight: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.

高血圧との関連

・同様の血圧レベルの患者で、40g/日の大豆たんぱく又は40g/日の乳たんぱくの負荷は40g/日の炭水化物負荷(コントロール)に比べて、収縮期血圧の軽度の減少を来したという報告もある。
 
・大豆たんぱくの降圧効果についてはメタ・アナリシスもあり、大豆たんぱくの中央値30g/日で有意の血圧低下を来したことが示されている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

発酵性大豆製品の摂取量と高値血圧の発症との関連について
 
・4,165人を対象に、大豆製品の摂取量と5年後の高値血圧発症との関連を調べた。
 
○結果
・発酵性大豆製品の摂取量が多いグループで高値血圧発症のリスクの低下がみられた。
 また、発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量についても発酵性大豆製品と同様の関連がみられた。
・大豆製品及び大豆製品からのイソフラボンの摂取量と高値血圧の発症との間には関連がみられなかった。
 
○推察
・これまでの研究において、大豆に含まれるイソフラボンには平滑筋の増殖を抑える作用があり、血管壁の肥厚を抑制することが報告されている。
・発酵性大豆製品には、イソフラボンアグリコンが多く含まれており、さらに、細胞の増殖や分化に関係するポリアミンが多く含まれることが報告されている。
 これらのことが、発酵性大豆製品及び発酵性大豆製品からのイソフラボンの摂取量が高値血圧の発症リスクの低下と関連がある可能性が考えられる。

循環器疾患との関連

・イソフラボンは強い抗酸化作用を持っていてLDLの酸化を抑制するなど、活性酸素を捕捉し、過酸化脂質の発生を抑え、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化を予防する可能性がある。
 
※参考資料『近藤和雄,佐竹元吉(2014)サプリメント・機能性食品の科学 日刊工業新聞社』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

イソフラボンと脳梗塞・心筋梗塞発症との関連について
 
・アンケート調査から、大豆、豆類(大豆以外)、イソフラボン摂取量のデータを得て、その後約11年の追跡期間中に発症した脳梗塞・心筋梗塞との関連を調べた。
 
○大豆の摂取頻度との関連
・女性では、大豆を週に5日以上摂取するグループで、週に0-2日摂取するグループに比べて、脳梗塞のリスクが0.64倍、心筋梗塞のリスクが0.55倍、循環器疾患による死亡リスクが0.31倍と低いことがわかった。
 同様の弱い傾向が、味噌汁、インゲンなどその他の豆類の摂取量と、循環器疾患による死亡リスクとの間に見られた。
 
○イソフラボン摂取量との関連
・女性で摂取量が最も多いグループの脳梗塞のリスクは、最も少ないグループの0.35倍、心筋梗塞のリスクが0.37倍、両方をあわせると0.39倍だった。
 また、循環器疾患による死亡のリスクも、摂取量のもっとも多いグループと次に多いグループの合計で、最も少ないグループの0.17倍と低くなっていた。
・調査開始時に閉経前か閉経後かで女性を分けて調べると、特に閉経後の女性で、イソフラボン摂取量が多いほど脳梗塞、心筋梗塞リスクが低いという関連が見られた。
 
○推察
・食事からのイソフラボンの摂取が、日本人女性、特に閉経後の女性で、脳梗塞と心筋梗塞の発症および循環器疾患による死亡リスクを低減させることが示された。
 一方、男性では同様の効果は見られなかった。
・イソフラボンには血中コレステロールや血圧、血糖耐性などを改善する効果がこれまでの研究から認められている。
 また、イソフラボンだけでなく、大豆に含まれるビタミンEやn-3脂肪酸にも、心筋梗塞や脳梗塞に対する予防効果が知られている。
・イソフラボンの構造は心筋梗塞に予防的である女性ホルモン(エストロゲン)と類似しているため、特に閉経のために血中エストロゲン濃度が低下した女性で、食事からのイソフラボン摂取の予防効果がはっきり示されたものと考えられる。

 
 
●他の研究事例
 

○岐阜大学の研究
 
・岐阜県高山市に住む男女約2万9千人について、1992年に健康状態や食習慣などを尋ね、16年後の生死や死因を確認。
 
・その結果、納豆を最も多く食べていたグループ(1日あたり約7g)の脳卒中による死亡リスクは、納豆をほとんど食べないグループより32%低かった。
 心筋梗塞などで亡くなるリスクも下がる傾向が見られた。
・納豆に含まれる"ナットウキナーゼ"という酵素には血栓を防ぐ作用があることで知られ、この酵素が関わっている可能性がある。
 ただ、豆腐や味噌等納豆以外の大豆食品から摂取したたんぱく質で評価しても、多く摂取しても心筋梗塞による死亡リスクが下がる傾向があった。
 
※参考資料
2017年2月19日 朝日新聞
脳卒中死亡リスク、納豆で3割減 血管詰まりを防ぐ酵素影響か 岐阜大

血糖値との関連

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病との関連について
 
・イソフラボンは、動物実験で耐糖能を改善することや、それにより抗糖尿病作用をもつことが示唆されている。
 ヒトを対象とした研究では、大豆を含む豆類の摂取が耐糖能や糖尿病のリスクの低下と関連していること、イソフラボン摂取の多い人は低い人に比べ、空腹時および食後のインスリン濃度が低いことが報告されている。
 この研究では、大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病発症との関連について検討した。
 
○全体の結果
・男女ともに大豆製品・イソフラボン摂取と糖尿病発症との有意な関連はみられなかったが、女性においてこれらの摂取が最も低い群に比べ多い群で糖尿病発症のリスクが若干低くなった。
 
○肥満、閉経との関連
・女性をBMIが25kg/m2未満(非肥満)と25kg/m2以上(肥満)、閉経前と閉経後の群に分け調べたところ、肥満女性と閉経後女性においてのみ、大豆製品・イソフラボン摂取が最も低い群に比べ多い群で、糖尿病発症のリスクが低くなった。
 一方、非肥満女性、閉経前女性ではこのような関連はみられなかった。
・男性では、喫煙習慣や肥満の有無で分けても関連はみられなかった。
 
○推察
・肥満や閉経後女性で糖尿病のリスクが低下したことについて、はっきりとした理由はわかっていない。
 実験研究で、大豆製品やイソフラボンがインスリン感受性(インスリンの効きやすさ)を改善することがわかっているので、インスリン感受性が低下している肥満者に予防的に働きやすいのかもしれない。
・女性ホルモン(エストロゲン)には糖の代謝や脂肪細胞の調節、脂質生成の阻害などの役割があるが、それと構造が似ているイソフラボンにも弱いながら同様の作用があると考えられている。閉経後女性でのリスク低下にはそのようなメカニズムが関与している可能性がある。

がんとの関連

・イソフラボン代謝産物の一種エクオールを産生可能な人に限ると、乳がん、前立腺がんの罹患率低減することが統計的にも確認されている。
 
※参考資料『阿部尚樹,上原万里子,中沢彰吾(2015)食をめぐるほんとうの話 講談社』

 

○前立腺がん
・アメリカの前立腺がん発症率は日本の10倍、ヨーロッパ各国も日本の数倍もある。原因の一つとして、大豆の摂取量の違いだと考えられている。
 大豆イソフラボンは前立腺がんを引き起こす男性ホルモンの作用を疎外する等して、がんを予防する効果が報告されている。
 ある研究では、大豆の摂取によって前立腺がんのリスクが26%減少すると報告されている。
・日本と韓国で行われた疫学調査によると、前立腺がん患者では、エクオールを作る腸内細菌を持つ人の割合が有意に低いことが示されている。
→エクオールを作れない人は前立腺がんになりやすい傾向にある。
 
○乳がん
・大豆イソフラボンが、"乳がんを予防する"という研究と"効果がない"という研究、逆に"乳がんを増やすのではないか"という矛盾した研究もあった。
・最近の研究では少なくともアジア人の女性では、大豆イソフラボンは乳がんを予防する側に働いていることが分かってきた。
・結果に違いが出る理由として、エクオールを作る菌がいるかどうかが関係していると考えられている。
 
※参考資料『NHKスペシャル取材班(2015)腸内フローラ10の真実 主婦と生活社』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について
 
・大豆製品の摂取量、それから計算されるイソフラボンの摂取量と女性乳がん発生率との関係を調べた。
 
○結果
・1日3杯以上みそ汁を飲む人達で乳がんの発生率が0.6倍となった。
 "大豆、豆腐、油揚、納豆"では、はっきりとした関連が見られなかったが、"みそ汁"ではたくさん飲めば飲むほど乳がんになりにくい傾向が見られた。
・アンケートの"みそ汁"、"大豆、豆腐、油揚、納豆"の項目から大豆イソフラボンの摂取量を計算し、乳がんとの関連を調べると、イソフラボンをあまり食べない人に比べ、たくさん食べる人のほうが乳がんになりにくいことがわかった。
・アンケート回答時に閉経していたか否かで分けてイソフラボンとの関連を調べると、閉経後の人達に限ると、イソフラボンをたくさん食べれば食べるほど、乳がんなりにくい傾向がより顕著に見られた。
 
○推察
・今回の調査では、"みそ汁"と"イソフラボン"は、食べれば食べるほど乳がんになりにくいという関連が見られたが、"大豆、豆腐、油揚、納豆"との間では関連がはっきり見られなかった。
 しかし、これからみそ汁だけが乳がん発生率と関連があると考えるのは早急。
・女性ホルモンは乳がんの発生を促進することが知られているが、女性ホルモンと化学構造が似ているイソフラボンは女性ホルモンを邪魔することによって乳がんを予防する効果があるのではないかと考えられている。実際、動物実験などではその予防効果が示されていた。
 従って、乳がん予防効果がイソフラボンを介したものだとすると、みそ汁だけでなく、イソフラボンを含む大豆製品一般に、その予防効果があると考えるのが自然。

 

血中イソフラボン濃度と乳がん罹患との関係について
 
・保存血液を用いて血漿中イソフラボン(ゲニステインとダイゼイン)濃度を測定し、それぞれ値によって最も低いから最も高いまでの4つのグループに分け、乳がんリスクを比較した。
 
○全体の結果
・ゲニステイン濃度の最も高いグループの乳がんリスクは、最も低いグループの約1/3(0.34倍)だった。食事からの摂取量と血清濃度を比較したデータを用いて1日あたりの摂取量に換算すると、353.9ng/mLはゲニステインで28.5mg、イソフラボンでは46.5mgに相当する。
・ダイゼインでは同様の関連は見られなかった。
 
○閉経の影響
・閉経前の女性では、ゲニステイン濃度の最も高いグループの乳がんリスクは最も低いグループの0.14倍だった。
・閉経後の女性では0.36倍と低いものの、統計的に有意というわけではなかった。
 
○ゲニステインで効果が見られ、ダイゼインでは見られなかった理由は?
・ゲニステインはダイゼインよりもエストロゲン受容体への結合力が強く、血中濃度が高く、半減期が長いことから、効果がよりはっきり現れたと考えられる。
・ダイゼインは腸内細菌によって作用のより強いエクオールに代謝されるが、その代謝は人によって異なり、実際に代謝できる人は30から50%程度とされている。
 したがってダイゼイン濃度との関連では、エクオールの影響で関連が見えにくくなっていたと考えられる。

 

大豆製品・イソフラボン摂取量と前立腺がんとの関連について
 
・食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、大豆製品・イソフラボン摂取量によるグループ分けを行い、その後に発生した前立腺がんリスクとの関連を調べた。
 
○前立腺がん全体の結果
・いずれについても、前立腺がんリスクとの関連がみられなかった。
 
○前立腺内にとどまる限局がんの結果
・大豆製品、ゲニステイン、ダイゼインの摂取量が多ければ多いほどが低下するという結果がみられた。
 
○前立腺を超えて広がる進行がんの結果
・ゲニステイン、ダイゼイン、大豆製品とは関連なかったが、みそ汁でリスクの上昇がみられた。
 
○イソフラボンと前立腺がんとの関係
・イソフラボンには、エストロゲン活性があり、血中テストステロンレベルを下げたり、発がんに関わるチロシンキナーゼの作用や血管新生を阻害したりすることなどにより、前立腺がんを予防するということが、多くの実験研究で報告されている。
 
○限局性前立腺がん
イソフラボンの摂取量が多いグループで限局性前立腺がんのリスクだけが低くなった。イソフラボンは"ラテントがん"から"臨床がん"に至るまでの期間を遅らせる作用があると考えられる。
 
※"ラテントがん"、"臨床がん"
前立腺がんには、臨床的に前立腺がんと診断された"臨床がん"と、死亡後、剖検によって見つかった"ラテントがん"があり、"ラテントがん"から"臨床がん"に進行すると考えられている。
 
○進行がん
・進行がんとの関連は、ゲニステイン、ダイゼイン、大豆製品ではみられなかった。
 このことから、限局がんと進行がんでは前立腺がんの性質が異なる可能性が考えられる。
 また、イソフラボンの予防効果のメカニズムの一つとして、腫瘍組織のエストロゲン受容体β(ER-β)を介した作用が考えられている。
 進行がんではER-βが少なくなると報告されているので、イソフラボンによる予防効果が作用しなくなることが考えられる。
 
○みそ汁
・進行性前立腺がんのリスクは、みそ汁の摂取量が多いグループで高くなった。今回の研究では進行がんの人数が少ないので、この結果は偶然という可能性が考えられる。

 

イソフラボン摂取と肝がんとの関連について
 
・アンケートから計算されたイソフラボン・大豆製品摂取量によって、3つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで肝がんのリスクが何倍になるかを調べた。
 
○結果
・男性では、イソフラボン・大豆摂取量と肝がんの発生リスクに関連はみられなかったが、女性では、イソフラボン摂取量の最も多いグループの肝がんリスクは、ゲニステインで約3倍、ダイゼインで約4倍だった。統計学的有意ではなかったが、大豆製品も約2倍にリスクがあがった。
 
○推察
・肝がんの発生率は女性の方が男性より少ないことから、女性ホルモン(エストロゲン)が肝がんに予防的に作用する可能性が考えられている。動物実験や疫学研究でも、その仮説が支持されている。
・イソフラボンはその構造がエストロゲンに似ているが、その働きはもともと体内に存在するエストロゲンの量によって異なり、臓器によってもさまざま。
 肝がんの場合には、もともとエストロゲンレベルが低い男性ではエストロゲン作用を、逆にエストロゲンレベルが高い女性ではエストロゲンを妨げる作用(抗エストロゲン作用)をするのではないかと推測される。
 したがって、イソフラボンを多く摂取すると、女性では肝がんに予防的なエストロゲン作用が妨げられることで、リスクが高くなる可能性が考えられる。
 
○男性には影響が出なかった理由
・男性ホルモン(テストステロン)の影響が考えられる。血中テストステロンが高いと肝がんリスクが高くなるという報告があるので、男性ではイソフラボンのエストロゲン作用がテストステロンの作用には及ばなかったのかもしれない。

 

イソフラボン摂取と肺がんとの関連について
 
・肺がんの最大の原因は喫煙だが、女性では生殖関連要因やホルモン剤使用との関連が報告されている。イソフラボンは化学構造が女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、肺がんの発生についても影響を与えるかもしれない。
 イソフラボン摂取と肺がんとの関連についての検討を行った。
 
○結果
・イソフラボンの摂取量が多い非喫煙男性で、肺がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示された。
 また、女性でも、統計学的に有意な結果ではなかったものの、同様の可能性が示された。
 
○推察
・肺がん細胞を用いた実験や動物実験などでイソフラボンが予防的に働くことが報告されているものの、そのメカニズムについては今のところよく分かっていない。
 イソフラボンが女性ホルモンの働きに影響を与えている可能性もあるし、女性ホルモンとは関係のない別のメカニズムで作用している可能性も考えられる。
・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。
 EGFR遺伝子変異のみられる肺がん細胞で、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。

 

血中イソフラボン濃度と肺がん罹患との関連について
 
・喫煙経験者が少ない女性で血漿中イソフラボン濃度と肺がんとの関連についての検討をおこなった。
 保存血液を用いて血漿中イソフラボン類(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、エクオール)濃度を測定し、それぞれの濃度とイソフラボン類濃度を足し合わせた総イソフラボン濃度について最も低いグループ(Q1)から最も高いグループ(Q5)までの5つのグループに分け、肺がんリスクを比較した。
 
○結果
・総イソフラボン濃度が最も低いグループに比べて、よりゲニステイン濃度が高い他の4グループで肺がんリスクが低下していた。
・ダイゼイン、エクオールなどその他のイソフラボンとのはっきりとした関連はみられなかった。総イソフラボンについては、ゲニステインと同じような関連性だった。
 
○イソフラボンが肺がんに与える影響
・ゲニステインはダイゼインよりもエストロゲン受容体への結合力が強いことが報告されており、イソフラボンがエストロゲンの働きに影響を与えている可能性と矛盾がない様にも考えられる。
 しかし、ダイゼインよりエストロゲン作用が強いといわれているエクオールに関しては関連性が見られなかった。
・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。
 EGFR遺伝子変異のみられる肺がんで、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。今後、イソフラボンと肺がんとの関わりを、EGFR遺伝子変異の状況も含めて探求することが、メカニズムの解明にも貢献することになると思われる。

 

イソフラボン摂取と胃がんとの関連について
 
・胃がんの罹患率は女性の方が男性の1/2-1/3程度と低いことから、エストロゲンの胃がんへの関与が推測されている。
 一方、イソフラボンは化学構造がエストロゲンと類似していることから、エストロゲン様に作用し胃がんの発生に影響を与える可能性が考えられている。
 これまでに大豆製品と胃がんとの関連が検討されてきたが、それらの結果は一致しておらず、予防的に働くという報告もあれば、関連がないというものや、リスクをあげるという報告もある。これは、大豆製品の発酵状態でリスクが異なっている可能性や、加工で用いる食塩や、一緒に摂ることが多い野菜などの影響を除外しきれていないことによる可能性が考えられる。
 この研究では、大豆製品ではなく、イソフラボンそのものに着目し、イソフラボン摂取と胃がんとの関連について検討している。
 
○結果
・全般的には、男女ともにイソフラボン摂取と胃がんとの関連はみられなかった。
 但し、女性において、外因性ホルモン剤使用歴で層別したところ、外因性ホルモン剤使用歴なしの女性では、女性全体と同様に関連は認められなかったが、使用歴ありの女性(女性全体の14%)では、イソフラボン摂取量が多くなるほど、胃がんリスクは高くなった。

 
 
●他の研究事例
 

○米国イリノイ大学アーバナシャンペン校からの研究報告
 
・マウスにMCF-7ヒト乳がん細胞を注射し、その後4種類の食事を与えた。
 食事の中には、①大豆粉をベースとしたもの(イソフラボンも含む)と②精製されたイソフラボンをベースとしたものの2種類が含まれていた。ともに同じゲニステイン量を含むように調整されていた。
 
・大豆粉食を食べたマウスでは、腫瘍抑制遺伝子であるATP2A3とBLINKが高度に発現しており、がん遺伝子であるMYBとMYCの発現レベルは低かった。
・大豆粉は全体的な免疫機能を強化していた。
・精製された大豆イソフラボンは、がん細胞の増殖を促進するがん遺伝子を刺激した。
 
※参考文献
Isoflavones in soy flour diet have different effects on whole-genome expression patterns than purified isoflavone mix in human MCF-7 breast tumors in ovariectomized athymic nude mice.

骨粗鬆症との関連

●ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)からの報告
 
○研究方法
・大豆ベースの食餌を与えたラットとコーンベースの食餌を与えたマウスで、骨の強さと代謝機能を比較。
・閉経の影響を評価するため、卵巣を除去した(閉経後を模す)ラットと、除去していないラット(閉経前を模す)との比較も行った。(以前の研究で、卵巣のあるなしのラットがヒトの閉経前後の良いモデルとなることを確認している。)
 
○結果
・卵巣のホルモンの状態に関わらず、大豆ベースの食餌を与えられたラットの頚骨の強度は、コーンベース食餌ラットより強かった。
・卵巣のあるラットもないラットも大豆ベースの食餌を与えると代謝機能が改善していた。
 
※参考文献
Soy protein improves tibial whole-bone and tissue-level biomechanical properties in ovariectomized and ovary-intact, low-fit female rats. 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください