適度な運動を行って対策

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  1. 運動不足が健康に与える影響
  2. 運動の健康効果の概要
  3. 運動の循環器疾患(虚血性心疾患、脳卒中など)に対する効果
  4. 血糖に対する効果
  5. がんに対する効果
  6. 認知症に対する効果
  7. 有効な運動の方法(強度、頻度、時間など)

運動不足が健康に与える影響

・WHOは、高血圧(13%)、喫煙(9%)、高血糖(6%)に次いで、身体活動不足(6%)を全世界の死亡に対する危険因子の第4位として位置づけている。
 
・平成24年7月、国際的な医学誌であるThe Lancetにおいて身体活動特集号が発表された。この中では、世界の全死亡数の9.4%は身体活動不足が原因で、その影響の大きさは肥満や喫煙に匹敵しており、世界的に”大流行している(pandemicな状態)”との認識が示された。

運動の健康効果の概要

●身体活動量の増加や習慣的な有酸素性運動の効果
 
・メタボリックシンドロームを含めた循環器疾患、糖尿病、がんといった生活習慣病の発症及びこれらを原因として死亡に至るリスク低下
・加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドローム及び認知症等)をきたすリスク低下
※ロコモティブシンドローム
運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態
・気分転換やストレス解消につながることで、いわゆるメンタルヘルス不調の一次予防として有効。
・ストレッチングや筋力トレーニングによって腰痛や膝痛が改善する可能性が高まる。
・中強度の運動によって風邪(上気道感染症)に罹患しにくくなる。
・健康的な体型を維持することで自己効力感が高まる。
・血管内皮機能、血流調節、動脈伸展性等を改善し、降圧効果が得られる。
・骨格筋のリポプロテインリパーゼ(LPL)活性が増大し、トリグリセリド(血中カイロミクロン、VLDL及びそれらのレムナントに多く含まれる)の分解を促進するこによって、HDLコレステロール値が増加する。
・身体活動の増加によって、虚血性心疾患、脳梗塞、悪性新生物(乳がんや大腸がん等)のリスクを低減できる可能性が示されている。
 

●有酸素運動の効果
 
・心肺機能や内分泌系の機能が改善。
・老化に伴う認知機能の低下を遅らさせる。
・抗うつ効果。身体的感情的ストレスに対して脳が過敏に反応しないようにする。
・脳の毛細血管を伸ばしたり分岐させたり、一部の神経の樹状突起を幾何学的に複雑にしたりする。
・BDNFと呼ばれる大切なタンパク質のレベルを高める。
 
●有酸素運動の短期的(1~2時間)効果
 
・痛みの閾値が上ったり、急性の不安が軽減されたりする。
 
※参考資料『デイヴィッド・J.リンデン(2012)快感回路 河出書房新社』

 

・炎症を抑える。
・インスリン感受性を高める。
・血糖コントロールを改善する。
・記憶中枢を大きくする。
・脳由来神経栄養因子(BDNF)の量を増やす。
 
※参考情報『デイビッド・パールマター(2015)「いつものパン」があなたを殺す  三笠書房』

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●身体活動量と死亡との関連について
 
・各人のふだんの身体活動量とその後の全死亡及び主要死因別(がん、心疾患、脳血管疾患)にみた死亡との関連を調べた。
 身体活動量は、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査した。
 これらの各身体活動を運動強度指数MET値に活動時間をかけた"METs・時間"スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の平均的な身体活動量を求め、4群にグループ分けした。
 
○結果
・男女とも、身体活動量(仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間)が多い群ほど、死亡リスクが低下した。身体活動量の最小群と比較した場合、最大群の死亡リスクは、男性で0.73倍、女性で0.61倍と有意に低下していた。
・死因別に見ると、男性では、がん死亡リスクは身体活動量最大群で0.80倍、心疾患死亡リスクは最大群で0.72倍と顕著な低下が見られたが、脳血管疾患については、死亡リスクの低下は見られなかった。
 女性では、身体活動量最大群でのがん死亡リスクは0.69倍と低下し、心疾患と脳血管については、統計的有意性がないものの、死亡リスクの低下傾向が見られた。

 
●他の研究事例
 

●軽い負荷、適度な頻度のジョギングで死亡率低下
 
・12年間の追跡調査期間中、ストレスの高い高強度のジョギングを行っていた人々は、座りがちな生活をしていた非ジョギング愛好家と同程度の死亡リスクが見られた。一方、適度なジョギング愛好家は最も死亡率が低かった。

運動の循環器疾患(虚血性心疾患、脳卒中など)に対する効果

●心血管系を強くする
 
・運動によって心臓と肺が強くなると、安静時の血圧が下がり、体と脳の血管の負担が減る。
・運動をして筋肉を収縮させるとFGF-2とVEGFを生成。
 ・ニューロンの新生や結合を促す。
 ・分子の連鎖反応を誘発して内皮細胞を作らせる。
 →内皮細胞は血管の内壁を形成する細胞で、新たな血管を作るのに欠かせない。
 →脳の中に毛細血管を新しく作り、その血管網を拡大し、さらに予備のルートも作って血管が詰まるのを防ぐ。
・運動をすると体内により多くの一酸化窒素が取り込まれる。一酸化窒素は血管を拡張する。
・中程度以の運動は血流を増やし、脳の動脈が硬くなるのを予防する。
・運動は血管のダメージをいくらか修復することができる。
 
※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●日本人における身体活動と循環器疾患との関係
 
・身体活動と循環器疾患の関連性を調べた。
 研究開始時に仕事や余暇中の身体活動に関する質問への回答から、"座っている"、"立っている"時間以外の、一日の身体活動量(単位はメッツ-時間)を計算した。
 
○全体の結果
・身体活動量が0~5メッツ-時間から急激にリスクが約30%程度低下し、5~10メッツ-時間あたりでリスク低下が穏やかになり、その後リスクの低下が維持されているということが分かった。
・全脳卒中、冠動脈疾患も同様の結果を示した。
 
○推察
・身体活動量が増えれば増えるほど循環器疾患のリスクが低下し続けるというわけではなく、ある程度まで身体活動量が増えれば十分なリスク低下が得られるという結果だった。
・本研究では、1日あたり5~10メッツ-時間で最大のリスク低下が得られたが、これは歩行2~4時間程度、ジョギング1~2時間程度に相当する。
・本研究では、活動しすぎても有害になりうるという結果はみられなかった。
・本研究の対象者の年齢は50~79歳であり、それ以外の年齢の人にも本研究の結果が当てはまるかは不明。

 

●日本人における身体活動と脳卒中との関係
 
・平成15年(2003年)に身体活動に関するアンケートに回答してもらった74,913人(50~79歳)を平成24年(2012年)まで追跡した結果にもとづいて、身体活動と脳卒中との関連性を調べた。
 仕事や余暇中の身体活動に関する質問への回答から、"座っている"、"立っている"時間以外の、一日の身体活動量(単位はメッツ-時間で表されます)を計算した。
 
○全体の結果
・身体活動量が0~5メッツ-時間から急激にリスクが低下(最大約30%程度低下)し、その後リスクの低下が維持されていた。
 
○脳卒中のタイプ別
・脳梗塞は同様の関係を認めたが、出血性脳卒中は5メッツ-時間以降、最大リスク低下から上昇傾向にあることがわかった。
 
○身体活動の種類別
・ウォーキングなどによる身体活動ではどれだけ活動量が増えてもリスクは低下したままだったが、ジョギングなどによる身体活動ではその活動量が一定以上になると出血性脳卒中のリスクが上昇することがわかった。
 
○推察
・本研究では、1日あたり5~10メッツ-時間で最大のリスク低下が得られた。これは歩行2~4時間程度、ジョギング1~2時間程度に相当する。
・特にジョギングなどの強めの身体活動による活動量が過剰になると、出血性脳卒中のリスクを逆に上昇させる可能性も示唆されたため、身体活動の種類と量を考慮することが日本人の脳卒中予防には重要であるのかもしれない。

血糖に対する効果

●身体活動量の増加や習慣的な有酸素性運動の効果
 
・エネルギー消費量が増加し、内臓脂肪と皮下脂肪がエネルギー源として利用され、腹囲や体重が減少する。
・身体活動は、骨格筋のインスリン抵抗性を改善し、血糖値を低下させる。
・血管内皮機能、血流調節、動脈伸展性等を改善し、降圧効果が得られる。
 
●非肥満者でも骨格筋の量が減少すると・・・
 
・耐糖能異常や糖尿病に進展するリスクを高める。
・非肥満者についても、骨格筋を強化し筋量を増加させる筋力トレーニングによって、このリスクを低減できる可能性がある。
 

・加齢でインスリン(細胞内へのグルコースの取り込みを促進)が少なくなるので、燃料となるグルコースが細胞に入りにくくなる。
 ↓
血液中にグルコースが増加すると、その影響で細胞内にフリーラジカルのような老廃物が生まれ、また、血管が傷つき、脳卒中やアルツハイマー病のリスクが高まる。
 
・すべてのバランスが整っていると、インスリンはアミロイド班の蓄積を防いでいるが、インスリンが減ると班の蓄積が進み、炎症も促され、周囲のニューロンが傷つけられる。
 
・運動は、IGF-1(インスリン様成長因子)の量を増やすので、それにより全身のインスリンが調整され、脳ではシナプスの可塑性が高まる。
 
・運動することで余剰の燃料が消費されると、高血糖のせいで減少していたBDNF(脳由来神経栄養因子)が盛んに供給されるようになる。
 
※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 

内臓脂肪増加
→インスリン抵抗性
→高インスリン血症
→β細胞からのインスリン枯渇
 
運動、食事制限
→内臓脂肪減少
→インスリンの作用を低下させる悪玉カイトサインの分泌減少
→筋肉量の増加とともに筋肉に栄養を与える血流が増加し、インスリンが筋肉細胞に到達しやすくなる
→筋肉内の脂質が減って血糖が筋肉細胞に利用される。
 
※参考情報『小坂眞一(2008)心臓病の9割は防げる  講談社』

 

・糖尿病予備軍に対する調査で、運動によってブドウ糖が筋肉に取り込まれる割合が高められた結果、インスリン抵抗性にうち勝ち、糖尿病を予防できた。
 
※参考資料『ブルース・マキューアン(2004)ストレスに負けない脳 早川書房』

 

・普段から筋肉を使っているほど、インスリンに対する反応性が良いということが分かっている。トレーニングで筋肉量を保つと有効。
 
※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』

 
●他の研究事例
 

●食後の運動が血糖値低減に有効?
 
・2型糖尿病患者41名に対し、2週間、1ヶ月間の休息期間をあけ、歩行を処方するという、クロスオーバー比較試験を行なった。対象者は、①時間を決めず1日30分歩くか、②それぞれメインの食事後10分間歩くか、どちらかで歩行した。
・その結果、①と比べ②では、食後血糖値は平均して12パーセント減少したことがわかった。

がんに対する効果

●国際評価
 
・身体活動を上げること(運動)は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは”確実”、また、閉経後乳がん、子宮体がんのリスクを下げることは”ほぼ確実”、と評価されている。
 
●日本人を対象とした研究
 
・日本人を対象とした8研究に基づいて、身体活動は、大腸(結腸)がんのリスクを下げることは”ほぼ確実”と評価している。
 
●運動による予防効果
 
・肥満の解消、インスリン抵抗性(インスリンの働きが弱まること)の改善、免疫機能の増強、腸内通過時間の短縮、胆汁酸代謝への影響等のメカニズムが考えられる。
 
・大腸がんのうち、結腸がんの予防効果は確実であり、乳がんの予防効果もおそらく確実とされている。
 
●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●身体活動量とがん罹患との関連について
 
・各人のふだんの身体活動量とその後の全部位及び主要部位別にみたがん罹患との関連を調べた。
 身体活動量は、仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査した。これらの各身体活動を運動強度指数MET値に活動時間をかけた"METs・時間"スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の平均的な身体活動量を求め、4群にグループ分けした。
 
○結果
・男女とも、身体活動量(仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間)が多い群ほど、何らかのがんにかかるリスクが低下していた。身体活動量の最小群と比較した場合、最大群のがん罹患リスクは、男性で0.87倍、女性で0.84倍だった。
・部位別に見ると、男性では結腸がん・肝がん・膵がんで、女性では胃がんで、身体活動最大群で、有意に罹患リスクが低下していた。
 
○身体活動量を増やすことががんの予防につながる理由
・肥満の改善をはじめ、性ホルモンやインスリン・インスリン様成長因子(IGF-1)の調節、免疫調節能の改善、フリーラジカル産生の抑制などがメカニズムとして推察されている。
・身体活動によるマクロファージやナチュラルキラー細胞、好中球やサイトカインの調節など、免疫調節能の改善による効果もがん予防に寄与していると考えられている。
・ただし、激しい運動は活性酸素やフリーラジカルを増加させ、脂質やタンパク質、DNAの損傷につながる一方、中等度の運動では、抗酸化物質の損失を抑制するため、そのバランスによって、運動は有益とも有害ともなる事に注意。
・その他、運動により腸管の通過時間が短縮し、胆汁の内容や分泌に良い影響を与えるともいわれている。

 

●身体活動量と大腸がん罹患との関連について
 
・身体活動量と大腸がん発生率との関連を調べた。
 身体活動量は、仕事を含めた1日の平均的身体活動時間を、筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、座っている時間、歩いたり立ったりしている時間、睡眠時間に分けて調査した。
 これらの各身体活動を運動強度指数MET値に活動時間をかけた"METs・時間"スコアに換算して合計することにより対象者1人1人の身体活動量を求め、4群にグループ分けした。
 
○全体の結果
・男性では、身体活動量(仕事を含めた1日の平均的身体活動時間)の最大群で、大腸がんリスクが30%低下し(0.69倍)、特に結腸がんリスクの低下が顕著だった(0.58倍)。
 一方、直腸がんリスクの低下は見られなかった。
・女性では、男性のような傾向はみられず、身体活動量と大腸がんリスクとの関連はなかった。
 
○身体活動の効果のメカニズム
・身体活動量を増加させることによって、高インスリン血症や肥満の予防、胆汁酸分泌の抑制、免疫力の増強の他、腸管蠕動の促進による便中発がん物質の腸内曝露時間短縮、腸管粘膜中プロスタグランジンE2(がんの増殖や転移に関連)の低下、プロスタグランジンF2α(腸管の運動に関連)の増加などの効果が推察されている。
 
○女性で関連が見られなかった理由
・女性で大腸がんリスクとの関連がなかったのは、調査票の中で家事に関する質問が不十分で、女性の身体活動量がうまく評価できていなかったためかもしれない。

 

●余暇運動と乳がん
 
・アンケ-ト調査への回答から、余暇運動(仕事のほかに何かスポーツや運動をする機会)を"月3日以内"、"週1~2日"、"週3日以上"の参加頻度で3グループに分け、また1日当たりの"総身体活動量"も運動強度指数MET(Metabolic equivalent)に活動時間をかけた"METs・時間"スコアに換算した単位を用いて3分位でグル-プに分け、乳がんの発生率を比べた。
 
●余暇運動(仕事のほかに何かスポーツや運動をする機会)と乳がん
 
○全体
・余暇運動の参加が"月3回以内の群"に比べて"週3日以上の群"では、乳がんリスクが0.73倍低いことがわかった。
 
○閉経別
・閉経前女性では、乳がんリスクは全体として弱い負の関連(傾向性P=0.06)がみられたが、閉経後女性では、みられなかった。
 
○ホルモン受容体別
・エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんにおいて、全体では(傾向性P=0.022)、また閉経後女性では(傾向性P=0.041)と統計学的に有意な負の関連が認められた。
 
●総身体活動量と乳がん
 
・女性全体でも、閉経前、閉経後に分けても、みとめられなかった。
・ホルモン受容体別にみると、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんでは、女性全体では弱めの(傾向性P=0.11)、閉経後の女性では統計学的有意な(傾向性P=0.046)リスク減少の関連が認められた。
 しかし、この関連は、ホルモン受容体陰性の乳がんではみられなかった。
 
●BMIの影響
 
・BMIが25未満の人では、関連はみられなかった。
・BMIが25以上のグル-プでは、余暇運動の参加頻度が"月3回以内の群"に比べて"週1回以上の群"では、乳がんリスクが統計学的に有意に0.65倍低いことがわかった。
・ホルモン受容体別でみると、エストロゲン/プロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんにおいて、弱い負の関連(傾向性P=0.14)がみられたが、ホルモン受容体陰性の乳がんにおいてはみられなかった。
 
●運動の乳がんに対する効果
 
○一般的に運動に期待できる効果
・運動には、免疫機能を改善したり、体脂肪を減らして閉経後女性のエストロゲン濃度を下げたりすることを通じて、乳がんを予防する可能性があると考えられている。
 
○今回の研究結果
・予防的な関連が、余暇運動でみとめられ、総身体活動量ではみとめられないという結果だった。
・余暇運動と乳がんの予防的な関連は、BMI25以上の女性にあきらかだった。
・余暇運動、総身体活動量ともに、閉経後においてホルモン受容体陽性の乳がんリスクとの間に予防的な関連がみられた。

 
●他の研究事例
 

●運動によって13種のがんのリスク低下
 
・余暇の高い身体活動レベルの運動を行っていた者は、低い者に比べ26種類のうち13種類のがん(食道線がん、肝臓がん、肺がん、腎臓がん、胃がん、子宮がん、骨髄性白血病、骨髄腫、大腸がん、頭頸部、直腸がん、膀胱がん、乳がん)の発症率が低かった。
・身体活動レベルは前立腺がんを5%高め、悪性黒色腫を27%高めた。これは、米国の紫外線レベルが高い地域で関連が認められたが、低い地域では関連がなかったことが示された。

 

●運動でマウスの腫瘍成長が抑制され、血流の乱れが改善
 
・研究開始18日後、運動群と非運動群の腫瘍を比較すると、運動群において腫瘍成長が遅く血管密度、成熟性、潅流が高いことが明らかとなった。腫瘍組織周辺の低酸素性は非運動群では48.8%に見られたが、運動群では25.5%にとどまっていた。

 

●がん患者に対する運動の効果
 
・週に運動で500kcal未満消費しているがん患者の男性に比べ、週に3,000kcal以上を消費している男性は、追跡期間中すべての死因における死亡リスクが48%少なかった。
 がんや心血管疾患による死亡率についても同様の調査結果がある。最も活動的ながん生存者は、追跡期間中にがんで死亡する確率が38%低く、心血管疾患で死亡する確率は49%低かった。

認知症に対する効果

有効な運動の方法(強度、頻度、時間など)

●日本高血圧学会
 
中等度の強さの有酸素運動を中心に、定期的に(毎日30分以上を目標に)行う。
 
●日本動脈硬化学会
 
・最大酸素摂取量の50%強度が効果と安全性の面から適している。
・1日30分以上を週3回以上(できれば毎日)、または週180分以上を目指す。
 
●日本糖尿病学会
 
○運動の種類
・インスリン感受性を増大させる有酸素運動と筋肉量を増加し筋力増強効果のあるレジスタンス運動がある。
・肥満糖尿病患者では、両者を組み合わせた水中歩行が膝への負担も少なく安全で有効な運動である。
 
○運動強度
・最大酸素摂取量の50%前後が推奨される。
・程度は心拍数で判定し、50歳未満では1分間に100~120拍、50歳以降は1分間100以内に留める。または”楽である”または”ややきつい”といった体感を目安にする。
 
○運動負荷量
・歩行運動では1回15~30分、1日2回、1日の運動量として歩行は約1万歩、消費エネルギーとしてはほぼ160~240 kcal程度が適当とされる。
 
○運動の頻度
・日常生活の中に組み入れ、できれば毎日、少なくとも1週間に3日以上の頻度で実施する。

・適度な運動である中強度運動を20分行うと12時間良い気分が持続する。
→朝の運動は有効。
 
・朝食前に運動すると、より多くの脂肪を燃やし、血糖値を正常に保つ調整能力(耐糖能)を強化できる。
 
※参考資料『トム・ラス(2015)座らない! 新潮社』
●ウォーキング(低強度)
 
・最大心拍数の55~65%の運動。
・低強度の運動では、脂肪が燃料として燃やされ、代謝が盛んになる。
・低強度の運動は、血液中に遊離トリプトファンを送り込む。
→セロトニンの原料となる。
・このレベルの運動でもノルアドレナリンとドーパミンの配分は変化する。
 
●ジョギング(中強度)
 
・最大心拍数の65~75%の運動。
・中強度の運動では、体脂肪だけでなくグルコースも燃やすようになり、筋肉組織はストレスによって微小断裂を起こす。
→損傷と修復を繰り返すプロセスが起こる。
・よりパワフルな酸素供給システムが求められていることを体が察知すると、筋肉はVEGFとFGF-2を放出
→それらの因子は細胞分裂を促進してより多くの血管を作る。
 脳内では、新しい血管を作るほかに、ニューロンのつながりを強め、その新生を促している。
・脳細胞の内側では、代謝系の掃除屋とも言うべきタンパク質や酵素が放出され、フリーラジカルやDNAの破片、炎症因子を始末する。自家製の抗酸化剤。
・中強度の運動は、血中にアドレナリンを放出させる。
→これまであまり運動をしてこなかった人の体内では、HPA軸が活性化される。
→コルチゾールが脳内を巡り始める。コルチゾールは、ふだんは細胞レベルでの学習機構に合図を出し、生存にとって重要だと判断する場面を記憶させている。
 一方、コルチゾールが増えすぎると、ニューロンには毒となる。
・適切な運動によってBDNFが増える。
→脳内の回路が強化されると同時に、HPA軸が調整されてストレスにむやみに反応しなくなる。
・運動によって、鼓動を打つ心筋から心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が放出
→血流に乗って脳内に運ばれ、そこでストレス反応を緩和し、雑音を減らす。
→中強度の有酸素運動をした後で爽快な気分になるのは、エンドルフィン、エンドカンナビノイドのほかに、ANPが増えるため。
・このレベルの運動では、体と脳で破壊しては作り直して強くするという作業が進んでいる。
→体と脳が回復できるよう、修復期間をもつことが大切。
 
●ランニング(高強度)
 
・最大心拍数の75~90%の運動。
・高強度の運動では、体は完全に緊急態勢に入り、かなり強く反応する。
・通常、この強度の上限(90%)あたりで、代謝は有酸素から無酸素に切り替わる。
→筋肉は血流から十分な酸素を引き出せないため、低酸素状態に陥る。
→酸素が足りなくなると筋肉は組織内に蓄えていたクレアチンとグリコーゲンを燃やし始め、筋肉には乳酸が蓄積する。
・高強度の運動では、最大心拍数に近づき、無酸素運動の域に達すると、下垂体からヒト成長ホルモン(HGH)が放出される。
 血中に自然に分泌されるHGHは加齢で減少し、中年では子供の頃の1割に減る。
 HGHは、腹部の脂肪を燃焼させ、筋肉繊維の層を作り、脳の容量を増やしている。
 HGHは、神経伝達物質の濃度を調整し、成長因子の生産量を増やす。
 
※参考資料『ジョン J.レイティ(2009)脳を鍛えるには運動しかない 日本放送出版協会』

 
●他の研究事例
 

●運動すればするほどカロリー消費量が増える、わけではない?
 
・身体活動レベルが中程度以上の身体活動レベルをもつ人々のエネルギー消費量は、中程度の人と変わらなかった。活動量が少なすぎれば不健康だが、多すぎる場合、身体は適応するために大きな調整を行っていると思われる。

 

●活発な運動習慣は中程度の運動習慣より死亡リスクが低い?
 
・204,542名の参加者を平均6年以上追跡調査し、中程度の身体活動(軽いスイミング、社交テニス、家事)しかしない者と、活発な運動(ジョギング、エアロビクス、競技テニス)をする者を比較した結果、激しい運動をする者は、中程度の者に比べて死亡リスクが9-13%低かったことが明らかになった。

 

●低重量の高反復回数の運動で骨密度アップ
 
・週当たり2~3回のボディパンププログラム(低重量高反復回数のレジスタンストレーニング)を27週間実行した被験群は、脚部において8%の骨密度増加が見られ、腰椎で7%、脊椎で4%の骨密度増加が見られた。

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