胃がんの概要、リスク要因、予防

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  1. 胃がんの概要
  2. 症状
  3. 疫学・統計
  4. 喫煙、飲酒
  5. 食塩・塩蔵食品
  6. 野菜、果物
  7. ピロリ菌
  8. 緑茶

胃がんとは?

●胃がんの概要
 
・胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になったもの。
・胃がんは、粘膜内の分泌細胞や、分泌物を胃の中に導く導管の細胞から発生する。はじめは30~60μmの大きさで、年単位の時間がかかって5mm程度の大きさになる頃から発見可能になる。
 そのため、胃がん検診などで見つけられる大きさになるまでには、発生から何年もかかると言われている。
・進行するに従い、がん細胞は胃の壁の中に入り込み、全体を包む漿膜の外に出て、近くにある大腸、肝臓、膵臓などに浸潤する。
 
●スキルス胃がんとは?
 
・胃の壁の中を広がるように浸潤し、粘膜の表面にはあまり現れない。
・胃の粘膜面へがんが突出することが少ないため、胃X線検査や内視鏡検査でも診断が難しいことがある。
・早期の段階での発見が難しいため、進行した状態で発見されることが多く、治療が難しい胃がんの種類の1つ。

症状

・早い段階で自覚症状が出ることは少なく、かなり進行しても無症状の場合がある。
・代表的な症状は、胃の痛み・不快感・違和感、胸焼け、吐き気、食欲不振などがあるが、これらは胃がん特有の症状ではなく、胃炎や胃潰瘍の場合でも起こる。

疫学・統計

・予測がん罹患数(2014年)では、がん全体に占める割合が、男性は18%、女性が11%となっている。
・胃がんの罹患率、死亡率を年齢別にみた場合、ともに40歳代後半から増加し始め、男女比では男性のほうが女性より高くなる。
・死亡率の年次推移は、1960年代から男女とも減少傾向にある。

喫煙、飲酒

・喫煙や食生活などの生活習慣やヘリコバクターピロリ菌の持続感染などが原因となりうると評価されている。
・飲酒については、日本では全ての胃がんの発生と飲酒の関連を示す根拠は十分ではないが、噴門部(胃の入り口で食道につながっている部分)にできるがんのリスクが上昇するとの報告がある。
 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

たばこ・お酒と胃がんの関連について
 
・アンケートの回答とその後10年間の追跡調査に基づいて、たばこ・お酒と胃がんの発生との関係を男性について調べた。
 
○たばことの関連の結果
・たばこを吸わない人を基準とした場合、吸う人は2倍胃がんになりやすいことが分かった。
・とくに"分化型"の胃がん(全体の62%を占めていた)では吸う本数が増えると胃がんの発生率も段階的に増す傾向があることも明らかになった。
・もう1つのタイプ"未分化型"の胃がんとたばこは無関係だった。
・分化型の胃がんは日本人男性の胃がんの主要なタイプなので、たばこは日本人の胃がんの発生率を上げるものと考えられる。
 吸う本数が増えると発生率も増すことから、たばこそのものに害があると考えられる。
 
○お酒との関連の結果
・胃全体のがんとお酒は関連がなかったが、お酒を飲むと2倍から3倍噴門部(上のほう)の胃がん(全体の13%を占めていた)になりやすい傾向がうかがえた。
・お酒は口腔、喉頭、食道といった上部消化管のがんを起こしやすいことはよく知られている。胃の中でも、もっとも上部に位置する噴門部がんに限っては発生率を上げると思われる。

食塩・塩蔵食品

・高濃度の塩分は、胃粘膜を保護する粘液を破壊し、胃酸による胃粘膜の炎症やヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染を引き起こすことで、胃がんリスクを高めると推測される。
 塩蔵食品の保存過程では、ニトロソ化合物などの発がん物質が多く産生される。
 
・塩や塩蔵食品と胃がんとの関連は、おそらく確実とされている。
 
・胃がんの多い日本の疫学研究でも、塩や塩蔵食品の摂取量が多い人や地域で胃がんのリスクが高いことが示されている。

・食塩摂取とがん、特に胃がんの関係について多くの報告がある。
 世界がん研究基金・アメリカがん研究財団は、食事とがんに関する研究報告を詳細に評価した。その結果、塩漬けの食品、食塩は胃がんのリスクを増加させる可能性が高いとした。
 日本人を対象としたコホート研究では、食塩摂取量が胃がん罹患率及び死亡率と正の関連を示すことが明らかにされ、塩蔵食品摂取頻度と胃がんのリスクとの強い関連も示された。
 日本人を対象とした研究も含むメタ・アナリシスでは、高食塩摂取は胃がんのリスクを高めると報告されており、別のメタ・アナリシスでも食塩摂取量が増えるに従い、胃がんのリスクが高くなると報告されている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

食塩・塩蔵食品摂取と胃がんとの関連について
 
○食塩摂取量との関連
・男性では、食塩摂取量が高いグループで胃がんリスクも明らかに高く、約2倍になった。
・女性では明らかな関連が見られなかった。
 これは、実際に食塩摂取量とは関連がないという解釈に加え、女性の中で胃がんになった人が少なく正確なデータが出なかったこと、また、男性と比べて、女性ではアンケート調査という方法から食塩摂取量を正確に把握しにくいことなどの解釈が考えられる。
 
○塩分濃度の高い食品との関連
・日本人に特有の、塩分濃度の高い食品には、味噌汁、つけもの、塩蔵魚卵(たらこ、いくらなど)、塩蔵魚(目ざし、塩鮭など)、その他の塩蔵魚介類(塩辛、練りうになど)などがある。
・それぞれの食品について、摂取頻度別にグループ分けして胃がんリスクを比べてみると、男性ではいずれの食品でも摂取回数が増えるほど胃がんリスクも高くなった。
・塩分濃度が10%程度と非常に高い塩蔵魚卵と塩辛、練りうになどでは、男女ともに、よく食べる人で胃がんリスクが明らかに高くなった。
・総合的な食塩摂取量による胃がんリスクを反映しているのかもしれないが、塩分濃度が高い食品が、特にリスクになるものと解釈出来る。
 あるいは、食塩だけでなく、塩蔵加工で生成される化学物質が胃がんリスクに関わっているのかもしれない。
 
○食塩による胃がん発生のメカニズム
・動物実験などから、胃の中で食塩の濃度が高まると粘膜がダメージを受け、胃炎が発生し、発がん物質の影響を受けやすくなることが示されている。
 そのような環境では、ヘリコバクター・ピロリという細菌の感染も起こりやすくなることが知られている。

野菜、果物

・胃がんのリスクが低くなる”可能性がある”。
 しかし、たくさん食べれば食べるほどがんの予防効果があるというデータはない。
 

・いくつかのコホート研究、症例対照研究、地域相関研究で胃がんのリスクを下げたとしているが、逆にリスクを上げるとしている研究もある。コホート研究(8例)についてのメタアナリシスは、果物100g/日ごとに0.95(95%信頼区間 0.89-1.02)、症例対照研究(26例)についてのメタアナリシスは、果物100g/日ごとに0.67(95%信頼区間 0.59-0.76)である。
 
・日本人を対象としたコホート研究として、JACC研究では、胃がん死亡率と果物摂取に関連はみられない、JPHC研究では、果物・野菜の摂取は胃がんリスク軽減と関連しているが、少量の摂取でも効果がみられ、大量摂取しても効果は上昇しないのではないかとしている。
 
※参考資料『平成21年9月発行 毎日くだもの200グラム運動指針(8訂版)』

 
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

野菜・果物摂取と胃がん発生率との関係について
 
・ほうれん草のような緑色の野菜,にんじん,かぼちゃのような黄色の野菜,白菜,キャベツ,トマトのような緑黄色以外の野菜,果物について"ほとんど食べない人","週に1日から2日食べる人","週に3日から4日食べる人","ほとんど毎日食べる人"の胃がんの発生率を比べてみた。
 
○結果
・野菜・果物は"ほとんど食べない人"を基準にすると,"週1日以上食べる人"では発生率は低いという結果だった。
 しかし、週あたりの野菜・果物を食べる頻度がそれ以上多くなっても胃がんの発生率がさらに低くなる傾向は見られなかった。
・胃がんは年齢とともに発生率が高くなる分化型のがんと、若年層にも多い未分化型のがんに分類される。
 今までの報告では,胃がんの中でも分化型のがんは未分化型のがんよりも食事等の環境要因の影響を受けやすいと言われている。
 今回の調査結果においても野菜の摂取量が増えるにつれて,胃がん全体と比べて分化型の胃がんでより発生率は減少した。
・今回の調査では,漬物をたくさん食べる人の発生率は,高くも低くもならなかったが、これまでに行われてきた研究では,漬物は塩分を多く含むため胃がんの危険因子だといわれている。

ピロリ菌

・ヘリコバクターピロリ菌については、日本人の中高年の感染率は非常に高く、若年層では低下している。感染した人の全てが胃がんになるわけではない。
・ピロリ菌の持続感染は胃がんのリスク要因になるため、ピロリ菌を持っている人は定期的に胃がん検診を受けることを推奨。
 
※ピロリ菌については以下の記事も参照。
胃腸の基礎知識の”ピロリ菌の作用”

緑茶

・緑茶については、喫煙などほかのリスク要因を持たない女性の胃がんリスクを大きくはないが減らす効果がある可能性が示されている。
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

緑茶飲用と胃がんとの関連について
 
・緑茶を1日1杯未満飲む人を基準として、緑茶を1日1-2杯、3-4杯、および5杯以上飲むと答えた人の胃がんのリスクを計算した。
 
○胃がん全体
・女性で緑茶を1日当たり5杯以上飲む人で胃がんのリスクは3割ほど抑えられた。
・男性では緑茶によるリスクの低下ははっきりとしなかった。
 
○女性、胃の部位ごと
・女性において、胃の上部3分の1と、下部3分の2とで分けて分析。
・胃の上部では緑茶の予防効果はみられなかったが、胃の下部では5杯以上飲むことでがんのリスクが1杯未満の人の半分になることが分かった。
 
○なぜ胃の上部と下部で緑茶の効果が違うのか。
・熱い飲料が食道のがんや炎症を引き起こすことは多くの研究で明らかにされているので、胃でも、食道に隣接する上部では緑茶を熱いまま飲むとむしろ好ましくない影響があるのかもしれない。
 
○男性で効果が認められなかったのは?
・緑茶をよく飲む人にたばこを吸う人や伝統型食生活を送る人が多かったため、その影響を除ききれなかったのかもしれない。

 

血中の緑茶ポリフェノールと胃がん罹患との関係について
 
・保存血液を用いて、血漿中の主な4種類の緑茶ポリフェノール(エピガロカテキン3ガレート(EGCG)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン3ガレート(ECG)、エピカテキン(EC))を測定し、男女別にそれぞれのカテキンの値によって3つのグループに分け胃がんリスクを比較し、さらに喫煙習慣の影響を調べた。
 
○緑茶ポリフェノールと胃がんリスク
・女性でエピカテキン3ガレート(ECG)濃度が高いと胃がんリスクが低いことがわかった。
・男性ではそのような関連は見られなかった。逆に、エピガロカテキン(EGC)では濃度が高いグループで、胃がんリスクが高いことがわかった。
 
○喫煙の影響
・非喫煙者では濃度が高いグループでリスクが低いのに対し、喫煙者では逆にリスクが高という傾向が見られた。
 特にECGについては、濃度が高いグループでは、非喫煙者では胃がんリスクが抑えられたのに対し、喫煙者では逆にリスクが上昇した。
 
○喫煙の影響、男女の結果の相違の理由
・非喫煙者では濃度が高いグループでリスクが低いのに対し、喫煙者では逆にリスクが高いという、喫煙状態によって異なる傾向が見られた。
 日本人の中高年男性の喫煙率は高く、緑茶と胃がんの関連に影響を与えるために、喫煙率の低い女性とは結果が一致しなかったのかもしれない。

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