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食後高血糖、血糖値スパイクの概要
●食後高血糖 ・食後2時間が過ぎても、血糖値が高い状態のことで、食事をしてから2時間後に測った血糖値が140mg/dl以上ある場合、食後高血糖と判断される。 ・インスリンの分泌が少なかったり、働きが不十分だったりすると、食後に血糖値が急上昇する。 ・糖尿病を診断する空腹時血糖値が正常だったり境界域にある場合でも、食後の血糖値だけ大幅に上昇する場合がある。こうした症状は"隠れ糖尿病"である疑いがある。 ※参考資料 食後高血糖 | e-ヘルスネット 情報提供
●血糖値スパイクの概要 ・食後血糖値が140mg/dL以上に急上昇し、その後インスリンの大量分泌によって急降下して正常値に戻る。血糖値スパイク。 ・通常の検診で測定する血糖値(空腹時血糖)では正常な人でも血糖値スパイクが起きている人がいる。 ・若くて太っていない人でも血糖値スパイクの人がいる。 ●血糖値スパイクの発生 ・体の細胞が糖を取り込む能力が低い体質の人は起こり易い。 食事 →血液中の糖が上昇 →膵臓がインスリンを大量に分泌 →血糖値が急降下して正常に戻る。 ※参考資料『NHKスペシャル 血糖値スパイクが危ない(2016/10/8)』
食後高血糖、血糖値スパイクの悪影響
●国際糖尿病連合 ・世界の160を超える国と地域の200以上の糖尿病関連の団体が加盟する組織 ○食後高血糖の管理に関するガイドライン、2007年、2011年 ・食後高血糖が糖尿病合併症、がん、動脈硬化をはじめとする様々な疾患のリスクになる。 ○2007年「食後血糖値の管理に関するガイドライン」からの抜粋 ・食後および負荷後高血糖は大血管疾患の独立した危険因子である。 ・グリセミックロード(GL)の低い食事は食後血糖値のコントロールに有益である。 ・食後血糖値をコントロールするためには、食事療法および薬物療法を考慮すべきである。 ・食後高血糖は糖尿病網膜症と関係する。 ・食後高血糖は、酸化ストレスを生じ、血管内皮を障害する。 ・食後高血糖は認知障害にも関係する。 ・食後高血糖はがん発症リスク上昇と関連する。 ・食後血糖と空腹時血糖を共にターゲットにすることは、血糖コントロール達成の最善の戦略である。 ・HbA1cは6.5%未満が目標。 ・食後2時間血糖値は140mg/dLを超えないようにする。 ○2011年改定の追加項目 ・血糖自己測定を推奨。 ・食後血糖値は、食後1~2時間で測定されるべきで、160mg/dl未満が目標。 ・食後高血糖は心筋の血液量と血流を減らす。 ・持続的に血糖値を測定するシステム(CGM)の普及により、薬、食事、ストレス、運動など様々な要素が血糖に影響を与えるのをチェックできる。 ※参考資料『江部康二(2015)江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか? 洋泉社』
・平均すると血糖は高くなくても、血糖の落差が大きいと体に悪いことが実証されている。 ・血糖がじわじわ上がっていくより、一気に上がっていく方が、ミトコンドリアからの活性酸素の産生が大きくなる。特に血管の内皮細胞で多量の活性酸素が発生してしまい、血管障害が進んでしまう。 ※参考資料『伊藤裕(2011)腸!いい話 朝日新聞出版』
・血糖の変動が大きければ大きいほど、認知機能が低下する。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
●血糖値スパイクによる悪影響 ・血糖値スパイクを放置していると、糖尿病になるばかりでなく、心筋梗塞、脳梗塞、がん、認知症のリスクを高めてしまう。 ・糖尿病ではない人でも、血糖値スパイクによって上記リスクが増えてしまう。 →血糖値スパイクは糖尿病の前段階ではなく、一つの独立した病気と考えたほうがよい。 ※参考資料『NHKスペシャル 血糖値スパイクが危ない(2016/10/8)』
“食べる順番”で対策
●食べる順番に注意する ・野菜等の食物繊維以外でも、脂質やたんぱく質が先でも有効。 脂質やたんぱく質を先に食べると、インクレチンの働きで胃や腸の動きが鈍くなる。 →後から食べる糖質の吸収が遅くなる。 ※参考資料『NHKスペシャル 血糖値スパイクが危ない(2016/10/8)』
●食べる順番療法 先に野菜を摂取する事によって、野菜に含まれる食物繊維が糖質の分解、吸収を遅らせ、その結果、食後血糖値の上昇抑制とインスリン分泌の節約効果につながる。 ※参考資料『杉本正信(2012)ヒトは一二〇歳まで生きられる 筑摩書房』
●血糖が上がりにくい食べ方。カーボラスト ・野菜が最初である必要はない。肉や魚が先でも良い。重要なのは糖質を最後にすること。 ・タンパク質を食べるとGLP-1、脂質を食べるとGIPという消化管ホルモンの分泌が増える。 →GLP-1、GIPはともにインスリンの分泌を増やす働きを持っている。 →先にタンパク質、脂質を摂取すると血糖値が上がりにくくなる。 ・GLP-1、GIPは腸のぜん動運動を抑制するので、糖の吸収速度がゆっくりになるという側面も指摘されている。 ・食物繊維は消化吸収されにくいので、同時に食べることで糖の吸収が抑えられる効果がある。 ○食物繊維の効果 ・食物繊維が大腸の中で菌の働きにより、短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸)に変えられる。 →これらが肝臓に運ばれる途中で短鎖脂肪酸が増加しているという情報が脳に伝達。 →脳はエネルギーが足りていると認識する。 →エネルギーが足りているので、脳は肝臓に肝臓での糖の放出を抑制するように伝達。 →血糖の上昇を抑制。 ・食物繊維は、インスリンが筋肉と脂肪組織に糖を取り込ませようとしているときに、脂肪組織への糖の取り込みを抑制し、筋肉への取り込みを優先させる働きもある。 ※参考資料『山田悟(2015)糖質制限の真実 幻冬舎』
●食べる順ダイエット ・以下の順番で食べるようにする。 ①野菜(キノコ、海藻類も含む) ②魚・赤身の肉(たんぱく質) ③ご飯(炭水化物) ・血糖値が急上昇するのを抑えてくれる。血糖値が急に上がると体内で脂肪が作られやすくなる。それを先に食べた食物繊維が抑えてくれる。 ※参考資料『松井宏夫(2016)長生きできる人とできない人の習慣 日刊スポーツ連載』
“朝食、夕食のバランス”で対策
●朝食を抜かない ・空腹の時間が長くなるとインスリンの分泌が落ちたり、肝臓等のインスリンの働きが落ちてしまう。 定期的に食事を摂取すると、インスリンが出やすくなり、働きも良くなり、変動が少なくなる。 ※参考資料『NHKスペシャル 血糖値スパイクが危ない(2016/10/8)』
●他の研究事例
○イスラエル・テルアビブ大学らの共同による報告 ・クロスオーバー試験で、2型糖尿病患者22名(BMI(体格指数)28.2、平均年齢56.9歳)を対象に実施。 ・2日間のコースで、朝食はミルク、ツナ、パン、チョコレートバーとした。そして昼食と夕食は、同一カロリー(700kcal)でバランスの摂れた食事が提供された。唯一の違いは、1日目、参加者は朝食を食べたが、2日目は、昼食まで断食していたという点。 ・参加者が朝食を抜いた日のグルコースピークは、昼食後268 mg/dLで、夕食後は298 mg/dLだった。それに対して朝食を食べたときの昼食および夕食後の血糖値は、それぞれ192mg/dL、215 mg/dLであり、血糖スパイクが抑えられていた。 ・朝食を抜いた方が、摂取するカロリーは少ないため減量につながるだろうと思われがちだが、2型糖尿病患者が朝食を抜くと、抜かなかった場合と比べて、同じ食事を摂取しても、その後の血糖上昇が急激で、血糖スパイク(食後高血糖)をもたらした。 ○膵臓のβ細胞の"メモリ"を改善 ・インスリンを産生する膵臓のβ細胞は、夕食と翌日の昼食の間、空腹の時間が長期間におよぶと"メモリ"を失う、すなわち、それらはインスリンを分泌するという重要な役割を"忘れる"ということ。 それゆえ、昼食後に膵臓β細胞が回復するためのさらなる追加時間を要する。そして縮小し遅延したインスリン反応を引き起こし、終日の血糖レベルの著しい上昇が惹起される。 ・もう一つの要因は、昼食までの空腹時間が長いと、血中の遊離脂肪酸が増加し、血中のグルコースレベルの減少にインスリンが関与しているという。 ・この研究を踏まえると、朝食を抜くことがβ細胞機能に大きなダメージを与える可能性が考えられた。昼食と夕食で食べ過ぎていない場合でも、高血糖値につながる。 ※参考文献 Fasting until noon triggers increased postprandial hyperglycemia and impaired insulin response after lunch and dinner in individuals with type 2 diabetes: a randomized clinical trial.
○イスラエル・テルアビブ大学からの研究報告 ・2型糖尿病の男性8名と女性10名(30-70歳)を対象に、ランダムに2群に分け、1週間ずつ2つのダイエット("Bダイエット"と"Dダイエット")を実施した。 ・Bダイエットは、朝食707kcal、昼食606kcal、夕食206kcalとし、Dダイエットは、朝食206kcal、昼食606kcal、夕食707kcalとした。どちらのダイエットも、総摂取カロリーは同じであり、ただそれを異なる時間帯に摂取するところが異なるだけだった。カロリーの大きい食事の構成は、パン2枚、牛乳、ツナ、グラノラバー、スクランブルエッグ、ヨーグルト、シリアル、小さい食事の構成はスライスしたターキーブレスト、モッツァレラチーズ、サラダ、コーヒーであった。 ・参加者は、6日間自宅で各々の食事を摂り、7日目は病院に来て食事を摂った。そして朝食の直前、食後一定の間隔で検査用に採血された。血糖値、インスリン濃度、C-ペプチド、GLP-1などが測定された。2週間の間をおいて、参加者はもう1つのダイエットを同様に実施した。 ・その結果、BダイエットはDダイエットに比べて、食後血糖値が20%低下し、インスリン濃度、C-ペプチド、GLP-1は各々20%上昇したことが明らかになった。 ・同じカロリーを摂取しているにもかかわらず、大きな朝食を摂った後の昼食の後の血糖値の上昇は平均23%抑えられた。 ※GLP-1 グルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-like peptide-1) の略。消化管に入った炭水化物を認識して消化管粘膜上皮から分泌される消化管ホルモン。 ※C-ペプチド インスリンはその前駆体(プロインスリン)が膵臓β細胞でつくられ、分泌直前に酵素によって分解されてインスリンとC-ペプチド(CPR)それぞれ1分子ずつ生成されるので、CPRを測定することによって、インスリン分泌能を推測することができる。 ※参考文献 High-energy breakfast with low-energy dinner decreases overall daily hyperglycaemia in type 2 diabetic patients: a randomised clinical trial.
○イスラエルのテル・アビブ大学とスウェーデンのルンド大学、エルサレムのヘブライ大学の研究者らの報告 ・朝食が高エネルギーで夕食が低エネルギーの食事パターンのほうが食後血糖値は20%低く、インスリン、Cペプチド、GLP-1は20%高かった。 ・食生活パターンを変えることが食後のインスリンやインクレチン分泌の日内リズムに影響を及ぼし、そのために食後血糖値の低下が観察されたと考えられる。 ・体内時計の働きの影響? 午前中は膵ベータ細胞感受性とインスリン分泌が亢進 →肝臓でのインスリン分解が低下し、インスリン誘導による筋肉へのグルコース取り込みが増進する。 ・糖尿病患者が朝食にエネルギー量の多い食事を摂ると、1日を通して食後血糖値を下げる効果が見られる。 ※参考文献 High-energy breakfast with low-energy dinner decreases overall daily hyperglycaemia in type 2 diabetic patients: a randomised clinical trial.
“食後の運動”で対策
●食後すぐにちょこちょこ運動する ・食後15分ぐらいは、血液が胃や腸に集まるが、散歩程度の軽い運動でも体を動かすと、血液が手や足の筋肉に奪われる。 →胃腸の動きが鈍くなる。 →血糖値の上昇が抑えられる ※参考資料『NHKスペシャル 血糖値スパイクが危ない(2016/10/8)』
●他の研究事例
○ニュージーランドのオタゴ大学からの報告 ・2型糖尿病患者41名に対し、2週間、1ヶ月間の休息期間をあけ、歩行を処方するという、クロスオーバー比較試験を行なった。 ・対象者は、①時間を決めず1日30分歩くか、②それぞれメインの食事後10分間歩くか、どちらかで歩行した。 ・その結果、1日のうち時間を決めず歩行するというアドバイスと比し、食後歩行のアドバイスに従った際、食後血糖値は平均して12パーセント減少したことがわかった。 夕食後(炭水化物が最も多く、座位時間が最も長かった)に歩いた際に、この改善が最も顕著で、血糖が22パーセント減少していた。 ※参考文献 Advice to walk after meals is more effective for lowering postprandial glycaemia in type 2 diabetes mellitus than advice that does not specify timing: a randomised crossover study