長時間座りがちの生活習慣で慢性疾患のリスク増大?

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  1. 長く座っていると血流が悪化?
  2. 長く座っていると代謝が変化し、肥満、糖尿病、動脈硬化のリスク増大?
  3. 長く座っているとがんのリスク増大?
  4. 長く座っている人の死亡率データ
  5. 座位行動と不安・抑うつとの関連
  6. 身体活動、スタンディングディスクなどによる対策

長く座っていると血流が悪化?

●長時間の座位による疲労
 
・血管が圧迫され、血流が滞る。リンパの流れも悪くなる。
→疲労物質が滞り、疲労感が強くなる。
 
・歩くと脚の筋肉には"ミルキング・アクション"と呼ぶ牛の乳搾りに例えられる動きが起き、血流が促進される。
 血液を心臓へ戻す静脈には、竹の節のように一定間隔ごとに弁がついている。筋肉が収縮して静脈を圧迫すると弁が開き、血液が下から上へと送り出される。そして筋肉が弛緩すると弁が閉じ、血液の逆流を防いでくれる。この繰り返しにより、バケツリレーのように下半身を巡っている血液は少しずつ心臓へ戻る。
 この"ミルキング・アクション"が正しく機能していれば、疲労物質である疲労因子(FF、ファティーグ・ファクター)の代謝もスムーズに進むので、疲労が必要以上に溜まらない。
 
※参考資料『梶本修身(2016)すべての疲労は脳が原因 集英社』
※参考資料『梶本修身(2016)すべての疲労は脳が原因 2 集英社』

 

○米国ミズーリ大学の研究報告
 
・6時間連続で座った状態を保持した場合の、前後の下肢部の動脈の血流量の変化を測定。
 
・6時間の座位によって血流量は大きく低下した。しかし、その後10分間の、自己のペースによる歩行運動の結果、血管機能と血流量は回復した。
 
※参考文献
Impact of prolonged sitting on lower and upper limb micro‐ and macrovascular dilator function

長く座っていると代謝が変化し、肥満、糖尿病、動脈硬化のリスク増大?

・続けて何時間も座ると血糖値とインスリン分泌量が危険な水準に跳ね上がる。
→定期的に休憩して体を動かすようにする。
 
・座った途端、まず足の筋肉で電気的活動がストップ。消費カロリーは1分あたり1kcalへ低下し、脂肪燃焼を促す酵素の生産が90%減少する。
 2時間座ると、善玉コレステロールが20%減少する。
・座り仕事の人は立ち仕事の人と比べて心血管疾患の発生リスクが2倍になる。
・時々立ち上がってストレッチするなどできる限り体を動かすことを推奨。
 
※参考資料『トム・ラス(2015)座らない! 新潮社』

 

・座っていること自体は問題ではなく、座っていることがもたらす生物学的影響が問題。
 運動が代謝を変化させ、体のシステムにプラスの効果を及ぼすように、長く座って過ごすこともまた代謝を変化させ、マイナスの影響を及ぼす。
 その他の時間の身体活動の量とは関係なく、長く座って過ごすことは、代謝を変化させ、中性脂肪、コレステロール、血糖、安静時血圧、食欲ホルモンのレプチンに大きく影響し、肥満、冠動脈疾患、その他の慢性疾患を引き起こす。
 
・テレビやコンピューターの前に座って1日4時間以上過ごすと、心疾患で死亡したり入院したりするリスクが2倍以上になる。
 しかも長時間に及ぶ不活動の悪影響を、運動によって相殺することはできなかった。炎症の指標であるC反応性タンパク質の血中濃度が2倍高かった。
 
※参考資料『デイビッド・B.エイガス(2013)ジエンド・オブ・イルネス 日経BP社』

 

・座りっぱなしでいると代謝が変化する。
 体内にあるリパーゼという酵素は筋肉が脂肪を吸収するのを助けているが、座っているときはリパーゼが分泌されない。すると脂肪は体脂肪として蓄積されたり、動脈をつまらせたりするようになる。
 
※参考資料『A.J.ジェイコブズ(2013)健康男 日経BP社』

 

○ミズーリ大学コロンビア校のマーク・ハミルトンの研究
 
・長時間座り続けていると、筋肉の収縮がなくなって、リポタンパク質リパーゼ(LPL)という脂肪燃焼に関わる酵素が働かなくなり、新陳代謝が悪くなる。
→その結果、肥満や糖尿病のリスクが高まる。
・何時間も座り続けるのではなく、途中で立ち上がり散歩等をし、足や背中の筋肉を動かせば、脂肪燃焼効果が再び得られるらしい。
→目安として、30分ごとに立ち上がり、2分ぐらい歩く。
 
※参考資料『石川善樹(2016)疲れない脳をつくる生活習慣 プレジデント社』
○豪州シドニー大学からの研究報告
 
・ロンドンのオフィスワーカーで、調査開始時点に糖尿病や主要心血管疾患がなかった中高年4811人を対象として、長期的な健康調査からの回答を分析した。
 1998年に、参加者は、仕事や通勤、余暇、テレビ視聴など、様々な座位行動に費やした時間を報告するよう依頼された。
 その後、同じコホートの血糖値の臨床データを2011年末まで検査し、参加者の身体活動、食事の質、雇用等級、飲酒と喫煙の習慣、一般健康状態、ベースラインのBMIなど、交絡因子を調整して、13年間の追跡調査期間中に新たな糖尿病の症例が生じたかどうか判定した。
・その結果、座位行動と糖尿病の関連性についての根拠はわずかなもので、それはテレビのための座位時間に限られていた。
・今回得られた知見は、座位行動に害がないとするものではないが、長時間の座位行動の健康上のリスクに関しては、これまで認識されていたものに比べ、関連がないことを示唆している。
 
※参考文献
Sitting behaviour is not associated with incident diabetes over 13 years: the Whitehall II cohort study.

長く座っているとがんのリスク増大?

○ドイツのレーゲンスブルク大学による研究
 
・テレビ視聴時間、余暇時間での座り時間、仕事での座り時間、合計の座り時間と様々ながんのリスクの関係を評価するため、400万人以上の個人データと68,936件のがん症例を含む43件の観察研究のメタ分析を行った。
 
・その結果、座りがちな生活が最高レベルの人は、最低レベルの人に比べ、身体活動とは無関係に大腸・子宮内膜・肺の3タイプのがんのリスクが有意に高かった。
 座る時間が2時間増えるごとに、大腸がんは8%、子宮内膜がんは10%、肺がんは6%増加した。
 
※参考資料
・Sedentary behavior increases the risk of certain cancers | JNCI: Journal of the National Cancer Institute | Oxford AcademicSedentary Behavior Increases the Risk of Certain Cancers | ESMOTelevision viewing and time spent sedentary in relation to cancer risk: a meta-analysis.

長く座っている人の死亡率データ

●日本の多目的コホート研究(JPHC Study)の結果
・多目的コホート研究(JPHC Study)とは?

●職業性座位時間と死亡との関連
 
・近年、様々な研究により、テレビを見る、パソコンをする等の"座って行う行動(座位行動)"の時間が長いと、普段適度に運動をしていても、肥満、動脈硬化性疾患のリスクになることが報告されている。
 しかし、これまでの先行研究では、"余暇時間"の座位行動についてのみ検討され、"仕事中"の座位時間については、ほとんど検討されていない。
 そこで本研究では、仕事中の座位時間と、死亡との関連を検討した。
 
○結果
・喫煙、飲酒、余暇時間中の身体活動、仕事中の身体活動、高血圧や糖尿病の影響を考慮して解析した結果、農業等の第1次産業従事者では、短座位時間群に比べ、長座位時間群のほうが、男性では1.23倍死亡率が高くなり、女性では1.34倍高くなる傾向にあることがわかった。
 このことから、第1次産業においては、仕事中の座位時間が長いことにより死亡のリスクが高まる可能性が示された。
・第二次産業と第三次産業従事者の間では、同様の関連はみられなかった。

 
●他の研究事例
 

○英国エクセター大学とユニバシティ・コレッジ・ロンドンの研究報告
 
・5千人以上の参加者を16年にわたって追跡調査。
 
・家庭であれ職場であれ座位の時間と死亡リスクの上昇には関連がみられないことを発見。
 
・定期的なウォーキングなどの運動をしていても長時間座っていることそれ自体が早死リスクを高めるといういくつかの先行研究とは逆の結果。
 
・座っている時間それ自体というよりは、動かないことが問題。座っていても立っていても動かなければエネルギー消費は少なく、健康には有害。
 
・本研究結果は、立位のワークステーションの有効性に疑問を投げかけるもの。
 
※参考文献
Associations of sitting behaviours with all-cause mortality over a 16-year follow-up: the Whitehall II study

座位行動と不安・抑うつとの関連

○豪州ディーキン大学からの研究報告
 
・座位行動と不安について特に検討した9件の先行研究を分析。
 
・分析の結果、9件の研究中5件において、座位行動の増加は不安のリスクを増加させることが指摘されていることが明らかになった。
 残り4件では、総座位時間が不安のリスクに関連していた。
 
・研究チームは、座位行動と不安の間のリンクは、睡眠パターンの妨害、引きこもりがちな生活、代謝的な健康状態の悪化などによるものではないかと示唆している。
 TV視聴のような座位行動が長くなると社会的な関係からの逃避が起こり、それが不安を高めるのではないか、と考えている。
 
・今回の結果における関係の方向性の解明は、今後縦断的および介入的研究を待って判断する必要がある。
 
※参考文献
The association between sedentary behaviour and risk of anxiety: a systematic review.
 
○他の研究による座位行動に関する知見
 
・肥満、心臓病、2型糖尿病、骨粗鬆症のような身体的な健康問題につながり易いことが指摘されている。
 
・座位行動は、抑うつ症状との間に正の相関関係が認められるという報告もある。

身体活動、スタンディングディスクなどによる対策

○先行研究でのスタンディングデスクの効果
 
・肥満を減らす効果がある。15%多くカロリーを消費する。
 
○米国テキサスA&M大学の研究チームからの研究報告
 
・約300名の2-4年生について1年間観察した。
授業への関与率は、質問に答える、手を挙げる、積極的に議論に加わるといった課題従事行動、および私語のような課題非従事行動の観察によって計測。
 
・通常の椅子付き机を使用した小学生に比べてより注意力が高まり、教室での課題従事行動が12%高まった。
 身体活動の増加が、たとえ低いレベルのものであっても認知能力に有益な効果をもたらすことが示唆される。
 
※参考文献
The Effect of Stand-biased Desks on Academic Engagement: An Exploratory Study.

 

○クーパー研究所及びテキサス大学などの研究者らによる研究
 
・テキサス州のクーパークリニックを受診した1,304人の男性を対象に、座りがちな日常生活行動と、身体活動、及びフィットネスレベルが肥満や代謝性バイオマーカーに対してどのような相関性が見られるのかについて1981~2012年の間、追跡検討した。
 座りがちな日常生活行動は自己申告のテレビ視聴時間と移動手段として車を利用している場合の車中時間をもとに算出した。フィットネスレベルはトレッドミルを用いた負荷試験を用いて測定した。
 
・結果、座業中心時間が長くなることは収縮期血圧が優位に高いこと、さらに総コレステロール、中性脂肪が高いことと、HDLが低いことに関連した。さらにBMIが高いこと、腹部周囲径が大きい事、体脂肪率が高いこととも関連していた。
 しかしながら、フィットネスレベルを考慮に入れて数値を補正すると、座業中心時間が長くなることは中性脂質/HDLの比率が高くなること(この数値はインスリン抵抗性の基準となり得る)だけにしか、有意な相関性は見られなかった。また、座業中心時間はメタボリックシンドロームとは関連していなかった。
 反対に、フィットネスレベルが高いことは体脂肪率が低いこと、その他の代謝性指標が低下することと有意な関連性が見られた。
 
・本研究の注意点として、座りがちな行動習慣は研究開始時点の自覚的な自己申告のみに基づいた時間であり、対してフィットネスレベルは、研究期間中病院を訪れる毎に客観的に測定されていた点が挙げられる。
 
※参考文献
・Physical fitness associated with less pronounced effect of sedentary behavior -- ScienceDailySedentary behavior, cardiorespiratory fitness, physical activity, and cardiometabolic risk in men: the cooper center longitudinal study.

 

○長時間の座位の悪影響
 
・コレステロールレベルを高くしたり、腹部周囲径が大きくなるというようなリスク因子と関連しており、心血管・代謝性疾患となる可能性がある。
 
・ヒトが座ると、筋肉が収縮をしないことからいわゆるミルキング・アクション(筋活動によって血液が効果的に循環する作用)が滞り、心臓潅流が少なくなってくる。血液が脚に溜まり、動脈の内皮機能や血流量が増えた場合に血管が拡張する柔軟性に影響を与える。
 
○インディアナ大学による研究
 
・11名の肥満でない健康な20-35才の男性を対象に、2件のランダム化試験を行った。
 第一試験では、参加者は足を動かさず3時間座っていた。ベースライン時・1時間目・2時間目・3時間目に、大腿動脈の機能性を測定するために血圧測定用のカフと超音波技術を使用した。
 第二試験では参加者は3時間座っていただけではなく、30分後・1.5時間後・2.5時間後に時速3kmのスピードで、5分間トレッドミルで歩いた。また第一試験と同じ間隔で、大腿動脈の機能性を測定した。
 
・その結果、3時間の座位時間のうち、足の主な動脈の流量依存性拡張、または動脈の血流の増加の結果による動脈の拡張が、わずか1時間後には50%も損なわれることが明らかになった。
 
・しかし1時間座るごとに5分間の歩行を行った参加者の動脈機能は同じままであった。3時間の研究時間中、機能が低下することはなかった。
 
※参考文献
Effect of prolonged sitting and breaks in sitting time on endothelial function.

 

○米国テキサス大学南西医療センターからの研究報告
 
・フットネスレベル、日々の運動、座位行動について、米国民健康栄養調査の2,223名(12-49歳)のデータを解析した。座位行動には、着座、運転、TV視聴、読書などを含む。
 
・解析の結果、座位行動は、運動とは独立に、心肺フィットネスの重要なリスク因子であることが示唆された。
 6時間の座位行動がフィットネスレベルに与える負の影響は、1時間の運動が与える正の影響と等価であった。
 
・研究チームはまた、座位の状態にあるときには、頻繁に姿勢を変える、立ち上がって背伸びをする、電話をする、貧乏ゆすりなど、どのような動作であってもとにかく体を動かすことがフィットネスを維持するコツであることを発見した。
 
※参考資料
・Sitting too much, not just lack of exercise, is detrimental to cardiovascular health -- ScienceDailyAssociation between cardiorespiratory fitness and accelerometer-derived physical activity and sedentary time in the general population.

 

○アメリカ心臓協会の勧告ステートメント
 
・座業中心行動は糖尿病、心疾患、インスリン感受性の低下、総死亡リスクの増加に関連している可能性がある。
 
・中~高強度の運動をしっかりと行ったとしても、座業中心時間が延びる事による悪影響を相殺することはできないようだということもわかった。
 
・座業中心行動には、目が醒めている間に座ることや背もたれに寄りかかること、横になることなどが含まれる。読書やテレビ視聴、コンピュータ端末に向かって仕事をするなどの時間もこの中に入る。これらの『不活動時間』は代謝等量にして安静時代謝の1.5倍未満(1.5METs未満)のものに相当する。
 
※立位のMets値
1.3METs:立位で静かにする:列に並ぶ
1.8METs:立位:そわそわする、読書、会話をする、電話をする
 
※参考資料
Sedentary Behavior and Cardiovascular Morbidity and Mortality: A Science Advisory From the American Heart Association

 

○2015年9月、ロンドン大学とリーズ大学の研究報告
 
・英国の37~78歳までの女性12,778を対象として、"1日の平均座位時間"、"貧乏ゆすりの程度"、"食事・喫煙・飲酒などの生活習慣"、"教育程度や就労の有無"などのライフスタイルの情報を入手し、平均12年間の追跡調査。貧乏ゆすりの程度は"まったくしない"のレベル1から"常にする"の10までの10段階評価。
 
・1日7時間以上座っていて、貧乏ゆすりがレベル1~2の女性は、座っている時間が1日5時間未満の女性よりも死亡リスクが30%アップ。
 
・座っている時間が7時間でも貧乏ゆすりがレベル3~4(ある程度行う)だと死亡リスクが25%低下し、貧乏ゆすりがレベル5以上(頻繁に行う)だと24%低下した。
 
・貧乏ゆすりのレベル5以上で座位時間が5~6時間だと死亡リスクが37%も低下した。
 
・貧乏ゆすりをする女性はBMI、グルコース、インスリン反応などの健康数値が良かった。
 
・貧乏ゆすりによって、身体のエネルギー消費量が高くなる、脚の血液循環が良くなる、と考えられている。
 
※参考文献
Sitting Time, Fidgeting, and All-Cause Mortality in the UK Women's Cohort Study.

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