遺伝子とエピジェネティックな影響

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  1. 従来の遺伝の考えとエピジェネティクス
  2. 肥満遺伝子とエピジェネティックな影響
  3. エピジェネティクスと子どものストレス耐性
  4. ネットニュースによる関連情報

従来の遺伝の考えとエピジェネティクス

遺伝について以下①~④のように思われてきたが、エピジェネティクスによって必ずしもそうではない事象が示されている。
 
①(従来の遺伝の考え)遺伝子は人間の核心、青写真、生命の書。
 
(エピジェネティクス)
・遺伝子も要素の一つに過ぎない。細胞が生産するタンパク質と酵素によって体の全メカニズムは機能している。そのメカニズムには、遺伝子を、長期的にはメチル化によって、短期的にはマイクロRNAによる微調整によって、オンオフしている。
 
②(従来の遺伝の考え)遺伝子と遺伝による運命は変えられない。
 
(エピジェネティクス)
・遺伝子から確実に予測できる病気はきわめてまれ。たとえそのような病気の原因遺伝子を持っていても、その症状の度合いや発症の時期を予測することはできない。
・単純な遺伝性疾患においても、エピジェネティックなプロセスが重要な役割を果たしている。
 
③(従来の遺伝の考え)環境(外的要因)は遺伝子に永続的な影響を与えない。
 
(エピジェネティクス)
・遺伝子をエピジェネティックに変化させる事により、記憶が娘細胞に受け継がれる。
・こうしたエピジェネティックな信号の影響を最も受けやすいのは、誕生前と誕生直後だが、影響を受けるのはその時期に限ったことではない。
 
④(従来の遺伝の考え)両親や祖父母が環境から受けた影響を受け継がない
 
(エピジェネティクス)
・飢餓や食生活の変化が3世代に渡って影響する。
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

肥満遺伝子とエピジェネティックな影響

・以前は、肥満をもたらす遺伝要因として、代謝率や脂肪の型の違いが重要だと考えられていたが、今では脳が重要だと考えられている。
 
・FTO遺伝子は、特に視床下部の報酬中枢で発現する。
FTO遺伝子の変異を持つと、食べ物の嗜好が変わる?
摂取したカロリーや脂肪の量に影響し、ひいてはオキシトシン、つまり抱擁ホルモンの放出を導く。
 
・アミラーゼ遺伝子の異型は、デンプンや脂肪分の多い食品への欲求を劇的に高める事により肥満を導く。
 
・FTOなどの遺伝子のスイッチをエピジェネティックにオフにして、その影響を30%以上減らす事ができる。
 
・満腹感を調節するホルモンがいくつか発見されているが、空腹感を制御するホルモンはグレリンしか見つかっていない。
 一方が太っていて、もう一方がやせている一卵性双生児で、体内のグレリンの量が著しく異なっていた。
→太ったせいで体内環境と食生活が変わり、グレリン遺伝子の発現量が変わったのか、それとも、体型の差が出る前に、エピジェネティックに変化したのかもしれない。
 
※参考資料『ティム・スペクター(2014)双子の遺伝子 ダイヤモンド社』

ネットニュースによる関連情報

●遺伝子のエピジェネティックな変化と糖尿病との関連
 
・健常者と糖尿病患者のインスリン生産細胞を調べた結果、2型糖尿病患者の800以上の遺伝子に健常者にはみられないエピジェネティックな変化を発見した。これらの遺伝子の100以上で、発現パターンが変化し、それがインスリン生産の減少につながっていた。

エピジェネティクスと子どものストレス耐性

○イアン・ウェバーのラットの実験
・母親ラットの接し方次第で子どもの、ストレスへの耐性に関わる遺伝子の発現に大きな差が生じることを明らかにした。
・子どものラットの海馬を観察し、母親からの愛情が薄かった個体には、グルココルチコイド遺伝子のプロモーター部分にDNAのメチル化が高い数値で認められることを発見した。
※DNAのメチル化は、遺伝子を沈黙させるのにきわめて重要なプロセス。
※海馬にはグルココルチコイド受容体が大量に存在している。グルココルチコイド受容体はストレスの切り替えスイッチのようなもので、ストレスに対する反応をオンオフできる。
→この受容体の量が標準より少ないとストレスに対する反応が増大し、問題をいつまでもくよくよと考え、すみやかにそれを乗り越えられなくなる。
 
○ティム・オーバーランダーのヒトに対する研究
・複数の妊婦の臍帯血から細胞を取り出し、研究を行った。
・調査に協力した妊婦の何人かは抑うつに悩まされていた。
・妊娠の後期3ヶ月の間母親が抑うつや不安に悩まされていると、子どものDNAもメチル化が大きく進むことが確認された。
→グルチコルチコイド遺伝子のプロモーター部分でメチル化が進むと、海馬の中の遺伝子が発現しにくくなり、本来以上にストレスに弱い子どもが育つ?
→出産前に抑うつを経験していた母親から生まれた子どもを生後三ヶ月のときに追跡調査したところ、抑うつでない母親から生まれた子どもと比べてはるかに強いストレスを感じていた。
・上記のような子どもがほんの小さな頃に起きた作用が、その後長きにわたって影響する可能性もある。
 
※参考資料『エレーヌ・フォックス(2014)脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋』

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