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睡眠物質
・眠らないでいると睡眠物質がたまってくる。 ・脳脊髄液のなかに増えてくるプロスタグランディンというホルモン ・病気になって発熱しているときに眠くなるのは、炎症に関連して増えたサイトカインの影響。 ●昼寝と睡眠物質 ・30分以上昼寝すると、起床後から蓄えてきた睡眠物質を使い果たすので、夜、眠れなくなってしまう。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
●脳幹と睡眠物質 ・脳幹から睡眠物質が分泌され、脳脊髄液を介して脳全域に伝えられる。 ・ウリジンと酸化型グルタチオンが睡眠促進にかかわっている。液性機構。 ※参考資料『星作男(2010)睡眠という摩訶不思議な世界の謎を解く シーアンドアール研究所』
睡眠と覚醒の切り替えの仕組み
・視床下部と脳幹の睡眠に関連する働き、モノアミン/コリン作動性ニューロンについては以下の記事参照。
脳の各部位と睡眠の関係
・オレキシンによる睡眠の制御については以下の記事参照。
オレキシン、レプチン、グレリンと睡眠
脳の各部位と睡眠の関係
・オレキシンによる睡眠の制御については以下の記事参照。
オレキシン、レプチン、グレリンと睡眠
●睡眠と覚醒の切り替え ・覚醒(とレム睡眠時の脳の活動)は脳幹の"覚醒システム"の働きによって起こり、睡眠は視索前野の"睡眠システム"が覚醒システムを抑制することなどによって起こる。 ・睡眠と覚醒の切り替えは、視索前野の睡眠システムと脳幹の覚醒システムの力関係によって決まる。 ○視床下部、視索前野の"睡眠システム" ・睡眠ニューロン(睡眠時にのみ活性化されるニューロン)が存在。 →このニューロンは、GABA作動性ニューロンであり、脳幹のモノアミン/コリン作動性ニューロンを抑制する。 ○脳幹の"覚醒システム" ・上行性網様体賦活系(ARAS)の活動によって覚醒が起こる。 ・モノアミン/コリン作動性ニューロンは、視索前野の睡眠ニューロンを抑制する。 ●覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の切り替え ・レム睡眠時には、脳波を見ると覚醒時と似た波形が観察され、脳は活発に活動している。 レム睡眠は、"睡眠"と記述されてはいるが、脳は活発に活動していて、脳幹の"覚醒システム"の働きによって引き起こされる。 ①覚醒 ・モノアミン/コリン作動性ニューロンの両方が活動して大脳皮質を賦活。 ②ノンレム睡眠 ・モノアミン/コリン作動性ニューロンの両方が活動低下し、大脳皮質の活動も低下。 ③レム睡眠 ・モノアミン作動性ニューロンはノンレム睡眠の時よりさらに活性が低下し、ほぼ完全に停止。 ・コリン作動性ニューロンによって大脳皮質が強力に賦活される(覚醒時とは別のパターンで)。 ○ツープロセスモデル ・体内時計(視交叉上核)"睡眠負債"とのバランスによって決まる。 ・"睡眠負債"は、覚醒中に脳内に蓄積する睡眠物質。 アデノシン、プロスタグランジンD2など ・"睡眠負債"は眠る事によってのみ返済できる。 ※アデノシン ・多くの神経伝達物質が分泌されるとき、ATPが一緒に放出されるが、このATPが分解されてアデノシンができる。 ・アデノシンは、視索前野にあるGABA作動性ニューロンを活性化する。 →覚醒システムを抑制。 ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
●覚醒系と睡眠促進系 ○上行性網様体賦活系(ARAS)覚醒系 ・覚醒状態は上行性網様体賦活系(ARAS)と呼ばれる一連の神経的なつながりによって引き起こされ、継続することがわかっている。 ・ARASは脳幹にある神経節(ニューロンの集合)の集まりで、アセチルコリンをはじめとした多数の神経伝達物質を用いて、覚醒の信号を送る。 ○視索前野(睡眠促進系) ・視索前野のニューロンが下方の脳幹に向けて信号を送ると、脳幹はARASのニューロンと情報をやりとりして、そのスイッチを切り、覚醒の信号が脳の残りの部分に届かないようにして睡眠を促す。 ・さらに視索前野のニューロンは脳幹の細胞が音やそのほかの外部刺激に関する情報も伝えられないようにする。 ・この領域のニューロンはノンレム睡眠のあいだに最も活発に働き、レム睡眠では活動が鈍り、覚醒時には最小限しか働かない。 ○覚醒系と睡眠促進系のバランス ・ARASと視索前野は互いに情報のやりとりを行っていてつながり合っている。それぞれが相手の働きを抑制する。 ・疲れがたまって睡眠の圧力が高まりや生体リズムなどによってこのバランスが変化し、覚醒・睡眠に傾く。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
●睡眠/覚醒サイクル ○覚醒 ・網様体賦活系(RAS)は脳幹にある細胞の集合体で、神経伝達物質(セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリンなど)の混合物を利用して視床と新皮質を刺激し、覚醒を促す。 ○睡眠 ・基本的にRASを停止させることによって機能する。 ・これが動き出すのは、中脳の前部にある細胞集団、腹外側視索前野(VLPO)が、RASの細胞の働きを止めるためにGABAという神経伝達物質を送るとき。 ○概日リズム ・24時間のリズムは、視床下部の一部をなす視交叉上核という領域にある別のニューロンの小集団によって統制されている。 ・視交叉上核は、視床や視覚野といった意識を伴う視覚系を迂回し、網膜から直に光の情報を受け取る。 ※参考資料『ティモシー・ヴァースタイネン(2016)ゾンビでわかる神経科学 太田出版』
覚醒とレム睡眠
・レム睡眠時の脳は、覚醒時と同等またはそれ以上に強く活動しているが、レム睡眠時と覚醒時は、以下のような違いがある。 ○覚醒 ・五感を通して入力されてくる外界の情報を処理しながら、それに応じて脳が活動している。 五感の情報は、大脳皮質で解析を行うとともに、大脳皮質と並列なシステムである大脳辺縁系において"重み付け"がされる。 大脳辺縁系は、得られた情報の重要性をはかるシステムといってもよい。自分に取って喜ばしいことか、望ましくないか、恐怖の対象か、などを判定している。 ・外界の刺激に応じて、大脳皮質が賦活。 ○レム睡眠 ・外界との情報のやりとりはなくなっている。 ・脳を賦活する刺激は、内的に発生している。 →脳幹の橋の橋被蓋にあるコリン作動性ニューロンが自発的に活動し、それが大脳皮質を賦活している。 同時に視覚連合野や大脳辺縁系も刺激するので、夢は情動性に富んだ視覚イメージになる。それは脳が作り上げた幻覚だが、前頭前野外背側部の機能が低下しているので現実と思ってしまう。 ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
時計遺伝子
●コアループ ・6個のコアになる時計遺伝子によって体内リズムが作られている。 ピリオド遺伝子(パー1、パー2)、クリプトクロム遺伝子(クライ1、クライ2)、クロック遺伝子、ビーマルワン遺伝子。 ・クロックとビーマルワンは協同してして働き、ピリオドとクリプトクロムの遺伝子からタンパクを作る。 ・時計遺伝子から時計タンパクが生まれる化学反応のことを転写というが、作られた時計タンパクが十分量になると、この化学反応は抑制される(ネガティブフィードバック)。 できあがった時計タンパク自身が細胞核に入り込み、転写を抑制する。このネガティブフィードバックの仕組み全体をコアループといい、この一連の周期が約24時簡になっている。 ●補助ループ ・コアループを保護するいくつもの補助的なループがある。 ・これに関連する核内受容体という分子は、脂質の代謝や産生、血管の炎症を調節する元締めでもあり、リズムが狂うと肥満や糖尿病、がんなどにつながる原因となっている可能性がある。 ・時計遺伝子群は、脳にだけではなく、肝臓・腎臓・心臓・血管など体のほとんどの細胞に存在することが明らかにされている。 ・脳の時計が親時計でそれ以外を子時計と呼ぶ。子時計は親時計に連動しつつも独立して個々に時を刻んでいる。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
●時計遺伝子と朝型、夜型 ・朝型になるか夜型になるかの傾向は遺伝的に決まることがわかってきた。 ・睡眠/覚醒の性質をつかさどる遺伝子は、Period(PER)と呼ばれる時計遺伝子。 ・朝型の人は夜型の人よりもずっと早い時間に疲れ、睡眠不足に対応できず、大幅に集中力をなくす。夜型の人は、午前中はうまく機能しないが、睡眠不足に強く、眠らなくても物事をうまくこなせる。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
様々な生体リズム
※食事と生体リズムとの関連は以下の記事参照。
食事の時間、種類と睡眠、生体リズムの関係
食事の時間、種類と睡眠、生体リズムの関係
●生体リズム ・朝起きて15時間経つと眠くなるようにセットされている。 ・朝の目覚めから12~15時過ぎは眠れない時間帯。 ・眠りは90分周期で、1回目の眠りのときに最も多くの成長ホルモンがでる。 ・4~5回目の眠りのときに副腎皮質ホルモンがピークに達する。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
・快適な眠りのためには暗くて肌寒い部屋(昼間より2~4度)が向いている。 人間は深部体温を調整し、就寝時と起床時を知らせる体内時計を備えている。部屋が暖かすぎると体内時計は実際の時刻に関係なく起床時だと判断する。 ※参考資料『トム・ラス(2015)座らない! 新潮社』
・体温は、日中に上昇して夕方にピークを迎え、その後下がり始めて、早朝にもっとも低くなる。しかし、午後の早い時間にわずかに下がる。昼食後、一休みしたくなるのはその時間帯。 明るい光、特に日光を浴びると、日々のリズムがリセットされ、睡眠覚醒周期を安定させることができる。体を動かすことも光と同じく、生物学的な時計をリセットし、正しく保つのに役立つ。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
体内時計の老化
①生活にメリハリがなくなる ・メラトニンや性ホルモンなどの分泌が低下し、活動と休息、体温の変動、水分補給などの行動リズムが昼夜を通して不明瞭になってくる。 ・十分な睡眠が得られなくなる。睡眠リズムを調節するメラトニンの減少、体温あるいは活動に関係する副腎皮質ホルモンのリズム性が失われてしまうため。 脳の松果体から分泌されるメラトニンが脳の親時計に働きかけることで、乱れを修復し、正しい体内時計を維持しているが、メラトニンが減少すると、この働きも弱くなってしまう。 ②早寝早起きになる ・サーカディアンリズムの位相が前進する。 ③一日が短く感じる ・生体リズムの周期が短くなってくる(若いときの25時間から24時間へ)ために、朝も夜も若いときよりも早く訪れるような感覚を覚え、一日が短く感じられる。 ④生体リズムが太陽とうまく同期しなくなる ・70代に入ると脳と細胞の時計とを連絡する神経線維の数が減ってくる。80歳を超えると脳の時計細胞の数も減ってくる。脳の体内時計のからのシグナルが細胞の時計まで届かなくなる。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
昼食後の食事で眠くなるのはなぜ?
・"消化のために胃腸に血が集まり、脳に血が行かなくなって眠くなる"と言われているが、脳への血流は重要で最優先されるので別の理由。 ①概日リズムを司る視交叉上核からの出力の日内変動。昼過ぎには覚醒させる方向への出力が一時的に低下すると考えられる。 ②満腹になって血糖値上昇 →オレキシン作動性ニューロンの活動は低下 →眠くなる? ※参考資料『櫻井武(2010)睡眠の科学 講談社』
●どの臓器に血液が優先的に配分されるか ・消化器:30%、腎臓:20%、脳、骨格筋肉:15%ずつ、脳:5% 食事の後、頭がボーっとしたり眠くなったりするのは、消化器への血流が優先されるので、頭に血が回らなくなるから? ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
●昼食後の眠気 ・"食事をすると胃腸に血液が集まり、脳が血液不足になって眠くなる"という説明があるが、食事をした程度で脳の血液が不足することはない。 血糖値が上昇することで副交感神経が優位になり眠気を催すことは考えられるが、脳への血流が滞って眠気が高まることは考えられない。 体内時計によって1日2回、眠気のピークが設定されており、1回目が13~14時であり、2回目が夜眠る前の21~22時。 ※参考資料『梶本修身(2016)すべての疲労は脳が原因 2 集英社』