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- 糖質制限食の定義
- 糖質制限食の効果
- 糖質を制限しないカロリー制限
- 糖質制限とケトン体
- 総エネルギー摂取、肥満と糖尿病との関連
- 脂質摂取と糖尿病との関連
- たんぱく質摂取と糖尿病との関連
- 炭水化摂取と糖尿病との関連
- グリセミック・インデックス(GI)、食物繊維摂取と糖尿病との関連
- ロカボダイエット
- 多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
- ネットニュースによる関連情報
糖質制限食の定義
・米国糖尿病学会が低炭水化物食として定義しているのは、"一日糖質量130g以内の食事"。 ・食後高血糖を避ける、インスリンの追加分泌の量を減らす、体重を減らすといった効果が認められるのは、1日糖質量130g以内の食事であることが分かっている。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
糖質制限食の効果
●糖質制限食に関する無作為化比較試験(RCT)の論文 ・2008年、"ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン"という一流の論文誌に掲載。 ・DIRECT(食事介入無作為化比較試験)研究。 ・イスラエル、322人の被験者を無作為に以下の3グループに分ける。 ①低脂肪食グループ(男性1800kcal、女性1500kcal)カロリー制限あり ②地中海食グループ(オリーブオイル、ナッツ、魚介類、果物を中心とした食事で、①と同様のカロリー制限あり) ③低炭水化物食(開始から2ヶ月間は1日糖質量20gまでとし、以降は徐々に増やして1日糖質量120gまでで抑える。カロリー制限はなし) ・体重減少に関しては①が2.9kgの減少、②が4.4kgの減少、③が4.7kgの減少。 ・HbA1c値で比較すると低炭水化物食、地中海食、低脂肪食の順となった。 ・動脈硬化に関しても糖質制限食がリスクを低下させることが示唆されている。 ●米国糖尿病学会(ADA) ・2008年から糖質制限食の肥満解消効果と血糖改善効果について最も高いエビデンスレベルAで認め、安全性についても1年間の実践は保証する(2011年から2年に延長) ・2013年、すべての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは存在しないと明言し、患者ごとに個別に様々な食事パターン(地中海食、ベジタリアン食、糖質制限食、低脂質食、DASH食)が受容可能とした。有益性の保証期限を設定することなく、正式に糖質制限食を受容した。 ・2012年2月"ダイアビーツ・ケア"誌に掲載されたADAのレビュー論文では、"抵糖質食で血糖管理とインスリン感受性が改善、HDLの有意の改善"という肯定的な記述がなされている。 ●高脂質食と高炭水化物食 ・2006年11月のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に報告された研究。 ・8万人以上の女性看護師を対象に三大栄養素の摂取比率別にグループ分けを行い、20年間追跡調査。 ①炭水化物比率が低く、脂質とたんぱく質比率が高いグループと最も高炭水化物食のグループとでは、冠動脈疾患発症率に有意な差はなかった。 ②総炭水化物摂取量は、冠動脈疾患リスクの中程度増加と有意な関連があった。 ③高グリセミックロード食の摂取は冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
●北里研究所病院糖尿病センターの山田悟教授 ・小規模ながら、無作為比較試験(RCT)論文を発表し、日本人で糖質制限食が有効なことを証明。 ※参考資料『宗田哲男(2015)ケトン体が人類を救う 光文社新書』
●糖質制限とコレステロール ・糖質制限食は、中性脂肪とHDLを改善するが、LDLと総コレステロールを減らす効果は確認されていない。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
●低炭水化物と低脂肪食による減量効果 ○2014年、アメリカ国立衛生研究所の研究 ・150人の成人男女を1年間調査した低炭水化物と低脂肪食による減量の比較研究。 ・低脂肪食では脂肪以上に筋肉が減る一方、低炭水化物では除脂肪筋肉量が増えるとして、従来のカロリー神話や低脂肪神話とは逆の結果を示した。 ※参考資料『ジョン・J.レイティ(2014)GO WILD野生の体を取り戻せ! NHK出版』
●高脂質食/低炭水化物食 ・高脂質食/低炭水化物食によってHDLを増加させることができるが、飽和脂肪酸の摂取量が増加すると、LDLを増加させ、総死亡率を増加させるため、長期間の摂取は好ましくない。 ・低脂質食/高炭水化物食に比べて、HDL値が増加し、空腹時中性脂肪値は減少するが、LDL値は増加し、食後遊離脂肪酸値や食後中性脂肪値が増加する。 ・高脂質食/低炭水化物食は穀類に含まれるミネラルが不足し、たんぱく質摂取量が多くなるため、総死亡率、2型糖尿病罹患の増加が懸念される。 ○肥満予防との関連 ・肥満者で血中インスリン濃度が高くインスリン抵抗性が強い群では、低炭水化物食(脂質30~35%E、炭水化物40%E)の方が低脂質食(脂質20%E、炭水化物55~60%E)よりも体重減少効果は強い。 ・日本人のような肥満の少ない集団では、脂肪エネルギー比率が高くなると、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、さらに冠動脈疾患のリスクの増加が懸念される。 ・更年期以降の女性を対象とした大規模介入研究では、総脂質摂取量が減り体重減少が見られた場合、糖尿病発症の有意な減少が認められている。 高脂質食は飽和脂肪酸摂取量を増加させ、飽和脂肪酸は血漿LDL濃度を上昇させ、冠動脈疾患のリスクを高くする。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
糖質を制限しないカロリー制限
・糖質をとる食事では、食欲を抑えづらくなる、という欠点がある。 血糖値が上がるとインスリンが出て血糖値を下げるが、このときにインスリンが空腹信号を送るので、それで空腹を感じたり、眠気を感じたりする。 ※参考資料『宗田哲男(2015)ケトン体が人類を救う 光文社新書』
●"Look Ahead"という試験(2013年) ・人が一日に1,200~1,800kcalを食べ続けた場合の調査。10年間続け、同時に運動量も増やした。 ・体重は平均で6~7kg減ったが、心臓病は減っていなかった。骨密度は低下した。 ・現時点で骨や筋肉を減らさずに行うカロリー制限の方法は確立されていない。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
糖質制限とケトン体
●ケトン体の上昇 ・糖質制限を行うとケトン体は上昇。 ・脂肪を積極的に摂取することでも上昇する。中でも最も早くケトン体に代わる脂肪が中鎖脂肪酸。 ●ケトン体に関する論文 ・アメリカ、デューク大学のグループ ・糖質制限食によるケトン食論文 ・糖質を1日20g未満に制限するケトン食の実践により、インスリンフリーとなる患者を多数報告。 ●ケトアシドーシス ○公式の見解(日本薬学界) ・ケトン体の蓄積により体液のpHが酸性に傾いた状態。 ・ケトン体は脂肪の分解により肝臓で作られ、血液中に放出される。 ・糖尿病性ケトアシドーシスは、主に1型糖尿病患者に起こる。インスリンが不足した状態では、グルコース(ブドウ糖)の代りに脂肪の代謝が亢進し、ケトン体が作られる。1型糖尿病患者で、インスリンを十分に補わないと、血糖値が上がり続け、ケトン体が血液中に蓄積しケトアシドーシスをきたす。この状態では細胞が損傷を受け、さらに脱水が加わると意識障害(ケトアシドーシス昏睡)を起こす。 ○糖質制限をしている場合 ・糖質制限をしていると血糖値は上昇せずにケトン体が上昇するが、アシドーシスの症状(血液の酸性度が高くなりすぎた状態。吐き気、嘔吐、疲労感、脱力感、眠気など)は起こしていない。 ○糖尿病性ケトアシドーシス ・糖尿病性ケトアシドーシスの症状は、高血糖のときに起こっている。インスリンの機能が低下して高血糖が原因で起きている症状。ケトン体が増えているのは、インスリンの機能が低下してブドウ糖をエネルギー源として利用できなくなっているために、代わりに脂肪を分解してケトン体を生成し、エネルギー源として利用されている。ケトン体の蓄積は原因ではなく、エネルギー不足に対応した結果。 ・高血糖に伴ってケトン体が蓄積することが問題なのであって、糖質制限などで高血糖を伴わないケトン体の蓄積の場合はこれに当たらないはずだが、ケトン体の蓄積自体を問題視してしまっている医者もいる。 ※参考資料『宗田哲男(2015)ケトン体が人類を救う 光文社新書』
●ケトン臭 ・糖質制限食の初期の段階では、血中ケトン体濃度が高まるにつれて、尿中や呼気中にケトン体の一つであるアセトンが排泄される。 ・3ヶ月から半年経つと、血中のケトンが基準より高値でも排泄されなくなる。心筋や骨格筋などのケトン体利用効率が良くなり、さらに腎臓のケトン体再吸収も向上するため。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
●ケトン体の悪影響 ・ケトン体が増えすぎる事で、血管内皮細胞の機能が落ちてくるというデータがいくつもある。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
総エネルギー摂取、肥満と糖尿病との関連
●肥満、BMI ・2型糖尿病の予防には、肥満の是正が重要な意義を持ち、そのためには総エネルギー摂取量の適正化を中心とする生活習慣の介入が有効である。 ・アメリカで行われた生活介入研究DPP(DiabetesPrevention Program)では、3年間で5%の体重の低下は糖尿病の発症を55%抑制したとしている。 ・イギリスで行われたIGT(impaired glucose tolerance)を対象とした研究では、平均3.1年間の観察において、生活介入群で55%の糖尿病発症リスクの低減を認め、体重の減少、身体活動の増加、食事の改善が糖尿病の発症抑制に関係していたと報じている。 ・日本人を含むアジア人において、BMIの増加は2型糖尿病の発症リスクになる。しかし、BMIと糖尿病有病率の関係には人種差があり、アジア人ではBMIが20kg/m2を超えれば、BMIの増加と共に糖尿病の有病率が増し、この関係は白人に比べて顕著であって、いわゆる閾値は認められない。 これは、アジア人の膵β細胞機能の予備力が低いことと、並びに低いBMIであっても内臓脂肪の蓄積を生じやすいことが関係しているのかもしれない。 したがって、2型糖尿病の予防のための適正なBMIを特定することはできない。しかし、日本人の糖尿病においても、体重の減少が代謝パラメータの改善に寄与することは確認されている。 ●総エネルギー制限 ・2型糖尿病において総エネルギー制限と活動量の増加による体重減少と血糖コントロールが、心血管疾患の抑制につながるか否かについて、明確な証拠はない。 最近、アメリカで発表されたLook AHEAD研究は、5,145例の2型糖尿病を、総エネルギー制限と活動量のプラス増加を中心とする介入群と非加入群の2群に分け、9.6年間の追跡調査を行った。 介入群では、有意の体重の減量とHbA1cの低下を示したのにもかかわらず、両群間の心血管疾患の累積発症率に差異は認められなかったとしている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
脂質摂取と糖尿病との関連
●総脂質摂取量 ・糖尿病患者と非糖尿病対照群との比較研究は、糖尿病症例では脂質の総摂取量、特に動物性脂質の摂取量が、糖尿病で多かったとされている。 しかし、前向きコホート研究では、総脂質摂取量は糖尿病発症リスクにはならない、あるいはBMIで調整すると関連は消失すると報告されている。 しかし、糖尿病が心血管疾患の高いリスクになることから、日本糖尿病学会の提言では、脂肪エネルギー比率は、25%/日以下とすることが望ましいとしている。 ●飽和脂肪酸、コレステロール摂取 ・多くの研究で飽和脂肪酸の摂取が糖尿病の発症リスクになり、多価不飽和脂肪酸がこれを低減するとしており、動物性脂質の相対的な増加が、糖尿病発症リスクになるものと考えられる。 ・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版では、糖尿病があるとLDLの管理目標値は120mg/dL未満になっていて、120mg/dL以上の場合、飽和脂肪酸やコレステロール摂取量の減量が望まれる。 しかし、飽和脂肪酸やコレステロールを含む食品を制限すると、特に高齢者において低栄養になる可能性があり、他の栄養素の不足の可能性に注意を払う必要がある。 ・メタ・アナリシスで卵摂取量(コレステロール摂取量の代替指標)と冠動脈疾患との有意な関連が認められていて(健康な人では認められていない)、卵の最大摂取群は最小摂取群に比べて、1.54倍のリスクになっている。 しかし、日本人9万人を対象としたJPHC研究では、糖尿病患者においても、卵の摂取量と心筋梗塞罹患(心筋梗塞による死亡も含む)には関連を認めていない。 ○飽和脂肪酸と糖尿病、肥満との関連 ・飽和脂肪酸摂取量の増加により、肥満又はインスリン抵抗性(肥満とは独立して)を生じ、糖尿病罹患が増加する可能性を示唆している。 ●n-3系脂肪酸 ・最近のメタ・アナリシスでは、多価不飽和脂肪酸の摂取量の増加は、HbA1cの低下をもたらすとしており、今後の課題は、総摂取量のみならず、脂肪酸組成にあると言える。 ・これまでの、n-3系脂肪酸の摂取量と糖尿病発症リスクについての研究は、必ずしも一致した結果に至っていない。 中国人を対象にした前向きコホート研究では、EPA、DHA摂取量は糖尿病発症リスクに関与しなかったが、α-リノレン酸はリスクを低下させること、女性において魚介類の長鎖n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減することが報告されている。 一方、アメリカの調査では、n-3系脂肪酸を0.2g/日以上、魚を1日2回以上食べる女性は糖尿病発症リスクが増大すること、オランダでの前向きコホート研究では、糖尿病発症リスクに関してEPA、DHA摂取量は関係がなかったとも報告されている。 メタ・アナリシスの結果でも、インスリン感受性の改善はない、あるいは糖尿病発症リスクに対する効果を否定するものがある反面、アジア人では魚由来n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減するとするものもあり、効果に人種差がある可能性を示唆している。 2型糖尿病症例にEPAとDHAを投与し、心血管疾患の発症率を検討したアメリカの研究では、プラセボ群との間に全く差異は認められなかった。 ●一価不飽和脂肪酸摂取 ・HbA1cの変化についてメタ・アナリシスが行われていて、高一価不飽和脂肪酸食群は低一価不飽和脂肪酸食群に比べて、HbA1c減少効果が認められている。疾患リスクに関しては不明。 ・健康な人(過体重を含む)を対象にした介入研究では、高一価不飽和脂肪酸食はインスリン感受性や抵抗性を改善する報告もあるが、影響を与えないことを示す報告もあり、結論は得られていない。 ●植物油摂取、n-6系脂肪酸 ・Nurses’Health研究で、植物油摂取量と糖尿病罹患との間に弱い負の関係が見いだされているが、植物油に含まれる脂肪酸の種類については明らかにされていない。 最近の研究では、n-6系脂肪酸摂取量と糖尿病罹患との関連は認められていない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
たんぱく質摂取と糖尿病との関連
・たんぱく質については、主に腎症との関係について論じられているが、腎障害のない糖尿病にあって、たんぱく質摂取量が、腎症発症リスクを増加させるという根拠はない。 しかし、前向きコホート研究では、100gを越す赤身肉の摂取が糖尿病発症リスクを増加させることを、日本人を含めた調査によって報じている。 ・たんぱく質、特に動物性たんぱく質と糖尿病発症リスクとの関係を認めた研究は、最近数多く発表されており、スウェーデンで行われた前向きコホート研究では、たんぱく質摂取比率20%の男女と12%に留まった人の糖尿病発症リスクを比較すると、高たんぱく質群ではHR1.27に達したとしている。 ・糖尿病において関連が注目されている事象のうち、たんぱく質の過剰摂取との関係が報告されているものには、耐糖能障害のほかに、心血管疾患の増加、がんの発症率の増加、骨量の減少、BMIの増加などが挙げられる。 最近の系統的レビューは、これらの事象とたんぱく質摂取量との関係を検討したこれまでの論文を検証し、どの事象についても明らかな関連を結論することはできないとしながら、たんぱく質の摂取比率が20%を超えた場合の安全性は確認できないと述べ、注意を喚起している。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
炭水化摂取と糖尿病との関連
・最近、イギリスでなされたコホート研究では、炭水化物摂取量と糖尿病の発症率には関係がなく、果糖の摂取量が糖尿病のリスクを増したとしている。 一方、メタ・アナリシスによって、総炭水化物摂取量が糖尿病の発症リスク増加につながる(RR=1.11)とする報告も見られる。 ・2008年に発表されたDIRECT研究は、脂質栄養を中心に総エネルギーを制限した群、総エネルギーを制限し、地中海食とした群、エネルギーは制限せず、炭水化物を40%エネルギーに制限した3群を設定し、その後2年間の体重の変化を追跡したところ、脂質制限群に比較して、地中海食と炭水化物制限食で有意に体重減少効果が優っていたと報告している。 しかし、炭水化物制限群でも、総エネルギー摂取量は他の群同様に低下しており、体重減量効果が総エネルギー摂取量とは無関係に、炭水化物の制限のみによると解釈はできない。 一方、炭水化物の摂取比率が低く、たんぱく質の摂取比率の高い集団では、心血管疾患発症率並びに総死亡率が高かったことが報告されている。 ・2012年に炭水化物制限の糖尿病状態に対する系統的レビューが発表されているが、現時点ではどのレベルの炭水化物制限であっても、高血糖並びにインスリン抵抗性の改善に有効であるとする明確な根拠は見いだせないとしている。 ・また、炭水化物摂取比率は、糖尿病が心血管疾患並びに慢性腎臓病のリスクになることから、脂質及びたんぱく質の摂取比率にも制約を受けることを忘れてはならない。 これらの知見を踏まえ、日本糖尿病学会の提言の中で、炭水化物摂取比率を50~60%エネルギーとし、1日摂取量150g/日以上を目安量にすることを勧めている。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
グリセミック・インデックス(GI)、食物繊維摂取と糖尿病との関連
※食物繊維との関連については以下の記事参照。
食物繊維の摂取と健康への影響の”食物繊維と循環器病(動脈硬化、心疾患、脳卒中、糖尿病)”
食物繊維の摂取と健康への影響の”食物繊維と循環器病(動脈硬化、心疾患、脳卒中、糖尿病)”
●グリセミック・インデックス(GI) ・GIと糖尿病発症率に関する従来の検討は、GIあるいはグリセミック・ロード(GL)の高値と糖尿病発症率が相関するとするものと、相関を否定するものが拮抗する形になっており、諸外国のガイドラインにおける記載にも違いが見られ、現時点では衆目の一致には至っていないと解釈せざるを得ない。 ※参考資料 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書
糖質制限ダイエット
●ロカボダイエット ○ロカボとは? ・ご飯やパンなど糖質が多い食事を控えめにするロー・カーボハイドレート(抵糖質)の略語。 ○ロカボの定義 ・糖質を1食20~40g、それとは別に1日10gまでの間食、1日の糖質摂取量をトータル70~130gにする。 (日本人の平均:90~100g/1食、270~300g/日)。 ・下限も設定していて、ケトン体が出てくるような極端な低糖質状態になることを避けている。 ・高血糖は一日のトータルではなく、毎食後のたびに起こるので、一食ごとに制限値を設定している。 ●各食品に含まれる糖質 ・お米70gで糖質40g。 ・6枚切りの食パン一枚で糖質40g。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
●糖質制限ダイエットの懸念点 ・アメリカで、長期にわたる大規模な追跡調査を行った結果、"心筋梗塞の発症率が高まるので危険"という明確な結論になった。 ・欧米では"体脂肪や体重は減るけど、寿命が縮まる恐れのある危険なダイエット法"とみなされている。 ○炭水化物の代わりに肉を食べる ・飽和脂肪酸とコレステロールを多く摂取することになるので、動脈硬化のリスクが高くなる。 ※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』
多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス
※多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
●低炭水化物スコアと糖尿病との関連について ・炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素は、例えば、炭水化物の摂取が多ければ、たんぱく質や脂質の摂取が少ないため、それぞれの栄養素について検討するよりも、3つの栄養素のバランスや食事全体として考える必要がある。 そこで、アメリカのHaltonらが開発した炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取量に基づき算出した"低炭水化物スコア"を用いて、糖尿病発症との関連を検討した。 ○結果 ・女性では低炭水化物スコアが高い(炭水化物の摂取が少なく、たんぱく質および脂質の摂取が多い)ほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では糖尿病のリスクが約4割低下していた。 一方、男性では低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連はみられなかった。 ・たんぱく質および脂質を動物性由来または植物性由来に分けて低炭水化物スコアを算出し分析したところ、女性において、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していた。 低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアは、統計学的に有意ではないが、男女ともこのスコアが高くなるほど糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられた。 ○推察 ・今回の研究では、女性において、低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下するという結果が得られた。 この関連は、食事のGLを調整することで弱まったことから、炭水化物の質や量が重要であると考えられる。 ・女性で、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していたが、これは魚の摂取によるものかもしれない。魚や魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDは糖尿病のリスク低下との関連が報告されている。 男女ともに統計学的に有意な結果ではないが、低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアで糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられたことは、植物性食品に豊富なαリノレン酸やリノール酸摂取による糖代謝への好ましい効果が考えられる。 しかしながら、前者のスコアは欧米の研究とは異なる結果、低炭水化物スコアと糖尿病との関連については研究が少ないことから、さらなる検討が必要。
●肉類摂取と糖尿病との関連について ・肉類の摂取と糖尿病発症との関連を調べた。 ○結果 ・男性では肉類全体の摂取量が多いグループ(約100g/日以上の群)で糖尿病発症リスクが高くなった。一方、女性では肉類摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。 ・肉の種類では、男性において、赤肉(牛肉・豚肉)の摂取は糖尿病リスク上昇と関連していたが、加工肉(ハム・ソーセージなど)および鳥肉の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられなかった。 女性では、いずれの肉類についても糖尿病発症との統計学的に意味のある関連はみられなかった。 ○肉類、特に赤肉の摂取による糖尿病のリスク上昇の理由 ・肉に多く含まれるヘム鉄や飽和脂肪酸、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれる糖化最終産物(AGEs)やヘテロサイクリックアミンのインスリン感受性やインスリン分泌に対する悪影響が考えられる
●魚介類摂取と糖尿病との関連について ・魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、循環器疾患に対して予防的に働くことが知られている。 糖代謝に関しては、インスリン分泌やインスリン抵抗性がn-3系脂肪酸の投与によって改善するという実験研究があり、魚の摂取による糖尿病のリスク低下が期待される。その一方、魚に蓄積した水銀やダイオキシンなどの環境汚染物質による糖代謝への悪影響も懸念されている。 本研究では、魚介類摂取と糖尿病発症との関連を調べた。 ○結果 ・男性では魚介類摂取が多いほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下していた。 一方、女性では魚介類摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。 ・男性において、魚を大きさにより分けて分析したところ、小・中型魚(あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ)の摂取は糖尿病のリスク低下と関連していたが、大型魚(さけ・ます、かつお・まぐろ、たら・かれい、たい類)の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられなかった。 また、魚を脂の量で分けた場合、脂の多い魚(さけ・ます、あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ、たい類)の摂取により糖尿病のリスクは低下する傾向がみられたが、脂の少ない魚(かつお・まぐろ、たら・かれい)では関連はみられなかった。 ・魚以外の魚介類(いか、たこ、えび、貝類)、塩魚・干物、水産加工品の摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。 ○推察 ・男性において効果が見られた理由として、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDのインスリン感受性やインスリン分泌に対する好ましい効果が考えられる。 ・女性で関連がみられなかったことについて、はっきりとした理由は分からないが、女性は体脂肪が多いため脂溶性の環境汚染物質の影響を受けやすいのかもしれない。
ネットニュースによる関連情報
●砂糖をデンプンに置き換えて肥満の子供の健康が改善? ・砂糖の摂取を28%から10%、果糖は12%から4%に減少し、普段の炭水化物からの摂取カロリーを維持するためにベーグル、シリアル、パスタなどを代わりに摂取。 →9日間の砂糖制限食のあと、体重の変化無しに代謝の健康状態(血圧、中性脂肪、LDL、血糖値、インスリン値など)が改善。
●飽和脂肪酸は減らすべきだが、精製した炭水化物に置き換えるのはNG ・飽和脂肪酸からの5%のエネルギー摂取を多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸あるいは全粒穀物に由来する炭水化物の等価のエネルギー量で置き換えたところ、冠動脈疾患のリスクは各々25%、15%、9%低下した。 ・一方、それを精製穀物に由来する炭水化物あるいは糖分で置き換えても冠動脈疾患のリスクには関連が見られなかった。
●オメガ-6系脂肪酸が糖尿病リスクに有効 ・血清中のオメガ-6系多価不飽和脂肪酸の濃度が高いことが、2型糖尿病の発症リスクが46%低いことと関連することを見出した。 ・様々なオメガ-6系脂肪酸の中で、リノール酸とアラキドン酸の濃度の高いと糖尿病リスク低く、γ-リノレン酸とジホモ-γ-リノレン酸の濃度が高いと、リスクは高めになるという関連がみられた。
●リノール酸と除脂肪体重、糖尿病リスクとの関連 ・赤血球中のリノール酸濃度が高めであると、心臓病につながる脂肪や炎症が減り、除脂肪体重は増え、また、インスリン抵抗性の可能性が低下することを発見した。
●ヨーグルトの摂取で2型糖尿病リスクの低下 それぞれの乳製品による効果を検討するため、スキムミルク、チーズ、全乳、ヨーグルトなどの摂取状態によってさらに分析を行った。慢性疾患に関連するリスク因子であるBMIやその他の食事習慣因子を調整すると、ヨーグルトの摂取が2型糖尿病の発症リスク低減に有意に関連していることが分かった。
●糖質制限食で糖尿病患者の炎症が低下 ・2型糖尿病患者は疾患のない人々より炎症のレベルが高く、心臓血管疾患および他の合併症のリスクが高くなる原因と考えられている。 ・2型糖尿病患者を対象とし2群に分け、一方を低炭水化物食(糖質エネルギー比20%を目標)、対照群(脂質エネルギー比30%を目標)と比較したところ、低炭水化物群では炎症が大幅に減少していたが、対照群では観察されなかった。
●たんぱく質を過剰摂取すると減量してもインスリン感受性が改善しない? ・閉経後の年齢が50~65歳の肥満女性34人を対象とし、参加者は、28週間の調査において、3つのグループに無作為に割当てられた。1つめの対照群の女性は、体重を維持するように依頼された。2つめのグループの女性は、減量食を食べたが、減量食には1日当たり推奨量と同量のたんぱく質(体重1kg当たり0.8g)が含まれていた。3つめのグループの女性は、体重が減るようにデザインされた食事を食べたが、より多くのたんぱく質(体重1kg当たり1.2g)を摂取した。 ・その結果、推奨量のたんぱく質を摂取した2つめのグループの女性には、インスリン感受性の25~30%の改善につながる、代謝における大きな効果があった。一方、高たんぱくの食事を食べた3つめのグループの女性に、このような改善はみられなかった。