糖質(ご飯、パン、めん類、いも類など)摂取と慢性疾患との関連

※目次をクリックすると目次の下部にコンテンツが表示されます。

  1. 炭水化物の必要量、目標量
  2. 肥満との関連、糖質制限ダイエット
  3. 血糖値との関連
  4. 脂質異常、循環器疾患との関連
  5. グリセミック・インデックス(GI)、グリセミック・ロード(GL)
  6. 糖質を食べる順番
  7. 全粒穀物

炭水化物の必要量、目標量

●炭水化物の必要量
 
・脳は体重の2%程度の重量だが、基礎代謝量の約20%を消費すると考えられている。仮に基礎代謝量を1,500kcal/日とすれば、脳のエネルギー消費量は300kcal/日になり、ブドウ糖75g/日に相当する。脳以外の組織もブドウ糖をエネルギー源として利用することから、ブドウ糖の必要量は少なくとも100g/日と推定され、消化性炭水化物の最低必要量はおよそ100g/日と推定される。
 しかし、肝臓は必要に応じて筋肉から放出された乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールを利用して糖新生を行い、血中にブドウ糖を供給するので上記値がそのまま最低量を意味するわけではない。
 また、通常、乳児以外の人はこれよりも相当に多い炭水化物を摂取しているので、この量を根拠として推定必要量を算定する意味も価値も乏しい。
 
・炭水化物が直接ある特定の健康障害の原因となるとの報告は、生活習慣病の一種としての糖尿病を除けば、理論的にも疫学的にも乏しい。
 
そのため、炭水化物については推定平均必要量も耐容上限量も設定されていない。
 
●炭水化物の目標量
 
・エネルギー産生栄養素バランス(%E)
炭水化物(アルコールを含む):50~65%E
 
※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合
・炭水化物はアルコールを含む合計量とし、たんぱく質並びに脂質の残余として設定している。
 
・炭水化物の多い食事は、その質への配慮を欠くと、精製度の高い穀類や甘味料や甘味飲料、酒類に過度に頼る食事になりかねない。これは好ましいことではない。
 
・たんぱく質の目標量の下の値(13%E)と脂質の目標量の下の値(20%E)に対応する炭水化物の目標量は67%Eとなるが、上記の理由のために、それよりもやや少ない65%Eを目標量の範囲の上の値としている。
 
・一方、目標量の下の値は、たんぱく質の目標量の上の値(20%E)と脂質の目標量の上の値(30%E)に対応させている。ただし、この場合には、食物繊維の摂取量が少なくならないように、炭水化物の質に注意すべきである。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

肥満との関連、糖質制限ダイエット

・低炭水化物食が体重低下や糖尿病の管理に有効であるとした報告がある。しかし、対照群の食事が高脂質であったのか高たんぱく質であったのかは結果の解釈に不可欠であると考えられるが、多くのメタ・アナリシスで対照群の食事が報告されていない(又は十分に統一されていない)といった問題を有していた。
 
・肥満者で血中インスリン濃度が高くインスリン抵抗性が強い群では、低炭水化物食(脂質30~35%E、炭水化物40%E)の方が低脂質食(脂質20%E、炭水化物55~60%E)よりも体重減少効果は強い。
 
・日本人のような肥満の少ない集団では、脂肪エネルギー比率が高くなると、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、さらに冠動脈疾患のリスクの増加が懸念される。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

●低炭水化物食
 
○2014年、アメリカ国立衛生研究所の研究
・150人の成人男女を1年間調査した低炭水化物と低脂肪食による減量の比較研究
・低脂肪食では脂肪以上に筋肉が減る一方、低炭水化物では除脂肪筋肉量が増えるとして、従来のカロリー神話や低脂肪神話とは逆の結果を示した。
 
※参考資料『ジョン・J.レイティ(2014)GO WILD野生の体を取り戻せ! NHK出版』

 

○2008年、DIRECT研究
 
・322人を対照とし、試験期間は2年間。
・対象者を無作為に以下の3つのグループに割り付け、各グループの管理栄養士によって食事指導を受けた。
①脂質制限
総摂取エネルギー量を制限し(男性1,800 kcal以下,女性1,500 kcal以下)、その30%を脂肪から摂取。
②地中海食
総摂取エネルギー量を制限し(男性1,800 kcal以下,女性1,500 kcal以下)、地中海食とする。
③炭水化物制限食
総摂取エネルギー量、たんぱく質、脂肪の摂取量に制限はなし。開始から2ヶ月間は1日糖質量20gまでとし、以降は徐々に増やして1日糖質量120gまでで抑える。
 
・その後2年間の体重の変化を追跡したところ、脂質制限群に比較して、地中海食と炭水化物制限食で有意に体重減少効果が優っていたと報告している。
 しかし、炭水化物制限群でも、総エネルギー摂取量は他の群同様に低下しており、体重減量効果が総エネルギー摂取量とは無関係に、炭水化物の制限のみによると解釈はできない。
 一方、炭水化物の摂取比率が低く、たんぱく質の摂取比率の高い集団では、心血管疾患発症率並びに総死亡率が高かったことが報告されている。
 
※参考資料
・「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書[2008年文献] 低炭水化物食と地中海食は,いずれも低脂肪食を超える減量効果(DIRECT)|Worldwide文献ニュース

 

●糖質制限食に関する無作為化比較試験(RCT)の論文
 
・2008年、"ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン"という一流の論文誌に掲載。
・DIRECT(食事介入無作為化比較試験)研究。
・イスラエル、322人の被験者を無作為に以下の3グループに分ける。
①低脂肪食グループ(男性1800kcal、女性1500kcal)カロリー制限あり
②地中海食グループ(オリーブオイル、ナッツ、魚介類、果物を中心とした食事で、①と同様のカロリー制限あり)
③低炭水化物食(開始から2ヶ月間は1日糖質量20gまでとし、以降は徐々に増やして1日糖質量120gまでで抑える。カロリー制限はなし)
 
・体重減少に関しては①が2.9kgの減少、②が4.4kgの減少、③が4.7kgの減少。
・HbA1c値で比較すると低炭水化物食、地中海食、低脂肪食の順となった。
・動脈硬化に関しても糖質制限食がリスクを低下させることが示唆されている。
 
※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』

 

●糖質制限ダイエットの懸念点
 
・アメリカで、長期にわたる大規模な追跡調査を行った結果、"心筋梗塞の発症率が高まるので危険"という明確な結論になった。
・欧米では"体脂肪や体重は減るけど、寿命が縮まる恐れのある危険なダイエット法"とみなされている。
 
○炭水化物の代わりに肉を食べる
・飽和脂肪酸とコレステロールを多く摂取することになるので、動脈硬化のリスクが高くなる。
 
※参考資料『岡田正彦(2015)医者が絶対にすすめない「健康法」 PHP研究所』

血糖値との関連

○糖尿病患者を対象とした高脂質(低炭水化物)食と低脂質(高炭水化物)食の影響
 
・19の介入試験をまとめたメタ・アナリシスによると、HbA1c、空腹時血糖、総コレステロール、LDLには有意な差は観察されなかったが、高脂質(低炭水化物)食で空腹時インスリンと中性脂肪が有意に低く、HDLが有意に高かったと報告している。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

・炭水化物摂取量や食事性グリセミック・インデックスと糖尿病の発症の間には有意な関連はないとした研究もある。
 
・低炭水化物食が体重低下や糖尿病の管理に有効であるとした報告がある。しかし、対照群の食事が高脂質であったのか高たんぱく質であったのかは結果の解釈に不可欠であると考えられるが、多くのメタ・アナリシスで対照群の食事が報告されていない(又は十分に統一されていない)といった問題を有していた。
 
・最近、イギリスでなされたコホート研究では、炭水化物摂取量と糖尿病の発症率には関係がなく、果糖の摂取量が糖尿病のリスクを増したとしている。
 一方、メタ・アナリシスによって、総炭水化物摂取量が糖尿病の発症リスク増加につながる(RR=1.11)とする報告も見られる。
 
・2012年に炭水化物制限の糖尿病状態に対する系統的レビューが発表されているが、現時点ではどのレベルの炭水化物制限であっても、高血糖並びにインスリン抵抗性の改善に有効であるとする明確な根拠は見いだせないとしている。
 
・また、炭水化物摂取比率は、糖尿病が心血管疾患並びに慢性腎臓病のリスクになることから、脂質及びたんぱく質の摂取比率にも制約を受けることを忘れてはならない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

●米国糖尿病学会(ADA)
 
・2008年から糖質制限食の肥満解消効果と血糖改善効果について最も高いエビデンスレベルAで認め、安全性についても1年間の実践は保証する(2011年から2年に延長)
 
・2013年、すべての糖尿病患者に適した唯一無二の食事パターンは存在しないと明言し、患者ごとに個別に様々な食事パターン(地中海食、ベジタリアン食、糖質制限食、低脂質食、DASH食)が受容可能とした。有益性の保証期限を設定することなく、正式に糖質制限食を受容した。
 
・2012年2月"ダイアビーツ・ケア"誌に掲載されたADAのレビュー論文では、"抵糖質食で血糖管理とインスリン感受性が改善、HDLの有意の改善"という肯定的な記述がなされている。
 
※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●米飯摂取と糖尿病との関連について
 
・米飯摂取と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・女性では米飯摂取が多くなるほど糖尿病発症のリスクが上昇する傾向が認められた。摂取量が最も少ないグループに比べ1日3杯および1日4杯以上のグループでは糖尿病のリスクがそれぞれ1.48倍、1.65倍に上昇していた。さらに、米飯にあわ・ひえ・麦を混ぜない人に限って調べたところ、より強い関連がみられた。
 男性でも同様の傾向がみられたが、統計学的に有意なリスク上昇ではなかった。
・パンやめん類では糖尿病リスクとの関連は認められなかった。
・筋肉労働や激しいスポーツを1日1時間以上する人としない人に分けて調べたところ、米飯摂取により糖尿病のリスクが上昇する傾向は男女ともにそのような活動をしない人において認められたが、1日1時間以上する人ではみられなかった。
 
○推察
・今回の研究では、女性及び筋肉労働をしていない男性において、米飯摂取により糖尿病発症のリスクが上昇するという結果が得られた。
 その理由として、白米は精白の過程で糖尿病に予防的に働く食物繊維やマグネシウムが失われることや、食後の血糖上昇の指標であるグリセミックインデックスが高いことが挙げられる。
 筋肉労働や激しいスポーツを1日1時間以上しない人でのみ米飯摂取により糖尿病のリスクが上昇していたことから、身体活動量が高い人では米飯摂取が多くてもエネルギーの消費と摂取のバランスが保たれていることが考えられる。

 

●低炭水化物スコアと糖尿病との関連について
 
・炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素は、例えば、炭水化物の摂取が多ければ、たんぱく質や脂質の摂取が少ないため、それぞれの栄養素について検討するよりも、3つの栄養素のバランスや食事全体として考える必要がある。
 そこで、アメリカのHaltonらが開発した炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取量に基づき算出した"低炭水化物スコア"を用いて、糖尿病発症との関連を検討した。
 
○結果
・女性では低炭水化物スコアが高い(炭水化物の摂取が少なく、たんぱく質および脂質の摂取が多い)ほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では糖尿病のリスクが約4割低下していた。
 一方、男性では低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連はみられなかった。
・たんぱく質および脂質を動物性由来または植物性由来に分けて低炭水化物スコアを算出し分析したところ、女性において、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していた。
 低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアは、統計学的に有意ではないが、男女ともこのスコアが高くなるほど糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられた。
 
○推察
・今回の研究では、女性において、低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下するという結果が得られた。
 この関連は、食事のGLを調整することで弱まったことから、炭水化物の質や量が重要であると考えられる。
・女性で、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していたが、これは魚の摂取によるものかもしれない。魚や魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDは糖尿病のリスク低下との関連が報告されている。
 男女ともに統計学的に有意な結果ではないが、低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアで糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられたことは、植物性食品に豊富なαリノレン酸やリノール酸摂取による糖代謝への好ましい効果が考えられる。
 しかしながら、前者のスコアは欧米の研究とは異なる結果、低炭水化物スコアと糖尿病との関連については研究が少ないことから、さらなる検討が必要。

 
 
●他の研究事例
 

○2型糖尿病と炎症
2型糖尿病患者は疾患のない人々より炎症のレベルが高く、心臓血管疾患および他の合併症のリスクが高くなる原因と考えられている。
 
○スウェーデンのリンショーピン大学による研究
 
・61名の2型糖尿病患者を対象とし2群に分け、一方を低炭水化物食(糖質エネルギー比20%を目標)、対照群(脂質エネルギー比30%を目標)と比較した。なお、総エネルギー摂取量はいずれも1600kcal/日とした。
 
・結果、低炭水化物食群が実際に摂っていた食事は糖質エネルギー比25%、脂質エネルギー比は49%だった。対照群では糖質49%、脂質29%だった。
 体重は両群とも同じ程度で4㎏ほどの減少であったが、血糖値は、低炭水化物群で低下していた。また低炭水化物群では炎症が大幅に減少していたが、対照群では観察されなかった。
 
※参考文献
Advice to follow a low-carbohydrate diet has a favourable impact on low-grade inflammation in type 2 diabetes compared with advice to follow a low-fat diet.

脂質異常、循環器疾患との関連

●循環器疾患の死亡率並びに発症率
 
・四つのコホート研究をまとめたメタ・アナリシスでは、総死亡率の有意な上昇が認められている。なお、同時に検討された循環器疾患の死亡率並びに発症率とは有意な関連は認められなかった。
 
●炭水化物、脂肪酸摂取と中性脂肪値
※%E(エネルギー比率) 総エネルギー摂取量に占める割合
 
・炭水化物から、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に食べ替えると、血清中性脂肪濃度が有意に減少することがメタ・アナリシスで示されている。
 そして、その影響は互いにほぼ等しく、5%Eの炭水化物をそれぞれの脂肪酸に食べ替えると、血清中性脂肪濃度が10~12mg/dL程度減少するとされている。
 
●高脂質食/低炭水化物食
 
・高脂質食/低炭水化物食によってHDLを増加させることができるが、飽和脂肪酸の摂取量が増加すると、LDLを増加させ、総死亡率を増加させるため、長期間の摂取は好ましくない。
 
・低脂質食/高炭水化物食に比べて、HDL値が増加し、空腹時中性脂肪値は減少するが、LDL値は増加し、食後遊離脂肪酸値や食後中性脂肪値が増加する。
 
・高脂質食/低炭水化物食は穀類に含まれるミネラルが不足し、たんぱく質摂取量が多くなるため、総死亡率、2型糖尿病罹患の増加が懸念される。
 
●低脂質/高炭水化物食
 
・食後血糖値及び空腹時中性脂肪値を増加させ、血中HDLを減少させる。
 健康な人において、このような食事をしても動脈硬化症、肥満、糖尿病が増加することを示す報告はないが、長期間にわたってこのような血中脂質パターンが続くと、冠動脈性心疾患のリスクが高くなる。
 
・極端な低脂質食は脂溶性ビタミン(特にビタミンAやビタミンE)の吸収を悪くし、食品中の脂質含量とたんぱく質含量との正相関のために、十分なたんぱく質の摂取が難しくなる可能性もある。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 

●高脂質食と高炭水化物食
 
・2006年11月のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に報告された研究。
・8万人以上の女性看護師を対象に三大栄養素の摂取比率別にグループ分けを行い、20年間追跡調査。
①炭水化物比率が低く、脂質とたんぱく質比率が高いグループと最も高炭水化物食のグループとでは、冠動脈疾患発症率に有意な差はなかった。
②総炭水化物摂取量は、冠動脈疾患リスクの中程度増加と有意な関連があった。
③高グリセミックロード食の摂取は冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
 
※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』

 

●糖質制限とコレステロール
 
・糖質制限食は、中性脂肪とHDLを改善するが、LDLと総コレステロールを減らす効果は確認されていない。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

 

●低炭水化物食
 
○2014年、オハイオ州立大学のジェフ・ボレックの研究
・飽和脂肪酸を摂取しても体内には蓄積されない一方で、炭水化物が糖尿病と心臓病のリスク増加に関連がある脂肪酸の血中濃度上昇に関係するとして、従来の"糖質制限=心臓疾患のリスク"という主張を反証している。
 
※参考資料『ジョン・J.レイティ(2014)GO WILD野生の体を取り戻せ! NHK出版』

 

●米国ハーバード大学公衆衛生大学院の研究報告
 
・飽和脂肪酸からの5%のエネルギー摂取を多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸あるいは全粒穀物に由来する炭水化物の等価のエネルギー量で置き換えたところ、冠動脈疾患のリスクは各々25%、15%、9%低下した。
 一方、それを精製穀物に由来する炭水化物あるいは糖分で置き換えても冠動脈疾患のリスクには関連が見られなかった。
 
・低脂肪高炭水化物は冠動脈疾患のリスクを低下させるという意味では効果がない、という事を示唆している。
 
・飽和脂肪酸は減らすべきだが、精製した炭水化物に置き換えるべきではない。
不飽和脂肪酸や全粒穀物に置き換えると心臓病リスクは低下する。
 
※参考文献
Saturated Fats Compared With Unsaturated Fats and Sources of Carbohydrates in Relation to Risk of Coronary Heart Disease

 

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
 
米飯摂取と循環器疾患の発症・死亡との関連
 
・アンケート調査の結果を用いて、米飯の摂取量を一日あたりのグラム数に換算し、少ない順に5つのグループに等分した。約15-18年追跡し、その後の循環器疾患発症・死亡のリスクをグループ間で比較した。
 
○結果
・米飯摂取の最も低いグループ(平均251g/日)に比べ、最も高いグループ(平均542g/日)において、脳卒中と虚血心疾患のどちらも発症リスク・死亡リスクの増加は認められなかった。
 さらに、肥満の有無別に検討したが、いずれも関連はみられなかった。

グリセミック・インデックス(GI)、グリセミック・ロード(GL)

●グリセミック・インデックス(GI)
 
・食品ごとの血糖値の上昇度合いを間接的に表現する数値。
・炭水化物の摂取量の多少ではなく、食事全体で摂取される炭水化物の質を表す指標。
・血糖値を短時間で高い値に上昇させる食品が多くを占める食事をしているかどうかを示す。
・50gの消化・吸収される炭水化物を含む各食物を摂取させた後の血糖上昇量を評価するために、同重量の消化・吸収される炭水化物を含むブドウ糖、白パンあるいは白飯を基準とし、血糖上昇曲線下の面積比として算出される。
 
●グリセミック・ロード(GL)
 
・グリセミック・インデックスに炭水化物の重量をかけた値で、血糖値を上昇させる程度をあらわす指標。
・食事の中で摂取される炭水化物の質と量とを同時に示す指標。
 例えば、GIが低い食品が多くを占める食事内容であっても、摂取量が多ければ、食事のGLは高くなる。逆に、GIが高い食品の摂取が多くを占める食生活の人であっても、摂取量が少ないと食事のGLは低くなる。
 

●イスラエル・ワイツマン研究所の報告
 
・1週間以上にわたって800人の血糖値をモニター。
 
○結果
・食後血糖値は、年齢とBMIに関連が見られた。
・異なる人々は同じ食事を食べても、反応が大きく異なる。
・個人の反応は日が変わってもあまり変化しなかった。
・ある糖尿病前症だが肥満ではない中年女性は、トマトを食べると血糖値が急上昇した。
     ↓
GI値が食品に固有の値というよりは、個人によって変化する。
 
○なぜこのような大きな個体差が存在するのか?
腸内細菌が肥満、耐糖能異常、糖尿病などに関連しているという報告が増えているが、このニュースの研究での解析の結果、ある種の細菌は食後の高血糖に関与することがわかったという。
 
※参考文献
Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses.

 

●米国タフツ大学USDA人間栄養学加齢研究センターからの報告
 
・63名の健康な成人を対象に、ランダム化対照試験によって繰り返し白パン摂取後の血糖値の変化を計測した。
 
・その結果、3種類(低、中、高)の範囲にわたるGI値を観察した。これは誰かがが同じ食品の同じ量を3回食べたとしても1回目には低GIだった食品が2回目には高GIになるなど、同じ反応を示さず、変動が大きかった。
 この変動の原因の一部は、インスリンインデックスと初期ヘモグロビンA1cに起因するもののようであり、それはGIが個人の代謝反応性に大きく依存することを意味するという。
 
・今回の試験の結果得られた白パンの平均GI値は62であったが、個体内で20%、個体間で25%のバラつきがみられた。
 個体内のバラつきは2回の測定で60以上値が変わった参加者もいた。
 個体間のバラつきについては、22名の参加者ではGI値は35-55の低GI値、23名の参加者では、57-67の中GI値、18名の参加者では70-103の高GI値を示したという。
 
※参考文献
Estimating the reliability of glycemic index values and potential sources of methodological and biological variability 

 

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?
 
食事のGIおよびGL(glycemic load)と糖尿病発症のリスクとの関連について
 
・食事のGI(グリセミック指数)およびGL(グリセミック負荷)と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・女性では、食事のGLが高いグループと糖尿病発症のリスクが高いことが示唆された。
・脂肪摂取量が多い男性において、食事のGIが高いと糖尿病のリスクが上昇するという傾向が有意にみられた。
・脂肪摂取量が高い女性において、食事のGIが低いと糖尿病のリスクが低下していることが示唆された。
 
○推察
・男性では、食事のGIと糖尿病のリスクとの関連が、脂肪を多く摂取する人にだけ見られた。また女性で脂肪を多く取る人では、血糖の上昇が緩やかな炭水化物が多くを占める食事をすることで、糖尿病のリスクが下がることが示唆された。
 メカニズムは明らかではないが、炭水化物と同時に摂取された脂肪が、ある程度の食事のGIでは、血糖の上昇を穏やかにしていることが考えられる。

 

●ジョンズ・ホプキンス大学とハーヴァード大学医学大学院の報告
 
・食品のGI値の心疾患と糖尿病予防に対する効果を調べる介入試験をおこなった。
 総エネルギー量は同じで、炭水化物量が多い食事と少ない食事のそれぞれについて、GI値が高い食事と低い食事の全部で4種類の食事が設定された。
・対象者は過体重で正常血圧の163名で、ランダムに4種類のうちの1つを割り当てられて、1日1食を研究センターで食べて残りの2食は自宅で食べ、5週間後に食事の種類を交換した。
・生化学検査として、血圧、インスリン感受性、HDL、LDLを測定した。
 
○結果
・GI値の高い食品と低い食品で違いはなく、心疾患のリスク因子や糖尿病予防に対する効果も見られなかった。
・低GI食品と体重コントロールについての論文を詳細に調べたが、低GI食品が体重を減量して維持するのに効果的だったという根拠には一貫性がなかった。
 
※参考文献
Effects of high vs low glycemic index of dietary carbohydrate on cardiovascular disease risk factors and insulin sensitivity: the OmniCarb randomized clinical trial.

糖質を食べる順番

●食べる順番療法
 
先に野菜を摂取する事によって、野菜に含まれる食物繊維が糖質の分解、吸収を遅らせ、その結果、食後血糖値の上昇抑制とインスリン分泌の節約効果につながる。
 
※参考資料『杉本正信(2012)ヒトは一二〇歳まで生きられる 筑摩書房』

 

●食べる順ダイエット
 
・以下の順番で食べるようにする。
①野菜(キノコ、海藻類も含む)
②魚・赤身の肉(たんぱく質)
③ご飯(炭水化物)
 
・血糖値が急上昇するのを抑えてくれる。血糖値が急に上がると体内で脂肪が作られやすくなる。それを先に食べた食物繊維が抑えてくれる。
 
※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』

 

●血糖が上がりにくい食べ方。カーボラスト
 
・野菜が最初である必要はない。肉や魚が先でも良い。重要なのは糖質を最後にすること。
 
・タンパク質を食べるとGLP-1、脂質を食べるとGIPという消化管ホルモンの分泌が増える。
→GLP-1、GIPはともにインスリンの分泌を増やす働きを持っている。
→先にタンパク質、脂質を摂取すると血糖値が上がりにくくなる。
 
・GLP-1、GIPは腸のぜん動運動を抑制するので、糖の吸収速度がゆっくりになるという側面も指摘されている。
 
・食物繊維は消化吸収されにくいので、同時に食べることで糖の吸収が抑えられる効果がある。
 
○食物繊維の効果
・食物繊維が大腸の中で菌の働きにより、短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸)に変えられる。
→これらが肝臓に運ばれる途中で短鎖脂肪酸が増加しているという情報が脳に伝達。
→脳はエネルギーが足りていると認識する。
→エネルギーが足りているので、脳は肝臓に肝臓での糖の放出を抑制するように伝達。
→血糖の上昇を抑制。
 
・食物繊維は、インスリンが筋肉と脂肪組織に糖を取り込ませようとしているときに、脂肪組織への糖の取り込みを抑制し、筋肉への取り込みを優先させる働きもある。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

全粒穀物

●ハーヴァード大学による研究
 
・1984-2010年の看護師健康調査に参加した74,341名の女性と、1986-2010年の保健専門家追跡調査に参加した43,744名の男性のデータを用いて全粒穀物の摂取と死亡リスクとの関連性を検討した。
 
・年齢・喫煙・BMIなどの交絡因子を調整後、全粒穀物をより多く食べているほど、総死亡率が低く、心血管疾患(CVD)による死亡率も低かったが、がんによる死亡とは関連していないことが明らかとなった。
・研究チームは更に1日に28グラムの全粒穀物を摂取するごとに、総脂肪率が5%、CVDによる死亡率が9%低下すると推定した。
 
※参考文献
Association between dietary whole grain intake and risk of mortality: two large prospective studies in US men and women.

 

●英国インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究
 
・システマティックレビューとメタアナリシスをおこない、45の研究について、全粒穀物の摂取といくつもの健康上のアウトカム、全死因による死亡率について分析した。
 
・1日あたり90gの全粒穀物製品を摂取すると、病気にかかるリスクの低下率は虚血性心疾患で19%、心血管疾患22%となった。
 また、全死因による死亡率は17%低下し、各病気による死亡率の低下は脳卒中14%、がん15%、呼吸器疾患22%、感染症26%、糖尿病51%という結果になった。
・ふだん全粒穀物をまったく食べない人が、1日2サービング食べるようになると、利益の伸びは最大になった。(2サービングとは全粒小麦32gまたは全粒小麦製品60gに相当)
 
・なお、観察的な研究を含むシステマティックレビューやメタアナリシスは、エビデンスを引きだすには役立つが、原因と結果について結論付けるほどのことはできないことに注意する。
 また、今回のエビデンスは米国の研究がほとんどでヨーロッパやアジアその他の地域のものは少ない。
 一方で、全粒穀物といっても糖分や塩分を多く含むような食品を摂らないように、と研究者は警告もしている。
 
※参考文献
Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください