肺がんの概要、リスク要因、予防

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  1. 肺がんの概要
  2. 症状
  3. 疫学・統計
  4. 喫煙、飲酒
  5. 環境要因
  6. 野菜、果物
  7. 大豆・イソフラボン
  8. 生殖関連要因

肺がんの概要

●肺がんの概要
 
・肺がんは肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因でがん化したもの。
・肺がんは進行するにつれて周りの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパの流れに乗って広がっていく。
・肺がんは喫煙との関係が非常に深いがんだが、たばこを吸わない人でも発症することがある。受動喫煙により発症リスクが高まる。
・近年、肺がんは日本人のがんによる死亡原因のトップとなり、まだ増加する傾向にある。

症状

・なかなか治りにくい咳、血痰、胸痛、呼吸時のぜーぜー音、息切れ、声のかれなどがあるが、これらは必ずしも肺がんに特有のものではない。
 また、進行の程度にかかわらずこうした症状がほとんどない場合が多く、検診によって発見されることもある。

疫学・統計

・予測がん罹患数(2014年)では、がん全体に占める割合が、男性は18%、女性が10%となっている。
・年齢別にみた肺がんの罹患率、死亡率は、ともに40歳代後半から増加し始め、高齢ほど高くなる。
・罹患率、死亡率は男性の方が女性より高く、女性の2倍から3倍にのぼる。

喫煙

・日本人を対象とした研究(2008年)では、喫煙者の肺がんリスクは男性で4.8倍、女性で3.9倍という結果だった。
・日本では、男性で69%、女性では20%程度、たばこが肺がんの発生原因とされている。
・受動喫煙者は、受動喫煙がない者に比べて20~30%程度、肺がんのリスクが高くなると推計されている。
・喫煙による発がんリスクの大きさは、同じタバコを吸う人でも遺伝子素因で変わる可能性が指摘されている。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

たばこ・お酒と肺がんの関連について
 
・アンケートの回答とその後10年間の追跡調査に基づいて、たばこ・お酒と肺がんの発生との関係を男性について調べた。
 
○たばことの関連の結果
・たばこを吸わない人を基準とした場合、吸う人は2倍肺がんになりやすいことが分かった。
・とくに"分化型"の肺がん(全体の62%を占めていた)では吸う本数が増えると肺がんの発生率も段階的に増す傾向があることも明らかになった。
・もう1つのタイプ"未分化型"の肺がんとたばこは無関係だった。
・分化型の肺がんは日本人男性の肺がんの主要なタイプなので、たばこは日本人の肺がんの発生率を上げるものと考えられる。
 吸う本数が増えると発生率も増すことから、たばこそのものに害があると考えられる。
 
○お酒との関連の結果
・胃全体のがんとお酒は関連がなかったが、お酒を飲むと2倍から3倍噴門部(上のほう)の肺がん(全体の13%を占めていた)になりやすい傾向がうかがえた。
・お酒は口腔、喉頭、食道といった上部消化管のがんを起こしやすいことはよく知られている。胃の中でも、もっとも上部に位置する噴門部がんに限っては発生率を上げると思われる。

環境要因

・飲料水中のヒ素は確実なリスク要因。
※ヒ素と肺がんの関連については以下の記事参照。
食品中のヒ素と健康影響の”多目的コホート研究(JPHC Study)によるエビデンス”
 
・アスベスト、シリカ、クロム、コールタール、放射線、ディーゼル排ガス等への職業や一般環境での曝露、さらに、石炭ストーブの燃焼や不純物の混ざった植物油の高温調理により生じる煙(中国の一部地域)、ラドンなどによる室内環境汚染も、肺がんのリスク要因とする根拠は十分とされている。

野菜、果物

・β-カロテンを多く摂取(1日20~30mg)すると、かえって肺がんリスクが20~30%程度高くなるという結果がある。
・予防には果物やカロテノイドを含む食品がおそらく確実とされているが、β-カロテンについては上述の注意が必要。
 
●β-カロテン

・フィンランドの男性喫煙者約3万人を対象にした疫学研究(1994年)で、5~8年にわたり、β-カロテン20mgとビタミンE50mを毎日摂取させたところ、血清中のβ-カロテン濃度は約10倍増加したにも関わらず、総死亡率と肺がん罹患率がかえって増加したという結果も得られている。
 
※参考資料『阿部尚樹,上原万里子,中沢彰吾(2015)食をめぐるほんとうの話 講談社』

 

●β-カロテンサプリメントとがん
 
・β-カロテンをサプリメントとして大量に摂取させた介入試験の結果を総合すると、β-カロテンの大量摂取はがん(特に肺がん)の予防に対して無効であるか、あるいは有害になる場合もあると考えられる。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●果物の効果
 

・いくつかのコホート研究で肺がんリスクの減少が認められ、メタアナリシスで、摂取量80g/日につき0.94(95%信頼区間 0.90-0.97)という効果が示されている。コホート研究(8例)の43万人をプールした解析では、0.77(95%信頼区間 0.67-0.87)という結果が示されている。
 また症例対照研究でもリスク低減効果が認められている。
 
・日本における疫学研究の結果は、JACC研究では男性の喫煙者に限ってリスクを軽減する、JPHC研究では、果物によるリスク軽減効果は認められなかったとしている。
 
○有効成分について
・JACC研究では、4万人弱を対象に血中カロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、リコペン)濃度を調べ、濃度が高いほど肺がんのリスクが低い(オッズ比が0.28~0.46)という解析結果を報告している。
 喫煙習慣者に認められることから、喫煙という酸化ストレスが原因となるがんに対して、酸化ストレスを軽減する成分を多量に含む果物が発がんリスクを軽減するとの考え方ができるように思われる。
・カロテノイドのうちβ-クリプトキサンチンに特異的に発がんリスク軽減効果を認めたとする報告が多い。カロテノイドのうち、β-クリプトキサンチンのみがリスク軽減効果を示すという報告もある。
・喫煙が誘発する肺がんは活性酸素や活性窒素によってDNAが損傷を受けることがきっかけである。DNAの損傷を修復する酵素が存在するが、この酵素には多型(酵素蛋白の一部のアミノ酸の種類が異なるタイプ)があり、この酵素中の特定の場所に、ある種のアミノ酸を持つ人だけが、リスク軽減の効果が現れるという報告もある。喫煙等の酸化ストレスと発がんリスクには強い関連性がある。
 発がんへの酸化ストレスの関与が低いタイプのがんについては、果物による発がんリスク軽減効果は限られたものになるのかもしれない。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

野菜・果物摂取量と肺がんとの関連について
 
・食事調査票から果物と野菜の摂取量を計算し、"低"、"中"、"高"の3つのグループにほぼ同様の人数になるように分け、"低"グループの肺がんリスクを基準値"1"とした場合に、"中"グループと"高"グループの肺がんリスクがその何倍になるかを算出した。
 
○結果
・野菜摂取量、果物摂取量、及び野菜+果物摂取量には、いずれも肺がんリスクとの関連はみられなかった。
 
○推察
・これまで多くの研究から、野菜・果物を多くとると、肺がんリスクが下がると報告されていた。
 野菜・果物を多くとる人では喫煙率が低い傾向があるので、"野菜・果物に肺がん予防効果あり"とする研究では、喫煙の影響を除ききれなかったという可能性がある。

大豆・イソフラボン

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

イソフラボン摂取と肺がんとの関連について
 
・肺がんの最大の原因は喫煙だが、女性では生殖関連要因やホルモン剤使用との関連が報告されている。イソフラボンは化学構造が女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、肺がんの発生についても影響を与えるかもしれない。
 イソフラボン摂取と肺がんとの関連についての検討を行った。
 
○結果
・イソフラボンの摂取量が多い非喫煙男性で、肺がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示された。
 また、女性でも、統計学的に有意な結果ではなかったものの、同様の可能性が示された。
 
○推察
・肺がん細胞を用いた実験や動物実験などでイソフラボンが予防的に働くことが報告されているものの、そのメカニズムについては今のところよく分かっていない。
 イソフラボンが女性ホルモンの働きに影響を与えている可能性もあるし、女性ホルモンとは関係のない別のメカニズムで作用している可能性も考えられる。
・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。
 EGFR遺伝子変異のみられる肺がん細胞で、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。

 

血中イソフラボン濃度と肺がん罹患との関連について
 
・喫煙経験者が少ない女性で血漿中イソフラボン濃度と肺がんとの関連についての検討をおこなった。
 保存血液を用いて血漿中イソフラボン類(ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、イコール)濃度を測定し、それぞれの濃度とイソフラボン類濃度を足し合わせた総イソフラボン濃度について最も低いグループ(Q1)から最も高いグループ(Q5)までの5つのグループに分け、肺がんリスクを比較した。
 
○結果
・総イソフラボン濃度が最も低いグループに比べて、よりゲニステイン濃度が高い他の4グループで肺がんリスクが低下していた。
・ダイゼイン、イコールなどその他のイソフラボンとのはっきりとした関連はみられなかった。総イソフラボンについては、ゲニステインと同じような関連性だった。
 
○イソフラボンが肺がんに与える影響
・ゲニステインはダイゼインよりもエストロゲン受容体への結合力が強いことが報告されており、イソフラボンがエストロゲンの働きに影響を与えている可能性と矛盾がない様にも考えられる。
 しかし、ダイゼインよりエストロゲン作用が強いといわれているイコールに関しては関連性が見られなかった。
・イソフラボンの一種であるゲニステインには、上皮増殖因子受容体(EGFR)キナーゼの活性を抑える働きがあるという報告がある。
 EGFR遺伝子変異のみられる肺がんで、特にイソフラボンの予防効果が現れるのではないかという研究結果もある。今後、イソフラボンと肺がんとの関わりを、EGFR遺伝子変異の状況も含めて探求することが、メカニズムの解明にも貢献することになると思われる。

生殖関連要因

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

生殖関連要因やホルモン剤使用が、肺がんの発生と関係
 
・喫煙していない女性のみを対象として、女性の生殖関連要因やホルモン剤使用と肺がんの発生率との関係を調べた。
 
○初経から閉経までの期間
・既に閉経した女性について検討したところ、初経が16歳以上で閉経が50歳以下の初経から閉経までの期間が短い人と比較して、初経が15歳以下だったり、閉経が51歳以上だったりと、初経から閉経までの期間が長くなると、肺がんの発生率が2倍以上高くなった。
 
○人工的に閉経しホルモン剤を使用した場合
・自然閉経でホルモン剤を使用したことのない人と比較して、人工的に閉経しホルモン剤を使用したことのある人では肺がんの発生率が2倍以上高くなっていた。
・肺がんのうち、女性に多く喫煙と関連の弱い"腺がん"という種類のがんに限ってみても、同じような結果だった。
 
○女性ホルモンが肺がんの発生にかかわるメカニズム
・女性ホルモンがどうして肺がんに関係するのかについてはまだよく分かっていないが、エストロゲンは、肺のがん細胞の増殖を直接促進したり、肺がん細胞中にあるエストロゲン受容体に、エストロゲンがつくことによってがん化を促進したりすることにより、肺がんの発生にかかわると考えられている。
・エストロゲン受容体は男性より女性で、また男性の喫煙者に多い扁平上皮がんより女性に多い腺がんで発現が大きいといわれている。メカニズムについては、今後のさらなる解明が必要。

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