血糖値を基に対策

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  1. 高血糖の診断基準
  2. 糖尿病でどの程度死亡リスクが増加するか
  3. 高血糖・糖尿病と虚血性心疾患・脳卒中との関連
  4. 高血糖・糖尿病とがんとの関連
  5. 高血糖・糖尿病と認知症との関連
  6. 炭水化物摂取と糖尿病発症との関連
  7. グリセミック・インデックス(GI)と糖尿病発症との関連
  8. 食物繊維摂取と糖尿病発症との関連
  9. 脂質摂取と糖尿病発症との関連
  10. たんぱく質摂取と糖尿病発症との関連

高血糖の診断基準

●健診の項目
 
○空腹時血糖
 
・検査当日の朝食を抜いた状態で、測定した血糖値。
・10時間以上、食事や糖分の含まれた飲み物を取らないように指示されることもある。
 
○HbA1c(糖化ヘモグロビン)
・HbA1cには過去3~4ヵ月の血糖値の状態が反映され、5.2%が空腹時血糖100mg/dlにほぼ当てはまる。
 
○食後高血糖
・75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)で測定。
10時間以上絶食した後の早朝空腹時に75gのブドウ糖を飲んで血糖値の変化を調べる検査
・近年では、空腹時血糖が正常ないし境界域であっても食後に血糖値が上昇しやすい食後高血糖が糖尿病予備軍や動脈硬化のハイリスクとして注目されている。
 
●診断基準
 
○特定健診の基準値
・空腹時血糖100mg/dl以上またはHbA1c(糖化ヘモグロビン)5.2%以上を特定保健指導の基準値としている。
・空腹時血糖が100mg/dlを超えると糖尿病の発症リスクが2倍以上になるとされている。
 
○メタボリックシンドロームの基準値
・空腹時血糖100mg/dl以上。
空腹時血糖が110mg/dl以上になると食後高血糖が推定されるため。
 
●糖尿病の診断基準
 
以下の①~④のいずれかか認められる場合、糖尿病と診断する。
①空腹時血糖値126mg/dL以上。
②75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値が200ml/dL以上。
③高血糖の自覚症状があって随意血糖値(食事のタイミングに関係なく測った血糖値)が200mg/dL以上。
④HbA1c(糖化ヘモグロビン)が6.5%以上
 
※空腹時血糖値とその後5年間の糖尿病発症との関連
空腹時血糖値と2型糖尿病発症との関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2781.html

糖尿病でどの程度死亡リスクが増加するか

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●糖尿病と全死亡および循環器疾患・がんによる死亡との関連について
 
・がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約10万人を、平成2年or5年から平成22年末まで追跡調査。
・糖尿病(自己申告)の有無と全死亡・主要死因死亡との関連を調べた。
 
○結果
・研究開始時に自己申告の糖尿病があった群ではそうでない群と比べて総死亡の危険度がハザード比(95%信頼区間)で、男性で1.60(1.49-1.71)、女性で1.98(1.77-2.21)と増加していた。
・循環器疾患による死亡については男性で1.76(1.53-2.02)、女性で2.49(2.06-3.01)であった。
・がんによる死亡については男性で1.25(1.11-1.42)、女性で1.04(0.82-1.32)であった。
・非がん非循環器疾患による死亡についても、男性で1.91(1.71-2.14)、女性で2.67(2.25-3.17)であった。

高血糖・糖尿病と虚血性心疾患・脳卒中との関連

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●糖尿病と虚血性心疾患との関連について
 
・循環器病にもがんにもなっていなかった40~69歳の男女約3.1万人を平均12.9年間追跡調査。
 
○結果
・空腹時血糖値が100-125mg/dl群のハザード比は、100mg/dl未満の群に比べ1.61倍と有意に上昇し、空腹時血糖値126mg/dl以上の群では4.05倍まで上昇した。

 

●ヘモグロビンA1c (HbA1c)と心血管疾患リスクとの関連について
 
・1998~2000年度および2003~2005年度に実施された糖尿病調査にご協力してくれた人29,059人(男性10,980人、女性18,079人)を対象としてHbA1cと心血管疾患発症との関係を調べた。
・糖尿病調査で測定したHbA1cを用いて、5.0%未満、5.0~5.4%、5.5~5.9%、6.0~6.4%、6.5%以上、および既知の糖尿病の6つの群に分けて、その後の心血管疾患、虚血性心疾患、および脳卒中のリスクとの関連を分析した。
・年齢,性別、居住地域,BMI,収縮期血圧,HDLコレステロール, non-HDLコレステロール,喫煙歴,飲酒歴,身体活動を統計学的に調整したうえで、心血管疾患リスク(95%信頼区間)を計算した。
 
○結果
・HbA1c 5.0~5.4%を基準とすると、5%未満、5.5~5.9%、6.0~6.4%、6.5%以上、および既知の糖尿病の5群の心血管疾患リスクは、それぞれ1.50 (1.15-1.95) 、1.01 (0.85-1.20)、1.04 (0.82-1.32)、1.77 (1.32-2.38)、1.81 (1.43-2.29)だった。HbA1cが高い群だけでなく、低い群においても心血管疾患リスク上昇と関連していた。
・心血管疾患を虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血に分けて分析したところ、虚血性心疾患はHbA1cが高いほどリスクが高くなるのに対して、脳梗塞や脳出血ではHbA1cが低い群と高い群においてリスクが高くなっていることがわかった。

 

●糖尿病と脳卒中の病型との関連について
 
・循環器病にもがんにもなっていなかった40~69歳の男女約3.6万人を平均12年間追跡し、その後の全脳卒中並びに病型別脳卒中発症のハザード比を検討した。
・年齢、空腹有無、肥満度、最大血圧値、降圧剤服薬有無、血清総コレステロール値、HDL-コレステロール値、中性脂肪値、喫煙、飲酒、地域を統計学的に調整したうえで、ハザード比を計算した。
 
○結果
・男女ともに血糖正常群(空腹時血糖値100mg/dl未満)に比べ、糖尿病群(空腹時血糖値126mg/dl以上)において、全脳卒中と脳梗塞の発症リスクが高く、全脳卒中と脳梗塞発症に対する調整ハザード比(多変量調整ハザード比)は、男性でそれぞれ1.64(1.21-2.23)と2.22(1.58-3.11)、女性で2.19(1.53-3.12)と3.63(2.41-5.48)だった。
 男女とも糖尿病と脳内出血やくも膜下出血の発症リスクとの関連は認められなかった。
・糖尿病により、大血管に並びに微小血管の障害が起こり、動脈硬化が進み、脳梗塞発症につながるものと考えられる。

高血糖・糖尿病とがんとの関連

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●糖尿病とその後のがん罹患との関連について
 
・糖尿病の既往とその後のがん罹患との関連を調べた。
 
○結果
・糖尿病既往なしの人と比べ、糖尿病既往ありの人では何らかのがんにかかる危険性が男性で1.27倍、女性で1.21倍ほど高くなり、糖尿病と診断されたことのある人はない人に比べ20-30パーセントほど、後にがんになりやすくなる傾向のあることがわかった。
・糖尿病既往ありの人が特にかかりやすかったのは、男性では肝がん、腎がん、膵がん、結腸がん、胃がん、女性では胃がん、肝がん、卵巣がんだった。
 
○糖尿病の既往があるとがんにかかりやすくなる理由
・膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足すると、それを補うために高インスリン血症やIGF-I(インスリン様成長因子1)の増加が生じ、これが肝臓、膵臓などの部位における腫瘍細胞の増殖を刺激して、がん化に関与すると推察されている。
・肝炎ウイルス感染やピロリ菌感染そのものもインスリン分泌に影響を与えるという報告もあると同時に、肝がんに先行して起こる慢性肝炎や肝硬変が糖尿病の状態をつくっていることも考えられる。

 

●ヘモグロビンA1c(HbA1c)とがん罹患との関連について
 
・1998~2000年度および2003~2005年度に実施された糖尿病調査に協力してくれた29,629人(男性11,336人、女性18,293人)を対象としてHbA1cとがん罹患リスクとの関係を調べた。
・糖尿病調査で測定したHbA1cの値を用いて、5.0%未満、5.0~5.4%、5.5~5.9%、6.0~6.4%、6.5%以上、および既知の糖尿病の6つの群に分けて、その後の全がんリスク、臓器別リスクを分析した。
 年齢,性別、居住地域,BMI,喫煙歴,飲酒歴,身体活動、野菜摂取、総エネルギー摂取、コーヒー摂取、および心血管疾患の既往を統計学的に調整したうえで、がんリスク(95%信頼区間)を計算している。
 
○結果
・HbA1c 5.0~5.4%を基準とすると、5%未満、5.5~5.9%、6.0~6.4%、6.5%以上、および既知の糖尿病の5群のがんリスクは、それぞれ1.27 (1.06-1.52) 、1.01 (0.90-1.14)、1.28 (1.09-1.49)、1.43 (1.14-1.80)、1.23 (1.02-1.47)であり、非糖尿病域および糖尿病域の高HbA1c値の群で全がんリスクが上昇していました。
 また、低HbA1c値の群でも全がんリスクの上昇がみられた。
・がん種別では、非糖尿病域および糖尿病域の高HbA1c値の群で大腸がん(特に結腸がん)リスクが上昇しており、肝がんや膵がんでは、低HbA1c値群(5%未満)でもリスク上昇がみられた。また、肝がんを除外すると、HbA1c値は直線的に全がんリスク上昇と関連していた。
 
○推察
・高血糖はミトコンドリア代謝などを介して酸化ストレスを亢進させることでDNAを損傷し、発がんにつながる可能性が想定されている。
・がん細胞の増殖には、大量の糖を必要とするため,慢性的な高血糖状態はがん細胞の増殖を助長する可能性も考えられる。

 
●他の研究事例
 

●糖尿病予備軍でもがんのリスク増加?
 
・891,426名のデータを含む16件の先行研究のメタ分析を行った結果、境界型糖尿病(糖尿病予備軍、前糖尿病)は全がんリスクを15%高めることがわかった。
・臓器別では、胃がんと大腸がんで相対リスクは1.55、肝臓で2.01、すい臓で1.19、乳がんで1.19、内膜がんで1.60であり、全て有意であった。気管支/肺がん、前立腺がん、卵巣がん、腎臓がん、膀胱がんではリスクの上昇は見られなかった。

炭水化物摂取と糖尿病発症との関連

・最近、イギリスでなされたコホート研究では、炭水化物摂取量と糖尿病の発症率には関係がなく、果糖の摂取量が糖尿病のリスクを増したとしている。
 一方、メタ・アナリシスによって、総炭水化物摂取量が糖尿病の発症リスク増加につながる(RR=1.11)とする報告も見られる。
 
・2012年に炭水化物制限の糖尿病状態に対する系統的レビューが発表されているが、現時点ではどのレベルの炭水化物制限であっても、高血糖並びにインスリン抵抗性の改善に有効であるとする明確な根拠は見いだせないとしている。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●低炭水化物スコアと糖尿病との関連について
 
・炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素は、例えば、炭水化物の摂取が多ければ、たんぱく質や脂質の摂取が少ないため、それぞれの栄養素について検討するよりも、3つの栄養素のバランスや食事全体として考える必要がある。
 そこで、アメリカのHaltonらが開発した炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取量に基づき算出した"低炭水化物スコア"を用いて、糖尿病発症との関連を検討した。
 
○結果
・女性では低炭水化物スコアが高い(炭水化物の摂取が少なく、たんぱく質および脂質の摂取が多い)ほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では糖尿病のリスクが約4割低下していた。
 一方、男性では低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連はみられなかった。
・たんぱく質および脂質を動物性由来または植物性由来に分けて低炭水化物スコアを算出し分析したところ、女性において、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していた。
 低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアは、統計学的に有意ではないが、男女ともこのスコアが高くなるほど糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられた。
 
○推察
・今回の研究では、女性において、低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下するという結果が得られた。
 この関連は、食事のGLを調整することで弱まったことから、炭水化物の質や量が重要であると考えられる。
・女性で、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していたが、これは魚の摂取によるものかもしれない。魚や魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDは糖尿病のリスク低下との関連が報告されている。
 男女ともに統計学的に有意な結果ではないが、低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアで糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられたことは、植物性食品に豊富なαリノレン酸やリノール酸摂取による糖代謝への好ましい効果が考えられる。
 しかしながら、前者のスコアは欧米の研究とは異なる結果、低炭水化物スコアと糖尿病との関連については研究が少ないことから、さらなる検討が必要。

グリセミック・インデックス(GI)と糖尿病発症との関連

●グリセミック・インデックス(GI)
 
・GIと糖尿病発症率に関する従来の検討は、GIあるいはグリセミック・ロード(GL)の高値と糖尿病発症率が相関するとするものと、相関を否定するものが拮抗する形になっており、諸外国のガイドラインにおける記載にも違いが見られ、現時点では衆目の一致には至っていないと解釈せざるを得ない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●食事のGIおよびGL(glycemic load)と糖尿病発症のリスクとの関連について
 
・食事のGI(グリセミック指数)およびGL(グリセミック負荷)と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・女性では、食事のGLが高いグループと糖尿病発症のリスクが高いことが示唆された。
・脂肪摂取量が多い男性において、食事のGIが高いと糖尿病のリスクが上昇するという傾向が有意にみられた。
・脂肪摂取量が高い女性において、食事のGIが低いと糖尿病のリスクが低下していることが示唆された。
 
○推察
・男性では、食事のGIと糖尿病のリスクとの関連が、脂肪を多く摂取する人にだけ見られた。また女性で脂肪を多く取る人では、血糖の上昇が緩やかな炭水化物が多くを占める食事をすることで、糖尿病のリスクが下がることが示唆された。
 メカニズムは明らかではないが、炭水化物と同時に摂取された脂肪が、ある程度の食事のGIでは、血糖の上昇を穏やかにしていることが考えられる。

食物繊維摂取と糖尿病発症との関連

●食物繊維と血糖上昇抑制
 
・食物繊維が大腸の中で菌の働きにより、短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸)に変えられる。
→これらが肝臓に運ばれる途中で短鎖脂肪酸が増加しているという情報が脳に伝達。
→脳はエネルギーが足りていると認識。
→エネルギーが足りているので、脳は肝臓に肝臓での糖の放出を抑制するように伝達。
→血糖の上昇を抑制。
 
・食物繊維は、インスリンが筋肉と脂肪組織に糖を取り込ませようとしているときに、脂肪組織への糖の取り込みを抑制し、筋肉への取り込みを優先させる働きもある。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

 

●食物繊維と血糖値
 
・食物繊維摂取量を増加させ、血糖値等の変化を観察した15の介入試験をまとめたメタ・アナリシスは、平均18.3g/日の増加で平均15.3mg/dLの空腹時血糖の低下が観察されたと報告している。
 
●食物繊維と糖尿病
 
・食物繊維については、穀物の食物繊維が糖尿病発症リスクを低減するという報告が多く見られるが、他の食物繊維との関係は明らかではない。
 また、食物繊維の研究は、他の栄養素を絡めた形で検討されている場合が多く、糖尿病発症に関わる食物繊維の種類あるいは量を特定することは困難であるが、穀物由来の食物繊維を中心にその摂取を促すことは妥当と考えられる。
 
・糖尿病の発症との関連を検討したメタ・アナリシスでは穀類由来の食物繊維摂取量とは有意な負の関連が観察されたが、果物由来の食物繊維も野菜由来の食物繊維もその摂取量とは関連が認められなかった。
 
●食物繊維と循環器病
 
・心筋梗塞の発症並びに死亡、脳卒中の発症、循環器疾患の発症又は死亡、糖尿病の発症、乳がんや胃がんの発症との間に負の関連を認めたとする研究報告が数多く存在する。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

脂質摂取と糖尿病発症との関連

●総脂質摂取量
 
・糖尿病患者と非糖尿病対照群との比較研究は、糖尿病症例では脂質の総摂取量、特に動物性脂質の摂取量が、糖尿病で多かったとされている。
 しかし、前向きコホート研究では、総脂質摂取量は糖尿病発症リスクにはならない、あるいはBMIで調整すると関連は消失すると報告されている。
 しかし、糖尿病が心血管疾患の高いリスクになることから、日本糖尿病学会の提言では、脂肪エネルギー比率は、25%/日以下とすることが望ましいとしている。
 
●飽和脂肪酸、コレステロール摂取
 
・多くの研究で飽和脂肪酸の摂取が糖尿病の発症リスクになり、多価不飽和脂肪酸がこれを低減するとしており、動物性脂質の相対的な増加が、糖尿病発症リスクになるものと考えられる。
 
○飽和脂肪酸と糖尿病、肥満との関連
・飽和脂肪酸摂取量の増加により、肥満又はインスリン抵抗性(肥満とは独立して)を生じ、糖尿病罹患が増加する可能性を示唆している。
 
●n-3系脂肪酸
 
・最近のメタ・アナリシスでは、多価不飽和脂肪酸の摂取量の増加は、HbA1cの低下をもたらすとしており、今後の課題は、総摂取量のみならず、脂肪酸組成にあると言える。
 
・これまでの、n-3系脂肪酸の摂取量と糖尿病発症リスクについての研究は、必ずしも一致した結果に至っていない。
 中国人を対象にした前向きコホート研究では、EPA、DHA摂取量は糖尿病発症リスクに関与しなかったが、α-リノレン酸はリスクを低下させること、女性において魚介類の長鎖n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減することが報告されている。
 一方、アメリカの調査では、n-3系脂肪酸を0.2g/日以上、魚を1日2回以上食べる女性は糖尿病発症リスクが増大すること、オランダでの前向きコホート研究では、糖尿病発症リスクに関してEPA、DHA摂取量は関係がなかったとも報告されている。
 メタ・アナリシスの結果でも、インスリン感受性の改善はない、あるいは糖尿病発症リスクに対する効果を否定するものがある反面、アジア人では魚由来n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減するとするものもあり、効果に人種差がある可能性を示唆している。
 2型糖尿病症例にEPAとDHAを投与し、心血管疾患の発症率を検討したアメリカの研究では、プラセボ群との間に全く差異は認められなかった。
 
●一価不飽和脂肪酸摂取
 
・HbA1cの変化についてメタ・アナリシスが行われていて、高一価不飽和脂肪酸食群は低一価不飽和脂肪酸食群に比べて、HbA1c減少効果が認められている。疾患リスクに関しては不明。
 
・健康な人(過体重を含む)を対象にした介入研究では、高一価不飽和脂肪酸食はインスリン感受性や抵抗性を改善する報告もあるが、影響を与えないことを示す報告もあり、結論は得られていない。
 
●植物油摂取、n-6系脂肪酸
 
・Nurses’Health研究で、植物油摂取量と糖尿病罹患との間に弱い負の関係が見いだされているが、植物油に含まれる脂肪酸の種類については明らかにされていない。
 最近の研究では、n-6系脂肪酸摂取量と糖尿病罹患との関連は認められていない。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●肉類摂取と糖尿病との関連について
 
・肉類の摂取と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・男性では肉類全体の摂取量が多いグループ(約100g/日以上の群)で糖尿病発症リスクが高くなった。一方、女性では肉類摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。
・肉の種類では、男性において、赤肉(牛肉・豚肉)の摂取は糖尿病リスク上昇と関連していたが、加工肉(ハム・ソーセージなど)および鳥肉の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられなかった。
 女性では、いずれの肉類についても糖尿病発症との統計学的に意味のある関連はみられなかった。
 
○肉類、特に赤肉の摂取による糖尿病のリスク上昇の理由
・肉に多く含まれるヘム鉄や飽和脂肪酸、調理の過程で生成される焦げた部分に含まれる糖化最終産物(AGEs)やヘテロサイクリックアミンのインスリン感受性やインスリン分泌に対する悪影響が考えられる

 

●魚介類摂取と糖尿病との関連について
 
・魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、循環器疾患に対して予防的に働くことが知られている。
 糖代謝に関しては、インスリン分泌やインスリン抵抗性がn-3系脂肪酸の投与によって改善するという実験研究があり、魚の摂取による糖尿病のリスク低下が期待される。その一方、魚に蓄積した水銀やダイオキシンなどの環境汚染物質による糖代謝への悪影響も懸念されている。
 本研究では、魚介類摂取と糖尿病発症との関連を調べた。
 
○結果
・男性では魚介類摂取が多いほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下していた。
 一方、女性では魚介類摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。
・男性において、魚を大きさにより分けて分析したところ、小・中型魚(あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ)の摂取は糖尿病のリスク低下と関連していたが、大型魚(さけ・ます、かつお・まぐろ、たら・かれい、たい類)の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられなかった。
 また、魚を脂の量で分けた場合、脂の多い魚(さけ・ます、あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ、たい類)の摂取により糖尿病のリスクは低下する傾向がみられたが、脂の少ない魚(かつお・まぐろ、たら・かれい)では関連はみられなかった。
・魚以外の魚介類(いか、たこ、えび、貝類)、塩魚・干物、水産加工品の摂取と糖尿病発症との関連はみられなかった。
 
○推察
・男性において効果が見られた理由として、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDのインスリン感受性やインスリン分泌に対する好ましい効果が考えられる。
・女性で関連がみられなかったことについて、はっきりとした理由は分からないが、女性は体脂肪が多いため脂溶性の環境汚染物質の影響を受けやすいのかもしれない。

 
●他の研究事例
 

●ヨーグルトの摂取で2型糖尿病リスクの低下
 
それぞれの乳製品による効果を検討するため、スキムミルク、チーズ、全乳、ヨーグルトなどの摂取状態によってさらに分析を行った。慢性疾患に関連するリスク因子であるBMIやその他の食事習慣因子を調整すると、ヨーグルトの摂取が2型糖尿病の発症リスク低減に有意に関連していることが分かった。

 

●リノール酸と除脂肪体重、糖尿病リスクとの関連
 
・赤血球中のリノール酸濃度が高めであると、心臓病につながる脂肪や炎症が減り、除脂肪体重は増え、また、インスリン抵抗性の可能性が低下することを発見した。

 

●オメガ-6系脂肪酸が糖尿病リスクに有効
 
・血清中のオメガ-6系多価不飽和脂肪酸の濃度が高いことが、2型糖尿病の発症リスクが46%低いことと関連することを見出した。
・様々なオメガ-6系脂肪酸の中で、リノール酸とアラキドン酸の濃度の高いと糖尿病リスク低く、γ-リノレン酸とジホモ-γ-リノレン酸の濃度が高いと、リスクは高めになるという関連がみられた。

たんぱく質摂取と糖尿病発症との関連

・たんぱく質については、主に腎症との関係について論じられているが、腎障害のない糖尿病にあって、たんぱく質摂取量が、腎症発症リスクを増加させるという根拠はない。
 しかし、前向きコホート研究では、100gを越す赤身肉の摂取が糖尿病発症リスクを増加させることを、日本人を含めた調査によって報じている。
 
・たんぱく質、特に動物性たんぱく質と糖尿病発症リスクとの関係を認めた研究は、最近数多く発表されており、スウェーデンで行われた前向きコホート研究では、たんぱく質摂取比率20%の男女と12%に留まった人の糖尿病発症リスクを比較すると、高たんぱく質群ではHR1.27に達したとしている。
 
・糖尿病において関連が注目されている事象のうち、たんぱく質の過剰摂取との関係が報告されているものには、耐糖能障害のほかに、心血管疾患の増加、がんの発症率の増加、骨量の減少、BMIの増加などが挙げられる。
 
最近の系統的レビューは、これらの事象とたんぱく質摂取量との関係を検討したこれまでの論文を検証し、どの事象についても明らかな関連を結論することはできないとしながら、たんぱく質の摂取比率が20%を超えた場合の安全性は確認できないと述べ、注意を喚起している。
 
※参考資料
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

 
●他の研究事例
 

●たんぱく質を過剰摂取すると減量してもインスリン感受性が改善しない?
 
・閉経後の年齢が50~65歳の肥満女性34人を対象とし、参加者は、28週間の調査において、3つのグループに無作為に割当てられた。1つめの対照群の女性は、体重を維持するように依頼された。2つめのグループの女性は、減量食を食べたが、減量食には1日当たり推奨量と同量のたんぱく質(体重1kg当たり0.8g)が含まれていた。3つめのグループの女性は、体重が減るようにデザインされた食事を食べたが、より多くのたんぱく質(体重1kg当たり1.2g)を摂取した。
・その結果、推奨量のたんぱく質を摂取した2つめのグループの女性には、インスリン感受性の25~30%の改善につながる、代謝における大きな効果があった。一方、高たんぱくの食事を食べた3つめのグループの女性に、このような改善はみられなかった。

高血糖・糖尿病と認知症との関連

●インスリン、糖尿病との関連
 
・インスリンは、アミロイドβを分解する作用持つ。
・糖尿病などでこの作用が低下すると、アミロイドβが蓄積し、老人斑の形成や神経原線維変化が進むと考えられる。
 
※参考資料『河野和彦(2016)ぜんぶわかる認知症の事典 成美堂出版』

 

●糖尿病とアルツハイマー病との関連
 
・重度のアルツハイマー病患者での脳の前頭葉のインスリン受容体の数は、健康な人と比べ約80%も少ないことが分かってきた。
 
・英キングス・カレッジ・ロンドン精神医学心理学神経科学研究所の"世界アルツハイマー病報告書2014年版"によると、糖尿病患者は認知症発症のリスクが50%高まる。さらに、肥満や運動不足などが糖尿病と高血圧の重要な危険因子で、これを防ぐ事がアルツハイマー病の予防にもつながる。
 
・米国で、鼻スプレーでインスリンを吸引させる臨床試験が行われた。初期の認知症状患者の8割に記憶力向上と認知機能回復がみられた。
 
○米国ペンシルベニア大学のスティーブン・アーノルド教授
 
・アルツハイマー病の患者の脳を調べていくと、海馬の部分でインスリンの効きが悪くなり、糖の代謝もスムーズにできなくなってきていることが分かってきた。糖尿病ではないのに、脳内が糖尿病状態に陥っていた。
 
○米国ブラウン大学のスーデン・デ・ラ・モンテ教授
 
・アルツハイマー病が進行すると、脳内でインスリンの濃度が低下して、インスリン受容体に情報を伝える力が弱まることを発見。
 それが脳の神経細胞にとって代謝の障害となって、アルツハイマー病を引き起こすと指摘。
 
○福岡県久山町での九州大学医学部の認知症の有病率調査
 
・糖尿病の人は、アルツハイマー病の発症率が2倍。さらに認知症患者の死後、脳を解剖してみるとインスリン受容体が壊れており、脳内が糖尿病患者のようになっていた。その原因が高血圧と高血糖状態にあることがわかった。
 
※参考資料『桐山秀樹(2015)アルツハイマー病を防げ 日刊スポーツ連載』

 

●アルツハイマー病と糖尿病の関係
 
・糖尿病患者とその予備軍の人は、アルツハイマー病を発症するリスクが4.6倍高い。
・1999年、ロッテルダム研究によると、高齢の糖尿病患者がアルツハイマー病にかかる割合は1.9倍高く、脳血管性認知症を発症する危険度も2倍高い。
・インスリン注射を行っている糖尿病患者は、インスリン注射を行っていない糖尿病患者と比べて約2倍、糖尿病でない人と比べて約4倍、アルツハイマー病になりやすいという研究結果がある。
 インスリンは老化ホルモンの役を果たし、代謝のシステムをかき乱す作用がある。
 
※参考資料『森下竜一,桐山秀樹(2015)アルツハイマーは脳の糖尿病だった 青春出版社』

 

●炭水化物とアルツハイマー病
 
○メイヨー・クリニックで行われた研究
 
・炭水化物をたくさん食べる高齢者は、軽度認知障害(MCI)の進行リスクが4倍近く。
・健康的な脂肪を豊富に摂っている人は、認知機能障害になる割合が42%低い。
・鶏肉、牛肉や豚肉、魚などの健康的な食材からタンパク質をたくさん摂取する人の割合は、21%ほどリスクが低い。
 
●血糖上昇が脳に与える影響
 
・血糖上昇
→セロトニン、エピネフリン、GABAが減少
 ・神経伝達物質を生成するのに必要となるビタミンB複合体が使い尽くされる。
 ・Mgが減少し、神経系と肝臓の機能に支障が出る。
 ・高血糖が引き金となって"糖化反応"が起こる。"糖化反応"は生物学的プロセスで、グルコース、タンパク質、特定の脂肪が結合し、脳にあるものを含めて組織や細胞は柔軟性がなくなり、硬くなっていく。
 ・糖分子と脳のタンパク質は結びついて全く新しい構造を作り出す。
  ↓
 脳はグルコースの糖化反応による破壊に極めて弱く、グルテンなどの強力な抗原がダメージを促進するとき、ますます悪化する。糖化反応は重要な脳組織の萎縮を招く。
 
●糖尿病と認知症
 
・インスリン抵抗性があると、体内では脳疾患を伴う脳のプラークを形成するタンパク質を(アミロイド)を分解できないと思われる。
 
・高血糖によって、体を傷つける驚異的な生体反応が引き起こされる。
→特定の含酸素分子を生成し、結果として脳内の血管を硬化させ狭窄させる炎症を引き起こす。(アテローム性動脈硬化)
 
・アテローム性動脈硬化は、動脈内膜での脂質やタンパク質の酸化を特徴とする酸化ストレスが増大した状態を示している。この酸化は炎症に対する反応。
 
・糖尿病をわずらう人たちは15年以内にアルツハイマー病を発症する可能性が2倍。
 
※参考資料『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す  三笠書房』

 

・血糖の変動が大きければ大きいほど、認知機能が低下する。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

 
●他の研究事例
 

●糖尿病歴が長くなると海馬が萎縮?
 
・糖尿病歴が長いほど脳の容積が小さくなる傾向だった。中でも記憶と関係が深い海馬の容積をみると、糖尿病歴が10~16年だと糖尿病でない人に比べて約3%、17年以上だと約6%小さいという結果が出た。
糖尿病の中でも食後に血糖値が上がり易いタイプが、脳の縮みやすさに関わっているらしい。

 

●2型糖尿病と脳血流量調節機能低下、認知スキル低下の関係
 
・学習と記憶のテストで糖尿病患者はスコアが悪く、脳内の血流調節機能が低下していた。

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