歯周病と長寿の関わり

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. バイオフィルム、虫歯の原因
  2. 唾液の作用
  3. 歯周病の概要
  4. 喫煙と歯の健康
  5. 歯の本数、サルコペニア(加齢による筋肉量減少)
  6. 糖尿病と歯周病
  7. 肥満と歯周病
  8. 認知症との関連
  9. 心疾患と歯周病
  10. 歯とがんの関係
  11. 予防
  12. 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
  13. ネットニュースによる関連情報

バイオフィルム、虫歯の原因

●虫歯の原因
 
・虫歯菌が歯の溝やくぼみ、歯と歯の間に溜まった食べ物を利用して"酸"をつくり、その酸によって歯の表面のエナメルや象牙質が溶かされ、虫歯ができる。
 
○虫歯菌だけでは虫歯にはならない
・虫歯菌は、砂糖と出会うとグルコシルトランスフェラーゼという酵素を分泌。
→砂糖はブドウ糖と果糖から構成されるが、ブドウ糖と果糖が分かれるときに放出されるエネルギーを利用して、上記酵素がグルカンという多糖体を作る。
→多糖体が歯の表面に糊のように貼りつく。
→できたばかりのグルカンは歯ブラシで取れるが、厚みが増していくと歯ブラシでは取れなくなる。
→厚くなってグルカンの中で虫歯菌はさらに増殖し、強固な膜になる。この膜をバイオフィルムという。歯垢(プラーク)はバイオフィルムの初期の段階。
→バイオフィルムの中で虫歯菌は守られ、繁殖していく。
→糖分を吸収して乳酸、酢酸等を分泌。
 バイオフィルムの中には酸を中和してくれる唾液も届かない。
→乳酸によって歯の表面のエナメル質が溶けていく。
 
●バイオフィルム
 
・歯垢をそのままにしておくと、虫歯菌は砂糖だけでなく、ほかの食べ物(主に糖質)と結びついて、バイオフィルムをつくる。
 
・バイオフィルムの中にいる細菌の死骸が固まったものが歯石。
 
・実験室での結果では、歯垢からバイオフィルムができるまで48時間。(唾液の量、歯磨きの仕方などによって異なる。)
 
・できあがったバイオフィルムが歯の表面に完全に定着するまでは3ヶ月かかるといわれている。その人の歯磨き技術や回数、歯磨き剤、唾液量によって異なる。
 
・バイオフィルムの中には虫歯菌だけでなく、歯周病を起こす細菌もいる。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

唾液の作用

○歯の再石灰化
虫歯によって破壊されたエナメル質を元に戻す働き。バイオフィルムが出来てしまうと、歯の表面に唾液が届かなくなり、虫歯が進んでしまう。
 
○抗菌作用
リゾチーム、ラクトフェリンなどが細菌の生育を抑制している。
 
○緩衝能
虫歯菌が出す"酸"を唾液に含まれている重炭酸が中和。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

・よく噛むことで唾液が大量に分泌される。
 
○炭水化物の消化
・唾液には、炭水化物を消化するアミラーゼという消化酵素が含まれているので、炭水化物の消化の助けとなり、胃腸での消化の負担を軽減させる。
 
○抗菌
・唾液が常に口の中にあることで歯の表面を洗い流し、細菌が歯に付くのを妨げている。
・リゾチームという抗菌酵素も含まれ、菌の細胞膜を溶かす作用がある。
 
○酸を中和
・唾液中の重炭酸ナトリウムが、細菌が作り出した酸を中和して中性に戻す。唾液が歯の表面を覆っている間は、虫歯の直接の原因となる酸が中和されるので虫歯を予防できる。
 
○再石灰化
・唾液中のカルシウム、リン酸、フッ素イオンなどが歯のエナメル質が溶けるのを防ぐ役割を果たし、歯の石灰化を促進している。
 
○抗酸化
・ストレスによる免疫力の低下や抗酸化作用で注目されている、ラクトフェリンという成分も含まれている。
・ペルオキシダーゼという酵素には、活性酸素を除去する働きがあるといわれている。
ペルオキシダーゼを充分利用するには、ゆっくりと30回程度噛む必要があるといわれている。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

歯周病の概要

・原因菌は、嫌気性グラム陰性菌。
 
・歯周病の細菌は虫歯菌に比べてその毒性が強い。細胞膜そのものに毒があるので、歯周病菌が歯肉に触れただけで炎症を起こす。
→子供時代は炎症で歯肉の細胞が壊されても新陳代謝が活発なので細胞が生まれ変わり、一晩で修復されるが、加齢に伴って新陳代謝がスムースにいかなくなり、細胞の再生速度が遅くなる。
→加齢に伴って歯周病のリスクが高まる。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

 

・虫歯菌は糖質を食べ、その結果分泌される"酸"によって歯を犯すが、歯周病菌は菌そのものが毒を持っている。
 
・歯周病菌は嫌気性の細菌で、歯と歯茎など空気の無いところにすみつく。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

喫煙と歯の健康

●喫煙と歯の健康
 
・毛細血管が収縮し血流が悪くなる。
・タバコによって歯肉が貧血を起こしたら、歯を支えている組織もダメになり、歯に悪影響が出る。
・長年の喫煙によりニコチンやタールで口の粘液が過敏になり、歯ブラシを口の奥に入れると反射的に吐き出したくなり歯磨きがしっかりできない。
 
●喫煙と歯周病
 
○大阪府が府内の事業所を対象に調査
・非喫煙者の歯周病の人は45歳以上が多かったのに対し、喫煙者は30歳以上で歯周病になっているという結果になった。
 
○アメリカ、喫煙と歯周病の関係を調べるNHANESⅢ調査
・全米12,329人を対象。
・歯周病患者では、喫煙者の割合は非喫煙者の4倍という結果になった。しかも吸う本数が増えるにつれて歯周病患者は増えていった。
 
○タバコと歯周病
・タバコは歯槽骨の中の破骨細胞を活性化させる働きがあり、骨が溶けて吸収されやすくなる。
・ニコチンは、歯槽骨と歯を結びつける歯根膜を作っている繊維芽細胞に作用して、粘着力と配列を妨げるということが分かっている。
・タバコを吸うと歯肉の毛細血管も収縮し循環が悪くなるので、歯周ポケットの酸素が少なくなり、嫌気性である歯周病菌が活動しやすくなる。
・歯周病になると、歯肉が赤く腫れてきて、出血をするが、タバコを吸っているとこの初期症状が出にくくなる。歯肉の毛細血管の循環が悪くなっているので出血しにくくなる。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

歯の本数、サルコペニア(加齢による筋肉量減少)

・よく噛めなくなってくるとたんぱく質の摂取が減ってきて、糖質が増えてくることがわかっている。ご飯や糖類は多少噛めなくても食べることができる。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

●加齢と歯の本数
 
・65歳から70歳の間に、平均で十数本の歯が抜ける。原因の大半は歯周病。
 
●一本抜けると他の歯にも影響
 
・一本歯が抜けると、対向する歯に圧力がかからなくなるため、歯が伸びてくる(歯が歯槽骨から出てくる。挺出(ていしゅつ))
→抜いたまま放置していると健康な対向歯もダメになってしまう。
 
・歯はそれ自体が健康であっても、隣の歯や対向する歯の影響を受けて抜け落ちる危険性が高くなってしまう。
→歯の数が減れば減るほど、他の歯がダメになるスピードが速くなる。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

糖尿病と歯周病

・炎症部位から放出される腫瘍壊死因子のようなサイトカインに、血液中の糖の取込みを抑制する作用があり、これが血糖値の上昇につながる。
 
・歯周病菌が血流中に出て体内をまわり、心臓や脳の血管に血栓を作る原因となる。
 
・歯磨きの改善で誤嚥による肺炎が減少
 
※参考資料『杉本正信(2012)ヒトは一二〇歳まで生きられる 筑摩書房』

 

・歯周病になると、慢性の炎症状態になり、腫瘍壊死因子a(TNF-a)というサイトカインの分泌が促進される。TNF-aは、インスリン抵抗性を高めるため、血糖値が上昇する。
 
・歯周病の原因となっている感染症は、脳でも炎症を促進し、脳細胞に悪影響を与えてしまう。
 
※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』

 

●歯周病とAGEs
 
・糖尿病やメタボの人は歯周病のリスクが高いことが分かってきた。
 
・歯周病が進むにつれて、糖尿病が進行したり、心筋梗塞などの血管系の病気のリスクが高くなることが分かってきた。
 
・歯周病のある糖尿病患者は歯周病のない糖尿病患者より血中のAGEsがより多いことが知られている。
 
・AGE-RAGE複合体の活性化によって歯周組織の炎症を強め、歯周病を進行させていると思われる。
 
※参考資料『山岸昌一(2012)老けたくなければファーストフードを食べるな PHP研究所』

 

●糖尿病→歯周病
・糖尿病
→糖を含んだ血液の浸透圧が高いため、水分が血液中に流れ込む。
→血液中の水分は不要と判断されるため尿として排出。
→からだのほうでは水分が足りなくなって喉が渇く。
→唾液が少なくなると細菌が繁殖しやすくなり、虫歯菌も歯周病菌も増加する。
・糖尿病になると免疫機構に障害が起こり、肺炎、腎盂炎、歯周病にかかりやすくなる。
 
●歯周病→糖尿病
・歯周病
→サイトカインの分泌が過剰になる
→インスリンの働きを悪くする。
 
・歯周病菌の毒素が、肝臓や脂肪細胞に作用して、インスリンを作りにくくすることもある。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

●糖尿病が歯周病のリスクを高める
 
・糖尿病で高血糖状態が続くと体の防御反応が低下し、肺炎やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなる。歯周病も歯周病菌の感染によるものなので、同じようにかかりやすくなってしまう。
 
○アメリカのデューク大学
・1971~2012年までのアメリカ国民保険栄養調査を分析。
・糖尿病患者は非糖尿病者に比べて、歯を失う本数が2倍になる。
 
●歯周病が糖尿病のリスクを高める
 
・歯周病は"全身病"と言われ、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、肺炎、口腔がん、早産・低体重児出産などの危険因子。
 
・歯周病菌や炎症物質が歯肉の血管から侵入し、全身に散らばり、悪影響を及ぼす。
 
※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』

肥満と歯周病

○2005年、大阪府立看護大学の吉田幸恵教授
・大阪府内の20~59歳の健康な男性1471人を調査。
・肥満者(BMIが25以上)の16.8%、普通の体重(BMIが18.5~25)の11.5%、低体重(BMIが18.5未満)の8.2%が歯周病だった。
・年齢が高くなるにつれて、肥満者の方が歯周病にかかる割合が増える傾向がみられた。
 
・内臓脂肪は、TNF-αなどの炎症を促進させる物質を分泌するので、この影響で歯周病が悪化するのでは?
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

○1998年、九州大学斎藤俊行教授
・20~59歳の241人を対象。
・BMIが20未満の人の指数を1にすると20~24.9の人で歯周病になる割合が1.7倍に、BMIが25~29.9の人で3.4倍、BMIが30以上の場合は8.6倍になることが分かった。
・体脂肪率が5%上がるごとに、歯周病になるリスクが1.3倍に増加する。
 
・歯周病になると歯周組織のいたるところに炎症が起こり、炎症を起こさせる腫瘍壊死因子TNF-αが、破骨細胞を刺激して骨を壊し歯槽骨の吸収を引き起こす。
肥満者の脂肪組織からTNF-αが大量に分泌されていることが確認されており、これが歯槽骨吸収に影響を及ぼしているのではと見られている。
・脂肪細胞から分泌されるPAI-1は、血液の凝固を促進し、虚血性心疾患に関与することが知られている。血中にPAI-1が増加すると歯周組織の毛細血管にも血液が流れにくくなるため、歯周病が進行する。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

認知症との関連

●残っている歯の数と認知症
 
○2003年、東北大学渡邉誠教授グループ
・仙台市70歳以上の高齢者1167人を対象とした調査。
・認知症テストの"正常群"の平均残存歯数が14.9本、"認知症疑い群"が9.4本と5本の差があった。
 
・歯と脳との間に強力な神経ネットワークが張られていて、噛むことで脳の血流が増加したり、脳の代謝が増大している。
→歯の数が減少すると噛み合わせの歯の数も減るので、脳への刺激、血流量が低下し、脳の萎縮につながる?
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

●アルツハイマー病と歯の数、名古屋大学医学部上田実教授
 
・健康な老人78人、脳血管性認知症の老人39人、アルツハイマー型認知症の老人36名を調査。
・アルツハイマー型認知症の老人は健康の人と比べて歯の数が平均して3分の1しか残っていなかった。入れ歯の使用頻度も健康な老人の2分の1しかなかった。
・アルツハイマー型認知症の老人は、歯の喪失数が多いほど脳の萎縮程度が上昇しているということが分かった。
・アルツハイマー病の老人は、健康な人より20年も早く歯を失っている。
・この調査から、歯が早くなくなり、しかもそれを放置しておくという要素が重なると、アルツハイマー病の発症リスクが統計の三倍になると結論付けている。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

心疾患と歯周病

●歯周病と心筋梗塞の関係
 
○1989年、フィンランドのマイラ博士の論文
・歯周病のある人は、ない人と比べると3割も高く心筋梗塞を起こしていた。
・歯周病患者は、心臓疾患が25%も高く、通常、心臓疾患にはまだかからないと思われる50歳未満の男性で、72%もかかりやすい。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

 

●歯周病と急性心筋梗塞
 
○フィンランドのK・マイラ博士
・心筋梗塞の既往のある患者と同じ地域に住んでいる一般人を対象に比較対照試験。
・歯周病患者は、一般の人と比べて3割程度高い割合で急性心筋梗塞の発作を起こしていた。

●歯周病と冠動脈性心疾患
 
○アメリカのデステファーノ博士
・14年間に渡り追跡調査を行った国民栄養調査(NHANESI)を詳細に検討。対象者9760人。
・歯周病患者は歯周組織が健康な人と比べて、冠動脈性心疾患を発症するリスクが25%高かった。
 しかも、50歳未満の男性は、72%も冠動脈性心疾患を発症しやすいという結果が報告されている。
 
※参考資料『波多野尚樹(2012)歯から始まる怖い病気 祥伝社』

歯とがんの関係

●歯の本数とがん
 
○愛知県がんセンター研究所の松尾恵太郎氏
・歯が残っている人ほど頭頚部がん(口腔、喉頭、咽頭がん)・食道がんのリスクが少ない。21本以上歯がある人と比べて歯が0本の人は3倍リスクが高まる。
 
●歯磨き回数とがん
 
○愛知県がんセンター研究所の松尾恵太郎氏
・856名の頭頚部がん(口腔、喉頭、咽頭がん)・食道がんの患者と2696名のがんではない人の歯磨き回数を調査。
・1日1回歯を磨く人と比べて、2回以上の人は2割ほどリスクが低くなり、逆に1回も磨かない人は7割高くなった。
・食べ物に含まれている硝酸が口の中にいる細菌によって、発がん物質であるニトロソアミンに変化するから?
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

予防

●フッ素
 
・"フッ素ジェル"という名称で薬局でも売られているものはフッ素が主成分の歯磨き剤。
・フッ素ジェルには、フッ化第一スズが使われている。フッ化第一スズには、抗菌作用があり、虫歯菌にも有効に働く。
・フッ素には、歯の表面のエナメル質の脱灰を防ぎ、再石灰化を促す作用がある。さらにフッ素は、口の中の細菌に働いて酸をつくることを抑制する。
・アメリカの国立がん研究所の研究で、フッ化物入りの飲料水を飲んでも発がんリスクは上がらないと結論付けている。
 
●唾液検査
 
・虫歯菌の数、歯周病の原因となる細菌の量、出血の有無。
・唾液の量、唾液が持っている緩衝能(過度に酸性に傾いた状態をアルカリ性に戻す)
 
●PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)
 
・歯科衛生士によって行われる機械的歯面清掃法。
・歯の表面にできてしまったバイオフィルムを完全に破壊することが出来る方法。
 
●3DS(デンタル・ドラッグ・デリバリー)
 
・トレーに薬剤を塗って、歯にはめる。
 
※参考資料『蒲谷茂(2013)歯は磨くだけでいいのか 文藝春秋』

多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス

※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●喫煙、禁煙年数と歯の喪失との関連について
 
・全部で28本の永久歯のうち何本残っているか、歯科医院において検査を行い、その結果にもとづいて、喫煙、禁煙年数と歯の喪失との関連を調べた。
 
○結果
・現在喫煙者でも過去喫煙者でも、9本以上の歯を失うリスクを喫煙本数別、または年数別に比べると、いずれも喫煙本数が多くなるほど、また喫煙年数が長くなるほど、リスクが高くなるという傾向が確認された。
・禁煙してから21年以上たっていると、非喫煙グループとリスクが変わらなかった。禁煙してからの年数が短くなるにつれてリスクが高くなる傾向があり、11年から20年では2.7倍、10年以内の最も短いグループでは3倍だった。
 
○推察
・たばこに含まれるニコチンなどの毒素は歯周組織を破壊し、間接的にも免疫力を弱め、歯周ポケットに菌の繁殖しやすい環境を作るなど、歯周病が進行して歯が抜けてしまうリスクを高める。
 また、喫煙と歯の根面にできるむし歯のリスクの関連を示す結果もある。

 

●歯周病原細菌感染と冠動脈性心疾患(CHD)
 
・歯周病がCHDの発症と進行に関係していることが多くの疫学研究で示されている。
 保存された血液を用いて、歯周病の原因菌として注目されている3種類の細菌の血漿抗体レベルを調べた。抗体レベルが高いと歯周病原細菌に感染していることを示す。
 
○結果
・年齢階級別に分析を行ったところ、ベースライン時の年齢が40-55歳のグループでは、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(A. actinomycetemcomitans)に対する血漿抗体レベルが低いグループに比べ、中程度のグループでは約3.7倍、高いグループでは約4.6倍と有意にCHD発症リスクが高く、量反応関係がみられた。
・ベースライン時の年齢が56-69歳のグループでは、プレボテラ・インターメディア(P. intermedia)に対する血漿抗体レベルの低いグループに比べ、高いグループでは約2.7倍と有意にCHD発症リスクが高く、量反応関係がみられた。

 

●出産回数と歯の健康の関連について
 
・出産回数と歯の健康との関連を調べた。
 
○結果
・出産回数の多いグループほど、残っている永久歯の数が少なく、出産回数4回以上の女性では出産回数0または1回の女性に比べ約3本少ない結果となった。
 
○推察
・妊娠・出産のプロセスに伴いホルモンや口の中の細菌のバランスが変化し、免疫力が落ちることで、むし歯に罹りやすくなったり歯周組織の破壊が起こりやすくなったりし、妊娠毎にそれが繰り返されることで、歯の喪失に至るリスクが高まると考えられる。
・今回の研究により、女性の出産回数が歯の健康に影響していることが示された。
 その理由の一つとして、妊娠中の女性の半数以上は歯科治療を避ける傾向があり、しかも妊娠中に歯が悪くなることは仕方がないと考えていることがある。
 しかし、妊娠中の歯の治療が胎児に悪影響を及ぼすという科学的根拠はない。

ネットニュースによる関連情報

●歯周病とがんとの関連
 
・歯周病のない者、軽度の歯周病の者と比し、重篤な歯周病の者は、がん発症リスクが24パーセント増加した。肺がんリスクが最も高く、次いで、結腸直腸がんであった。

 

●歯周病がアルツハイマー病の症状を悪化させる仕組み
 
・アルツハイマー病を発症するマウスに歯周病菌を感染させて、歯周病ではないアルツハイマー病のマウスの脳と比較したところ、5週間後、歯周病のマウスでは記憶をつかさどる海馬でアミロイドβの量が約1.4倍に増えていた。さらに、記憶学習能力を調べる実験でも、歯周病のマウスでは認知機能が低下していたという。
・研究者によると、歯周病のマウスの脳内では、歯周病菌から出ている毒素や免疫細胞から出されるサイトカインが増えていたが、それらによってアミロイドβが増加したと考えられるという。

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