※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。
- 睡眠不足の悪影響
- 睡眠不足と食欲
- 睡眠不足と糖尿病などの生活習慣病
- 睡眠不足と免疫
- 睡眠不足と認知症
- 睡眠不足とストレスホルモン
- 睡眠不足とうつ病
- 睡眠と疲労
- 眠っているのに休んだ気がしない(非回復性睡眠)
- シフトワークと健康リスク
- ネットニュースによる関連情報
睡眠不足の悪影響
○ハーバード大学のメディカルスクールの調査 ・4時間の睡眠不足は、ビール6本の摂取に相当する影響を与える。 ※参考資料『トム・ラス(2015)座らない! 新潮社』
○2003年のピッツバーグ大学のメアリー・デュー博士らの研究報告 ・平均年齢75歳の米国人のグループを約19年間追跡調査。 ・寝付くまでに30分以上かかる人や熟睡感を得られない人の余命が短かかった。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
・不機嫌、幻覚、妄想、記憶力の低下、集中力の不足、決断力の欠如につながる可能性がある。 ●車の運転と寝不足 ・アルコールの影響を受けた脳に似た反応 ・覚醒している時間が1時間経つごとに、血中アルコール濃度が0.004%増えるのと同じ影響。5時間でアルコール飲料の平均的な一杯分。 ・睡眠不足によって警戒心と注意力を失われる影響はカフェインによって完全に払拭できる。飲んで20分ぐらいで効き目が出る。 ●知覚の変化 ・においの種類を嗅ぎ分ける能力が落ちる。 ・酸っぱい味に気づきにくくなる。 ・聴覚も少し損なわれる(二つの音のどちらが先に聞こえたかの判断が難しくなる)。 ・右側の視野に入るものにより強く注意を払うようになるなど、視覚にも変化が生じる。 ・睡眠不足の脳では、注意力を維持するのに使われている脳の領域のネットワーク(前頭前皮質、視床、大脳基底核、小脳)の反応が大幅に鈍っている。 ●思考過程 ・実際の思考過程については、最も複雑な課題(創造力、直感的なひらめき、アイデア、柔軟性などが求められる)をこなす力が睡眠不足によって低下する。 ・上記複雑な課題は脳の一番前にある前頭前皮質で処理されるので、睡眠不足の影響を受ける。 ・IQテストや批判的思考のような論理的推論を必要とする課題ではあまり影響は受けない。前頭前皮質を使っていないため? ●変則的な決断 ・睡眠不足になると危険を冒す傾向が強くなる。 ・報酬系領域で異常なほどの強い反応が見られる一方、うまくいかなくてマイナスの結果になっても懲罰系領域には予想される反応が起きない。 ●道徳的判断 ・道徳的判断も鈍らせ、反応が遅くなるうえに、いつもの状況での自分の道徳的態度を外れた選択をする確率が高くなる。 カフェインで注意力と慎重さは回復できても、知的・道徳的判断に関しては解決できない。 ●感情 ・苛立ち、我慢ができず、人に厳しくなり、思いやりが消え、自己中心に陥りがち。 ・徹夜をして気分障害の診断テストを行うと、うつ病や精神病質だと診断されてしまうこともある。 ・疲労がたまると否定的なフィルターを通してとらえるようになる場合がある。 ある研究では、普段否定的な感情を取り除く役割をしている前頭葉の領域が、睡眠不足になると正常に機能しないことがわかっている。 ●学習 ・海馬の活動が著しく低調になる。海馬を十分に動員できないと学ぼうとしている情報が神経回路に正しく刻み込まれず、後で記憶が薄れてしまう。 ・不快・否定的な情報には影響を与えない。 否定的な情報は進化の面からは重要な意味を持つことが多いため? ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
睡眠不足と食欲
・睡眠不足でホルモンが影響を受け、過食傾向になる。 男性の場合、食欲を刺激するホルモンであるグレリンの値を引き上げる。 女性の場合、食欲を抑えるホルモンGLP-1の量が影響される。 ・睡眠不足によってレプチンが急に減少する。 人は満腹になると、脂肪細胞がレプチンを放出し、脳に食べるのをやめるように伝える。 レプチンの濃度が低い人は過食しがち。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す 三笠書房』
・睡眠は食べすぎを防ぐホルモン"レプチン"の分泌を増やす一方、食欲を刺激するホルモン"グレリン"の分泌を減らす。 →睡眠不足に陥ると空腹感を覚えるうえに、高カロリー・高炭水化物の飲食物を欲するようになる。 ※参考資料『トム・ラス(2015)座らない! 新潮社』
・睡眠は、人為的に操ることのできないホルモンのリズムを制御している。ホルモンを分泌し、調整するには、規則正しい睡眠と覚醒が必要。 ・睡眠が不足するとグレリンとレプチンの分泌が乱れる。二晩にわたって4時間しか眠らないと、レプチンは20%減少し、グレリンが増える。空腹感と食欲が著しく高まり、甘いものや塩辛いスナック菓子、でんぷん質の食物といった、高カロリー、高炭水化物の食品を食べたくなる。 ・ニューヨークのコロンビア大学で行われた研究では、一晩に2~4時間しか眠らない人は6~9時間眠る人と比べて肥満になる確率が73%高かった。5時間は50%、6時間は23%高かった。 睡眠時間が短いということは、より長く起きているということであり、食べ物に誘惑される時間、空腹を覚える時間も長くなる。起きている時間の活動量が少ないと摂取するカロリーの方が多くなってしまう。 ※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』
●寝不足と肥満 ・寝不足、寝すぎの人はBMIが高い傾向がある。 ○睡眠時間の短さと肥満の関係 ・同じ人の睡眠時間を9時間、7時間、4時間などにして調べてみると、睡眠時間が短いほど食欲を増すホルモンの分泌が増えると同時に、食欲を抑えるホルモンも低下することが分かっている。 ※参考資料『三島和夫,川端裕人(2014)8時間睡眠のウソ。 日経BPマーケティング』
・睡眠が4時間くらいに制限されるとレプチンレベルが下がり、食欲を増すグレリンを増加させる。 レプチンは食欲と体重を調整したり、体内にどれくらいのエネルギーがあるかを脳に教えたりするだけでなく、多くの動物、特にげっ歯類では生殖にも影響する。 ・レプチンとグレリンの変化と睡眠や摂食との関連は、初期の祖先は、日が長く食物が豊富な夏の間はたくさん食べて脂肪をため込むので、一年のうちそのころはきっと眠りが短かった? 収穫の少ない暗い冬に備える生き残りのためのメカニズムであって、冬には体脂肪に頼り、夏より長く眠った? ※参考資料『ジム・ホーン(2011)眠りの科学への旅 化学同人』
睡眠不足と糖尿病などの生活習慣病
・睡眠の過不足は肥満になりやすく、糖尿病の発症リスクが増大する。 ・睡眠時間7~8時間を1としたとき、5時間未満になると糖尿病の発症リスクが2.5倍、6時間で1.7倍、9時間以上で1.8倍。 ※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』
●睡眠不足と糖尿病 ・2001年に発表された研究によると、毎晩6時間以下の睡眠しかとらない人は体重が増えやすく、結果的に2型糖尿病になるリスクが高い。 ○マンデールらによる2001年の研究 ・健康な男女(23~42歳まで)のうち、8日間連続で毎晩の睡眠が6時間半以下の人と、7~8時間の人を比べた場合、6時間以下のグループはインスリンに対する感受性がはるかに低かった。 ・マンデールは、健康な成人でも慢性的睡眠不足が続くと、インスリン機能が損なわれるため、将来、糖尿病になるリスクが生まれると提言する。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
・大量のデータを基にした調査で関係性を指摘されているものとして、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、がん、うつ病などがある。 ・不眠症になると糖尿病のリスクが1.5倍になると言われている。 ※参考資料『三島和夫,川端裕人(2014)8時間睡眠のウソ。 日経BPマーケティング』
・不眠になると自律神経が高ぶり、血圧が上がる。なかでも夜間高血圧が著しく、心臓病や脳卒中が起こりやすくなる。 ・不眠が重なると、昼間の眠気で活動量が減り、肥満になりやすい。 ・目覚めのホルモンといわれる副腎皮質ホルモンが増える。 これによって健康な体から分泌されるインスリンの働きを弱めるので、糖尿病になりやすくなる。 また骨を溶かす働きがあるので骨粗しょう症にもなりやすくなってしまい、コレステロール値も上がり、動脈硬化が進む。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
睡眠不足と免疫
・数日間、被験者の睡眠を遮断し、その後、C型肝炎ワクチンを摂取すると、睡眠を遮断された人々は、そのワクチンに反応してできる抗体の量が対照群より50%も少なかった。 →免疫機能が半分に落ちている。 ※参考資料『ジョン・J.レイティ(2014)GO WILD野生の体を取り戻せ! NHK出版』
○ビゴンツアスらの研究 ・20代、30代の健康な男女が8日間連続で毎晩6時間しか睡眠をとらなかった場合、心臓病や他の慢性疾患と関連する血液マーカー、炎症性タンパクIL-6の数値が40~60%も増加した。 ・この結果、睡眠不足によって免疫細胞の産生と活性度が下がることを発見したモルドフスキーらの証拠が裏付けられた。 ・睡眠が妨げられると、IL-6値とともにコルチゾール値が増加することも分かった。 ※参考資料『ロナルド・クラッツ,ロバート・ゴールドマン(2010)革命アンチエイジング 西村書店』
・一週間の睡眠不足で711の遺伝子の機能が変化した。これらの遺伝子には、ストレス、炎症、免疫、代謝に関わるものも含まれる。 ※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す 三笠書房』
・ストレスホルモンのコルチゾールを増やし、体温を少し下げ、免疫機能を低下させる。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
・睡眠不足で免疫系の問題が起きて、感染症にかかりやすくなることが分かっている。 自然免疫で大きな役割を果たしているナチュラルキラー細胞は、日中は非常にアクティブになっている一方、夜間はしずまる、というリズムがあるので、シフトワークなど睡眠リズムが狂うと感染症リスクが高まる。 ※参考資料『三島和夫,川端裕人(2014)8時間睡眠のウソ。 日経BPマーケティング』
睡眠不足とうつ病
・不眠とうつは相関が高いので早期発見の糸口として捉えられている。 過去の多数の調査をまとめると、慢性不眠はうつ病の発症リスクを2~3倍、平均で2.1倍に上昇させることが分かっている。 ※参考資料『三島和夫,川端裕人(2014)8時間睡眠のウソ。 日経BPマーケティング』
・数倍の頻度でうつ病などの精神疾患を引き起こす。 ※参考資料『大塚邦明(2014)眠りと体内時計を科学する 春秋社』
眠っているのに休んだ気がしない(非回復性睡眠)
・何の問題もなく眠りにつき、ぐっすり眠る。それなのに目を覚ましたときに休んだ気がしない。 不眠症の人と同じ種類の問題(日中に眠い、疲れる、エネルギーが不足する、集中力や記憶力が足りない、イライラする、ストレスを感じる、気分が落ち込むなど)を持っている。 ・完全な答えは見つかっていないが、少なくとも一部には徐波睡眠が関係していると考えられる。 通常の長さの徐波睡眠を確保できていない。徐波は脳をリセットし、リフレッシュして翌日の学習に備える重要な役割を果たすため、徐波がなければ疲れを感じて元気が出ず、集中できない、と考えることができる。 ※参考資料『ペネロペ・ルイス(2015)眠っているとき、脳では凄いことが起きている インターシフト』
●アメリカ、"ライフスタイルと疾患との関係を分析する追跡調査(HPFS)" ・不眠症と申告した約23,500人を04~10年までの6年間追跡調査。 ・入眠障害と非回復性睡眠(NRS:睡眠を取っているはずなのに疲れが取れない)の男性たちは、それ以外の不眠症の男性よりも死亡率が高かった。とりわけ心疾患での死亡率は約30~55%もアップしていた。 ●2016年1月、トロント大学の研究 ・315人の死亡した高齢者を解剖して脳の状態を調べた。 ・睡眠途中で目覚める回数の多い人は脳の動脈硬化が進んでいた。 ※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』
シフトワークと健康リスク
・糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、がん、うつ病などについてしっかりしたエビデンスがある。 ・前立腺がんが8年のシフトワークで3倍ほど、乳がんは15年以上で1.36倍、子宮がんは20年以上で1.47倍、直腸がんは15年以上で1.35倍。 ※参考資料『三島和夫,川端裕人(2014)8時間睡眠のウソ。 日経BPマーケティング』
ネットニュースによる関連情報
●慢性の不眠症、断続的な不眠症と死亡率との関連 ・慢性の不眠症の人の死亡リスクは、不眠症でない人に比べて58%高く、死亡原因としてはがんより心血管疾患が多かった。 ・慢性の不眠症の人では、死亡率の独立した危険因子であるC反応タンパク質(CRP)の血清レベルが、有意に上昇していた。
●睡眠不足で夜間血圧上昇 ・制限睡眠群(夜間に4時間の睡眠)と普通睡眠群(夜間に8時間の睡眠)とを比較すると、収縮期血圧/拡張期血圧は、それぞれ平均115/64mmHgと平均105/57mmHgであった。 ・制限睡眠群では期待される夜間の血圧低下が抑えられていた。また、夜間の心拍数が普通睡眠群より、制限睡眠群でより高かったことがわかった。
●眠るまでに14分以上かかる人は高血圧のリスクが高い? ・眠りに落ちるまでの時間が14分以上の人は、高血圧の見込みが300%増加し、17分より長い人は、400%に増加した。
●睡眠時無呼吸や深い眠りの時間が少ないと脳に悪影響 ・睡眠時無呼吸時や、肺気腫などの症状により睡眠中の血液に酸素があまりない人は、血中酸素レベルが高い人よりも、マイクロ梗塞と呼ばれる脳組織の小さな異常がある可能性が高いことが明らかとなった。これらの異常は、認知症の発症に関連している。 ・徐波睡眠時間が最も多かった群に比べ、徐波睡眠時間が最も少なかった3群に、脳細胞の損失が見られた。
●長期のシフト勤務で認知能力が低下? ・シフト勤務をしていた人は、通常の勤務時間に働いていた人よりも、記憶・処理速度・全体的な脳力に関するスコアが低かった。 ・シフト勤務をしたことがなかった人と比較して、10年以上シフト勤務をしていた人は、6.5年分の認知機能低下に相当するほど全体的な認知・記憶スコアが低かった。
●シフト勤務で糖尿病のリスクが増加 ・通常の就業時間の作業と比較し、シフト勤務は糖尿病のリスクが9%増加。更に性別、シフトスケジュール、BMI、糖尿病と身体活動レベルの家族歴などの影響を調整すると、このリスクは男性で37%まで上昇した。 ・交代シフトは通常の睡眠・覚醒サイクルに適応することが難しくなる為、睡眠不足・質の悪い睡眠などのためインスリン抵抗性が促進されたり悪化したりすることが他の研究で示唆されている。 また、男性ホルモンであるテストステロンの昼間のレベルが、体内時計によって制御されているため、それを繰り返し混乱させると影響が出てくる可能性がある。 ・他の研究では、シフト作業により体重や食欲が増加するとしている。
●睡眠時間がインスリンの効き方に影響 ・その結果、平均的睡眠時間(7時間)の男性に比べ、最も睡眠時間の短い群または長い群の男性は、血糖処理能力が劣ること、そして血糖値が高いことが明らかになった。 しかし女性においては、平均より睡眠時間の短い人はインスリンへの感受性が高く、β細胞(膵臓内でインスリンを産生する細胞)の機能も増強していた。
●概日リズムの乱れと腸内細菌、代謝性疾患との関連 ・大量の微生物とその生物学的活性にリズム変動があることを発見した。ホストの体内時計と通常の摂食習慣は、腸内の微生物におけるこれらのリズム変動の発生に必要と考えられる。 ・マウスを明るさと暗さのスケジュールを変え、24時間の摂食習慣を異常にしたところ、微生物群集のリズム変動がなくなり、組成に変化が見られた。 また高脂肪食により、時差ぼけのマウスの体重が増加し、糖尿病に関連する代謝問題を発症した。 同様に、米国からイスラエルに旅行をしたため時差ぼけをしていたヒト2名の腸内微生物の構成も変化してしまったため、肥満や代謝性疾患に関連している細菌の増殖に好ましい環境となっていた。 ・ホスト内の概日時計が破壊されると微生物群集のリズムが組成を変化するため、肥満や代謝障害になる。
●人工光による概日リズムの乱れで、乳がんリスクが増加? ・昼夜の両方のシフトで働く客室乗務員の乳がんについて検討した結果、客室乗務員としての雇用と、乳がんリスクの増加は関連していた。 ・ヒトは概日リズムの調節に役立つホルモンであるメラトニンを自然に分泌するが、睡眠-覚醒サイクルが人工光によって破壊されると、メラトニン分泌が悪影響を受けると考えられる。
●睡眠不足でインスリン抵抗性が上昇? ・データ解析の結果、睡眠制限によって深夜と早朝の遊離脂肪酸濃度が15-30%上昇することを発見した。夜間(午前4時-6時ごろ)の脂肪酸の上昇は、続く約5時間のインスリン抵抗性の上昇(前糖尿病状態の指標)と相関していた。
●夜勤、シフト勤務と乳がんとの関連 ・夜勤は乳がんの発症リスクを高めないことが明らかになった。 ・さらに上記3件のデータと、先行する7件の研究(米国2件、中国2件、スウェーデン2件、オランダ1件)のメタ分析を実施した結果、シフト労働や長期の夜勤についていた女性がより乳がんになり易いということはないことを発見した。