※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
強迫性障害(Obsessive compulsive disorder,OCD)患者の特徴
・望みもしない思考や衝動、つまり強迫観念や強迫衝動が起こる。 ・一般にはOCDの患者は40人に1人。 ・家族や親戚にトゥレット症候群の人がいる場合には5人に1人、であることから遺伝的関連があるという説もある。 ※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』
強迫性障害が関係する脳の部位
●線条体、被核、尾状核 ○線条体 ・基底核の一部。 ・脳の中心部の深いところ。 ・被核と尾状核が並んでいる。 ・ある行動から別の行動へスムーズに移行させる働きをする。何かの運動をしようと決めると、邪魔になる運動や場違いの感覚は自動的に排除されて、意図する運動が速やかに効果的に実行される。 ※パーキンソン病患者は、線条体の"自動スイッチング"機能が壊れているので、動作がぎくしゃくし、行動を起こしたり中止したりする機能に問題が生じる。 ○被核 ・行動や身体の動きを律する"自動スイッチング"の役割を担う。 ○尾状核 ・思考をつかさどる脳の前部のための"自動スイッチング"とフィルターの役割を担う。 ・ある行動から次の行動へと"スイッチング(切り替え)"を行う。 ●眼窩皮質 ・脳の前部の下側にあって、眼窩のすぐ上に位置している。 ・感情と思考の連携が行われる。 ・脳の"過誤検知装置"で、何かが正しいか間違っているか、近づくべきか逃げるべきかを教えてくれる場所。 ●帯状回 ・脳の中心部にある大脳皮質のもっとも深い部分。 ・内臓や心臓をコントロールする中枢と結びついている。 ・洗浄強迫や確認強迫などの強迫行為をしないと何か恐ろしいことが起こるぞ、と感じさせるのはこの部分。 ※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』
強迫性障害患者の脳の状態
●PETスキャンの写真で分かったこと ○通常の人の手指の運動 ・運動に慣れる前は、考えて指を動かす必要があるので、大脳皮質の手指の動きをコントロールする部分の代謝活動が高まった。 ・運動に慣れきってくると、線条体が働くらしいことがわかり、大脳皮質のほうがごくわずかなエネルギーで済むようになった。線条体が"自動スイッチング"してくれる。 ○ハンチントン舞踏病患者 ・尾状核と被核はうまく機能しなくなり、一部は死滅したか死にかかっている。 ・"自動スイッチング"とフィルターが壊れているので、慣れきったはずの動作でも大脳皮質で一つ一つ処理する必要があり、大脳皮質で多大のエネルギーが消費される。 ○強迫性障害患者 ・尾状核の代謝が異常に活発。 ・症状が悪化するにつれて、眼窩皮質の活動が高まる。 ・眼窩皮質、尾状核、帯状回の活動に強い関連性が見られた。ブレインロック。 ・薬物療法、行動療法で鎮静化された。 ・機械的な行動ほど、大脳皮質が必要とするエネルギーは少ない。 ●強迫性障害(OCD)患者の脳で起きていること ・眼窩皮質は"何かまずいぞ"といった誤ったメッセージを送る。 ・心と情動と強く結びついた帯状回は"~といった強迫行為を行わないと恐ろしいことが起こるかもしれない"と思わせる。 ・尾状核では"自動スイッチング"が出来ないので、無意味な行動の反復を止め、もっと適切な別の行動に移ることが出来ない。 ○線条体 ・適切に機能している線条体はフィルターの役割を果たし、送られてくる感覚情報を"入口"で制御している。 ・OCDの患者の場合、尾状核に問題があって手を洗うとか確認するという進化論的には古い大脳皮質の回路のシグナルが入口を突破して(フィルターが壊れているので)繰り返し侵入してきてしまうらしい。 ・尾状核のフィルターと自動スイッチング(切り替え)に問題があって、一つの行動にはまりこんでしまう。 ・"自動スイッチング(切り替え)"機能が壊れているので、大脳皮質を使って意識的に手動で"スイッチング(切り替え)"を行わなければならない。 →繰り返し手動でスイッチング(切り替え)を行っているうちに線条体の代謝作用が変化し、スイッチングの具合がよくなる。 →皮質を使って自覚的に行動すれば、不調な線条体を回避できる。 →自覚的な行動を繰り返しているうちに"自動スイッチング"機能が回復してくる。 ○帯状回 ・帯状回と眼窩皮質はがっちりと組み合ってロックされている。 →このために、強迫観念や強迫衝動に激しい不安や恐怖が付随するらしい。 眼窩皮質や尾状核と密接につながっている帯状回が、不安や恐怖を増幅させる役割をしていると思われる。 →治療によって眼窩皮質と帯状回が切り離されて別々に動くようになると、不安や恐怖が大幅に薄れる。 ○眼窩皮質 ・OCD患者の場合、線条体のフィルター作用の故障のため、過誤検知装置が慢性的に間違って作動しているか、あるいは作動しなくなっているらしい。 →その結果、何かがまずいという考えや感情にしつこくつきまとわれることになる。 ・眼窩皮質の過誤検知システムは尾状核と強く結びついており、尾状核が別の行動にスイッチング(切り替え)することで眼窩皮質の回路が調整され、ON/OFFスイッチが切れる。 →尾状核の異常によって、過誤検知システムのON/OFFスイッチが入りっぱなしになり、"何かがまずい"という強烈な感情が消えなくなる。 →過誤検知システムが過剰反応が起こして、"何かがまずい"という激しい思いに攻めたてられ、この思いを振り払うために絶望的に強迫行為を繰り返すのでは? →"何かがまずい"という思いは反復行為によってますます強くなる。 ※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』
●過ちを犯したときに脳で起こる現象 ①"間違ったという感情"が生じる。何かが違っているという、心に引っかかる感覚。 前頭葉の眼窩前頭皮質で起き、辺縁系にある帯状回に信号を送る。 ②不安になる。過ちを正そうとする。 帯状回は、"この過ちを正さないと、なにか悪いことが起きるかもしれない"という不安を生じさせ、心臓や内臓に信号を送る。 ③過ちを正したときに、脳の中で自動的にギアチェンジが起こり、次の考えや行動に移ることができるようになる。このときに"間違ったという感情"と不安は消失する。 "自動的なギアチェンジ"は大脳基底核にある尾状核で起きる。尾状核は、考えが次々に流れるようにしている。 OCD患者の脳は、上記③で次に移ることができない。尾状核が"粘着"してしまう。 ○脳ロック状態 ・OCD患者の脳スキャンを見ると上記3つの部分が活発に同時発火しているのが分かる。 ・眼窩前頭皮質と帯状回はずっと活動していて"スイッチオンの状態"のままロックされているかのような状態になっている。 ・尾状核が自動的にギアチェンジしないために、眼窩前頭皮質と帯状回がずっと信号を発し続け、間違ったという感情と不安がどんどん強くなってしまう。 ・OCD患者が脳ロック状態になる原因は様々で、遺伝、感染による尾状核の腫れなどがある。 ※参考資料『ノーマン・ドイジ(2008)脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル』
強迫性障害の治療
●強迫性障害に効果のある薬 ・よく使われている薬は、特異的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。セロトニンを不活性化する再取り込みポンプの働きを阻害する薬。 ※参考資料『ジェフリー・M・シュウォーツ(1998)不安でたまらない人たちへ 草思社』
●ジェフリー・M・シュウォーツの治療方法 ①今起きていることは、強迫性障害の症状の発現によるものだと認識させる。これによって強迫観念の内容からは距離を置くことが出来る。 ②できれば楽しさを味わえる前向きな行為に集中する。ほかのことに焦点を絞ることによって、強迫観念の内容に吸い込まれずに、その周辺にとどまれるようになる。 強迫行為をする代わりに、なにか楽しい行為をすると、新しい回路が形成され、それがだんだんと強化され、強迫行為に取って代わる。 この治療法では、結果はすぐにはでない。神経可塑性の変化が起こるには時間がかかる。 ※参考資料『ノーマン・ドイジ(2008)脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル』