自閉症

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  1. 自閉症の概要、自閉症の増加
  2. 自閉症の人の脳の特徴
  3. 自閉症とミラーニューロン
  4. 遺伝の影響
  5. 腸内細菌の影響
  6. リスニングセラビー
  7. ネットニュースによる関連情報

自閉症の概要、自閉症の増加

・自閉症というのは幅広い症状を包括した呼称であり、平均または平均以上の知力を有するアスペルガー症候群から、学習が困難な重度の自閉症まで含む。
・音楽や数学、美術などに特異な能力を発揮する自閉症サヴァンはごく少数。
・アメリカでは自閉症が増加している。2010年には68人に一人が自閉症スペクトラム障害と診断されていて、10年で2倍に増えた。
・自閉症スペクトラム障害は女児より男児に出現しやすく、現在では全男児の2%以上がこの障害を抱えている。
・単に診断される数が増えただけとする説もあるが、増えていることには変わりがないと考えられている。
 
※参考資料『アランナ・コリン(2016)あなたの体は9割が細菌 河出書房新社』

 

●自閉症の増加
 
・医師、教師、家族が注意深くなって、自閉症を見つけやすくなった。
・DSM-Ⅳ(精神障害の診断と統計マニュアル第4版)がアスペルガー障害をはじめて載せたことも引き金になっている。
→この新しい診断は自閉症の概念を大きく広げた。
アスペルガー障害は、いくつか異常なところはあるが(興味の対象が限られたり、奇妙な行動をしたり、対人関係に難があったりする)、従来型自閉症ほど重い障害はまず見られない人を指して使われる。
 正常でも社交下手な変わり者は多いが、そういう人とアスペルガー障害の人とのあいだに明確な境界線はない。
・活発な患者支援運動と、自閉症の診断を条件にして教育や治療のプログラムを提供するシステムの影響もあると言われている。
・正しくレッテルを貼られた患者は、診断のおかげてよりよい教育や治療のサービスという利益を得られ、偏見が軽くなり、家族の理解が深まり、孤立感が和らぎ、インターネットで支援も受けられている。
 誤ってレッテルを貼られた患者は、偏見が本人の負担になり、自分や家族が期待をあまりいだけなくなっている。
 
※参考資料『アレン・フランセス(2013)<正常>を救え 講談社』

 

●自閉症の概要
 
・50年前は5000人に1人の割合だったが、2008年のアメリカ疾病予防センターの調査では88人に1人となっている。
・遺伝子が自閉症を発症する危険をもたらすのは確かだが、一般的には、その危険性が実際に疾病の発症を引き起こすには、環境的要因が必要になる。
→これらの要因の多くは子どもの免疫系に作用し、抗体を生産させ、脳に影響を及ぼす慢性的な炎症を引き起こす。自閉症の子どもの多くは、活動過多の異常な免疫系を持つ。
・消化管の感染や炎症、(おもに穀物、グルテン、乳製品、糖分への)食物アレルギー、ぜんそく(炎症が関与する)、皮膚の炎症を発現する可能性が高い。
・抗炎症薬は、自閉症の症状を緩和することが分かっている。
・必要な化学物質の欠乏等、他の非炎症性の要因もあるが、炎症が主要因である思われる。
 
※参考資料『ノーマン・ドイジ(2016)脳はいかに治癒をもたらすか 紀伊國屋書店』

自閉症の人の脳の特徴

●脳の構造
 
・小脳、海馬、辺縁系などの脳の各所が損なわれている。
・自閉症患者を死後解剖してみると、ほぼ例外なく小脳が変形していて、そこから出力される情報の唯一の通り道、プルキンエ細胞の数が極端に少ない。
・計画性、独創力、想像力の各試験で、前頭葉損傷患者と似た欠陥を示す。
 
●自閉症の人の症状と脳との関係
 
・自閉症の子どもはどんな形でも、人と体が触れ合うことを避ける傾向が強い。
その背景には、外界から入る感覚情報のあまりの速さに脳の処理能力が追いつかず、周囲の刺激にただ圧倒されるという事情もある。
→自閉症児はこれをどうにかしようと、入り乱れた感覚情報を遮断するために、金切り声を上げ、両手で耳をふさぎ、静かな場所へ駆け込む。
 
・健康な赤ちゃんが母親の目、鼻、口へと瞬時に視線を移していくのに、自閉症児は鼻を認識するだけで5、6秒もかかることがある。この遅れが災いし、顔全体を一度に把握することが難しい。顔のつくり一つ一つに気を取られていては、笑い声やしかめっ面などの社会的手がかりを見落としかねず、外界に関する情報は断片的で、常にわけのわからないものとなる。
→自閉症児は、二人の人間が同時に一つのものに目を注ぐといった具合に"人と注意を分かち合う"能力を身につけることができない。
 
・視床と大脳皮質を結ぶ回路が異常な自閉症患者では、外界からの感覚ををひとまとまりの単位として統合して了解するのが、なかなかうまくいかない。
→見ることと聞くことが一緒にできないので、話に耳を傾けているときには視覚の入力情報が失われる。
 
・自閉症患者が人に触られることに嫌悪感を抱くのは、触神経路が通る頭頂葉、延髄、視床に欠陥があるため。
 
・一部の研究者の間では、胎児期の発達に不可欠な細胞死が正常に行われず、必要以上に残ったニューロンが知覚に反応する結果、脳に感覚情報が押し寄せるとする説が唱えられている。自閉症患者の脳は標準より大きくて重いという結果もある。
 
・上記に加え、脳幹を介して入る刺激もきちんと制御できないらしい。
極端にやわらかい素材の服を嫌がる場合があるが、それは上記影響で敏感肌になっているからかもしれない。
 
・ある研究では、80%から90%の自閉症の成人や子どもが触覚、聴覚、視覚が過敏で、味覚や嗅覚に問題がある者は30%だったと報告されている。
 味覚や嗅覚は原始的な感覚で関係する脳領域が狭いので、混乱や雑音が比較的少なく、不快なにおいや味にも順応しやすい。
 
※参考資料『ジョン・J.レイティ(2002)脳のはたらきのすべてがわかる本 角川書店』

 

●炎症と脳のニューロンの結合
 
・慢性的な炎症は、神経回路の発達を阻害する。
・自閉症の子どもにおいては、多くの神経ネットワークが過少結合され、脳の前面のニューロン(目的の追求や意図を処理する)と背後のニューロン(感覚を処理する)の結合が不十分であることが脳画像で示されている。また、他の脳領域は過剰結合され、これは自閉症の子どもによく見られる痙攣発作の原因となっている。
 
※参考資料『ノーマン・ドイジ(2016)脳はいかに治癒をもたらすか 紀伊國屋書店』

自閉症とミラーニューロン

※ミラーニューロンについては以下の記事参照。
脳に関する豆知識の”共感、ミラーニューロン”

・自閉症の患者は、共感力や感情を読み取る能力が欠如。自閉症者のわずかなミラーニューロンを増やし、活性化しようとする取り組みも進められている。
 
・サヴァン症候群できわめて仔細な記憶をとどめたり、驚くほどの計算能力を発揮したりできるのは、脳の他の領域が犠牲になっているか、あるいは、通常発生するはずの脳波が抑制されているかのどちらかと思われる。
→サヴァン症候群の人々は、自閉症が改善し、脳の他の領域が働き始めるにつれて、その能力を失う傾向がある。
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

 

●自閉症とミラーニューロン
 
・ミラーニューロンの機能と推定される、共感、意図の読み取り、模倣、ごっこ遊び、言語学習などは、自閉症で機能不全が見られるものと重なる。
→自閉症の主因はミラーニューロンシステムの機能不全では?
 
※参考資料『V.S.ラマチャンドラン(2012)脳のなかの天使 角川書店』

遺伝の影響

●脆弱性X症候群
 
・自閉症的な症状のほか、重度の精神発達遅滞、情緒不安定、ADHD、関節の過伸展などの身体的成長の異常、てんかんなど、多くの症状が合併する発達障害。
・1000~2500人に1人の割合で発生すると言われている。
・基本的に男児に発症。男性はX染色体が一つしかなく、X染色体の遺伝子異常の影響がストレートに出てしまうため。
 
○シナプス仮説
・FMR1という遺伝子のノックアウトマウスを使って実験。
・このマウスには記憶・学習の障害やてんかん発作の増加、神経生理学的な異常が認められた。
・電気生理学的に解析すると、シナプスのグルタミン酸受容体を介しての興奮と抑制のバランスに異常があるのではないかと推察された。さらに、そのニューロンの樹状突起のシナプスを調べてみると、スパインが過剰に形成されていることが見つかった。
※スパイン
・後シナプス(シグナルの入力側のシナプス)を構成する小さなとげのようなもの。
・一つ前のニューロンから放出された神経伝達物質をキャッチする役目。
・脆弱性X症候群とよく似た症状を示す自閉症もシナプス仮説が提唱されることになった。
 
●自閉症と遺伝
 
○自閉症と遺伝的な背景
・単一遺伝子による遺伝性によるもの(親も子も自閉症):3%
・染色体異常およびコピー数変異:5%
・ドゥノボの単一遺伝子変異:5~10%
・遺伝的な背景不明および多因子型:80~85%
 
○ドゥノボ変異
・ドゥノボ変異は父母どちらかの生殖細胞がつくられるときに、コピーミスによって起きると考えられる変異。親の形質が子に受け継がれたわけではない。
・ドゥノボ変異は父親側から受け継がれるケースが多いことが分かってきた。約80%。
→精原細胞は幹細胞として自分自身も増殖させるので、分裂の回数は卵子より多くなるので、コピーミスが起きるリスクが卵子と比べて圧倒的に大きい。
 
●父親の加齢と自閉症
 
○2006年、米国における疫学的な調査
・父親が15~29歳のときに生まれた子が自閉症になるリスクを1とすると30~39歳では1.7程度、40~49歳では5以上、50歳を過ぎてから生まれた子のリスクは9にまで高まることが分かった。
 
○2015年、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア、イスラエルの疫学データ
・3万人の自閉症児を含むメタ解析。
・40代の母親の子どもの自閉症発症リスクが、20代の母親に対して1.15倍になるのに対し、50歳以上の父親の子どもの自閉症発症リスクは、20代の父親に対して1.6倍になった。
・精子が精子幹細胞からつくられるときに生じるコピーミスは、加齢とともに増える傾向がある。精子でのコピーミスが次世代に受け継がれるとドゥノボ変異となる。
 
※参考資料『大隅典子(2016)脳からみた自閉症 講談社』

腸内細菌の影響

リスニングセラピー

※トマティスのリスニングセラピーについては以下を参照。
トマティスリスニングセンター東京|語学リスニング » トマティスメソッド
神経可塑性、脳回路の再配線、神経発生の”音楽による効果、トマティスメソッド”

●2013年、ダニエル・A・エイブラムズ(スタンフォード大学)
 
・自閉症の子どもにおいては、人間の声を処理する聴覚皮質と皮質下の報酬中枢の結合が不十分であることを明らかにした。
・左半球の言語領域と右半球の言語領域(韻律と呼ばれる音楽的、情動的な側面を処理する)が、脳の報酬中枢に十分に結合されていないことが分かった。
→その結果、声を処理する脳領域を報酬中枢に結びつける能力を欠く子どもは、発話を快く感じられなくなる。
 
●リスニングセラピーと自閉症
 
・発話における快感情の喪失は、両親や他の人々との結びつきを形成する子どもの能力に甚大な影響を及ぼす。
→親と子どもの結びつきにおいて声が重要な役割を果たし、声に対する無関心によってこの結びつきが阻害されることが明らかにされている。
・自閉症の子どもの多くは音に極度に敏感で、苦痛を感じて手で耳を覆い、神経系が闘争/逃走モードに入ってしまう。
・副交感神経系は"社会参加システム"と中耳の筋肉をオンにし、相手の話に聞き入り、コミュニケーションを取って他者とのつながりを持てるようにする。
 副交感神経系が他者とのつながりの形成に役立つ理由は、まさにそれが人間の音声の高周波数帯に波長を合わせるのに用いられる中耳の筋肉をコントロールし、声や顔の表現のために使われる筋肉を活性化するため。
・トマティスの示すところによれば、自閉症、学習障害、発話や言語能力の発達の遅れを抱える子どもの多くは、中耳の筋肉によって低周波数帯域を抑制できないために、人間の音声の周波数に波長を合わせられない。
→人間においては、低周波数帯域の音は捕食者を想起させるがゆえに不安を引き起こす。
→音に圧倒された自閉症の子どもは、闘争/逃走システムをオフに出来ず、社会参加システムをオンに出来ない。
  ↓
・中耳の筋肉をコントロールする神経回路のトレーニングは極度の過敏性を緩和し、他者との結びつきが快い経験になるように社会性を増大させる。
 
※参考資料『ノーマン・ドイジ(2016)脳はいかに治癒をもたらすか 紀伊國屋書店』

ネットニュースによる関連情報

●妊婦の鉄欠乏と子どもの自閉症のリスク
 
・2002-2009年の"北カリフォルニア小児自閉症リスク遺伝学・環境研究(CHARGE)"に登録した母子を対象として調査。葉酸摂取の調整後、母体の鉄の摂取量の低さと自閉症スペクトラム障害(ASD)リスク増加との関連は、授乳中で最も強かった。さらにこの関係は、年齢が高く、妊娠中の代謝疾患がある母親ではるかに大きかった。
・子どもの出産時に母親が35才以上である場合や母親が肥満・高血圧・糖尿病などの代謝疾患がある場合、母親の鉄摂取量が低いと、子どもが自閉症となるリスクが5倍になる。
・鉄は初期の脳の発達に不可欠であり、神経伝達物質の生産・髄鞘形成・免疫機能と関連がある。これらの経路全てが自閉症と関連している。しかし本研究の結果が別研究で再現されるまでは、慎重になるべきである、と研究者は述べている。

 

●妊娠糖尿病とその子どもの自閉症との関連
 
・健保組合大手カイザーパーマネンテ南カルフォルニア医療センターの電子カルテを用い、1995年1月から2009年12月の期間で、在胎週数が28週から44週の間で生まれた322,000以上の赤ちゃんを対象とした大規模の研究。
・子ども達を平均5.5年追跡し、妊娠26週未満に妊娠糖尿病を発症した妊婦から産まれた子どもが妊娠糖尿病を発症していない妊婦から産まれた子どもより、自閉症スペクトラム障害のリスクが63%増加することを明らかにした。
・母体で高血糖にさらされることは、胎児に臓器の機能や発育に長期的な影響を与えるかもしれない、と研究者は述べている。

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